闇夜の中を高速で疾走する黒い影は、獲物を探して街中を彷徨っていた。
この黒い影の正体こそは、『ミニオン』。
高密度のマナを利用して生み出される存在で、主体性が皆無であり、基本的に創造主に従属する人形の如き尖兵――なぜか、女性の姿をとる。
今回、彼女らが創造主より下された
生まれながらにして下位神剣を携えている為、その主体性の無さとは裏腹に、常人では全く歯が立たない戦闘力を誇る彼女らにとって、その命令は容易いもののはずだったが、上手くいっていないのが実情であった。
本来であれば、物部学園近辺で人々に相応の犠牲を強いていたはずであった。
しかし、生憎とそうはならなかった。覚醒済の神剣使いが二人もいたというのもそうだが、この世界にはそれ以上のイレギュラーが二つも存在していたからだ。
一つは『最後の聖母イャガ』、永遠神剣第二位『赦し』の『
彼女は力を取り戻すためにミニオンを無差別に喰らっていた。
そして、もう一つは――――
天空より、雨の如く銀糸がミニオンへと降り注ぐ。
ミニオンは不意をつかれたもののの、それを鋭敏に察知し見事に回避してのける。
――が、それは誘い込まれたに過ぎなかった。
ミニオンが着地した瞬間に地面が爆ぜる。
真下から現れる無数の銀糸が現れ、それは容赦なくミニオンを貫き斬り裂いていく。
それは斬殺というのも生温い。断末魔をあげることすら許さず、銀糸はミニオンを瞬時に細切れにし、マナの残滓へと変える。
その様は、滅殺とでもいうべきであった。
「これで今宵は五体目か。思ったより多く入り込んでいるな」
闇夜の深い影から姿を現したのは、白衣を着た黒髪の男だった。年の頃は二十代後半と言ったところだろうか。一見、瞑目しているかのような糸目が特徴的であった。
とはいえ、ミニオンの凄惨な散り様を見ながらも、その表情には何の感慨もなく叫び声すらあげないのだから、只者であるはずがなかった。
まあ、それも無理は無い。この男「永森久遠」は、ミニオンを散々葬ってきた者だからだ。そんな彼が今更、ミニオンの散り様に心動かされることなどない。
ただ、事実のみを淡々と確認しただけなのだ。
先の銀糸の正体は、六位神剣『千変』を変化させたものである。
本来の得物である『森羅』でも『万象』でもないのは、万が一にも気取られる可能性を排除するためだ。<鞘>の眷属で番外位と契約した『
実際、久遠の正体を知る者は少ない。
『
そして、この時間樹エト・カ・リファにおいても、基本的に正体を明かすつもりはない。原則として、六位『千変』と四位『万化』を持つ神剣使いとして振る舞うつもりである。戦闘においても同様で、必要以上にでしゃばる気はない。久遠が本気を出せば、この時間樹では創造神『星天のエト・カ・リファ』か『叢雲』の化身ナルカナ以外は、はっきり言って敵ではない。
元より『
時間樹エト・カ・リファの法である「
というか、「神獣」というシステム自体が「
時間樹エト・カ・リファの存在である神々にとって「
だが、高位神剣の契約者である『
「
「神獣」はもっと悪い。そも『
片や、「
その上、そも侵入の為には、フォルロワの外部からの侵入者を排除するプロテクトを突破せねばならず、仮に突破しても、一定以上の力量の侵入者には、排除のためには抗体兵器が大量に送られるという徹底ぶりである。これでは、いかな『
流石は、あのフォルロワがローガスの援助を受けて構築し、エト・カ・リファが親友の為に全力を尽くした『叢雲』の寝所である。非常によく出来た保守システムであると言えよう。
まあ、それはそれとして、このミニオンは全くの別口なわけだが、久遠の知ったことではない。
もっとも、久遠の目的を考えれば、世刻達の覚醒を促すきっかけとなるミニオンは本来は放置すべきだ。別に自分に刃を向けたわけでもないし、縁者が害されたわけでもないのだから。
