たとえ英雄になれないとしても   作:クロエック

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ソーマ・ファミリア

 リリとベルはその日も、迷宮に潜っていた。

 そこは、10階層。

 ついに二人は大型モンスターが出現する上層最後の領域。その入り口へと足を踏み入れ始めたのだった。

 変わるのはモンスターだけではない。構造自体は8~9階層と似通っていているが、10階層からはそれまでとは一つ違う点がある。天上にある光源からの光が弱くなり、同時に迷宮に霧がうっすらと満ちて視界を遮り始めるのだ。その為にモンスターの接近に気付かず、奇襲を受けることも多くなるのが10階層からの新たな危険でもあった。

 

「来ます、オークが二体!」

 

 猫人(キャット・ピープル)の優れた聴覚を持ったリリが、敵の接近を捕らえ警告の声を発しながらヘルムのバイザーを下ろす。

 そして両手に戦鎚を構えなおし、その耳が捕らえた音のする方向へと向き直った。

 

「わかった!」

 

 リリの声にベルも頷き、両手に剣を持って身構える。

 すると、やがて霧のなかから地響きを立てながら、そのモンスターがゆっくりと姿を現した。

 茶色い肌に豚頭。ずるずる剥けた古い体皮が腰の周りを被ってまるでボロ布のスカートを履いているように見える。身長3(メドル)を超すずんぐりとした巨体の肌をぶるぶると震わせながら、そのモンスター、オークが二体、霧を割って現れる。

 その二体はリリ達を視認すると、雄たけびを上げて突進を始めた。戦闘開始だ。

 

「ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

「おおぉぉッッ!!」

 

 ベルも怪物の雄たけびに応じるように吠えると、先頭に立つオークに向かって飛び出した。

 オークが向かってきたベルを叩き潰そうと太い腕を振り上げる。それを見たベルは低く構えて走りを加速、振り下ろされる拳の内側へまっすぐに飛び込む。

 相手の腕をかいくぐりながら、腰溜めに構えた剣をオークの膝へと体ごとぶつける。

 刀身が肉を抉り骨を砕いてオークの足を貫通する。片膝を破壊されたオークがたまらず倒れ込むところに、ベルの背後から草を掻き分けて全身鎧を着込んだリリが飛び出した。

 

「ハアアアアアアアアアッッ!」

 

 リリが振りかぶった戦鎚を倒れたオークの頭蓋へと叩きつける。骨を砕き脳漿をぶちまける確かな手応えを感じながら、彼女は足を止めずに更にもう一体のオークへと走った。

 それに気付いた相手が迎撃の姿勢を見せると、リリは相手の直前で急激に方向転換。横っ飛びに転がりながら戦鎚を手放しリトル・バリスタを左腕のガントレットへ装着する。

 その間に、オークの足から剣を引き抜いたベルが彼女を追うような軌跡で残ったオークへと突進を開始した。

 

 オークの視線がリリとベルの間で揺れる。

 それを見たリリは、膝立ちの姿勢でオークの顔から上半身へと狙いを定める。

 

「くらえっ!!」

 

 射撃、射撃、射撃。

 連射性に優れたハンドボウガンのボルトをオークの顔から胸へと連続して撃ち込んでいく。

 

「ブギイイイイイイイッッ!!」

 

 それを嫌がってオークは叫び声を上げながら手を振り回し、撃ち込まれる矢群を打ち払う。だがその動きは逆側に回ったベルにとって隙だらけな背中を晒すことになった。

 走りこむベルが、その勢いのまま剣を構えて飛び上がる。

 そして一閃。オークの横っ腹を大きく切り裂きながら、ベルは着地する。オークは怒りの声を上げてベルを振り返るが、彼は既に大きく間合いを取ってオークの動きを警戒している。

 敵がベルに気を取られたのをみてとると、リリは戦鎚を拾い上げて突進。オークの足首を打ち払うようにフルスイング。くるぶしを砕かれながら片足を払われてオークの腰が落ちる。

 リリは打ち払った戦鎚を引き戻し、自身の後方に打撃部が振りあがる形で溜め構える。そして崩れ落ちるオークのまたぐらの間へと、下から掬い上げるように戦鎚を強振した。

 ぐしゃり、と肉がつぶれ汚ならしい液体があたりに飛び散る。

 声にならない絶叫がオークの喉から空気を震わせた。

 

 迷宮に居る間モンスターは生殖行動を行わないが、その機能を持っていないわけでは無い。外界へと飛び出せばいつでもそこで繁殖し定着する能力を持っているのだ。

 急所を叩き潰されたオークが痛みに体をよじり倒れ込む。

 その倒れた首へと、飛び出したベルが刃を滑らせた。横一文字に剣が走り、オークの首が跳ね飛ばされる。

 リリは倒れ込むオークの下敷きにされないように後ずさりながら、周囲を警戒した。

 

