詰みから始めるD×D   作:神榛 紡

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プロローグっぽい何か

 ハイスクール D×Dの兵藤一誠に転生と聞いて思ったのは「あ、詰んだ」である。

 いや、特典はあるのだが、転生先を知る前に決めさせられたし、そもそも俺は原作を魔王会議だかまでしか知らないのだ。

 いや、それしか知らないのにどうして詰んだなんて思うのかとツッコまれるかもしれないが、英雄派だのグレードレッドだのウロボロスだのと化け物染みたっていうか、世界良く滅ばないなってレベルの化け物がゴロゴロしてるような世界だというのは又聞きであるものの聞いているし、二次創作も多少読んでいる。

 ウロボロスドラゴンを名乗る最強幼女が序盤で仲間になるようなご都合主義が起きるような主人公属性は持っていないし、ぶっちゃけ三つある特典も一つを除いて戦闘じゃ役に立たないし、その特典も直接戦闘力が上がるような物でもない。

 いや、まあ、それだけならチート皆無の主人公がどうにかできたんだから大丈夫じゃないかとも思うのだが、俺が転生した結果発生する、決定的にどうしようもない問題が一つあるのだ。

 

 

 悪魔に転生できないという、最悪かつ最凶の問題が。

 

 

 思い出して欲しい。一誠は赤龍帝の籠手が未覚醒かつ死亡した状態でポーン八個を消費して初めて転生できたという事実を。

 その後の活躍からして、赤龍帝だけでなく、一誠本人の潜在的価値も込みでポーン八個と考えても、平凡な自分だけだったならおそらく赤龍帝込みでもポーンの駒が一つ二つは余るだろう。だが、そこに特典であるチートをドンと足せば、多分、赤龍帝の籠手が無くても足りないほどに跳ね上がる。

 どうしてそんな事になるかという質問に答えるためにも、チートを公開しよう。

 特典は三つ。

 

 万物快食:具体的にはたとえ毒だろうが食べられるように調理できる技能、あるいは能力を所望した結果与えられたスキル。毒でも土でも何でも食べれるようになるらしい。ほら、これならもし狩人×狩人の流星街みたいなとこで生活するはめになっても大丈夫だし、まともな食料が手に入らないような世界に行っても大丈夫だろ?

 うん。なんで調理のスキルを欲しがったのになんでも食べれるスキルなんだろうな。

 

 万象調整:どんな所でも、どんな環境でも生きていけるように適応する能力を欲しがったらこれになった。まあ、読んで字の如く、どんな環境だろうと快適な状態へと無理矢理調整する能力。ぶっちゃけ、湿度諸々の調整ができる見えないエアコンだと思う。悪くない能力なのだが、この納得できない感じを分かってもらえると嬉しい。

 

 物理無効:戦闘に使えるっぽい唯一の能力。攻撃無効化を要求したのに何故か物理のみに限定された上に使うとこっちの物理攻撃も無効化されるという欠陥しかない能力。これで十分とか言われたが、魔法ある時点で十分じゃない。

 上手くオンオフできれば有用だけれども、戦闘の才能が無いとろくに使えない。そして一誠はろくに魔力も無いから魔法攻撃できるのは相手だけという鬼畜仕様に早代わりする。

 

 特典を改めて見るとホント酷い。曲解のせいで俺が負けないのって物理オンリーの子猫だけじゃね?

 唯一便りにできそうなのは赤龍帝の籠手だけだが、それだって倍化という単調な能力であり、譲渡も仲間がいなければ役に立たない。その上倍化自体もかなり簡単に解けるというか、一発ぶっ放して終了とか役に立たない。

 しかも悪魔に転生できないから人間のスペックそのままという悪夢であり、バトル物だった以上、原作の敵キャラをどうにかしないと世界終了のお知らせとなりかねない。

 アーシアはまだ連中の内情をチクるなり、レイナーレにそれじゃ怒りを買うだけだと理解させればどうにかならない事もないだろうが、このまま行くとメインヒロインの強制結婚から紫藤イリナとゼノヴィアの死亡、その後の三大勢力の会談はそれ自体が成るか否か分からなくなる。

 焼き鳥は好かないが死ぬ訳じゃないし、何かできる訳でもないから仕方ないとして、イリナとゼノヴィアも人の身で聖剣持ちの神父+コカビエルに挑めるような戦闘能力は持ってない。白龍皇の完璧超人の戦闘狂なんて瞬殺される未来しか見えない。それ以降は作品がドラゴンボール並のインフレ物と聞いている以上、期待なんてできないだろう。

