ハイスクールD×D ARC    作:ユウキ003

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今回は主に過去のオルフェノクの話です。



ハイスクールD×D ARC 第21話

~~前回までのあらすじ~~

北欧神話の悪神、ロキと戦う事になった守達。そこで守は

新しい力の事を考えたり、ミラやカテレアは守から新しい

力を貰ったりとした事をしつつ戦いを前にして様々な思いを

巡らせていた。

そんな中、ヴァーリと話をしていた守の元にオーディンが

現れ、以前存在していたオルフェノクの話をしてくれることに

なったのだった。

 

 

オーディン「あれはそう。紀元前の事じゃ。当時の儂はまだ

      若かった。人で言う所の、二十歳くらいじゃった

      かのう?」

と、守達の近くの椅子に腰を下ろしたオーディンは顎髭を

右手で撫でながら語り始めた。

     「当時の儂は正に怠惰の二文字に尽きたわい」

守「怠惰、ですか?」

オーディン「左様。儂は戦争と死の神。有り体に言えば災いの

      元じゃった。儂は神として、唯単に強く在ろうとした。

      しかしその結果、儂は周りの者達よりも強く

      なり過ぎたのじゃ。それにより、周りの者は儂の名を

      聞くだけで震えあがり、頭を下げ、儂の怒りを恐れて

      ご機嫌取りまでし始める始末。そんな周囲を知った時、

      当時の儂はどこか冷めていくのを感じていたのじゃ。

      しかし、そんな時じゃった。あ奴らに出会ったのは」

ヴァーリ「奴ら?オルフェノクの事か?」

オーディン「その通りじゃ。忘れもせん。あの日の事はなぁ」

 

