戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフへの途~   作:Hermes_0724

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第六十三話:ウツロノウツワ

ターペ=エトフ歴二百四十年ごろに起きた「マクル動乱」は、バリハルト神殿のみならず諸神殿を驚愕させた。第一級現神であるバリハルト神を信奉するバリハルト神殿勢力は、ノヒア崩壊時には一時的に後退したものの、その後は徐々に勢力を回復させ、マクル動乱直前には、最盛期に近い力を持っていた。これは、ラウルヴァーシュ大陸において国家形成がある程度進み、冒険者や傭兵たちが活躍するようになったことが一因である。動乱直前のマクルには、西方から東方を目指す冒険家たちが溢れ、行商人たちも行き来する活況な街であったと言われている。

 

一方、マクルの街が活況を呈した背景として、セアール地方南部の異変も挙げられる。マクルの街は、ターペ=エトフ歴百六十年頃から建設が始まったが、時期を同じくして、セアール地方南部において、魔物が急増していることが確認されている。スティンルーラ女王国に残されている、第四代族長ティアナ・テレパティスの日記には、マクル建設当初のセアール地方南部が描かれている。

 

・・・先日、ドラブナから魔物の襲撃を受けたという知らせがあった。バリハルト神殿がこの地に進出してきて以来、魔物の数が増加している。そればかりか、これまではこの地にいなかったはずの魔物まで出現している。神殿との関係は不明だが、ドラブナには七魔神戦争以来、この地に伝わる「魔槍」が封じられている。万一にも、魔槍が魔物の手に渡るようなことがあれば、どのような事態が起きるか解らない。幸いにも、魔物は退けられたようだが、魔槍を封じるための「結界」が弱まっているようである。クライナから、何人かをドラブナに派遣する必要があるだろう・・・

 

魔物は作物を荒らし、民に害をなす存在ではあるが、その一方で貴重な素材を得ることにも繋がる。また冒険家や傭兵にとっては、自分の力を示す機会にもなる。マクルの街建設と共に、セアール地方南部に魔物が増加したことは、複数の記録からも明らかである。魔物討伐を目的として、各地から冒険家たちが集まり、マクルの街は急速に勃興したのである。セアール地方南部の変化と、バリハルト神殿との間に関係があるのかは、不明のままである。後世においても、この疑問についてバリハルト神殿は一切、答えていない。

 

 

 

 

 

『ハァッ!』

 

ダルノスが二振りの大剣を奮う。魔物が十字に千切れる。廃都ノヒアに入ったセリカたちは、襲い来る魔物と戦っていた。ノヒアは三百年近く前に滅びた街である。以来、魔物の巣となっていたが、最近になってその数が増えている。セリカ、ダルノス、カヤの三人は、廃都ノヒアで行方不明となった女性の救出を命じられていた。

 

『フッ・・・』

 

高速で動き、魔物を斬っていく。命までは取らない。傷を負った魔物は、散り散りになって逃げる。魔物の姿が消えたところで、セリカが剣を納めた。ダルノスは苦笑いを浮かべている。

 

『甘いな・・・確かに傷つければ、魔物は退くが、それは一時的だ。出来るだけ殺さないつもりなのだろうが、いつかその甘さが、命取りになるぞ』

 

『俺たちが命じられたのは、行方不明者の救出だ。ノヒアは魔物の縄張りだ。俺達の方が侵入者なんだ。殺すことはないだろう・・・』

 

ダルノスも剣を背に戻す。真顔になってセリカに言う。

 

『お前がそう考えるのであれば、これ以上は言わん。だが、魔物の中には、傷つける程度では退かないヤツも多い。バリハルト神に仕える以上、殺生は避けては通れないぞ?』

 

『解っている。殺さざるを得ない時もあるだろう。その覚悟はしているさ・・・』

 

『セリカは優しいからね。それがセリカの良いところだよ』

 

