たとえ英雄になれないとしても   作:クロエック

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相談

「ここがヘスティア・ファミリアのホームですか……」

 

 崩れかけた廃教会を前にして呆れた様子のリリ。

 僕も初めて神様にここに連れて来て貰った時の事を思い出すと、そんなリリの態度にも苦笑いで誤魔化すしかなかった。

 

「あ、あはは。部屋の作りはしっかりしてるから……」

 

 そう言って僕は彼女を中へ案内する。

 教会の中は石材は剥がれ、天井は大きく崩れ落ち、そこに大きく開いた穴から照らされる日差しを浴びて割れた床のタイルから雑草が元気に育っている。

 

「作りはしっかり……ね」

 

 廃墟と言われても反論できない……どころか、廃墟以外にどう表現のしようもない教会の様子にリリの声に疑いが強まる。

 

「へ、部屋。部屋は大丈夫だからほんとに」

 

 焦りと共に僕は少し足を速めると、祭壇奥の小部屋へと進む。

 その薄暗い小さな部屋には空になった本棚が連なっていて、入り口から死角になっている一番奥の棚の裏を覗くと、地下へと伸びる階段が続いていた。

 僕はその奥へとリリを誘い降りていく。

 

 階段を下りた先のドアをあけて、僕はドアのすぐ内側に置かれて小さな光を放つ魔石灯のつまみを調整する。

 明るくなった部屋の中へ踏み込むと、僕はくるりと振り返り―――

 

「僕たち、ヘスティア・ファミリアのホームにようこそ!」

「…………」

 

 両手を広げて歓迎の意思を示す僕を無視して、彼女は部屋のなかをゆっくりと見渡す。

 

(……あれ?)

 

 肩透かしを食らった僕に、リリはため息をついた。

 

「まぁ、安全で雨風が凌げるなら、リリはそれ以上の贅沢は言いませんけど……ベルさんは何でそんな得意げなんですか?」

「えーっと、秘密の地下室ってちょっと格好良くないかな……なんて……」

 

 同意が得られそうに無い事を悟ってしまい弱まっていく僕の声に、彼女は一応の慰めをかけてくれる。

 

「そうですね……身を隠したいので、人目につかないだけ良しとしますか……」

 

 そうしてリリは僕たちのホームへと足を踏み入れたのだった。

 

 

「今お茶を入れるから座っててよ。神様ももう少ししたらバイトから帰ってくると思うし」

「いえ、リリはそれより先にその新しい剣と言うのを見せて欲しいです」

 

 リリをホームへと案内する道すがら、僕は彼女にこれから僕達のパーティをどうして行こうかと言う相談の前提になるようにと、今のお金や装備がどうなっているか話していた。

 そこで次からはファミリアの門出の祝いに貰った新しい剣を使うつもりだと言う事も話したのだけれど、そんなに気になってたのかな……。

 僕はまっさきにそれを言い出したリリに小さく笑って、棚に置いておいた剣を取って彼女へと近寄る。

 

「詳しく見させて貰っても?」

「う、うん。いいよ」

 

 返事をする前からこちらに手を差し出している彼女に剣を渡してから、僕はお茶を入れる為の準備を始める。

 その準備を進めながら彼女を見ると、彼女は剣を顔の近くによせてしげしげと眺めてみたりその小さな腕で剣を色々と軽く振ってみたりしている。

 

「リリって、剣の良し悪しなんか解かるの?」

 

 彼女が使っていた刃物と言えば、モンスター解体用のナイフぐらいしか見た事が無かった僕は疑問に思って聞いてみる。

 

「なんかとは失礼ですね。リリは自分では使えなくったって、冒険者の使う装備の良し悪しについては結構な鑑定眼があると自負してるんですよ」

 

 憤りを見せる彼女にごめんごめんと僕は謝った。

 そしてふんと鼻息荒い彼女に、ティーポットへお湯を注ぎながら僕は鑑定の結果を聞いてみる。

 

「それじゃ、その剣はリリから見てどう?」

「そうですね……門出の祝いに貰ったってことでしたけど、中々掘り出し物じゃないでしょうか」

 

 彼女はそう言って言葉を続ける。

 

「素材は迷宮産の物は使われてなくてただの鋼がメイン。銘や装飾も一切なくて完全に安物ですけど、まるで今のベルさんに誂えたみたいに良い剣です」

 

 そこで彼女は軽く剣を持ち上げて、空中に向かって振り下ろす。

 