 荒い息を立てながら、彼女はバイザーを上げて霧に耳を済ませる。

 背後からはベルがオークを解体して魔石を取り出す音だけが彼女の耳に届いていた。

 

(他にモンスターは……いませんね)

 

 そこでやっと気を緩めて彼女は大きく息を吐く。

 10階層の探索は、リリにとって大きな負担を感じさせた。

 特にオークは体格の問題から彼女が一撃で致命打になる部分を攻撃する事は難しく、戦闘には神経をすり減らす。視界の悪さも、リリの索敵への責任が大きくなることで彼女を苛む。

 肉体的な疲労はポーションで回復できるが、精神的なものはそうは行かない。

 リリは疲れを自覚しながら腰につけた皮袋をとった。口をつけて水を飲み、もう一度深呼吸する。それでも自分がミスしなければこの10階層でも問題はない筈。彼女はそう思って気を張り続けていた。

 

 

 ベルが神酒(ソーマ)に苦しんでいた事が明らかになってから、リリとヘスティアは彼をなるべく休ませようとしたけれど、ベルはそれをやんわりと断った。

 

「神様もリリも、ありがとう。でも休んでいるより迷宮で戦っている方が気が紛れるんだ。もう無茶はしないから、そんなに気を使わないで大丈夫だよ」

「そうか……嘘じゃないみたいだね。なら、ボクはもう無理に休めとはいわない。でもベル君、本当に無茶はしないでくれよ!」

「そうですよベルさん。ベルさん一人で潜ってるんじゃないんですからね。リリは無茶に付き合うのはゴメンです」

「わかりました。わかってる。うん、気をつけるから」

 

 リリが冗談めかしてそう言うと、ベルも笑顔で応じてくれる。

 

「リリ君、ベル君が無茶しないようキミに頼むからね!」

「任せてくださいヘスティア様。リリがしっかりベルさんの手綱を握っておきますから」

「むむむ……そう言われるとそれはそれでイヤだけど……いや、そんな場合じゃないね。いいかいベル君。キミはしっかりリリ君のいう事を聞くんだよ?」

「えーっと神様。一応僕がパーティのリーダーなんですけど」

「ベ・ル・く・ん?」

「なんでもないです神様! リリの言う事に従います!」

「よろしい」

 

 そんなやりとりもあって、今パーティの行動はベルが復調するまではリリが決める事になっている。それなのに何故安全を重視する彼女が10階層への進出を決めたのかと言えば―――それは、ベルのためだった。

 戦っている方が気が紛れると彼が言ったのは嘘ではなかったからだ。

 迷宮で限界まで戦い続け、帰れば二人と共に泥のように眠る。そんな風にして眠りについた次の朝は、ベルの様子も心なしか気持ちが楽そうにリリには見えた。

 

 それまで彼の言動にあった違和感をリリは思い出す。

 もっと迷宮に留まりたい。休息日を減らしたい。もっと深い階層へ挑みたい。

 意識してか無意識かはわからないけれど、それらはベルが以前から望んでいた事は確かに彼が神酒(ソーマ)の呪縛から逃れようとした結果だったのだ。

 勿論だからと言ってその欲求そのままに無茶をさせるわけには行かない。それじゃあ谷底に向かって突き進む馬車と変わらない。けれど走りたがる馬を無理に縛り付けても病んでいくだけだ。

 だからヘスティアに告げたように、リリが手綱を取るようにして安全を確保できるギリギリの領域までベルを戦わせる。それが、リリが考えたベルのために出来る唯一の方法だった。

 

 10階層で安全を確保しながら戦うのは、リリにとって酷く疲れる毎日だった。

 けれどホームへと帰った後、ベルに抱きついてお互いの温もり(ヘスティアもくっついているけれど)を感じながら眠れば、そんな疲労も吹き飛ばせる。

 ベルのためと思えば、なんてことはない。だから彼女は今日も鎧を纏い戦鎚を振るうのだった。

 

 そうなると、ベルにも言われたようにできれば彼女もステイタスを更新したいと思った。

 けれどベルでさえこの有様だとすると、今現在ソーマ・ファミリアがどうなっているのかは、嫌な想像しか浮かばなかった。

 主神が本気で統制を掛ければ無軌道に暴れるような事は防げるだろう。けれどソーマはやる気を出してくれたと聞いても、ファミリアをまともに運営した経験自体があるとは思えない神である。今から団員ときちんと向き合ったとして、すぐに派閥を掌握できるかはわからない。

 それでもこのまま戦うより、リスクを犯してソーマを訪ねるべきだろうか……そんな考えがリリの内に生まれた頃のある日だった。

 

 

 ひょろりとした小さな体躯に短い角と鉤のついた尻尾を生やした黒色の小悪魔のモンスター。

 インプの群れに、リリは躊躇無く突っ込んでいく。

 

