ジンキ・エクステンド 翠聖の翼   作:オンドゥル大使

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第弐拾八話「痕」

「ゆっくり降ろせ」

 

 張り巡らせた鉄線を数十人が声を合わせて引く。すると、戦場で剥がれ落ちた砲身が、モリビト弐号の機体から切り離された。

 

 モリビト弐号は律儀にも外れた砲台を持って帰ってきた。それもこれも、やったのは自分なのだが、と桟橋にいる翠は嘆息をつく。

 

 前夜の戦局から明けて二日目。

 

 モリビト弐号の損傷の具合は思っていたよりも酷く、帰ってくるだけでも一日を要した。その分、帝都は厳戒態勢であり、モリビト弐号を民衆に見られるわけにはいかないので、モリビト弐号の回収班と、壊れた武装の回収班は別々であった。だが、あまりの重量を引き上げられる機体がそういくつも存在するはずもなく、結局、夜半にモリビト弐号に即席の腕部を付けての発進。その腕で引きずって持って帰る、という醜態であった。

 

「持ち帰ったのは無反動砲に、鉤爪の一部……。それに何よりも」

 

 絹で包まれているのは回収した敵の一部であった。

 

 敵――幽鬼の破片を回収成功したと言う。しかし、翠には懸念があった。

 

「なぁに、難しい顔してんだい? 翠少尉」

 

 シゲが歩み寄ってきて桟橋で同じように見やる。

 

「シゲさん。今まで、幽鬼の破片って一個も見つかっていないんですよね?」

 

「ああ、うん。そうらしい。だから今回見つかったのは快挙だって」

 

「多分、あれは幽鬼の破片じゃないですよ」

 

 シゲは目を見開いて翠の発言に呆気に取られている。

 

「いや、あの場で幽鬼以外に、敵の破片なんてないだろう? まさかモリビトの破片を誤認したってわけでもないし」

 

「……でも、幽鬼の破片のはずもないんだ」

 

 その確信があった。戦っていた翠には誰よりも分かる。

 

 モリビト弐号が制御を離れた際、幽鬼を滅多打ちにした。

 

 その記憶はある。

 

 だが、当の幽鬼は恐らく、破片の一つすら見つけさせてくれないだろう、と。

 

「雲を掴むみたいな感覚だったんですよ。幽鬼をぶん殴った後、って言うのかな。モリビトが突撃した時も、質量はあるんですけれど、何か、変な感じで」

 

「変って、操主様が幽鬼にゃ実体がないって言いたいのかい?」

 

「いや、そうとまでは……。でも、あれ多分、幽鬼の破片じゃない」

 

 何なのだろう。自分の中の第六感が告げている。

 

 あれは戦っていた相手の破片ではない。

 

 シゲは参ったように後頭部を掻いた。

 

「翠少尉がそう言うんじゃ、きっとそうなんだろうけれど、あの場に二機も人機がいたわけじゃないだろ? 幽鬼だったんだろうさ。そうでなきゃ説明がつかない」

 

 そう、説明がつかないのだ。

 

 あの場にモリビト弐号以外の人機はいなかったのだから。

 

「でも、破片を回収したのは一日明けてからだった」

 

「その間に誰かが摩り替えたって? おいおい、手品師でもいたのか?」

 

 笑い話にするシゲに翠も同調した。

 

「……です、ね。手品なんてあるわけない」

 

「だろ? あんなでかい破片を交換なんて出来ないって。出来るとすれば、人機がもう一機いるってくらい、変な話さ」

 

「おい! シゲ! 何話し込んでんだ! こっち来て手伝いやがれ!」

 

 山城の怒声が飛び、シゲが縮こまる。

 

「へい! 分かりやした! すまん、翠少佐。あんまり雑談には付き合えんのだわ」

 

「いや、分かっています。モリビトがこんな状態じゃ、次の出撃に差し障りますし」

 

 視線を振り向けたモリビト弐号はところどころ擦り切れている。

 

