戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフへの途~   作:Hermes_0724

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第三十七話:狐炎獣

ディル=フィリーナ(二つ回廊の終わり)世界の誕生に伴い、旧世界で生きていた様々な種族たちは、新世界の各地に「飛ばされた」と言われている。これは、旧世界の大陸同士が融合したためであり、島国で生きていた人間族が、気が付いたら大陸の中央部にいた、といった例も存在している。旧世界同士の融合は、そこに生息していた多くの種族たちにとって「災厄」であったことは言うまでもない。

 

しかし同時に、新世界の誕生はイアス=ステリナ世界の「神々」を目覚めさせる契機にもなった。三神戦争で戦った古神たちは無論、各地の「地方神」も覚醒をしたのである。そしてその中には、後代においても独自の生存圏を確立し、生き続けている「地方神」も存在している。その代表例が「ディスナフロディ神権国」を統治する地方神「ディスナ帝」である。

 

ディスナ帝は、イアス=ステリナ世界においては、島国を統治していた地方神である。初代から「神の血統」によって代々の帝が続き、新世界誕生までその血脈は続いた。やがて新世界誕生に伴い、初代帝にして神であった「太陽神(アマテラス)」が覚醒し、当代の帝に乗り移った。当時の民衆たちは混乱の極みであったが、ディスナ帝は民衆たちをまとめあげ、民族的文化の消滅を食い止めたと言われている。

 

新世界誕生において、ディスナ帝は、自分が統治していた民族と離れずに済んだため、統治者として後代まで残っている。しかしそれは幸運な事例であり、多くの場合は、地方神と民衆とが引き離されてしまった。地方神は、その土地に生きる民族的信仰心に極めて依存している。そのため、多くの地方神が民族離脱によって消滅をしたと言われている。

 

 

 

 

秦南國は、行政府こそ見るべきものは無いが、その文化はディアンを魅了していた。転生前のディアンは、米を主食としていた。東方諸国では、北部は麦文化であるが、南部は米文化である。「箸」を握り、「飯椀」に盛られた白米と、醤油を掛けた焼魚という朝食に、ディアンの涙腺は思わず緩みかけた。

 

『美味い!出来ればもう少し、精米をして欲しいが、五分づきでも十分に食えるな』

 

レイナたちは、茹でた卵に塩を掛けて食べている。どうやら毎日の米に飽きてきているようだ。グラティナが横目でディアンを見る。

 

『よく飽きないな。もう五日間も、米しか食べていないではないか』

 

『そうか?確かに米だが、食べ方は色々と違ったはずだぞ?』

 

『最初のカレーは、まぁ良い。しかしその後は、雑炊、炒飯、粥程度で、あとはみんな「ただ炊いただけ」の米ではないか』

 

『何を言っている。米と共に、様々な「副食」があったではないか。オレもお前たちを想って、苦労して料理をしたのだぞ?炒めた野菜、湯がいた肉、揚げた魚…』

 

グラティナは溜め息をついた。ソフィアは笑ってしまった。この数日、ディアンは宿の調理場を借り、自分で料理を作っている。およそ「魔神」とは思えない。ディアンの料理の腕は、確かに一流であった。宮廷料理に慣れているソフィアでさえ、ディアンの作った料理に魅了されていた。グラティナの不満そうな顔に、ディアンは笑って肩を竦めた。

 

『わかった。では今夜は久々に、外に食べに行こう。秦南國の文化をもっと見てみたいし、そろそろこの先の情報を仕入れないといけないからな』

 

そう言って、ディアンは美味そうに米を掻きこんだ。

 

 

 

 

 

『仙狐?つまり、キツネが化けた魔物…ということか?』

 

夕刻、ディアンたちは秦南國の首都「臨淄」の酒食店で食事をしていた。円卓の上には子豚の丸焼き「烤乳猪」や、鮫のヒレを煮込んだ料理「紅焼排翅」などが並ぶ。男一人に女三人という組み合わせで、しかも明らかに西方出身者であるため、ディアンたちはどこに行っても目立った。酒食店も最初は躊躇していたようだが、ディアンが次々と「高級料理」を頼んだため、顔が綻んでいる。ディアンの質問に店主が応えた。

