SIDE 守
僕とリアスお姉ちゃん(※今ではこう呼ばない
と怒る)と仲良くなってから1週間ほど経った。
そんなある日。僕はお姉ちゃんと一緒に
数学の授業を受けていた。
「はい。では、次の数式ですが、
どちらかに答えて貰いましょう。
そうですね」
僕とリアスお姉ちゃんを見ている
グレイフィアさんだったけど……。
「おや?」
何かに気づいてグレイフィアさんが窓の
外に視線を向けていた。
どうしたんだろう?と僕とお姉ちゃんは
顔を見合わせ、首をかしげていた。
「どうやらお客様のようですね。
授業は一旦ここまでとして
おきましょう」
「お客様?」
グレイフィアさんの言葉に首をかしげた
リアスお姉ちゃんが窓の方に歩み寄る。
「あっ!あれはソーナ達の馬車だわ!」
そして、いきなりそう言うと、足早に
部屋を出て行ってしまった。
ソーナさん?って誰だろ?
「あの、グレイフィアさん。今お姉ちゃん
が言っていたソーナ、さん?
と言うのは?」
「ソーナ様、ソーナ・シトリー様は
リアスお嬢様の幼馴染みでご友人
です。先日守様もお会いになった
魔王の1人、セラフォルー・
レヴィアタン様の妹君です」
「へ~」
「それより、お客様がいらっしゃい
ましたし、我々も挨拶に行きませんと」
「あ、はいっ」
僕はグレイフィアさんと一緒に
リアスお姉ちゃんを追って部屋を出た。
SIDE サーゼクス
私は玄関で来客、セラフォルーと彼女の
妹であるソーナちゃんを待っていた。
守君を保護してからと言うもの、私と
セラフォルー、それともう1人の魔王
であるアジュカは本来の仕事の合間に、
オルフェノクという種族について色々
情報を集めていた。
私の方も、分かった事があったので
彼女と情報交換という事で今回の
話し合いの場を設けたのだ。
やがて扉が開き、セラフォルーと
彼女の妹、ソーナちゃんが現れた。
「やぁ、いらっしゃいセラフォルー。
ソーナちゃんも」
「こんにちはサー君」
「こ、こんにちは、サーゼクス様」
「2人とも、よく来てくれたね。
セラフォルー、例の資料は?」
「ちゃんと持ってきたよ~」
そう言って下げていた鞄からファイル
らしきものを取り出すセラフォルー。
「ところでリアスちゃんと守君は?」
「あぁ、それなら多分馬車に気づいている
だろうからそろそろ……」
と、話していると小さな足音が聞こえてきた。
どうやら来たようだね。
「ソーナッ!」
階段の上からリアスが姿を見せ、少しして
守君とグレイフィアもやってきた。
っと、そうだ。ソーナちゃんは初対面だったね。
「守君、こちらはセラフォルーの妹の
ソーナ・シトリーちゃんだ。さぁ、
君からも挨拶を」
「はい、サーゼクス様。……はじめまして。
僕は神谷 守と言います。今はサーゼクス様
の養子として、こちらでお世話に
なっている者です」
「は、はじめまして。ソーナ・シトリー、です」
さて、これで挨拶は出来た事だし。
「リアス。守君とソーナちゃんを連れて
遊んできたらどうだい?私はセラフォルー
と話があるんだ」
「分かったわお兄様っ!行くわよ
守!ソーナ!」
そう言うとリアスは2人の手を取って
駆け出した。それに驚きながらも付いていく
2人。
3人を見送った私とセラフォルー、それと
グレイフィアは場所を別室に移し、グレイ
フィアが淹れてくれたお茶を飲みながら
互いの入手した情報を報告していた。
今現在分かっているのは、オルフェノク
とは三大勢力の大戦以前に滅んでいる事。
しかしその原因は不明。一説には種族
としての寿命だったとも言われているが、
その驚異的な生命力も確認されており
真意の程は不明。
その潜在能力は高く、かつての三大勢力は
彼等との積極的な対立を恐れていた、と言う
文献もある。
また、彼等は現在の人類文明よりも
進んだ科学力を保有しており、その成果の
一部が、以前入手したライダーズギアと
呼ばれる装備からも確認出来る。
そして今は、調べた情報の共有をしていたの
だが……。
「え?守君をアークオルフェノクにした
相手が分かった?」
「あぁ。天界側の人物を調べるから苦労
したが、何とかね。『アラン・ディキンソン』。
元はキリスト教、カトリック教会の流派に
属する神父だったみたいだ。中でも言動は
過激。悪魔や堕天使を、抹殺すべき存在だと
主張していた」
「ふ~ん。でも、それくらいなら別に大した
事ないんじゃない?そう言う神父は
大勢居るし」
「まぁね。だが、この男の発言はそれだけに
留まらなかった。彼はカトリック教会流派
こそが至高であり、他の流派を邪教とまで
断じる。言わば危険思想の持ち主だった
と言う訳さ。結果。彼は左遷。行き先は」
「あの古びた教会、って訳ね」
「そうだ。その後、恐らくは自分を左遷させた
者達への復讐か何かに駆られ、アーク
オルフェノクを復活させようと画策。
だが結果は……」
「守君がアークオルフェノクになっただけ」
「あぁ。奴がアークオルフェノクを復活させ
どうしようとしたのかは、首謀者である
男が死んでいる以上分からない。……まぁ
この男の事はもう良い。こちらで後
分かっているのは、彼等の技術がやはり
驚異的だった、と言う事だ」
そう言って私は資料の一つをセラフォルー
に渡した。それを受け取りパラパラとめくる
セラフォルー。
「……。サー君、これって」
そして彼女はとても驚いた様子だった。
最も、私も初めてそれを見つけた時は
同じだったが……。
「可変式戦闘用ビークルが2種類。
ミサイルを搭載した超高速戦闘が
可能な、戦闘機みたいなビークル。
どれも化け物じみてるだろう?」
「現実は小説よりも奇なり、って?