「ヤアアアアアァァッッ!」

 

 両手で振るわれた戦鎚が、先頭にいたインプの体をひしゃげさせながら吹き飛ばす。

 

 漂う霧と生い茂る草。それらに身を隠しながら襲ってくるインプの群れは、一匹のオークよりも厄介だとも言われる。けれど重く厚い鎧を全身に纏って走るリリは、数と身軽さを活かし鋭い鍵爪で急所を抉ろうとするインプにとって天敵だ。

 重い鎧を纏ったリリが突進すればインプの体格では止める事も出来ないし、切れ味は鋭くとも小さく軽い鉤爪が主力のインプでは、全身を覆う鎧を抜いてリリを傷付けることも難しい。

 

 戦鎚を振り回すリリが旋風のようにインプ達の群れをなぎ払う。焦るモンスターは数を頼みに取り囲み、動きを止めた所を一斉に襲おうとするがリリは止まらなかった。

 手前のインプを横殴りで吹き飛ばすと、肩鎧を前に突き出し体当たりで突進。インプの群れを強引に突き破る。

 

「ギイイイ!!」

 

 後方へと抜けたリリを見るインプ達。そしてその背後からベルが襲い掛かり、外周部のインプを一匹ずつ確実にしとめていく。

 そのベルをインプ達が囲もうとしても、包囲の一角にリリが飛び込みすぐにそれを崩してしまう。

 時には戦鎚を投げ捨て、背中に背負っていた盾を両手で構え一つの鉄塊となったリリがインプ達を跳ね飛ばして行く。そしてベルが倒れたインプに無造作にどんどんと剣を突き立てて止めを刺していく。

 最後に足元に転がったインプの首を、リリが重い鉄靴(グリーブ)で踏みつけてへし折る。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐き、疲労を回復する為にポーションを飲むと、魔石やドロップアイテムの回収をベルに任せてリリは耳を澄ませた。その耳に、遠くから剣戟や踏み鳴らされる足音、そして誰かの悲鳴や悪態が聞こえてくる。

 リリはしばし集中してその音を聞き取った。

 

(他のパーティ……それも多分、危機的状況(ピンチ)ですね)

 

 どうするか、とリリは考える。

 助けた所で自分達にそうメリットがあるとは思えない。精々お礼を言われてその戦闘で得た魔石が譲ってもらえる程度だろう。それでも余裕で助けられると言うならまぁ構わない。

 けれど10階層においてはリリ達は強者とは言えない。索敵を重視し、敵を選び、時には逃走する事もあるのだ。

 そんなリリ達が、おそらく多人数であろうパーティが危機に陥るような状況に飛び込んで無事で済む保証は無い。それどころか、のこのこと近寄って行けばこれ幸いと敵だけを押し付けられてそのパーティが逃げ出してしまう事すらありうる。

 

(見捨てるべきでしょうか……)

 

 しかし、これをベルに話せば十中八九彼は助けに行くべきだと主張するだろう。

 それは容易に想像出来る未来だった。

 では、黙っているべきか。

 リリさえ口を噤めばベルが気付く事すらなく事態は終わる。

 それが最も安全だし、ベルと自分の身を守るためならばリリは卑怯卑劣と謗られたって一向に構わない。けれど―――

 

仲間(パーティ)、ですからね)

 

 リリはベルの保護者じゃない。仲間だ。

 守りたいと思う。その為なら汚い事だってしよう。でも、それはリリの()()ではない。

 ただ危険から遠ざけたいだけなら迷宮になんか潜らなければ良いのだ。そして、ベルを引退させて二人で地上で働けば良い。

 

「ベルさん、他所のパーティが戦っている音が聞こえました。声から察するに、負傷者がでて危険な状況にあるみたいです」

「えっ、なら急いで助けに行かないと!」

 

 ベルは慌てて音はどちらから聞こえてくるのかとリリに問う。リリは彼に返答しながら、やっぱりと小さく笑みを浮かべた。

 

(仲間は助け合うもの。そう言って貴方は私を誘ったんでしたね)

 

 そしてベルは言葉通り、リリを助けるために力を尽くしてくれた。

 だからリリも、こうして彼のために力を尽くしている。

 それがリリの()()だ。

 迷宮に潜ることも、他人を助けるためにリスクを冒すことも、ベルが望んでいることなのだから、同じ様に彼を助けよう。

 そう思いながら、ベルを先導して霧の中をリリは走る。

 

「いいですか、ベルさん。リリ達じゃどうにもならないと判断したらその人たちは見捨てます。その時はリリの指示に従ってくださいね」

「……わかったよ。でも出来るだけ助けたい。お願い、リリ」

「ええ、わかっていますよ」

 

(―――ベルさんがそう言う人だってことはね)

 

