●モモンガ
竜王国の北東、ビーストマンの国とミノタウロスの王国の国境付近に、マーレを除くナザリック地下大墳墓の全てとともに転移した。改名はしておらずアルベドもご機嫌。
マーレが探していたご主人様にしてナザリック地下大墳墓の主だが、対外的には帝国寄りに建造した漆黒の塔と周辺の亜人の国の支配者ということになる。
支配地域はミノタウロスの王国と、空白地同然となった南のビーストマンの国の大半(人類側からバレない程度に)。
転移直後に軽い人助け気分でビーストマンによる人間牧場に遭遇して気分を害したため、亜人には冷淡になっている。
●アインズ・ウール・ゴウン
モモンガが墳墓に侵入した『蒼の薔薇』にそう名乗って以来、外向きにはナザリック地下大墳墓の主の名前ということになる。
マーレとの繋がりを隠したため、対外的にはマーレの主であるモモンガとは別の存在。
●マーレ
ひとりでカルネ村近郊に転移。ナザリックを捜索しながら法国神都を半壊させ(召喚魔獣のせいになってバレてない)、魔樹退治をツアーに押し付けて始源の魔法を見学調査し(ナザリックに成果持ち帰り)、情報を得るためクレマンティーヌやイビルアイを捕らえて拷問した。
ナザリック合流後もその先兵として、主に『漆黒』を使って暗躍する。勘違いされているが、別に人間には恋愛感情を見せたことは無い。モモンガ様は大好き。
●『漆黒』
エンリが来ていた漆黒の法衣(マーレがニグンから奪った)を見たエルヤーの勧めで、エンリが名乗った冒険者チームの名称。
マーレが目立ちたくないからと、エンリ単独の冒険者チームということになって、惰性でそのまま。
イビルアイが吸血鬼であることを喧伝して勝ち取った『蒼の薔薇』討伐任務に成功したことでアダマンタイト級まで昇格。
●『ザ・ダークウォリアー』
モモン様率いる冒険者チーム(モモン・ナーベ・ソリュシア+キーノ)の名前はこちら。
竜王国で「モモン・ザ・ダークウォリアー」と名乗った所、近隣諸国の名前のフォーマットに合わないため、『ザ・ダークウォリアー』のモモンとして登録されてしまった。(ナザリック内で名乗る機会が無かったため、自身のセンスを客観視する暇もなく……)
対ビーストマンの激戦の中アダマンタイト級まで昇格。対ビーストマン戦争が集結した竜王国を去り、帝国へ。
●エンリ
マーレの協力者(目立ちたくないための隠れ蓑)として冒険者になり、マーレの所業により幾多の悪名を背負いながら冒険者チーム『漆黒』そのものとしてアダマンタイトまで昇格。
マーレが地平を埋め尽くすほどのビーストマンを壊滅させた際にただ一人同行していたため、レベルの方も悪名に追いついてしまったかもしれない。
大量の経験値を得た時に死の宝珠を装備していたため、上限レベルは本人と宝珠の高い方(つまり40かそれ以上)となる。もちろん上限の決まり方は独自設定。
●クレマンティーヌ
ンフィーレアを浚いに来たらマーレに捕まって法国襲撃時の案内役とするため拷問されて奴隷となり、拷問がエンリの意思によるものと勘違いしてエンリをも恐れる。
マーレの性奴隷と勘違いしたモモンガにより教育に悪いとして引き離され、その方便として帝国に潜伏中。
●モモン
中身はモモンガあるいはパンドラズ・アクター(変身能力を持つNPC)。竜王国で女王の信頼を得て情報を獲得したり、セラブレイトと一騎打ちして放逐した。つまり、国を丸裸にしてから始原の魔法を撃たせる目的のために暗躍した。
次はイビルアイの情報を得るため、『漆黒』と戦ってこれを獲得。やたらと懐かれている。
●ナーベ&ソリュシア&キーノ
アダマンタイト級冒険者チーム『ザ・ダークウォリアー』を彩る美女、美少女たち。隠している名前はそれぞれナーベラル、ソリュシャン、イビルアイ。みんなモモンが大好き。
●イビルアイ
マーレを呼び出して襲撃し大敗。吸血鬼であることがバレて改めて『蒼の薔薇』ごと討伐され、クレマンティーヌのアイデアで『漆黒』の所有する魔獣として全裸に拘束具の状態で魔獣登録されてしまった。