大昔にこんなの作れたオルフェノク
ってホント何なんだろう?って
思っちゃうよ」
「それには全く同意見だよ」
苦笑を浮かべるセラフォルーに、私も
同意してしまう。
「それで、セラフォルーやアジュカの
方はどうだい?何か分かったかい?」
「うん。当時のオルフェノクの動向とか
少しだけだけどね。彼が調べた方だと、
当時のオルフェノクは世界各地で
活動してたみたい。それこそ北欧から
アジアまで色んな場所で」
「ほう?」
「で、ここからは私が調べた記述なんだけど、
どうもその行動の大半が人助けだった
みたい」
「人助け?」
「うん。……例えば、『神器』って物に
よっては強力でしょ?」
「あぁ」
『神器』。またの名を『セイクリッド・ギア』。
私達の敵とも呼べる存在、『聖書の神』が
生み出したシステムであり、人に与えられた
異能の力。
その力は千差万別で、ありふれた力、例えば
使用者のパワーを倍加させると言った物から、
神でさえも殺せる力を持った物まである。
特に後者は『神滅具』、『ロンギヌス』と
呼ばれておりその力は驚異的だ。
「でね、その神器を持っている人間を
襲って洗脳とかして自分の手駒に
しようとした悪い奴らは昔にもいた
みたい。そんでもって悪い奴らは、
目的の人間を攫う次いでに相手の
暮していた村を攻撃したりなんてのが
よくあったみたい」
「……余り聞いていて気持ちのいい話
ではないね」
「まぁね。魔王の私達より魔王ルート
行ってる奴らだったみたいだけど。
……でも、そんな奴らの前に立ち塞がり
人々を守っていたのが……」
「オルフェノク、か」
「うん。元々この辺りからみたいなの。
三大勢力がオルフェノクを恐れるように
なったのって」
「成程。神器保有者を狙って返り討ちに遭い、
やり返そうとしたが、更に手も足も出ずに
撃退された。と言う所かな」
「多分ね。結果、オルフェノクは灰色の種族
として広く恐れられるようになった。
でもそれからしばらくして、オルフェノクは
ぱったりと姿を見せなくなった」
「そうか。……彼等が人助けを行っていた
理由については?」
「そっち方面はさっぱり。目撃情報と、人を
守護するかのような戦い方をしていた、
って言う記述を見つけるのがやっと
だったから」
「そうか」
かつてのオルフェノクの動向は分かったが、
その出生の秘密や、彼等が人を守ろうと
思い立った動機は以前謎のまま、か。
「あっ。でも面白い記述は一個あったよ?」
「ん?」
「誰がそう呼称したのかは分からないけど、
オルフェノクの中でライダーズギアを
持っていた個体をね。鉄の馬、要は
バイクに乗っている姿と、変身して仮面で
顔を覆う事から、恐れと畏怖、そして
憧憬の意味を込めてこう呼ばれてたみたいよ?」
私は、彼女の話を黙って聞きながら、彼女が
その先を語るのを待った。
「『仮面ライダー』、ってね」
「……仮面ライダー、か」
私はぽつりと、セラフォルーが呟いた
単語を繰り返す。
そして私はふと、傍に広げられていた
資料に映るスケッチに視線を向けた。
そこには、ライダーズギアの事と、それを
使って変身しているであろう戦士の姿が
映し出されていた。その傍に、こう
書かれていた。
『ファイズ』、と。
その時、私はふと思った。果たして彼は、
守君は、『仮面ライダー』と呼ばれたかつて
のオルフェノクのような英雄になれるのか、
或いは悪に堕ちるのか、と。
SIDE 守
リアスお姉ちゃんに手を引かれ、僕と
ソーナちゃん(最初はソーナ様って呼んだ
けど本人が嫌だって言うからちゃん付け)は
グレモリー家の邸宅の庭で遊んでいた。
今は、僕が庭に自生していた草花を使って
冠を作っていた。
元々、能力へ馴れるために器用さが必要だ
とグレイフィアさんに言われていた事もあって
細かい作業が出来る訓練も兼ねてこう言うのを
作ろうと考えていたからだ。
やがて、出来上がったそれは、日本人なら
多分知ってると思う、シロツメクサの冠が
出来上がった。でも実際にはここには
シロツメクサなんて無いからモドキ、
だけど。
「はいこれ。リアスお姉ちゃんに」
「ありがと守」
出来上がった冠を、リアスお姉ちゃんの
頭に被せる。お姉ちゃんは冠を指先で
調整しながらもご機嫌な様子で笑っていた。
「それと、こっちはソーナちゃんの
分だよ」
「あ、ありがとう、守君」