 草を掻き分け走っていくと、霧の中からモンスターと戦う冒険者達の姿が浮かび上がってきた。

 5人組、1人は重症、そのフォローに1人が付いて残り3人が前線を支えている。後方をインプに囲まれて、正面にはオークが二体。視界には映らないがバッドパットの羽音も僅かに聞こえるようだ。

 

「おい、ロイスの様子はどうだ!」

「手持ちの高等回復薬(ハイ・ポーション)は使ったから死にはしねえが、すぐ動けるようにはならねえ!」

「まずいぞザック、インプ共がふえてやがる」

「くそくそ、くそモンスターどもが!」

 

 冒険者達の罵声が響き渡る。打つ手を見出せない焦りと混乱が彼らの焦燥を煽る。

 それならば、とリリはにやりと笑った。

 

「ベルさん、私たちはインプに」

「わかった!」

 

 ベルの答えを待たず、リリは大声を上げて突撃する鉄の弾丸となってインプの群れに突っ込んだ。そしてモンスター達の真ん中で、狙いも定めずに戦鎚を滅茶苦茶に振り回す。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 冒険者達が突然の出来事に唖然とする。そこへリリは間髪居れずに叫んだ。

 

「助太刀します! インプは任せて貴方方はオークの相手を!」

「お、おおう!?」

 

 リリ達の参戦は彼らにとって唯一見えた希望だ。当然、一も二も無く飛びついてくる。なら、彼らが混乱しているのなら、良からぬことを考える前にこちらからどうするのか道を示してしまえば良い。

 それに混戦でオークの相手をするより、インプの数を減らす役の方が自分たちの危険は少なく、後方の敵を処理するだけならいざとなれば離脱も容易い。そんなしたたかな計算でもって、リリはモンスターの群れに飛び込んだのだ。

 

「でやあああぁッッ!」

 

 ベルも冒険者達を鼓舞するかのように声をあげて、外周のインプの首を跳ね飛ばす。

 

「あ、ありがてえ!」「そっちは任せた!」「わかったぜ!」

 

 冒険者たちは口々に返事をすると、助かるかも知れないという希望が見えた事で彼等はリリの指示通りにオークへと向かっていく。

 それを確認したリリは改めて戦鎚を握る手に力をこめ、思考をインプ達を叩き潰すためのものへと切り替えていった。

 

 

「すまねえ、助かった。礼を言わせてくれ」

「気にしないで下さい。それより怪我をしてた人は大丈夫ですか?」

「ああ、あいつなら大丈夫だ。もう一本ハイポーションを飲ませたからな、すぐ動けるようになるだろう」

「ああ、なら良かったです」

「良くねえよ……ったくとんだ出費だぜ。ああ、アンタ。今仲間がモンスター共のドロップを回収してる。今回の倒したやつらが落とした分は、アンタ等が持っていってくれ」

「えっ、いいですよそんな。ハイポーションを二つも使ったなら出費も凄いでしょ?」

「バッカお前助けられといてンナ真似できるかよ。良いからこのぐらい受け取れ。出費っつったってこっちもそれで破産するわけじゃねーんだからよ」

「……わかりました。それじゃあありがたく受け取ります」

 

 戦闘の末に無事にモンスター達を倒しきると、相手のパーティのリーダーらしき男とベルが会話するのをリリは黙って見ていた。それはリーダー同士と言う事で交渉をベルに任せたから―――では無い。それだけの理由なら、別にリリが応対しても良かった。

 でもリリは、男が先に彼女に話かけようとしたのを遮ってベルと話すように促したのだ。それは、彼等がリリの見知った相手だったからだ。

 

 ソーマ・ファミリア。

 偶然か、それとも神の悪戯か。助けた冒険者はリリのファミリアの人間達だったのだ。

 一見しただけでは気付かなかった。

 カヌゥ等のようにリリから執拗に搾取し続けた連中でもなく、関わりの薄い人達。それでも金に飢え、リリを虐げてきたやつ等の一員である事に変わりは無い。

 

(わかっていたら、助けなかったのに……)

 

 嫌な気分になって、リリは兜の中で小さく舌打ちする。

 

(いえ、気付いたのが事が終わった後なのは、まだマシだったですかね……)

 

 彼女はそう考え直す。

 相手がソーマ・ファミリアの人間達だからといって、ベルが彼等を見捨てるとは思えない。

 そうなればどうしたって自分も戦わざるを得ないのだから、戦闘中に集中力が奪われるよりは結果的には良かったのだろう。

 強引にそう考えて、リリは自分を納得させる。

 そしてリリが考えていた間に、男とベルの会話も区切りがついた様だった。

 

「時間もまぁ良いとこだしよ、俺等はもう地上に退くつもりだ。そっちはどうするんだ? 戻るんなら一杯奢るぜ」

「あーそうですね。僕達は……」

 

 ベルが言葉を止めてリリの方を見る。言外にどうしようか? と訊ねているのはリリも理解している。当然、これ以上関わりたくないリリは首を横に振ろうとする。けれど、そこで彼女はある違和感を抱いた。

 

(あれ……なんでこの人達……)

 

 彼女は動きを止めてその男達を見詰め直した。

 怪我を負っていた仲間を心配する者。危機を脱したことを仲間と喜び合う者。ベルの視線を追ってこちらを見るリーダー格の男。

 

「……リリ?」

 

 黙ってしまった彼女にベルが不思議そうに声をかける。けれどリリの思考はそれどころではなかった。

 

(変です……こいつら、普通すぎます!)

