「ねぇパパ?どうして私にこの名前をつけたの?」
生まれてからずっと病室ぐらしの少女は問いかける。
「凛と佇む、可憐な女性になって欲しいと思ったからだよ」
悲しげな笑顔を浮かべ、彼女の父親は答える。
部屋は仄暗く、些か病室とは言い難い。
しかしそこは間違いなく病室、少女専用の。
「ねぇパパ?お外出ちゃダメなの?」
「あぁ、すまない。出て遊んでおいでと言いたいが、お前には無理なんだ、ベロニカ…」
ベロニカという花の名の少女は、日光アレルギー…。
カーテンも黒、床もベッドも、部屋の全てが黒。
唯一、少女の洋服のみが鮮やかな青紫。
仄暗い部屋には良く映える、まるで聖女の前にいるように。
・・・・・・・・・・
生まれて数日経った頃から、少女には発疹が現れ始めた。
「あなた、どうしてこの子はこんなにも発疹が出るの?」
薬を塗っても一向に引く様子はなく、ますます酷(ひど)くなるばかり。
「とりあえず診療所で診てもらおう」
近くの診療所に行くも病状はわからず、様々な診療所を点々とした。
そしてようやくその答えが出た。
国を渡った、大きな専門病院で。
「娘さんは日光アレルギーです」
それは両親にとって初めて聞く病状だった。
日光…紫外線によって肌だけではなく、目、舌、その他全ての臓器にまで炎症が回ってしまう。
・・・・・・・・・・
「…パ?…パパ?」
「あぁ、なんだい?」
「どうしたの、ぼーっとして…?」
「お前が可愛いから見惚(みと)れていたんだよ」
そう言いながら少女の頭を撫(な)でる。
日光アレルギーなどなければ、普通の生活を送れたはず。
海に行ったり、山に行ったり、キャンプをしたり、スキーをしたり。
父親は言いたいことをぐっと堪(こら)え、少女を抱き寄せる。
「ベロニカ、パパはもうお仕事に戻らなきゃ」
「次はいつ会えるの?」
「すまない、これから忙しくなって、いつ会えるという約束ができないんだ」
「わかったわ、パパ。お仕事がんばってね」
明るくそう言う娘に安堵(あんど)したのか、彼女をベッドに寝かしつける。
「今はもう夜中だが、外の景色を見せてやれなくてすまない。ゆっくりおやすみ、ベロニカ」
頷(うなず)き目を閉じた娘を見て、額にキスをする。
そしてそのまま、父親は仕事に戻った。
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ジリリリ
娘から離れて一月経った頃、病院から自宅に連絡が来た。
電話を取った母親は、みるみる青ざめていき、座り込んでしまった。
「大丈夫か、アルメリア」
「ベロニカが…長時間外に出てしまったそうなの」
「!?」
そう言われ体は無意識に出かける準備を始めていた。
数時間後、二人は数日分の着替えを持ち、病室にいた。
変わり果てた姿の少女のそばで、治療を続けている医師たち。
青紫の洋服は所々黒ずみ、肌は赤黒く爛(ただ)れ、呼吸も浅い。
「一通り治療をしましたが、この子の回復力次第です」
部屋を出る医師たちに二人は頭を下げる。
「パ…パ、…ママ、ごめ…んね…」
その声はか細く、喉にまで炎症があるのかしゃがれてしまっていた。
「お外…き…れい…なん…だね…」
「ベロニカ、もう喋らなくていい」
「ごめんね、強く産んであげれなくてごめんね」
二人は娘の前でボロボロと涙を流した。
「わ…たし…パパ…と…ママ…が、パ…パと…ママ…で……よかっ…」
「ベロニカ…?」
少女はもう二度と、可憐な笑顔を咲かせることはなかった…。
<了>
ベロニカって地味だけどしゃんと立ってる可愛らしい花ですよ。
初めまして、川内グレンです。「川内」と書いて、「せんだい」です。それだけ覚えてください。
初の1000文字以上。普段はブログで5分の1程度のものしか書いていません。
こういうものがあると知って、登録した初日に書いて投稿して見ました。
たぶんこんな感じの薄暗い内容の、一話完結のお話ばかりになりますが、不定期に書いていきたいと思います。