 

 ……二巻目以降全部詰み状態って斬新だな、おい。

 

 龍の力による因果とかを考えると赤龍帝の籠手を目覚めさせて訓練なんてできないし、鍛えはするものの、人間の域を出ないどころか、魔力がほぼゼロな以上、一般人の域からまず出れない。

 力が無いなら柔術やら合気が鉄板だが、魔力無しに化け物共もポンポン投げ飛ばせるようなセンスがあれば詰んだなんて話にならないだろう。

 

 「改めて考えると笑えてくるな」

 「どうした、イッセー。思い出し笑いか?」

 「あー、まあ、そんなとこ。気にするな」

 

 怪訝そうにこちらを覗き込んで来た原作の変態三人組の一人、元浜に軽く手を振って、俺は校舎を見る。

 なんとなく原作の友人二人を変態化の道から救い上げてつるんでいるが、原作と違って体を鍛える事に重点を置いている俺と二人の関係はとりあえず一緒にいる程度のものだ。原作通りに駒王学園に進学したが、別の学校に行っていたら、きっと縁はそこで途切れていたと思う。

 二年の進級した初日。校舎を見ても赤毛の先輩など見えようはずもないが、それでもたまに原作キャラと思しき人物を見かける事ができる。それは匙らしき男子を連れた生徒会長であったり、女子生徒に囲まれた木場だったりとその時々だが、ここがアノ世界だと再確認するには十分な話だ。

 これからしばらくして、原作が始まる訳だが、レイナーレは来るだろうか。

 高校生に探偵みたいな調査員を雇う金は無いが、町外れの廃教会でオカルト染みた噂が出始めたから、誰かが来てるのは間違いないだろう。できれば、原作通りにレイナーレが来てくれている事を祈るだけだ。

 

 「あ、子猫ちゃん発見」

 「ん? あのちみっこか。こないだはグレモリー先輩を見ていたと思ったら今度は搭城子猫とか、守備範囲広すぎだろ」

 「別に守備範囲って訳じゃないんだが、一応あれでも一個しか違わないと擁護はしておこう」

 

 グラウンドを挟んでさらにその先にいるあのロリっこに聞こえているとは思わないが、万一こんな話をしていたと知られた時の反応が怖いので擁護しておく。

 にしても、マジでちっこい上に童顔で、小学生と言われても全く違和感の無い彼女にすら発情する原作主人公の守備範囲には驚かされる。

 

 「あれで高校生とかビックリだよな。十六から法律上は結婚出来るけど、普通に高校生と結婚するよりも犯罪臭半端無いぞ」

 「ふむ。それこそ合法ロリとかいう奴なんだろう。ロリコン大歓喜だな」

 「最近だと、小学生でも非処女とか普通にいるらしいけどな。あんなあどけない顔で非処女だったら割と発狂物じゃないか?」

 「いや、だが、彼女が所属しているらしいオカルト研究部は男が木場しかいないらしいし、ありえるんじゃないか?」

 「一応、男はもう一人いるぞ。どっちかと言えばそっちの方が仲がいいって聞いたけどな」

 

 女装男子な吸血鬼を脳裏に思い浮かべつつ、くだらない話をする。この程度でも絵に描いたような女子校だったここの女子生徒からは嫌悪される内容だが、近くには別に誰もいないし、たまには男同士でくだらない話をしてだべらないとやってられない。

 去年一年なんか、木場みたいな例外を除けばパンダ状態だったからな。

 

 「マジかよ。情報源は?」

 「グレモリー先輩の同級生から聞いた。まあ、その当人は不登校の引きこもりで、一度も学校来た事ないって話だけどな」

 「……部室の場所が不明な事といい、オカルト研究部って、それ自体がなんかオカルトの塊だよな」

 「まあ、そこは同意する」

 

 部員がそもそも全員悪魔だしな。生徒会もそうだが、完全無欠のオカルト集団だ。

 もうしばらくすれば、堕天使の総督や戦乙女まで集まってくるようになるかもしれない。原作とは全く違う方向に行っているのに同じように集まってきたのなら、この町、あるいはこの学園は特異点と呼んだ方がいいな。

 そんな風にふざけても、本当のところは赤龍帝の籠手に宿るドライグの因子が原因だって事くらいは分かっている。それでも、神器を目覚めさせていない今はまだ平和だ。先を憂うよりもそれを甘受すべきだろう。