帝国行きの際は世間体を考えて服を着せられたが、ナザリックへ向かう際には元の魔獣扱いの恰好にされ、それを過剰な虐待と見たモモンによって助けられた。言うまでもなくマッチポンプだが、その時に「がんばれ、ももんさま」済。
●ガゼフ・ストロノーフ
マーレの危険性を知りながら他に選択肢が無いのでエンリに任せた。案外冒険者として上手くやってくれているので、罪悪感もあって大事な指輪を渡した。
律儀に『蒼の薔薇』に後を任せたが、口下手なのでうまく伝わらなかったようだ。
王都でゲヘナの事件が起きていないため、レエブン侯のことは全く信用していない。
●『蒼の薔薇』(元アダマンタイト級冒険者チーム、現在は資格を剥奪されワーカー相当)
ガゼフからマーレのことを任されたが、調べてみるとマーレより『漆黒』つまりエンリの素行があまりに悪いので喧嘩を売ってしまう。
イビルアイが単体でマーレを叩いてパワーバランスを有利にしようとして逆に囚われ、吸血鬼がバレて討伐対象になった。
強バフ付きクレマンティーヌとマーレの魔法、そして
旧メンバーのリグリットを加え、リグリットの背後にいる存在が見つけ出したという墳墓の遺跡でアインズ・ウール・ゴウンと会い、これを味方にする交渉をした。
五四 法国と薔薇と、再び旅立つ『漆黒』
スレイン法国の最高意思決定機関は、神殿勢力から七名、司法・立法・行政で三名、そして魔法と軍務を司る二名から成り立っている。
神聖不可侵の部屋で行われる密室での意思決定は、法国と人類の未来のみを考えたものだ。
時には王国のガゼフ・ストロノーフ暗殺を目論んだときのように多くの人々を犠牲にするような非情な方針を選ぶこともあるが、この日は竜王国難民の総員受け入れという温情溢れる決定を下すことになった。
生活再建のため安い賃金で労苦を厭わず働く難民たちの存在はエルフとの戦争が長引く法国において貴重であり、まして竜王国の難民は足手まといになる老人や戦傷者の比率が異様なほどに低い。
いや、むしろそれら比率が低いことを知っていたからこそ、法国への道が開かれていたのだ。
竜王国では戦傷者の多くはビーストマンの携帯食料とされてから救出されるため悲惨極まりない状況となるが、その殆どが味方のはずの女王の起こした巨大爆発で蒸発してしまった。
その巨大爆発の対価として魂を差し出し死んでいくのは生贄としての簡易儀式に応じた順、すなわち老いた者たちからということになる。
国内には排外的な主張もないわけではないが、会議は常に理性的で、良質な労働力と将来の戦力を補充するための受け入れは全会一致となった。
密室というのは、参加者の全てが理性的でさえあれば、特定の者の利益を代弁せずに済むという利点もあるのだ。
もちろん、十二名が対等の立場で会議を行うため、バハルス帝国のような専制国家に比べてやや意思決定が遅くなる欠点もある。
それでも、次の議題にあっては会議における全ての参加者が、意思決定の責任を一人で負わずに済むことに感謝した。
参加者たちは心から思う。
「もう一度聞いても良いか? このようなものが、事実だと――」
「間違いはございません。皆様が“一人師団”の報告を信じられるのであれば、ですが」
全員が、陰鬱な表情で伝えられた情報を確認する。
ビーストマン大侵攻撃退の第一報を受けたときの喜びは、既に枯れ果ててしまった。
「真なる竜王の巨大爆発を受けてなお生き残りが複数という時点で、何かの間違いとしか思えん。あるいは、伝承の方が間違っておるのなら良いが――」
「さらに、背後の魔獣の群れを確認、難度は全てが魔神級以上を推定、というのはどういう冗談だ」
「心臓に悪い表現だが、実際には数が多すぎて全て合計すればそれくらいの脅威だということなのではないか」
「そうに決まっている! でなければ人類どころか亜人の国々さえとうに滅びているはずだ」
「“一人師団”では難度の正確な把握はできないが、群れの脅威度を把握することには長けているからな。間違いなかろう!」
「記載のあるデス・ナイト数十に、ソウルイーター数十というのも……もちろん、含めての計算なのだろうな」
「そうでなければ人類は終わりだから、考えるだけ無駄というものだぞ」
