時雨は目の前にいる外交官に頭痛がした。
クジラの事を聡く聞いてくるかに思われたが、開口一番発せられたのは意外な一言だった。
「ここの軍隊の指揮系統では、人機を動かすのに値しない」
いきなり横っ面を叩かれたような気分である。時雨は応接室の一点に視線を注ぎ、その忠言を聞き流した。
「何がご不満ですか?」
「不満も何も、レッドウォーリアを整備出来るとは思えない。ゆえに人機を動かすのには値しないと言っているのです」
黒服はどこまでも高圧的であった。だがそれ以上に、今は別行動しているというレッドウォーリアの主任研究員の言伝なのだという。
「そちらの主任の名前は確か、和名でしたね」
邦人である事をほのめかせば相手も少しは気後れするかもしれないと期待しての声だったが、それは全くの場違いであった。
「国籍はこちらにあります。それに、彼は一国を束ねるであろう機械化部隊の研究も行っている。どこの国に属するのか、を論じるのはナンセンスではないですか」
言われてしまえばにべもない。時雨は自分でもいつもの弁説が出てこないのに戸惑っていた。
クジラという異物のせいか、あるいはここ数回の自分の制御下にない防衛のせいか。どこか精神が疲弊している。
「失礼。ですが、人機を操るのにかけては、ここの整備班は特級です。そちらの言葉で言えばエキスパートだと言ってもいい。彼らを軽んじる発言は許されない」
「レッドウォーリアは今までの指揮系統では動かせないと思っていただきたい。三日後の模擬戦に向けて操主も仕上げにかかっている。そちらの、にわか仕込みの操主とは違うと言っているのです」
日下部翠の経歴を洗う時間はなかったはずだ。だからこれはただの挑発。翠の正体を知っての言葉ではない。その点では、まだこちらに分があった。
「失礼ながら、操主としての格は、何だと思われますか?」
問い返されて相手はまごつく。
「……戦歴でしょう。客観的な事実を述べるのならば、それに越した事はない」
「戦歴では、我が方も負けてはいない。何度、幽鬼からこの帝都を守ってきたと思いますか? こちらとて人機戦闘における最上位に位置している。操主はやりますよ。あなた方の思っている以上に、ね」
それに関しては余裕がある。クジラの事もそうだが、性能面では決して劣っているとは思わない。
問題なのは勝負の決し方だ。
今回の模擬戦の方式を、改めて外交官が口にする。
「ボールを一定時間、保持すれば勝利。保持時間の長いほうに分があります。残り時間一分を切ったところで、さらに長く保持したほうにボーナスポイントを。これが基本ルールですが、異議は?」
「ありません。しかし、加味していただきたいのはこちらの人機はあなた方ご自慢のレッドウォーリアと違って足がない」
「二脚型人機は我が方の最新鋭機です。そちらにその技術がないとは言ってもハンディをあげるつもりもない」
交渉するのならばここだ、と思っていたがやはりその気はないか。
時雨は息をついてから話の穂を継ぐ。
「しかしですね、膂力では劣っているとは思っていない。そちらのレッドウォーリアの活躍、拝見しておりますよ。無論、その戦闘結果も。格闘戦がお得意のようですが、我が方のモリビトには劣る。そう判断させてもらっています」
この切り込みにどう反応する?
