中学一年の時、わたし物部えみ(ものべ・えみ)は家族との旅行先で水難事故に遭い、無我夢中で目の前に現れた奇跡と契約した。
「はぁ~これで病院ともおさらばできるよ。思えば短いようで長かった入院生活だったな。はやくみんなに会いたいな・・・」
そう、今から一週間前せっかくの楽しい旅行先でのこと、笑顔が可愛いねとよく言われるわたし、えみはこれでもかというほどの満足顔をフェリーから太陽に向けていた。お父さんとお母さんはすぐ近くで身を寄せ合って「ほら魚よ!勢いよく跳ねてるわ!」「うん、そうだね」と甘い空間を作っている。いつもこれである。家でやってる分にはいいけどこういった場で改めて観ると・・・うん、すごく恥ずかしい。それにこんなにきれいな眺めを拝めるのだから、とことん誰にも邪魔されないで満喫したいということで一人こうしている。すると海の中から頭の禿げた白い海坊主が現れ、わたしは驚いて凝視していると、そいつが船に向かって光線を放ってきた。そうして気づいた時にはわたしは海の中にいて、少しずつ沈んでいく意識とともに頭の中に声が聞こえた。
―――「君ならこの悲劇を覆らせることができる!」
―――ほんと?
―――「本当さ!君だけじゃない、君の大切な家族も救うことができるよ。だから僕と契約して魔法少女になってよ!」
こうしてわたしは目の前の奇跡に飛びついた。
「やぁ、おはよう!えみ、調子はどうだい?」
と、入院することになった経緯を回想していたら白いセールスマンがやってきた。
「う~ん、少し疲れてるかもしれないなぁ。魔獣退治とか魔獣退治とか。」
「それは仕方がないさ、これが君の望んだ願いの対価なんだから。」
この白いちんちくりんな生き物はキュウべぇというらしく、世界各地で不幸な女の子をみつけては「僕と契約して魔法少女になってよ!」と、声をかけてまわっている宇宙規模のセールスマンらしい。ちょっとかわいいのが腹立つけど・・・
「一応命の恩人のお願いだから、ちゃんと対価の分まで働くけどさぁ・・・。」
夜、巡回の看護師さんの目を盗んで病院を抜け出すのが、どれほど疲れるかこいつはわかってないのだ。だから余計に腹が立ってしまう。すると看護師さんが母が迎えに来てくれたと伝えに来てくれた。どうやら一階のロビーで待っているそうだ。ちなみに両親は仕事があるとかで二日はやく退院していた
「一週間お世話になりました。」
わたしは看護師さんたちも褒めてくれた、唯一の取柄である笑顔で病院を後にした。
*****
今、わたしは深夜の見滝原のマンションの屋上にいる。今日はお昼まで雨が降っていたせいか空気がひんやりしている。魔法装束の露出が大きいから憂鬱だ。どうしてああなった。
「それでも魔獣退治頑張らなきゃね。」
ここ見滝原に帰ってきてかれこれ一週間、やっと魔法少女との二重生活にも慣れてきたところ。魔法少女は魔獣を倒してそいつが落とすグリーフシードを使い、魂であるソウルジェムを浄化しないと死んでしまうらしいので、親が寝静まったころに抜け出して睡眠を犠牲に戦わなければいけない。年頃の女の子には過酷なお仕事なのだ。
「どうやらここから東に行ったところに、魔獣の気配がするよ。」
いつの間にか足元にいたQBが肩まで登ってきてそう伝えた。ここからは気を引き締めなければいけない。なぜなら文字通り命がけの戦いが始まるのだから。
「うん、わかったよQB。でもいきなり出てくるのはやめてね、びっくりするから。」
「了解だ。それが君の負担になるなら気を付けるよ。」
「いやそこまで深刻に考えなくてもいいんだけどな・・・まぁいっか。」
そう納得して魔獣の発生地点へ急ぐ。
「しっかり掴まっててね。」