 そんな風に考えていたから、油断していたのかもしれない。

 

 「面白い話をしてるわね」

 

 聞こえた声に、即座に反応して飛び上がり、背後へと振り返った。同時、重要人物がこんな近くへ来るまで気付かなかった事に、冷や汗が頬を伝う。

 そこにいたのは、〝騎士〟と〝女王〟を引き連れた赤髪の〝王〟リアス・グレモリー。原作メインヒロインにして、魔王の妹、聞きかじりでしかないが、破滅だか破壊だかの厨二病そのものな魔力性質を持つ怪物、いや、悪魔。

 その姿は余裕たっぷりで、優雅であり、今の俺では決して勝てない力を秘めているとは思えないほどに美しい。

 斜め後ろに立つ姫島朱乃も、ソーナ・シトリーもそうだが、こういう桁の違う美貌を見ると、人ではないという事に強く納得してしまう。それほどに、美貌を含めた魅力というモノが人間離れしている。

 

 「あー、先輩方の部活を話のネタにした事は謝罪します。ただ、馬鹿にした訳ではない事はご理解いただけると嬉しいのですが」

 「あら、別にそんな程度の事で怒るほど狭量ではないわよ」

 

 原作ではなかった、レイナーレが現れる前の接触。イレギュラー過ぎる事態に混乱と困惑を押し殺し、表面上は普通に見えるよう振舞う。見破られているだろうが、それでも建前は重要だ。

 建前でごり押しして退散する心積もり。だが、現実はそんな思惑通りに進む訳が無い。

 

 「そんな事より、あなた、オカルトに興味は無い?」

 「えっ」

 

 信じたくは無いが、今、俺はオカルト研究部に誘われたらしい。そぐそこで元浜が唖然としているが、それ以上に俺は混乱している。混乱せざるを得ない。

 ここで付いていったとして、十中八九悪魔に転生などできないが、それでも悪魔側に取り込まれたと思われたらどうなるか。おそらく、堕天使側は最初から殺しに来るか、接触しないかの二択になるだろう。

 前者ならばまだレイナーレが来る可能性はある。原作でのレイナーレの派遣は、おそらく神器持ちの勧誘を任せられている堕天使が、この町の危険度故に切って捨てても惜しくない手駒を送ったのだろうと思われるからだ。だからこそ勧誘せずに殺しに掛かるような輩が選ばれてしまった。

 誤算は、原作一誠がすでにグレモリーの興味を惹いていた事と、レイナーレが貴重な回復系神器を簒奪するために策を(ろう)していたことだろう。それによって、一誠は悪魔とって堕天使相手の戦闘経験を積み、強力な回復系神器を持つアーシアが悪魔陣営へと移籍する結果となった。

 もしレイナーレが来るならば、ここで付いていっても問題は無い。俺以外にイレギュラーが存在しないという前提だが、レイナーレが来たならば、確実にアーシアも付いてくる。余計な外道神父モドキも付いてくるが、あれは物理専門だったはずだから脅威ではない。

 だがもし来なかったら――

 

 「もしもし? 聞こえてる?」

 「ふぇなぎゃっ!」

 

 舌噛んだ。

 突発的なイレギュラーに考え込んでたせいで、目の前にリアス・グレモリーの顔があって、驚いて距離を取ろうとしたが舌を噛んでしまったせいで転び、思い切り頭から倒れてしまう。

 目の前がチカチカするし、口の中は血の味がする上にズキズキと鈍い痛みを発していてかなり辛い。

 

 「あらあら、これは大変ですね。手当てする必要がございますわ」

 「……そうね。木場、部室まで彼を運んで手当てしてあげて」

 「ひは、はいほうふへふっ!」

 

 大丈夫だとアピールしようとしたら、信じられない速度で近付いてきた木場に抱え上げられた。

 お姫様抱っこで。

 当然暴れるが、想定以上に木場の力が強く、ビクともしない。こいつでこれだったら塔城子猫はどれだけなのかと戦慄している内に、それこそ人前でそんな速度を出していいのかというスピードで旧校舎へと連れ去られてしまった。

 しかも、リアス・グレモリーと姫島朱乃はのんびりと歩いて追いかけるそぶりすら見せなかったせいで、道中目撃されたのは木場にお姫様抱っこされて連れ去られる俺という絵図。悲鳴と腐りきった歓声が轟いたが、木場がまるで興味も向けずに通過した結果、晒された時間が短かったのは幸いと言うべきか。

