※ 一気に二話更新してるので、最終話を読んでからお読みください。これはエピローグです。
は、は、は、と短く息を継ぎながら少女が走る。それはランニングのような気楽なものではなく、命が掛かった必死の逃走である。暗い夜道、人気のないそんな場所は少女にとても不釣り合いで、不審者の少ない見滝原とは言えども不用心が過ぎるといえるだろう。
「誰か…!」
とはいえこの文明社会。どれだけ人気が無かろうと、十分も走り続ければ人と出くわさない訳もない。少なくとも彼女が逃走を始めてから五分近くは経っているし、このまま捕まることなく走り続けることができれば彼女は助かることだろう。
――あくまでも、できればの話であるが。
「きゃっ! あ……ああ…」
彼女の不幸の始まりは親との些細な喧嘩。ごく普通の家庭で、ごく普通の両親。姉が一人に猫が一匹いるところもよくある家族構成だろう。彼女に不満があるとすれば、それは門限に厳しいところであり、そしてそれこそが彼女が今ここに居る理由でもある。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
はらはらと涙を溢して眼前の化物へ命を乞う。その謝罪は罵倒した両親へのものか、嫉妬した姉へのものか。いつの世にもある上の姉妹に対する末っ子の羨望、それが爆発してしまったことは思春期故であり、これとてどこの家庭にもよくあることと言えるだろう。隣の芝が青く見えるように、なんてことのない差でも姉贔屓に思えてしまうことも世の摂理である。
だから彼女は運が悪かっただけなのだ。彼女が幼稚園児の頃に世界は少し変わったと、世間では囁かれている。しかし周りを見渡しても彼女にとっての日常は変わりなく、精々がニュースの内容に少しファンタジーが加わった程度のことだった。それとて彼女からすれば日本における凶悪犯罪程度に縁がなく、彼女の周りにもそんな非現実を鼻で笑う者が多かった。
けれど今彼女はそれを実感している。そして数瞬の後には実感することさえできなくなるのだと予感している。それでも彼女は眼前の骸骨お化け、おぞましい髑髏から少しでも離れようと砕けた腰を必死に叱咤する。
彼女は足に自信があり、帰宅部とはいえ学年でもトップクラスに速い自分の足を密かに自慢としていた。けれどそんなものは化物の前には無意味だと絶望し――しかしその健脚があったからこそ彼女は命を繋いだ。
「ティロ・フィナーレ!」
暗闇を切り裂く閃光と共に自信に溢れた声が響きわたる。そしてその後には異常な程に存在感を主張していた非現実が嘘のように掻き消える。腰の抜けている少女はいったい何が起きたのかと周囲を見渡し、数瞬の後に『噴水』の上に立つ一人の少女を見つけた。
「正義の魔法少女! 鞆莢 マイ見参!」
「ま、まほ……? あ、あの」
意味もなくクルクルと回って少女の近くに降り立つ魔法少女。ビクリと震える少女へ手を差し出してニコリと笑う。
「大丈夫?」
「は、はい……あの、魔法少女って、ほんと、なんですか……?」
「イエス! 見たのは初めて? ニュースで映ることくらいあるでしょ?」
「あ、はい。でもあんなのただのトリックだって言う人もいるし…」
「むむ、ちゃんとした団体だし国にも世界にも認められているのにな。MGA《魔法少女同盟》も世界的に認知された組織なのに」
「その、すいません」
いいのいいのと言って首を振るマイ。まだまだ世間には浸透していないなと独り言ちながら、少女に送る旨を伝えて先導を頼む。せっかく助けたのだからもう一度襲われては困るのだ。
「あ、ありがとうございました」
「どういたしまして~。これにこりたらあんまり危ないことしないようにね? 貴女みたいな子が夜に一人で出歩くなんて妖怪も不審者も据え膳ってものよ」
「は、はい!」
少女が家の中に入ったことを見届けてマイは一息ついた。深々とため息をつくその姿は、先ほどまでの自信満々で余裕のある様子とは一変していた。