 

『ここから南東に行くと、獣人たちの国「マジャヒト王国」があります。その国境には火山地帯がありましてね。そこにキツネ様が住んでいらっしゃるのです』

 

『それは「九尾狐」と呼ばれるものではないか?』

 

ディアンは前世の知識から、中つ国の妖怪の名を挙げた。店主は首を傾げた。どうやら知らないらしい。

 

『秦南國の民衆の中には、仙狐を神として崇める人もいます。特に、火山地帯近くの村々では仙狐信仰が強く、毎年、酒を奉納しているそうですよ』

 

『面白いな。是非、見てみたいものだ』

 

醤油と水飴などで味付けをした豚三枚肉の塊が出される。塊肉と葱を(パオ)で包み、食べる。女たちも、米以外の料理に満足しているようであった。

 

 

 

 

 

宿に戻ると、ディアンたちはその後の方針について話し合った。ディアンの目的である「大禁忌地帯」に行く為には、海沿いに南東を進むのが最も近いが、獣人国「マジャヒト王国」はまだしも、その先のルーン=エルフ族の大森林は通れるか疑問であった。ターペ=エトフと友好関係のあるトライスメイルでさえ、ディアンたちの立ち入りは許していないのだ。

 

『今日の話にあった「仙狐」にはぜひ会ってみたい。そのためにも、南東のマジャヒト王国を目指そう。だが、その先は陸路で行くか、内海を船で渡るかは考えなければならんな。出来れば両方とも見てみたいが…』

 

『一度、ルーン=エルフ族の杜に行ってみたらどうかしら?エルフたちと交渉して、通過が許されないのであれば、船で行けば良いと思うわ。たとえ通過出来なくても、交渉を通じて何か情報が得られるかもしれないし』

 

『そうだな。だがその前に、私はマジャヒト王国が気になる。獣人が建てた国なのだろう?私の知る獣人たちは、皆が素直で心優しく、純朴な者たちだった。だが、国を興すというようなことにはあまり関心が無いように見ていたのだが…』

 

グラティナの意見には、ディアンも同意した。獣人たちは集落を作り、狩猟と農耕で大らかに生活をするのが一般的だ。国家を創るとなると、そこに「階級」と「政治」が生まれる。ディアンから見ても、獣人と政治は、もっとも離れた存在であった。ターペ=エトフの獣人族代表でさえ、細かな政治話は苦手としているのだ。

 

『誰かが、獣人たちに知恵をつけた、ということではないでしょうか?例えば「大魔術師」とか』

 

ソフィアが仮説を提示した。この途は、およそ七十年前にブレアード・カッサレが通った途である。ブレアードであれば、獣人たちを動かし、国を興すことも可能だろう。だがディアンはその可能性を否定した。

 

『ブレアードであれば、何らかの影響を与えることも出来ただろうな。だが当時のブレアード・カッサレは、先史文明期の知識を得ることに情熱を傾けていたはずだ。相当な情熱が無ければ、国家形成は出来ない。いかに大魔術師とは言え、二つを同時に成し遂げることは不可能だ』

 

『ここで考えても仕方が無いわよ。行ってみましょう?行けばきっと、答えを得られるわ』

 

レイナの「まとめる一言」に、全員が笑って頷いた。

 

 

 

 

 

…東方列強諸国は、数百年間にわたって国家統合と分裂を繰り返し、戦国の時代が続いていた。だがその中で、民衆たちは逞しく生き延び、様々な思想や文化が花開いた。人間族が多いため、統治機構は人間族を対象として設計されてはいるが、機構そのものは西方諸国で見受けられる王政と、大して変わりは無い。だが、西方とは大きく異なる部分として「登用制度」が挙げられる。西方では、宰相の地位はその息子が継ぐことが多いが、東方諸国では役人の息子が役人になるとは限らない。親の能力を子が受け継いでいるとは限ら無いからだ。そのため、実際の「働き」を評価し、論功行賞を持って昇進昇格が決定される。無論、人間である以上は多少の贔屓眼、縁故関係などもあるが、東方諸国は原則として「無名であっても、有能な人材」が登用されるのである。これは、戦国の時代が長く続いたためだと思われる。戦争という現実では、「著名な親を持つ無能な人間」よりも「出身は奴隷だが有能な人間」の方が、勝利を収めるからである。登用制度には改善の余地があるものの、この「唯才」の基本精神は、西方諸国も参考にすべきと思われる…