 いや、原因に感謝するのは間違ってるだろう。というか、もう原作とか未来の脅威とか関係無しに神器出してこいつのどてっぱらに全力ぶちこみたくなった。

 やらないけど。というか、悪魔でもないのにドラゴンの因子の脅威に晒されたら間違いなく死ぬ。

 

 「いい加減降ろせ」

 「そうだね。僕は舌に塗れるような薬を探してくるよ。塔城さん、ちょっとここで兵藤君が動かないように抑えててもらえるかな。頭を打ってるから、安静にしとかないと」

 「……了解しました。けど、頭を打ったなら、普通は動かさないものだと思います」

 「後輩に激しく同意だ。あと、なんで名乗ってもいないのに名前を知ってる」

 「部長が言ってたからね。有望な人材を見つけたからって勧誘に行くところだったんだよ」

 

 個人情報保護法って言っても意味ないんだろうな。使い魔使って見張られてます、なんて言ってもただの電波野郎だし、映像なり写真なりで証拠を揃えても捏造扱いかもみ消されるかだろうな。

 それにしても、さすが戦車と言うべきか、ソファの上に寝かされた俺の胸に、ちょん、と小さな手が置かれているだけに見えるのだが、まるでビクともしない。額を抑えられると立ち上がれないと言うが、起き上がるのに障害になりそうにもない小さな手が、まるで鋼鉄で出来た拘束具のようだ。

 こんなに柔らかいのに、不思議なものである。

 

 「有能ねぇ。こんな見た目小学生に押さぐぇ――ロリっこに手も足も出ない人間に対する嫌味か?」

 「ははは、まさか。搭城さんは戦車だからね。力では僕も負けるさ」

 「戦車とはまた絶妙な例えだな。確かにこの力でタックルでもされたら即病院送りだ」

 「私がそんな思慮の足りない行動を取るように見えるのですか? ……目を逸らさないでください」

 

 原作を知っていると、原因があるとはいえ、あまり考える事無く行動しているのは否定できないと思う。

 クールキャラっぽく見えるけど、戦闘方法とかは完全に脳筋のそれだ。まあ、四巻くらいまでしか読んでないんだけど、武術の一つでも修めていれば、焼き鳥との戦いでもまた違った結果がでたのではないかとも思う。

 基本戦車の頑強さに任せて突っ込んでぶん殴ったりぶん投げたり叩き付けたりだったし、投擲術とついでに召喚術を覚えておけば、移動砲台(物理)として現代戦車のような戦いができたのではないだろうか。ただの鉄球でも雨あられとぶん投げられれば相応に脅威だし、原作イッセーがやったみたいに聖水を仕込んだり、事前に魔術を仕込んだりすれば脅威度は跳ね上がるはず。

 この先、自身の中にある猫又の力を受け入れれば、さらに戦闘力は上がるだろう。

 

 「そう考えると残念だよなぁ」

 「なんで人を憐みの目で見るんですか」

 「いや、よく食べるって聞く割に成長しなゴハァッ!?」

 「殴りますよ?」

 「殴ってから言っても遅いと思うんだが、思いやりとか優しさという言葉を胸と一緒に捨てていや分かった俺が悪かった謝りますからその握りしめて振りあげたこぶしをゆっくりと下してくださいお願いしますさすがにそんな威力で何回も殴られたら死んでしまいます」

 

 暇なのでごまかしついでにからかったら本気で死にそうだったので即座に謝罪する。押さえつけられてるのでできないが、そうじゃなければ全力で土下座をしそうな勢いの俺に呆れたのか、子猫ちゃんはため息を吐いて離れてくれた。

 舌も頭も痛みは引いてきたし、逃げちゃ駄目だろうか。

 

 「起き上がったらぶん殴ってでも寝かせます」

 「それ本末転倒というものじゃないかねぇ。むしろそっちのが重症になりそうなんだが」

 「塔城さんは手加減も心得てるから大丈夫だよ、たぶん。はい、口内炎用の塗り薬しかなかったけどいいよね」

 「ここまで信用に値しない発言も久しぶりだな。直近ではバカ共の覗き辞める宣言くらいって、割と最近か。あと、薬はありがたく受け取っておこう」

 