だが、彼にとってミニオンは、目的云々以前に見つけた瞬間に殺すべき存在だった。青春の三年間をミニオンを殺すことをライフワークにしていたのは伊達ではないのだ。イャガのように積極的に狩りこそしないが、自身の目に入ってきたのものを見逃す道理はない――どうせ見逃したところで、イャガの餌になるのだし。
「暁と斑鳩も頑張って入るようだが、いかんせん人手が足りない。まあ、流石に二人だけではな。やはり、世刻は神剣を抜くのは防げなかったか……」
久遠の脳裏に蘇るのは、今朝神獣レーメを侍らせて登校して来た世刻望の姿だ。それの意味するところは、覚醒が間近になったということにほかならない。原作どおりミニオンと遭遇し、永峰希美を守る為に神剣『黎明』を抜いたのだろう。現状のレーメは常人には見えないようなので、完全な覚醒には至っていないようだが、最早完全な覚醒は秒読みと言っていい状態だ。
同時にそれは『聖なるかな』の始まりであり、きっかけとなる異世界旅行がすぐそこに迫っているということでもあった。
その為、すでに保健室には大量の医薬品が搬入されているし、学校の倉庫には久遠が主張して貯蔵させた大量の非常食が貯蔵されている。園芸部の顧問を務めることで、各種の野菜の種や苗等も確保している。異世界での財貨として用いるために、金塊をはじめとした貴金属さえも幾つか用意済という周到振りであった。
ここまで用意周到だと色々疑われそうだが、元々久遠は時間樹エト・カ・リファの外からやってきた存在である。そろそろ離れるつもりで用意していたとか言えば、容易に誤魔化せるだろう。他のことも言い逃れは容易い。例えば、大量の医薬品は発注ミスということにしてしまえばいいし、非常食の大量貯蔵にいたっては誤魔化す必要すらない。地域の防災的な要請と学校の方針であると普通に事実を伝えればいいだけだ。
どこをどうつついても、久遠がものべーによる異世界旅行を想定していたなんて証拠は出てくることはない。彼個人が異世界旅行をすることを想定した準備の証拠は見つかっても、一般生徒を巻き込んで学校ごと異世界旅行することを想定して準備していた証拠など、絶対に出てくることはない。
――創世神エト・カ・リファであっても、俺の目論見を看破する事はできない。
どこかに見落としがないかを確認しながら、そんなことを思っていた矢先、久遠は覚えのある神剣の気配が接近してくるのを感じとった。
「この気配は『暁天』か、だとすれば暁か。あいつも毎度ご苦労なことだ。利用しようと近づきながら、それに徹することができないのだからな。あいつも中々に屈折している。……難儀なことだな」
そう自嘲するように独り言ちた後、久遠は気配を消し、素早くその場を離脱する。
今はまだ正体を気取られるにはいかないからだ。
「何もいないだと……。ナナシ、確かにこの辺りで神剣の気配を感じたのだな?」
久遠が離脱して間もなく、漆黒の少年が姿を現したが、そこには何もない空間が広がっているだけだ。最早、マナの残滓すら感じ取れない。
普段とは異なり、殺伐とした雰囲気を纏い、漆黒の戦装束に見を包んでおり、その腰には強大な力を持つ一刀があるが、それは間違いなく暁絶であった。
恐らく先のミニオンを追っていたのだろう。
「はい、マスター。間違いなくミニオンのものであったと思われます」
その側に侍る妖精を思わせる人型の神獣ナナシが、主の問に答える。
「だが、現実には影も形もないと。斑鳩であれば、俺から逃げる必要はないはず。
やはり、俺達意外にもミニオンを狩っている者がいるのか……」
斑鳩沙月は彼にとって面倒な相手ではあるし、最終的には袂を分かつ相手ではあるが、現段階では敵対する意味は無く、互いにミニオンを狩っているのは知っているので、逃げ隠れする意味もない。
で、あれば、逃げ隠れしなければならない別の誰かがいると考えるのが自然である。