ソーナちゃんは、まだオドオドした様子で僕
の作った冠を受け取り、それを頭に乗せた。
「ど、どう?似合ってる、かな?」
「うん。とっても可愛いよ」
「ッ、そ、そう。ありがと」
僕は素直に感想を言ってみたのだけど、
何でかソーナちゃんの顔が赤い。
どうして?と首をかしげていると……。
「ねぇっ!私はどうかしら?」
何やら不機嫌そうなリアスお姉ちゃんが僕に
声を掛けてきた。どうして?と思ってたけど……。
「えと、とても似合ってるよ。リアスお姉ちゃん」
「……ホントに?」
何か、ジト目で見られてる僕。うぅ、どうして?
僕変な事はしてないと思うけど……。
今はそっちより……。
「ホントだって。小さなお姫様みたいだよ、
リアスお姉ちゃん」
「そ、そうっ。なら良いわっ!」
そう言って僕が褒めると、どこか顔が赤い
リアスお姉ちゃん。
その後、僕達はグレイフィアさんが持って
来てくれたお菓子を食べた後、僕はちょっと
いつもの練習をしていた。リアスお姉ちゃんは
ちょっとお手洗いに行ってくる、と言って
今は居ない。居るのはソーナちゃんだけ。
今日の訓練は、自分の力で火の玉を作って、
それを球状に変化させ、それを維持しながら
自由自在に飛行させる事。
灰色の火球が中に浮き、僕が指揮棒のように
指を震えば火球が空を泳ぐ。でも、まだ
速度のコントロールやイメージ通りに
火球を飛ばせない。もっと、もっと
頑張らないと。
そう思っていたけど、やっぱり力を使えば
それだけ疲れる。
「ハァ、ハァ、ハァ!」
荒い呼吸と体中から噴き出す汗が気持ち悪い。
そう思ってた時。
「あ、あの。守君」
ソーナちゃんがタオルを差し出してくれた。
「あっ、ありがとうソーナちゃん」
僕はそれを受け取り、汗を拭う。
「あ、あの。守君」
「ん?何?」
「その、どうして守君は、そんな風に
頑張ってトレーニングしてるの?
まだ、子供なのに」
「……」
そんなソーナちゃんの言葉に、少しだけ
僕は黙ってしまった。
僕は……。
「……僕は、強くならなきゃいけないんだ」
「え?どうして?」
「それは、僕自身の罪を償うために」
「罪を、償う?」
「うん。……そのために、僕は強くなら
なくちゃいけないんだ」
……僕が殺してしまった、人達の分まで
誰かを助ける。
そう思いながら、僕は握りこぶしを作る。
その時。
「強いんだね、守君」
「え?」
「私は、そんな風に頑張れるのって、
凄いと思う」
「凄いって、僕、が?」
「うん」
そう言って笑みを浮かべるソーナちゃん。
「そ、そっか。あ、ありがと、ソーナちゃん」
年の近い女の子に褒められた事なんか無くて、
僕は顔を赤くしてしまった。
それから少しして、戻ってきたリアス
お姉ちゃんの提案で、庭の一角にある
植物の迷路で勝負をする事になった。
誰が一番早くゴールにたどり着けるか、
競い合うみたい。
「それじゃあ、行くわよ守!ソーナ!」
「OKお姉ちゃん!」
「う、うん!」
お互い、準備のために足腰に力を入れた
姿勢だ。
「3、2、1!ゴー!」
お姉ちゃんのかけ声を合図にして、僕達
は飛び出した。
「守っ!私が勝ったら、一週間午後の
おやつを貰うからねっ!」
「ちょっ!?聞いてないよ~!!」
植物の壁越しに聞こえるリアスお姉ちゃんの
叫びに反論しながらも、僕は走る。
『負けられないっ!』って事ばかり
考えて、とにかく走った。
だから聞こえなかった。助けを呼ぶ、
ソーナちゃんの声が。
SIDE サーゼクス
あれから私とセラフォルーは、守君の今後
について話し合っていた。
「かつて三大勢力を恐れさせた灰色の
種族。その2代目王。それが今の
守君。それで?サー君から見たあの子の
ポテンシャルは?」
「正直に言えば、彼の手どころか、中級
悪魔でも持て余すレベルだね」
「……マジ?」
「残念ながらね」
私は苦笑しながら頷く。
「過去の文献も調べてみたが、能力は
色々。攻撃のためにエネルギー弾や
念力。相手を喰らう事でその存在を
エネルギーに変える力。瞬間移動や
力を使って相手を治癒することも
出来るらしい。正に万能の力だ」
「まるでゲームやアニメのラスボスだね」
そう言って苦笑するセラフォルー。
「だが、その万能過ぎる力は返って守君の
修行の壁となっている」
「そうだよねぇ。いきなり小学生の男の子に、
そんな力が宿ってもねぇ。悪魔でさえ
手を焼く程なんだからねぇ」
