腐った私と腐った目の彼   作:鉄生

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皆様のおかげでUA40000、お気に入りも1000を突破いたしました。
これからも満足いただけるようなものが書けるように頑張ります。

ディスティニーランド編は初の前編・後編になっております。
前編はキリのいいところで終える為、少し短めです。

今回は姫菜視点になります。


彼女と彼と夢の国《前編》

最近、八幡くんと一緒にいられる時間が減ってしまった。

なんでも生徒会からの依頼で、海浜総合高校と合同で行われるクリスマスイベントのお手伝いに、毎日行っているらしい。

 

奉仕部への依頼だからしょうがないっていうのはわかってる。

わかってるけれど、やっぱり寂しい。

 

私ってこんなに乙女的な思考だったっけ…

それに、一緒にいられる時間が減ったっていっても、昼休みなんかは一緒にいるのに…

 

 

最近はあれだけ好きだった趣味の時間でさえ物足りなく感じてしまう。

いや、BLは尊いとは思う。嫌いになったわけでも興味が無くなったわけでもない。

 

けれど、どこか物足りない。

 

趣味に没頭しているはずの時間でさえ、ふとした時に彼の事を考えてしまう。

 

彼に会いたい、話していたい、触れていたい。

 

そんな事を、考えてしまう。

 

 

そんな考えで頭がいっぱいになってしまっているとき、大切な友達、優美子から一通のメール。

内容は、ディスティニーランドへのお誘い。

正直なところ、有明以外の人混みは苦手だけど、いい気晴らしになるかな。

そう思って、私はすぐに了承の返信をした。

 

 

「はぁ…八幡くんに会いたいなぁ…」

 

 

つい、口からそんな言葉が漏れてしまう。

 

できることなら彼と行きたかったけど、今回はしょうがない。

せっかくだし、楽しまなきゃ損だよね。

 

そう考えながら、私は眠りについた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

優美子達とのディスティニーランド当日、待ち合わせ場所は舞浜駅。

そういえば誰が来るのか聞かなかったけど、私が駅に着いた時にいたのはいつものグループの面々。あと…え?一色さんはまだわかるけど、雪ノ下さん?なんで?

 

「あれー?ヒキオいんの?」

 

そんな優美子の言葉を聞き、すぐに目線をそちらに向ける。

そこには、あれだけ会いたいと思っていた彼の姿。

 

「おい、何であいつらもいるんだ?」

 

「だって、いろはちゃんの味方だけするってわけにもいかないじゃん!私も板ばさみで大変なんだよー…」

 

ちょっと待って。私、何も聞いてない。

なんで八幡くんがいるの?

もし私が来なかったら、結衣達とディスティニーランドに来てたってことだよね。

 

私だけ八幡くんのことばかり考えてたの?

なんだかそれって、ばかみたい。

 

八幡くんは気まずそうにこっちを見てるし…なんだかなぁ。

せっかく気晴らしになると思ってたのに、今日はもううまく笑えないよ。

 

「全員揃ったみたいだし、そろそろ行こうか」

 

隼人くんの一言で、みんながランドへ向けて動き出す。

 

私の足取りは、とても重い。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ランド内に入ると、みんながそれぞれ記念撮影。

私は写真に写る気になれなくて、撮る側に撤していた。

 

「姫菜ー、ちょっと一枚お願いしてもいいかな?うまく捕まえるから!」

 

結衣は私にカメラを預け、彼と雪ノ下さんの元へ。

 

雪ノ下さんの肩と彼のマフラーを掴み、強引に自分へ近づける。

私はタイミングを見計らってシャッターを切る。

 

「結衣〜、撮れたよ」

 

「ありがとー!」

 

私は何をしてるんだろうなぁ…

まだ八幡くんとは一言も話せてないし、こんな時どうしたらいいかわからない。

 

 

 

もやもやとそんな事を考えているうちに、本日一つ目のアトラクションに着いていた。

ゲートから一番近い絶叫系アトラクションで、宇宙をテーマにしたジェットコースターである。

そのアトラクションの列に並んでいる最中、私の前では優美子と一色さんが隼人くんの隣を取り合い、戸部っちがその間に入って睨まれている。

 

