寄生少年の学園生活日誌   作:生まれ変わった人

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今回は新一たちではなく、別視点の話となります。

それと、感想が返せずにすみません。今後からは少しずつ返していくよう努力していきます。
誤字修正してくださる人たちにも感謝です。


赤い雨

新一から逃げてきたパラサイトの生き残り事情は大きく変わった。

 

敵対した新一からは幸運にも逃げ延びることができ、モールの大量の食料を諦める形となったが、生き残ることができた。

しかし、生き残ったとはいっても人間社会が崩壊した現状では心苦しいものである。

 

新一から受けたダメージに加えて食料はおろか栄養の調達さえできなかったのだ。体が重く、意識も少しずつかすんできたのも気のせいではないのだろう。

 

(よもや、あんな人間がいたとは……)

 

パラサイトらしい淡白な感想だが、その胸中は複雑なものとなっていた。

 

 

このパラサイトはこれまでに近場で仲間の反応を感じたことはあまりない。時々郊外でひっそりと暮らしているであろう仲間の反応は確認したものの、下手に干渉するでもなく、現状維持のために交流を断ってきた。

そのため、弱い人間の中で生活し、か弱い人間などただの食料としてしか見れなくなったため、自分本位な性格へと形成されたのも仕方がない。

 

それどころか自分以外のパラサイトのようにいつ、敵対するか分からない存在も皆無と言えたのはまさに、この町が自分のものだと思わせることになった。

 

世間はこれを、『井の中の蛙』という。

 

 

 

そんな中で起こった謎の生物災害は確かに驚愕に値したが、内容はあまり変わらなかった。

弱者が強者に食われる、ただそれだけのことだった。自分の今までの生活と変わらないではないか、と。

 

だが、そんな考えを驕りだと感づかせたのが、新一との戦いだった。

 

 

相手はただの人間だと油断したのが間違いだった。新一の並外れた身体能力に加え、対パラサイトを想定した立ち回りで苦戦を強いられた。

一時は機転が功を奏して流れを押し流したが、その直後に起こった出来事に目論見は外された。

 

 

仲間の腕、それが人間と共に殺意を持って襲い掛かってきた。人間とパラサイトの交戦に初めて、『天敵』を認識した。

苦し紛れの策で撤退はできたものの、もう二度と出会わない保証などどこにもない。

 

 

恨む、なんて益のないことはしない。

ただ、恐れた。

 

(奴の提案でものっていれば……)

 

ひたすらに生存に関して貪欲なパラサイトは新一に仕返しをするなどという考えは浮かばない。平凡な暮らししかせず、特殊な思考に目覚めたパラサイトとは程遠い存在である。

 

強者としてのプライド……そんなものに微塵も未練もないパラサイトは早急にこの町を出ることに決めた。

 

 

新一たちが車を使っているということは、またどこかで鉢合わせする危険性が高いからだ。

本来なら動き回る死体共に食われれば万歳なのだが、新一がそう簡単に殺されないだろうと直感でなくても分かる。

 

(このまま南であれば隣県に出られるのだったな……急がねば)

 

八方塞がり

 

そう結論付けた後の行動は迅速だった。ここで破滅を迎えるのを待っているのは体力的にも限界だと感じたからだ。

念のために周辺の地理を把握していたのは大きい。このまま逃げようとパラサイトは立ちふさがる死体を斬り刻みながら足を進める。

 

 

 

 

その瞬間、強い反応に体が押しつぶされた。

 

 

「な……がっ」

 

 

パラサイトは驚愕しながら、膝から崩れた倒れた。

自身を押しつぶすものの正体は、『仲間からの反応』だった。ただ、その濃度は新一の比ではない。

あまりに濃すぎる反応はまるで質量を持ったように重く、息苦しい。逃げたくても体が言うことを聞かない。先ほどまで行った戦いの疲労とダメージ、そしてのしかかる反応に人体に過度なストレスに限界を迎えたのだ。

 

抗うことすら許されないと言わんばかりの圧力にパラサイトは思考を練ることさえできなかった。

 

 

 

 

「仲間の反応があったものの、潰れたか」

 

