そういうわけで今回はタイトルから予測できると思いますが、ゼロ魔で人気(のはず)の彼が登場します。
あと第3話と第4話の一部描写について、個人的に気になった所を修正しました。話の内容自体は変わってないです。詳しくは各話のまえがきを参照願います。
※2016/3/17、かなでが怪我の様子を確認するシーンにて誤字を指摘されたので修正。
本塔の最上階、学院長室。現在ルイズとかなではそこで学院長と対面していた。
あの後、騒ぎを聞きつけた教師がやってきた。授業は中止となりシュヴルーズは保健室に運ばれ、教室を破壊してしまったルイズは学院長室行きを命じられた。
学院長を務めるオスマンは、白く長い
部屋の隅に置かれた机にはミス・ロングビルがいる。さらりとした緑髪を結い上げ、フレームメガネをかけた理知的な美人秘書である。彼女は事のあらましを報告しているルイズ、その
「なるほどのぉ、経緯は大体分かった」
オスマンはルイズからの
「教室を破壊してしまった以上、責任は取らねばなるまい」
「あの、それでは……」
「ふむ。ミス・ヴァリエール、君には罰として教室の片付けを命じる。魔法は使用禁止じゃ」
もっともルイズは魔法が使えないので意味はないが。
「しかし生徒達が止めたのにも関わらず魔法を使わせたミセス・シュヴルーズにも責任はある。それに………」
一度言葉を区切り、オスマンはルイズとかなでを見据えた。
「お主らのような、か弱い娘二人だけでは力仕事は辛かろう。割れたガラスの回収や無事な机等の掃除。それが終わったらミス・ロングビルに報告すればよい」
「はい……分かりました」
ルイズは
「そういうわけじゃ、ミス・ロングビル。すまないが……」
「分かりました」
ミス・ロングビルは席を立つと、ルイズらを引き連れて学院長室を後にした。
教室に戻ったルイズとかなでは命じられた仕事を始める。ミス・ロングビルは外で待機している。
ルイズは
二人は黙々と淡々と手を動かしていたが、ルイズは突如その手を止めた。
「……ねぇ、何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「なにを?」
質問の意図が分からなずにそう返すと、かなでは変わらずにガラス片を拾う。
ルイズも拭き掃除を再開する。
だがほどなくして再び口を開いた。
「……なんで私が”ゼロのルイズ”って呼ばれてるか分かったでしょ」
「生まれて今の今まで一度も魔法が成功したことがない。貴族なのに魔法が使えない……。それがわたしなのよ」
「失敗するたびに叱られたり蔑まれたりした。でもただ言われるままだったわけじゃない。魔法が使えるように、必死に勉強した。何度もルーンを唱える練習もした……」
段々と顔に悔しさが表われてくる。
「でも、起こるのは失敗の爆発だけ。どんなに努力しても、まるで報われないのよ!」
ついには雑巾を床に叩きつけ、感情的に叫んだ。
「なんでよ……なんでうまくいかないのよ……」
溜まっていたものを吐き出したためか、あとは絞り出すような声が出るだけだった。目尻から涙が流れ落ちる。
かなでは手を止めると立ち上がり、ルイズをじっと見つめる。
どうしようもない現実に本気で苦しんでいるように見えた。
ふと脳裏に、死後の世界の『死んだ世界戦線』のメンバーの姿がよぎった。
彼らは理不尽だった自分の人生を悲観し、それゆえ来世を生きる事に
ルイズの今の姿が、苦しんでいた彼らと、どことなく被って見えた。
「諦めちゃダメ」
気づくと自然に自身の口が動いていた。
「え?」
ルイズが顔を上げて振り返ると、こちらをまっすぐ見つめるかなでと目があった。
「今はダメでも、これからの人生で解決策が見つかるかもしれない。あたしも協力するわ。だから、諦らめちゃダメよ」
ルイズはかなでの言葉に呆然とした。
今まで自分を慰めてくれる人は尊敬する姉だけだった。
しかしそれは実家での話。学院ではそのような人はおらず、ルイズは孤独感を感じていた。
だからなのか。心に暖かい何かが満ちてきた。
「ふ、ふん! あんたに言われるまでもないわ。わたしは必ず一人前のメイジになるんだから。そ、それにあんたはわたしの使い魔なのよ。協力するのは当たり前じゃない」
そっぽを向くルイズ。その顔はわずかに赤くなっていた。
「……ありがとう」
ルイズの口から出たそれは、他人には聞き取れないような小さな声だった。
「? 何か言った?」
「なにも。さぁ、ボサっとしてないで」
ルイズは雑巾を拾って机を拭き始めた。
かなでもガラス片を拾う。
その時、誤って指を切ってしまった。
「あ」
「どうしたの?」
「指を切ったわ」
「って、なに何事もないように言ってんのよ! 見せなさい!」
