らき☆すたXSAO(タイトル仮)   作:iアイムm

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三人称視点だと心理描写が書きづらいですね
おかげできづいたら2週間も経ってました
とりあえず生存報告として投稿します


宣告

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 随分と上から目線だな、とこなたは思った。とても謝罪するような立場の人間が発するセリフではない。かがみもそう感じたのだろう、不満を口にしている。

 彼女らのそんな不満もお構いなしに、紅ローブは次のセリフを発した。

『私の名前は茅場(かやば)晶彦(あきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 周囲に驚きの声が漏れた。無理もない、あの赤ローブは茅場晶彦-----ナーヴギアの基礎設計者にしてこのSAOの開発ディレクターでもあるその人の名を名乗ったのだ。

 こなたの中での評価が180度変わる。滅多にメディアに露出することのない彼がアバターを介してとはいえ、目の前にいるのだ。もしかしたらイベントの告知でもあるかもしれない、と期待も募る。

 『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、<ソードアート・オンライン>本来の仕様である』

「仕様って...え?」つかさが驚いたようにささやいた。

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

「この城...もしかして黒鉄宮のことでしょうか?」みゆきが赤ローブの背後の宮殿を目を向けながら言った。

「強制イベントなんて運営は何考えてるのやら。今頃大炎上中に決まってるね」

『...また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合-----』

わずかな間。

 そして一万人のプレイヤーが息を詰める中、その言葉はゆっくりと発せられた。

『-----ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 瞬間、仮想の空気が凍り付くような気がした。

「...まったく、いつまでこんな茶番やる気なのかしら。ちょっと過剰すぎない?」

「そ、そうだよね。ただのゲーム機がそんなことできるわけないよね」

「ですが、ナーヴギアの仕組みから考えて不可能とは...」

「つかさもみゆきさんも心配しすぎだよ、そのうちネタ晴らしがあるって」

 不安そうなつかさとみゆきとは対称的にかがみは不満を、こなたは楽観しながらそう言った。

 だが薄々とは気付いていた。これがただの茶番ではないことに、自分たちは今とんでもない状況に曝されているのではないかということに。

 赤ローブの言葉は続く。いわく、ネットワークが切断された瞬間に脳が破壊されるわけではないらしい。そして、赤ローブがわずかの間を置いていった。

『...残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界から永久退場している』

 どこかで短い悲鳴があがった。真紅の空にいくつかの画像が浮かび上がる。SAOをプレイしていた人々の死亡、ただそのことを緊迫した表情でキャスターが伝えていた。

「う、うそに決まってるよ、こんなの...」

 こなたに応える声はない。つかさたちはただ上空の赤ローブを見つめていた。

そして...

 『...それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え』

 広場中から鈴の音のSE(サウンドエフェクト)が響いた。それに続いてこなたたちも右手の指2本を上から下へ振り、メニューを開く。そこからアイテム欄を開くと新しいアイテムが一つあった。

 「手鏡...?」

 <手鏡>というアイテム名をクリックしオブジェクト化を選択する。すると、きらきらという効果音と共に、こなたの右手に丸い縁で囲まれた小さな手鏡が現れた。

「ただの手鏡みたいですね...」同じようにアイテムをオブジェクト化したみゆきがいった。

 何も起きないのか、そう考え始めたとき、突如視界が光に覆われた。草原のときにも起きた転移の光だ、とこなたは直感する。

 しかし、徐々に光が薄れていったとき、こなたたちが再び見たものは、今まで見ていた景色と同じだった。

「今度はいったい...なっ!?」かがみが手鏡を見ながら驚いた声でいった。「なんで現実の姿になってるの!?」

 こなたも同じように手鏡を覗く。そこには髪の色こそ違うが現実の世界となんら変わりない彼女の姿が映っていた。

「周りの人たちもみんな変わってる...どうやってこんなことしたの...?」つかさが信じられないというように呟いた。

「ナーヴギアって顔全体覆ってるじゃん、もしかしたらそれで...」

「でも身長とかも結構変わってるじゃない」

 周囲のプレイヤーの容姿だけでなく性別、体格も明らかに変わっていた。

「もしかして...皆さん、ゲームを始める前に手で体中を触るよう指示されませんでしたか?」

「うん...言われた。キャリブレーションっていうのをやるから体を手で触ってくださいって...」

 キャリブレーションというのは装着者の体表面感覚を再現するため、<手をどれだけ動かしたら自分の体に触れるか>の基準値を測る作業だ。これによって、現実の体格をこちらに引用することも不可能ではない。

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は-----SAO及びナーブギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのかあるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』

 赤ローブはプレイヤーの困惑などお構いなしに演説を続ける。

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら...この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そしていま、すべては達成せしめられた』

 短い沈黙の後、そして

『...以上で<ソードアート・オンライン>正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の-----健闘を祈る』

 締めのセリフを言うと同時に赤ローブは真紅の空に再び溶け込んでいった。そして跡形もなくなった瞬間、空は瞬時にもとの晴天を取り戻した。

 そのときになってやっと一万のプレイヤーはしかるべき反応を見せた。怒号、悲鳴、懇願-----突然仮想世界の囚人となることを言い渡された彼らに逃れようのない現実が迫る。

「うそ...いやっ...!」

 地面にへたりこんだつかさが声にならない悲鳴をあげた。

「どうすれば...いいのでしょうか?」

「...とりあえず宿屋にいこ、埋まっちゃう前に行かないと」

「つかさ、立てる?」

 かがみがつかさに手を差し伸べた。いまだこの現実を受け入れきれていないこなたたちは、フラフラとした足取りで街の宿屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 


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