カヤは笑って先に進んだ。ダルノスは何も言わずに後に続いたが、その心中は複雑であった。バリハルト神は戦いにおいては苛烈な神だ。目的を達成するためには、手段を問わない側面がある。いつの日か、セリカと神殿とが対立をするのではないか?そんな不安を持った。

 

(まぁ、今回は初陣だから、言うのは止めておこう。戦い続ければ、いずれ甘さも消えるだろう・・・)

 

ダルノスは、自分をそう納得させた。

 

 

 

 

 

 

『嫌ぁぁっ!』

 

悲鳴が聞こえる。三人は足早に声の方向に駈け出した。地下に降りると、水が流れている。川に沿って上流に向かう。悲鳴と共に、耳障りな声が聞こえてきた。まるで蟲の鳴声である。

 

『ギャッギャッギャッ!俺の仔を孕ませてやるぜぇ~』

 

蟲のような身体をした魔物が、少女を組み敷いている。後ろから繋がり、生殖器を挿入している。既に数度放っているようで、青白い液体が零れている。他にも、犠牲となった全裸の女性たちが複数、倒れていた。その光景に、カヤが絶句する。

 

『やめろっ!』

 

セリカが剣を抜き、蟲型の魔物に怒鳴る。ようやく気付いたようで、頸だけが後ろに回る。黄色い眼が三人を見る。

 

『おぉ、そこにも雌がいるなぁ?雄には興味ねぇ。お前らをブッ殺して、その雌にも俺の仔を産ませよう・・・』

 

少女を突き飛ばし、魔物が襲いかかってくる。ダルノスが大剣を奮う前に、セリカが動いた。一瞬のうちに、六本の足の関節を斬る。

 

『ギャァァッ!』

 

蟲が吹き飛び、倒れる。全ての関節を斬られているため、動くことが出来ない。

 

『カヤッ!今のうちに、犠牲者の手当てを』

 

弾かれたように少女に駆け寄り、回復の魔法をかけていく。ダルノスが剣を構えたまま、蟲に向かって歩を進めた。トドメを刺すつもりなのだ。

 

『よせ、ダルノス!もうソイツは動けない。命を取る必要はない!』

 

『甘いぞ!魔物は生きている限り、人間に害を為す。ここで息の根を止めねば、また犠牲者が出る!』

 

ダルノスが剣を振り上げた時に、蟲が叫んだ。

 

『キェェェッ!出でよ、相棒っ!』

 

川の水面が膨れ上がると、蒼い鱗で覆われた巨大な竜が姿を現した。ダルノスが舌打ちをした。手加減をしたせいで、余計な魔物を呼び寄せてしまったのだ。だが今は、弟子を責めている場合ではない。

 

『セリカッ!コイツは蒼水竜(ブルードラゴン)だ!手を貸せ!』

 

ダルノスとセリカは二手に分かれ、水竜に斬りかかった。人を超えた速度と力で、堅い鱗を切り裂く。水竜も水を噴出し、セリカたちを攻撃するが、その速度についていかない。セリカたちが躱すたびに、壁に大きな穴が穿たれる。

 

『身妖舞ッ』

 

舞のような動きから、斬撃が放たれる。竜の頸は深々と切り裂かれた。ズウンッと地響きを立てて、竜は倒れた。

 

『あ、相棒ッ!』

 

蟲が文字通り、鳴声を上げる。ダルノスはそのまま、蟲に斬りかかった。だが僅かに動いた一本の肢で、蟲は川に飛び込んだ。

 

『ギギギッ!貴様らぁ!お、憶えていやがれぇっっ!』

 

蟲の捨て台詞に、ダルノスは舌打ちをして剣を背に収めた。後方から足音が聞こえてくる。バリハルト神殿の神官であるスフィーダ・ハムスとカミーヌ・セッテであった。

 

『こ、これは・・・』

 

『スフィーダ殿、カミーヌ殿、急いで犠牲者の保護を』

 

セリカの言葉に二人が動こうとしたとき、地響きが起き始めた。パラパラと天井から小石が振ってくる。

 

『マズイ・・・早く脱出するぞ!この洞窟は崩壊する!』

 

少女たちを抱え、セリカたちは地上への途を急いだ。後方では落盤を起こし始めている。セリカが振り返ると、水竜の死体に縋る小さな生き物が目に入った。

 

(あれは・・・水竜の子供か?)

