戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフへの途~   作:Hermes_0724

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第八十七話:ハイシェラ対グラザ

連邦歴五十一年「ターペ=エトフ王国滅亡」

 

西方の大国「テルフィオン連邦国」の歴史書には、端的にターペ=エトフ王国の滅亡が書かれている。だがアヴァタール地方を中心に研究をする歴史家たちは、ターペ=エトフ王国の存在が、歴史に大きな影響を与えていることを一様に認めている。ターペ=エトフの最盛期は、オウスト内海東方域の治安が維持され、レスペレント地方も物流が栄えた。カルッシャ王国、フレスラント王国のみであったレスペレント地方に、セルノ人が建国をした「バルジア王国」や、中央域には様々な都市国家が誕生している。同時に、レスペレント地方東方域「モルテニア地方」「グルーノ魔族国」において闇夜の眷属たちが暮らすことが出来たのは、ターペ=エトフからの支援が大きい。ターペ=エトフの支援のもと、モルテニア地方では闇夜の眷属が力を持っていたため、光側神殿の侵入が阻まれていた。レスペレント地方東部に光側神殿が進出するのは、ターペ=エトフ滅亡から二百年後、「メンフィル王国」の建国を待たなければならない。もしターペ=エトフが存在していなかったら、後に帝国を建国する「リウイ・マーシルン」は存在せず、レスペレント地方の歴史は大きく変わっていたことは間違いない。

 

ターペ=エトフは思想や文化の面においても、歴史に大きな足跡を残している。ターペ=エトフが登場する前までは、各王国は神殿勢力と結託し「王権を神が認めた」という形式を取ることで、国家の統治力を強めていた。ターペ=エトフでは、この「王権神授」の統治手法を取らず、民衆代表の「元老院」と賢王の指導力、優秀な行政組織によって「文化、経済の発展」による統治を進めていた。この「政教分離思想」は、後の歴史において多くの国々に影響を与えることになる。特にメルキア帝国の賢帝「ヴァイスハイト・フィズ=メルキアーナ」はインドリト・ターペ=エトフを私淑し、帝国博物院に命じてターペ=エトフの歴史を詳しく研究させている。賢帝ヴァイスハイトの治世において、メルキア帝国は最盛期を迎えるが、その政策の多くがターペ=エトフを模したものだと言われている。

 

 

 

 

 

オメール山にあるハイシェラ魔族国は、第一次ハイシェラ戦争時において多くの軍需物資を失っていた。事実上の敗戦であったが、宰相ケルヴァンは情報統制を徹底させ、メルキア帝国やレウィニア神権国には漏れ伝わらないように注意をしていた。だが、こうした情報はいずれ必ず伝わるものである。ケルヴァンはハイシェラに進言し、兵士たちを一時的に物産に回した。幸いなことに、亜人族たちもハイシェラを王として崇めている。ハイシェラ自身、王としての振る舞いを見せていたことから、国内に混乱が発生することはなかった。

 

『亜人族向けの娼館か…まぁ、必要なのであろうの』

 

ケルヴァンからの報告書を読み、ハイシェラは頷いた。兵士の増加により、精気を吸収する睡魔族など以外にも娼婦が必要であった。メルキア帝国からそうした娼婦を派遣する「女衒」が呼ばれ、娼館の規模拡張が申請されていたのである。ケルヴァンにとって意外だったのは、ハイシェラが思った以上に「知的水準が高い」ことであった。かつては圧倒的な力による暴力ばかりが目立っていたが、現在は王として落ち着き、的確な判断を下している。

 

(案外、名君になるのではないか?)