「今のは『ガシャドクロ』かな~……怖かったぁ…」
それもその筈。彼女は魔法少女としてはペーペーの新米で、この見滝原へもまだ越してきたばかりの不案内な状況だ。それでも上手くやれているのは彼女の魔法少女としての才能と、危なくなれば助けてくれる存在が近くに居るからに他ならない。
「お疲れ、マイ。妖怪への対処、被害者への対応も問題なく終わったわね」
「きゃっ! もう、いきなり現れないでくださいよー」
「私は気にしないわ」
「私が気にするんです!」
「そう、今度から気を付けるわ」
「棒読みが酷すぎる…」
瞬間移動でもしてきたかのように、マイの傍にもう一人少女が現れる。彼女こそがマイの後詰めの魔法少女であり、現役最強と名高いベテランでもある。
「にしても~、やっぱ怖くて慣れないです。なんで私なんかが魔法少女に選ばれたんですかね?」
「さあ。選ぶのは先任の魔法少女とそのソウルジェムだもの。私の知ったことではないわ」
「うう、素っ気ない…」
「嫌なら断ればよかったじゃない、強制でもないのだから。それにそのソウルジェムは歴代でもトップクラスの魔法少女のものなんだから、不甲斐ないこと言ってると他の魔法少女に殴られるわよ」
「うえぇ…」
げんなりした様子でマイは自らのソウルジェムを見つめる。彼女がそうなっているのは化物との戦いのせいでもあるが、彼女に継承されたソウルジェムが原因でもあるのだ。世界に魔法少女は数多く、一つの都市に十人を超える場合もある。その理由は『MGA』という団体が魔法少女の管理ではなく、支援を目的としているからに他ならない。
数年前にぽつぽつと現れ始めた『妖怪』もしくは『悪魔』『化物』『幽霊』 それらは長らくただの迷信や勘違い、あるいは創作物の中の存在でしかないとほとんどの人間が思っていただろう。しかしそのおぞましい存在は確かな現実となって人々に牙を剥き、脅威を撒き散らしはじめたのだ。
そして同時期に確認されるようになったそれらを屠る存在『魔法少女』
人によっては妖怪よりも信憑性のない与太話だが、しかし彼女達は化物が台頭してくる以前から人知れず世界を護っていたのだと、そう主張する極少数の人間もいた。そして世界の常識に『化物』の存在が追加される前にあれよあれよと枠組みだけが創設されていったのは、数人の魔法少女といくつかの世界的大企業の奮闘と、そしてなによりも国の支援があったからこそだろう。
「マミさんもなんで私か聞いても笑うだけだったし…」
「名前が似てたからじゃない?」
「それは逆に嫌すぎます!」
「冗談よ」
魔法少女の力の源『ソウルジェム』 どんな宝石よりも眩しい輝きを放つそれは代々受け継がれていくものであり、先代とソウルジェムに認められた者が力を継承し新たな魔法少女となっていくのだ。魔法少女と言うからにはやはりそれは少女限定で、長くとも精々が高校卒業くらいまでだろう。それまでに後継者が見つからなければソウルジェムは封印状態で保存され続け、新たな使用者が現れれば輝きを取り戻すのである。
「焔ちゃん先輩はいつから魔法少女やってたんですか?」
「私だって最近よ。ここ最近で一気に世代交代が始まっているし、色々と大変な時期なのよ。いくら国に認められていたって、一般的にはまだまだ周知しきれていないのもそう」
「そうですよねー。私も『貴方には魔法少女の素質があるわ!』とかいきなり言われて意味不明でしたし」
「マミさん…」
独善的な魔法少女も、排他的な魔法少女も、優しい魔法少女も、正義の魔法少女も様々だ。それでも彼女達は数年前の世界再編を正しく認識し、自分達が『どう』なったかを把握していた。それは国境を越え人種を超え、何もかもを飛び越えて魔法少女達を結束させた。当然そんなことに興味のない少女もいれば馴れ合いを好まない少女もいたが、それでも彼女達は自分達という存在がこれからどう世界に影響していくかを不安に思い、しかしグリーフシードの確保に頭を悩ませる必要がなくなった事を喜んだ。
