ガンショップ店主と奴隷との生活 -てぃーちんぐ・のーまるらいふ-   作:奥の手

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原作の奴隷ちゃんが出てきそうなサブタイなのにまだ出てこないという。


5日目 「町医者の奴隷(上)」

太陽が半分ほど顔を出し、この町の住人の大体が目をこすりながらベットから降りる頃。

 

ガンショップの店主が目を覚ましました。

むくりと起きて、一つ大きなあくびをして、隣を見ます。

 

「…………」

 

白く柔らかな生地に包まれる、ややくすんだ金髪の少女が、穏やかな寝息を立てていました。

 

(今日は俺の方が早く起きたか……)

 

少女を起こさないようにそっとベットから降りて、軽く腕を伸ばして脱力、足音を立てないように気を付けながら、冷蔵庫へと向かいます。

中からとりだしたのは白いパックでした。

 

(今日のこいつの朝飯は、桃の蜂蜜漬けでいいだろうか)

 

白いパックをそっと開けると、蜂蜜と桃の合わさった濃密な香りが辺りに広がります。

 

スプーンでいくらか取り出して皿に盛りつけ、しかしちょっと量が少ないと思ったのか、冷蔵庫からりんごを取り出すと半分に切って片方を皿にのせました。もう半分は冷蔵庫に返還です。

 

たった今盛りつけた皿にラップを掛けて、これも一緒に冷蔵庫へと入れると、白い紙を一枚取り出して『朝食は冷蔵庫に入っているから取り出して食え』と書き置きをします。

 

店主は少女の起床を待たずに出かけるつもりです。目的地は昨日服屋の女性に教えてもらった場所ですが、いくら何でもこんな早朝に訪れるのは非常識だということは、店主もわかっているようです。

 

なので今から向かうのは別の所でした。

 

強面の店主はいつものシャツにジーパン、少し丈の長い黒コートを羽織って、一階の店舗フロアへ降りていきます。

 

奴隷の少女は、そんな店主の様子を、寝たふりをしてうかがっていました。

 

 

 

 

「さて、と」

 

ガンショップの入り口から出た店主は少し辺りを見回すと、コートのポケットにある紙切れに触れてから、町の大通りへと歩いて行きます。

 

適当に時間を潰してから紹介のあった住所を目指すつもりですが、その時間つぶしに使う場所は一件の火薬屋でした。昨日寄ったところです。

 

「おーい旦那、いるか?」

「あいよ、ってお前さんか。昨日来たばっかだってのにどうしたんでい?」

「液体火薬が売れちまってよ。在庫がねぇから仕入れに来た」

「あいにくさんだがうちも昨日売れちまった。また来てくれ」

「おいおいまじかよ」

 

強面の店主は大げさに肩をすくめましたが、こんなことはよくあることで、ここを訪れたのには別の目的がありました。

 

「ところで旦那よ」

 

強面の店主は至って真面目な顔つきで、ポケットから取り出した紙切れを火薬屋の店員に見せます。

 

「この住所、どこだかわかるか?」

「あぁん? どれどれ…………おめぇさんこりゃ町外れだ。ちとこっからだと歩くことになるぞ」

 

どうやらガンショップの店主は紹介された住所がどこのことを指しているのか分からなかったそうです。

 

火薬屋の店員からそんな事を聞かされた店主ですが、特に困ったような表情はしませんでした。

 

「そうか。んじゃあ今から向かえばちょうど良い時間につくかね」

「だろうよ。でもよおめぇさん、そこは医者の住所だぞ? ケガでもしてんのか?」

「あぁ、いやケガじゃねぇよ。ちょっとここの人間に話があるだけだ」

「そうかい。まぁ、今から行きゃいいぐらいだろうよ」

 

火薬屋の店員はそういいながら店に入り、ゴソゴソと何やら麻袋のようなものを取り出します。

 

「液体火薬はねぇがおもしれぇもんが手に入ったんだ。これ見てくれよ」

「なんだこれ?」

「こいつはブランデンブルク侯の跡地から引っ張ってきた――――」

「ほうほう――――」

 

太陽が完全に姿を現し、本格的に町が目覚め始めた頃、ガンショップの店主と火薬屋の店員はお互いに取り扱う品物をみて談笑に興じ始めました。

店主が町外れの医者の元へ向かうのは、このあとだいぶ経ってからです。

 

 

 

 

その頃、ガンショップの居住フロアでは。

 

白い寝間着から赤いワンピースへと着替えた傷だらけの少女は、机の上の書き置きに従って冷蔵庫からお皿を取り出しました。

 

「…………なんだろ、これ」

 

食卓に着いてラップを取り除き、用意されていたスプーンで皿のものをすくいます。

 