「短めの刀身ですけど手前が随分ぶ厚くて幅広ですよね。重心が手元に随分寄ってて非力な人でも武器の重さに振り回され辛いですし、盾を持たないスタイルのベルさんが相手の攻撃を受けるのにも都合が良いと思います。そして何より、物の出来自体が随分いいですね。作った鍛冶師(スミス)の腕が良かったんでしょうか」

「り、リリ……凄いね」

 

 かなりそれっぽい鑑定批評に僕は思わず声が漏れた。

 僕なんか誂えて貰った本人なのに、振りやすくて良いです。ぐらいしか椿さんに言えなかったのに……。

 

「戦い方も今までの武器の延長戦上にあると思いますしベルさんが慣れるのも早そうです。こんなものが祝いの品として都合よく出てくるなんて、随分ラッキーですね」

 

 パーティの戦力になることなので、満足げな様子を見せるリリ。

 

「出てきたって言うか、ちょっと前に運よく上級鍛冶師(ハイ・スミス)の人と知り合いになる機会があって、お祝いにって言って打って貰えたんだ」

 

 でも僕がその事実を明かすと、彼女はその表情を引っ込めて怒り出してしまった。

 

「り、リリにわざわざ鑑定させておいてなんですかそれは。だったらこの剣のことなんてその鍛冶師(スミス)に直接聞いたら良いじゃないですか」

「え、でも剣が見たいって言ったのはリリだし……」

「ベルさんがリリから見てどうかなんて言い出さなければあんな批評みたいなことしませんよっ」

 

 憤りながら剣を鞘にしまって僕へと乱暴に返すリリ。

 僕はそれを受け取りながら、この剣を打ってくれた彼女のことを思い出していた。

 

 

 

「一つ言っておくが、その剣を大事にしすぎぬようにな」

 

 彼女は受け取った剣を持って喜ぶ僕にそう言った。

 その言葉がよくわからなかった僕が意味を問うと―――

 

「おぬしはどう言うつもりか知らんが何時も折れた剣を腰に佩いておるだろう?そう言う扱いはするなと言っている」

 

 僕はぎくりとする。

 椿さんの前でこの剣を抜いた事は無いのに、僕が折れた剣を使っている事を彼女はあっさりと見抜いていた。

 

「その剣には銘もいれず、名も付けておらん。そう長く在るものではないからな……。それはな、使い捨ての代物よ」

 

 そう言われて僕は貰った剣に視線を落とした。

 装飾と呼べるような物が一切無い、直線より三角に近い形の刃を持った無骨な剣。

 

「何れは折れるか、仕舞われ朽ちるか。だがその時が来るまで、その剣はおぬしを助ける。手前はそう打った。だからおぬしはその剣に捕われずに使いこなすことじゃな」

 

 折れるまで、朽ちるまで、惜しむような事をせずに必要だと思った分だけ剣を使()()()()

 そう言われた気がして、僕は貰った剣を改めて握り締めた。

 

「それを打つのは良い仕事ができた。また何ぞ面白いことを思いついたら、必ず手前に持ってくるのだぞ」

 

 いいな、と念押しする彼女に僕は頷き改めてお礼を言ったのだった。

 

 

「それにしても上級鍛冶師(ハイ・スミス)の方からの贈り物ですか。どうりで素材と腕がつりあって居ないと思いました」

 

 でもどうせなら、腕に釣り合った素材の強力な武器をくれてもよかったのに、と呟くリリ。

 

「あ、あはは……」

 

 望めばそうできた事を彼女が知ったら何と言うだろう。

 僕はその好奇心を今は抑えておく事にした。

 

「なんにせよ武器が手に入ったのは幸運でした。これからも頼れるかもしれません、その伝手(つて)は大事にしてくださいよ?」

 

 僕はリリに、勿論と言って頷いた。

 

 

 

 お茶をカップに注いで座り、すこしゆっくりしながらリリとこれからについて相談する。

 

「大事なのはそのお金をどう使うかですねぇ」

「うん。色々悩んじゃって……」

 

 ナァーザさんから貰った30万ヴァリスと言う大金。

 一部をリリへの返済にあてたけれど、残りの大部分は手付かずのままだ。

 

「ベルさんの防具をきちんと揃えて、残りを黒字化が安定するまでの蓄えに回すのが一番無難でしょうけど……」

「うーん、僕の防具かぁ……」

「ベルさんは今かなり軽装ですからね。重い装備はむりでも皮鎧でも良いですから全身をきちんと守れば、不意の怪我も少なくなる筈です」

「それって動き辛かったりしないのかな?」

「そこなんですよね……。動きが鈍って攻撃を食らいすぎるようになっては意味がないですし、なにより防具まかせの戦闘方法は防具の維持修理費が高くつくんですよね……」

 