 

親の遺体に縋るように、身体をすり寄せている。セリカの胸が痛んだ。だが助けようにも時間が無い。

 

『何をしている!セリカッ、急げっ!』

 

ダルノスが怒声を上げる。舞い上がる土埃の中、セリカたちは辛うじて、地上に戻った。

 

 

 

 

 

廃都ノヒアからマクルに向かう途上、セリカの表情は冴えなかった。バリハルト神殿からの使命は「行方不明者の救出」であった。それは果たせたが、彼女たちは深刻な傷を負っている。あの蟲に犯されていた少女は、発狂していた。カヤが魔法で眠らせたため、いまは大人しくなっているが、心の傷は大きいだろう。そして、あの水竜の子供も気になっていた。あの大きさは、生後間もなくだろう。独りで生きていくには、あまりにも小さすぎる。結果論ではあるが、あの蟲を殺しておけば、水竜を殺すことも無く、あの洞窟も崩壊せずに済んだだろう。自分の甘さが招いたことであった。自分を責める様子を見ていたためか、ダルノスは何も言わなかった。ただ、セリカの肩を叩いただけであった。

 

マクルの街に入ると、犠牲者たちはそのまま、バリハルト神殿へと移された。神官たちによって本格的な治療を受けるためだ。セリカたちも神殿へと入った。驚いたことに、神官長であるラウネー・クミヌール自らが出迎えてくれた。セリカは恐縮したが、ラウネーは微笑んで頷いた。

 

『オレノ様より、丁重に出迎えるように言われていたのです。詳細な報告は後ほど聞きますが、行方不明者全員を救出することに成功したとのこと、本当に見事です』

 

『恐縮です。私一人の力ではありません。ダルノス、カヤ、そして後添えにきたスフィーダ殿、カミーヌ殿にも、お力を借りました』

 

『その驕らない姿勢は、あなたの美点です。さぁ、オレノ様以下、上級神官たちが待っています。私に付いて来なさい』

 

セリカは正式なバリハルト神殿騎士ではない。そのため、神殿の奥に入るのは初めてであった。豪壮な造りの「奥の院」に入る。大司祭のオレノ以下、主だった神官たちが並んでいた。セリカ、ダルノス、カヤは大広間の中央に立ち、膝をついた。オレノが頷き、セリカに語りかける。

 

『戦士セリカよ、与えられた使命を果たしたこと、実に見事です。行方不明者全員を救出し、しかも神殿からの犠牲者は皆無であったと聞いています。重畳というものでしょう』

 

『お褒め頂き、ありがとうございます。ですが、犠牲となった女性たちが心配です。我々が着いた時には、既に・・・』

 

『解っています。現在、神官たちが力を尽くして、回復に当たっています。確認をしたところ、生命には別条ないとのことです。心の傷を癒すには、時が必要でしょう。彼女たちの回復を祈りましょう』

 

オレノ以下、神官たちは瞑目し、バリハルト神への祈りの言葉を唱えた。

 

『さて、戦士セリカよ、この度の活躍を認め、そなたを正式に、バリハルト神殿神官騎士とします。後ほど、神官長よりこれからの生活についてなど、説明を受けて下さい。そなたは剣と魔術を操り、大きな可能性を秘めています。そこで、そなたにある重要な使命を与えます。時は掛かるでしょうが、何としても成し遂げてもらいたい』

 

『騎士としてお認め頂きましたこと、誠に有り難く存じます。バリハルト神の名を汚さぬよう、精進致します。それで、使命とは・・・』

 