圧倒的圧力に耐えられずに動かないパラサイトの元に一人の男が現れた。既に人の頭として形状崩壊しているパラサイトに動じるどころか路傍の石を見るような感情のない視線を向ける時点で普通ではない。

 

 

その男は『伊藤』

 

この男も紛れもなくパラサイトだった。

 

 

伊藤は自分の反応に潰れたパラサイトを前に、拳を振り上げる。それでもパラサイトは動く気配がない。

 

 

「さして取るに足らんが、私の目的を意図しない形で邪魔されたらたまったものではない」

 

伊藤は目の前の仲間に対して、感情など動かない。

あるとすれば、一つの目的に対する異常なまでの執念だけだった。

 

 

「残念だよ。さっきまでの人間のほうが骨があった」

 

心にもない言葉と共に、振り下ろした拳を血で濡らした。

 

 

 

 

時は少し戻り、外堀に囲まれた要塞のような大学

 

聖イシスドロス

 

 

とある企業により、一つの街であり、生物災害に見舞われた今日であっても敷地内の安全と設備が保証される。

そんな大学も、少し前までは教授や生徒を含めた大学関係者が『奴ら』となり、人を喰らう地獄絵図が繰り広げられていた。

 

 

しかし、生存したごく一部の中には地獄と化した大学を立て直した者たちがいた。

 

 

それが、『武闘派』と呼ばれる者たちだ。

 

様々な分野に精通している学生が集まっているだけあって、人材が豊富だったことからこの状況を打破したといえよう。中にはこんな気が狂いそうな状況下の中で常人ではありえない趣味嗜好を開花させ、この大惨事を楽しむ者さえいた。

それもまた、この状況を生き残ってきた強みと言えよう。

 

彼らは常日頃から武器を身にまとい、外に出ては物資の確保や活動範囲の拡大に勤しんでいる。さらに、彼らは衛生管理も徹底し、1%の危険性があれば排除するスタンスまで取っている。

まさに、暴力と規律でのし上がった集団となった。

 

 

大体は武闘派が幅を利かせているということもあり、『武闘派』はいつしか自分たちが世界の中心だとも言わんばかりに増長していた。

 

 

そんな武闘派の一人が、破られるはずもない正門をボーガン片手に退屈な見張りを行っていた。

 

 

 

 

外が地獄だと言われても信じられなくなりそうな、のどかな時間

 

 

青空を仰いで交代時間が来るのを今か、今かと待っていた時、それはやって来た。

 

 

正門が開いた。

突然のことに眠りかけていた見張りは気を取り直し、訓練通りに茂みに隠れて様子をうかがう。『奴ら』であれば即射殺、生存者であれば情報と荷物を奪う。

 

どうあっても外部の者は利用するスタンスに決めた集団はいつしか正門に集まり、各々隠れて様子をうかがう。

 

(男か……)

 

門を開いて入ってきたのは中年の男だった。

一見すると、何のとりえもなさそうだが、すぐにその異常性に気付く。

 

男は『奴ら』が蔓延る外から堂々とやって来た。

 

 

車で来た可能性もあるが、エンジン音は聞こえなかった。

仮に遠くから降りて来たとしても、『奴ら』との戦闘は避けられない。

その証拠に、男の服は血で濡れている。

 

 

(応援を呼べ)

(了解)

 

 

一気に危険人物とみなし、矢を装填する。

一帯の空気が張り詰めたのにも気づかないように、血濡れの男は敷地内を我が物顔で進んでいく。

 

その様子に周りの男たちは言い知れない愉悦を感じていた。

 

 

馬鹿な獲物が網にかかった、と

 

 

 

この状況下で彼らの性格は歪み、いつしか狩りを楽しむようになっていた。

自分たちがあの男の生殺与奪を握っているという認識で、言い知れぬ優越感を感じていたのだ。

 

そんな感情をおくびにも出さず、男を完全に包囲できる位置まで来るのを待つ。

 

 

逃がしも抵抗もさせない

 

 

 

そして、男が特定の位置まで歩いたとき、待ちわびたように立ち上がる。

 

 

 

「動くな!!」

 

