今回はあの由比ヶ浜の依頼です。
このお話もお楽しみください。
ではではどうぞー!
俺が奉仕部に入って数日、特に依頼もなく過ごしていた。昼休みは生徒会、放課後は奉仕部といったかんじだ。雪乃は誰もいないことを確認すると俺に頭ナデナデしてもらおうとし猫化するし、陽乃は生徒会の仕事が終わると部室に来て俺に抱きついて過ごす。
あれ?俺人生勝ち組?そんなわけないよね…。
あ、でも婚約してるんだった。
そんなある日の放課後。俺はいつものように猫化した雪乃を撫でながら本を読んでいると
コンコン
ドアがノックされた。雪乃はノックされた瞬間、俺のところから窓側へ席を移動した。
何?瞬間移動でもできるようになったの?
「し、失礼しまーす。」
緊張しているのか、少し上ずった声で入ってきた。まるで誰かに見られるのを嫌うかのような動きみたいだな。
肩までの茶髪に緩くウェーブを当てて、歩くたびにそれが揺れる。探るようにして動く視線は落ち着かず、俺と目が合うと、小さく悲鳴が上がった。あれー?おかしいな、俺なんかした?
「な、なんでヒッキーがここにいるんですか!?」
「誰?てかヒッキーって俺?」
「1年F組の由比ヶ浜結衣さんね。」
「あ、私のこと知ってるんだ…。」
「だいだいの人の名前は知っているわ。」
「さすが雪乃だな。」
「当然よ。」
当然といいつつ由比ヶ浜から見えないようにはにかんでもね…、でも可愛いから許す!
あと、まああいつの名前は知っていても知らなくていいな!うん。てか…
「お前1年かよ、せめて先輩をつけろ。先輩を。」
「わかったよ、ヒッキー先輩。」
えー、ヒッキーはそのままかよ…。
「それで、何か用かしら?」
「あっごめん。平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」
「少し違うわ。奉仕部は魚の取り方を教える部活、魚をあげる部活じゃないわ。つまり、悩みが解決するかはあなた次第、奉仕部はその手助けをするだけよ。」
「な、何かかっこいい部活だね!!」
こいつ絶対わかってないだろ。大丈夫か?
「どういった悩みを持って此奴に来たのかしら?」
「う、うん。 あの、クッキーを、そのね・・・」
そう言うとチラリと俺を見た。 だから俺何かした?
「何か飲み物買ってくる。」
そう言って教室を出る。
・・・・
教室を出た俺はマッカンと雪乃の野菜ジュース、後は由比ヶ浜に…カフェオレでいいか。
そこでマッカンで飲んでいると荷物を持った陽乃と遭遇した。
「あれ?八幡部活は?」
「んー、今は依頼人来てて雪乃が呼ぶまで暇つぶししてるとこ。あ、荷物持ってやるよ。生徒会室までか?」
「そうなんだ。あ、平気だよ。」
陽乃はそう言ったが俺は荷物をすっと持って運んだ。
「いいから行くぞ。」
「あ、待って。…八幡のそういうところも大好き!」
そして生徒会室まで荷物を運び終えたところでちょうど雪乃から連絡があった。
「お、何々家庭科室?雪乃から連絡来たから行くわ。」
「あ、待って!今日これで終わりだから私も行くよ!」
「了解、じゃあ行くか。」
「あ、八幡。その前に…」
チュッ
「よし八幡成分補充完了!よし行くよ!」
そうして俺と陽乃は家庭科室に向かった。
・・・・・・・・
俺と陽乃が家庭科室に入ると雪乃が由比ヶ浜のエプロンを直していた。
「ただいま。」
「おかえり義兄さん。あ、姉さんも。生徒会終わったの?」
「そうそう、暇だから来たよー。」
「わかったわ。」
「で、何すんの?」
「手作りクッキーを食べてもらいたい人がいるから手伝ってほしいのだそうよ。義兄さんは味見して感想をくれればいいわ。」
「それくらいならお安い御用だ。」
そしてエプロンをつけ終え早速料理に向かう雪乃と由比ヶ浜。しかし作業の途中から雪乃の顔色がどんどん青くなっていく。 隣にいる陽乃も青くなってきている。
卵の殻は取り除かない、ダマはとかない、隠し味と称してコーヒーを大量にぶち込む。 その結果出来あがったものはもはやクッキーとは言えないもの、強いて言うなら木炭であった。
え?これ食べるの?どう見ても毒だよね?まだ死にたくないよ? 陽乃と結婚してないよ?