 完全に稼動域を無視した動きをしたせいだろう。肩の動力弁が開いて不格好に晒されていた。整備班が取り付いて声にしている。

 

「この動力管、内側から弾けている。どんな無茶な機動をしたら、こんな弾け方をするんだ?」

 

「こっちもだ、畜生。こりゃ動力弁と動力管は根こそぎ入れ換えかな」

 

 そのぼやきを聞き止めて翠は顔を伏せる。

 

 自分の浅はかな働きが整備班全員に迷惑をかけている。謝りたいのは山々であったが、自分でも説明のつかない事象が多かった。

 

 酷く損傷したモリビト弐号は一度全部品を点検する必要があるらしい。そのために整備班が夜を徹して働いているのは忍びなかった。

 

「あの、山城班長」

 

 翠は山城に声をかけていた。

 

 無反動砲を眺めていた山城は翠を見つけて手を上げる。

 

「どうした? 坊ちゃんがそんな風にしょげてると、直るもんも直らねぇぞ」

 

 見透かされているな、と思いつつ翠は無反動砲に視線を投じた。

 

 右腕に直接付けられていた無反動砲は砲身から折れ曲がっており、もう使い物になりそうにない。

 

「せっかくの武装を……。すいません」

 

「頭を下げれば直るって言うんならいくらでも頭を下げてもらうけれどよ。そういうわけにもいかんし、そんな物事は都合よくないんだよ。だから操主はしゃんとしていろ」

 

 山城の言う事は正論だ。しかし、翠には一抹の不安があった。

 

「直り、ますよね、モリビト」

 

「正直な事を言っちまうとよ。分からん、ってのが半々だな」

 

「分からない……?」

 

「暴走の原因が分からないと、直してもまた壊れるって話だ」

 

 翠の不安はそれである。

 

 モリビトがどうしてだか制御を離れた。その活動時間、正規の手順ではない方法でモリビトが稼動した。

 

 何が作用したのか、整備班も分からないようだ。

 

「やっぱり、あれって暴走、ですよね……」

 

「作戦参謀殿に御伺いを立てるっきゃないが、まずそうと考えて間違いないだろうな」

 

「何で……。だって人機の整備は万全で、オレもきっちり操縦したつもりなのに」

 

「予想外の事は起こるもの。それが戦場って奴だが、一度あった事は二度、二度ある事は三度あるってな。三度目の暴走なんて起こした日には俺達全員、雁首揃えてクビになってもおかしくはねぇが、そもそも原因が分からないから絶ちようがない」

 

 山城でも分からないのか。翠は無反動砲に視線を落としたままぽつりとこぼした。

 

「その、勝手な考えでもいいですか」

 

「ここは会議室じゃねぇ。勝手な考えでも何でも」

 

「モリビト弐号に、規格外の何かが仕込まれている可能性は?」

 

 暗に整備班を疑うような言葉だった。本来、言ってはならないのだが、やはり二度も続けば内々を疑わざるを得なくなる。

 

 山城は怒ると思っていた。そうでなければ何も答えないと。

 

 しかし、山城は冷静だった。

 

「ない、とは言えないな。俺達にだって秘匿されている部分があるんだぜ、こいつは」

 

 山城が指差したのは頭部を切り離されたモリビト弐号であった。翠は吊り上げられている頭部を見据える。

 

「それを、知っているのは」

 

「この基地で一番のお偉いさんだろうさ。だが、あの人がそう易々と口を割るとは思えないがな」

 

 この基地の責任者は時雨である。時雨が何かを仕組んだ可能性。

 

 無きにしも非ず、と考えてしまう自分はやはり軍属として正しくないのだろうか。上官の命令には従う。二言もない。それが軍人としては正しい在り方だろう。

 

 だが、あまりに不明な点が多く、モリビト弐号の暴走に関しても口を噤む始末。

 

 時雨の掌の上で踊らされている、にしては被害も、何もかもが桁違いだ。

 

 一個人の策謀にしては帝都という盤面は広過ぎる。

 