「此度のようなことは一度や二度ではありません。その可能性は高いかと思われます」
長年連れ添ってきたナナシの分析も、それを肯定する。
正体不明の存在に、絶はなんとも言い難い不快感を感じ、小さく舌打ちする。
「チッ、やはりそうか。最初は望の奴の仕業かと思ったが、そうではないようだしな。しかし、俺達以外の神剣使いがこの世界にいようとはな」
早々遅れとるつもりはないし、相応に腕の覚えもある為、それ程危機感はもっていないが、それでも予想外&想定外の相手がいるのは面白いことではない。
「マスター、くれぐれも油断召されませんよう。相手は私の探知を掻い潜り、マスターが駆けつけるよりも速くミニオンを殺してのける相手です」
が、対照的にナナシは酷く警戒していた。正体不明の神剣使いの所業が容易ならざることを彼女はよく理解していたからだ。
「フッ、心配するな。別に油断しているわけではない。俺の目的を邪魔するならば、誰であろうと斬り伏せるというだけだ。そういう意味では、相手が誰であろうと同じだからな」
「……マスター」
なんでもないことのように言い切る主に、神獣は内心の憂いを深くする。復讐に囚われて心を殺し、逃れ得ぬ死の運命を背負う。あまりにも救われないその生き様に……。
「昨日、望が神剣を抜いたのは間違いない。自分のためではなく永峰を守るためというのが、いかにもあいつらしい。……待ち望んでいた時は、もうすぐそこだ」
ナナシは前半部分が誇らしげであったことと、待望と言いながらどこか寂しげな表情をしていたことに気づいていたが、それを指摘することを主が望んでいないことを汲んで、ただ黙って傍に寄り添う。
「……」
「――斑鳩、永峰、そして望。すまんな、俺は結局生き方を変えられないらしい」
その寂しげな独白は誰に届くこともなく、夜の闇へと溶けていく。
どんなに願っても、時の歩みを止めることはできない。
全て望み通り事が進む程、現実は甘くなく世界は優しくない。
それは人間だろうと、神の転生体だろうと、『
いや、『
まして、万事思い通りにすることなど、『
そして、それはどれだけ強力な力を持っても同じことだ。思うだけで現実にしてしまう力を持った第一位『宿命』の『
故、テムオリン程策謀に長けず、ミューギィ程圧倒的な力を持っていない俺が、思うように事を進められないのも仕方のない事かもしれない。
いや、本当は分かっている。俺のこれは、情けない泣き言であり、単なる我が儘で甘えであり、心の贅肉だ。
己が身に課せられた使命を理解しながら、それでも本来必要のない、必要以上の介入をしてしまうのは……。
運命の日は唐突に始まった。放課後、突如として物部学園を包み込んだ夜闇によって、運命の火蓋は切って落とされたのだ。
同時に現れる大量のミニオン達。俺達、神剣使いにとっては数を頼みにしない限り雑魚でも、常人でしか無い生徒達にとっては、絶対の死神だ。
その牙が一斉に剥かれようとしたその時――――
「……みんなには、指一本触れさせないからッ!」
それに割って入ったのは、その神剣の銘のままに光輝く剣を携えて、屋上から校庭に舞い降りた斑鳩だった。
俺の目から見ても、ミニオンをその圧倒的な力で薙ぎ払って生徒達を守るその様は、紅の戦乙女とでもいうべき強さと気高い美しさがあった。
流石は、四人の神剣使いの中で最も総合力が高いだけはある。不定形である『光輝』をよく使いこなしていると言っていいだろう。
が、生憎とこれは――――
「斑鳩はよくやっているが、十中八九これは陽動だな……」
斑鳩の奮闘ぶりを余所に、冷徹に考えを巡らし戦況を分析する。
エヴォリア達の目的はジルオルの覚醒であることは、間違いない。であれば、生徒達を狙った正面作戦は目的にそぐわない。有象無象の生徒達など、エヴォリア達には何の価値もないのだから。