『ふむ、口で説明をするよりも、実際に見たほうが早いでしょう。ラウネー、セリカとカヤを案内しなさい・・・』

 

ラウネーに連れられ、セリカとカヤがある部屋へと案内される。カヤは既に知っているようで、顔色が青い。

 

『セリカ・・・気をしっかり保ってね』

 

小声で弟に注意を促す。その表情は、快活な姉とは思えない程に暗いものであった。セリカは疑問を持ちながらも、姉を心配させないように頷いた。扉に手を当て、ラウネーが小さく呪文を唱えた。パキッという音が鳴る。扉が開かれると、凄まじい邪悪な気配が溢れた。

 

 

 

 

 

セアール地方北部のある寒村にて、病人の手当てをしている女がいた。赤い髪を持つ、美しい女性である。脳裏に何かが走り、弾かれたように顔を上げる。

 

『この感覚は・・・』

 

赤髪の女性サティア・セイルーンは、黙ったまま立ち上がった。南に向けた顔は、心なしか青かった。

 

 

 

 

 

瘴気とも言えるほどに禍々しい気配の中をセリカは進んだ。カヤはセリカの背に隠れるようにしている。部屋の中央に台が置かれている。その上に、この瘴気の元凶が存在した。

 

『こ、これは・・・』

 

『それが、ウツロノウツワよ・・・』

 

黒に近い紅梅色の「ソレ」は、目玉のような二つの膨らみを持ち、生きているかのようにセリカを視ている。中央には孔が開いている。ちょうど、男根と同じくらいの大きさだ。セリカは、禍々しい気配に慄きながら、どこか惹きつけられている自分を自覚していた。

 

(コレは・・・これは駄目だ。こんなモノが存在していてはいけない。コレは、人を狂わせる・・・だが・・・)

 

股間が痛い程に張っている。もし、あの孔に挿れたら・・・コレと繋がることが出来たら、この世のものとは思えないほどの快感を得られるだろう。そう確信させるほどの「艶めかしさ」があった。絶世の美女が股を開き、自分を手招きしているようだ。

 

(欲しい・・・コレが、欲しい・・・)

 

セリカは思わず手を伸ばそうとして、慌てて引っ込める。気を強く保つ。取り込まれたら、自分は発狂してしまうだろう。だが、目を反らすことは出来ない。憑かれたように、セリカはウツロノウツワを視続けた。

 

『セリカッ!!』

 

カヤが大声を上げる。バチッという音がする。気づかぬうちに、ウツロノウツワに手を伸ばしていたのだ。カヤが肩を掴んで、セリカを引き剥がした。

 

『何を考えているのっ!触れようとするなんて!』

 

我に返ったセリカは、慌てて自分の手を見た。何ともない。ウツロノウツワは変わることなく、邪悪な気配を放っている。だがセリカは何かが落ちたように、もうソレに惹きつけられることは無かった。

 

『出ましょう・・・私、もう限界・・・』

 

カヤが弱々しく言う。セリカは頷き、扉へと向かった。出る前に一度だけ振り返る。ウツロノウツワは黙って、セリカを視続けていた。

 

 

 

 

 

『よく耐えましたね。辛かったでしょう・・・』

 

オレノは労りの言葉をセリカに掛けた。カヤは気分が悪くなったようで、ラウネーに連れられて別室で休んでいる。ダルノスは、一足先に退出をしていた。

 

『先に見てもらったのは、言葉で説明をするよりも早いと考えたからです。あの「ウツロノウツワ」は、バリハルト神殿に伝わる神器です。ですが、見てもらった通り、およそ神器とは思えぬ、禍々しい邪悪な存在です。いつ頃からバリハルト神殿に伝わるのか、もう誰も知りません。ですがこれまで、何人もの神官たちが、アレに取り込まれ、気狂いとなりました・・・』

 

セリカは自分の手を見た。確かに、あれは神器などというものではない。何故、あんなモノが神殿に存在しているのか・・・セリカの様子をみたオレノが、驚いたように尋ねた。

 