 

ケルヴァンの感心に気付くこと無く、ハイシェラは食料在庫量が書かれた書類を読み終え、承認の署名をした。一通りの事務作業を終え、ハイシェラが立ち上がる。

 

『以前から言っていた通り、我はこれより暫く留守にする。ターペ=エトフを滅ぼすためには、より強い力が必要となる。強い魔族を探すつもりじゃ』

 

『王よ、それにつきまして一つ情報があります。イソラ王国から来た者の話ですが、レスペレント地方のモルテニアというところに、魔神が棲んでいるそうです。上手く引き入れれば、ターペ=エトフとの戦いにおいて大きな戦力となるでしょう』

 

『ほう、魔神とな?』

 

『ターペ=エトフもレスペレント地方との交易を行っています。ですが、魔神は基本的に独立した「個」の存在です。何より、破壊衝動は簡単には抑えられません。自分の力を存分に揮えるとなれば、魅力を感じるのではないでしょうか?』

 

『そうだの。仮に、我に味方をしなかったとあらば、その力を取り込むのも良いの。では、そのモルテニアに行くとするかの。ケルヴァン、何かあれば我を呼べ。特に、華鏡の畔には気をつけよ』

 

『御意』

 

鷹揚に頷き、ハイシェラは窓から飛び立った。

 

 

 

 

 

フェミリンス戦争以降、肩身の狭かった闇夜の眷属たちは、このモルテニアで安寧に暮らしていた。ターペ=エトフからの援助もあるが、魔神グラザを中心とした自衛組織によって、人間族の侵入を阻みつつ、行商人を通じて物産品を売ることで、経済的にも安定していたからである。集落の長であるグラザは、それほど魔術が得意では無い中級魔神であったが、その肉体が生み出す膂力は上級魔神にも匹敵した。そのため定期的に破壊衝動に襲われていたが、その都度、何処からともなく漆黒の魔神が出現し、集落から外れた平原で凄まじい殴り合いをして鎮火させていた。痣だらけで地下の迷宮に戻り、二日ほど休み、晴々とした表情で地上に出てくる。集落の人間にとっては見慣れた光景であり、漆黒の魔神が持ってくる様々な玩具や菓子は、子供たちの楽しみにもなっていた。二百五十年以上に渡って、モルテニアはレスペレント地方で最も平和な土地であった。

 

この日、伐り倒した巨木を軽々と抱え、鼻歌を唄いながら歩いていたグラザは、得体の知れない気配を感じて立ち止まった。神気と魔気が入り交じったような、これまでに無い強い気配であった。抱えていた巨木を降ろす。

 

『…来たか』

 

グラザは急いで集落へと向かった。

 

≪ここがモルテニアか。退屈な場所だの≫

 

凄まじい気配を放つ赤髪の美女が、集落の広場に降り立った。女、子供が悲鳴を上げて逃げる。騒ぎを聞きつけた獣人やヴァリ=エルフ、魔族の自衛団が駆け付ける。

 

『な、なんだコイツは?魔神か?』

 

自分を取り囲む自衛団を見ながら、魔神はつまらなそうに呟いた。

 

≪やれやれ…ターペ=エトフと比べると貧弱そのものだの≫

 

右手を振る。それだけで突風が起きる。取り囲む槍が後退する。ハイシェラの右手に魔力が込められる。

 

«我の問いに答えよ。このモルテニアに魔神が居ると聞いた。出すが良い»

 

だが自衛団たちは冷汗を流しながらも囲みを解こうとはしない。ハイシェラが集落に手のひらを向けた。純粋魔術で吹き飛ばそうとする。だがその時、森の奥から肌を刺すような気配が出現した。明らかに魔神の気配である。やがて、赤銅色の肌をした大男が歩いてきた。ハイシェラは笑みを浮かべ、手を下ろした。

 

«俺がその魔神だ。名はグラザ…この集落の長をやっている»

 

«我が名はハイシェラ、三神戦争をも生き延びし「地の魔神」じゃ»

 

«ハイシェラか…それで、この俺に何の用だ?»

 

«なに、汝にとっても悪い話では無い。我に力を貸して欲しいのじゃ。我と共に、ひと暴れせぬか?»

 

グラザは鼻で嗤って首を振った。

 

«俺が何故、モルテニアで暮らしているか解らないのか?そんなことに興味が無いからだ。お前の気配に、集落の者たちが迷惑をしている。早々に立ち去れ»

 

«興味はない?嘘だの…»

 

ハイシェラはカツカツと足音を立てて、グラザに近寄った。巨体の男を値踏みするように下から上まで眺め、視線を合わせる。

 

«悠久を生きる中で、多くの魔神を見てきた。汝の本質は「闘争」だの。その力を限界まで開放し、破壊の恍惚(カタルシス)を得たいはずじゃ。今も、我の気配に触発されて「破壊衝動」が込み上げておろう?»

