とある事件がきっかけで弱体化したガガーランとティア。
戦いの勘を取り戻す為モンスターがよく現れるという森に挑むが……。

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書籍版の設定で書いてあります。書籍第六巻の後のお話しです。


オーバーロードSS Not exist rose

王国都市エ・ぺスペル 外れの森

 

 

「アアアアアアアッ――!!」

 

ガガーランの覇気が籠った一撃がオーガの脇腹に炸裂した。

 

「グガガッ!!?」

 

致命的な一撃に悶えながらも最後の抵抗と、腕を伸ばしガガーランの首をへし折ろうとするオーガ。

しかし必死の抵抗もガガーランに届く前に無数のクナイで引き裂かれる事となる。

悲鳴と共にうずくまるオーガの頭をガガーランが兜割りにしオーガは息絶えた。

 

「ふぅ――。さすがにニ十体目ともなると疲れるぜ」

 

刺突戦鎚(ウォーピック)を肩たたきのように扱うガガーランの横に先ほど投げたクナイの持ち主ティアが降り立つ。

 

「そろそろ休憩しよ」

 

丁度座り心地の良さそうな切り株に腰かけ、ぬるまったい水を飲むガガーラン。

手慣れた仕草でオーガの耳を削ぐティア。

倒したモンスターの一部を持ち帰る事で冒険者組合から報奨金が出されるのだ。

 

彼女達からすればオーガ狩りの報奨金等たかが知れてるが、それでもついやってしまうのは冒険者の(さが)みたいなものである。

 

アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』。

冒険者の中でも最高位、アダマンタイトに位置する彼女らのチームは人類屈指のパーティーである。

 

メンバーは総じて五人いるのだが今ここでオーガ狩りをしているのは二人。

大柄で屈強な女戦士ガガーラン。元暗殺者の忍びティア。

とある事件で弱体化した体を鍛え直す為、エ・ぺスペルを拠点にこの森で修行をしていた。

 

「あ~まだまだ体がだるいぜ」

 

「動きが鈍い」

 

アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』は五人揃って初めてその真価を発揮できる。

今の二人は良くてオリハルコンクラスの実力しかないがそれでも数体のオーガを相手に一方的に殲滅する事が出来た。

 

「いやしかし話に聞いてた通りモンスターが多いなここ。それほど街から離れてねーのに」

 

冒険者組合から最近モンスターが多く出現すると聞いてやって来たのだが半日でオーガが二十。

ゴブリンや他のモンスターを入れれば五十体近くのモンスターに遭遇した。

 

「何かいんのかもね」

 

モンスターを支配するモンスターが存在する事は冒険者の中では常識だ。

得てしてそのようなモンスターは通常の個体より強く特殊能力を持っている場合が多い。

 

「へへ、いるかもな。・・・・・・魔神王とか?」

 

「う、やめて」

 

あの時の出来事がトラウマのように脳裏に蘇る。あれのせいで未だに火がちょっと苦手だ。

 

「まさかあんな化け物が世の中にいるなんてな」

 

「うん。しかもそれと互角に戦える人間がいるなんて」

 

蒼の薔薇と同じくアダマンタイト級冒険者『漆黒のモモン』。

圧倒的な強さを持つ化け物を打ち負かした化け物以上の化け物である。

 

いや、とティアは思い直す。命の恩人を化け物呼ばわりは失礼だ。

イビルアイのような下心ではなく、純粋な気持ちでの敬意である。

 

そもそも抱かれるならパートナーの『美姫』の方がいい。

 

「モモンか・・・・・・。そういやあの『チビ助』会えたかな?」

 

現在、他のメンバーはとある人物からの依頼で都市エ・ランテルへ向かっていた。

各都市で違法な商売をしていたある『組織』の調査の為であったが、本来の道順とは違う経路になったのは完全に一人の我が儘だ。

 

エ・ランテルは漆黒のモモンの拠点である。

モモンに助けられて以来、モモンにご執心のイビルアイは依頼の事など頭になく。

エ・ぺスペルで別れる前日では自らローブを洗濯し、ラキュースからわざわざ化粧を教わるなど、日頃慣れないお洒落をして(結局仮面を被るのだが)万全の態勢で向かったのだった。

 

「会えないに金貨一枚」

 

冷静なティアの一言にガガーランは豪快に笑う。

 

「ハハハハッ!! 冒険者がいつまでも同じ場所にいる方が珍しいってもんだよな。まぁ、答えはもうちょいしたら分かる」

 

何の問題も起きなければ今日エ・ぺスペルで合流する事になっている。

その時のイビルアイの様子で結果は分かるだろう。

 

「――――!!」

 

さっきまでの穏やか談笑から一変。ティアがクナイを構える。

ガガーランも刺突戦鎚を構え森の一点を見る。

 

