ジンキ・エクステンド 翠聖の翼   作:オンドゥル大使

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未来のために
第参拾四話「赤い戦士」


 観覧席に招かれた時雨はまず、自分の待遇に驚いた。

 

 誰も彼もが華美な装飾をした国のお歴々。彼らが顔を突き合わせるのは、このような場を除いては戦争だけだ。戦時下においては敵同士であった国の首脳が一つの映像に見入っている。

 

 それは自分とて例外ではなかった。

 

 映像の中のそれは赤い疾駆を弾けさせて、目標物を示す的へと一気に肉迫する。

 

 その速度、既に現行兵器の領域を超えていた。

 

 無反動砲や、射撃兵器が赤いその機体を狙おうとしたが、その時には既に離脱している。

 

 射線を超えて、その兵器の片腕が陽光を鋭く反射した。

 

 くの字型に曲がった強力な太刀筋である。実体剣を機動兵器に持たせる、というのはかなりの間違いと思わされていたが、赤いその機体はまったく、その弱点を感じさせるまでもなく、一撃離脱戦法を取っていた。

 

 覚えず感嘆の息が漏れ、乾いた拍手を送る高官さえもいる。

 

 時雨はその兵器の完成披露会に、ここまでの各国の人々が羨望を寄せている事に驚愕していた。

 

 ブルブラッド技術は元々、大国のものだ。

 

 島国で扱われる代物ではない。当然、資財を持つ大国が追いついてくるのも考えのうちにはあったが、これほどまでに速く、と舌を巻いていた。

 

 赤い機体が全ての標的を斬り据える。

 

「いかがだったでしょうか。我が国の人型特殊才能機の性能は」

 

 流暢な英語で話す事務官は、おっと、と眉を跳ね上がらせて時雨を認めた。

 

「その国では人機、だったですかな。呼び名が」

 

 高官達が笑い声を交わした。人機研究の第一人者は日本だ。だからこそ、この場に呼ばれたのであるが。

 

「型式番号T‐84。我が国ではその姿をもってこう呼んでいます。レッドウォーリア、と」

 

 レッドウォーリア――赤い兵士。そのまんまだな、と時雨は感じた。

 

「この機体をわざわざ製造したのは何故なのか。皆さん、疑問でしょうね」

 

 その通りだ。極秘で済ましてしまえばいい人機研究を、わざわざ各国首脳を集めて、公にする利がない。

 

 それにはやはり、と言うべきか、時雨を事務官は見据えた。

 

「島国では人機研究が爆発的に進んでいるそうじゃありませんか。どうです? 我が国のレッドウォーリア、買いませんか?」

 

 なんて事はない。日本に高値で人機を売りつけようというのだ。各国首脳の前でその性能を明らかにしたレッドウォーリアならば売る価値がある。

 

 しかし時雨はマイクを手に返答した。

 

「せっかくですが、我が国には既に一機の人機が存在します。現行機を廃止して、他国の機体を招くのはいささか乱暴というほかない」

 

「モリビト、でしたか? ですがその機体、ここ数回の戦闘において暴走しているそうじゃありませんか。そんな危険性のある人機を、扱えますかな?」

 

 既に暴走の一件は耳に入っているのか。耳聡い連中だ、と時雨は胸中に毒する。

 

「ブルブラッドシステムを導入している以上、レッドウォーリアだって暴走しない可能性はないでしょう」

 

「いいえ、そんな事はありませんよ。こちらは天才が設計した最高の機体です。これを超える人機は、あり得ない」

 

 天才。それが誰を示すのか、時雨は分かっていたがここでは追求しなかった。

 

「いずれにせよ、我が国の防衛はモリビト一機にかかっています。他国の機体を招いて、整備班への負担を大きくしたくない」

 

「あくまでも、モリビト一機の迎撃にかまけるつもりですか? 幽鬼とやら、そう簡単に倒せないと聞いていますが」

 

 幽鬼の事までも……。

 

 内通者の存在が浮かび上がったが、あの総会で誰かがこの国に通じていても何らおかしくはない。

 