「…戸部っち大変そう」

 

そんな言葉がポロッと出てしまう。

 

「だな。助けてやれば?」

 

この時、この日初めて彼から声をかけられる。

ようやく聞けた彼の声。それなのに、全然嬉しくない。

 

私は何も言い返すことができず、ただただ下を向いている。

 

 

 

 

 

グイッ

 

 

そんな時、ふいに私の手が引かれた。

 

「あー、おまえらすまん。俺こういうのマジ苦手なんだわ。ここまで並んどいてあれだが、先に外出てるわ。じゃっ」

 

そう言うと、彼は私の手を引き途中退出口へと向かう。

 

「ちょ、ちょっとヒッキー!?」

 

結衣から声がかけられるが、彼は振り向きもしない。

私は突然の事に驚き、ただ彼の手に引かれるまま外へと向かう。

外へ出ると、先程まで真っ暗な建物の中にいたからか日差しがとても眩しい。

 

「ねぇ、いきなりどうしたの?」

 

「すまん」

 

「なにが?」

 

「今日の事だよ。ここに来ること、ちゃんと伝えてなくて、すまん」

 

「……別に。逆にごめんね、せっかく結衣や雪ノ下さん達と来たのに私がいて」

 

つい、本音をぶつけてしまう。

 

「いや、別にあいつらと来たかったわけじゃ…」

 

「私に内緒にしてたんだからそういう事でしょ?もういいよ、私帰るから。優美子達には私から後で謝るから何も言わなくていいよ」

 

そんな言葉を投げつけて、私は彼に背を向ける。

それでも彼は、私の手を離さない。

 

「違ぇんだよ。いや、こんな事言っても言い訳にしか聞こえないだろうが聞いてくれ。俺は今日、おまえがここに来るのを知ってた」

 

「どういう事?」

 

「今クリスマスイベントの件で奉仕部に依頼がきてるのは話しただろ?それの参考のためにっつー事で平塚先生にチケットもらってここに来ることになったんだが、チケットが一枚余ってな。それで一色が葉山を誘うような事言ってたから、もしかしたらと思って三浦に来るのか聞いたんだ」

 

そういえば優美子とも連絡先交換してたっけ。

でも…

 

「なんでそこで優美子なの?」

 

「三浦におまえを誘うよう頼むためだ」

 

「直接誘えばいいじゃない」

 

「…………………理由、言わなきゃダメか?」

 

「言うか手を離すかどっちかにして」

 

「はぁ……マジか。……………んだよ」ボソッ

 

「聞こえない。手離して」

 

「恥ずかしかったんだよ!だいたい、こんなリア充の巣窟みたいなとこに彼女誘うとか、ぼっちの俺にはハードル高すぎたろ!ぼっち舐めんな!」

 

え?でも…

 

「でも、だって、駅で…」

 

「あ?あー、あれは演技っつーか、おまえが来るのを知らなかったふりしといたほうがネタばらしした時にサプライズっぽいって三浦がだな…完全に逆効果だったみたいだが。ちなみに今日俺がここに来る事を当日まで黙ってろってのも三浦の指示だ」

 

「何それ…」

 

「ちなみに、ここで途中退出すんのも予定通りだ。途中退出してネタばらし、で、ここから俺とおまえの二人はあいつらとは別行動。想定外だったのはおまえの機嫌が明らかに悪くなってたとこだな」

 

「私、顔に出てた?」

 

「まぁな。というか三浦もおまえの事、気にしまくってたぞ?気づいてなかったのか?」

 

「それどころじゃなかったもん。じゃあ列に並んでた時、戸部っちのこと助けてやれって言ったのは?」

 

「あれは八幡ジョークだ。少しでも機嫌を直してもらおうと思ってな」

 

「完全に逆効果だったね。今ならいいトベ×ハチが書けそうだよ」

 