 

羽筆を置き、ディアンは伸びをした。東方見聞録は、下書きなどがかなり溜まってきている。東方諸国を離れる前に、ある程度の整理をしておく必要がある。ディアンは、単純な「紀行文」にするつもりは無かった。「カッサレの魔道書」は、様々な絵が描かれている。「文字と絵」という組み合わせの力をブレアードは知っていた。文字だけならば、読み手の想像力に任せるしかない。だが絵を描くことで、その想像の幅を限定させ、書き手の伝えたいことをより明確に伝えることが出来る。ディアンも尊敬する先人に習い、要所要所で絵を入れていた。ターペ=エトフに戻ったら、イルビット族の芸術家に協力を要請するつもりである。文学としても芸術作品としても、後世に残る作品にしたかった。

 

『ディアン、入るぞ』

 

グラティナが入ってきた。寝台に並んで腰を掛け、しばらく言葉を交わし、共に倒れる。互いに愉悦を求め合い、徐々に声が大きくなる。レイナとはまた違う味に、ディアンは満足して果てた。

 

 

 

 

 

ソフィア・エディカーヌは、馬に揺られながら目の前の男の背中を眺めていた。旅を共にするようになってしばらく経つが、未だに掴みかねていた。野獣の群れに襲われた時は、男は殺傷を禁じ、追い返しただけであった。その一方で、野盗に囲まれた時は、皆殺しを命じた。しかもあろうことか、その野盗たちと言葉を交わし「自分たちのやっていることを悪と感じないか?」などと質問をした上でである。その時の様子を思い出すと、吐き気がこみ上げる。男も使徒二人も、眉一つ動かさずに平然と殺戮をした。目の前に落ちてきた首を思い出す。恐怖で貌を歪め、舌を飛び出させた首を見て、自分は嘔吐した。しかしその翌日には、熱を出していた旅芸の子供を介抱し、エルフ族の貴重な薬を惜しげも無く渡している。「善悪」「優厳」などの判断基準が、まるで見えないのである。

 

さらに「夜」においても疑問であった。自分から見ても嫉妬を覚える程に美しい使徒二人を侍らせ、夜な夜な、相手をさせている。どう見ても「女好き」と言えるだろう。その一方で、自分も含め、それ以外の女性には一切触れようとはしない。魔神であれば、人間族のみならず睡魔族や飛天魔族など、あらゆる女性たちを星の数ほどに侍らせ、快楽の園を造ることも可能であるはずなのに、まるで関心が無いようである。そういう意味では、「女好き」と一括りにも出来ないだろう。時には二人同時に抱くこともあるようで、その品性にはソフィアも疑問を感じざるを得ないが、昼間などに普通に話をしている限り、男の知性も品性も道徳心も、尊敬に値する程なのであった。昼と夜との顔がまるで違うのである。

 

(大人物なのは間違いないのでしょう。旅はまだ長い。焦ることはありません…)

 

考え事をしていると、ディアンが声を掛けてきた。ソフィアは思索の海から抜け出した。

 

『ソフィア、お前に関心があれば、レイナから「練気」について習ってみないか?』

 

『レンキ?それは何です?』

 

『非常に簡単に言えば、魔神の気配に耐えられるようになるための訓練だな。もう少し正確に言うと、心を鍛えることで物事に動じなくなることだ。どんな王や武将を相手にしても、冷静でいられるようになる。正直、いまのお前では不安なのだ。ターペ=エトフに連れて行ったとして、はたしてインドリト王の前で冷静でいられるかがな…』

 

『インドリト王の気配は、それほどに強いのですか?』

 