「今の彼は、必死にその力を自分の物に
しようとしている。が……」
「が?何?」
「やはり一筋縄ではいかないようだ。
ある程度の力はコントロール出来る用
にはなった。しかし、それはほんの一部に
過ぎない。今はグレイフィア指導の下、
主に力のコントロールの鍛錬と体力作り
のトレーニングを行っている」
「そうなんだ。……それで?育ての親として、
彼をどういう風に育てるつもり?
サー君の事だから、ビジョンくらいは
あるんじゃないの?」
そう言って笑みを浮かべるセラフォルー。
やれやれ。彼女の方は面白そうだが、
育てる側は大変なのだぞ?
「当面は、彼を鍛えなければと思っている。
そうだな。とりあえずは高校生くらい
まではね。それだけの間、鍛錬を積めば、
彼も強くなるだろうし、彼自身の過去と
向き合うのにも、良い頃だろう」
「……あの子、自分のせいだって思ってる
んでしょ?教会での事」
「あぁ。彼の優しさは美徳だが、それは時に
彼自身を許さない、枷にもなる」
「そうだね。……所で、具体的にあの子の力の
今のコントロール具合は?」
「今できる事は、灰色の炎を火炎弾として
放ったり、エネルギーの壁を展開する事。
あとは念力で物を動かすくらいだね。
ただ、変化によって身体能力もかなり
強化されているのか、本気の時となると
彼の身体能力は常人離れした物になる。
こちらは幸い、彼の頭の中でスイッチの
ON/OFFの切り替えが出来るようで、
普段は問題無い。……問題は、彼等人間に
とって眉唾物であった超能力と呼べる
類いの能力の方だね。そちらはまだ、
完全にコントロール出来ている訳では
ないんだ。更にその反動か、時折彼は
自分の意思で姿をコントロール出来ない
んだ」
「それって、あのアークオルフェノクに
なるって事だよね?」
「あぁ。そして、彼はその姿を他人に
見られる事を酷く嫌う。まぁ、あんな
事があってなった姿だ。それも無理は
ないだろう」
「そうだよね。……改めて思うけど、残酷な
事だよね。親に見捨てられたも同然。
とは言え、その親を自分自身で殺して
しまったと思ってるなんて」
そう言ってセラフォルーは視線を落とす。
「そうだね。酷な話だ。到底子供が経験する
ような話じゃない」
私はそう言って静かに首を振る。
家族を奪われた絶望。怪物になったと考えても
おかしくないその姿と力を手に入れてしまった
事に対する戸惑いと恐怖。
彼はそれを経験してしまった。
……到底、普通に生きている子供が経験する
事のない残酷な現実。
彼はその、残酷な現実を既に経験して
しまった。ならば後は、受け入れるしかない。
だが、それは簡単ではないだろう。
でも、それでも。いや、だからこそ……。
「……でもねセラフォルー。だからこそ私は
思うんだよ」
「ん?」
「その苦しみを知っている守君だからこそ、
きっと将来、彼は誰かを守ることを
尊ぶ。そんな風に育つと、私は思って
いるんだ」
そう言うと、『根拠なんてないけどね』と
付け加えておく。
しかしセラフォルーは……。
「そうだね。そんな良い子に育ってくれれば
良いね」
そう言って彼女は笑みを浮かべた。
彼と私達が出会ったのも何かの縁だ。ならば
見守っていこう。それが私の意思だった。
と、その時。
『コンコンッ』
「サーゼクス様、取り急ぎお耳に入れたい
事が」
外から聞こえた執事の1人の声。何やら
焦っているようだ。
「入れ」
「失礼します」
彼は私が促すとすぐに入ってきて、小走りに
私の傍に来ると耳打ちをした。
内容は……。
「実は、この屋敷の付近ではぐれ悪魔が、
それもランクはSSのブリッツが目撃
されたとの情報が入って参りました」
「はぐれ悪魔のブリッツだと?」
『はぐれ悪魔』。
それは主である上級悪魔を離反。それも
殺害などして自由となり暴れる悪魔の事だ。
しかもランクはSS。かなり上位のはぐれだ。
私や私の眷属達。セラフォルーやこの家の
者ならば問題ないが……。
「ッ。そうだ……!グレイフィア、確か
守君たちは庭で遊んでると言ったな?」
「っ!はいっ!」
「えぇっ!?じゃあ3人が危ないよっ!」
私の言葉に驚くセラフォルー。
「急ごう。彼等を急いで家の中に」
私達は、足早に部屋を後にした。
SIDE 守
迷路でレースをする僕とリアスお姉ちゃんと
ソーナちゃん。
そして見えたっ!出口っ!
