最初は冷たい感じがしますが、最後は少し心が温まると思います。
文全体を芥川風にしました。是非読んでみてください。
雨がどうどうと降る中、その老人は一人西洋屋敷の門の前に佇んでいた。使いの者が屋敷の門の方に声をかけると、中から女中が出てきて、丁寧に二人を案内する。通された間でしばらく待っていると、ここの主人らしき男が勢いよくドアを開けて入ってきた。
「やあ、これはまた、こんな遠くまでどうも。」
老人は、自分よりもいくつか若い知人に、「私の家に来ませんか。おもしろいものがあるのです。」と聞かされていた。特に断る理由もなく、その二週間後に彼の邸宅を訪れることにした。
「私の方も、お招きいただきありがとうございます。」老人も礼を述べる。その間も老人の使いは静かに直立していた。二人は茶を飲みながら少し世間話をした後、男が話していた「おもしろいもの」を見に地下室へ歩みを進めることにした。遠くで雷が聞こえた。雨脚もまだ強いらしい。雨がしきりに窓を叩いていた。
そこには片手を鎖につながれ、大きな牢屋に入れられた十二三の女がいた。その女は体中汚れていて、服もぼろぼろだった。よく見ると、少し震えているようだ。老人はこの光景を見た一瞬、自然と自分の顔が曇るのを感じた。「道で飢え死にしそうになっていたのを拾ってやったのです。」と男は言う。「この女は犬同然、いや、それ以下の存在なのです。私のおかげて生きながらえている身、私の言うことなら何でも聞くのです。」さらに男は得意げにそう続けた。老人は男が話す間も静かに女を眺めながらその声に耳を傾けていた。
「これ女。ちょいとこの方に芸を見せてみよ。」男がそういうと、女はよろよろの体を起こしながら、男の言われたままに体を動かしていく。どこで覚えたのかも知らぬ俗世の話、動物の真似、しまいには男の言われるままに☓☓☓☓までしだした。老人はただただそれを冷たい表情で眺めていた。
ふと、老人が声を発する。「この牢屋の鍵はどこにあるのですか。」男は少し驚いた様子を見せ、不思議そうに答えた。「上の私の部屋に御座いますが。」「ならば、その鍵をここへ持って来てはくれませんか。」老人は冷たい表情のまま再び質問を投げかけた。男は女中に鍵を持ってくるよう指示した。
女中が戻ってくると、老人は使いに牢屋と手錠の錠を解くように指示した。男があっけにとられている間にも、女は使いに手を取られ、牢屋の外に出てきた。「私はこの下種女を私の娘にしようと思います。言い値で買い取りたいと思うので、いくらがよろしいでしょうか。」老人は冷たい表情で男に問うた。「なんでまたそのような女を。あなたも物好きだ。」男は冷ややかな微笑を老人と女とに向けた。「いいでしょう。〇〇円でいかがですか。」それは人間一人を買うには安すぎる値段だった。「いいでしょう。では、それで。」老人は使いに約束通りの金を渡すよう命じた。
「では私はこれで。」老人は別れの挨拶も早々に、屋敷の門をくぐった。娘は心配そうに老人を見上げた。老人はこの屋敷に来てから一番の笑顔をその娘に向けた。「さあ、行くがよい。もうあんなものに捕まるな。」娘は驚いたような、嬉しいような、複雑な表情を一瞬見せた後、何かを覚悟した顔を老人に向けた。そしてちょいと頭を下げたかと思うと、後ろも振り返らず一目散に走っていった。老人は、その間もその娘の後姿を実の父親のように穏やかな眼で眺め続けていた。
雨はいつの間にか上がり、少し青空が見え始めていた。