 

~~~~

≪過去、遡る事何千年も昔の事≫

その日、若きオーディンはアースガルズの彼の居城、

宮殿ヴァーラスキャールヴの中で、無数の書物を周囲に置き、

一人ソファに横になった状態で本をいくつも読み漁っていた。

しかし……。

オーディン「……。退屈だ」

そう言うと、彼は手にしていた本を床の上に投げ捨てた。

     『どいつもこいつも、俺の名前を知ればすぐさま平伏し

      おべっかばかり。あ~クソ。どこかに何か面白い

      事は無いかな~』

と、一人ダラダラとしていた時だった。

   『ドンドンッ!』

     「ん?」

不意に彼の部屋の扉を乱暴に叩く音が聞こえた。

     「誰だ?入れ」

兵士「失礼します!」

彼が入室を促すと、扉が壊れるばかりの勢いで開かれ、

そこから騎士甲冑に身を包んだ一人の兵士が現れた。

  「オーディン様!ご報告したい事が!」

そう言ってオーディンの前に跪いたのは、

『エインヘリアル』、アインヘリアルなどとも呼ばれる

戦争で亡くなった、戦死した英雄の魂が復活したものであり

来るべきラグナロクに備え、日々鍛錬を励みながらもこの館で

生活しているのだ。

オーディン「ハァ。今度は何だ?」

そして、そのアインヘリアル、兵士の一人が焦った様子で

居るのに対し、オーディンはどこまでも退屈そうだった。

 

兵士「先ほど、人間界にて霜の巨人どもが人間の住まう都市を

   襲っているとの報告が!如何いたしましょうか!?」

オーディン「ま~たあの暴れん坊どもか」

     『人間どもには確かに脅威だろうが、

かといって、俺が行けばそれだけで逃げ出すような

奴らだからなぁ』

     「対応はお前達に任せる。好きにしろ」

兵士「はっ!!」

そう言うと、一人の兵士は部屋を飛び出していった。

 

それを気怠そうに見送ったオーディンは、また別の本を

取り読み始めたが、すぐに飽きてしまった。

そんな時……。

オーディン「暇だし、あいつらの戦いぶりでも見に行くか~」

そう言うとオーディンは立ち上がり、アインヘリアルや

ワルキューレ達の戦いぶりを観戦するため、屋敷の外へと

向かった。

人間界とアースガルズを繋ぐ虹の橋、ビフレストを渡り

そのまま人間界の天空に到達したオーディンはすぐさま

戦いが行われている場所へと向かった。

 

そして、その場所に辿り着いた時だった。

     「ん?」

着いて早々疑問符を漏らすオーディン。何故なら、戦いに

向かったはずのエインヘリアルやワルキューレたちが雲の

上に呆然と立ち、眼下を見つめているからだ。

     「おい」

そんな彼らに近づき、声をかけるオーディン。すると

皆が皆振り返り驚いた表情を浮かべた。

兵士「オーディン様!どうしてこちらに?!」

オーディン「少し見物にな。それより、お前らこそここで

      何をしている。戦闘は?あの巨人どもは?」

と、問いかけていた時。

    『ドォォォン……』

     「ん?」

不意に、オーディンの耳に砲声のような音が響いた。しかし

ここは紀元前。まだ火薬すらない中でのそんな破裂音に

オーディンは興味を持ち、雲の淵から眼下にある、襲われている

とされる都市に目を向けた。そして……。

     「何だ?『あいつら』」

彼の目には、その都市の中で繰り広げられる『戦い』が

映し出された。

 

いや、それは戦いとは呼べないような物だった。

それは、霜の巨人たちが人間サイズと姿の『灰色の生物』に

襲われ、『一方的に倒されている』と言う状況だった。

 

それは、生物と人間を掛け合わせたような姿をしていた。

 

下半身を馬のように変化させ、都市を縦横無尽に駆け回り、

自らの身の丈を越える巨人の腕や背中を駆けまわり、巨人の

体を幾重にも切り裂く馬の怪人。

 

大腿部から光の翼を広げ、縦横無尽に空を駆け、口から放つ

超高周波で巨人を焼殺する鶴の怪人。

 

その口にある毒牙を突き立て、巨人に血を吐かせる蛇の怪人。

 

巨大な手甲で易々と巨人の肉体を破壊する龍の怪人。

 

その手にした、この世界にはまだ存在しないはずの

銃を両手に巨人たちの目や足、関節を撃ち抜く蝙蝠の怪人。

 