デス・ナイトとソウルイーター――それぞれ、たとえ一体でも都市や小国を滅ぼしうる脅威だ。法国の切り札であった漆黒聖典の隊員たちでも、同数のこれらを相手するのが精一杯となる。
彼らにとって救いであったのは、もたらされた情報が鳥に託された手紙によるものだったことだろう。そのため、誤解を解いて彼らを絶望の淵に叩き込むことができる男はここには居ない。
「見間違いか、こちらの監視を見越して用意された幻術ではないのか? これまで、幾度も監視に失敗していたのであろう」
「漆黒聖典にはモンスターの知識が必須です。特に魔獣については人類最高のビーストテイマーの“一人師団”に見間違えは無いでしょう。監視の成功は、執念としか言いようがありません――」
その
“一人師団”は人類最高のビーストテイマーだが、大災害で犠牲となった仲間に代わって出た監視任務では失敗が続いていた。
純粋な地力ではどうやっても対抗できない存在が暗躍している可能性を考えた彼は、群れをなして飛ぶ鳥の習性に着目し、百を操ることで万を動かす策を選んだのだ。
その成果が、今回の壮絶な情報となって実を結ぶこととなった。万を数える野鳥の群れが全て落とされるまでの僅かな時間でも、これだけの成果を持ち帰ることができた。
人類とナザリックの力の差を考えれば、これは人類史上屈指の快挙とさえ言えよう。
しかし、会議は“一人師団”の偉大な快挙を讃えることもなく、ただ重苦しい疲労感に包まれてしまう。
「漆黒聖典の大半を失った我々が、そんな化け物どもにどう対応すればいいというのだ……」
「いや、全てを合わせて魔神級というなら、最高位天使か神人を動員すれば対処は可能だ」
「しかし、残された神人――あの娘を出せば、評議国の竜王が動く可能性もあろう」
「問題無い。そもそも打って出るほどの戦力も無いのだ。対エルフの戦況次第では竜王との話し合いも必要となろうが、今は神都の守りに専念してもらうしかあるまい」
既に法国内の神人は、神都から出ることが許されない漆黒聖典の番外席次一人だけだ。
もう一人の神人である漆黒聖典隊長は、神器の槍とともに執拗に捜索した事実が外へ漏れてしまったため、法国大災害に乗じて出奔したということになっている。これをあえて否定しないのは、隊長の本質を知る者なら出奔を装って破滅の竜王を追っているものと考えるだろうから、放置した方が内外の動揺を防げるという判断によるものだ。
実際には――他の隊員たちが地の底から掘り起こされ蘇生されて再訓練の途上にある中、彼の遺体と神器だけはいまだ発見されていない。領域を絞りながらも未練がましく捜索は続けられているが、蘇生も不可能な
それを裏付けるのは状況証拠だけだが、根拠は捜索の結果ばかりではない。
破滅の竜王は神都の中枢の一つ、神都における最高の護りの施された風の大神殿の内部に直接転移してきた。それが、漆黒聖典の隊員たちを一撃で屠る広範囲殲滅攻撃を仕掛けてきたのだ。ならば、それは神都のどこにでも現れ、その全てを破壊できるという想定をしなければならない。
すなわち、隊員たちが壊滅しケイセケコゥクが使えなくなった以上、隊長はその存在を賭けても神都を守る以外に選択肢を持たなかったのだ。逃げることも、逃がすことも許されない戦いの結果が、神器の力の解放による双方消滅だったのだろう。
真実を知る者たちは、人類のために消滅した隊長の忠節に涙し、そんな英雄に出奔の汚名を着せなければならない現実を嘆いた。
だからこそ、破滅の竜王の残したものと酷似した大地の傷跡が竜王国の東で確認されたとき、この会議は強硬論一色に染まった。
そこには、神器と神人という多大な犠牲を払ってまで消滅させたはずの破滅の竜王が再出現したという不条理への怒りがあった。
幾度も援軍を送りながら、竜王の血を受け継ぐ女王にどこか懐疑的な視線を向けていた法国首脳部は、冷徹に竜王国の切り捨てを決定したのだ。
「そもそも、大侵攻を撃退した
言葉を発した男は、破滅の竜王が二人いるという悪夢のような考えを披露し、周囲から強く拒絶されたことがあった。それを示唆する言い方に、多くの者が眉間にしわを寄せる。
