一応転生できた事にも理由があると理解してもらえれば問題ないです。
目が覚めたら俺を転生させた神様が大爆笑してました。
速攻全力で殴りかかったけど逆にぶっ飛ばされた上に大岩で潰されました。
解せぬ。
「いやぁ、君ホント面白いなぁ。白音ちゃんに殴られて内臓破裂とか、転生者の死因としては初めてなんじゃないかな?」
「全く持ってうれしくない史上初ですね」
原作開始前に死ぬって、主人公に転生しておいてマジでありえないだろ。さすがに次は無いだろうし、せっかくの第二の人生が、詰み気味だったとはいえ、約十六年で終了とか悲しすぎるだろう。
しかも神に大爆笑されるオプション付き。泣ける。
「はっはっは。そう拗ねるものでもないよ? 一応、これで悪魔には転生できる訳だしねぇ」
「これで拗ねない奴はいない……は?」
「あー、その分だと気付いてなかったのかぁ。気付いててやったのかと思ってたんだけどねぇ」
やったって何の事、いや、死んだ事以外ないか。つっても、普通、このタイミングでこんな死に方するとか普通は思わないだろう。
誰だって、無意味に死んだりとかしたくないものだ。
「それならどうして物理無効の特典を使わなかったのかな? 使えば死ぬことなんて無かったと思うけど?」
「そんな事したら確実に疑われるだろう。悪魔になれなくても魔王へのコネを繋ぐためにお世話になる予定だったというのに、そこで使ったら神器だと言い張って誤魔化すしかなくなる。そうなったら赤龍帝の籠手が使えなくなるだろうが」
珍しい神器保有者というだけで狙われる確率大UPなのに、赤龍帝の籠手とダブルとか、世界が敵に回ってしまう。
どこか一勢力に狙われるだけでもヤバいというのに、そんな事になればマヴラブやR-Typeよりはずいぶんとマシだろうが、それでも型月世界で封印指定を受ける程度には絶望的な展開になる事は想像に難くない。
何回やり直そうとも死ぬ自身があるぞ。
「へぇ。思っていたよりずっと考えてたんだねぇ。感心し「そしてなにより!」」
「子猫ちゃんに蔑んで貰えるうえに殴ってもらえるなんてご褒美、防ぐなんてとんでもないだろう!」
「感心して損したよ。割と本気で引いた」
「それで、悪魔に転生できるってどういう事? 第二の人生THE ENDだと思ってたんだけど」
なんでジエンドだけ無駄に発音いいのさと神はぼやくが、そんなもの、その場のノリと勢いに決まってるだろう。こういうものは考えるだけ無駄、いや、負けなのだ。
馬鹿になった方が人生楽しいと三馬鹿の二人から学んだのである。
あいつら、せっかくあの異常極まりないおっぱい紙芝居という洗脳を阻止した上に、出会ってからはそういった言動を隠すという事を教えたのに、女子ばかりの教室でいきなり猥談始めることが未だにあるからな。
常識持って接してると胃に穴が開く。
「変なところで苦労してるね。話戻すけど、悪魔に転生できるのは悪魔の駒の性質が問題なんだよ。この辺りは神器や特典がどういう物かも関係してくるんだけどね。分かりやすく実感してもらおうか。兵藤一誠に生まれて君は赤龍帝の籠手――ああ、あるのかどうか気にしてたけど、ちゃんとあるから安心していいよ――を手に入れた訳だけど、試しに今出そうとしてみなよ」
「その言い方をするという事は、出せないって事じゃ」
「うん。そうなんだけどさ、こういうのは口で言うより体感した方が早いでしょ?」
神の言葉に納得して、原作みたいに好きな作品の必殺技を真似ようとしたが、早速大きな問題が発覚した。
「すみません、岩退かしてくれないとどうしようもないんですけど」
「ふむ。退かしてまた殴りかかってきても嫌だから、実感してもらうのは諦めよう」
「いや、そこは退かしてくれるところでしょ!」
「……逆にこう考えるんだよ。退かさなくてもいいや、と」
くだらないネタを使ってニッコリ笑うが俺は騙されない。これは完全に退かすのが面倒だというだけだ。
だって一瞬すごい面倒くさそうな顔したもの。