目にも止まらぬ速さで駆け抜け、巨人を殴り倒す山羊の怪人。

 

それだけではない。見た事も無い機械人形たちや鋼鉄の

鎧の様な物を纏った人間らしき人影が巨人たちと戦い、

更にその後ろでは灰色の怪人たちが都市の住人と思われる

人間たちを守っていた。

 

オーディン達の眼下で繰り広げられるのは、巨人への、

人間にではない、その人間を襲っていた『はず』の巨人たちの

虐殺だった。

 

オーディン「これは、どういうこった?おい!あの灰色の

      奴らは何だ!いつから現れた!」

周囲に呼びかけるオーディンだが、彼ら、彼女らはみな一様に

首を横に振った。

兵士「我々がここに着いた時には、既に奴らが巨人たちを

   相手に……」

その報告を耳にしていた時……。

 

   『ドドドォォォォンッ!』

今度は先ほどの砲声以上の爆音が響いた。慌てて視線を眼下に

移すオーディン。

 

見ると、都市の城壁の外では城壁の中に勝るとも劣らない量の

巨人を、たった一人の、バッタの様な怪人が相手をしていた。

 

マフラーの様な物をたなびかせながら自在に空を飛び、

その手から光弾を放つ巨人の頭部を一撃の元に消し去り、

突進しその腹と背を突き破り、繰り出されたパンチと

キックが巨人の手足を無慈悲に千切り取って行く。

そして、最後はその怪人の体の周囲に星の数程ある無数の

光球が出現し、それを召喚した怪人が静かに掲げていた手を

振り下ろすと、光弾の雨となって巨人たちの皮膚を貫いた。

 

そして、その戦いぶりを見た巨人たちはとうとう敗走。

手にしていた巨大な棍棒を捨て、我さきにと逃げ出した。

オーディンはその巨人たちを見て、逃げ切れないだろうと

確信していた。が、数人の灰色の怪人が巨人を追撃しようと

した時、城外で戦っていた怪人が手を横に向け追おうとする

数人を止め、彼らと共に城壁の中へと戻って行った。

 

オーディン『追わない?なぜだ?奴らの力なら、残りの

      巨人どもに追いつく事だって出来るだろうに』

と、頭の中で疑問符を浮かべるオーディン。そんな時。

兵士「あ、あの。オーディン様。我々はどうすれば……」

オーディン「え?あ、あぁ、そうだな」

彼の後ろで待機していたアインヘリアルの一人が声を掛けた

事でオーディンも我に返った。

     「……。とりあえず降りるぞ。様子見だ」

と言って、一人雲の淵から飛び降り、アインヘリアルやワルキューレ達も

それに続いた。

 

そして、彼らが降り立った都市では………。

 

 

「お~い!こっちだ~!こっちの瓦礫の下に怪我人が

    居るぞ~!誰か手を貸してくれ~!」

 「重傷者はベッドでも瓦礫でも良いから平らな物に寝かせて!

  それ以外はどこでも良いから座らせといて!」

  「こっち!まだ火の気が残ってるぞっ!」

 

と、灰色の怪人、オルフェノク達が瓦礫の撤去と市民の救出、

怪我の治療、更には戦闘で発生した火災の鎮火に当たっていた。

そして、オーディン達はオルフェノクが人の姿になったり、

逆に人から怪人になったりする場面を見つつも、ただ茫然と

救出活動の様子を見ていた。

 

オーディン「何だこりゃ?どうなってんだ?」

一人驚きつつ奇跡的に残っていた木製のベンチに腰を下ろす

オーディン。その後ろに立つアインヘリアル達も呆然と

オルフェノク達の救助活動を見ている事しかできなかった。

 

と、そこへ……。

   『フワッ、スタッ』

先ほどまで霜の巨人の大半と戦っていたバッタに似た怪人、

アークオルフェノクが頭や腕から血を流す少女をその胸に

抱きながらもベンチの前に降り立った。そして……。

アーク「……。どけ、邪魔だ」

オーディンを前に、アークの影が初老の男性の姿になり、

たった一言そう告げた。その言葉に、僅かに眉を顰めるオーディン。

彼の後ろでは、アインヘリアル達がまずは驚き、そして次に

怒ったかのような表情を浮かべた。

オーディン「……お前、俺を北欧神話の主神オーディンと知っての

      口かい?」

アーク「ほう、お前があの。……邪魔だオーディン。そこをどけ。

    この子を寝かせる」