僕は考えるよりも先に出口に飛び込んだ。
結果は……。
「ど、同着、みたいだね」
「そ、そうね」
僕とリアスお姉ちゃんの同着1位だった。
僕もお姉ちゃんも、息も絶え絶えな様子で
芝生の上に横たわっている。
僕も体力には自信が付いてきたけど、さっき
のトレーニングの後だから、やっぱり
疲れてる。
そして、二人して荒い呼吸を整えていた時。
「……けて……助け、て」
不意に聞こえた声。それは、ソーナちゃんの
声だった。
「ソーナちゃんっ!?」
慌てて体を起こし周囲を見回す。
そう言えばソーナちゃんはっ!?まだ
出てきてないっ!
「ま、守?どうしたの?」
「今ソーナちゃんの声が聞こえたっ!
助けてって言ってたっ!」
戸惑うお姉ちゃんにそう語った直後。
「助けて、守君。リアスゥ」
聞こえた、悲しそうな声。
その時、僕の中で何かが叫んだ気がした。
『助けろ』と。
その声が、本能なのか、それとも別の誰かの
者なのかは分からない。でも、気づいた時
には身体能力を今の僕が引き出せる限界まで
上げて植物の迷路に突っ込んでいた。
壁を強引に突破して急ぐ。声の聞こえた方角
と、声の強弱から大まかな位置情報を
考える。強化された聴覚でソーナちゃんを。
更に同じ強化された嗅覚でさっきソーナ
ちゃんに上げた冠の草花のほのかな香りを
嗅ぎ分ける。
「っ!こっちかっ!」
そして数枚、植物の壁を突破した時。
「いたっ!ソーナちゃんっ!」
そこには、転んで怪我をしたのか膝から
血を流すソーナちゃんがいた。
僕はすぐさまソーナちゃんに駆け寄る。
「ソーナちゃんっ、大丈夫?
ごめん、来るの遅くなっちゃったっ!」
「守、君」
ソーナちゃんは涙を溜めながら、嗚咽を漏らす。
……もっと僕が早く気づいていたら。
でも今はそれより、ソーナちゃんの怪我を
治すのが先だ。
これくらいの傷なら、今の僕の治癒力でもっ!
僕は右手をソーナお姉ちゃんの膝に翳し、
自分の中の力を引き出す。緑色の光が
ソーナちゃんの傷に降り注ぐ。
やがて、傷は小さくなり、完全に塞がった。
これで良し。
「大丈夫ソーナちゃん?立てる?」
僕が聞いてみると、ソーナお姉ちゃんは
首を振った。
「ごめん、なさい。転んだ時に、足、
挫いちゃって」
そう言って涙を浮かべるソーナちゃん。
その姿を見ただけで、何か、僕の中で
何かが強く訴えてくる気がした。
『助けろ』って。
僕は、男なんだ。だったらやるべき事は
1つだけ。
僕はソーナちゃんに背中を向ける形でその場
に屈んだ。
「え?守、君?」
「大丈夫。僕がソーナちゃんを背負うから」
「え?で、でも……」
「これくらい、何て事ないよ。だって僕は、
男だから。……だから、泣いてる女の子
を放ってはおけないよ」
「ッ……!」
その時、泣いていたソーナちゃんの顔が赤く
なったけど、それを気にしてる暇はない。
「さ、乗って」
「う、うん」
ソーナちゃんは戸惑った様子だったけど、
おずおずと言う感じで僕の背中に乗った。
「それじゃあ、行くよっ!」
僕は足腰に力を入れて立ち上がり、ソーナ
ちゃんを背負ったまま歩き出した。
さっきのトレーニングに迷路での全力疾走。
疲れはたまってる。汗も噴き出す。でも、
寝言や弱音なんて言ってられない!