 

«……»

 

グラザは黙ったままハイシェラを見つめていた。目の前の魔神の存在は、黄昏の魔神から聞いていた。だが実際に対面すると、想像とは違っていた。これ程「言葉」を使う魔神とは思っていなかった。魔神ゼフィラや魔神ディアーネのように、無鉄砲に破壊と殺戮をするような存在ではない。眼の前の魔神は明らかに、彼女らとは一線を画していた。表現をするなら「理性と暴力の均衡」と言えるだろうか。美しい顔に微笑みを浮かべ、ハイシェラは言葉を続けた。

 

«別にこの地で暴れるわけではない。暴れる場所はケレース地方じゃ。我とともに、ターペ=エトフを攻めぬか?»

 

«俺にディアンと… 「黄昏の魔神」と闘えと言うのか?»

 

ハイシェラは僅かに眉を動かし、頷いた。

 

«やはり、ディアン・ケヒトはこの地に来ていたか。その様子では、長い付き合いのようだの?別に、黄昏の魔神本人と闘う必要はない。あ奴は我の獲物じゃからの。汝には、将軍としてあ奴の使徒やターペ=エトフ軍と闘って欲しいのじゃ»

 

«同じことだ。ターペ=エトフには返しきれない程の恩義がある。魔神ハイシェラよ、今すぐこの地から去れ。さもなくば、力づくで叩き出すぞ!»

 

グラザの躰から黒い気配が昇る。巨大な闘気と殺気がハイシェラを襲う。だがハイシェラはむしろ嬉しそうな表情をして嗤った。

 

«クックックッ… これは思った以上の拾い物かも知れぬの。言葉で無理なら「力」で従えるのみよっ!»

 

ハイシェラはいきなり蹴りを放った。グラザが両腕を十字に組んで、腹部を襲ってきた美しい素足を防ぐ。美しい見た目とは裏腹に、凄まじい破壊力であった。踏ん張る両足が、十数歩以上分の轍を大地に刻んだ。グラザは溜息をついた。

 

«…この集落で闘うわけにはいかん。少し離れたところに草原がある。そこで闘ってやる。お前が勝ったら、好きにするがいい。だが俺が勝ったら、お前を殺す!»

 

«解らぬの。勝てぬと知りながらも、なおも闘うと言うか。まあ、逃げようとしても無駄だがの…»

 

ハイシェラは頷き、グラザの後に従った。

 

 

 

 

 

僅かに風が吹く草原に、巨躯の男と美女が相対する。ハイシェラは腰に下げていた剣を下ろした。

 

«剣を使わないのか?»

 

«汝は肉弾戦で挑むつもりであろう?剣を持たぬ者に剣を向けるなど、強者のすることではない。我が力をもって、汝の全力を打ち砕いてみせようぞ»

 

«…お前も存外、変わった魔神だな»

 

グラザは少し笑った。魔神は己の力を全力で奮い、破壊と殺戮をする存在である。そこに「こだわり」などは本来は無い。だが目の前の魔神は、自分なりの「美学」を持っているようであった。こうした魔神は少ない。自分の知る限り「魔神ラーシェナ」や「黄昏の魔神」くらいであろう。グラザが構えを取る。ハイシェラは泰然として立っている。グラザは意を決して、ハイシェラに飛び掛かった。巨躯から繰り出される拳を受け流し、蹴りを繰り出す。グラザは左腕でそれを防ぐ。圧倒的な力で巨躯が吹き飛ぶ。だがハイシェラは追撃しなかった。少し驚いたような表情を浮かべ、受け流した左手を見る。

 

«受け流したはずなのに、腕が痺れておるの。この痺れは…»

 

ハイシェラの表情が変化した。これまでの余裕の表情が消え、闘争に集中する「戦女神」の貌になる。

 

«汝も、我の知らぬ力を持っておるようだの。あの時は邪魔をされたが、今度こそ打ち砕いてくれる!»