「さて、神器と特典の違いだけど、分かりやすく言うと、魂の中に組み込まれているか、魂の外にくっ付けられているか、という事になるね。魂が一つの絵画だとすると、絵の中に直接描き込んで一つの絵画としてしまうのが特典で、別の絵を横に継ぎ足してしまうのが神器になる。例えば、椅子に座った人の絵があったとして、膝の上に物が乗っているように書き足したり、背景に付けたしをしてみたりするのが特典になるんだけど、神器は全く関係の無い絵を他所から持ってきて、糊付けするようにくっ付けてしまうんだよ」
「んー。つまり、ゲームに例えると特典はステータスUPさせる種とかスキル覚える指南書みたいな物で、神器は装備品みたいな物か?」
「その表現に付け加えるなら呪われた装備品と言うべきだね。まあ、今の君は転生の処理には入っていない訳だけど、本来なら世界から魂を拾い上げる時点で転生の処理に入るからね。世界の内側で生まれた理に則ったアイテムである神器は、外側であるこの場には持ち込めないという訳だ」
「……その条件だと、神器は次の所有者に移らないか?」
「ちゃんと❘留《とど》めているから大丈夫だよ。で、話を戻すけど、悪魔の駒は特典や神器といった魂に付随するものや魔力や身体能力、情報処理能力みたいな肉体に依存する能力の潜在値も込みで必要数が決まるから、その数値を跳ね上げている特典が付随した魂をここに持ってきて、神器を肉体に留めておけば原作に近しい処理となって、ポーン八個消費での悪魔転生が成立する訳だね。まあ、魂戻した時点で一個か二個くらい駒が変異するかもしれないけど、誤差だろうさ」
「駒って後から変異するものなのか」
「普通はしないけど、例外はどこにでもあるものだよ。駒の消費量なんて、あくまで目安でしかないからね。たまにはそれでは足りないくらいの成長をする者も出てくるものだよ。それに僕が見た限り、変異というよりあれは進化と言うべきだ。レベルが上がって進化するみたいにね。ポケモンとか分かりやすいかな」
なんというか、出てきた例えが有名過ぎてミーハーな感じがする。
ただ、今の説明だとどちらかというとデジモンの方が近いんじゃないだろうか。いや、究極進化とか力使い果たして退化とかされても困るけど。
それにしても、さすが神様特典。あんな使い道のない代物でも駒が変異する程容量食うのか。
「いや、内容は君が決めたんだよ? それに使い道が無いのは君の考えが足りないからさ」
「内容決めたって、どうにも使いにくい能力にすり替わっているように思えるんだが?」
「いやいや、僕は君の無理難題にとても苦労して考えたんだよ。君の要望だと人の身では色々と無理が出てしまうからね。人の体に無理のないように、それでいて君の願いに沿うようにする最善があの能力なんだよ」
「ちなみに、言ったとおりにしたらどうなってたんだ?」
「あの世界に限った話になるけれど、まず、一つ目の願いは問題ないね。これは情報を頭に叩き込むだけだし、脳機能を少し弄って変質させれば外見には現れない。たださ、君、なんでもなんて言われると溶岩とかそういった通常の調理器具では調理できない物が出てくる訳だ。そんな片手落ちにならざるを得ない特典を、僕が許すと思ったのかい?」
「自己満足のために変えたのかよ。やっぱ殴りたいこの神様」
「まあ、理由の一つでしかないけどね。僕なりの親切心なんかもあるさ。で、二つ目だけど、環境に適応する体となったら、一年くらいで人じゃなくなるよ。その世界の法則に合わせる必要があるからね。環境への適応だとどうしても表面から変わらざるを得なくなる。いや、悪魔や天使、一部の龍の良いとこどりをした肉体を作ればできなくはない。ただし、胎児の時点で母体の腹を破いてめでたく死への一直線コースに乗っただろう」
「その辺、神様なのに上手い事どうにかできなかったのか」