 大将首を取って来い、と言われて幽鬼を討伐し、その結果こちらが狂い出すのでは世話はない。お遣いもまともに出来ない部下など無用だろう。

 

「モリビトは、やっぱり何か仕込まれているんですかね」

 

「だとしても、俺達が疑ってかかったところで、准将殿は一言もろくな口を利かないだろう。こっちで探ろうにも、ブルブラッド一つ取ってしてみても不明瞭な点が多くってな」

 

「血塊炉ってどういう手順で動いているんですか? 資料には、永久電流がどうたらとありましたけれど」

 

 ブルブラッド、血塊炉に電気を通し、その結果、永久電流によって稼動を得ている、と資料には書かれていたが、もちろん、翠にはちんぷんかんぷんであった。

 

 山城はサングラスをかけ直す。

 

「きっちりと読んでいる辺り、坊ちゃんにしては気の利く事じゃねぇか。まぁ門外漢からしてみれば分からない専門用語ばっかりで意味不明かもしれないが」

 

「電気で、動いているんですよね」

 

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。そうだな、簡易的に考えるならば血塊炉って言うのは電気を通せば通した分だけ血の巡りのよくなる、心臓とでも思ってくれればいい。電気は漢方薬か何か、もっと端的に言えば飯だ、飯。心臓を動かすのには飯がいる。人間が飯で動いている、って言えるわけじゃないように、モリビトだって電機で動いているわけじゃない、って言える」

 

 屁理屈めいているな、と翠は感じつつ頭の中で整理する。

 

「心臓は、飯を食べなくっても動きます」

 

「血塊炉もそうだよ。本来、稼動と停止を区切る事も出来ないんだ。俺達が勝手に稼働時間を設定しているだけ」

 

 その言葉は初耳だった。血塊炉はならば無限機関なのだろうか。

 

「無限に稼動する動力って事ですか?」

 

「そう容易く物事が行きはしないんだよ。無限稼動の動力なんてものはな、あり得ない。だから血塊炉ってもんは無限稼動のようで無限ではない、有限の動力だ」

 

 わけが分からなくなってきた。翠は問い質す。

 

「えっと……つまり血塊炉は他の動力源と同じく、有限の機関なんですよね?」

 

「そのはずだ。性能試験上で言えば、な」

 

 濁したのは暴走の一件があるからだろう。血塊炉の稼動を無視した暴走。赤い装甲版が露出し、モリビトが勝手に動き回る。

 

 そのような一件があるせいだろう。尻尾を思わせるブルブラッド活性炉が取り外されており、今のモリビトには電気が一切通っていない。

 

「電気の巡っていない状態は血の通っていない人間だと思えばいいんですかね」

 

「血塊炉って言うのはまぁ、その名の通り血液みたいなもんだ。現地の住民は青い血の石と呼んでいた。だからブルブラッドって言うんだとよ。いっぺん血の通った状態だったのが、循環系がイカれちまって使い物にならなくなっている。通用弁が根こそぎ壊れて取り外さなきゃ二度目は使えん」

 

 暗に自分の扱いが雑だと言われているようで翠は顔を伏せた。無反動砲の折れ曲がった砲身が暴走の凄まじさを物語っている。

 

 本来、無反動砲もモリビトも鉄の塊には違いない。違うのは、血塊炉の血が通っているかどうかだけ。

 

 武器と人機を分けるのはその部分だ。

 

 血塊炉が通っていない、人間で言うところの爪が割れたようなもので、末端部位として使い物にならなくなっただけ。

 

「モリビト弐号、再稼動は……」

 

「まぁ、二日は待ってくれよ。でなきゃどうとも言えんな」

 

「すいません、オレ……何にも出来ずに」

 

 翠の謝罪に山城は手を払った。

 

「いいんだよ、操主が何の怪我もなく帰ってこられるのが理想なんだろ? お上は。まぁ、もっと理想を言えばモリビトだって無傷で帰して欲しいもんだがな」

 

 返事に窮する翠に声がかけられた。

 

 振り返ると、岩倉がこちらを睨んでいる。

 