 

ハイシェラが何に驚いているのか、グラザには理解できなかった。だがそのことを気にしている余裕はない。ディアンとのじゃれ合いのような喧嘩とは訳が違う。生死を賭けた闘争なのである。グラザの空気が変わった。瞳が赤くなり、破壊衝動が前面に出現する。魔神の咆哮が平原を揺らす。ハイシェラが構えを取った。

 

«オォォォォッ!»

 

グラザが立て続けに打撃を繰り出す。ハイシェラはそれを躱しながら間合いを詰め、鳩尾に肘を突き入れた。痛烈な一撃であるはずだが、グラザの拳が振り下ろされる。ハイシェラの頭部を僅かに掠める。髪が数本落ち、皮膚が切れた。続けて、下から突き上げるように拳が襲ってくる。左腕で防ぐが、躰ごと浮かされる。宙で一回転をして、数歩離れた場所に降りた。切れた場所を親指で撫でると、傷が一瞬で塞がった。だが急所を打たれたグラザも無事ではない。片膝をついて鳩尾を抑える。

 

«やりおるわ。肉弾戦と限定するなら、汝は上級魔神にも匹敵するだの。じゃが、今の闘いで解ったであろう?汝では我には勝てぬ»

 

グラザが立ち上がった。ハイシェラは口端を少し歪めた。

 

 

 

 

 

魔神アムドシアスが統治する「華鏡の畔」は、魔神が統治しているという割には、牧歌的で平穏な土地である。ターペ=エトフとトライスメイルの狭間にあるこの地は、両者の交易の要衝にあり、ターペ=エトフから見返りとして必要物資を得ている。そのため華鏡の畔に住む(ごく僅かな)農民には、全く税金が掛けられていない。完全な自給自足を行いながら、二ヶ月に一度程度で往来する「行商人」と物々交換のやり取りをしていた。溢れるほど豊かというわけではないが、魔獣や盗賊に襲われることが無いという、当時としては贅沢品である「平和」の中で暮らしていた。もっともアムドシアス自身から見れば、別に意識をして「善政」を行っていたわけではない。豊かな草花と美しい景色に囲まれ、音楽と美術品を愛でながら日々を過ごすのが、アムドシアス個人の願いであった。

 

『…そうか、あの「戦闘バカ」は未だに諦めておらぬか』

 

白亜の居城の中庭で、アムドシアスは茶を啜った。少し離れた場所で、音を抑えながら楽団が曲を奏でている。ディアンは頷いて、美しく焼かれた茶器(ティーカップ)を手に取った。

 

『ハイシェラ魔族国との戦争は長引く。同じ作戦はもう通用しない。アムドシアス、お前は動くな。結界を強化し、守りを固めろ。ハイシェラはターペ=エトフが引き受ける』

 

アムドシアスは頷いた。「華鏡の畔」は兵士と使用人を併せても、千名足らずの勢力である。見栄えこそ良いが、国家とは呼べない「一勢力」でしかない。美を愛する魔神は溜息をついて呟いた。

 

『ソロモン王に召還をされて以来、悠久の時を生きてきたが、この二百五十年は我にとって掛け替えのないものであった。だが時は移ろい、それと共に変化をしていく。永遠不変のものなど存在せぬ。お主ともいずれ、別れる時が来るであろう』

 

『…そう遠くは無いだろうな』

 

二柱の魔神はそれから暫く沈黙し、茶を啜った。

 

 

 

 

 

巨躯の男が草原に倒れている。赤髪の美女は呆れたように呟いた。

 

«強情な奴だの。いい加減、諦めよ。何も永遠に従えと言うておるのでは無い。ターペ=エトフとの決着がつくまで、力を貸せと言うておるだけだの。何故、そこまであの男に義理立てをする?»