「本当に勘弁してくれ…まぁ俺からの言い訳は以上だ。文句があるならいくらでも言ってくれ。俺もちゃんと謝りたい」

 

「なら言わせてもらうね。まず、そんなふうに考えていたとしても、今日の事教えてくれなかったのはやっぱり嫌だった」

 

「すまん」

 

「それに、さっき結衣達と写真を撮った時、近かったし赤くなってた」

 

「うぐ…それは不可抗力で…いや、すまん」

 

「あと、おまえって誰?」

 

「すまん、姫菜。これでいいか?」

 

「………最近、一緒にいられる時間が減って、寂しかった。依頼のお手伝いの時は結衣や雪ノ下さん達と一緒にいるって思うと、不安だった」

 

「………すまん」

 

「そんな不安な時に、私の目の前で結衣や雪ノ下さん達と仲良くしてるところなんて見せられたら…私……」

 

これ以上、言葉が出なかった。

こんな事を言ったら彼が困ってしまうのもわかっていた。

何より、こんなに弱い自分が嫌になりそうで。

あーあ。いつから私はこんなに変わっちゃったんだろ。

私は腐女子なのに。男同士に萌えるはずなのに。

恋って、人をこんなにも変えちゃうんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ

 

 

 

言葉を途中で止め、俯いてしまっていた私を、ふいに彼が抱きしめる。

 

 

 

「本当にすまん。またやらかしちまったな。姫菜は俺の事をそんなに考えてくれてたっつーのに、俺は恥ずかしいなんてくだらない理由で余計な心配かけてたんだな」

 

 

人一倍人目を気にするはずの彼の突然の行動に、私は驚いていた。

 

 

「前にも言ってくれてたのにな。他の女といるところを見るだけで嫉妬してくれるような姫菜が、今日みたいな事をされて、いい気分になるわけなかったわ。また軽率な行動とっちまった。本当に俺、どうしようもねぇな」

 

「ち、違っ、八幡くんは別に…」

 

「いや、俺が悪いだろ。けどよ、その、なに、そこまで不安にならなくてもいいんじゃね?」

 

なるよ。不安になる。

八幡くんが思っている以上に、周りの人達は八幡くんを意識してる。

そんなんじゃ…

 

 

 

「俺が好きなのはおまえだぞ、姫菜」

 

 

 

へ?

 

 

「は、八幡くん、ちょっと今のよく聞こえなかった」

 

「ばっか、んなわけねーだろ。言っとくが二度は言わん」

 

そう言うと、八幡くんは持っていた鞄からメガネを取り出し、かける。

そのメガネは、あの時私が選んだメガネ。持ってきてくれてたんだね。

 

「ほれ、さっさと行かねーとあいつら出てきちまうぞ?それとも帰るか?」

 

「帰るわけないじゃない…八幡くん、罰として今日は一日、言うこと聞いてもらうからね」

 

「またそれか…ロクなことにならないんだよな…」

 

「知らない。いいから、行こ?」 

 

そう言って、今度は私が彼の手を引き歩き出す。

 

 

 

 

 

私は単純だ。

さっきまで、負の感情でいっぱいだったのに。

今すぐにでも、この場から立ち去りたいと思っていたのに。

彼から言われたあの一言だけで、全部どうでもよくなっちゃった。

ようやくはっきりと聞くことができた、彼の気持ち。

 

今はちょっと、ちゃんと彼の顔が見れない。

私に好きだと言ってくれた彼の顔以上に、今の私の顔は真っ赤だから。

 

今日はうまく笑えないと思ってたけど、今の私は、多分きっと、ちゃんと笑えている。

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回は文字数が少なくて申し訳ありません。

その分後編をガッツリと書いているのですが、前編よりも色々と動きが…
詳しくは次回のお話で!

ちなみになんですが、皆様はアニメ見られましたか?
アニメを見た方ならわかると思いますが、スペースマウンテンに並んでる時の八幡と姫菜のやりとり、あのなんとも言えないやりとりが個人的にすごく好きです。

次回はディスティニーランド編の後編。
後編も引き続き姫菜視点になります。

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