ルイズはかなでに近づいてその手を取る。人差し指の切り傷から流れた血が床に落ちた。大したことはないが、傷口は少々大きい。
「すぐ保健室に行くわよ。魔法で治してもらうの」
ルイズはかなでを連れて歩き出そうとした。
「待って」
「なによ?」
「魔法を使うとどうなるの?」
「こんな傷跡形もなく消えるから安心なさい」
そこでかなでは何かを考えた。
「治療は待って」
「どうしてよ?」
「確かめたいことがあるの。だから少し待って」
「は? あんた何言って……」
困惑するルイズをよそに、かなではポケットからハンカチを取り出し、手に巻いて止血した。
「それじゃ続けましょ」
かなでは片付けに戻った。ルイズはわけが分からなかったが、確かに大した
その後は他の汚れてる所を拭いたり、床を
「やっと終わったわね」
一息つくルイズ。隣を見ると、かなでが手に巻いたハンカチを解いて怪我の様子を確かめていた。ルイズも状態を確認する。血が固まって傷口を塞いでいた。
「血は止まったみたいだけど、跡が残ってるじゃない。やっぱり保健室に行ったほうが良かったんじゃないの?」
「そうね。もう確認できたし」
ルイズには彼女の言っていることが分からなかった。
だがかなでにとってこれは現状を確かめるためには大事なことだった。
(傷の治りが遅いわ。やっぱり、ここは死後の世界じゃないのね)
死後の世界ならこんな傷はとっくに跡形もなく治っている。
ちなみに死後の世界における傷の再生スピードがどれくらいかというとだ。例をあげると、かつてある男がハルバートで百回ズタズタに裂かれ、血まみれとなり死んだ。だが数十分後には全身の切り傷が完治した状態で復活している。
あとはかなで自身、銃で足を撃たれた際、すぐさま肉体から弾丸が体外に排出され、
(そうじゃないということは、やっぱりここは現世、あたしは新しい命を得たということね。そうだろうとは思っていたけど、これで確信が持てたわ)
「どうしたのよ」
「用が済んだから保健室に行きましょう」
「? 変なの」
その後ルイズはミス・ロングビルに報告を行ない、かなでを保健室に連れていった。水のメイジの教師により、かなでの怪我は、本当に跡形もなく治った。
それからは昼食を取るために食堂に向かった。朝のようにテーブルにつくルイズの横で、かなでは床を見渡した。
「あたしのご飯がないわ」
「ああ。あんたは
「いいの?」
「わたしがいいって言ってるんだからいいのよ。好きなだけ食べてきなさい」
これには今現在、朝食が貧相なものだったことへの若干の後ろめたさと、先程
かなでは
そして貴族のテーブルから少し離れた所まで歩いてきて、はたと気づいた。
(厨房はどこかしら?)
そう、目的地の場所が分からないのだ。向かう前にルイズに聞いておけばよかった。
困ってしまうかなで。
すると、一人のメイドの姿が目に止まった。ショートヘアの黒髪に黒目の少女であった。歳は17程であろうか。料理を運び終えたのか、メイドは空のワゴンを押していた。
(あの人に聞けば分かるかも知れないわ)
かなではメイドに背後から近づいた。
「厨房へはどう行けばいいの?」
「え?」
突然話しかけられたメイドは驚いて足を止め、振り返った。
「あの、あなたは?」
「かなで。立華かなで」
「タチバナ、カナデさん?」
メイドは首を傾げた。
(こんな娘、学園にいなかったはずだけど………)
少し記憶を巡らせ、最新の人の出入りについて考え込む。そして思いたる
「あ! もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう女の子ですか?」
「知ってるの?」
「ええ、学院中の噂ですから。ミス・ヴァリエールが可愛い平民の女の子を召喚したって」
「そう」
ふとかなでは一つ気になったので尋ねた。
「あなたも魔法使いなの?」
「いえ、私は違います。あなたと同じ平民で、名前はシエスタといいます」
(魔法が使えないのが平民……。たしかに昨夜ルイズがメイジはほぼ全員貴族みたいなこと言っていたけど、そういうことなのね)
一人納得するかなでに対して シエスタはにっこりと笑った。
「同じ平民同士、よろしくお願いしますね、カナデさん」
「こちらこそよろしくお願いするわ」
「それで、厨房へはどんなご用なんですか?」
「ルイズからそこで昼ご飯をもらうように言われてきたわ」
「そうなんですか。分かりました、こちらにいらしてください」
シエスタはかなでを連れて歩き出した。
厨房は食堂の裏にあった。コックやメイドが忙しく料理を作っている。
かなでは厨房の片隅に置かれたテーブルに案内された。少し待つとシエスタが温かいシチューを持ってきた。