「日下部少尉。来てください」

 

 つかつかと歩み寄ってきたと思うと、岩倉は翠を引っ張った。

 

 翠は気後れ気味にその背中に続く。

 

「あの、オレ、何かしましたか?」

 

 岩倉が怒っているように思えたのである。しかし、岩倉は否定した。

 

「いいえ。特に何も。ただ、次の幽鬼襲来が明日とも限りません。作戦だけは頭に叩き込んでもらわないと」

 

 見れば、岩倉は小脇に作戦資料を抱えている。モリビト弐号の暴走の一件に責任を感じているのは自分だけではないのだ。

 

「その、岩倉中尉。オレ、モリビトを制御出来なくって……」

 

「その事も、作戦で網羅します。そうでなければ、何のための我々対策室ですか」

 

 岩倉は前向きだ。モリビトの暴走も作戦でどうにか出来ると思っている。

 

 ――だが、翠はそこまで楽観的にはなれなかった。

 

 乗っていた自分だけが分かる。

 

 制御不能になって、宙に浮いたようなあの感覚。

 

 モリビトという巨大な鉄塊が、急に人間じみた動きをし出す奇妙さ。

 

 誰の指示でもなく、突然に動き出す恐怖。

 

 思い返しただけで、恐れが這い登ってくる。

 

 それでも、岩倉は作戦で制そうと言うのだ。作戦さえきっちり立てれば、それらの異常を制御出来ると。翠から言わせれば、それは傲慢とも映った。

 

 あのモリビトの状態はあまりにも、人間という楔の制御を離れた、化け物じみていたからだ。

 

 作戦なのだから対策室に通されるのだとばかり思っていたが、岩倉が案内したのは自室だった。

 

 以前のように書類が山積しており、帝都の地図には赤いバツ印が書き加えられていた。

 

 モリビト弐号の移動ルートは青い線で記されている。その移動の足跡に赤いバツ印があるのは翠に罪の意識を芽生えさせた。

 

 自分が、壊してしまった場所だ。

 

「日下部少尉。前回の作戦を思い返してください」

 

 机の上に広げられたのは帝都の地図である。何を聞きたいのだろう。翠が困惑していると岩倉は一点を指差す。

 

「ここで、幽鬼と戦闘が行われました。迎撃成功したのもここです」

 

 地図上で示されると途端に現実味がなくなる。翠はうろたえ気味に首肯するしかない。

 

「ここに……これから話す事は極秘事項ですが、落雷がありました」

 

「落雷?」

 

 おかしな事を言う、と翠は眉をひそめる。ここ数日は晴天で雨も降っていない。

 

「落雷があったのは作戦実行中、モリビト弐号暴走時です」

 

 翠ははっとする。暴走途中にあったモリビト弐号が停止した理由を、岩倉は話しているのだ。

 

「……落雷って、それは自然発生では」

 

「もちろん、ありません」

 

 岩倉は頭を振った。という事は、つまり……。

 

「何者かが落雷のような現象を発生させてモリビト弐号を、……攻撃した」

 

 考えられる最悪の想定であったが、岩倉は頷く。

 

「モリビト弐号を攻撃出来る兵器が既に運用されている可能性を示唆しています。つまり、幽鬼側の戦力は出現している幽鬼だけではない、という仮定」

 

「でも、落雷なんて。相当な兵器じゃないとそんな現象は」

 

 不可能なはず。そう言おうとした翠の言葉を心得たように岩倉は継いだ。

 

「そう、モリビト弐号を攻撃するなんて幽鬼以外は出来るはずないんです。現状、どの国の兵器だとしても落雷を自然発生に見せかけて作り出すなんて事も不可能です」

 

 だとすれば何だと言うのだ。何が、モリビトを攻撃したのだ。

 

「仮定その一として、空中機動の幽鬼、というものを考えてみました」

 

 岩倉の手渡した書類には幽鬼がもう一体存在し、空中から攻撃を仕掛けてきた、という仮定が記されていた。

 

