感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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セーラー服の子供

 

 大男とリスベットが床の崩れに巻き込まれて消えた今、チェシャだけが二階の廊下に座り込んでいた。すぐ彼女の無事を確かめに穴に飛び込むことを考えるが、大男が出現する前の目的を思い出し、ヘリコプターの横の歪んだ扉を見る。リスベットの体当たりのおかげでどうにかこじ開けられそうだ。

 大男の攻撃で痛む体をなんとか起こし、その扉の前に移動する。両手で押して隙間を作るが、猫の自分が通れても普通の人間は通れそうにない。人を連れて戻ることを考えるなら歪んた扉を破壊した方がいいだろう。

 一歩下がり、瞬発力を活かして突進した。が、戦闘後の体に激痛が走り、扉に変化はない。リスベットだから動かせる程度に崩せたかもしれない。そう思いながら特に扉にぶつけた肩を押さえ、リスベットの下に行こうと床に空いた穴に飛び込もうとした。

 

「チェシャ!」

 

 誰かの呼び声に振り向くと、S.T.A.R.S.のオフィスに置いていってしまったクレアが駆け寄る。

 

「勝手に走って行かないで。いくらあなたでも無事でいられる保証がないわ」

「……すまにゃい。今度からは気をつけるにゃ」

 

 彼女に謝る時に何かを持っているのが目に入り、指差して尋ねる。

 

「それは?」

「プラスチック爆弾よ。押収物倉庫に保管されてた物を何かに使えないかと持ってきたの。信管も一階のオフィスで見つけたわ」

「一階のオフィス……マービンが鍵をかけたはずにゃ」

「……彼がかけてない扉から入ったけど、もう」

 

 彼女の表情と言葉で彼はもうこの世にいないと察した。ゾンビではなく人として死んだことを願いながらチェシャは突進したばかりの扉に視線を移し、クレアに聞く。

 

「それの使い方は知っているのにゃ?」

「ええ。こういうのは粘土のような爆弾に信管を埋め込み、離れてから爆発させるって兄さんが」

「……君の兄さんは心配性だにゃ」

 

 そう呆れながらも彼女に任せた。例の扉から離れた場所にチェシャは待機し、クレアの行動を見守る。信管を埋めた爆弾を扉に貼り付け、チェシャの下に移動してスイッチを押した。

 大きな揺れと同時に爆発音が鳴り響く。思わず両耳を塞ぎ忘れたことを後悔するチェシャはクレアと共に角から顔を出して確認する。扉が綺麗な爆破され、塞がれていた通路が姿を現した。

 

「派手にやったにゃ」

「まさかここまでの威力があったなんて。あの廊下も安全だと言えないわ」

 

 チェシャが前を歩いて新たな通路の床にダメージがないかを確認し、クレアに伝えて歩かせる。廊下の先にあるドアにたどり着き、取っ手を握り開けようとした時にクレアが止める。

 

「待って。もしも人がいたらチェシャを見てパニックを起こすかもしれない。それに……」

 

 取り出した一つの書類を渡されて、それに目を通した。

 

――

 連邦警察局・内務調査報告書

 

 ラクーンシティ警察署 『S.T.A.R.S.』隊員 クリス・レッドフィールド殿

 

 貴殿より依頼があった件につき、内偵した結果、以下のことが判明した。

 

(1)アンブレラ社が極秘に開発中のGウイルスについて

 現在のところ、Gウイルスなるものが存在するかどうかは判明せず。引き続き内偵を続ける。

 

(2)ラクーンシティ警察署長 ブライアン・アイアンズについて

 署長ブライアン・アイアンズは、過去五年間に渡り、アンブレラ社から、多額の賄賂を受け取っていた疑惑あり。おそらくアンブレラ社が引き起こしたと思われる洋館事件及び数々の不審な事件のもみ消し工作に一役買っていたと考えられる。

 また署長は、大学時代、二度に渡り女子学生に乱暴を働いた疑いがあり、精神鑑定を受けたが、成績優秀のため不問に付されている。

 

 以上のことから、今後は十分に注意をして行動されたし。

 

 合衆国連邦警察局内務調査室課長 ジャック・ハミルトン

――

 

 あの署長……アンブレラ社に勤めている孫から連絡が来ないので警察に相談しに来た時に署長が話を聞かずに私を追い払った記憶はあるが、こういうことだったのか。洋館事件から生還したクリスたちの話を信じなかったのも署長の妨害によるものだな。