時雨が相手の出方を窺ったが、相手は挑発には乗らない。
「レッドウォーリアは実戦兵器です。模擬戦のために造ったわけではない。当然、格闘戦が得意、というのも実戦を加味しての事。そちらのように、張子の虎を演じているわけではない」
売り言葉に買い言葉か。時雨は首肯して相手の言い草に納得する。
高木だけは一家言ありそうであったが時雨はあくまでも対等に、使命に忠実な仕官のやり口をやってのけなければならなかった。
「言いたい事は分かります。こちらの戦歴に、偽造でもあると」
高木が目を見開いた。そんな事、あるはずがない、とでも言うように。彼は翠に肩入れしている。だからこそ、彼女の戦歴を貶める事をよしとしない。
「准将、そのような事」
「そのような事、関係者の口から出ていいのですか?」
外交官の声に遮られた形になった高木は棒立ちになる。
時雨は余裕を崩さず応じた。
「無論、いけないでしょうね。こちらが弱気のように思われてしまう」
「……勝てる、とでも?」
「そう思わなければ受けていませんよ。言っておきますがモリビトは強い。幽鬼を十機近く退け、この帝都を守りきっている。その防衛成績を侮ってもらっては困る」
一転して攻勢に転じた時雨の強気に、相手は少しばかり気圧されたようだった。
調子を取り戻すように鼻を鳴らす。
「レッドウォーリアは勝ちます。それは揺るぎない」
「こちらも同じ気持ちだと言っているのです。国防を預かる人機開発、遅れを取っているとは思われたくない」
実際に戦うのは翠だが、彼女の戦いを前にして前哨戦で口負けしていたのでは話にならない。せめて舌鋒鋭く勝つ。その気概がなくては。
外交官は少しばかり熱くなったのを自覚したのか、一拍置いて口にする。
「……こちらには天才が付いています。彼の造ったレッドウォーリアは完璧です。人機という未曾有の領域に足を踏み入れるのに、彼以上の適任はいない」
「立花博士、でしたか」
その名前を紡ぐと外交官はさも誇り高そうに首肯した。
「プロフェッサータチバナ。彼は本物ですよ。本物の、天才です」
そこまで念を押すのだからそれなりなのだろう。伊勢が持ち帰ってきたレッドウォーリアの開発をほぼ一任された、という噂は間違っていなかったという事だ。
「こちらにも天才はいる」
「そこいらにいる有象無象とは格が違う。彼の設計図を理解するのに、まだ大国でも頭脳が足りていないと言わしめた、それほどのものです。ブルブラッドにいち早く着目し、それを最大限に活かす方法を提言したのも彼です」
「ファントム、でしたかな」
こちらの入手した移動方法の名を口にすると、外交官は口元を綻ばせた。
「そちらの人機には出来ないでしょう?」
「やった事がないので何とも。やる必要がないのかもしれませんが」
「ファントムを導き出し、それを可能にする操主。そちらと違うのは、こちらの操主は完全に、ファントムのための操主がいる事」
話に聞いていた上操主、下操主の存在か。
人機の上半身と下半身を受け持つ操主を分割する事によって、より高精度の操縦を可能にするという仮定だ。
「それは手強そうですな」
「片方だけでもいいのですが、今ならば便宜を図りますが?」
「いえ、両方揃ってもらって結構。こちらの操主は一人ですが、強いですよ」
「その余裕がいつまで続くのか、見物ではありますね」
外交官がそこで言葉を切った。ここでの言葉の応酬はとりあえずお終いという事だろう。
「お互いに最大限の健闘を」
時雨が手を差し出すと外交官は鼻を鳴らした。
「勝ちますよ。レッドウォーリアはね」
その言葉だけを部屋に居残して、外交官は出て行ってしまった。
「あちらも余裕があるようだな」
完全に気配が途絶えてから時雨は彷徨わせていた手を仕舞う。
「しかし、准将。上操主下操主の話が真実だとは」
「ああ、わたしも思わなかったが、それでより確信した」
時雨の言葉に高木は疑問を挟む。
「何をです?」
「あちらはこちらほど実戦を積んでいない」
その結論に高木は困惑する。
「何故、そのような……」