 

 ソーマ・ファミリアの連中は今強い神酒への飢えに苛まれている筈。リリはそう思っていた。

 それなのに何故こいつら全員がこんな風に平然としていられるのか。ベルですら時折辛そうにしているというのに。

 

(もしかして……)

 

 そこからリリはある一つの推測を立てる。

 

「リリ、どうしたの?」

 

 心配したベルが近寄ってくる。それに対してリリは「いえ、大丈夫です」と返してから小さく深呼吸。

 そして兜の中で、小声で呪文を呟いた。

 

「―――響く十二時のお告げ」

 

 魔力が走り、リリの体が猫人(キャット・ピープル)のものから元の小人族(パルゥム)の物へと戻っていく。

 その魔法が完全に消えたのを待ってから、彼女は兜を脱いで小脇に抱え、素顔を晒してその男に向かって口を開いた。

 

「こんにちは、お久しぶりですね。ザックさん」

「……あぁ?」

 

 ザックと呼ばれたその男は訝しげに彼女を見る。すると少しの間の後に、彼は驚きに目を見開いた。

 

「お、お前、サポーターやってた小人族(パルゥム)子供(ガキ)か!?」

「思い出して頂けたみたいですね。リリの名前は子供(ガキ)じゃなくて、リリルカ・アーデですけど……ところで、ちょっとザックさん達にお伺いしたい事があるんです。地上に戻るのならご一緒して構いませんか?」

「あ、あぁ。そりゃあ構わねぇが……」

「はい、どうもありがとうございます。それでは短い道中ですがよろしくお願いしますね」

 

 そう言ってリリはぺこりと彼に頭を下げたのだった。

 

 

「しっかし、あのガキがまさかこんな戦士になってるとはなぁ」

「ガキはやめてくださいと言っているじゃないですか」

「おっとすまねえ。アーデな、アーデ」

 

 ははは、と男……ザックが笑う。

 地上に帰還するまでの間、リリ達は全員で臨時のパーティとして行動を共にし道中のモンスターを倒しながら上ってきた。その間の戦いぶりから、半信半疑だったザック達も今ではリリが優秀な戦士に変わったことを認めざるを得なかったのだった。

 地上に戻った後は、二組分の戦利品があることでバベルの混雑する換金所を避けてギルドまで移動し、まずお互いに換金を済ませる。

 それから近くの安酒場へと移動して、まずは危地を生き残った事を祝いあった。

 

「「乾杯!」」

 

 ごくごくと麦酒を飲み干し、ザックが息をはく。

 

「ぷはっ美味ぇ。さて、改めて礼を言わせてくれや。お前等のおかげで助かったぜ。ありがとよ」

 

 頭を下げる彼に対して、ベルとリリがそれぞれ言葉を返した。

 

「はい、皆無事でよかったです。」

「……どういたしまして」

「おう。それで、アーデが俺達に聞きたいことってのはなんなんだ?」

 

 改めて礼を言って話に区切りをつけると、ザックはリリにそう水を向けた。

 

「はい。お聞きしたいのはソーマ・ファミリアが今どうなっているのか……それから、ザックさん達はどうやって神酒(ソーマ)の渇きから逃れられているのか、です」

 

 そう。リリが彼等の様子を見る限り、ベルのようにただ精神力で神酒の誘惑に耐えているようには思えない。ならばきっと何かからくりがあるはずだ。それがわかれば、きっとベルを助ける事ができる。そう思って彼女は素顔を晒し、彼らと交渉する事にしたのだった。

 見る限り彼等が金や神酒に飢えている様子もなく、ファミリアが既に健全化しているらしいと思えたことも、リリの決断を後押ししていた。

 

「あぁ、そういうことか。良いぜ、話してやるよ」

 

 リリの方が神酒(ソーマ)に飢えて居ると勘違いしたのか。事情を察したという表情でザックが説明をはじめる。その彼が語った内容は、リリにとって驚くべきものだった。

 

「あの、ソーマ様が!?」

「ああ、俺等も一体何があったかと思ったぜ……まさかあの主神様がここまで俺等に手を掛けてくれるとはな……」

 

 それはソーマが既存の神酒に手を加え、試行錯誤して味を調整し、神酒を飲んだ者への渇きを癒しつつ、強く酔うことは無いと言う新しい酒を生み出したと言うのだ。

 彼はそれを団員達に配り、神酒に囚われ続けていた子供達の酔いを醒ましていったのだという。

 