「声が聞こえる、人間か!」

 

バキバキと枝を折りながら通常よりも二回りは身の丈のある巨大なトロールが現れる。

この森にこのようなトロールが出て来るなど聞いたことがない。

 

「こいつかぁ? この森を荒してんのは?」

 

「だろうね」

 

巨大なトロールは片手に二メートルはあるグレートソードを持ち、それを支える腕は異常に発達していた。

トロールはガガーラン達を睨みつけると小馬鹿にするように鼻を鳴らし、大声で叫んだ。

 

「俺は強き王『グ』を兄に持つ『ド』だ! ここは俺の縄張りにした、貴様ら弱い人間は出て行け!」

 

「グ? ド? 名前かな?」

 

「多分」

 

戦鎚を構えながらガガーランはドに話しかける。向こうが名乗って来た手前、無視するわけにもいかない。

 

「あ~ドとやら、俺はガガーランっていうもんだが悪いがここは人の街に近い。大人しく元いた所に帰んな!」

 

ガガーランの言葉を鼻で笑うド。トロールからすればガガーランでさえも小さい人間である。

 

「臆病な名前の癖に偉そうな事を。ん、それともお前たちか? あの不快な建物を作っているのは!」

 

一方的な言い草に思わず顔を見合わせる二人。

どうやらお(つむ)の方は体程大きくないらしい。

 

「臆病? 建物?――ったく話が噛み合わねぇ!」

 

「やっちゃう?」

 

クナイを構えるティア。ガガーランは手の平に唾を吐く自慢の刺突戦鎚を握りしめた。

 

「はん! もう向こうさんはその気みたいだぜ!」

 

ドはグレートソードを振りかぶるとガガーラン達を見る。

 

「考えると腹が減る。不快な臆病者は俺の飯になれ!」

 

そのまま打ち下ろされたグレートソードはガガーランに当たらず地面の土を盛大に打ち上げた。

 

「のろいぜっ!」

 

ガガーランはその巨体に見合わない華麗な体裁きでドの一撃を回避すると、躱した態勢から捻るように刺突戦鎚を打ち込む。

 

戦鎚はドの空きっ腹をさらにへこませその巨体を沈ませるが、それは一瞬の()であり。

ドは再び何もなかったかのように剣先を地面にめり込ませたままグレートソードを横に薙いだ。

 

「なに!?」

 

戦鎚を返し、柄の部分で受け止める。しかし恐ろしい膂力で今度は押さえたガガーランの足を地面にめり込ませる。

 

「――――ガァ!!?」

 

突然顔を押さえるド。右目にはクナイが突き刺さっている。

更に二投目、三投目と迫るクナイをドは無視出来ずグレートソードで撃ち落とす。

 

ガガーランはその隙に距離を取り、ティアの横に並んだ。

 

「ふぅ――! なんて馬鹿力だ」

 

「それに凄い回復力」

 

乱暴にクナイを抜き取るド。右目と腹の大穴、そのどちらも戦意を失うには十分な傷である。

――――しかし。

 

クナイの刺さった右目、先ほど腹に出来た大穴がまるで巻き戻し再生のように戻っていく。

トロールが種族で持つ強力な再生能力だ。

 

片目と腹を完全に再生させると筋肉隆々の腕を広げ天を仰ぎ、森全体を震撼させるような咆哮を上げる。

 

「ほぅ、これはこれは」

 

「うん」

 

完全に怒り狂ったドがグレートソードを振り上げ、ガガーラン達を引き裂くべく迫る。

 

「いいっ!!」

 

「リハビリ相手だ」

 

怒りのまま、まるで身体ごとめり込ませるような振り下ろし。

先程の倍の力を込めた一撃に細い人間が吹っ飛ぶ。

 

ニヤリと嗤うド。

しかし次の瞬間には吹き飛んだ人間が黒い影になって霧散する。

 

「ここだよ」

 

今度は右に細い人間が現れた。間髪入れず剣を振り上げるが、気付けば周りには数体の人間が自身の身を取り囲んでいた。

 

「影技分身の術」

 

わけの分からないドは振り払うように剣を無暗に振るう。分身と周りの木ごと切り裂くが本体のティアには掠りもしない。

徐々に大雑把な動きになる。その隙をガガーランは見逃さない。

 

「――〈剛撃〉!!」

 

大振りになった剣筋に合わせるようにガガーランが刺突戦鎚(ウォーピック)を打ち込む。

武技によって火力を増した一撃がドの太い脛を骨ごとへし折った。

 

「ギャアアアアアアア――ッ!!!??」

 

いくら再生が早くとも与えられた痛みは癒せないようで激痛に片膝を着く。

 

「おっいい位置に頭があるじゃねーか、よっ!!」

 