「上操主、下操主を最大限に活かす方法はファントムだろう。あれをやるためだけに下操主がいる、と相手はのたまった。だがそれは、幾度となく実践を経ているこちらからしていみればぬるい論法だ。任務の危険度を上げる事になる。加えて操主の熟練度不足にも繋がるだろう」
「……つまり、相手はファントム頼みの張り子だと?」
「そこまでは言わないさ。だがね、あくまでこの模擬戦での勝利を取る事にこだわっているだけだ。所詮、大局が見えていない。この後、どう人機を導入するべきか、そのような事は備わっていないんだ。それはあの外交官以外の、それこそ国の頭脳が決める事なのかもしれないが、まだまだ目先の事に目が行っている辺りが、ぬるい、と言うのだよ。相手は刀使いの事も、危険視する飛行型人機の存在も知らない」
「……未だ幽鬼の事を、別の大国の有する敵対兵器だと思っているのは」
「間違いではないだろうな。まぁある意味では身の潔白を示すための模擬戦だろう。レッドウォーリアを出す以上、こちらは関わっていない、という姿勢だ。諸外国への牽制の意味合いも強いのだろう」
「ならばなおさらに、勝てなければ」
「ああ、我が国の防衛への信用は地に墜ちると思ったほうがいい」
それほどまでの緊張に晒されていながら、時雨の興味は別にあった。
レッドウォーリアとの勝敗など、所詮は些事である。
「飛行型に関しての追加情報は?」
「依然、ありません。ここ数回の幽鬼出現時には、伴った殺人も見られない、というのは……」
「連中もこちらが勘付いている事に気づき始めたか。ならばなおさらだ。なおさら、奴らを闇から引っぺがす。そうでなければ、モリビトの意味がない」
「……ただ単に、幽鬼を迎撃せしめるだけではやはり」
「足りないな。この戦局を変えるのにはしかし、レッドウォーリアの導入もある種、起爆剤にはなるかもしれない」
時雨の考えを読み取って高木が声にする。
「レッドウォーリアが相手にとっての刺激になると?」
「少なくとも、人機が二機に増える。そうなれば困るのは相手側だ」
「動きがあるとお思いですか」
「なければ困るが、ほぼ確定だろう。二機の人機を相手に、まだ戦力を渋って幽鬼を出してくるか。それとも本丸が出てくるかは不明だが、これは今までのこう着状態を変える、新たな局面になるのは間違いない」
そのためならば何でも利用しよう。
レッドウォーリア、それにまだ見ぬ操主と天才開発者。
「彼らの足掻きが、後に意味がある事になるだろうからな」
帰ってくるなり整備班の人々は不機嫌だった。
何か、と口にしようとすると怒声が飛んで来た。
「また部外者か!」
山城の声音に翠は縮み上がってしまう。翠を認めて山城は後頭部を掻いた。
「何だ、坊ちゃんかよ」
「その、何かあったんですか? みんな不機嫌そうですけれど」
「観覧だってよ」
答えたのはモリビトを整備していたシゲである。
「観覧?」
「高官様のご観覧。そのせいで、整備が止まっちゃったんだよ。意味ないって話をしていたところで――」
「おい、シゲ! てめぇもくっちゃべってねぇで手ェ動かせ!」
山城の雷にシゲはすごすごと退散する。山城は格納庫から出て舌打ちした。
「どこの奴か知らねぇが、俺達のモリビト相手に吹かしやがったぜ。〝こっちの人機のほうが上だ〟とかなんだとかな」
こっちの人機、という言葉に翠は目を白黒させる。
「こっちって……軍部以外に人機開発を行っている部署なんてあるんですか?」
「他国だってよ。その国の開発した人機とこっちのモリビトで模擬戦だと。坊ちゃん、聞いてないのか?」
その段になって山城も辻褄が合わない事に気が付いたらしい。翠は首を横に振る。
「全然」
「そんじゃ、坊ちゃんには秘密のまま、か。まぁ、人機って言っても、このモリビト弐号を超える人機なんてそうそうあり得ねぇよ。なにせ、俺達整備班の血と汗の結晶だからな」
モリビト弐号は見た限りでは以前よりも増して整備に力が入っている。それもこれも連勝の結果だろう。
「その、クジラは……」
「うん? ああ、気になるのか。まぁ、俺達からしてみりゃ、解析不能の武器が右腕を占領している、ってのは気味が悪くって仕方がないが」