ボーガンをチラつかせ、男に矢先を向ける。向けられた男は立ち止まり、こっちを見据えている。

 

その間に仲間たちも次々と立ち上がって各武器を持って囲んでいることを見せつける。

 

「無駄なことはするなよ。大人しくしていれば何もしない」

 

 

これだ、この瞬間がたまらないのだ。

自分の指先で男の命を握り、それに慄き、恐れる。まるで神みたいではないか、と。

こんな狂った世界を生き抜くには自分が強くなければならない。そう言い利かせ、これまでのようにいい想いを味わってきた。

 

 

いけ好かない奴を殺し、泣いて懇願する美人も犯してきた。

 

 

それが、この世界の常識だ。これが正しいのだ!

 

 

下種な笑みを心の中にとどめ、ボーガンをチラつかせていたが、ここで違和感に気付いた。

 

 

この男、さっきから無表情なのだ。

 

 

この騒ぎで心が死んだのか。そんな連中をいくつも見てきたが、そんなのとは様子も違う。

まるで、武装集団に囲まれているこの状況が何でもない、と言わんばかりに平坦な表情だ。辺りを見回して景色を堪能しているかのような様子まで見せる始末。

 

それに気付いたとき、どっと不快感に見舞われる。

 

 

格下の相手に無視された時のようだ。

俺たちがお前の命を握ってるんだ、怖がって楽しませろ。

 

 

まるで『お前たちなど数の足しにもならん』と言われているような錯覚を覚えた。

 

 

それ故、ボーガンを握る手に力がこもる。

それでも自分たちが優勢だということを誇示したいため、苛立ちを隠して再度忠告する。

 

「これで最後だ。みぐるみ置いて一緒に来てもらおうか。拒否するなら」

 

 

 

 

これより後の言葉は続かなかった。

 

それもその筈、男は忠告の途中で頭部を押しつぶされたのだから。

 

 

 

十数メートル先に佇んでいた男が頭部を木に叩きつけて。

 

 

「は?」

 

 

そして、同胞が絶命した瞬間を見ていた者たちは理解できなかった。

男が消えたと思った瞬間、この場を仕切っていた班長役の男が首を無くした物言わぬ肉塊になったのだから。

 

男が脳漿をぶちまけた手を放し、班長だった男の体がズルズルと血の跡を残して地面に倒れた。地面が血に濡れるのも気にしていないように、男は変わらず無表情だった。

 

だが、その表情には先ほどまでとは違った。無表情の中に二つの感情が表れていた。

 

 

“退屈”と“失望”

 

 

買ったゲームがつまらなかったと嘆く子供のように、男はため息を漏らす。

 

 

そんな異常な男を前に、状況を理解し始めた男たちは体を震わせる。そんな時、血濡れの男は初めて口を開いた。

 

 

 

「その武器が飾りでなければ抵抗しろ。それとも、もう2,3人を見せしめにするか?」

 

 

その言葉に男たちの恐怖は爆発し、狂乱状態に陥った。

 

あれが何者か分からない。何だあれは、何故自分たちに敵意を見せるのだ!?

正体は分からない、でも、ここで殺さなければ自分たちが死ぬ。折角生き残ったのに、殺されるのは嫌だ!!

 

 

「ひゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「死にたくない、死んでたまるかああぁぁぁぁ!!」

 

 

悲鳴交じりに武器を乱射し、矢は全て血濡れの男に向かう。

 

 

そんな血濡れの男は、まるでスローで向かってくる矢の大群を前に口角を釣り上げた。

 

 

「実験開始だ」

 

 

 

 

この日、晴れやかな青空の下で大量の雨が降った。

保たれた平穏を無慈悲に洗い流す、赤い雨が降った。

 

 

 

化物は蹂躙するだけだった。殺し、食い、成長する。

それしか頭になく、興味もなかった。

 

 

 

だからこそ、気配は感じても無視した。

この大学から6人ばかりが出て行ったとしても、弱者に微塵の興味もわかなかったのだから。




今回は、本編でも終わりを迎える大学の状況を描きました。
でも、私としては大学編はやらない予定なので、ここで退場させていただきました。

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