魔獣とは人や生物の負のエネルギーの集合体みたいらしく、結界という特殊な方法でしか入れない世界を創る。魔獣を倒せば結界は消えるけど、いくら倒しても時間が経てばまた発生してしまう。だから余計に魔獣を見過ごすことはできない。逆に魔法少女は人々を世界の裏側から守る存在だ。小さいころ憧れたテレビの中のヒーローのようになれた気がして、忙しい日々だけど契約してよかったと思えるくらいには充実していた。
「エミ、見えてきたよあれだ。」
そうこうしているうちに着いたみたいだ。場所は見滝原の中心地にあるビル群の路地裏。つい最近通り魔事件があったため、現在は封鎖されている。元々人通りの少ないところだから魔獣たちにとってはいい隠れ家でもある。結界に入る前に魔法装束に変身する。緑色のチャイナドレスで胸元はハート型に開いていてスリットもあるしで、誰に見られているわけでもないのに無性に恥ずかしかったりする。
「どうやら事件は魔獣の瘴気にあてられた結果の被害みたいだね。」
QBが説明してくれた。私は羞恥を力に変えて結界へと侵入する。そして目の前にすでに少数ではあるけど魔獣がいた。大きさは6mくらいと小さめ。これならいけそうだ。
「よし!今ならまだ多くなる前に倒せるよね。早く帰って寝たいし速攻で片づけるよ!」
そして両手に扇子を二つ出す。私の魔法は水を操ること。願いは『助けて』。
こちらに気づいた魔獣が近づいてくるけど動きが鈍いので、逆に私から接近して扇子の親骨で切り刻む。どんどん近づいてくる奴から切って斬って刻みまくる。
「エミ!母体はあれだ!あれを倒せば結界も消えるはずだ!」
ある程度倒したところで肩のQBが吠えた。奥のほうにひと際大きな魔獣がいた。わたしは扇子を開いて両手を広げる。地面のあちこちに残る水溜りを使い、直径1m程の球体に収束する。これで終わりだ!
「いっけえええええええええええええええええええええええ!!!!」
掛け声とともに放った大玉は、母体の魔獣に当たると周辺の魔獣を巻き込んで炸裂し弾けた。
「はぁ、はぁ・・・なんとか倒せたかな?見た感じ全部倒したしGSも少しはあるみたい。」
GSを拾っているとQBが口を開いた。
「エミ、まだ油断しちゃダメだよ。結界は消滅していないんだから。」
・・・そういえばいつもならとっくに消えてるはずなのに。
―――ウヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
「!?」
拾うのをやめて顔を上げると、中心に風穴を開けた母体の魔獣が拳を振り下ろそうとしていた。
「逃げるんだエミ!」
肩からいち早く逃げ出したQBは、こちらを振り返ることなく一目散に逃げながら言った。
(ダメ・・・体に力が入らなくて動けない・・・まだ死にたくない・・・。)
迫ってくる岩石のように大きな拳に、恐怖と諦めで目をそらすこともできず、腰を抜かしてそんなことを思った。
―――ヴィギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??
「え?」
さっきまでの雄たけびと違った絶叫を上げた魔獣。突如空から降ってきた紫色の光は、魔獣の拳を地面に縫い止めるように突き刺さり、やがて強く輝き空に向かって太く伸びていくと、それに飲み込まれた魔獣は光が消えるとGSだけを残し魔獣もろとも結界は消滅した。
「いったい・・・何が起きたの?」
呆然としているとコツコツと後ろからヒールを踏み鳴らす音が聞こえる。
「はぁ、油断しすぎよ。あなた命懸けだと理解しているの?」
振り返った先には空に浮かぶ月をバックにして、紫の瞳が射貫くように私を見つめていた。その姿はとても美しく凛々しくて、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
最近、叛逆の物語が恋しくなって書いてしまいました。初めての小説?なんでいろいろ残念クオリティで申し訳ないです
黒歴史にならないよう頑張りたいですね。