 しかし、文末に「不適当」と赤字で書かれている。

 

「不適当、って……」

 

「空を飛べる幽鬼なんていれば、何で今まで来なかったんだ、という話だからです」

 

「でも、こちらが確認出来なかっただけで」

 

「今までもいた、という可能性ですよね。それが分かれば苦労はしないんですが、観測班からの情報が不明瞭で、作戦指揮を執ろうにも情報不足なんですよ。だから仮定しか浮かべられない」

 

 岩倉がその小さな身体に苦労を背負っているのが窺えた。どうしてだか説明出来ない落雷の発生。

 

 それを説明するのにはもう一体の幽鬼の存在を示唆しなければならないのだが、そうなってくると問題が山積する。

 

「もう一体いるのならば、何故同時に仕掛けてこないのか、も疑問ですよね。二体に仕掛けられればさしものモリビトといえど勝てる見込みは少ない」

 

 翠の指摘に岩倉は額に手をやる。

 

「そうなんですよね……。二体いるのならば、何故二体で来ないのか。それも分からない。まるでモリビトを、挑戦しているみたいな具合さえ出てくるんですよ。だから可能性を棄却せざる得ない」

 

 二体であるのならば、どうして仕掛けてこないのか。

 

 一つを取れば一つが潰える。

 

 二律背反の回答に岩倉は相当参っている様子だ。

 

「単純に、もう一体が空中戦力だからなのでは? 監視とか、次の作戦行動のための牽制、という意味合いがあった。だから普段は仕掛けてこない」

 

 こちらが観測気球を飛ばしているのと同じだ。相手はモリビトの戦力をはかっている。

 

 これならば、と思ったが岩倉は頭を振る。

 

「だったらなおの事、暴走状態のモリビト弐号に仕掛けた意味がない。空中戦力だというのならば相手を仕留めるまでその可能性すら窺わせてはいけないんです」

 

 つまり、ここに来て相手の空中戦力をこちらの可能性に浮かばせた時点で下策だと、岩倉は言いたいのだろう。

 

 切り札だというのならば最後まで隠し通すべきだ。それが出来なかった理由がどうしても浮かばない。

 

「……向こうも、こっちと同じで余裕がなかった、だとかは」

 

「余裕がない、としても、この落雷の威力が問題なんです。牽制に使ったにしては、あまりに高威力なんですよ。モリビト弐号の制御弁が一部焼けているようになっているのはご存知で?」

 

「整備班の方々が、ぼやいているのは聞きましたが……」

 

「暴走時の無茶な機動のせいだと整備班は思っているようですが、あの落雷が引っかかった、と思しき部分もあるんです。山城班長と僕の権限で留めていますが、明らかにこれは、幽鬼以上の脅威の攻撃なんですよ」

 

 幽鬼以上。そうなれば幽鬼迎撃にかまけている場合でもないのだろう。幽鬼出現が尖兵であった、という可能性も出てくる。

 

「じゃあ、オレ達は尖兵に苦戦していたと?」

 

「思いたくありませんがそうかもしれないですね。幽鬼は所詮、相手にとってしてみれば捨て駒のようなものだった、とも」

 

 そうなれば作戦自体が覆る。

 

 幽鬼以上の相手を想定して戦う事になるのだろう。岩倉の悩みの種はそれか。

 

「その、中尉、幽鬼以上という相手、ならば何だって言うんですか? 空から攻撃してきたという事は飛行する幽鬼か何かで?」

 

 岩倉は目元を拭って応じる。

 

「本当に、本当に分からないんですよ。観測班の情報は全て、ある一定で留まっていてこちらに降りてこない。降りてくれば、少しは違うんですが」

 

 翠は予感する。そのある一定とは、もしや。

 

「准将が、情報を握り潰している?」

 

「……考えたくはありませんが、権限が上の人間をしらみつぶしに攻めていけば、上官を疑いたくもなります」

 

 時雨は何を考えているのだ。

 

 項垂れる岩倉に、翠はただただ黙りこくるしか出来なかった。

 

 

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