 僕とリリはああでもないこうでもないとお茶がすっかり冷めてしまうほど話し込んでいた。

 そこへ、部屋のドアが急にバタンと音を立てて開かれる。

 

「たっだいまぁー、ベル君!」

「あ、神様。おかえりなさい」

「ベルくーーーーーーーん!」

 

 神様の帰還に気付いた僕が立ち上がると、神様は両手を広げて僕に突撃してくる。

 僕は受け止める為に足に力をこめて身構えたけれど、急に神様はぴたりと止まって……リリをじーっと見つめていた。

 

「誰だいこの娘……、ベル君。キミ、ボクが居ない間に女の子をホームにつれこんで何を……」

 

 疑惑の視線でリリを睨みつける彼女に、僕は慌てて説明する。

 

「あ、えっとぉ神様。彼女はリリです。ほら、話していたサポーターの……」

 

 リリも困惑した様子で、どうも、と神様に小さく頭を下げた。

 神様は、リリが下げたその頭の上に視線をやり―――

 

「ふぅーーーん……でもベル君、キミが話してくれてたサポーターは、小人族(パルゥム)って話だった筈だけどなー?」

 

 彼女の頭上で動く()()()を見てそう言った。

 

「「あっ!」」

 

 僕とリリの声が唱和する。

 疑いの目を続ける神様に、僕たちは慌てて説明する。

 

「ち、違うんです神様、これは……」

「そ、そうです。これはリリの魔法で……待ってください。―――【響く十二時のお告げ】」

 

 リリが慌てて集中し、解除式を唱える。

 彼女についていた耳と尻尾が消え、猫のようになっていた瞳が元に戻る。造作からも猫人(キャット・ピープル)特有の癖が消えて、顔の印象が変わっていく。

 

「うわっ。なんだいそれ……魔法かい?」

「はい。後で詳しくお話しますが、リリは事情があって滞在場所をなるべく人に知られたくないのです。ですのでこの魔法で変身してからここに来たのですよ」

「うーん、なるほどね。その事情は気になるけど、ベル君が女の子をつれこんでいちゃついてたわけじゃなくてほっとしたよ」

「そ、そんなことするわけ無いじゃないですか。酷いですよ神様!」

「うるさいなーベル君は。ベル君達が紛らわしい事をするからわるいんだよ!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 神様には僕たちの嘘は通じない筈だから、紛らわしいもない筈なんだけど……。

 

    「女が他の女の事で怒ってきたら、とにかく謝っておけ!」

 

 僕は常々そう言っていた死んだ祖父の訓戒に従って、とにかく神様に謝っておく事にしたのだった。

 

 

 

「なんだいそれ、酷い話じゃないか!ソーマは一体何をやってるんだいっ」

 

 リリの事情を聞くと神様はリリに同情し、そのファミリアに怒り出した。

 

「ソーマ様は、ファミリアの運営については関心を持たれていないので……」

「あいつ、自分の眷族を何だと思ってるんだ!キミも辛かったろう……これからは好きなだけここに居て良いんだからね!」

「は、はい……どうもありがとうございます」

 

 お礼を言って、リリの視線が部屋を見渡す。

 神様の視線がそれを追って、僅かに泳いだ。

 

「あー……ベッドは一つしかないから、ボクと一緒に寝て貰う事になるけど……構わないかな」

「いえ、リリはこのソファーでも構いませんよ?」

 

 最低限の家具しかない僕たちのホームに神様はベッドのシェアを提案し、リリが遠慮してそう言うと―――

 

「だ、だめだよそれはっ。そこはベル君が寝てるんだから!」

「でしたら、ベルさんとヘスティア様がお二人でベッドを使えばよろしいのでは?」

 

 リリと体格もそこまで違いませんし、と彼女は言う。

 

「な、なんだって……!キミ、なんて素晴らしい、いや、なんて機転の利く娘なんだ……。あ、でもお客のキミをソファーにだなんて……」

「いえ、ご厄介になる身ですからどうかそのような気遣いはなさらないでください」

「そ、そうかい。聞いたかいベル君。寝泊りするのが3人でベッドとソファーしかないから、ここは彼女の案に従うしかなさそうだよ!」

 

 興奮した様子の神様に僕は―――

 

「どうしてそうなるんですかっ」

 

 と一喝。神様びくりと肩をすくめる。

 

「僕と神様が同じベッドだなんて、そんなのダメに決まってます!普通に神様とリリの二人で寝てくださいっ」

 