「あのとき、竜王国の側は破滅の竜王など知らぬと言っていたではありませんか。今回こうして百万の魂を磨り潰した以上、あれは真実なのでしょうよ」
「竜王国切り捨ては間違いだったとでも言うのか」
「いや、私は感情論でも破滅の竜王への報復からでもなく、純然たる戦力不足から賛成しましたからね。仕方のないことです」
「最悪の結果だが、百万の犠牲で東の亜人どもの歴史に大敗を刻み込むことができたと考えるしかあるまい。少なくとも数十年単位でビーストマンの侵攻は無くなるだろうよ」
一同は溜め息を隠せない。竜王国の状況を把握した後、対亜人の防衛計画を再構築しなければならないからだ。
「破滅の竜王といえば、最初の大侵攻に関わった冒険者から情報は得られたのですか」
「今のところ『セラブレイト』の一人と接触したが成果なしということだ。迎撃に参加した冒険者チーム『漆黒』と、『セラブレイト』とともに先にビーストマンの領域へ向かっていたという『ザ・ダークウォリアー』は見つかっていない」
相手が力のある冒険者ということで、風花聖典などが捜索するが、発見後はそれなりの者を出向かせることになる。
この二つのチームについて、会議は比較的好意的だ。人類の敵であるビーストマンとの戦いで頭角を現した『ザ・ダークウォリアー』は当然として、『漆黒』についても法国と険悪な『蒼の薔薇』と衝突した事情が伝わっている。
「彼らが金で動いてくれるなら良いが、冒険者というのは金になる情報と見ると抱え込みたがるものだからな」
「経費を惜しむわけではないが、こんな状況でいちいちもったいつけられてはたまらん。我々人類がどれほど危機的な状況にあるか、広く知らしめた方が良いのではないか」
「いやいや、我々の世界が荒天の海へ向かう脆い船の上も同然だということを知ったところで、自棄になる者の方が多いかもしれんぞ。それなら目先の金銭のために勤勉である方がまだ冒険者や帝国の騎士のように戦力も揃うというものだ」
「百年間隔の巨大な嵐を見込んで刹那的に生きる者が増えたらたまりませんね。知識がある者なら、既にそれが来ていることがわかってしまうような状況ですから」
「それならば、かの元神官長殿はどう動かれるのだろう」
一同は表情を複雑なものにする。
「わからぬが、既に動いているのは間違いない。なんらかの切り札を用意されているようだ」
「あの元第九席次、疾風走破を冒険者などに預けたままにしているのだ。動いていないと困る」
「あえてそうしているなら、疾風走破の方に接触してもわからぬということか」
はぁ、と複数のため息が聞こえる。
こういうときに選択肢を増やすため国とは別に動いているのだとわかってはいても、実際に危機が訪れた段階で動きがわからないのは不安なものだ。
このあと、大災害直後に続いて二度目となる漆黒聖典元隊員への復員要請を決めただけで、会議は次々と細かな議題を処理していく。
そして、議題は食料生産に関する事項へ。
「本年は東寄りの集落の幾つかより、飛蝗の被害が深刻であるとの報告が――」
国境付近で、集落単位では存亡の危機。
しかし、スレイン法国では国が災害時の相互扶助を仕切っており、局地的な飢饉で人が死ぬことはない。
普通なら、食料を西から東へ動かすというだけの報告だ。
「そういえば、“一人師団”の報告でも川に飛蝗の死骸が多く流れていたというものがあったではないか。大がかりな飢饉となれば難民受け入れどころではないぞ」
「いやいや、軍人はものを知らんから困る。幸い、今は渡り鳥の多くが国内に留まる時期だ。いくら飛蝗が来ようと容易に食い尽くしてくれよう」
「鳥か……。街では糞の害に苦情が出るぞ。面倒なことだ」
「待て――。鳥といえば、クインティア殿が大量に――」
青ざめるのは、やはり軍人だ。文官たちに憂いはない。
「使役したとしても、命ある限りもとの暮らしへ戻るものと聞いておる。十万もの鳥が一斉にどうかなることもなかろう」
簡単な野生動物の使役ならば農業ともかかわりがあり、文官でもこの程度の常識は持っている。
結局、この場は軍人たちが身を退いた。