「ザニスの一派も牢にいれられて団長も交代。はれて俺たちソーマ・ファミリアはまともな道へと歩き出した……っつーわけだ」

「……本当、なんですね」

「信じられねえのも無理ねえや。だがマジだぜ……お前もあれに飢えてるんなら、はやくあの方にあって薬酒を貰える様願った方が良い」

「……薬酒」

「俺等はそう呼んでる……あれはまじで効く。ずっと頭にかかってた靄が晴れるみたいに、視界が開けた感じがしたぜ……」

 

 そういってザックは真剣な目をすると、リリに対して向き直った。

 

「お前にも済まなかったな。神酒に酔ってた……なんて言い訳にもならねえが、随分と酷い目にあわせちまった」

 

 ザックの仲間達も真剣な表情でリリを見ている。彼等も皆、今までの自分の行いに思うところがあるのだろう。

 

「謝らないで下さい。あれはリリが弱かっただけで、きっと強さが逆だったならリリも同じ事をしてたでしょうから」

「ははっ、なら今のお前だったら俺等もやばかったろうな。次からはお前の荷物持ちでもやんなきゃならなくなる所だ」

「そんなことはしませんけど……」

「とにかくすまなかった。それだけ言っておきたくてな」

 

 ザックがそう言って頭を下げると、彼の仲間達も皆リリに頭を下げる。

 それを見てリリは身をそらせ、そして俯いた。

 

「もういいんです、謝らないでください……」

 

 彼等には特別に搾取された、と言う記憶はリリにはない。精々サポーターとして雇われても報酬が与えられなかったぐらいか。けれどリリが虐げられていても、彼等に助けられたという記憶もない。

 

(それを、今更謝られたって……)

 

 許せと言うのか、あの痛みを。虐げられ、奪われ続けたリリの半生を。

 そんな事……できるわけがない。そう彼女は思った。

 神酒が全ての原因だと言うのはわかっている。ザック達がリリを虐げていた主犯ではないことも知っている。それでも……割り切る事などできない。謝られても、リリには辛いだけだった。

 言葉を途切らせたリリに、ザック達は申し訳なさそうする。しかし重ねて謝る事はできない。他ならぬ彼女本人がそれを拒否しているのだから。

 それならばせめて話題をかえよう、と彼は口を開いた。

 

「……まぁなんだ、いつからあれを口にしてないのか知らねーがソーマ様はもう変わった。頼めば悪いようにはされねえ筈さ」

「そう……ですね」

 

 リリは頷いて俯いていた顔をあげる。

 

「ありがとうございます。早速リリもソーマ様にお願いしに行こうと思います」

「気にするな。助けられたのはこっちだしな。礼の足しにでもなったなら良かったぜ」

「十分ですよ。本当に助かりました」

 

 そう言ってリリは意識して笑顔を作った。

 

(……本当に、十分なお礼ですから)

 

 そうリリは考える。過去のことなんて感傷にすぎない。自分も彼等も、ベルのおかげでファミリアの呪縛から解放されたのだから、と。そのベルを苦しみから助ける事ができる情報を教えてくれただけで、リリにとってはどんな謝罪よりもありがたかった。

 

「それじゃあ私たちはこれで」

「行くのか。ソーマ様の前に顔を出し辛いってんなら付いてっても良いが?」

「いえ、それには及びません。お気持ちだけ頂いておきます」

「おうわかった。それじゃまたな、アーデよ」

「はい、ザックさん」

 

 リリはそう言ってベルを伴って酒場を出る。リリ達の話が始まってから黙って見守っていてくれたベルがそこでやっと口を開いた。

 

「リリ、あの話……」

「ええ、良い話が聞けました。これでベルさんの酔いも解決できます」

「……そうだね。それにソーマ様もファミリアの皆をちゃんと見てくれるようになって貰えたみたいでよかったよ」

「そうですね。あのソーマ様がそうまで変わるなんてちょっと信じがたい話ですけど」

「ソーマ様は、きっと本当は最初からそうしたかったんじゃないかな? たぶん、ただ子供(ぼく)達とどう付き合ったら良いかわからなかっただけなんだよ」

「……本当にベルさんはお人よしですね」

「えっ、なんで?」

「わからないなら良いんです」

 

 そう言ってリリは笑った。

 こんな風に真っ直ぐに神を信じるベルの言葉だったからこそ、あの方も心を動かされたのかもしれない。彼女はそんな事を思う。

 

「では、リリはこれからすぐソーマ様の所に言ってその薬酒と言うのを貰ってくるつもりです。ベルさんは先にホームに帰って待っていて貰えますか?」

「良いけど……リリ一人で大丈夫?」

「むしろリリ一人じゃなきゃだめです。ファミリアのあり方が変わったことを不満に思っている人間だっているかも知れませんから、もしベルさんがソーマ様と交渉したことが知られたらどうなるかわかりませんよ」