 そ、そんなぁーと声を上げる神様だったけれど、こればっかりは許容できない。

 今までだって寝ている間にたまに神様がソファーにもぐりこんできて朝大変なことになるのに、毎晩同じベッドだなんてとても身が持たないよ。

 

「ゆ、愉快な神様(かた)ですね……」

「はは……」

 

 しおれる神様を見て言うリリに、僕は苦笑を返したのだった。

 

 

 しおれた神様が復活した後、今日はボクが料理を作るから君たちはパーティの相談をしなよ!と言ってくれて、僕たちはその好意に甘えてテーブルに座って話を続けていた。

 コンロの前では神様が鼻歌を歌いながら三人分の夕食を作ってくれている。

 

「でもリリ、スキルだけじゃなくて魔法まで発現してたなんて凄いよ……」

 

 僕は、生まれて初めて見た本物の魔法を思い出して、少し興奮して彼女にそう言った。

 

「でも、こんな事ぐらいにしか役に立たない魔法ですよ……リリはもっと直接的に"力"になる魔法が欲しかったです」

 

 魔法を持っていない僕からすれば凄いのは確かだし贅沢な話だとも思うけれど、自分の身に置き換えて想像するとやっと手に入った魔法がダンジョンでの戦闘の役に立たないものだったら、気落ちするのも解かる気がした。

 

「暫くは持続時間に気を付けながら、ここを出る時と戻る時には魔法をかけなおしておくようにします」

 

 リリは自分のファミリアを警戒してそう言う。

 自分のファミリアをそんな風に警戒しなきゃならないなんて、どんな気持ちなんだろう。

 いずれこの問題もなんとかしなきゃいけないと思いながら、しばらくは顔を隠して猶予を稼ぐしかないことも事実で僕はリリに頷いた。

 

「でもこの魔法といいスキルといい、つくづくリリには冒険者の才能がないのだと思います」

 

 やはり自分にはサポーターがお似合いなのではないか、と気落ちするリリ。

 

 僕はそんな彼女を見て僕はある考えを思いついた。

 

 僕はその思い付きを少し頭の中で検証してみる。これって実行可能なのだろうか。

 どうにも不確実で、やってみないとなんとも言えないという結論に達した僕は、とりあえず彼女に話してみる事にした。

 

「……ねぇリリ。ここへの出入りに正体を隠すのと冒険者として戦う時の力不足を、纏めて解決出来るかもしれない方法を思いついたんだけど、聞いてくれる?」

「なんですかそれ。そんな都合のいい方法あるとは思えませんけど……」

 

 疑いの視線を向けてくるリリに、僕はとりあえず自分の思い付きをそのまま言ってみる。

 

「リリのスキルって装備が重すぎる時にそれを補正してくれるんだよね?だったら……()()()()()()()()()()()()で戦うっていうのはどうかな?」

 

 自分のスキルをそんな風に考えた事はなかったのか、リリは唖然とした表情を見せた。

 その後僕の思い付きについて考えたらしい彼女は眉をひそめて言う。

 

「うーん、確かにリリのスキルなら重い鎧を着ても動きはあまり鈍らないと思いますけど、つまり重戦士として戦うってことですよね……リリの非力さではそれは無理だと思います」

「そうかなぁ……重戦士に力が必要なのって、結局重い武具を扱うためって言うのが殆どじゃないかって思うんだけど」

「そんなことは無いです。足を止めて戦う重戦士の方は相手の攻撃を受け止め、時には力付くで抑え、弾くのが役割。私のスキルは力が強くなるわけじゃないですから、そう言う事が出来るようにはなりませんよ」

「でも、最低でも重くて大きい武器を相手に叩きつけるだけでも効果はあるんじゃないかな?」

「それは……どうでしょうか。結局力が無かったら通じないと思いますけど……」

 

 疑うリリと可能性を感じる僕で、話は段々と平行線になっていく。

 

「それに、そういった重武装の類は同品質の軽装と比べると何倍も高価です。上手くいくかもわからないのに試しに買ってみるなんて出来ません」

「確かに……」

 

 懐事情の事を言われると、確かに僕の思いつきにお金をつぎ込むのは躊躇われる。

 

「二人とも、食事ができたよ!さぁさぁ、話はいったんやめて熱い内に食べようじゃないか!」

 

 そこへ神様が料理を盛ったお皿を手にテーブルへとやってきた。

 

「ありがとうございます神様……あ、手伝いますよ」

 

 僕は立ち上がって神様が作ってくれた料理の他に、各自のお皿、パンやグラス、ワインのボトルを棚から取るとテーブルの上へ並べていく。

 

 

「えー、それじゃあ、ベル君とリリルカ君のパーティ結成を祝って……乾杯!」

 