一万の農民を徴兵したとしても、収穫期まで拘束し続けるのでなければ一万の畑の収穫が失われるわけではないのと同じことだからだ。
この瞬間、“一人師団”――クアイエッセ・ハゼイア・クインティアの次の任務が決まった。
彼は国許へ戻って詳細な報告を行うと、すぐに次の任務を与えられることになる。
その任務は極めて安全ではあるが、極めて絶望的なものだ。
クアイエッセは自らの任務の犠牲にした十万余の野鳥に代わって、無限とも思える飛蝗の群れと戦うことになる。
ナザリック地下大墳墓からさらに東の山あいで、『蒼の薔薇』が焚き火を囲んでいた。
既に食糧は調味料を除いて全てが現地調達になっているが、肉食種の多い亜人の領域では山の恵みが豊富で旅の困難は少ない。
「それじゃ、殴りメイドは下っ端で、あの
「…………はぁ」
「リーダー……」
仲間以外の人類と長期間接しないことによる会話センスの衰えの方が深刻かもしれない。
「……そうじゃろうな。ただ、下っ端といっても法国ふうにいえば従属神――制御が利かなくなったら魔神と呼ばれる存在じゃ。侮れるものではない」
リグリットが話を進める。
「勝手に喧嘩売ってくる時点で制御できてねえと思う。つまり、俺は魔神とサシでやりあった女ってことになるな」
「激しい戦いだった。縦横無尽に揺れるメイドの乳が目に焼き付いて離れない」
「もしや、十三英雄も数々のメイドたちと戦ってきたとか?」
誇らしげに胸を張るガガーランだが、ティアとティナはメイドの方に関心があるようだ。
「まさか。わしも
「心当たりがあるから怒らせたのかもしれねえな」
ナザリックから離れ、緊張も和らいで『蒼の薔薇』にも笑いが戻ってきている。
「でも、それがあの場のぷれいやーを一人だと判断する理由になるってのはどういうこと?」
姿を見せないだけで、他にもぷれいやーがいるかもしれない――そんな可能性をリグリットは否定した。
これは、特に必要のない技の名を仲間の前でも叫ぶことができるラキュースにはすぐに理解しにくいことなのかもしれない。
一般には、趣味の世界とは一人になるほど大きく花開く。もちろん、美しき神官戦士のノートの中も人目に触れないからこそ日々全力満開なのだが。
「わかる者にはわかるということじゃ」
「そのへんはわかんねーけど、少し人恋しそうな感じで、仲間に恵まれてるようには見えなかったな。あと童て――いや、それは骨だからどうでもいいか」
むしろこのガガーランが孤独とかそういう部分まで観察できてしまうのは、アインズ・ウール・ゴウンという存在を前にして、なぜか特定の段階にある男性の雰囲気を感じ取ったからこそである。
そうでなければ、人の言葉を話すとはいえ強大なアンデッドを相手に精神的な部分まで観察する視点を持てるはずがない。まして、その相手が人恋しいなどと見立てるとなればなおさらだ。
「ガガーランが言うなら、間違いない。やはりあれは強大なアンデッド」
「生き物として最大の未練を抱えている。とてもとてもおそろしい」
どうでもいい部分を掘り起こし、ついでに真っ直ぐラキュースを見据えるティアとティナ。
確かに神官として、アンデッドの未練の強さが脅威度を上げることもあると教えたこともあるラキュースだが、この文脈で視線をぶつけられると違う意味で少しモヤモヤしてしまう。
「あ、あれほど桁外れな存在になると、そういうのはあまり関係ないと思うわ」
何かと言い返したい部分もあったが、いい言葉が出てこないので無難な答えで本音を抑える。
別にラキュースとしては今の生き方に未練など無いし、そういう経験の無いまま志半ばで倒れても強大なアンデッドになどならないと思うのだ。
「アンデッドのぷれいやーは六大神にも例があるが、成り立ちが違うという説も根強い。通常のアンデッドのように人の世に恨みを持った敵と考えておったら、そもそも交渉などせずに逃げておるよ」
リグリットの話題転換に、ラキュースはテーブルに少し乗り出した身を落ち着ける。
この人にとっては神は“六大神”であるばかりか、その中にはアンデッドの神も存在する。それは仕方のないことだ。