「どうぞ。めしあがってください」
「ありがとう、いただくわ」
かなではスプーンを握ると、シチューをすくって口の中へと運んだ。
「
「本当ですか? お口に合ってなによりです」
シエスタは嬉しそうに笑った。
かなでは夢中でシチューを食べ終わるとお代わりを頼んだ。
(よくよく考えたら、昨夜はパンだけ、今朝もあんなんだったし、そうとうお腹が空いてたわ……)
何度もお代わりを食しながら、かなではそんなことをぼんやり考えた。
「ごちそうさま」
かなでは空になった皿をシエスタに返した。
ふと近くに置いてあるワゴンが目に入った。中にはケーキが入っている。
「あれは?」
「食後のデザートです。これから貴族の方々にお出しするんです」
「手伝うわ」
「いいんですよ。それが仕事ですし」
「それでも手伝うわ」
「そうですか? じゃあお願いしますね」
食後、かなではシエスタと二人並んでケーキを配っていた。
その近くで、ウェーブのかかった金髪の男子が、取り巻きの生徒達から誰とつきあってるのか問いただされていた。
会話から、彼はギーシュというらしく、
すると彼のポケットから紫の液体が入った小ぶりなガラス瓶が落ちた。
それはかなでの足元まで転がってきたので、彼女は拾ってギーシュに差し出した。
「落としたわ」
だがそれを見た瞬間ギーシュはぎょっ! とし、自分の物ではないと否定した。
すると取り巻きの一人が小瓶の正体に気づいた。
「おい、それモンモランシーが自分の為に調合してる香水じゃないか?」
「じゃあお前モンモランシーとつきあってるのか!?」
取り巻きの声が食堂に響きわたった。
すると一年のテーブルから栗色の長い髪の美少女が歩いてきた。ギーシュの顔色が変わった。
「ケ、ケティ……」
「ギーシュ様、やはりミス・モンモランシーと……」
「ご、誤解なんだ。僕の心にいるのは君だけ……」
「その小瓶が何よりの証拠ですわ!!」
パチーーーーン!!
「さようなら!!」
ケティは泣きながらギーシュの頬をひっぱたくと、踵を返して去って行った。すると今度は二年生のテーブルから、金色の見事な巻き毛とそばかすが特徴の女子生徒が立ち上がった。彼女こそ、噂のモンモランシーである。
「ギーシュ、やっぱりあの一年に手を出していたのね……」
「違うんだ! 彼女とはただ遠出しただけで……」
「嘘つき!」
バシィーーーーーーン!!!
モンモランシーは先ほどとは逆の頬をひっぱたいて去って行った。
ギーシュは両頬を抑えてその場にうずくまった。
一連の流れを見ていたかなでは、去っていく女性陣の後ろ姿を眺めながら思った。
(これは……二股というやつかしら?)
かなではしゃがみこんで相手と目線を合わせようとした。
「大丈夫?」
するとギーシュは立ちあがり、かなでを見下ろしながら当たり散らした。
「メイド君! なんて事をしてくれたんだ!」
対するかなでも立ち上がった。
「あたしはメイドじゃないわ」
否定の言葉に、ギーシュは目の前の少女の正体に気づく。
「き、君はゼロのルイズが呼び出した……い、いやそうじゃない! 僕はあの時知らないフリをしただろ! 会話を合わせる機転が利いてもいいだろう! おかげで二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね!?」
かなでは怒鳴るギーシュをじっと見つめる。
「………な、なんだね?」
「二股は良くないわ」
ギーシュの友人達がどっと笑いだした。
「そうだギーシュ! お前が悪い!!」
「二股なんて最低だぞ!」
周りに騒ぎ立てられてギーシュは顔が紅潮した。
シエスタが恐縮しながらかなでを揺すった。
「カ、カナデさん、今すぐに謝ってください!」
「でも……」
「いいから!」
急かすシエスタ。
「そのメイドの言うとおりだな。僕は紳士だからね。今この場で謝罪すれば許さなくもない。さぁ!」
ギーシュはキザなポーズで迫る。すぐにルイズの使い魔は頭を下げて謝ると思った。
だが、
「あの二人に謝ったほうがいいわ」
かなでの思わぬ言葉に、ギーシュは一瞬
「いや、僕が言っているのは……」
「謝らないの?」
「だから……」
「二人とも遊びだったの?」
「なっ!」
かなでのわりとズレた発言に、ギーシュは絶句した。別にそんなつもりはない。本心を言うなら本命はモンモランシーだ。だがケティの事も別に遊びのつもりはなかった。彼女と話してて魅力を感じ、その時は本当に好きになってしまっただけだ。
世間ではそれを遊びというのだが、ギーシュにはそれが分からなかった。
「どうやら君は貴族に対する礼儀というものを知らないようだな」
頭に血が