「我が国の迎撃成績はご存知でしょう。そこに異物を持ち込みたくないのは通常の精神では?」

 

「なるほど。異物、と仰いますか。では、実際に試してみますか?」

 

「試す?」

 

 怪訝そうな時雨へと事務官は高圧的に声にする。

 

「二週間後、日本にレッドウォーリアを護送しましょう。その時、モリビトとの直接対決と行こうじゃありませんか。モリビトが勝利すれば、依然、防衛はモリビトに任せます。しかし、レッドウォーリアが勝利すれば、幽鬼迎撃は任せてもらいましょう」

 

「内政干渉です」

 

「ですが政では幽鬼は倒せないのでしょう? だったら、これは対等なデモンストレーションです。これから先の兵器社会を塗り替えるかもしれない、コンペだと思えば」

 

 そのような事でモリビトの優位性を崩されて堪るものか。

 

 時雨は頑として言い返す。

 

「幽鬼を倒せるのは、モリビト弐号だけです」

 

「だから、試すだけですよ。我が国にも幸いにして操主はいるのでね。そちらの援助は結構ですよ。我が国が全て負担します。敗北した場合、大人しく引き下がりましょう」

 

 そんなはずがないのだ。

 

 この勝負、乗った時点でこちらの不利である。

 

 もし、レッドウォーリアに少しでも性能面で劣れば、これからの国際社会で兵器運用が変わる。

 

 モリビト、ひいては人機の優位性が損なわれるだけではない。日本という国の兵器信用に関わるのだ。

 

「そのような勝負には乗れません」

 

「逃げるのですか?」

 

「逃げる? 逃げるも何も、モリビトとレッドウォーリアでは勝負にならない」

 

「そこまで言うのでしたらなおさらでしょう。戦ってみませんか? ご自慢のモリビト弐号と、我が国のレッドウォーリア」

 

 他国の高官達が固唾を呑んで見守っている。ここで勝負に容易く乗るのは馬鹿のする事だ。モリビトの性能をひけらかしたくはない。

 

 しかし、ここまで言われてしまったからには、根も葉もない噂が立つのも時間の問題。

 

 なれば、毒を食らわば皿まで、の精神で臨むべきか。

 

「……いいでしょう。ただし、条件があります」

 

「条件?」

 

「レッドウォーリアが敗北した場合、その技術とレッドウォーリア本体を、我が国に譲渡していただきたい」

 

 この条件に事務官は頬を引きつらせた。当然だ。喉から手が出るほど欲しい人機技術を相手に与えてしまう事になりかねない。

 

 しかもこの条件ならばモリビトの技術は得られないのだから、一方的である。

 

 だが事務官にも誇りがあったのか。一拍の逡巡の後に首肯した。

 

「いいでしょう。我が国のレッドウォーリアがどこまでやれるのか、あなた方に見せてあげますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幽鬼出現の報あり!』

 

 対策室にもたらされたその情報に、翠は駆け出していた。

 

「モリビトは?」

 

「遅いぞ、坊ちゃん! クジラに血塊炉の熱を通せ! 使えるか?」

 

 翠は乗り込む間際、右腕に接合された盾の形状を取ったクジラを眺める。

 

 血塊炉に熱が通ると、クジラが少しだけ暴れ出そうとするのだが、翠が操縦席に入ると自然と大人しくなるのだ。

 

「……いい子」

 

 そう呟いて右手を制御する操縦桿を引く。連動した右腕がクジラを盾として構えられる事を誇示した。

 

「いつでも行けます!」

 

「よし! モリビト弐号、出撃準備!」

 

 山城の声が弾け、モリビト弐号がレールに脚部を接合する。火花が散り、隔壁が開いていった。

 

「日下部翠、モリビト弐号、出ます!」

 

 甲高い音を木霊させてレールを利用し、モリビト弐号が出撃する。

 

『日下部少尉、今回の幽鬼は一体。油断は禁物ですが、戦法としては』

 