 署長に対する怒りが強まったが、今更この報告書を見せたのかが気になった。

 

「あんにゃ署長がどうかしたのにゃ」

「さっき地図を見たけど、この扉の向こうが署長室なの。必ずいるとは思わないけど、仮にブライアン署長がいたらあなたを殺すつもりよ。チェシャはこの近くに隠れて、私一人が調べに行くわ」

「待つにゃ。この報告書には女子学生に乱暴してたと書いてあったにゃ。あの無礼者に君を行かせるわけには行かにゃい」

「大丈夫よ。兄さんから護衛術を教えてもらったし、十分な武器も持っているから平気だわ」

 

 ……確かにグレネードランチャーならあの署長も手出ししないだろう。クレアの提案をのみ、廊下の陰に身を潜める。

 怪物が襲撃して来ないか警戒しながらもリボルバーを回転させて退屈しのぎをする。数分間が経ち、彼女一人で行かせたのは間違いだったのかという焦りが募り始め、署長室に突入しようと考え始めた時だった。

 その部屋に続く廊下に誰かが飛び出した。チェシャの半分程の背丈のそれは見覚えがある。クレアと別れるきっかけであるセーラー服の少女だ。猫の姿を見た少女が一瞬怯えるのを見て、チェシャはため息をつく。署長ではなくとも、今の私を見れば誰だってそういう反応をするだろうな。

 しかし、少女は近寄らないが逃げ出そうとせず呼んだ。

 

「もしかして……チェシャ?」

 

 予想外の反応に驚くが、頷いて答える。

 

「そうだが、どうして逃げにゃいにゃ?」

「クレアが言ってたの、言葉を喋れる優しい年寄り猫さんがいるって。本当にいたんだ」

 

 もっとまともな説明をしなかったのかいと思いながらも、この子がいたはずの部屋に行ったクレアのことを尋ねる。

 

「そのクレアはどうしたにゃ? 一緒じゃにゃかったのか?」

「化物がやってくる……ゾンビより大きい化物が私を探してるの! さっき聞こえたの、早く逃げないと――」

「待て。逃げたい気持ちはわかるが、何も考えず逃げ続けると危険にゃ目に合うにゃ。今は私とクレアと一緒にいにゃさい」

「でも、パパとママもここのどこかに……」

 

 なんとか説得しているとクレアも署長室から出てきた。少女の姿を見て安心した彼女は駆け寄り、チェシャに感謝する。

 

「ありがとう、シェリーを止めてくれて。危ない目に合わせるところだったわ」

「シェリー……にゃ。いい名前じゃにゃいか。どうしてこの子が警察署に?」

「両親に言われてここに避難したの。きっと安全だと思ってたけど、もう危険な場所よ。ところで署長に会わなかった?」

「いや……この子と君が部屋から出たのは見たが、署長は出てこにゃかったにゃ」

 

 それを聞いたクレアが驚いた。彼女からの詳しい話によると、シェリーに出会う前に署長と会っていたらしい。市長の娘の死体を机に置く、それがゾンビになるのを防ぐための対策を自慢げに説明する、部屋に飾られていた剥製を見せつけるなど、報告書に書かれていた問題ある人物に間違いない。

 その後、謎の怪物の咆哮を聞いて走り出すシェリーをクレアが追ったが、先ほどいたはずの署長が死体と共に消えたらしい。

 

「……ブライアン署長のことも気になるけど、ハートの形をした鍵を見つけたわ。これで一階の扉を開けるかもしれない」

「そうか。シェリー……だにゃ? パパとママを見つけるまでは私たちと一緒にいた方が安全にゃ」

「でも化物が……」

「大丈夫にゃ。下には強いドラゴンもいるし、いざとにゃったら化け猫のチェシャがやっつけるにゃ」

 

 とはいえ、あの大男には苦戦したがな……

 子供を失望させないよう口に出さず、シェリー、クレアと共に一階に向かうのだった。

 

 

to be continued




 どうも影絵師です。

 バイオハザード7を楽しんでいますか? シリーズ始め頃にあったホラー並で常に心臓の鼓動が激しくなりました。動物的なクリーチャーを期待してたのですが、それはもう出たのでいいとしましょう。でもまさか公式で自我ありのやつが出るとは……
 余談ですが、健全じゃない方の作品のネタがもう……竜×猫の続きは時間的に合わないし、流石に今回出てきた子を襲うのも……(書かないとは書いてない)
 それでは次回もお楽しみに。

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