「今日は魔力殆ど無くなっちゃったんで終わりでいいですよね?」
「ええ。というより練習で必要以上に魔力を無駄遣いするのはやめなさい。もしもの時どうするのよ」
「あははー……かっこいい登場シーンとかエフェクトとかに凝ってたらいつのまにかですね」
「…あなたが選ばれた理由がよく解ったわ」
「へ?」
魔法少女の支援体制、各地の状況の理解や人数の把握は膨大な時間が掛かるかと思われたが、そこは魔法少女のお供と言えるある種族の協力もあって非常にスムーズに進んだ。かくして旧世代、もしくは第一世代などと呼ばれる最初の魔法少女達は世界の混沌と安寧を生き抜きほとんど全てが命を落とすことなく成長していったのだ。
「そいや、鏡花っちと藍先輩は終わったんですか?」
「ええ。今こっちに向かってるわ」
「よっし! 今日は食べるぞー!」
「行儀よくしなさいよ。それに葵さん達が集まるついでだってことを忘れないように」
「はーい!」
そんなまだまだやることが目白押しの魔法少女界隈、そこで奮闘する一線を退いた魔法少女達の食事に見滝原の新世代魔法少女もご相伴にあずかる約束をしているのだ。それは確かに焔が言うように四人の元魔法少女の女子会がメインではあるのだが、遂に彼女達の後継者が全員見つかったお祝いでもある。
「あ、きたきた。おーい鏡花っちー」
「お、待たせてもた? めんごめんご。ちょっとめんどくさいやつやってなぁ」
「ふふーん、私なんか一撃よ一撃! ティロ・フィナーレの強力さと言ったらもう…!」
「うわ、ホンマ痛いなー自分。友達やめてええか?」
「ちょ、転校生にそゆこと言う? 孤立したら灰色の中学生活になっちゃうよ!」
「ええやん。魔法少女マイぼっち。アニメにでもなりそうや」
「やーめーてー」
「ふふ、仲の良いことで。そろそろ始まる時間ですから行きましょう。二人とも優秀で助かりますよ」
「あら藍。マイが優秀だなんて言った覚えはないわよ」
「顔を見ればわかりますとも」
宵華焔、蒼梅鏡花、八王子藍、そして新人の鞆莢マイ。彼女達こそ見滝原の平和を守る魔法少女であり『暁の魔法少女』と謳われる四人の魔法少女のソウルジェムを受け継ぐ新世代だ。
「風見野の方も今日が指導日最後ですし、滞りなくいきそうですね」
「ええ……渚さんもゆまさんも長い間のお勤めだったものね。あの人達はMGAの職員志望らしいけど、藍は進路決めてるの?」
「うーん……ちょっと迷ってます。焔は?」
「ほむらさんに誘われてはいるんだけど……私も考え中よ」
「私は何も考えてないです!」
「アホ丸出しやな」
「鏡花っちは?」
「うちは教会継ぐから考えんでええねん」
「へー……いいなぁ」
現行の制度が整っていないとはいえ、魔法少女になれば日常的な面で優遇されることが多い。それは進路についてもそうであるし、報奨金も僅かながら存在する。しかしそれを目当てに魔法少女になる者が居ないのが『ソウルジェムが人を選ぶ』と言われる所以である。
「…ん。ソウルジェムが反応してるわ」
「ええ!? お食事が! なくなります! 全速で行きましょう!」
「あ、ちょ、あほ。先走ったあか……あー、行ってもうた。どないします? 先輩方」
「マイの魔力ほとんど残ってないわよ」
「二人とも、追いかけますよ。焔は一応盾の準備だけはしておいてくださいね」
「了解」
「了解です」
夜の見滝原に新世代の花が咲く。受け継がれていく力は正しく正義で、そうあれかしと望んだ誰かの希望が如実に反映されている。連綿と紡がれる絆は最初の世代が願い、やまなかった『仲間』の輪を広げていく。
―—そして彼女達もまた、運命と出会う。
「そこの変な人魂! この正義の魔法少女が相手よ! ティロ・フィナーレ! ……出ない。あれ?」
