俺が由比ヶ浜からクッキーをもらった次の日、いつものように放課後部室で暇してたら由比ヶ浜が突撃してきた。
「ゆきのん!この前のお礼!」
雪乃は俺が由比ヶ浜のクッキーで撃沈していたのでクッキーを見て少し青ざめている。
「ゆ、ゆきのん?お礼は分かるのだけれどゆきのんとはもしかして私の事?」
「うん!雪ノ下雪乃だからゆきのん!」
ニコニコと笑いながら由比ヶ浜は言う。
「ダメ…かな?」
雪は少し顔を赤らめてにこやかに言う。
「ダメじゃないわ、ただそんな風にあだ名で呼ばれたの初めてだったから驚いただけよ。」
「本当!?よかったぁ」
ふむふむ、雪乃に友達が出来つつあってよかった。
「あ!聞こうと思ってたんだけどさ!」
「何かしら?」
「何でゆきのんってヒッキー先輩のこと義兄さんって呼ぶの?」
「それはうちの姉さんと義兄さんが婚約しているからよ。中学のときからはもう呼んでいたわ。」
「こ、婚約ぅ!?え!?すごい!」
「そうか?」
雪乃はドヤ顔しているが気にしない。
それから由比ヶ浜は部室に毎日来た。別に来るのはいいが入部してないの知ってきてるのか?
ちなみに俺はいつもどおり陽乃といたけどね。
・・・・・・・
月が変わり体育の授業の内容も変わる。
高校では大抵3クラスぐらい合同でやる。そして2つの競技から自分で選んで選択するわけだ。4月はソフトボールとバスケで次からはサッカーとテニスだに別れる。
俺は今回テニスを選択した。材木座もテニスを選択していたが抽選に外れてサッカーになった。ソフトのときはずっと材木座とやっていたから相手には困らなかったが今回は1人だ。そのときに材木座が
「『魔球』を披露してやろうと思ったが仕方が無い。てか、お主がいないと我は一体誰とパス練習をすればいいのだ?」
と言っていたが俺に言われても困る。俺だってお前以外にやるヤツいないぞ。
そしてテニスの授業が始まる。
適当に準備運動をこなした後、体育教師の厚木から一通りレクチャーを受けた。
「うし、じゃあお前ら打ってみろや。二人一組で端と端に散れ」
そう厚木が言うと、皆が三々五々めいめいにペアを組んでコートの端と端に移動する。
「あの、体調が悪いし壁打ちしてていいですか?相方に迷惑かけるのも悪いしですし。」
そう言えば、向こうも強くは言えない。先生の返事を聞く前に壁の方へ歩いていく。材木座とやらないときはこの技を使えば何のこともなくできる。
壁打ちを初めて数分経つがボールを一度もこぼさない。テニスは昔、陽乃たちと一緒にやったことがあるのでけっこうできる。まあ、一緒に球技をする相手がいないだけどね。
するとこちらにボールが飛んで来たのでそれを拾い相手に投げる。
すると向こうは、
「ありがとう、ヒキタニ君。」
と笑いながら言ってきた。
おい、俺はヒキタニじゃねえ。同じクラスの奴の名前を間違えるとはある意味すごい。逆に後輩からは間違えられたことはないぞ!いや、待て。由比ヶ浜にはヒッキー先輩と呼ばれてるからそんなこともないか。
あ、後輩と言えばよく分からんが俺のファンクラブがあるらしい。去年に小町と風鈴に聞いたのだが何でそんなもの出来ているのか分からん。何か俺したっけ?さらに中学だけでなく高校にもいるらしいが。
そんなことを思いながら俺は1人壁打ちを続けた。
その頃の陽乃はというと…
「八幡のテニスやってる姿カッコイイなー。」
(((また陽乃、彼のこと見て別の世界行ってるよ…。)))
J組の女子たちはそんなことを思っていた。
・・・・・・
昼休み。