『いや、強いというわけでは無い。魔神の様な威圧する圧倒感は無い。ただインドリト王を前にすると、多くの民衆たちは「包み込まれるような感覚」を持つ。インドリト王は「この王の前でなら、安心してさらけ出してしまっても良い」という安堵感を与える。考えようによっては、魔神よりもタチが悪い。抵抗心そのものを無くしてしまうからだ』

 

ソフィアは唾を飲み込んだ。ディアンの言った内容は、東方諸国の概念「徳」と同じであった。王は徳を備えなければならない。徳を備えることで、他者からの信頼と協力を得ることが出来る。その極みに達すると「黙っているだけで人がついてくる」という存在になるが、それを実現した王をソフィアは知らない。

 

『まぁ、これから旅をする上で、心の強さは必要になるだろう。大して難しい修行ではない。ただ木刀を持って、レイナと向かい合うだけだ。それで半刻立てていたら、魔神の気配に耐えられるだろう』

 

ソフィアは頷いた。レイナとは真剣を持って相対したことがある。立っただけで気を失ってしまった。あれ以来、ソフィアの中では忸怩たる思いがあったのだ。

 

 

 

 

 

マジャヒト王国との国境から少し南に下ると、火山地帯がある。そこに、悠久の時を生き神へと転じた魔獣「仙狐」が存在する。ディアンたちは火山地帯まで半日ほどの距離にある集落に入った。マジャヒト王国と秦南國は、同盟関係では無いものの、特に敵対をしているわけでは無い。そのため集落は平和そのもので、火山地帯からの温泉もあり、ある種の桃源郷であった。

 

『最初に西ケレース地方を訪れた時を思い出すな。ドワーフ族たちの集落も、こんな感じだった』

 

『久々の温泉ね。南方の珍しい果物もあるでしょうし、楽しい滞在になりそうね』

 

集落では一軒だけ宿があった。四部屋しかない小さな宿であるが、幸いなことにディアンたち以外の旅行者はいなかったようである。ディアンは全部屋を借り切った。一人一部屋という贅沢に、宿主は目を丸くしたが、手付として拳大ほどの銀塊を渡すと顔を綻ばせ、何泊しても構わないと言ってくれた。ディアンが仙狐について質問をすると、店主は火山地帯の場所を示してくれた。

 

『ここから半日ほど行きますと、仙狐様をはじめとする「狐炎獣(サエラブ)」の縄張りとなります。仙狐様を信仰する者たちが、この集落を訪れたりするので、宿の経営も成り立っているというわけです。あぁ、貸し切りにしても大丈夫ですよ。先日、祭りが終わったばかりで暇な状態ですから』

 

『出来れば、仙狐と会って、話をしてみたいのだが…』

 

そう言うと、店主は真っ青になって手を横に振った。

 

『だ、旦那!それは止めたほうが良いですよ。確かに、私たちは仙狐様に酒を奉納しています。ですがそれは、縄張りの境界にある祭壇に運んでいるというだけで、縄張りに入ってはいません。仙狐様は、酒を好まれ、奉納の見返りとして、この辺り一帯の魔獣や盗賊たちを追い払って下さっているのです。もし怒らせでもしたら、それこそ大変なことに…』

 

『ふむ。酒を好むか…』

 

『仙狐様は、多くの狐炎獣を率いています。私は子供の頃、一度だけ狐炎獣を見たことがあるのですよ。大きな体格で目も鋭く、一見すると猛獣に見えますが、人を超えるほどに賢く、またとても優しいのです。火山地帯は、子供の立ち入りは禁じられているのですが、禁止されると逆に入りたくなるのが子供というもの。祭壇近くまで忍び込んで遊んでいた子供が怪我をし、狐炎獣に救われたって話までありますからね』

 

ディアンは腕を組んで考えた。この集落の文化であり信仰の対象である。尊重をしなければならないだろう。だが、仙狐に会ってみたいという思いもある。ディアンはふと、あることを思いついた。

 

『奉納するものは、いつも酒なのか?食べ物は奉納していないのか?』

 

『食べ物ですか?いえ、私が子供の頃から、奉納物は酒と決まっていますね』

 

『そうか… ところで、この村に「豆腐」はあるか?』

 