「そっか、そうだよね」

「リリだけでしたら、行方を晦ませていた団員が噂を聞いて戻ったってだけですから、特別注目されることも無いと思います」

「わかったよ。でもくれぐれも気をつけてね」

「ええ、任せてください」

 

 胸を叩いてリリはそう請け負った。

 篭手と胸当ての金属がぶつかり合ってガシャリと音を立てる。ベルはそれを見て、安心したように笑った。

 

 ベルと別れ、リリはソーマ・ファミリアのホームに足を踏み入れていた。

 身を隠すような真似はせずにあえて鎧姿のまま堂々とホームの廊下を進むと、彼女の予想通りにそれを見咎める者は居なかった。

 今の格好では一見してリリだと気付く人間は少ないだろうし、もし気付かれたとしてもリリにやましい所などないのだから気にすることはない。下手にこそこそと忍び込んだり変装するほうがリスクが高いと彼女は判断したのだ。

 以前からリリを虐げ搾取していた者たちの存在は確かに心配ではあったが、金を集めても神酒(ソーマ)が得られるわけでもないし、そもそももう団員たちはあの酒に酔っていないのだと言う。神酒のために僅かな金でも必死に集めると言う状況でなければ、性質の悪い連中であっても特別リリに構う理由などない筈だと彼女は考えていた。

 

 それが正解だったのか、彼女は団員と何度かすれ違ったが特別引き止められることも無く進むことができた。本拠の敷地の中央にある管理塔。その階段をあがり、最上階である三階に一室だけ作られた部屋の前に彼女は立つ。

 リリの記憶と変わっていなければ、ここがソーマの神室(しんしつ)の筈だ。

 彼女は大きな両開き扉に備えられたドアノッカーを叩く。一度、二度、三度と音を響かせて、応答を待った。

 すると僅かな間のあと、中から「―――入れ」と言う声が聞こえてくる。リリは小さく唾を飲み込み、口を開いた。

 

「失礼します」

 

 そう断ってから、彼女は大きな扉を押し開いていく。

 はたして、ソーマは居た。

 彼は部屋の中央に立ち、薄汚れたローブをまとって扉を開くリリを見ていた。

 

「お前は……」

 

 呟くソーマの眼前に、リリはつかつかと近寄ると片膝をついて頭を垂れる。

 

「ご無沙汰しております、ソーマ様」

「……リリルカ・アーデ」

「はい。リリの名前を覚えていて下さっていたのですね……」

「ああ……」

 

 リリが顔をあげ、しばし二人は見詰めあう。

 やがて彼女はもう一度頭をさげて言葉を続けた。

 

「ここ暫くの間音沙汰無くいました事、また不躾にもこうして直接お会いしに来た事、ご無礼をお詫び致します」

「構わない……それで何用でここにきた?」

「はい。実はソーマ様が神酒の酔いを醒ます為の薬酒をお作りになり、皆に配りになったとお聞きしました。お間違いなかったでしょうか?」

「ああ……」

「それでは、どうかお願い致しますソーマ様。その薬酒をリリにもお恵みになって下さいませんでしょうか?」

「……だが、お前は酒に酔ってはいない。一体何に使うのだ?」

「リリの仲間が今、先だって飲んだ神酒の酔いに苦しんでいます。そのために、どうか……」

「仲間……」

 

 リリの言葉にソーマは考え込む様子を見せた後、小さく頷く。

 

「そうか。お前があの少年の仲間だったのだな、リリルカ・アーデよ」

「……はい」

「そうか……お前があの少年の……」

 

 ソーマは目を細め、上向きに首を捻り嘆息した。

 

「わかった。お前の願い通り薬酒を用意しよう」

 

 その言葉にリリははっと顔をあげてソーマを見た。

 すると、彼女の目にはソーマがまっすぐにリリを見詰めているのが見えた。

 リリはもう一度頭を下げて、礼の言葉を口にする。

 

「ありがとうございます、ソーマ様」

「よい……こちらに来なさい」

 

 ソーマはそう言ってリリに立つように促すと、部屋の奥にある作業台へと歩いていった。

 その台の上にはいくつもの乳鉢や酒の材料らしき植物などが置かれている。

 

「暫く、そこで待っていなさい。今は薬酒そのものは無いが、神酒に手を入れて用意しよう」

「わかりました。お手数をお掛けして申し訳ありません」

「気にする事はない……」

 

 そう言ってソーマは作業台の前に座ると、乳鉢にいくつかの材料を入れて棒を使って混和を始める。リリは床に座り込み、ソーマの背を見詰めて彼の作業を見守る事にした。

 

(この、音……)

 