俺と陽乃は特別棟一階の保健室横の購買の斜め後ろにあるスペースで昼飯を食っていた。位置関係で言えばテニスコートを眺める形になっている。もちろん昼食は陽乃の手作り弁当。
「八幡あーん!」
「はむ、いつもどおりうまい。」
「よかった〜。」
と、そこで由比ヶ浜が登場した。
「あれ?ヒッキー先輩とはるのん先輩だ。ここで何してるんですか?」
「昼食食ってる。お前は?」
「ゆきのんとのゲームでジャン負けして、罰ゲームの最中だよ。」
「で、由比ヶ浜。罰ゲームっつーのは?」
まさかとは思うけど俺と話すことじゃないよね?そんなこと言ったら死ぬよ、俺が。
「ジュース買ってくるってやつ。ゆきのん、最初は『自分の糧くらい自分で手に入れるわ。そんな行為でささやかな征服欲を満たして何が嬉しいの?』とか言って渋ってたんだけどね。『自信ないんだ?』って言ったら乗ってきた。」
「あはは、雪乃ちゃんらしいね。」
「ああ見えて雪乃は負けず嫌いだからな。」
「でさ、ゆきのん勝った瞬間、無言で小さくガッツポーズしてて……もうなんかすっごい可愛かった…。」
雪乃が可愛いのは当たり前だ!異論は認めんぞ。
「なんか、この罰ゲーム初めて楽しいって思った。」
「罰ゲームに楽しいも何もないだろ。」
あ、でも陽乃との罰ゲームならいいかも。
「おーい!さいちゃんせんぱーい!」
と、その時、由比ヶ浜がこちらに戻ってきている女テニの子へと話しかけた。知り合いだったらしい。
その子は由比ヶ浜に気づくと、とててっとこちらに向かって走ってくる。
「よっす。練習ですか?」
「うん。うちの部、すっごい弱いからお昼も練習しないと……お昼も使わせてくださいってずっとお願いしてたらやっと最近OKが出たんだ。由比ヶ浜さんと比企谷君と雪ノ下さんはここで何してるの?」
「やー別に何もー?」
そう言って由比ヶ浜は、だよね?とこちらに振り返った。いや、お前ジュースは?
「さいちゃん先輩、授業でもテニスやってるのに昼練もしてるんだ。大変ですね〜。」
「ううん。好きでやってることだし。あ、そういえば比企谷君、テニス上手いよね。」
「そうなんですか?」
「うん、フォームがとっても綺麗なんだよ」
「さすが八幡だね!」ニコッ
だから陽乃その顔反則…。
ていうかこの女子誰?そう思っていると陽乃が小声で言ってきた。
「あの子は戸塚彩加君、八幡と同じクラスで一応言っておくけど男の子。」ヒソヒソ
「へぇー、…男!?あれで!」ヒソヒソ
「そうらしいよ。俗に言う男の娘ってやつかな。」ヒソヒソ
「世の中には不思議なことがあるんだなー。」ヒソヒソ
「2人ともどうしたの?」
「「いや、なんでもない(よ)。」」
俺と陽乃揃って首と手を横に振り、否定する。
それを見て、戸塚はくすくすと笑った。
うん、これで男って詐欺だろ。
「仲良いね2人とも。」
「「まあな(ね)。」」
「それよりさ、比企谷君テニス上手いよね?もしかして経験者?」
「いや、違うぞ。昔、陽乃とかと一緒にやってただけだ、」
あとはバスケとサッカー、水泳か?
水泳と言えば陽乃の水着って最高だな。うん。
キーンコーンカーンコーン。
と、そこで昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「じゃあチャイムがなったし戻ろっか。」
戸塚がそう言って、由比ヶ浜、俺、陽乃と続く。
てか、由比ヶ浜のやつ完全に忘れてない?
「どうしたの、ヒッキー先輩?」
「お前、雪乃のジュースは?」
「え?あー!!」
思い出した由比ヶ浜は慌てて走っていったとさ。