 腐れイケメンから受け取った薬を適当に噛んだ傷へ塗り込んでおく。さすがにもう逃げる気はない。ゆっくり歩いてきたとしても、そろそろお姫様とその従者が到着する頃合いだから。

 

 「で、二大だか三大だかのお姉さま? はまだ来ないのか?」

 「あら、そんなに待たせたかしら」

 「HAHAHA! マッタクマッテオリマセントモ!」

 

 入り口で出待ちとか少しばかり意地が悪くありませんかね。

 クスクスと笑いながら俺が寝かされている正面に座るリアス・グレモリーだが、優雅な動きからは確かに良い所のお嬢さんなんだろうなと想像させるだけの気品がある。さすが公爵家。侯爵家だったか?

 それにしても、子猫ちゃんと違ってヤバいな、どこがとは言わないが。

 

 「何か不愉快な事を考えている目ですね」

 「いやいや、そんな決めつけで拳向けられたら堪ったもんじゃないんだけどね。ちょっと人体の神秘について考えていただけであって、別に特定の部位を比較する意図はなかぐふぅ……」

 「あら、短時間でずいぶんと仲良くなったのね」

 「……殴られて悶絶するこの様を見てそう思えるなら、眼科か精神科の受診をお勧めしますよ」

 「私がこれと仲が良いとか心外です」

 

 さすがに本気で死にそうだから、これ以上のからかいは自重すべきだろう。いやホント、一般人相手にボーリング腹の上に落っことしたような威力は勘弁してくれないもんかね。これがポカポカと見た目相応の威力だったらとても幸せなんだが。

 まあ、いいや。こっからはちゃんと真面目にやろう。

 

 「それで、リアス・グレモリー先輩はただの一般人男子生徒の俺に対して何を聞きたいんですか?」

 「そうねぇ。今は子猫の事を好きなのか聞きたいわね」

 「なっ、何を――」

 「そうですね。子供の頃に家で買ってたハムスター並には好きですよ?」

 

 慌てた上にこっちの返答で何とも言えない微妙な表情になった子猫ちゃんが可愛い。

 リアス・グレモリーも子猫ちゃんを慈愛に満ちた目で見た後、こちらに向けてウィンクを飛ばしてくる。

 褒めても何も出ないぞ。

 

 「あら、その程度の好きじゃ子猫は上げれないわね」

 「上げる気なんてこれっぽっちも無いのに良く言いますよ。手放す気は無いって顔に書いてますよ?」

 「いやだわ。子猫が自分で見つけた相手なら、私は別に邪魔する気はないわよ」

 「最初のハードルからすでに高すぎる気もしますけどね」

 「その程度のハードルも越えられずに「リアス」……ごめんなさい。思ったより楽しくて脱線しちゃったわね」

 「いえ、暇なんで別に構いませんよ」

 

 脱線どころか初めから線路から外れていた気がしなくもないが、基本無表情な子猫ちゃんの慌てた顔が見れただけで一部には自慢できるし十分役得だろう。

 代わりに当人からすごい威圧がビシバシ来てるけど。

 あえて言おう。ご褒美であると。

 

 「それで本題なんだけどね。さっきも言ったけど、オカルト部に入らない?」

 「それは部員的な意味でですか?」

 「悪魔的な意味でもあるわよ?」

 

 ちょっと踏み込んだら笑顔でサラッと返された。怖い。

 他の皆も特に反応は見せなかったが、空気が固まるのが分かる。まあ、少なくとも現状で一切自分たちの領域に接触を持っていなかったはずの相手が、自分たちの事についてしっかりとした知識を持っているなんて状況になれば、誰でも警戒するだろう。

 むしろ、ニコニコと笑顔で警戒のけの字も見せないリアス・グレモリーが異常なのだ。

 

 「どうして私を選ぶんですか? 自分で言うのもなんですが、取り立てて目立つところもなく、今の言動もかなり怪しかったと思うんですけど」

 「私が欲しいと思ったからよ。後付けの理由ならいくらでも上げれるけど、そんなものは無粋だわ。私が欲しいと思った。それだけあれば理由としては十分よ」

 「一般人のはずなのに、オカルトに類する知識を持っている異端者だというのに、ですか?」

 「……その一般人という主張は口癖なのですか?」

 

 本来、正史では一誠を認識はしていても、死ぬ時にリアスを召喚するまではさほど気にはしていなかったというのに、今生、騒ぎを起こしている訳でもないのに勧誘に来た。その疑問を晴らすためにも質問を重ねたところ、反応したのは子猫ちゃんだった。