「すごく甘い香り…………これ、果物?」

 

誰もいないからこそ無意識のうちに独り言を呟く少女は、おそるおそるスプーンを口へ運びました。

 

ちゅるん、と簡単に滑り込んできたそれは、少女の想像を遥かに超える甘さです。

 

「あ、あまい、なに、これ、こんな果物あったんだ」

 

蜂蜜がかかっていることを少女は知りませんが、皿の上に添えられてあるりんごの味がわからなくなるほどの甘さに、驚愕しているようです。

驚きの表情のまま二度、三度とスプーンですくって口へと持っていきます。

 

しかし半分ほど食べたところで、

 

「…………なんで、ご主人様ってずっと甘いもの食べてるんだろ」

 

気持ち悪そうな顔をしています。胸の辺りを何度かさすっています。

 

「でも残したら怒られるかも…………うん、がんばろ」

 

スプーンを置き、皿を両手で持った少女は、そのまま皿を傾けて一気に口へ流し込みました。

 

ここへ来てからの五日間。奴隷の少女は、朝昼晩とほぼ全てが糖分で出来た食べ物でお腹を満たしています。

 

いままでの人生で少女は、充分と呼べる食事をほとんど与えられたことがありませんでした。与えられたのは一つ前の家でです。それも極々短い間でした。今となってはあの食事は少女の心を開かせるための罠だったと、少女自身は理解しています。

 

このガンショップに来てからの初めの三日間ほどは、この甘すぎる食生活に特に疑問は持っていませんでした。またこうやって付け入ろうとしているのだろうと思った程度です。

 

ですがさすがにこうまで続くと、一体何が目的でご主人様がこんなにも甘いものを出し続けているのか考えてしまいます。

 

「甘いものは……今まであまり食べたこと無かったし、食べさせてもらったあの家では…………う、ううん、考えちゃダメ。あの家のことはもう考えちゃダメ」

 

苦しそうに顔を歪め、イスの上で体を小さくする少女ですが、なんとか耐えきって呼吸を整えます。

 

「…………嫌いじゃないし、あまいの美味しいから好きだけど、こんなにいっぱいだと、なんだか胸がむかむかする…………これが、狙いなのかな……」

 

少女は知りませんでした。

ここの店主は糖分が大好きで、そして店主が読んだ本には〝児童期の子どもは甘いものを好む〟と書かれていたことを。

 

店主自身が相当に甘党で、そのうえ本には〝子どもと言えば甘いもの〟みたいな内容が書かれていればとるべき行動は一つです。

強面の店主はあまり深く考えずに、少女の食べ物全てを砂糖漬けにしていました。

 

「もしかしてここのご主人様は、甘いものをいっぱい食べさせて、私の口がおかしくなるのを楽しんでるのかな…………」

 

斜め上の発想で少女は膝を抱えて、たった今自分が食べた白いお皿を眺めながら、そんな事を呟きます。

 

しばらくそのままじっとしていて、だんだんと胸のむかむかが薄れてきたので、お皿とスプーンを片付けました。

 

水で少し流した後、シンクから振り返った少女は、がらんとした部屋を見回します。

 

今、この建物には、少女以外誰もいません。

一階はもちろん、二階の居住フロアも、少女の立てる音と時計の針の音以外何も聞こえません。

 

「…………」

 

今? いま取っちゃう?

 

昨日、自分で自分に約束しました。強くならなくちゃいけない。

頼れるのが自分だけ、信じられるのが自分だけで、その自分が暴力に負けないようにするためには。

 

てっぽうがあれば強くなれる。

 

少女は銃のことを知っていました。もうずいぶん前のご主人様でしたが、奴隷を的にして銃で撃ち殺すのを楽しみにしている人でした。

少女に銃口が向けられることはありませんでしたが、まだ幼かった彼女の目の前では、少なくない数の奴隷が苦しみながら死んでいました。

 

大きな音が出て、目に見えない速さで何かが飛んで、当たった人は「いたいいたい」って言いながら転がるんだ。

それから、血がいっぱいでて、死んじゃうんだ。

 

少女は銃に対してそれほど鮮明な記憶はありませんでしたが、そんな感じの道具だと言うことは覚えています。そして昨日のお姉さんの話です。

 

女の人でもてっぽうは使える。男の人を殺せる。

 

「…………どこにあるのかな」

 

赤いワンピースのすそを揺らしながら、少女は一階へと下りていきました。

 

 




原作の奴隷ちゃんの名前は〝シルヴィ〟と言いますので、もし気になる方はお手元の端末でグーグル検索されることをオススメします。
あわよくば共にシルヴィちゃんを愛でましょう。

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