「分かっています。出来るだけ引き付けて、その後、ですね」

 

 岩倉の戦術を脳裏に呼び起こし、翠はモリビト弐号を目的地まで駆けさせた。

 

 目測に入った幽鬼が筒先を光らせて砲弾を発射している。

 

 こちらにはまだ気づいている様子ではない。

 

「接近して、相手を引き付ける」

 

 急制動をかけてモリビト弐号が立ち止まった。左腕を上げさせる。左腕には小型の射撃兵器が装備されていた。牽制用であるが、幽鬼の注意を引くのには充分だ。

 

 弾丸が幽鬼の横っ面を弾く。こちらに気が付いた幽鬼が触手を伸ばしてきた。

 

 螺旋を描く触手がモリビト弐号を貫こうとするが、それを制したのはクジラの盾である。

 

 絶対防御を誇るクジラの盾が堅牢に相手の攻撃を通さない。

 

「まだ……、相手の射線にあえて入って……」

 

 じりじりとこちらへと向けられる射線に、篭る殺気。

 

 首筋の汗が滲んでくる。

 

 その筒先がこちらを捉えた瞬間、翠は腹腔から声にしていた。

 

「構え!」

 

 モリビト弐号の脚部を固定する杭が地面を突く。これでモリビト弐号は後退も前進も出来ない。だが、それこそが狙いであった。

 

 筒先が輝き、赤い砲弾が発射される。

 

 翠は盾を構えさせて、それを受け止めた。

 

 クジラの表面で弾丸が固定化される。磁場が走り、弾丸の位相が変わった。

 

 こちらを打ち据えるはずの砲弾が、射撃すべき相手を変更したのだ。

 

 翠は操縦桿を思い切り倒していた。脳裏に刻み込まれたその技の名前を、モリビト弐号の体内を奔る覇気と共に声にする。

 

「――リバウンド、フォール!」

 

 弾き返された砲弾が幽鬼を貫いた。

 

 幽鬼の身体が赤く染まり、ぐずぐずと崩れ落ちていく。

 

 翠はそれをじっと眺めつつ、クジラの接合した右腕を下げた。

 

「情況、終了」

 

『これで幽鬼の迎撃にも、大分慣れてきましたね』

 

 伝令管から伝わる岩倉の安堵の声に翠は返していた。

 

「回収、お願いします。この状態だとモリビト動けないんで」

 

 岩倉も伝令管の向こうで笑ったのが伝わった。

 

『伝えておきますよ。お疲れ様です、日下部少尉』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対策室は幽鬼迎撃成功に湧いていた。

 

 三度に渡っての幽鬼からの一切の攻撃を封じた上での迎撃。これは対策室の悲願でもある。

 

「慣れてきたんじゃないですか、日下部少尉」

 

 その声に作戦担当の岩倉も自然と声が上ずる。

 

「そうですね。クジラを装備してからのモリビトの活躍は目ざましい。これなら、幽鬼の安全な迎撃も夢じゃなくなってきました」

 

 三度も成功すればこれは最早まぐれではあるまい。そう確信しての岩倉であったが、司令であるはずの時雨の顔色は優れなかった。

 

「時雨准将、気分でも悪いのですか?」

 

「……いや、何でもない。迎撃成功おめでとう。報告書を纏めておいてくれ」

 

 時雨にしてはどこか淡白であった。

 

 クジラがモリビト弐号に取り付いてからというもの、どこか時雨は幽鬼迎撃に疑問を発しているようなのだ。

 

 席を立った時雨の背中を眺めていると、陰陽班が声にした。

 

「准将は、自分の掌の上での戦闘をお望みなのでしょう。だから、クジラの存在が面白くない」

 

 本当に、それだけだろうか。岩倉は他にも隠し事をされているような気がしていた。

 

「クジラは確かに、まだ解析し切れていない部分はありますが、敵ではないでしょう。敵ならば、もう攻撃してきているはず」

 

 モリビト弐号をそれどころか、助けてくれているのだ。

 

 日下部翠の味方であるのは疑いようのない。

 