出会った当初、こうした話題には“四大神”の神官として不快感を覚えることもあったが、リグリットは六大神を奉ずる法国の神殿関係者と違って温かみのある人間で、今は大切な仲間だ。法国風の宗教観の深い所に話が及ぶとラキュースとしては直感的に一歩引いてしまうが、今さらそのことをとやかく言うつもりはない。
そして、話はアインズ・ウール・ゴウンの孤独へと戻る。
「闘技場は雄大であったが、結局は墓地と闘技場だけじゃ。伝え聞く空中都市や海上都市の比ではない。それで孤独だというなら、世界をどうかしてしまうほどの戦力はなかろう」
ギルドの戦力については、遠い昔に少し話を聞いただけだ。拠点が大きく、ぷれいやーが多ければ
「そういう戦力があったらどうするつもりだったんだよ」
「我らとしては縋るしかあるまい。あとは古き友が考えるだけのことじゃ」
協力関係を結び、そのあたりを判別するところまでが、今回の訪問の目的だった。
ギルドの仲間がいれば、ぷれいやーが一人で方針を決めるはずがない。八欲王でさえ、仲間割れをする以前はそうだったはずだと聞いている。
依頼者の方が容易に訪問が可能だが、彼はあの姿でリグリットだけでなく同じぷれいやーの一人であるかつての仲間からも不興を買っている。初対面で信頼関係を損なうのは得策でないという判断だ。
「最強の存在なのに、味方となってもらえるまで顔を出せないというのだから、少し勝手よね」
「仕方あるまい。あ奴に何かあれば、我々の世界で対処できる者は法国の神人くらいしか残らんからな」
それに、ぷれいやーというのは元が人間の精神を持っていて、空っぽの鎧や竜のような存在より人間の方により親しみを感じやすいということは、この仕事に際して『蒼の薔薇』の仲間たちにも説明したことがある。
「依頼人のことより、早く帰りたい」
「まともなベッドと宿の食事が恋しい」
「まだ駄目。私たちにはまた未知と出会う冒険が待っているんだから」
帰れないと知っていても言わずにおれないティアとティナを、ラキュースが優しくたしなめる。
「鬼ボスがいる」
「……鬼リーダー」
「海か……あまり好きじゃねえんだけどな」
次の目的地も、この世界の大部分がそうであるように亜人の領域にある。『蒼の薔薇』が狭い人間の領域に帰れる日は、まだ先のことだ。
ある来訪者の一団は、図らずもナザリックと漆黒の塔に小さからぬ混乱を巻き起こした。
それは、空駆ける不可視の騎兵の一団だ。
とはいっても、その脆弱極まりない騎兵たちを恐れる者など居ようはずもない。
むしろ事態を軽く見るあまり、モモンガへの報告が遅れ叱責を受けたことが大きな問題となった。
モモンガにしてみれば、現地の存在で不可視の者と遭遇すること自体がこの世界に来て初めてのことであるのに、それが小なりとはいえ軍を構成しているという事実には驚かざるを得ない。
ろくに相手の戦力の詳細を聞く前より、報告・連絡・相談の欠如が最も悔やまれる深刻な事態であるとの態度を隠そうともせず、それが部下たちの対応を著しく先鋭化させることとなった。
こうして、モモンガがそれの正体を知る頃には、
「バハルス帝国だと! ……なんということだ」
人間の国であるし、他にプレイヤーが関わっている可能性も捨てきれない。そう考えてじっくりと慎重に接触を図ろうと思った矢先にこれである。
漆黒の塔から人間の国が見えるとはいえ、それに対応した防衛方針を決めるには至っていなかった。
それ以前の、亜人に対するモモンガの冷淡な態度が反映された防衛体制に加え、初動の焦りが仇となった形だ。
「こいつらはマーレたちを使って送り返す。取り急ぎ、体裁を整えさせろ。……ああ、お前たちでは扱いが荒そうだから、人間の奴隷にでもやらせることにしよう」
捕えるときに千切れた手足まで適当に積まれている惨状を見れば、これをやった者たちにそのまま彼らの扱いを委ねるわけにはいかない。
幸い、支配下のミノタウロスの国には、少なくない人間の奴隷が居る。既に農場作りなどに試用していて実績もあり、奴隷らしく卑屈ではあってもビーストマンの国の牧場の者たちのように会って気が滅入ることもない。モモンガが人間のことは人間にやらせるべきだと考えるのも無理もないことだった。