オーディンは少しばかり殺気を織り交ぜて高圧的な態度に出るが、

それでもアークは納得した素振りを見せた上でその姿勢を

崩さない。

オーディン「あぁそうかよ。だったらお前が力づくで退かして

      見せな。出来たら、だがな」

その言葉と共に不敵な笑みを浮かべるオーディン。彼の目は、

やれるものならやってみろ、そう語っていた。

アーク「そうか」

そして、彼の言葉にアークが頷いた次の瞬間。

   『バゴォォォォォンッ!』

ベンチに座っていたオーディンが、次の瞬間砲弾にでも当たったかの

ような速度で飛び……。

   『ガゴォォォォォンッ!!』

ぶっ飛んだ先にあった瓦礫の山に突っ込んだ。アークが自慢の

念動力で空気を圧縮し見えないハンマーを形成。それで

オーディンだけをぶっ叩いたのだ。

 

砲声のような破裂音と衝突音にオルフェノクや住民たち、

アインヘリアル達が驚く中、アークは傷だらけの少女を

ベンチに寝かせると、ベンチの前に膝をつき、その手から治癒の

効果を持つ光を放ち少女の傷を瞬く間に治癒。

そしていつの間にかアークの後ろに控えていた、他のオルフェノク

よりも若干明るい体表が特徴的なオルフェノク、ローズオルフェノク

から清潔な毛布を受け取ると、それを少女に掛けるアーク。

その時。

 

兵士B「き、貴様ぁぁぁぁっ!!」

主を吹っ飛ばされた驚愕から復帰したアインヘリアルの一人が

腰元の剣を抜き放ち、地面に膝をつくアークの背中に切りかかった。だが……。

   『ガシッ!!』

その剣の刀身を左手で難なく掴んで止めるローズ。

ローズ「死した勇者風情が……!我らが王に剣を向けるとは、

    良い度胸だな!」

   『ドガッ!』

兵士B「ぐはっ!?」

ローズは空いている右手でアインヘリアルの腹部を殴り飛ばす。

それを見て周囲のアインヘリアルやワルキューレが剣や槍を

構えるが……。

 

   『ガチャッ!』

いつの間にかアインヘリアル達の背後に回り込んだバットオルフェノクが

二丁拳銃を構えている。

バット「動くな」

それぞれの銃を広げて構え、警戒するバット。更に

アークやローズの前に、ムカデのオルフェノク、センチピードや

ロブスターが武器を手に立ちふさがる。正に一触即発の状態だ。

が、その時。

オー・ア「「よせ」」

不意に、吹っ飛ばされたはずが無傷のオーディンと立ち上がったアークの

言葉がはもり、それぞれの部下達を止めた。

オーディン「やれっつったのは俺だ。剣を収めろ」

アーク「お前達もだ。まだ救助活動は終わっていない。

    ここは良いから戻れ」

と、それぞれの主から言われたアインヘリアルやオルフェノク達は

武器を収め、オルフェノク達は救助に戻った。

 

と、そこへ今度は多数のけが人を抱えたホースやクレイン達が

やってきた。

ホース「王!仰せの通り重傷者を連れてまいりました」

アーク「ご苦労。ローズ、瓦礫を集めてその上に布を敷け。

    ホース達はその上に重傷者たちを寝かせてやれ。私が

    すぐに治癒する」

ロ・ホ・ク「「「はっ、仰せのままに」」」

命令のままにてきぱきと行動する3人。そしてそのまま

流れ作業で治癒を開始するアーク。

 

そんな時。

オーディン「なぁおい。お前さんらは一体何なんだ?」

アーク「………」

オーディン「俺は生まれて此の方お前らみたいなのを見た事が

      無いんだが?」

アーク「………」

質問を続けるオーディンに視線すら向ける事なく黙々と

治癒を続けるアーク。その時。

兵士「貴様っ!無視とはどういうつもりだ!

   ここに居るのは北欧の神の頂点に立つ存在、

   主神オーディン様であるぞ!」

アークの態度に苛立ったのか、アインヘリアルの一人が

怒号を上げるが……。

アーク「……何の意味もない質問を唯々ぶつけてくるような

    奴など、突っ立ってるだけの木偶人形以下だ。

    相手をするだけ無駄と言う物」

戦乙女「何ッ!?」

彼の態度に、再び数人のアインヘリアルやワルキューレが剣を

抜こうとした時。

 

彼女たちを圧倒的な殺気が襲った。それは、アークの放つ殺気だった。

数多の戦いを経験したはずの、アインヘリアルやワルキューレ達が

