戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフへの途~   作:Hermes_0724

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ちょっとダークな話が多かったので、何か笑いがほしいと思って書きました。まぁ遊びです。楽しんでください。


外伝:魔神亭の出店料理

ターペ=エトフ歴二百年を記念する「建国記念祭」まで、あと一週間となった。二百年という節目もあり、今年はさらに盛大な祭りになるはずである。魔神亭の亭主は、出店で出す食べ物について悩んでいた。自分の店を持って以来、様々な料理を出してきた。節目に合わせて、ターペ=エトフの国民が食べたこともない料理を出したいと思っていたのである。自室で悩んでいると、第三使徒が食事を知らせてきた。

 

『ほう、今日は「餃子」か・・・』

 

『久しぶりに、東方料理を食べたいと思って作ったのです。以前、ディアンが作った「餃子(チャオズ)」を工夫してみました』

 

ディアンが作ったのは焼いたものだが、第三使徒ソフィアは、水餃子を作ったようである。鶏骨と鶏足から出汁を取り、芹那などの野菜類と獣肉を具にした餃子を入れる。辛子を合わせた味噌を冷やした棒野菜につけて食べる。中々の味である。使徒たちの料理の腕は、この二百年で格段に上がった。主人の料理好きの影響であろう。食べながら、祭りで出す料理について、使徒たちに聞く。

 

『去年は確か、香辛料をかけて焼いた腸詰め肉と葉野菜を麺麭で挟んだやつだったな。歩きながら片手で食べられるし、好評だった。今年もアレをやったらどうだ?』

 

『でも、今年はさらに賑わうでしょうから、むしろ落ち着いて食べれる場所を作ったほうが良いのではないかしら?カレーなんかどう?』

 

第一、第二使徒たちは、ディアンの考えを読んでいなかった。去年と同じものを出すなど、店の評判に関わるし、カレーはターペ=エトフ中の何処でも食べられる。ディアンの考えに沿ったのは、第三使徒だった。

 

『建国二百年祭となれば、各店も力を入れて料理を出してくるでしょう。祭りの出店は、店の評判を左右します。ターペ=エトフの飲食店は、どこも西方からアヴァタール地方の料理が多く、東方料理を出す店は殆どありません。以前、饅頭を出したときには、東方からの技術者たちが行列を作りましたね。今回も、東方料理を出してはどうでしょう?』

 

『ふむ・・・アレをやってみるか!』

 

ディアンの中に、一つの案が浮かんだ。

 

 

 

 

 

厨房に並べられた材料をレイナが確認していく。

 

『・・・豚の背骨、脚骨、背脂、肩肉の塊、大蒜、葱、人参、葉野菜、大豆芽、醤油、黄酒、あとこれは?』

 

『オウスト内海西方で取れる海藻「ケルプ」を干したものを一晩、水につけた。ケルプは、西方諸国では殆ど使われていないが、これで良い出汁を取ることが出来る』

 

ディアンは早速、料理を始めた。

 

『まず深鍋に水を張り、豚の背骨と脚骨を入れて茹でこぼす。骨を綺麗に洗って、二つに折る』

 

普通なら槌を使うが、ディアンは簡単に折っていった。

 

『再び鍋に水を張り、折った背骨、脚骨と小さめに切った背脂、大蒜、葱、人参を入れる・・・』

 

大蒜の房を横に切ってそのまま放り込む。葱や人参も大雑把に切って入れる。レイナは背脂と大蒜の量に驚いた。普通の料理ではあり得ない程の量である。

 

『次に豚肩肉だ。筋肉などを処理し、転がすように丸め、丈夫な木綿糸で縛る。崩れないようにするための処理だ』

 

この量も尋常ではない。豚一頭分はあるだろう。全てを鍋に入れ、炭火にかける。

 

『沸騰したら灰汁を取り、ケルプ水で量を調整する。四刻後に肉を取り出す。全部で最低でも、八刻は火にかけ続ける。その間に・・・』

 

ディアンは挽いた小麦が入った袋を用意した。木の板に小麦粉の山を作り、中央を凹ませる。そこに水を入れ、混ぜる。

 

『この水は、通常の井戸水に「特殊な水」を加えている。カン水と呼ばれる水だ。カン水は、オウスト内海の塩水を煮詰めて作る・・・』

 

水量を調整し、ギリギリの水の量で小麦粉を捏ねる。魔神の膂力によって、みるみる小麦粉が捏ねられていく。やがて塊になると、棒を使って伸ばし始める。棒も特殊だ。丸太に近いほどに太い。さらに中には鉄棒を挿している。通常の人間であれば、持つことすら困難なほどに重い。ディアンはそれを片手で軽々と扱う。

 