故、このミニオンによる数を頼みにした正面攻撃は、エヴォリア達『光をもたらすもの』の天敵である『旅団』メンバーであり、最大の障害たる沙月を釘付けにするための陽動以外に考えられない。恐らく、ジルオルの覚醒を促す本命は、真逆の方向から少数でこっそり侵入しているのだろう。
でなければ、世刻の最後の覚醒を促すことになる校内に侵入したミニオンの存在を説明できないし、斑鳩がみすみす校内への侵入を見逃すとも思えないからだ。
「本当は斑鳩も気づいているんだろうが、それでも目の前の生徒達を見捨てられんか……。甘いといえば甘いが、俺も人のこと言えた義理じゃないからな。それに今後のことを考えれば、必要不可欠なことでもある。
さて、俺はどう動くべきかね?」
物部学園の者にとっては不意討ちでしかないが、生憎と俺にとってはそうではない。
前世の記憶から、大まかな未来を知っているという絶大なアドバンテージを持っているのは伊達ではない。襲撃があると知っていれば、予め備えておくことなど造作も無い。元より準備万端で待ち伏せしていたようなものなのだから。
『千変』の糸は、学校中に張り巡らしてある。すでに物部学園は俺の領域だ。
その気になれば、陽動・本命を問わず、一瞬で侵入してきたミニオンを殲滅できるだろう。
「手助けしてやりたいのは山々なんだが、殲滅するわけにもいかないんだよな……」
だが、それはできない。
今日この時に世刻と永峰には、神剣使いとして覚醒してもらわねばならない。特に後者の神獣ものべーは学園生徒達の命綱でありインフラ維持の要であることに加えて、時間樹内の様々な世界を旅する為の重要な移動手段でもあるのだから。永峰には悪いが、あのご都合主義の具現のような利便性をもった神獣を逃す手はない。
全てが原作『聖なるかな』通りに行くなどとは思っていないし、そうさせるつもりもない。が、なんだかんだ言っても、結局俺にとって最も優先されるのは、ユーフォリアとの合流なのだ。兎にも角にも、彼女と合流できる魔法の世界までは、是が非でも行ってもらわねばならない。その為には原作『聖なるかな』の流れを崩さない方が予測がつきやすく、都合がいいのだ。故に二人には悪いが、多少強引でも覚醒してもらうほかない。
一方の斑鳩は斑鳩で、助けられない理由がある。
先述したように、今後を考えれば、その戦いぶりと絶大な力を生徒達に見せつけてもらわねばならないからだ。
これは偏に一般生徒達の統制の為だ。
神剣使いの戦闘力と脅威を最初期に生徒達に見せつけることは、互いの立場をはっきりさせておくという意味で重要かつ必要不可欠な事だ。守る者と守られる者、その差は絶対に覆せないものであり、両者が逆になることは絶対にないのだと理解してもらわねばならない。その理解があったからこそ、原作中で生徒達は斑鳩の言葉を信じ、不満を抑えて耐え忍ぶことができたのであろうから。
当然ながら、現状で覚醒すらしていない未熟な神剣使いである世刻や永峰には、絶対に不可能な役目だ。いや、正確にいうならば、斑鳩沙月にしか務まらないというべきだろう。
元より生徒会長という生徒をまとめる立場(生徒会長になれるだけの人望とリーダーシップを持つ)にあり、かつ、誰の目にも分かる形で生徒を守る為に戦った実績が必要とされるからだ。
そして、神剣使い達にとっても、守るべき存在が素直に言うことを聞いてくれるのは大きい。てんでバラバラに逃げられるより一所に集まってもらった方が遥かに守りやすいのだから、当然だ。元より敵の主力であるミニオンは物量で圧倒するのが有効的な使い方であるし、分散されてしまっては個々の質では負けなくても、手数が足りなくなるのは必至だ。確実に取りこぼしが出る。それでは一般生徒達を守り切れない。
よって、そういう意味でも、ここでの明確な線引は必要不可欠なのだ。
