ジンキ・エクステンド 翠聖の翼   作:オンドゥル大使

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最終話「未来という名の答え」

 目を覚ますと、まず何があったのかを説明された。

 

 謎の飛翔型人機はずっと軍部が追っていたものであり、それを撃退せしめた事は賞賛に値する、と言われたが翠は身一つの自分に恥らうばかりであった。

 

 もう、男だと偽る必要もなく、降りてきた時点でばれていたらしい。一部の人々には既に分かっていたらしく妙に得心された。

 

 相指は遠い眼差しをして呟いた。

 

「ボク、いずれあの人機を造ってみたい。一度自分がなったんだ。絶対に造れるさ」

 

 どうやら大きな夢を抱いたようだ。

 

 翠は、というと時雨の命令によって軍を除籍された。

 

 幽鬼はもう出現しない、と最後に言付けておいたが何人が信じただろう。実際、あの後幽鬼は現れていないらしい。

 

 その後、大戦があった。

 

 人が大勢死に、多くの人命が失われた。

 

 一度モリビトを通して見たとは言ってもやはり衝撃は大きかった。

 

 何人かが、あの戦争で死んでいったのだと聞いている。

 

 翠は、相指の口ぞえで大国での戸籍を得ていた。

 

 相指はいつも何かを造るのに躍起になっており、その眼にはあの日見た人機の姿があるのだと知れた。

 

 長い、月日が流れた――。そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完成しましたか。立花博士」

 

 ベネズエラ政府の高官の声に相指はひとまず、と区切りをつけた。

 

「ワシが出来るのはここまでだとて。どれだけ技術を集めても、あの日の人機には届かんな」

 

「その人機とやら、人型特殊才能機の略称らしいですね。博士が名付けられたんで?」

 

「いいや……、でもまぁ、そういう事でいいか。この形になるべくしてなったんじゃと、思うよ、のう――」

 

 振り向けた目線の先には灰色の人機の姿があった。逞しい二脚型の人機で、両肩には飛翔を保持する大出力ラジエーターがつけられている。これでも随分とあの人機に近付けたつもりだったが、ベネズエラ軍部の方針で相当悪趣味な配色になってしまった。本当は青がよかったのに、灰色と赤だ。

 

「まぁ、色には文句はつけまい。モリビト一号」

 

 あの日、自分を空の彼方まで運んでくれた人機の名前を、相指は決して忘れていなかった。

 

「相応しい操主を用意しますよ」

 

「そこに関しては一任する。ワシは一度、家族の顔を見に帰らなきゃならんからな」

 

「奥方でしたか。もう随分とご高齢のようですが」

 

「あれでもくたばらんさ。孫の顔は見る! と躍起になっておるからな」

 

 毒づいて相指は帰りの車に乗り込んだ。

 

 軍部がどう使うのかは知らないがきっとよく計らってくれるはずだ。

 

 残しておいたトウジャタイプのデータも懸念事項としてはあったが今の技術では骨格だけで精一杯だろう。

 

「さしずめ、トウジャCXか。あの機体のデータも欲しいところだけれどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と、長い夢を見ていた気分であった。

 

 揺籃の時から覚めたように、少しだけ意識の幕を剥がす。

 

 皺くちゃになってしまった指先があの日々のように手の内側にまめを生じさせていた。

 

 相指がその手を引く。

 

「ワシが居らんと何も出来んの」

 

「放っておいてちょうだいよ」

 

「放っておけるか。あの日、ワシを空に飛ばしてくれた事、まだ忘れとらんからな」

 

「未練がましいわね」

 

 お互いに貶し合いつつも、どこかで心の底では繋がっていた。

 

 故郷に帰る事は叶わなかった。しかし今は、守るべき明日を切り拓いた自負と、その証明がある。

 

「名前、あたしがつけたの、いいかしら」

 

 孫の名前だ。その言葉に相指は首肯する。

 

「お前がつけたんなら、文句はないじゃろ」

 

「――エルニィ。この地で育つ子供だから、英名がいいと思って」

 

「エルニィ、か。お前さんに似て、聞かん坊になるかな」

 

「あなたに似て、変に興味本位になるかもしれない」

 

 笑い合い、たった一言、添えた。

 

「この場所に来るために、あたし、生きてきたのね」

 

 網膜の裏に焼きついたのは命の大河である。もう目の前に迫っていた。

 

「……もうお別れか」

 

 相指もある程度理解しているのだろう。自分と同じようにあの日、命の還る場所を目にしたはずだ。

 

「ええ。いい出会いに恵まれた、人生だった」

 

「後で精一杯、追いかけてやるわ」

 

 相指の憎まれ口も今は愛おしい。

 

 彼女はただ一つ、この人生を評した。

 

「――未来と言う名の答えを得た。それだけで、今はいい」

 

 目を瞑ると兄が命の大河を渡っていた。

 

 人機や、幽鬼と呼ばれていた物体達が流れていく。光の向こうへ。

 

 彼女もそれに従って飛んでいった。

 

 翼が生えたように身体が軽い。

 

 いつかこの惑星が終わるその日まで。続いていく生命の河は、無限大の光を湛えていた。

 

 

 

 

 

 ジンキ・エクステンド 翠聖の翼 完

 





 あとがき

 拙作『ジンキ・エクステンド 翠聖の翼』を読んでいただき、ありがとうございます。
 ここでは自分が何故、ジンキ二次というなかなかにマイナージャンルに首を突っ込んだのかというものを書き綴って生きたいと思います。
 そもそも綱島先生のジンキに出会ったのは中学生の時。
 ちょうどアニメがやっていた時でした。美少女と同じくらい書き込みがされたロボットに深く感銘を受け、それ以来ファンに。
 ジンキをずっと追いかけ、追い続け、その結果、二次創作を一回くらいはやってみたいと思い立ちました。
 本編で語られていない、あるいは説明不足だった部分を補足すると。
「日下部翠の正体はジンキ・エクステンドにおけるエルニィ・立花の祖母である」
「真機、モリビト弐号エクステンドを基として造られたのが戦闘用ジンキ、後の黒将が駆るモリビト一号である」
「刀使いと複座操主はジンキ・エクステンド世界線においてコピーされたエルニィの量産型である」
「キリビト燕は型落ちしたキリビトのハイアルファー人機である」
――事くらいでしょうか。
 大正時代の時代考察に関してはそこで調べものをし過ぎてしまうと、リアリティを突き詰めるあまり恐らく作品として纏らないであろうと思ったのであえてあまり深くは追求しませんでした。
 一応、綱島先生の作品に最大限の敬意を払い「ハイアルファー」「真機」「エクステンド化」は絶対入れたいと思って作った本作でしたが、うまくいったのかそうではなかったのかは自分でもよく分かっていません。
 あるいはこれから分かるのかもしれませんが、それも微妙かも……。
 とにかく、これが書き終えられて自分ではほっとしております。
 あとがきが本編終了より大分時間がかかってしまったことを深くお詫びすると共に、ジンキ・エクステンドという作品がこれから先もよりよく続いていく事を願って、一ファンとして応援していこうと思います。
 ありがとうございました。

2016年12月30日 オンドゥル大使より
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