『ま、まさかウツワに触れたのですか?触れてなお、正気を保っているのですか?』

 

『はい、ほんの一瞬でしたが・・・』

 

『な、なんと・・・』

 

神官たちがどよめく。オレノは黙って、セリカを見た後、小さく呟いた。

 

『これは、バリハルト神のお導きかもしれません・・・』

 

オレノは顔を引き締めた。バリハルト神殿大司祭として、セリカに使命を下す。

 

『セリカよ、そなたへの使命を下す。ウツロノウツワの浄化方法を探索せよ。これまで、何人もの神官たちが、ウツワの浄化方法を探しました。しかし未だ、誰も成功をしていません。ですが、そなたなら・・・ウツワに触れて、なおも正気を保ったそなたであれば、成し遂げられるかも知れません。そなたは大きな可能性を秘めている。いずれ、神格者へと進むかもしれません。大変な試練ですが、何としても、成し遂げてもらいたい』

 

セリカは顔を引き締め、膝をついた。

 

『浄化方法探索の使命、確かに承りました。必ずや、見つけ出します』

 

 

 

 

 

『セリカ・・・大変なことになったわね』

 

セリカとカヤは、バリハルト神殿に与えられた家へと向かっていた。正式な神官騎士となれば、神殿から家を与えられる。二人とも公式には、まだ地位が低い。だがセリカがオレノの直弟子であること、そしてウツロノウツワ浄化という大使命を背負ったことから、神殿もそれなりの家を用意していた。屋敷というほどではないが、数部屋がある立派な家である。

 

『それで、これからどうするの?』

 

『正直、何から手を付けたらいいのかも解らないよ。取りあえず、今日はもう疲れた。ダルノスにも相談して、これからを決めたいと思う・・・』

 

『そうね、考えるのは明日からにしましょう。さぁ、部屋を決めないとね。私は大通り沿いが良いわぁ~』

 

カヤは燥ぎながら、勝手に日当たりのよい部屋を選んだ。その明るい様子に、セリカの気持ちも少し、晴れた。

 

 

 

 

 

『ウツロノウツワか・・・そんなものが、神殿にあったんだな』

 

ダルノスは頷き、黒麦酒を呷った。セリカの剣術の師であるダルノスは、正式な意味ではバリハルト神殿の騎士ではない。辺境域の出身であるダルノスは、剣術の修行をしながら流れ歩いた「傭兵」である。剣術の腕と邪教への姿勢が評価され、神殿に雇われている。面倒見が良く、男気に溢れるため、騎士たちからの信頼も篤い。

 

『神殿にあるということは、誰かが持ち込んだんだろう。まずはソイツの正体を知る必要があるな。総本山に問い合わせれば、何かしらの情報が得られるかもしれん・・・』

 

『そうだな。オレノ様にお願いをしてみよう。だけど、これまでも何人もの神官たちが浄化方法を探して、失敗しているんだ。簡単ではないだろう。ダルノス、カヤ・・・力を貸してほしい』

 

『勿論よ。可愛い弟の為だもの。いくらでも力を貸すわ』

 

『神官たちが調べても解らなかったということは、表の道では無理だろう。俺は放浪の中で、「裏」に詳しい人間とも知り合った。裏から調べれば、何か手掛かりが得られるかもしれん。声を掛けてみよう』

 

仲間たちの心強い言葉に、セリカは感謝した。

 

 

 

 

 

バリハルト神殿の騎士は、神殿からの依頼を受けて動く。大きな使命を受けたセリカではあったが、日々の中では、そうした依頼をこなさなければならない。セリカは時間を見つけて、廃都ノヒアに向かおうと考えた。また、犠牲者であった少女の様子も気になっていた。二日ほど時間が空いたため、セリカは身支度をした。

 

『あら?セリカ、どこに行くの?』

 