「どうしたらあれだけミスを重ねることができるのかしら……」
ぐったりとしている雪乃だが流石に同情を禁じ得ない。陽乃も見ていただけなのにぐったりとして俺に頭を預けている。
「……由比ヶ浜さん、あなた料理をしたことはないのかしら?」
「うーん、ないかな……。」
雪乃の質問に対してまあ予想通りの返答が返ってくる。由比ヶ浜家の食卓でこれがデフォルトになってみろ、両親が可哀想だ。特に父親。娘が作ってくれた料理を食べないわけにもいかず食べた後に召される気がする。
「私は解決策は努力あるのみだと思うのだけれど義兄さんと姉さんはどうかしら?」
「「由比ヶ浜(結衣ちゃん)が2度と料理をしないこと。」」
「即答だっ!」
「2人ともそれは最終手段よ!」
「最終手段なんだ!?」
そのあとに由比ヶ浜がこう呟いた。
「やっぱりあたしには向いていないのかな?才能とかなさそうだし。」
そこで雪乃がこう返したけどな。
「解決法は努力あるのみよ。由比ヶ浜さん、才能がないと言ったけど最低限の努力をしない人は成功した人の才能を羨む資格はないわ。成功しない者は成功した者の努力を理解できないから成功しないのよ。」
陽乃も雪乃も才能はあるけど日々努力してるのを嫌という程知っているからな。
「みんなやってないし、あたしには向いていないんだよ、きっと。」
「その周りに合わせようとするのやめてくれないかしら?酷く不愉快だわ。自分の無様さ愚かさ不器用さの遠因を他人に求めるなんてあなた恥ずかしくないの?」
おいおい雪乃いいすぎじゃない?少しいらいらしてるし?由比ヶ浜メンタル大丈夫か?
しかし由比ヶ浜は俺が思っていなかったことを口にした。
「か、かっこいい。」
「「「は?」」」
え?何言ってるの?さすがにこれには俺と陽乃、雪乃の全員が驚いた。
「建前とか全然言わないんだ……。そういうの全部本音って感じがして、かっこいい。」
尚も硬直中の雪乃、意外とアドリブ弱いんだよな。そのせいで訪れた沈黙を打破するように俺は助け船を出す。
「正しいやり方ってのを教えてやれよ。由比ヶ浜もちゃんと言うこときけ。あと、陽乃も手伝ってやってくれ。 」
「りょーかい!」
「わかったわ義兄さん。」
こうしてクッキー作りは再開した。
・・・・・・・・・
陽乃と雪乃がそれぞれクッキーを作って由比ヶ浜に手本を見せた。うん、陽乃と雪乃が作ったクッキーうまし!けれども由比ヶ浜のクッキーは最初よりはいいがうまくできたとは言えなかった。
「何で上手くいかないんだろ?」
由比ヶ浜は嘆く。教えている陽乃と雪乃もげっそりだ。お疲れ様です…。
ふと俺は思った。
「なあ、何でそこまで上手くする事に拘るんだ?」
「どう言う事、八幡?」
陽乃が顔をコテンとして聞いてきた。マジ可愛いい…。
「そもそも今回の依頼は手作りクッキーだろ?ちゃんと手作りクッキーじゃん。そもそも料理をまともにした事ない奴が数時間で美味いクッキーを作れんだろ。さすがに。」
「理由は知らんが、クッキー渡したいなら食べられるならそれでいいだろ。それに相手は誰か知らんが男子なら手作りというだけで満足するぞ。これは自分が作ったって事を示して渡せば多分大抵の男心なんて簡単に揺れるぞ。」
「なるほど。そういう考え方もあるのね。」
「さすが八幡だね。」
陽乃と雪乃は納得したそうみたいだ。
「ヒッキー先輩も?」
「俺の心はすでに陽乃に向いてるから揺れない。」
「はっちまんー!嬉しいよ!」ダキッ
「で?やるのか。」
そう尋ねると、
「ううん、後は自分でやってみる。またね雪ノ下さん、雪ノ下先輩、ヒッキー先輩!」
そう言って、由比ヶ浜は去っていった。
・・・・・・
次の日、由比ヶ浜が部室に来た。
雪乃はまだ来ていない。
「あ、あの!これお礼です!去年の4月のときうちの犬を助けてくれてありがとうございました!」
と、言って由比ヶ浜がクッキーを渡してきた。
そうか、こいつあの時の犬の飼い主か。
「お、そうか。気にすんな。俺が好きにやっただけだし。」
「それでもきちんとお礼をしたくて、受け取って下さい!」
「ならもらっとくわ。」
こうして依頼は終了した。
余談だがうちに帰ってちょうど遊びに来た材木座とこのクッキーを食ったら俺たちは撃沈した。
その後俺は陽乃に、材木座は風鈴にそれぞれ看病されたとさ。