ガガーランのホームランバッターのような豪快なスイングがドの顔面に思いっきりブチ込まれた。

『ド』ストライクした顔面を見て、さすがに息絶えたと思いガガーランは大きく息を吐く。

 

瞬間ビクリと大剣を持つ腕が反応し、ガガーランに向け剣を振るう。

 

「不動金剛盾の術!」

 

ガガーランの目の前に七色に輝く眩い盾が生まれる。ドのグレートソードを弾き、盾はガラスのように砕け散った。

 

「ガガーラン油断しすぎ」

 

ティアに首袖を引っ張られ大きく後退するガガーラン。

 

「わりぃわりぃ。いやしかし本当に鈍ってるぜ、頭吹っ飛ばしたつもりだったのに」

 

「うん。アイツも普通のトロールと違うみたい」

 

脚が再生し立ち上がるド。憎しみに溢れた表情と共に顔も再生していく。

二人とも冒険者としてトロールとは何度か()り合った事はあったが、明らかに通常のトロール種よりもタフである。

やはりトロールの中でも上級種であることは間違いないようだ。

 

そんな上級種のトロールに対し、未だ完調ではないガガーラン、ティア。

 

「ギ、ギさまら、ゼッタイに、ゆるザンッ!!」

 

喋れる位にまで回復したド。何度倒しても立ち上がって来る凶悪なトロールを前に抱く二人の感想は――

 

「つってもなぁ」

「うん」

 

――――あの『メイド』程じゃない。

 

「まぁやるだけやってみようかね!」

 

「ダメだったらとっとと逃げる!」

 

先陣を切って走り出すティア。後に続くガガーラン。

 

対するドはなんと武器を地面に突き刺すと腕を大きく広げた。

そのまま大きく息を吸い込み全身の筋肉を膨張(パンプアップ)させる。

 

(どんな攻撃だろうと貴様ら人間の攻撃でやられる俺ではない! そのまま掴み――握りつぶす!)

 

迫るティア。来るであろう攻撃に身構えるド。

しかし現れたのは眩しく輝く六角形の盾であった。

 

「ムゥ!?」

 

あまりの眩しさに目を覆うド。次の瞬間地面が割れる。

 

「なんだ!?」

 

ガガーランの刺突戦鎚が地面を砕き大地震を起こす。ドは足元から大きくバランスを崩した。

 

「ウオオオオッ!!」

 

地震の影響をものともせず迫るガガーランの戦鎚。崩れた足場の中なんとか倒れずガガーランを迎えるド。

 

(この一撃に耐えれば――)

 

ドの体にめり込む刺突戦鎚。しかしドはひるまず凶腕(きょうわん)がガガーランを圧殺せんと迫る。

 

「だあああああっ!!」

 

勢いのまま更に打ち込まれる刺突戦鎚。

 

(ぐ!? だがこれしき――――!?)

 

更に打ち込まれる刺突戦鎚。更に更に更に――――。

ガガーランの乱舞は止まらない。

 

(おわ・・・・・・らない・・・・・・)

 

辺りにトロールの肉が飛び散り、緑の森を赤く染める。

最後の十五撃目が打ち込まれた時にはドの体はいたるところが肉抜きされ体重は三分の一程度になっていた。

 

「一応とどめ、爆炎陣」

 

爆発と共にドの体だったものは炎に包まれ燃え上がる。

 

「やっぱり炎はいい」

 

「お、トラウマ克服か?」

 

ガガーランの煽りに口元をへの字に曲げるティア。

そんなティアの表情を見てガガーランは豪快に笑った。

 

 

 

 

王国都市エ・ぺスペル

 

 

「おっし! 大分調子が戻ってきたね」

 

「疲れた~」

 

ドを倒したガガーランとティアは森を抜けエ・ぺスペルへ向かっている。

関所が見えエ・ぺスペルまでもうすぐだ。

 

「しかしホント、やたら最近忙しい目に合うぜ。なんか呪われてんのか?」

 

「だとしたらラキュースの魔剣かな」

 

「あぁ、まだその問題もあったか。あ~あ、もう冒険者辞めて新しい人生を歩むかな」

 

「何すんの?」

 

「・・・・・・・・・・・・主婦とか」

 

「ぶふぉ!!」

 

滅多に声を出して笑わないティアが思わず吹き出し、その場で腹を抱える。

この野郎とガガーランが戦鎚を握り直した時、見覚えのある馬車が見えた。

 

馬車の中からラキュースとティナ、そしてまるで芋虫のようにズルズルと降りてくる仮面の少女。

ティアとガガーランはお互いに顔を見合わせ笑い、仲間達に手を振った。

 

 

 




蒼の薔薇のメンバーはどれもカッコカワイイですね。
あの戦闘を是非アニメで見たいな~~。



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