「
牧場を襲った人間狩りのミノタウロスが用意していたような檻は、大小さまざまなものが国中で見かけられていた。
帝国へ送り返す役目は、帝国を訪れたことがあって繋がりもできているマーレとその一行に任せる。
マーレはアインズ・ウール・ゴウン捜索の際、帝国に世話になったというので、そのマーレが帝国兵を送り届けるというのは友好関係を築くうえで悪くない選択肢だとモモンガは考える。
デミウルゴスとコキュートスによるミノタウロスの王国の制圧といい、マーレが関わったことで巨大爆発の性質を知ることができたことといい、NPCたちを適材適所で使うことで物事がうまく回ってきた面があるから、今回もそれで行く。
「デミウルゴスよ、何か言いたいことがあるようだが」
モモンガは問題があれば軌道修正を期待する。
たとえ上司の能力が至らなくても、部下の助言を受け止められれば組織は盤石だというのが元会社員のモモンガの考えだ。
「いえ、全ての事象がモモンガ様の掌の上で踊るばかりで、もはや感服しかございません」
――そういうの、やめてほしいなあ。説明しろって言えないじゃないか。
「ただ、相手が人間の身でありながら不遜にも皇帝を名乗るのであれば、こちらも相応の肩書を用意した方が良いかもしれません」
「既に国を支配しているし、王とでもしておくか?」
「王を名乗ることに異論はございませんが、単なる王ではその辺りの虫けらでも名乗る肩書でございます。もっとアインズ様に相応しい肩書を――」
正直、それどころではない。
この件に関してはデミウルゴスに丸投げし、守護者たちと話して候補をいくつか出しておくように命じておいた。
さっそく守護者たちが一堂に会し議論が始まるが、モモンガは最終的に並べられた候補しか把握していない。
最終的に採択されるのは、『魔導王』というコキュートスの案で、語呂的に『魔導王モモンガ』ということになる。
さて、目の前の問題についてはデミウルゴスの反応から、このまま進めて良いのだろうと考えるしかない。
突っ返す騎士たちは、周辺に生息する亜人勢力に囚われたところを塔の主が救出して保護したということにする。
魔獣の群れに囲まれ、全軍が一瞬で昏倒したという経緯から、筋の通らない話ではないだろう。
先方にも当事者の騎士たちにも疑念は残ろうが、重要なのは事の経緯ではなく、彼らを圧倒する存在が友好的に接触してきたということになるはずだ。
もちろん、惨状をそのまま突き返すわけにもいかない。作業員は人間の奴隷を使えばよいとして、それらへの指示役も含めて人間を驚かせず上手くやれる者――ルプスレギナにでも騎士たちや
プレアデスのまとめ役で善良なユリの存在もちらついたが、彼女はなかなかに直情的なところもある。出発直前に騎士と“試合”でもされたらたまらない。
「回復するといっても、捕虜としての立場を理解してもらって、暴れたりしないようにしてやってほしい」
「了解いたしました。すぐに取り掛かります」
エンリのときも、短時間で信頼関係を築いて難しい話をしっかりと聞き出してくれた。
相手が人間ならば、ルプスレギナに委ねたところで一安心だ。
信じて送り出したルプスレギナが、騎士たちが“暴れたりしないよう”選んだ手段がミノタウロスの王国内に豊富にある奴隷輸送用拘束具であることは、モモンガの関知するところではない。
このとき、ンフィーレアはモモンガに乞われてバハルス帝国について一般的な情報を語り、エンリは一般メイドらの助けを得つつ旅の準備を進めていた。
エンリが与えられた馬との相性を確認するとき、
「あの……あれはいったい……」
「ああ、あれっすか? ロイヤル何とかの貴重な騎獣だとか言って引き離すと抵抗するんで、セットで繋いでおくことにしたっすよ」
ルプスレギナの言葉に、エンリは慌てて騎士から目を逸らす。
マーレが言っていた、帝国へ連れていく捕虜というのは彼らのことなのだろう。
詳しいことは聞いていないが、彼らは救出したことにして帝国へ帰すと聞いている。
きつく拘束するということは、途中で助け出すような茶番でも演じなければならないのだろうか。
――嫌だなぁ、そういうの。