人魂。西洋ではウィルオーウィスプなどとも呼ばれるそれはどうみても雑魚的Aちっくな雰囲気を漂わせていた。少し数がいるものの、問題なく対処できるレベルだろう。そして調子にのったマイは先ほどのように一撃で決めてやると鼻息を荒くして魔力の砲撃を繰り出そうとし――魔力切れにようやく気付いた。ついでとばかりに変身までとけたのはお約束である。
「う、運が良かったわね。今日は見逃してあげる。ほら、ああああっち行って! 聞き分けが悪いわよ! 見逃してあげるってうきゃああああ」
当然恰好の獲物が現れた人魂はマイに襲い掛かる。弱いのは確かだが、魔力の切れた魔法少女など一般人と何も変わりがないのだから。蒼白になりながら逃げ惑うマイは、本人的には真剣なのだろうがもはやアホの子が体を張ってギャグをかましているようにしか見えない。
とはいえ早々に他の三人が駆けつけることを考えれば大事には至らないのは間違いない。しかしそんな彼女の前に、それより速く救いの手が差し伸べられた。
「え、えいっ!」
「う、うわわ、ちょっ、どこ見て射ってるのよ!? どこの魔法少女か知んないけど、助けるならもっとスマートに――ってあれ?」
現れたのは桃色の魔法少女。どこかおどおどしているが、少し威風がただよう弓と矢で人魂を攻撃し始める。マイは光の矢の雨が自分を目掛けて飛んできたことに叫び声をあげつつ悪態をついたが、その一瞬後には驚愕の声を上げることとなった。
適当にばら撒かれたように見えた矢は、その実一切を外すことなく人魂に命中し、全てを一撃で倒していたのだから。
「す、すごー……あ、こんばんは」
「えっ!? あ、はい。こんばんは」
まさか助けた人間からの第一声が夜の挨拶だとは彼女も思わなかったのだろう。今度は彼女のほうが驚きの声をあげて目を白黒させていた。
「あ、私も魔法少女なの。今はちょっと魔力切れちゃって…」
「そ、そうなんだ。あの、私昨日引っ越してきたばっかりで…」
「わ、そしたらお仲間だね! 私も最近越してきたんだ。名前は鞆莢マイ! よろしく!」
「うん! よろしくねマイちゃん。私は鹿骨燕っていうの」
「ツバメっちね! これでこの街に5人かー……楽できるかな」
「え?」
「や、こっちの話――むべっ!」
「何先走っとんねんオタンコナス! 死んだら終いやねんで? アホ、アホ、もひとつついでにアホ」
そしてようやく追いついた三人の魔法少女。鏡花からマイへ拳骨が飛ぶが、愛の鞭なので仕方ない。
「あら、魔法少女? ……っ!」
「どうしました焔? 別に居ても不思議では……――!」
「どないしはりました?」
「いたた……私が心配だからって今のはやりすぎうべっ」
「黙っとれ」
「あ、あの……私鹿骨燕って言います。昨日越してきたばかりで、その」
「え、ええ。あ、ごめんなさいね。私は宵華焔」
「失礼しました。私は八王子藍と申します」
「うちは蒼梅鏡花や。よろしゅうな」
それぞれ自己紹介を終え、和やかな雰囲気が流れる。かつてのように魔法少女は敵対する理由も必要もなく、これは単に共に戦う仲間が増えたということなのだから、喜ばしいことでしかないわけだ。
そしてマイを助けたことに三人が感謝し、これからはチームを組んで戦いましょうと約束したところで燕から期待の眼差しで一つの問いかけが入る。
「あの、宵華さん達のソウルジェムって、もしかして……暁のソウルジェムですか? その色って、そうですよね!」
最後は少し興奮したように問いかける燕。しかしそれも仕方ないだろう。黄色、葵色、赤色、紫とくれば魔法少女なら真っ先にそれを想像するのだから。魔法少女の法則すら変えた奇跡の魔法少女達。史上最強と謳われる伝説の魔女を倒した最高の魔法少女達。
まことしやかに囁かれるその偉業は魔法少女で知らぬ者もまず居ないだろう。そんな伝説のソウルジェムを受け継いだ魔法少女が揃っていれば興奮するのも仕方ないことなのだ。
「そうよ! この黄金に輝くソウルジェムが目に入らぬか……あばばば痛いっ! 鏡花っち、ほんとに目に入れないで!?」
「ソウルジェムが凄くても使い手がアホなんは見てられへんわ」