 その目は、胡乱なモノを見るように眇められており、唇も心なしか尖っているようにも見えた。

 

 「口癖って訳でもないけど、学内の有名人に囲まれて君が欲しいなんて言われればね。どうして自分みたいな普通な奴がとは思うよ。さながら、血統書付きの高級な犬の群れに囲まれて、しかも群れのリーダーに求愛された雑種犬のような気分だ」

 「求愛されたわけじゃないですけどね」

 「例えだよ、例え。で、子猫ちゃんはどうも俺が一般人を主張する事に異があるようだけど、どういう事かな」

 「このひと月ほど、先輩を監視していました」

 「ストーカー宣g「茶化さないでください」イエッサー」

 

 ふざけるのをやめたら俺じゃないと主張したいが、きっとそうしたらまた砲弾のようなパンチが飛んで来るんだろう事は予測できたので自重した。せざるを得なかった。

 何か食べ物を提供すれば許してもらえるだろうか。

 

 「許しませんよ?」

 「ナチュラルに心読むのやめてもらえませんかねぇ」

 「とにかく、このひと月先輩を監視していた訳ですが、毎日一時間以上数十キロを走り、スポーツではない実戦を想定した古武術の鍛錬に励み、修行僧もかくやというほどの長い瞑想をするような方を一般人とは呼びません。普通の人は、必要もないのに軍人でもハードな訓練を己に課したりはしません」

 「いやぁ、知っちゃったらどうにもじっとしていられなくてね。せめて逃げるくらいできるようになったらいいなくらいだけど、才能も無かったみたいで、体力付いたくらいだよ? 魔力も感じられないしねぇ」

 

 いや、ホントに魔力のまの字も感じられなくて悲しみすら感じないレベル。原作一誠が悪魔化してようやく豆粒レベルだった事を考えると、俺も同程度だと思われる。

 仙術があるという話は聞いているので、気とかチャクラ的な物がないか頑張って探したけれど、才能ないのかよく分からなかった。少なくとも独学は無理っぽいと判断して、現在は完全に肉体の強化一択となっている。

 それだって才能があるとはお世辞にも言えない辺り、主人公の体なのに悲しすぎる。

 原作だって素人パンチだったし、鍛えてる分俺のがマシなんだよな。

 

 「遠い目してるところ悪いんだけど、参考までにどこで知ったのか教えてもらってもいいかしら」

 「ん、ああ、すみません。いや、幼馴染のお父さんが教会の人だっただけですよ。今はもう引っ越してどこにいるかも知らないんですけど、子供の頃に書斎に忍び込んだことがあって、それで色々、ですね」

 「そういえば、昔はこの地にも教会の人間が駐留していたって聞いた事があるわね。駐留していた神父の子供と偶然仲良くなった、って感じかしら」

 「偶然っていうか、お隣さんだったんで、同じ年の子供がいたから必然的にって感じですね。それで神父のお父さんの武勇伝――当時は作り話だと思ってたんですけど――まあ、そんな話を聞いたりもしてて、中一の時に色々調べたんですよ。細かいとこは省きますけど、それで実在を確信して、それまでは趣味だった武術鍛錬を本格的にするようになったんです。最初は漫画見て古武術カッケ―なんて思って始めた事だったんですけどね」

 「……君は教会の人間って事かな」

 「だったらこの学園に入学したりしないよ。もし教会の人間だったとして、敵地に裸で突っ込む奴がどこにいるんだ。フィクションの世界でだって、そんな事をする奴はいないだろ」

 

 そもそも、他勢力に所属していないと判断したからこそ、声を掛けてきたのだろうに。

 こちらとしても、元より付くなら悪魔側で、リアス・グレモリーの配下が最善だと思っている。今代の魔王の内、ルシファーかレヴィアタンに伝手を持てるのは今のこの学園でとても大きなメリットだし、人の身で龍が引き寄せる災厄に立ち向かえるほど、俺のスペックは高くないのだ。

 生き残るためには悪魔に転生するのが現状における最善手なのだが、十中八九できないのが悲しい。

 

 「それじゃあ、私の下僕悪魔になってくれるって事でいいのかしら」

 「俺としてはそれでいいと思っていますよ。駒が足りるなら、倫理道徳に反しない限り忠誠を誓っても構わないと思っています」

 「……大した自信があるのね」

 