急な質問に宿主は首を傾げながら、首を縦に振った。

 

 

 

 

 

『本当に、こんなモノで仙狐に会えるのか?』

 

レイナもグラティナも半信半疑であった。集落に着いてから二日間、ディアンは料理に没頭していた。酒に替わる奉納品を作っていたのだ。祭りでは近隣からも人が来るため、祭壇までの出入りは認められている。ディアンは念のため、集落の長に祭壇見学の許可を得て、奉納品の酒と共に、ある食べ物を作ったのである。

 

『酒というのは、おそらく仙狐の好物なのだろう。だがオレの知る限り、キツネと言えば酒ではなく食い物なのだ。我を忘れる程の好物がある』

 

『確かに、美味しかったけど、アレが好物なの?』

 

『まぁ、試してみよう』

 

半日ほど、火山帯を歩く。流石に気温が高くなっている。ディアンは湿らせた布で奉納品を包み、水系魔術を掛けて温度が上がら無いようにしていた。やがて、一本道の先に石造りの祭壇が見えてくる。木の柱で左右を囲まれ、瓦の屋根がついている。両側には岩山があり、ここから先への立ち入りを禁じている様子であった。

 

『さて、まずは仙狐を呼び出す必要があるな…』

 

ディアンはそういうと、人間の貌を外そうとした。魔神の気配が漂えば、仙狐が出現すると考えたからである。だがその前に、周囲を取り囲むように炎が立ち上った。

 

『…その必要は無いぞえ』

 

炎の中から大型の狐を複数従え、着物を着た女が姿を現した。手には煙管を持ち、頭にはキツネを思わせる耳を生やしている。圧巻なのは「尾」であった。見事な九尾である。

 

『人間二匹にヴァリ=エルフ一匹、そして…』

 

妖艶な仙狐はディアンを見て目を細めた。

 

『妙な者よのう…肉体は魔神なのに、なぜか魔神らしからぬ行動をしておる。お主、人間か?それとも魔神か?』

 

『ヒトであり魔神です。申し遅れました。私はこの地より遥か西方の国、ターペ=エトフにて王太師を務めている者、ディアン・ケヒトと申します。この三人は私たちの旅の伴であり、うち二人は、私の使徒です』

 

三人がそれぞれに挨拶をした。仙狐は頷くと、質問を続けた。

 

『して、その魔神が何用でこの地を訪れたのじゃ?(ヌシ)らは確かに、我らの地を侵してはおらぬ。じゃが、魔神が来たとなれば、警戒をするは当然であろう?まして、主は先ほど、我を呼び出そうと考えていたようじゃ。言え。主の目的は何じゃ?我と()うて何をするつもりであったのじゃ?』

 

『言葉を交わしたかったのです。私は、ターペ=エトフの国王より、東方見聞の役目を与えられています。私たちの住む土地では、仙狐殿および狐炎獣殿は住んでいません。まずは会って言葉を交わしたかったのです。それともう一つ、私が作った奉納品があります。それを捧げたかったのです』

 

すると仙狐はクツクツと笑った。

 

『何とも変わった魔神よのう。言葉を交わしたかったと… 確かに、主からはまるで闘気を感じぬ。良かろう。その言葉は信じよう。して、その奉納品とやらは何じゃ?何やら先ほどから、狐炎獣たちが関心を持っておるようじゃが…』

 

ディアンは祭壇登り、革袋から酒と共に、自分が作った食物を置いた。仙狐は思わず、声色を変えた。

 

『ぬ、主は何者じゃ!なぜ、これを知っておる!』

 

ディアンが自作をした料理「いなり」を前に、仙狐も狐炎獣も色めき立った。

 

 

 

 




【次話予告】

狐炎獣の縄張りの奥にある社殿にディアンたちは招かれた。仙狐との話の中で、狐炎獣を超えた「神」の存在を知る。ディアンは、「現神の呪い」を解く方法を知る為に、狐炎獣の神「空天狐」との対話を求める。


戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフ(絶壁の操竜子爵)への途~ 第三十八話「空天狐」

・・・月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也・・・

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