『これで麺にコシが出る。ある程度の厚さまで伸ばしたら、太めに切っていく・・・』

 

麺が完成すると、木箱に並べる。上から濡らした布をかける。乾燥させないためだ。麺を作る途中でも、鍋を混ぜたり、使った道具を洗ったりと目まぐるしく動く。レイナは毎度のことながら、主人の手際の良さに呆れていた。使徒三人と弟子三人、自分も入れて七名分の料理が、見る見る完成していく。

 

『あと一刻で、肉を取り出すぞ。その肉を漬け込むタレを作る。醤油と黄色酒、干しケルプを刻んだモノを鍋に入れ、沸騰させない程度に火にかける・・・』

 

作り終わったタレは、口の広い壺に入れる。そこに、取り出した肉を入れる。

 

『漬けすぎると、塩辛くなるからな。四刻程度が丁度よい。つまり、鍋が完成した時に、肉も完成する。さて、その間に野菜を用意するか・・・』

 

適当に切った葉野菜と大豆芽を用意する。大豆芽は大豆の部分を取り除いておく。その量もかなりの量だ。レイナは不安に思った。

 

『ディアン、いくらなんでも多すぎない?その量だと、一人あたり山盛りの野菜になるわよ?』

 

『そうだ。「野菜増し」だな』

 

ディアンは笑った。何が可笑しいのか、レイナは首を傾げた。沸騰した湯に葉野菜と大豆芽を入れ、火を通す。茹で上がった野菜を取り出し、ザルに入れる。次に、大蒜を用意する。四房である。手早く皮を向いていく。それを包丁で潰し、細かく刻む。大蒜の山が出来ていく。さすがに多すぎだ。レイナが止めようとしたら、ディアンは笑みを浮かべながら独り言を呟いた。

 

『大蒜は「増し増し」だな』

 

ディアンは仕上げに取り掛かった。沸騰した湯に太めの「麺」を入れていく。その間に漬け込んだ肉を用意する。木綿糸を解き、かなり分厚く切る。深底の器を七つ並べ、肉をつけていたタレを入れていく。深鍋から上層の脂を取り、器に適当に入れていく。

 

『良し、仕上げだ』

 

柄杓で深鍋から汁をすくい、濾しながら器に注ぐ。茹で上がった麺をそこに入れ、野菜を山のように盛り、厚切りの肉を三切れ、野菜に立てかけさせるように並べた。大匙二杯分の刻んだ大蒜を載せ、肉をつけていたタレを野菜の上にかける。最後に、背脂をすり潰して、野菜の上に振りかける。ディアンは最後に、朗らかに呪文らしきものを唱えた。

 

『完成だ!大蒜増し増し野菜増し辛め脂(ニンニクマシマシヤサイマシカラメアブラ)!』

 

レイナは見ているだけで胸焼けをするような思いがした。

 

 

 

 

 

『・・・コレは何という料理なのだ?大体、どうやって食べるのだ?』

 

『東方料理の「拉麺」の一種ですね。量は・・・普通ではありませんが』

 

『違う。これは「二郎」という食べ物だ。「拉麺」ではない!』

 

『ジロー?』

 

ディアンは箸を手にとって、野菜から食べ始めた。自分でも予想以上の出来である。使徒たちも見よう見まねで食べ始める。グラティナは気に入ったようで食べ進めるが、レイナとソフィアは、途中で音を上げてしまった。結局、完食をしたのはディアンとグラティナだけである。ソフィアは半分も食べられなかったようだ。

 

『ディアン、まさかとは思うけど、コレを祭りで出すの?』

 

『そうだ。旨かっただろう?』

 

『まぁ、美味しいことは美味しいのですが、量が・・・』

 

『ふむ・・・女性でも食べれるように調整はすべきか。出店である以上、あまり長居も出来ないだろうからな。この半分の量で出してみようか・・・』

 

『まぁ、半分なら食べられるかも知れませんが、正直、私はそれでも自信がありません』

 

『ふむ、その辺は調整するようにしよう。もともと、野菜増しにしたからな』

 

転生してから二百年ぶりの味に満足をしながらも、どこかで不満も感じていた。作った本人だけが、その理由を知っていた。

 

(「魔法の粉」は、この世界に無いからな・・・)

 

 

 

 

建国二百年を記念する「建国祭」は、過去にない程に盛大なものであった。魔神亭の出店にも行列ができる。出店のメニューは「小」と「大」の二種類しかない。大蒜や野菜の量は無料で増やすことが出来るため、若い獣人などがこぞって押しかけてきた。後夜祭の最後には、なんとインドリト王まで来たほどである。目の前に座る愛弟子に、店主は笑顔で尋ねた。

 

『ニンニク入れますか?』

 

 

 


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