 あらあらと朱乃さんが微笑んだり、子猫ちゃんがジトッとした目でこちらを見るが、それでも足りない事は確定と言っても良いだろう。使えない転生特典でというのが何とも言えないところだが、事実なのだから仕方がない。

 赤龍帝の籠手が無ければ転生できるだろうが、その場合も武力的な意味で詰んでる気がする。

 ……ここまで言って赤龍帝の籠手が無かったら笑えるなー。自殺する程度には。

 

 「そこまで言うなら、今すぐ試させてもらっても構わないわよね」

 「いいですよー」

 「……自信満々ですね」

 

 違います。これは投げやりって言うんです。

 訂正したいところだけど、リアス・グレモリーが出した駒に目を奪われる。彼女がテーブルに並べたのは騎士一つ、僧侶一つ、戦車一つ、それからポーンが八つ。

 ❘変異の駒《ミューテーション・ピース》は無いようだ。もしかしたら見た目では分からないのかもしれないが、リアス・グレモリーは僧侶の駒が変異の駒だったはずだ。だからこそ、他の駒は違うと分かる。

 

 「普通の駒で転生できればいいんですけどね」

 「確かに、生憎と変異の駒はないわ。けど、最悪を考えても、ポーンを全て消費しても転生させられない人間なんてそうはいないでしょう」

 「そうでもありませんよ。かの有名な二大龍の神滅具を持っていて、それを宿すのに相応しい潜在能力を持っていれば、ただのポーン八個じゃ足りないでしょう。或いは、死に掛けるなり、死んでしまうなりすれば別かもしれませんが、そんな事はそうそう起きないでしょうね」

 「あなたはそれと同等の才能を持っている、と?」

 「ははは、まさか。ただ、今代の白龍公が歴代でも最高峰の怪物だって噂は以前小耳にはさみましたがね。噂通りなら、魔王級の悪魔でもそうやすやすとは転生させられない代表みたいなものじゃないですか?」

 

 原作を見る限りの白龍公が歴代最強の白龍公であるならば、俺は原作の一誠にも負けず劣らずの色物枠だ。

 いや、悪魔に転生できない分、俺の方が弱いんじゃなかろうか。そう考えたらなんか悲しくなってきた。

 

 「……まあ、いいわ。これからあなたを悪魔に転生させるけど、転生してしまえば、もう元には戻れないし、デメリットもたくさんある。その辺りを理解して、納得もしているわよね」

 「そのデメリットを呑み込んででも、転生できるなら是非したいところですから。転生できたなら、使用した駒に相応しいだけの戦果は上げるつもりですよ」

 「そう。じゃあ、始めるわよ」

 

 そう言ってリアス・グレモリーが手に取ったのはポーンの駒。まあ、生意気な事を言ってる奴相手に最弱の駒を使う事で高すぎるプライドを折ろうというのだろうが、残念な事にプライドが高くて言ってるんじゃなくて、くっ付いてるゴミ能力の容量的に無理って話なんだよな。

 ていうか、これで転生できちゃったらますます詰んでるから。赤龍帝無しって事になるから。

 

 「我、リアス・グレモリーの名において命ずる。汝、兵藤 一誠よ。今この時、我の下僕となるため、その身を変じ、悪魔となれ。汝、我が『兵士』として、新たなる生に歓喜せよ!」

 「……」

 「……」

 「……何も起きませんね」

 

 静かな部室内に、子猫ちゃんの声がポツリと響く。

 これで一縷の望みも絶たれた訳だが、三つの特典のせいか、赤龍帝を持っていてなおかつ死にかけていないからか、全くうれしくない事に、嫌な予想がバッチリ当たってくれたという事なのだろう。

 オカ研メンバーも、転生できないなんて考えていなかったのだろう、驚いた顔でこちらを凝視している。

 

 「待って、今はポーン一つ分しか使ってなかったし、他の駒なら転生できるかもしれないわ。まだ可能性は残ってるもの」

 「ああ、そうなんですか。なら早く終わらせてくれると助かります。なんか塔城さんに殴られたお腹がズキズキ痛くて、保健室行きたいんで」

 「……子猫?」

 「知りません。人をか……先…が…………す」

 

 あっれー。お腹の痛みを意識したら、なんか急に意識が遠のいてくんだが。

 …………まさか、一巻始まる前にデッドエンドですか?

 ていうか、ホントに意識……が…………

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