「そういえばクジラの報告書、整備班から上がってきたんでしたね。それも受け取っておきます」

 

 自分の仕事は次の戦術を練り、安全に翠の戦場を彩る事だ。

 

 それに関して言えばクジラの存在は欠かせない。

 

 その存在そのものが異物だとしても、利用出来るのならばそれに越した事はないのだ。

 

 時雨もそういう立ち位置だったはずである。だが、クジラの一件からというもの、時雨と高木の様子は明らかにおかしかった。

 

 どこか、クジラを警戒している。

 

 それだけではない。モリビト弐号が強くなる事に、恐れを抱いているようであった。

 

 暴走の時にはあれほど落ち着き払っていた時雨が、一転して、警戒の様相を呈してくるのは奇妙だ。

 

 暴走の時のほうがよっぽど危うかっただろう。だというのに、今の安全な迎撃に一家言あるようだった。

 

「僕としては、この状態が長く続けばいいのだと思っているけれど……」

 

 岩倉の呟きは誰にも聞きとめられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モリビト弐号、あれに特別な措置は必要ない」

 

 断じた声音の時雨に高木は困惑気味であった。

 

「ですが、呪符の一件は……」

 

「呪符は相手の技術を応用したもの。つまり相手を知るいい機会であった。だがね、クジラは完全な想定外だ。あれの存在を看過していれば、いずれは手痛いしっぺ返しを食らう」

 

 執務机についた時雨はいくつかの資料を手にしていた。

 

 クジラの発生させる強力な重力反転磁場――リバウンド現象と呼称されるもの。

 

 それをモリビト弐号は手足のように扱い、幽鬼の発する砲弾を跳ね返している。

 

 翠は誰にも教えられたわけでもないのにその攻撃方法をこう称した。「リバウンドフォール」と。

 

「改めて、血続の恐ろしさが浮き彫りになった。クジラ……血塊炉そのものであり、意思のある血塊炉とでも言うべき存在。秘匿されるべきであった。あれを人工的に造られた人機が操る事はあってはならないんだ。それこそ、力の均衡が崩れる」

 

「ですが、あれによって三度の防衛成功。悪とは断じられません」

 

「それが厄介なのだよ。どうしてだか、あのクジラは日下部翠に懐いている。それの操るモリビト弐号にも。だが……、あと三日だったな」

 

 不意に発せられた言葉を高木は理解に時間を要したようだったが、さすがは秘書官。思い出したようだ。

 

「レッドウォーリア、でしたね」

 

「他国の人機を我が国に持ち込まれるだけでも面白くない。しかも、それがこういう代物なら、なおさらね」

 

 資料にはこうある。「史上初の二脚型人機」と。

 

「二脚型人機……。これが戦列に加われば頼もしいと思われますが」

 

「馬鹿を言うな。これに勝てれば、の話だ。今のモリビトではキャタピラでこれの性能に追いつけない。足が違うんだ。この、二脚だとうそぶいている人機とどういう勝負方法が取られるのかまでは分からないが、レッドウォーリア、脅威であるのには変わりない」

 

 すると扉をノックする音が聞こえてきた。許可すると入ってきたのは伊勢と水無瀬だ。

 

「三日後に控えているレッドウォーリアとの戦闘ですが……このような戦闘方法を所望のようで」

 

 伊勢が困惑気味に書類を提出する。時雨は一読して鼻息を漏らした。

 

「ボールの取り合い……。これはレッドウォーリアが優位な条件じゃないか」

 

「しかし、相手はこれを譲りませんでした。どうなさいます? 勝負の棄権を」

 

「しかし棄権すれば、この人機が我が方に割って入る。作戦指揮が乱れかねない。何よりも……今まで我々が掴み取っていた情報を相手にやるのが面白くない」

 

 血塊炉に関する事。刀使いや幽鬼に関する事。極秘裏に集めていた情報を相手に手渡すのもある種、今回の勝敗如何で決まるのだ。

 

「そこまで読んでの采配だと?」

 