街を歩いていたら、カヤが声を掛けてきた。犠牲者の見舞いをして、そのまま廃都ノヒアに行くことを告げる。

 

『犠牲者・・・リーズのことね?うーん・・・』

 

『まだ、回復していないのか?』

 

『そうじゃないんだけど、心の傷がね。私たちが行くと、またあのコトを思い出すんじゃないかって・・・』

 

『ひょっとして、姉さんはもう、見舞いに行ったのか?』

 

『うん・・・でも、会えなかった。もうしばらく、そっとしておいた方が良いと思う』

 

『わかった。じゃぁ、このままノヒアに行ってくるよ』

 

『ノヒアって・・・この時間じゃ日帰りは出来ないわよ?あんなところに、何しに行くの?』

 

『うん、ちょっと気になっていることがあるんだ。夕方にはノヒアに着くから、そこで野宿をするよ』

 

『まぁ、アンタはもう神殿騎士なんだから、アレコレ言わないわ。気をつけて行ってらっしゃい』

 

姉と別れ、セリカは廃都ノヒアへと向かった。

 

 

 

 

 

陽が沈む前に、ノヒアに着く。あの時、親の遺体に寄り添っていた、まだ生まれて間もない水竜の赤子が気になっていた。やむを得なかったとはいえ、自分の剣が、親の命を奪ったのである。

 

(あの子は・・・生きているだろうか?)

 

森を通り抜け、内海に出る。穏やかな波打ち際に腰を下ろし、水平線に沈む夕日を眺める。あの地下川は、この内海に通じているはずであった。もし生きているのなら、この辺りにいるはずである。ひょっとしたら会えるかもしれないと淡い期待を抱いていたが、その姿は無かった。騎士となったことは後悔はしていない。だが、これから騎士として生きていく以上、ああした犠牲はまた起きるだろう。

 

・・・そなたは大きな可能性を秘めている・・・

 

大司祭や皆は、そう言って自分を期待してくれる。だが、誰の為の可能性なのか、自分の力を誰の為に使うべきなのか、セリカの中には迷いがあった。気が付くと、既に日は沈み、夜の帳が降りていた。水面が青く輝く。野宿の準備をしようと立ち上がると、背後に気配がした。魔物ではない。人の気配であった。気配が自分に近づいてくる。驚かさないように、セリカはゆっくり振り返った。蒼い月明かりの中に、水竜の子供を抱えた、赤い髪の美しい女性が立っていた。水竜は女性の腕の中で目を閉じている。神秘的な、不思議な雰囲気をした女性であった。

 

『こんばんわ』

 

『クゥゥゥ・・・』

 

女性が挨拶をしてくる。水竜が鳴いた。鼓動が少し、速くなった・・・

 

 

 

 

 




【次話予告】
セリカは、ナーサティア神の信徒「サティア・セイルーン」と行動を共にすることにした。ウツロノウツワについて情報を集めながら、神殿からの依頼をこなしていく。ある日、マクルから東方にあるスティンルーラ族の集落「クライナ」において、不穏な動きがあるとの知らせが神殿にもたらされる。セリカはサティア、ダルノスと共に、クライナがある森林へと入った。スティンルーラ族の女戦士を避けつつ、クライナを目指す。だが、あと一歩というところで、三人の前に漆黒の服を着た男が現れた・・・

戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフ(絶壁の操竜子爵)への途~ 第六十四話「古の呪術」

Sors immanis
et inanis,
rota tu volubilis,
status malus,
vana salus
semper dissolubilis,
obumbrata
et velata
michi quoque niteris;
nunc per ludum
dorsum nudum
fero tui sceleris.

恐ろしく
虚ろな運命よ
運命の車を廻らし
悪意のもとに
すこやかなるものを病まし
意のままに衰えさせる
影をまとい
ヴェールに隠れ
私を悩まさずにはおかない
では、なす術もなく
汝の非道に
私の裸の背をさらすとしよう・・・
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