 乾杯、と皆の声が唱和する。

 グラスをぶつけて音を立てて、僕たちはワインを飲んだ。

 

 神様が作ってくれた料理はジャガイモとトマトのスープに、ハムとアスパラガスとキノコの炒め物だった。

 

「美味しいです神様」

 

 僕もリリも笑顔を浮かべて料理を頬張っていく。

 神様は自分の料理を褒められて嬉しそうに―――

 

「いやぁ、今日はバイトの帰りにデメテルにあって野菜をもらえたんだ。リリルカ君を歓迎するのに丁度良かったよ」

 

 と言って照れていた。

 僕はそれを聞いてあることを思い出し、神様に聞いてみることにした。

 

「そういえば神様。お願いしてた話ってどうでしたか?」

「ん……あぁ。タケなら構わないって言ってたよ。バイトのシフトを変えてもらうから、三日後から良いってさ。ボクはちょっと複雑だけど……」

「……何のお話ですか?」

「あぁ、ごめん。実は―――」

 

 僕たちの話についてこれないリリに、僕はその話の経緯を説明する。

 

 僕はオラリオに来るまでは剣を握った事もなくて、扱ったことの在る刃物といえばナイフで作業や料理をしたり、薪割り用の斧で薪を割ったぐらいしかなかった。

 モンスターとの戦闘ではステイタスの力を頼りに扱いやすい短剣と、それからあの時に手に入れた折れた剣を使っていたけれど、武器の扱い方をきちんと学んだ事はない。

 

 なのでちゃんとした剣術を学べないか考えて、頼ったのが神様だった。

 僕にはここで知り合いと呼べる人は殆どいなくて、剣を教えて貰えそうな相手は思いつかない。

 でも神様なら天界での知り合いが沢山居るから、誰か引き受けてくれる神様が居るかもしれない。それももしかしたら、戦神様とか武神様とか闘神様と言われるような方が教えてくれるようになる可能性だってある。

 僕としてはかなりロマンを感じる話だったので期待していたのだけれど、最初は全て断られてしまったと神様に聞いてショックだった。

 特に神様と仲が良いというタケミカヅチ様という神様が、武神にして武術の達人と言うことだったので期待が高かったのだけれど……タケミカヅチ様は赤貧にあえぐ自ファミリアの為に空いている時間は殆どバイトに当てているとのことで断られてしまったのだ。

 

 僕達と違って団員も揃っていてダンジョンでも順調らしいけれど、なんでも故郷で引き取り育てている孤児たちの為に仕送りをしていて何時も家計が大変らしい。

 それを聞いてとても素晴らしい神様だと思った僕は、是非タケミカヅチ様に師事したいと思ってある提案をしたんだ。

 

「全く……ボクがバイトしている間に、タケがボクより高い時給を貰いながらベル君と触れ合える事になるなんて……」

 

 そう。僕が提案したのは、バイトの時給より高いお金を払う事でシフトを減らして僕への授業に当ててもらうと言うことだった。これならただ善意にすがるだけじゃなくて、あちらにも利益の在る話なので僕としても抵抗が少ない。

 ただ、自分のバイトがタケミカヅチ様への支払いの為になってしまうような感覚を抱いて神様としては複雑な心境らしかった。

 

「なるほど……相変わらずベルさんは変な事を考えますね」

「え……そ、そんなに変かな……?」

「変ですよ。神様を自分の教師に雇おうだなんて」

「でも、神様達はバイトしてる人結構多いし……」

 

 オラリオなら普通の事なのかなぁと僕は思っていたけれど、何か間違っていたのだろうか。

 

「あ、そうだ。リリのさっきの話もタケミカヅチ様に聞いてみようよ。武神と言われるほどの方なら僕の案がいけるかどうかわかるかも知れないよ」

「え、まだ諦めてなかったんですか?まぁ聞くだけなら構いませんけど、変な事を聞いて笑われるだけじゃないでしょうか……」

「まぁまぁ。とりあえず聞くだけ聞いてみよ?」

「はい……」

 

 思いついたアイディアを諦め切れない僕と、胡乱げだと言う様子のリリ。

 そんな僕たちに神様が興味を示し、

 

「ねぇねぇ、二人が言ってるのは何の話だい?」

 

 と嘴を入れる。

 

「聞いてくださいヘスティア様。ベルさんが思いつきでリリに妙なことをやらせようと―――」

「ひ、ひどいよ。リリの為になると思って考えたのに」

 

 三人で過ごす初めてのホームでの夜は、そんな風に更けて行ったのだった。

 

 

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