「逆に聞くが、そこまで読まずして戦いを挑むものか。あちらは所詮、動かない的と戦っている机上の兵器だ。こちらは動く敵を相手取っている。まず、立ち位置が違う兵器を無理やり同じ領域に立たせて勝負しようというのだから、これは内政干渉……いいや、それ以上を狙っているのだろう」

 

「そういえば、昨日、来日したとの連絡が入っています。レッドウォーリアの研究者連が」

 

「こちらへの挨拶もなしに、か?」

 

 瞠目する時雨へと伊勢は言いやる。

 

「どうも極秘が目立つようで」

 

 後頭部を掻いてこちらに伊勢と水無瀬の隠密があって助かった、と感じた。

 

「相手を引っ張り出すのは?」

 

「不可能でしょう。帝都にいるのは掴みましたが」

 

「どう足掻いたところで、レッドウォーリアとの戦闘にはもつれ込むわけか……。モリビトの今の状態を他国に晒すのは得策じゃない」

 

「クジラ、ですか」

 

 伊勢の声音に時雨は瞑目する。

 

「あれの解析情報は上がってきているな。やはり……」

 

「血塊炉そのもの、との事でしたが」

 

 予想通りの言葉に時雨は嘆息をつく。

 

「血塊炉そのもの、か。しかしあれを所有したのが我々のような野心の塊ではなく、何も知らない日下部翠であるのは皮肉としか言いようがない」

 

 あるいは、クジラが翠を最初から選んでいたのか。それに関しては憶測の域を出ない。

 

「切り離しを試みたそうですが、完全に接合していて……。無反動砲を取り付け直す事は出来ないそうです」

 

 モリビト弐号をある意味では掌握した、と言うべきだろう。クジラに対して警戒を注ぐべきだと時雨は感じていた。

 

「それで、生きているのかね?」

 

 時雨の問いかけの意味を伊勢はすぐさま判じた。

 

「生体反応はありません。ただし、血塊炉に熱を通した時のみ、僅かに動くだけ。それ以外は動力源も、何もかも不明」

 

「クジラは自律稼動する人機のようなものだ。だというのにモリビトに取り付いてからは何もしないのは解せない」

 

 モリビト弐号に取り付いた時点で既に目的を果たしていた、とも考えられるが、だとすれば全てクジラの考えの内にあった、という事になる。

 

 それはあってはならなかった。

 

 人間が、クジラのために――血塊炉の生命体のために、利用されていたなど。

 

「破壊は不可能なのか?」

 

「あれそのものを破壊するのには、今の科学力では足りません。切り離しにも時間が膨大にかかります。それならば、利用したほうがいいかと」

 

「リバウンドフォール……。日下部翠はあれを信用し切っている。血続の本能か、クジラに対して敵愾心が見られない」

 

 今までは血続の本能を利用してきただけにこれは手痛い。制御不可能な血続は、時雨の考えでは不必要だった。

 

「どうなさいますか?」

 

「どうあっても、レッドウォーリアとの戦闘を前にしてクジラを切り離す事は出来ないのだろう。ならばあえて、付けたまま事に臨もうじゃないか。相手への牽制になるかもしれない」

 

「レッドウォーリアの新たな情報です。これを」

 

 書類の上に書かれていた事実に時雨は目を見開いた。

 

「……嘘だろう?」

 

「残念ながら、複数の研究者が証明しています。二脚型人機には、それが可能だと」

 

「今までにない人機の、動力網を利用した新たな移動方法か。その名を――ファントム。残像さえも居残さない動きから取ったのだと」

 

 これが瀬戸際になって明かされたのは正直痛い。こちらは元からレッドウォーリアには速度では追いつけないと思い込んでいたからだ。

 

 畳み掛けるように情報が山積していく。

 

「ファントムを使われれば、この勝負……」

 

「いつもならば勝負は時の運と言うのだが、今回ばかりは厳しいかも、しれないな」

 

 そう判断せざる得ないほど、今回の勝負に関して言えば、不確定要素が大きかった。

 

 

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