そんなわけで、斑鳩にもいたずらに助力するわけにはいかない。
無論、どちらも万が一の時は助けるつもりで準備はしているので、完全な放置というわけではないが……。
「やはり、見ているだけで生徒任せというのは、教師としての沽券に関わるな。あの様子なら大丈夫だとは思うが、少しくらいは手伝ってやるか」
現状、手持ち無沙汰で、見ているしか無いとはいえ、我ながらどうにも甘い。
イレギュラーである俺が手を出すこと無く、原作通りの展開になるのが一番好ましいと理解しながら、手を出さずにはいられないのだから。
――やはり、少し深入りし過ぎたか……。
内心で自嘲しながら、自らの神剣を召喚する。
『千変』は校舎の防衛及び万が一のサポートの為に用いてしまっている。
故、ここで用いるのは「彼女」の『万化』だ。
天位系統神剣第四位『万化』、手袋型で神剣自体に攻撃力は皆無だが、その能力は単純にして強力無比だ。赤・青・緑・白・黒、あらゆる属性の攻撃・補助・防御を炎・氷・風・土・水・雷・光・闇でなすことができるのだから。すなわち、相手に合わせて弱点を突くこのとのできる極めて汎用性・応用性の高い神剣と言えよう。
俺が使っていた『千変』とは対極の神剣であり、相互補完の意味でこれ以上無く相性が良かった。少なくとも俺は「彼女」と組んでいる時は負ける気がしなかった程である。
今より使うのは、光の槍だ。斑鳩の『光輝』の攻撃に織り交ぜて攻撃する。
多少、不審に思われるかもしれないが、今の斑鳩にそれを気にしている余裕はあるまい。
密集したミニオンを斑鳩が大技で薙ぎ払うべく、神獣ケイロンを具現化させる。
斑鳩を中心に凝縮されるマナをこっそりブーストし、技の威力を高めてやる。
次の瞬間、光が視界を埋め尽くしたが、それに慌てること無く、むしろ斑鳩の視界が潰れていることを好機として、討ち漏らしや死にかけに容赦なく用意しておいた光槍を撃ち出し、串刺しにしてマナの残滓へと変える。
距離が離れ過ぎていて、消滅するのが不自然な奴は適度にダメージを与えておく。どうせミニオンには、斑鳩の攻撃としか認識できないだろうから、俺の存在が露見する危険はない。
――さて、ここまでしてやれば……。
思った通り、斑鳩はその獅子奮迅の戦いぶりで程なくミニオンを全滅させた。やはり、どうも違和感があったのか、少し首をひねっていたが、それでも神獣に何かを指摘されると、慌てたように校舎に入っていく。恐らく世刻達のもとに行くのだろう。
「本来の流れより、少しばかり合流が早まったはずだが、さて吉とでるか凶とでるか」
現状の実力では、たとえ斑鳩の合流が多少早まったとしても、状況は変わらない。単純な戦闘力では、暁が間違いなく最強である上に、世刻との共闘というのが斑鳩の足を確実に引っ張るからだ。神剣使いとして覚醒したとしても、現状の世刻では明らかに足手まといであり、共闘のメリットはない。ぶっちゃけた話、世刻には自衛に専念させて斑鳩一人で戦った方がまだ勝機があるくらいだ。俺の助力で、原作よりも多少なりとも余力はあるだろうが、それでも殆ど消耗なしの暁の相手は無理だ。いかに神剣使いといえど、無限にマナを生み出せるわけではないし、疲労しないわけもでもないのだから。
故に、大量のミニオンを倒す為に少なからぬマナを消耗し、相応に疲労しているであろう斑鳩に勝ち目はないだろう。そこにダメ押しで、世刻という足枷までつけられた以上、原作通り暁の勝ちは動かない――俺はそう思っていた。
だが、俺はこの時、現実というものを甘く見ていた。現実とは、ほんの少しの差異、ちょっとしたことの積み重ねによって、劇的に変わってしまうのだということを、俺は理解していなかったのだ。
世刻に施した蘇る前世の記憶の方向性の調整や斑鳩の余力、それらは俺が思ってもいない方向に事態を動かしていたのだ。