 会話が途絶えた神室(しんしつ)に、ソーマが乳鉢をするごりごりという小さな音だけが響いていた。

 

(なんだか、ずっと前にも……こうしていたことがあるような……)

 

 理由もわからない懐かしさを感じながら、リリはそうしてしばらくソーマの背中を見詰めていたのだった。

 

 

 リリがそうしてソーマの作業を待っている間、ホームへと帰還したザック達のパーティは、派閥の知り合いと飲みなおしていた。酒の肴は当然今日あった大きな出来事、リリ達の話題だ。

 

「まじか? あのアーデがねぇ……」

「ああ、本当だ。インプ共の群れに突っ込んだかと思ったらまるで竜巻見てえにやつ等をなぎ払ってよぉ」

「ちょっと信じられねえなー」

「俺もさ。あいつが兜を脱いだ時、なんかの見間違いか他人の空似かと思ったぜ」

「へ~~」

「あ、じゃあさっきすれ違ったのアーデだったのか? なんか見覚えある小人族(パルゥム)が歩いてると思ったんだよな」

「なんだよお前すれ違ってわからなかったのかよ」

「わかるかよ。別にそんな深い知り合いじゃねーし、だいいちすげー重装備で音立てて歩いてんだぜ。それがあのサポーターのアーデだなんて思うかよ」

「違えねえや」

 

 あはははは、とザック達は笑いあう。明るい酒宴。彼等はそれを喜んでいた。

 数ヶ月前までは考えられなかった状況だ。

 それまでの、神酒の魔力に支配されてザニス達派閥の幹部に搾取されながら必死で金を集めるだけだった日々。

 それが今ではどうだ。こうして仲間や友人と酒を酌み交わし笑い合えるようになった。

 あのリリルカ・アーデすら、いつのまにか冒険者に転身を遂げてあそこまで強くなっていた。彼女を悩ませる酔いも、主神に願えばすぐに解決する筈だろう。

 何の奇跡かわからないが、この数ヶ月でファミリアは何もかも良い方向に向かっているようにザックには思えたのだった。

 

「ふぅ……ちっと小便いってくらぁ」

「おう。酔ってるからって狙いを外してトイレを汚すなよ?」

「ばーか、飲んでるのは神酒じゃねえんだ。ただの酒の酔いなんかでンなことになるかよぉ」

「そりゃそうだ、俺たちはソーマ・ファミリアだからな!」

 

 どっと笑う仲間たちを尻目に、ザックの仲間の一人が立ち上がり席を離れる。彼が鼻歌を歌いながら廊下を歩きトイレに向かおうとすると、ふいに二人の男達が彼の前に立ちふさがった。

 

「おい通れねぇぞ。どけよ」

「いやなに、ちょっとお前に聞きたい事があってよぉ」

「お前等に話すことなんかねーよ」

「まぁそう言うなって」

 

 立ちふさがった連中はそう言って、道を塞いだままにやにやとした笑いを浮かべている。

 

(ちっ……なんなんだこいつら……)

 

 ソーマ・ファミリアは変わった。

 神酒の呪縛がなくなり、厳しい集金のノルマも撤廃された。

 何よりザニス一派が団長の任を解かれて投獄、チャンドラと言う実直なドワーフが団長となって、真っ当な探索系ファミリアとして再スタートを切ったのだ。

 殆どの団員はそれを歓迎し、喜んだ。彼やザック達もそうだ。

 

 しかし僅かだがそうではない人間達もいたのだ。

 元・ザニスの腰巾着共。神酒の酔いにあてられて苦しみながらではなく、嬉々として自分から他者を虐げ金を奪い取るような真似をしていた連中。

 罪状が明らかな者はザニスと共に投獄されたが、下っ端の連中はそうもいかない。

 非道を行っていたと言われても、神酒のせいでどうしようもなかった。本位ではなかった。これからはもうしない、と言われればそれ以上の追及はできない。

 それまで罰してしまえば、ファミリアの大半の団員を投獄しなければならない事になるからだ。

 

 当然、そんな連中とはザック達はソリが合わない。

 幸いそんな奴らは少数派だったし、今までは騒ぎも起さずその連中同士で固まって行動していたから無視していればよかった。

 だが今になって何故突然自分に絡んできたのか。疑問を抱きながら彼は嫌な予感を感じ踵を返して仲間の方へ戻ろうとする。

 

「うっ!?」

 

 だがその先に別の二人組が現れて、道を塞がれてしまった。

 

「おいおいトイレにいくんだろ? なに引き返そうとしてんだよ。道にでもまよっちまったか?」

「てめえ……カヌゥ……」

「おい怒るなって。ちょっと聞きてえ事があるだけなんだからよぉ」

 

 そう言って四人は彼へと迫っていく。壁際に追い詰められてた彼を囲み、カヌゥは口を開いた。

 

「で……アーデの奴が見つかったってのは、本当か?」

 

 

 

 

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