ソーナちゃんを、必ず助けるっ!
そして、歩いていた時。
「どうして、守君は……」
「ん?どうかしたの?ソーナちゃん。
「どうして、守君はそんな風に頑張れるの?
今も、汗たくさん掻いてて、辛そう、だよ?」
どうして頑張れるのか、か。
「う~ん、良く分かんない。僕の中で誰かが、
助けろって叫んでる気がするんだ」
「え?それって、誰?」
「それは分かんない。もしかしたら僕の中に、
誰か居るのかも知れないし、この声は
僕の本能の声なのかもしれない。
でも、その声に従うことが、間違い
じゃないって事だけは分かる」
「どうして?」
「だって、僕がそうしたいから」
そう言って僕は笑った。
「え?」
「僕は、強くなりたいんだ。泣いている
誰を助けられるように。そして、
僕自身の罪を償うためにも」
「だから、その声に従うの?」
「うん。……僕は、誰かを助けられる人に、
童話の王子様のようになりたいんだ。
そのために頑張る。そして今は、
ソーナちゃんを助ける為に頑張る」
「ッ!」
その時、ソーナちゃんの手が強く僕の服を
掴んだけど、僕は気にせず歩いていると……。
「あっ!守っ!ソーナっ!」
迷路を出た直後、リアスお姉ちゃんがいた。
「良かったっ!二人とも戻ってきたのねっ!
大丈夫?怪我はしてない?」
「僕は大丈夫。ただ、ソーナちゃんが足を
捻っちゃったみたいで」
そう言って僕はソーナちゃんを芝生の上に
下ろす。
「もう大丈夫だよ、ソーナちゃん」
「う、うん。ありがとう、守君」
まだ少し顔の赤いソーナちゃん。
でもこのままにはしておけないから。
「リアスお姉ちゃん。グレイフィアさん
かセラフォルー様を呼んできて貰って
良いかな?僕はここでソーナちゃんと
一緒にいるから」
「えぇ。分かったわ」
そう言って、リアスお姉ちゃんが屋敷の方
へ行こうとした時。
「って、あれ?お兄様たちだわ」
「え?」
声が聞こえ、そっちを向くと確かに屋敷
からサーゼクス様、セラフォルー様、
グレイフィアさんがこっちに来てる。
何でか分からないけど良かった~。
そう思って安堵したその時。
『ドォォォォォォォンッ!!!』
背後で轟いた爆音。
「え?」
その爆音にかき消されそうなか細い疑問符
を浮かべながら振り返ると、そこには、
異形が立っていた。
象のような下半身と四本腕の男の上半身
の怪物。
「ッ!?奴はブリッツッ!」
サーゼクス様の声が酷く遠く聞こえる。
「皆、早くお逃げ下さいっ!」
続けて聞こえるグレイフィアさんの声で、
分かった。
目の前の怪物が、危険な存在である事。
つまり、僕達の『敵』である事。
そして……。
「死ねぇぇぇぇぇっ!ガキどもぉぉぉぉっ!」
奴は僕とソーナちゃん。リアスお姉ちゃん
目がけて、3本の槍を放って来た。
「ッ!リアスっ!」
「ソーナちゃんっ!」
二人の声が聞こえ、視界の端で二人が技を
繰り出そうとしているのが見えた。
でも、それよりも早く。
『戦えっ!守る為に戦えっ!』
僕の中で響く声に、半ば押されるように僕は
右手に力を込めて前に突き出した。
『ガキィィィィィィィンッ!!!』
すると僕の前に灰色のシールドが現れて、
槍を弾いた。
「なっ!?このガキィィィィィッ!!!」
奴は怒った様子で弾かれた槍を手に僕の
シールドに突き立ててくる。
『ビシシッ!!!』
それだけでシールドに亀裂が走る。
このままじゃ押し切られて、後ろの二人も……!
最悪の未来が頭の中をよぎる。
そんなこと。そんなこと……!
「させるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
後先考えず、右手の力を強める。直後。
『ドゴォォォッ!』
「うごぉぉぉぉぉっ!?」
今度は衝撃波が放たれ、アイツの巨体を
大きく吹き飛ばした。
「ハァ、ハァ、ハァ!」
や、やれた。僕でも、二人を守れた。
そう、思った時。
「うっ!?」
何かが僕の中で暴れ出すような感じが……!
力が溢れ出てくる。人間の姿を、保てない……!