その殺気に怯えて後ずさる。

アーク「貴様らがこの街に生きる民の為に一体何をした!

    傍観者と言う名の役立たずは黙っていろ!そんなに

発言したいのなら、何かを成し遂げてからにしろ!

これ以上救助の邪魔をしるのならば、この私が貴様らを

念動力で城壁の外へと放り出すぞ!」

兵士「な、何だとっ!?」

アーク「訓練に明け暮れる余り、勇者と言う言葉の意味を

    忘れたか馬鹿どもが!今目の前で消えそうな命に

    比べれば、何の助けにもならん貴様らなど言葉を

    交わす価値もない!文句があるなら働け!

    今まで鍛えたその肉体は唯の飾りか!神だろうが

    何であろうが、突っ立てるだけなら子供でも

    できる!」

そう、彼らに向かって怒鳴り散らしたアークはすぐさま治療を

再開した。

 

アークの言葉に体を震わせるアインヘリアル達。しかし彼らは

動こうとしなかった。アークの言った事が、正論だからである。

彼らはこの町と市民に対し、何もしていない。霜の巨人を

退け、彼らを守ったのも。唯助けるだけではなく、怪我を治し

人々を助けているのも。全てオルフェノク達なのだから。

 

彼らの視線の先では、いつしかオルフェノクや生き残っていた

人間の兵士達や男たちが瓦礫の撤去や負傷者の手当て。

更にはオルフェノク達が持って来た援助物資の配給などを、

手分けして行っていた。

今の市民たちの目に映っているのは、自分達を必死に助けようと

しているオルフェノク達への感謝と、彼らと共に一人でも多くの

人を助けようとする誠意だけだった。

今の彼らの目には、オーディンやアインヘリアル達など

一片も映ってはいなかった。

 

神や勇者と普段から讃えられたとしても、それは結局の所、

偶像や空想の話でしかない。そして同様に、如何に神秘的で

あろうと、如何に強大であろうと、その力が使われなければ存在に

意味は無い。

神様が居たとしても、唯見ているだけの神など、木偶の坊と同じ、

『役立たず』であると言う事だ。

その時……。

 

オーディン「くはは、言われちまったなぁ色々と」

不意にアインヘリアル達の傍にいたオーディンが笑みを

浮かべながら呟き、首の骨をパキパキと鳴らした。

     「神だろうが動かない奴は唯の役立たずってか。

      それを神に向かって堂々と言えるあいつも

      相当だが……。ま、つうわけだ。お前らも

      救助活動に参加して来い」

兵士「は、はっ。わかりました」

そう言うと、彼らも手分けして瓦礫の撤去や救助活動、

負傷者の手当てを始め、オーディンもまたアークの近くで

運ばれてくる負傷者の手当てをしていた。

 

 

それから数時間後。瓦礫の撤去及び、生存者の捜索。

北欧だけあって、冷える夜の為の仮設の居住スペースの確保。

食料や水から毛布と言った物資の配布。亡くなった人々の

身元確認と埋葬などなど、オルフェノク達はそれを自ら

率先して行い、街の人々やアインヘリアル達がそれを手伝った。

 

やがて、夜明け前。大勢の人々やオルフェノク、アインヘリアル達が

眠りについている中、アークは一人、怪人態のまま街の中を見回った。

全てのテントの中を覗き、苦しそうな物が居れば自らの力で癒し、

毛布を蹴っ飛ばし、寒さに震える子供たちに優しく毛布を掛けなおし、

最後まで『王』にあるべき姿を立派に貫いていた。

 

そして、最後のテントを見回り外に出た時だった。

オーディン「よぉ」

テントを出た所にある木に、背中を預けるようにオーディンが立っていた。

アーク「……。何か用か」

テントから離れ、そっけない態度で、影を人の形に

変えながら問いかけるアーク。

オーディン「少しお前と話がしたくてな。……何でお前らは

      この街を助けた?お前達なら逃げた霜の巨人共を

      追って皆殺しにだってできただろうよ」

アーク「奴らを追うよりも、優先すべき事があった。それだけだ」

オーディン「瓦礫の下で救助を待っている奴らの命、か?」

 

アーク「そうだ。……命を奪うのは、簡単だ。剣で切り裂き、槍で

    貫き、矢で撃ち抜き、力で穿つ。戦うだけではない。