 

グラザは痣だらけの顔を上げ、低く笑った。

 

«孤独に生きてきたお前には解らぬだろうな。永遠の命を持ちながら生きる意味を見出だせず、ただ暴れていただけの俺に「目的」を与えてくれたのは、一人の魔術師だった。僅か二十年だったが、素晴らしい仲間たちと共に理想を追った…»

 

ハイシェラは黙って、グラザの言葉を聞いていた。

 

«あの戦いで仲間の大半を失った。俺は再び独りになった。魔神である俺はどうやって生きれば良いか、理想と現実に苦しんでいた俺を救ってくれたのがディアンだ。俺は独りではない。支えてくれる友が、仲間がいる。誰かを支え、誰かに支えられ、何かを目指して共に生きる。それが、俺が選んだ生き方だ!孤独に、ただ無闇に暴れていたあの頃に戻ることなど絶対に御免だ!»

 

«……»

 

ハイシェラは沈黙してグラザを見下ろしていた。その表情には、ハイシェラには珍しい「迷い」が浮かんでいた。だがそれを振り切るように、一歩を踏み出した。

 

«汝の生き方などに興味は無い。我に従わぬと言うのであれば、その命を貰う受けるだけだの…»

 

グラザの前に立ち、右手を振り上げる。だが振り下ろされる前に、背中に小さな衝撃があった。振り向くと、獣人や魔族の子供たちが、石を握っていた。

 

『グラザさまをいじめるなっ!』

 

子供たちが涙ぐみながら、石を投げてきた。無論、子供が投げる礫ぐらいで傷つくハイシェラでは無い。だが精神的には違っていた。上級魔神をも超える気配に慄くこと無く、子供が攻撃を仕掛けてきたのだ。グラザはフラつきながらも立ち上がった。

 

«ハ、ハイシェラ…子供には手を出すな。俺を殺せ…»

 

だがハイシェラは動かなかった。子供とグラザの両方を見て、溜息をついた。

 

«興が削がれたの…これでは、汝を下したところでロクに働くことはあるまい。下らぬ時を過ごしたわ»

 

ハイシェラは宙に浮き上がると、南に向けて飛び立った。グラザは安堵の息をついて、その場に倒れた。

 

 

 

 

 

オウスト内海の上空で、ハイシェラは止まった。右手で胸を抑える。別に疲労感があるわけでも、魔力が消耗しているわけでもない。だが胸が苦しかった。二千数百年を生きてきて、初めてのことであった。

 

«何故じゃ…何故、こうもイラつくのじゃ。ゾキウも、インドリトも、そしてあのグラザも…弱小の分際で、我に説教をしおって!»

 

水面に向けて何発も純粋魔術を放つ。叫び声を上げて、肩で息をする。瞑目し、嗤った。

 

«何が「独りではない」じゃ… 群れて生きるのは弱いからじゃ。我には必要無いことだの。我は誰も支えぬ。誰からも支えられぬ!»

 

自分に言い聞かせるように、ハイシェラは大声を出した。だがハイシェラは無意識に認めていた。ハイシェラは、グラザが羨ましかったのである。誰からも恐れられるが、誰からも慕われないのがハイシェラであった。黄昏の魔神を「友」と言い切れるグラザが羨ましかった。同じ魔神でありながら、ハイシェラにはグラザのような生き方が出来なかった。いや、知らなかった。

 

«…この揺らぎを静めるには、あの男を手に入れるしか無い。黄昏の魔神ディアン・ケヒト…必ず汝を下してみせようぞ!»

 

ハイシェラの目尻が赤くなっていた。その理由は本人にも理解できなかった。

 

 

 




【次話予告】

アヴァタール地方南部にある地下都市「フノーロ」に、一組の男女が出現した。十代後半としか思えない美少女が、圧倒的な力を持つ魔神を従えている。美少女は街人たちに告げた。

「私は創造神より遣わされた大司祭…この地に、新たな国を興します」

理想を繋ぐ為に、ターペ=エトフの蠢動が始まる。


戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフ(絶壁の操竜子爵)への途~ 第八十八話「新たなる地平へ」


Dies irae, dies illa,
Solvet saeclum in favilla,
Teste David cum Sibylla. 

Quantus tremor est futurus, 
Quando judex est venturus,
Cuncta stricte discussurus!

怒りの日、まさにその日は、
ダビデとシビラが預言の通り、
世界は灰燼と帰すだろう。

審判者が顕れ、
全てが厳しく裁かれる。
その恐ろしさは、どれほどであろうか。

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