「っ!?いけない守君!気をしっかり持つんだ!」
サーゼクス様の声が聞こえる。何とか抑え
込もうとする。
でも、無理だ。力を、抑えられない。
「このガキィィィィィィッ!!」
今度は手にした槍で刺突を放ってくる怪物。
でも……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
絶叫にも等しい咆哮。それが僕から放たれる。
それも衝撃波と一緒に。
放たれた咆哮が、再び奴を吹き飛ばす。
でも、同時に僕の体は蒼い炎に包まれ、
そして、アークオルフェノクとなってしまった。
「う、そ。守、君?」
後ろから聞こえるソーナちゃんの声。
愕然としたその表情。……見られた。
見られちゃった。化け物の、僕の姿を。
「ちっ!?この化け物がぁぁぁぁぁっ!」
奴の声が聞こえ、僕はビクッと体を
震わせた。
あぁ、そうだ。僕は、化け物なんだ。
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
更に繰り出される刺突。
だけど……。
「私達の事、忘れるなんて良い度胸ね」
セラフォルーさんの声が聞こえた。
更に何かが巻き付く音も。
俯いていた視線を上げると、怪物に水
で出来た蛇が巻き付いていた。
「私達の家族に手を出したこと。死んで
後悔するが良い……!」
更にサーゼクス様の放った赤黒い光が、
怪物を飲み込んで、悲鳴すら上げさせず
に消滅させてしまった。
すると……。
「リアスっ!怪我は無いかっ!?」
「大丈夫ソーナちゃんっ!?」
二人はリアスお姉ちゃんとソーナちゃんの
方へ駆け寄る。
でも、ソーナちゃんは、今も愕然とした
表情で僕を見ている。
そうだよね。僕が、こんな化け物だ
なんて知ったら、驚くよね。怖いよね。
……近く、居ない方が良いよね。
そうして僕は、フラフラとアークオルフェノク
のまま、近くの森へと向かった。後ろから
サーゼクス様やグレイフィアさん、リアス
お姉ちゃんの声が聞こえるけど、僕はそれを
無視して、森へと入っていった。
SIDE ソーナ
それは、突然の事だった。突然現れた怪物。
人の姿から、灰色の飛蝗の怪人へと変わった
守君。そして、彼は最後に私を見つめると、
森の中へと行ってしまった。
そして私の周囲では、サーゼクス様やリアス、
それにお姉ちゃんまで、どこか悲しそうな目
をしながら、私と守君が入って行った森を
交互に見つめている。
「あ、あの。サーゼクス様?守君は、
どうして……」
どうしてあんな姿になったのか。
何で森に入っていったのか。
聞きたい事がいろいろあった。
「どうして、守君は、森になんか」
「……彼はね、ソーナちゃん。望んであの
姿を手に入れた訳じゃないんだ」
「え?」
「彼はある日、悪意ある者達の儀式に
生け贄として捧げられ、彼は自我を
保ったまま、あの姿へと変えられて
しまった。あの、灰色の姿に。
そしてその時のトラウマがあって、
彼は自分のあの姿を、他人に見られる
事を極度に嫌うんだ」
「え?そ、そんな。じゃあさっきは
どうして……」
「多分、ソーナちゃんやリアスを守ろう
として、彼は自分の力を使った。でも
その結果、力を行使した反動であの
姿になってしまったんだと思う」
「じ、じゃあ……!」
『私の、せいで?』
私を守ろうとして、守君は……。
そう思うと、胸が痛い。私を守る為に
戦ってくれたあの子を、私自身が傷つける
なんて、そんなの絶対にダメだって、
思うから……!だからっ!
「あ、あの!私、守君とお話ししてきますっ!」
そう言って、駆け出そうとした時。
「痛っ!?」
足首の痛みで、転びそうになった。
でも……。
『ギュッ』
「り、リアス?」
「ソーナは怪我人でしょ?一人で
無茶しないの」
そう言ってリアスが助けてくれた。
「それに、私は守のお姉ちゃんだもの。
私も行くわ」
「う、うん」
私はリアスに肩を貸して貰いながら森に
入って行った守君を追った。
SIDE サーゼクス
リアスがソーナちゃんに肩を貸し、二人は
森へとは行っていく。
「グレイフィア」
「はい」
「二人と守君を頼む。ただし、いざと言う
時以外は、手を出したりしないように」
「かしこまりました」
そう言うとグレイフィアは悪魔の翼を広げて
二人の後を追った。
「良いの?サー君。私としては怪我してる
ソーナちゃんに無理させたくないんだけど」
「それについてはすまない。……だが、今の
守君には、必要なんだ」
「必要って、ソーナちゃんが?」
そう言って首をかしげるセラフォルー。
「あぁ。……私達家族だけではない。
今の彼を受け入れてくれる、友人が。
……それが、守君自身がトラウマを
克服する助けにもなる」
願わくば、あの3人の関係が、友人や姉弟
のままで、上手く進む事を。
そう考えながら、私は森へと視線を向けていた。
SIDE 守
暗い森の中。木々の1つの根元に寄り
かかって、体育座りの姿勢のまま僕は
俯いていた。
ソーナちゃんは、僕の事をどう思うだろう。
僕を、化け物と怖がるかもしれない。
……でも、それが普通の反応なんだ。
僕は、化け物なんだ。
もう、ソーナちゃんと会っても、怯え
られたり、怖がられるだけかもしれない。
いや、それが普通なんだ。だって、僕は……。
そう思っていた時。
「ていっ!」
『ぴしっ!』
「痛っ!え!?」
突然誰かに、頭をチョップされた。
慌てて顔を上げると、そこには、リアス
お姉ちゃんと……。
「そ、ソーナ、ちゃん?」
ソーナちゃんの姿があった。
何でソーナちゃんがここに居るの?