「神様だって万能じゃないさ。世界を創ればどうしても陰と陽、善と悪を発生させる必要があるし、君の世界の柱として創られた内在の神もすでに壊れた。世界の中に在るために己の容量を制限したせいでね。君を主人公君の体に入れたのだって、色々と問題が起きた結果の緊急避難措置、つまりは神様でもどうしようもなかった結果さ」
皮肉気に笑う神様だが、ちょっとその笑みは疲れているようにも、悲しんでいるようにも見える。
神様でもどうしようもないという事態が気になりはするが、そんな表情を見てしまうと、神様なのにという言葉が無責任で最低な言葉だったと突き付けられて、今更自己嫌悪が襲ってきた。
「別に君が責任を感じる事は無いよ。僕らの失態のリカバリーを押し付けてしまったのだからね。そんな事よりも、三つ目の特典の話だけどさ、君、物理ってどこまでが物理だと思う?」
「そりゃ、素手で殴ったり剣で切ったり銃で撃ったり?」
「魔術や超能力は物理ではない、と。そんなものは君たち人間の考えた勝手な線引きだよ。そも、物理っていうのは世界内に存在する要素に当てはまる法則だ。魔術や超能力が物理じゃないとなると、似たような理屈で光なんかも物理から外れてしまう。物理以外っていうのは、言葉により精神への打撃とか、キスによる思考停止とか、そんな程度のものになってしまうんだよ。物理無効を超えようとするなら、僕のいるこういう世界の外側の物質以前の存在を使うしかない。或いは僕みたいな法則を決める側であるとかだね。だから戦闘時は常にオンにしておく事をお勧めするよ。君も攻撃できない詰み状態になるけど、逆に言えば、相手も君をどうにもできないで詰むんだから、生き残るならそれが最善だ」
「それで全部解決するんならそうするけど、そうじゃないだろ」
「まあ、多少なりとも原作を知っているなら分かるだろうけど、アーシアちゃんを助けるのも難しくなるし、部長ちゃんの結婚も止められないだろうね。他にも色々と、うん、最悪人類滅亡くらいはあるかな」
「……想像以上にヘビーだった。身内だけで終わらないのかよ」
「エロ入ってるというかエロ中心とはいえ、ギャグがあろうともバトルアクション物だよ? 相応にエスカレートして世界の危機くらいはテンプレだろうさ。まあ、あくまで最悪の話だよ。もしかしたら他の誰かが頑張ってどうにかなるかもしれないだろう?」
そんな誰かが頑張ってどうにかなるなら、主人公なんていらなくなるだろ。というか、その誰かが主人公になるだろう。つまり、やっぱり主人公の居場所に立っている俺がどうにかしないとマイナス方向へ不確定って事だ。
とんでもない話だな。せめて脇役なら適当に傍観もできたのに、否応なく全力で当たらないと死ぬかそれより酷い事になるって分かってて、それでも傍観選べるほど神経は太くない。
俺を大切だと思ってくれているあんな良い家族だっているんだから、自分だけ生き残れば良いなんて事はできないだろう。
「そうだね。そうやって押し付けられた責任でも背負えてしまうからこそ、僕らは君を選んだ訳だ。悲劇を知っているのに無視できない君のその資質は貴重だよ。だからこそ、僕は君を信じる。是非とも世界を救ってくれよ。君ならそれができるのだから」
「一般人に向ける言葉じゃないな。いや、転生なんてしてる時点で一般人とは言えないか」
「君のような一般人がいるものかよ。ああ、そろそろ時間だね。君が一誠に戻る前にアドバイスをしてあげよう。――フェニックス戦は死ぬ気で頑張りたまえ。彼が勝てば君は晴れて追放、はぐれとして逃亡生活が始まるよ」
ちょっと期待した俺に謝れ。いや確かにそんな事になるなら死力を尽くしてどうにかするけど、もうちょっとこう何かあるだろ。能力の生かし方とか実はこうするとすごい事ができるとか。
全力で睨んだらやれやれって顔で嘆息しやがった。
「少しは自分の頭で考えたまえよ。――ふむ。もう行ったか。そういえば、アーシアちゃんが駒王町に行くように運命を調整したのを伝え忘れたな。まあ、なるようになるだろうさ。頑張りたまえ、未来の英雄君」