    寿命、病、事故。この世界での死とは、在り来たりすぎる。

    当然であり、必然だ。誰も彼もがその死の意味を理解する前に、

    死神の鎌が大勢の命を奪って行く。だが……」

そう言うと、アークはオーディンが背中を預けている木に手を伸ばし、

やがて怪人態から人間態へと姿を変えた。

 

それは、トレンチコートのような服装に、中折れ帽子を目深に被った、

英国紳士風の風貌の男性だった。しかしオーディンはその帽子の影の

奥にある鋭い、意思を宿した眼光を見逃さなかった。

   「逆に命の成長は緩慢だ。木々は何十年と時間を掛けて

    大きくなる。人もそうだ。家族の元で育ち、やがては

    自らの家族を作り、子供を育て、やがて旅立っていく。

    生とは、そうあるべきだ。だが、死はそれをも容易く

    奪って行く」

そう言いながら、オーディンのように木に背中を預け、夜空を

見上げるアークの男性。

   「死は死でしかない。それ以上の意味は無い。だが、

    生にはそれ以上の意味がある」

オーディン「意味、だと?」

アーク「生きていると言う事は可能性。未来を選択する可能性。

    よりよい明日を目指せる可能性。生きると言うのは、

    明日に向かって歩み続ける事だ。どれだけ辛くとも、

    死によって歩みを止めぬ限り、人は、生命は前に進む事が

    出来る」

オーディン「お前は、その生命の歩みを守ろうとしたのか?」

アーク「殺す事は、生命の歩みを止める事は至極簡単だ。

    そして、生命を生む事はそれとは真逆だ。長い時間を

    掛けて生まれた命。何故無駄にしようと思う?

    死には絶望しかない。私は、絶望が嫌いだ。誰かが

    目の前で泣いているのを傍観するのも嫌いだ。

    助けられたはずの命をこぼれ落とすのも嫌いだ。

    ……それに」

そう言って、どこか遠い目で空を見上げるアーク。

   「約束したんだ。明日へ進む事を一度は止めかけた私の、

歩みを止めた私の背中を押してくれた≪彼女≫と。

子供たちが元気で笑っていられる世界を、

作って欲しいと」

オーディン「それが、お前が命を護る理由か?」

 

アーク「あぁ。彼女との約束。そして、私が自分で見つけた

    戦う理由。明日を目指す子供たちやその家族を護る。

    それが私の理由だ」

 

オーディン「ははっ。酔狂な野郎だなお前は。その力があれば

      王国だって築けるだろうに」

そう言って、ニヒルな笑みを浮かべるオーディン。すると……。

アーク「力に意味は無い。力は所詮破壊の元でしかない。

    その力を、自分のやりたい事の為に使う事にこそ

    意義がある。……主神オーディン。今のお前にやりたい事は

    あるのか?」

オーディン「ッ」 

木を挟んだ反対側のアークの言葉に、息を詰まらせるオーディン。

その言葉に、彼の頭の中でつい半日ほど前の、自室でだらけていた

自分の姿が思い起こされる

 

アーク「如何に強大であろうと、それは使わなければ宝の持ち腐れ。

    ……貴様もやりたい事の一つでも見つけてみてはどうだ?

    世界を巡るのも良い。純粋に限界を超えた先を目指すのも良い。

    まだ見ぬ知識を求めるのも良い」

オーディン「……探求心って奴か」

アーク「或いは、何かを求める心。欲望とも言う。しかしそれもまた

    可能性だ。お前は世界の全てを見たのか?」

オーディン「……。いんや、それはまだだ」

アーク「ならば探せばいい。お前が求める物、やりたい事。お前は神

    なのだろう?だったら時間はたっぷりある」

そう言うと、アークはその場を離れて行ったのだった。

 

 

そして、残ったオーディンは……。

オーディン「はっ。無いなら探せってか?ったく。神様相手に

      ずけずけと物申すじゃねえかあの野郎。

      ……そうだな、探すとすっか。色々と」

そう呟きながら、オーディンは星空を見上げるのだった。

 

そして翌日の朝。

一つの広場にアーク達オルフェノク。それらと向かい合う街の

市民たち。それを遠目に見守るオーディン達が集まっていた。