どうせ拘束を解くのに厳重に繋ぐことについては理解に苦しむ部分もあるが、人間の奴隷に命じながら料理を盛り付けるように拘束具を加えていくルプスレギナの表情を見れば、そういうものだと納得せざるをえない。
ルプスレギナもまた、マーレと同じアインズ・ウール・ゴウンの一員なのだから、エンリごときが口を挟むだけ無駄なのだ。
先に帝国へ向かったクレマンティーヌが出発前に喧嘩を売って酷いことになっていたようだが、そんなものを見るより前から、知ってた。
出発直前、エンリは巨大檻が布で覆われているのを見て安堵する。
単に、こちら側の情報を与えないためという説明を聞いて、演技をするのは布が外れてからで良いという意味だと勝手に納得してしまう。
全体として見れば助けるふりなど白々しい限りだが、演技とはいえあの惨状を見れば、早く助けたいという表情も自然と出てくるだろうし、一刻も早く助けたいのが本音だ
そう考えておけば、気が楽になる。
クレマンティーヌやイビルアイといった脅威を抱えながら、少しでもアダマンタイト級冒険者にふさわしい雰囲気を出そうと演技してきたエンリだが、この数日は彼女らと引き離されて弱者として扱われる時間ができたことで気が緩んでいた。
エンリは、冒険者として騎士たちを助け出す様子を思い描きながら、馬具を点検する。
また『漆黒』としてアダマンタイト級冒険者を演じなければならないことに胃を傷めつつ、出発の準備をする。
そこへ現れたのは、マーレだ。
「あの、急いだほうがいいみたいなので、馬ではなく飛んでいくことにしました」
「……沢山連れていくんだけど、大丈夫?」
「檻ごとでも
「檻ごとって……何でもありなんだ」
出発時間にはまだ早い。何か用事があるのか、転移魔法でその場から消えるマーレ。
エンリとしても、酷い拘束状態の騎士たちは一刻も早く助けてあげた方が良いと思う。
自作自演の救出劇について何も聞かされていないが、マーレが関わっている以上は仕方のないことだ。
自分がその場で考えて動かなければ大変なことになる。
もう、慣れた。
魔法で飛ぶなら心の準備をする時間がなくなってしまうが、エンリはこれまで様々な事態をどうにか乗り切ってきた。
自分ならできる。なんとかなる。なるようになる。頑張って日々を生きていれば、きっといいことがある。
そう信じるしかない。
覚悟を決めたエンリは、出発の時間を迎える。
ギリギリまでバハルス帝国について知っていることを聞かれていたンフィーレアも合流する。
馬も馬車も無いのは、最後まで魔法で移動するつもりなのだろう。
――助け出すとき、どういう形になるんだろう。
どんな形でもその場で考えるしかないが、宝珠を押し付けられての悪役だけは勘弁してほしいエンリである。
とはいえ、冒険者チーム『漆黒』はエンリのチームということになっている。
帝国に連れていくのは名目上はマーレではなくエンリの仕事なので、そういうことにはならないだろうという安心感はあった。
結局、エンリたちは無事、帝都まで騎士たちを送り届けることに成功することになる。
悩みの種であった救出劇など、演じる必要さえ無かったというのは、少しだけ先の話。
そもそも、自作自演の救出など予定されてなかったのだから。
●大変お待たせしました
不定期更新で復帰します。
●全てを合わせて魔神級
人は自然と常識的な方向に寄せた結論を欲しがるようです。
●教訓は
自然破壊イクナイ
●何が起こるかは
次回ではなくその次です。
次回は帝国へ戻ったクレマンティーヌの話。
●喧嘩したの?
回復ができる子は、ユリ姉さんよりお手軽に“試合”ができます。
それはもう、ぷれぷれぷれあですのアイキャッチくらいお手軽に
●百を操ることで万を動かす
アウラもビーストマン動かす時にやっているので、本人としては想定外というほどでも無いかもしれませんが。
通りすがりの男装美少女「は? 下等な人間ごときがビーストテイマー技術の応用なんて思いつくわけないじゃん」
あ、ハイ。ですよねー。
●信じて送り出したルプスレギナが
って書きたかっただけかと言われたら、返す言葉もございません