「たしかにそうですけど、別に他のソウルジェムに比べて凄いってことはないですよ。凄いのはこれの元の持ち主です」
「そうね。それに色々尾ひれがついてるけど、間違ってるのも多いわよ? 『魔女』っていうのを倒したのだって、結局は敵わなかったらしいし」
「でもすごいです! ふえー……」
感心しきりの燕に苦笑しながら焔達は時計の針を確かめる。約束の時間には間に合わないことは間違いないが、それで怒るような人達でもないことは彼女達も知っている。なにより魔法少女としての仕事をこなしていて遅れたのだから、むしろ御飯が豪華になるというものだ。
「さて、燕ちゃん時間はありますか? よければその伝説の魔法少女に紹介致しますが」
「え、ええ!? その、時間はありますけど、私なんかが…」
「美味しい御飯もでるわよ? ……あ、それで釣られるのは鏡花っちぐらいか……ぶっ!」
「もしかして殴られる趣味でもあるんか? そやったら存分に楽しませたるけど」
「時間があるなら来なさい、燕。貴女は会った方がいいわ」
「へ? あ、はい」
「うーん初めて会った人にも変わらないこの不遜っぷり。流石焔ちゃん先輩です!」
「鏡花。任せるわ」
「はいな。ってこら、何避けとんねん」
「ささ、速くいきましょうよ。御飯が待ってますよ!」
コントのようなやり取りを繰り返し、彼女達は駅へ向かう。変身を解きそれぞれのソウルジェムの色をした指輪を輝かせ。赤色、葵色、黄色、紫色。
――そして、桃色。
――ええ、今焔から電話がありました。今向かってるそうですよ。私と同じくらいに着くんじゃないでしょうか。
――すいませんってば。この埋め合わせは必ず……え? や、まあ貴女がそれでいいんならそれでいいですけど。
――それで、そうそう、見滝原に新しい魔法少女がきたそうです。聞いて驚き、なんと『桃色』の魔法少女だそうですよ。
――はい。いっしょに連れてきてるそうです。楽しみですね。
――あの時のソウルジェム……いえ、あれはソウルジェムとは言い難いか。私に願った結果できたものですから。マミならなんて名付けますかね。
――ゴッデスオーブ? ふふ、ほむらもまだまだ治ってないんじゃないですか?
――冗談ですよ。ではまた後で。
暗い夜道を歩きながら、旧友の声を惜しみつつ電話を切る。少女の時分、一瞬だけ手元にあったピンク色の宝石。きっと相応しい少女が現れたらその子の元へいくのだろうと何も心配はしなかった。
受け継がれていく自分達の魂だったもの。かつての昏い事情を知る新世代は少ないけれど、それでいいのだろうと彼女は想う。
今はとても充実している。居場所ができて、友が増え、親友達はずっと一緒だ。たまに親友を超えてきそうになるけれど、そこも日常のアクセント。
とても優しい世界で、とても楽しい世界で、とても嬉しい世界だ。
「何かいいことでもあったのかい?」
「ええ、とっても。今日は飲み明かさないといけませんね」
「えぇ……二日酔いの君を介抱する身にもなってほしいんだけど。それにもう魔法少女じゃないんだから、程々にしないと肝臓に悪いんじゃないかな」
「おや、心配してくれるんですか」
「してほしくないのかい?」
「ふふ、冗談です。いっぱい心配してください」
「訳が解らないよ」
本当は解ってるくせに、と彼女は呟く。
――さあ、今日は素晴らしい日になりそうだ。明日はもっといい日になりそうで。その先は誰にも解らないけれど、解ってしまえば詰まらない。先の人生なんて、博打のようなものだから。それでも精一杯今日を生き抜けば、明日は笑って過ごせるでしょう。それを毎日続ければ、優しい世界は続いていくさ。
今までも、そしてこれからも。因果は絡まり運命は回り続ける。そして魔法少女達が笑って過ごせる世界が続いてく――
気になる部分は想像で補完してね!
次はしゃるてぃあを書きつつもう一作書いてく予定です。四方山は気が向いたら更新です、はい。
たぶん今はやりのコナンオリ主あたりを…