市長「この度は、何と言って良いのやら。あなた方に助けて頂いた恩。

   一生忘れはしません。末代まで、あなた達を街の英雄として、

   語り継いでいきたいと思います」

そう言って、市民たちを代表するかのように市長の男性が、一人

オルフェノクの姿をしているアークと向かい合い恭しく頭を下げた。

アーク「いいえ。我々は我々の意思であなた方を助けた。それに、

    異形が異形と戦っただけの事。その事実が広まれば、

    この村にどんな不利益となるか。あなた達を助けたのは

    私達ではない。彼らだ」

そう言って、オーディン達の方に視線を向けるアーク。

市長「そ、そんな!?ですがあなた方が居なければ……!」

アーク「我々は名誉や地位が欲しくて人助けをしたわけではありません。

    だから、私達を英雄などと語る必要はないのです」

そう言うと、踵を返そうとしたアーク。そこへ……。

 

女の子「あ、あの!」

一人の女の子が、一輪の花を手に歩み寄ってきた。彼女を見ると、

地面に膝をつくアーク。

アーク「何か、私に用かい?」

女の子「わ、私と、お母さんと、お父さんを助けてくれて、

    あ、ありがとうございました!」

そう言って、花を差し出す少女。それを見たアークは、ゆっくりと

一輪の花を受け取った。

アーク「ありがとう」

ただ、心の底からそう言ったアークは大事そうに花を左手に

持ち帰ると、嬉しそうに親元へと戻って行く彼女を見てから

仲間たちの元へと歩み寄った。

 

そこへ……。

オーディン「おいおい。折角なんだ。お前らの事、教えちゃ

      くれねえのかい?」

そう言って、歩み入ってきたオーディンがそう問いかけた。

その問いに、少しばかり思案したアークはやがて……。

 

アーク「我々は、我々は灰色の異形。オルフェノクだ」

オーディン「オルフェノク、か。……で?お前はこれから

      どうする気だ?また人助けか?」

アーク「あぁ。……この世界にあふれる不条理な死を私は決して

    容認しない。私は、彼女との約束を果たすその時まで

    戦い続ける。それだけだ」

オーディン「そうかい。……達者でな」

アーク「……あぁ、そちらもな」

 

唐突なオーディンの言葉に、アークは笑みを含んだ言葉を投げかけると、

巨大な青白い魔法陣を展開して、仲間と共にどこかへと去って行った。

 

 

~~時間軸は戻り、現代~~

 

オーディン「それが、儂がオルフェノクと出会った最初で最後の

      ひと時じゃった。今にしても思えば、あ奴くらい

      じゃったのぉ。神にもずけずけと意見する輩は」

ヴァーリ「………」

守「過去のオルフェノク達が、そんな事を」

と、黙ったまま聞いているヴァーリと、聞かされた真実に

驚いている守。

オーディン「そう言えば、お主の中には他のオルフェノク達が

      居るのではないか?あ奴らに聞いてみてはどうじゃ?」

守「それなんですが、以前も聞いたんですが自分達の口からは

  まだ言えないの一点張りで」

と、肩をすくめる守。しかし、彼は今日と言う日に大きな収穫を

得た。

 

 「けど、そっか。先代は、人を守る為に戦ったんですね」

自らの右手を見つめながら、やがてギュッと拳を作る守。

その姿を見て、満足気に髭を撫でるオーディン。

オーディン「どうやら、儂の昔話は無駄ではないようじゃな?」

守「はい。ヴァーリさん」

ヴァーリ「ん?」

頷き、隣のヴァーリの方へと視線を向け、声をかける守。

 

守「勝ちましょう。ロキとの戦い。必ず……!」

ヴァーリ「ふっ、君も先代の話に触発されたのかい?」

守「はいっ!先代には負けていられませんから!僕も、僕の

  誓いを!誰かを守る為に今は戦います!ロキと!

  僕の家族を、みんなを守る為に!」

 

そう言って、彼は瞳の中で炎を燃やしていた。

 

そして、決戦の日はすぐそこまで迫っていた。

それぞれの決意を胸に、今、ロキとの戦いが始まろうとしていた。

 

     第21話 END

 




次回から、ロキとの戦いになると思います。
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