シエスタは顔を青くしたが、かなではキョトンと無表情のままである。
「よかろう。君に貴族の礼儀を教えてやろう」
ギーシュはくるりと体を翻した。
「ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終えたら来たまえ」
そう言い残しギーシュは去っていく。彼の友人達も、一人を残し、他はわくわくした様子でついていく。
かなではそれを黙って眺めていた。
「……れちゃう」
「?」
隣から聞こえてきた声にそちらを向くと、シエスタが青い顔でぶるぶる震えている。
彼女には理解できた。あの貴族は広場にてかなでを魔法で痛めつけるつもりなのだと。
「あなた殺されちゃうーーーー!!!」
シエスタは絶叫を上げて逃げ出してしまった。
かなでは遠ざかる彼女の背中を見ながら、どうしたんだろう? と小首を傾げた。
実のところ、かなでは現状を理解してなかった。ギーシュからは「礼儀を教える」とは言われたが、それが暴力的な行為をされるという発想には至らなかった。
シエスタのことは気になったが、人を待たせているのでそちらを優先することにした。
そして数歩歩き出したところで、
「おい、どこに行くんだ」
見張りのために残っていた男子に呼び止められた。
「ヴェストリの広場よ」
「だったらこっちだ」
男子はついて来いというふうに
かなでは黙って彼についていった。
ルイズは食堂のテーブルで食後の紅茶を飲んでいた。
「カナデったら遅いわね……」
まだ食べているのだろうか? まぁ確かに朝のはあってなかったようなものだし。
そう考えていると、キュルケがやってきた。その隣にはルイズよりも小柄な少女がいる。青みがかったショートヘアで、赤いフレームメガネをかけている。右手には大きな杖を握っており、反対の手には本を抱えてる。
彼女の名はタバサ。キュルケの親友である。
「はーい♪ ルイズ。片付けご苦労様」
「キュルケ……なんか用?」
「別に~。ところでカナデは?」
「人の使い魔を軽々しく呼ばないで。あの娘なら厨房で賄いをもらってるわ」
「へ~」
キュルケがなにやら含みのある笑みを浮かべた。
「なによ?」
「いいえ。ただ朝はあんなのだったのに、急に待遇がよくなったなー、と。どういう心境の変化かしら?」
「別に」
「あ、もしかして……」
キュルケはちょっとカマをかけてみた。
「なんか優しいこと言われて励まされたとか?」
「あんたには関係ないでしょ」
ルイズは赤くなって、ぷいっとそっぽを向いた。その反応からキュルケは、本当にそうだったのかと確信し、ちょっと驚いた。
(マジ? 優しくされてコロっと
するとそこへシエスタが大変慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ミ、ミス・ヴァリエール!」
「なによメイド。そんなに慌てて、どうかしたの?」
「そ、そうなんです! カナデさんが大変な事に!」
「え?」
訳が分からないルイズはシエスタから説明を受けた。途端に椅子から飛び上がった。
「なんでそんなことになってるのよ!!?」
「わ、分かりません!!」
凄い顔で迫るルイズに、シエスタはもう涙目である。
「それでカナデはヴェストリの広場に連れていかれたの!?」
「お、おそらく……」
「まったくもう!」
ルイズは食堂を飛び出し、シエスタも後に続いた。キュルケは黙って二人を見送っていたが……。
(ギーシュとカナデがねぇ……。ギーシュのことだから力尽くで女を叩きのめすなんてことにはならないと思うけど……)
キュルケは隣のタバサを見下ろす。今は杖を腕に抱え、両手で本を広げている。
「タバサ、あたし達も行くわよ」
「いい、興味ない」
タバサは本に視線を向けたままそっけなく返した。
「そんなのいつだって読めるじゃない。たまにはこういうことに付き合ってくれてもいいんじゃないの?」
そう言われて、タバサは小さく溜息をついて本を閉じた。彼女にとってキュルケは大事な親友。無下にはしたくなかった。
「そうこなくっちゃ♪」
こうして二人はルイズ達の後を追った。
キュルケの「ちょろくない?」発言は、ここまで書いてきて個人的に思ったことです。
なんだかルイズのかなでに対する感情の浮き沈みが忙しないというか、情緒不安定な感じで……。原作だともっと芯がブレないキャラだと思うんですけどね……。
さて次回、いよいよ決闘です。今まで読んでてお分かりだと思いますが、かなではガンダールヴではありません。それで決闘にどう落とし前をつけるのか?
人によっては予測できるかもしれませんが、同時に、もしかしたら何か文句言われるんじゃないかと、ちょっと恐怖してます。