しかし翠からしてみれば命の恩人である。クジラは幾度となくモリビトを助けてきた。
「きっと、悪い存在じゃないんですよ」
「悪い存在じゃない、か。いざという時にモリビトに異常を来たすのだけは勘弁願うがな」
愛想笑いを返して翠は格納庫へと向かう。
クジラはモリビト弐号の右腕と接合しており、その青い体躯に生命の火が灯ってはいない。しかし翠には分かる。このクジラは生きているのだと。
「クジラ、見てもいいですか?」
整備中のシゲに尋ねると彼は渋い顔をした。
「いいけれど、分かんないな。どうしてそんなに気になるんだい?」
「一応は相棒みたいなものですから」
「相棒、か。操主の考えだって言うんじゃ異論は挟めないな」
開け放たれたモリビト弐号の操縦席へと潜り込もうとする。
その時、操縦席に座っている人影を目にした。
自分以外、操縦席には座ってはいけない不文律があるはずだ。整備班でも座る事は許されない。
誰だ、と窺うとぶつぶつと声が聞こえてきた。
「……これがスロットルレバー。それでこれがブレーキとアクセルか。整備は行き届いているが、やっぱりまだまだ技量不足だな。これじゃ機動性能の半分も満たしていない」
不遜な声音に翠は反感を覚えた。整備班のみんながせっかく仕上げてくれたモリビトを侮辱する人間は許せない。
操縦席に手を添えて怒鳴りつけてやろうと思ったその時、振り返った来たのは意外な顔であった。
「あれ? 変な数式の兄ちゃん」
「あの時の、子供……?」
昼間に会った少年がどうしてだかモリビトの操縦席に収まっていた。彼はお決まりの文句を口にする
「コドモ扱いするなって! ボクは立派な社会人だ」
「社会人って……。どういう理屈でここにいるんだ? だって軍人しか入れないはずじゃ」
「ああ、そうか。入る時にも色々言われたけれど、まだこの国は排他的だなぁ。ボクみたいなのを絶対に認めないでしょ?」
少年は額でサッカーボールをとんと突いて頭の上で転がす。その異様な真似が、馬鹿にしているようにしか映らなかった。
「ここは、整備班の人達が精一杯、仕上げてくれたところなんだ! 君みたいなのがいたら、そりゃみんな気を悪くするよ」
翠の声に少年は目をぱちくりさせていたが、やがて笑い出した。
その様子に、怒りがふつふつと湧いてくる。
「何がおかしい?」
「いや、だって変な数式の兄ちゃんさ、軍人みたいな事言うから」
「オレは軍人だ!」
返すと少年は首をひねる。
「そうは見えないけれどなぁ。何ていうか、軍人の数式じゃないんだ。軍人ってもっとこう、洗練されているものなんだけれど、兄ちゃん、本当に軍人? っていうか、まずさ。兄ちゃんは本当に男なの?」
痛いところを突かれて翠は口ごもる。この少年には何が分かっていると言うのだ。
「……大人をからかうもんじゃない」
「大人って、兄ちゃん、ボクよりちょっと年食っているだけで、あんまり立派な大人だとは思えないけれど。まぁ、この国じゃそういうもんなのかもしれない」
「降りてくれ! オレの操縦席だ!」
掴みかかろうとすると少年はするりとそれをかわす。
「兄ちゃんさ、この人機、いい子だよな。ボクがそこに座っても何にも言わない。でも妙なところもある。ちぐはぐなんだ、この人機そのものが」
何故、人機の名称を用いているのか。翠にはそのような疑問さえも埒外で、少年の奇抜さだけが際立った。
「……何が言いたい」
ただ腹立たしい。自分と、兄と、整備班のみんなが築き上げてきたものを、この少年は笑っているようで。
「いや、数式上はこういう人機に人の気配ってしないんだよ。そりゃ、ブルブラッドの気配はあるけれど、それだって異常だ。何かが、この人機に棲み付いている。そいつを制するのに、右腕のクジラが頑張っている感じかな」
クジラの事、それに棲み付いている、という言葉に翠は陰陽班から受けた言葉を思い返す。
――モリビト弐号怨。
怨霊が、このモリビトを動かしているのかもしれないという恐怖。
しかし翠はそのような可能性を振るい落とした。今は、彼の口車に乗っている場合ではない。
「分かった風な口を……」
「だって分かるし。ボクの眼は特別製でね」