「ど、どうして?」
「あ、え、えっと、あの。私、守君に
伝えたい事があって」
「僕、に?」
伝えたい事って、何だろう。……もしかして、
もう友達で居られないとか、かな。
まぁ、そう言われても仕方無い、か。
そう思っていた。でも、違った。
「守君。今日は、助けてくれて、ありがとう」
「……え?」
それは、僕にとって予想外過ぎる言葉だった。
「私、とっても感謝してるよ。何度も助けて
貰った。怪我した時も。あのはぐれ悪魔に
襲われた時も。守君は頑張って、戦って。
私を守ってくれた。だから、ありがとう」
そう言ってソーナちゃんは笑ってくれた。
でも……。
「そ、ソーナちゃんは、僕が怖く無いの?
僕は……」
その先を言おうとした。でも言葉が出ない。
分かってる。分かってるけど、でも、自分
で自分を化け物だって、ソーナちゃんの前で
言うのが怖かった。
拒絶されるんじゃないかって、思ったから。
でも、違った。
「怖くなんかないよ」
『ギュッ』
「え?」
気づいた時には、ソーナちゃんが僕を
抱きしめていた。
「守君は、大切な友達だもん。怖がったり
なんかしないよ」
「友、達?僕、が?」
「うん。守君は、私の友達だもん。
これからも、一緒に遊んだりしようね」
「ッ!うん、うんっ……!」
友達だって、これからも一緒に遊ぼうって
言ってくれた事が、嬉しかった。
だからこそ、瞳から溢れる嬉し涙を
止められなかった。
僕は嗚咽交じりに、頷く事しか出来なかった。
その後、僕達は3人一緒に森を出る為に
歩いていた。森に入ったと言っても、子供
の足で徒歩4~5分。それに森の中は僕に
とっての訓練場みたいな物だから、普通に
屋敷の方に戻れた。
そして、ソーナちゃんは足を挫いていた
事もあって、僕がおんぶして歩いていた。
そんな帰り道で……。
「ねぇ、守君って、私やリアスよりも年下
なんだよね?」
「うん。そうだけど?」
「じゃあ、守君は今日から私のことを
ソーナお姉ちゃんって呼んで良いよ」
「え?」
僕が呆けていると……。
「ま、待ちなさいソーナ!守のお姉ちゃんは
私よ!」
「それはどうかしらリアス?家族だから
お姉ちゃん、って呼ぶだけがお姉ちゃん
じゃないでしょ?」
と、何やら対抗心を燃やしている二人。
もしかして二人って、友達であり
ライバル、的なあれかな?
とか考えながら歩いていると……。
「ならば勝負よリアス!どちらが守の
姉の相応しいかっ!そして、どちらが
守の主に相応しいかを賭けてね!」
いつの間にか僕を呼び捨てにしてる
ソーナちゃん。
って言うか……。
「主って、どういうこと?」
気になって聞いてみた。
「守はイーヴィル・ピースのことは
知ってる?」
「うん。知ってるよ。悪魔以外の人や動物
なんかを悪魔に転生させて眷属にする、
チェスの駒みたいなアイテムの事だよね?」
そう言ってソーナちゃんに答える。
「そう。そして私やリアスはある程度になる
とそのピースを貰えて、自分達の眷属を
作れるようになるの。そして、眷属にする
には主の素質も問われるの」
「成程ね~。……ってまさか」
「そうっ!私とソーナで、どちらが守を眷属
するか相応しいのか、お姉ちゃん勝負と
合わせて競い合うのよ!」
そう言う事か~。
と僕は心の中で納得しながら苦笑を浮かべる。
「負けないわよっ!ソーナっ!」
「こっちの台詞よっ!リアスっ!」
こうして、リアスお姉ちゃんとソーナ
お姉ちゃんの僕を巡る(?)戦いが
始まったのだった。
ちなみにと言うか、やっぱりソーナお姉ちゃん
もこの一件以来、お姉ちゃんと呼ばないと
怒ったり泣いたりするようになって大変でした。
プロローグ 第3話 END
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