少年が眼を指差す。どこを見ているのかまるで分からない眼差しだった。
「空間に数式が浮かんで見えるんだ。だからその数式に則っていない事が起きると、ちょっと奇妙に見える。兄ちゃんが男だって言い張っているのもそうだし、この人機もそうだ。カタログスペックと随分と違う。クジラもだけれど、これ自体が。何か、そういう存在を許しているみたいな気配がある。数式も、ね。その操縦席を覗き込んだ時、霞がかかったんだ。遮断しているみたいに」
操縦席、と翠が視線を移す。少年は操縦席を指差して忠告した。
「兄ちゃん、操主なのか。ここにいるって事は。じゃあ言っておくけれど、このモリビト、ちょっと変だよ。普通の人機じゃない。少なくとも、ボクの造った人機とは何かが違う」
普通の、という部分で翠の頭がようやく冷えてきた。それ以上に自分の造った、と彼は言ったのか。
「どういう意味? 子供の造れる代物じゃない」
「だからコドモ扱い……、まぁいいや。分からないんなら分からないままでもね。とは言っても、ボクの人機は強いよ。〝トウジャ〟はね」
「……トウジャ?」
「向こうではレッドウォーリアって呼んでいるんだけれど、ボクは和名がいい、って進言したんだ。まぁ頭の固い役人には聞き届けられなかったみたいだけれど。T型人型特殊才能機、史上初の二脚型……っていう言い方はまぁ、実のところ正しくないんだけれど、便宜上は、ね。トウジャ、正式名称レッドウォーリアは強いよ。このモリビトと戦うのはいささか不安だけれど楽しみでもある」
「戦う? どういう事?」
自分は何も聞いていない。それを察知したのか少年は胡乱そうな眼を注いだ。
「……本当に操主? 何にも知らないでレッドウォーリアに勝つのは無理だよ? だってさ、機動性能が違うもん。あっちは脚があるけれどこっちには脚がない。レールを食むだけの簡単装備。あとはキャタピラか。スマートとは言えないね。それで対応出来る辺り、この国に巣食う幽鬼とやらも、それほど強くないと見える」
翠は掴みかかっていた。今までの自分を――何よりも戦死した兄を侮辱していると思ったからだ。
「幽鬼との戦いを嘗めないでくれ」
詰めた声に本気だと察したのだろう。少年はぷっと吹き出した。
「本気になっちゃった? まぁ、ボクの言い方が悪かったかもしれない。でも、もうその心配ないんじゃないかな。だってレッドウォーリアが勝てば、この国の人機開発は全部、大国持ちだ」
聞いていない事だらけだった。困惑する翠に少年は畳み掛ける。
「もしかして、今のも知らなかった?」
「モリビトは、負けない」
発した抗弁にも少年は心を乱される事もない。余裕しゃくしゃくで翠の手をすり抜ける。
「負けないって言うのは簡単だよ。でもやるのとは大違い。あっちの操主が勝っているとは言わないけれどさ、こんな人機じゃファントムも出来やしない。そんなんで、対人機戦闘が可能なのか、って話だよ」
分からぬ事だらけであったが、ここで言い返さなければならないと感じていた。そうでなければ、自分は勝負せずして負けを認めてしまうようなものだ。
「オレとモリビトは、絶対に、そのレッドウォーリアとやらに勝つ」
その意気込みに少年は、ふぅんと品定めの視線を送る。
「やる気があるのはいいけれど、機動力のない人機じゃ不利だと思うな。ボール、そんなに保持出来ないでしょ?」
彼の示したのは頭上のサッカーボールだった。模擬戦の方式も分からぬ中、戦おうとしているのだ。
「どんな場合であれ、オレとモリビトは負けない」
「そうこなくっちゃね。潰し甲斐がない。正直、この国の操主ってどんなのなのかな、って興味があったんだ。向こうはやってやる、って感じのやつばかりだったけれど、うん、悪くない。兄ちゃんみたいな変な操主がいても、おかしくはない」
少年は踊るように身を翻し、一言だけ残していった。
「名乗っておくよ、兄ちゃん。ボクの名前は立花相指。向こうじゃプロフェッサーだなんておだてられているけれど、人機開発を命じられた若きホープ、立花相指だ。そこのところ、ヨロシク」
相指と名乗った少年は立ち去っていく。翠は最後までその少年の背中から目を離さなかった。