東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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最終回:東方蛇狐録〜超古代に転生した俺のハードライフな冒険記〜

 神楽による異変は終わりを迎えた。

 しかし無事だったとは言い切れない。幻想郷中の強者たちが大怪我を負い、妖怪の山に至っては大量の死者を出してしまっている。それに戦いの余波で各地がズタボロになっており、一部の人々は元どおりの生活を送るには少しばかりの時間が必要だろう。

 これだけの傷跡を残した今回の異変は瞬く間に人里にも広がり、畏怖を込めて『幻想郷大戦』と呼ばれるようになった。

 

 そしてそれから一ヶ月後。

 俺はいつも通り縁側に横たわって日向ぼっこをしていた。

 季節はもう春。桜を肴に盃の中の酒をぐいっと飲み干す。途端に上がってくる熱に心地よさを感じながら、目をゆっくりと瞑る。

 

 平和だ。それ以外に今を表す言葉はない。こうやってゆっくりしていると一ヶ月前の出来事が嘘だったように感じられる。

 しかしその平穏も、こちらに向かってくる足音によって見事にぶち壊された。

 

「ったく、昼間から酒か。いい身分だな」

「ゲームしかやってないお前が言うんじゃねえよ」

 

 日差しを遮るようにその人物が立ったことによって、嫌々ながらも目を開けざるを得なくなる。

 白く逆立った髪に白い服。さらには俺に瓜二つの顔。声だけでわかってはいたが、やはり狂夢だ。

 俺は起き上がり、改めて縁側に座る。その横にやつは腰かける。

 

「前までは朝から晩までヒーヒー言いながら働いてたのに、もう飽きたのか?」

「違えよ。異変が終わってからもう一ヶ月。俺の助けを必要とするところが少なくなって来ただけだ」

 

 異変が終わったあと、俺は今回の件に対して責任を感じていた。

 当然だ。神楽がやったこととはいえ、俺の力が悪用されたのは事実だ。だからこそその罪を償うため各地で活動していたのだ。

 それはたとえば凹んだ広大な地面の整地だったり、消し飛んだ森や山の再生だったり、建造物の復旧だったり……。

 中でも一番大変だったのは紅魔館の再建だな。レミリアのやつめ、ここぞとばかりに俺をこき使ってやがって……。最終的には前の1,5倍のスケールになったが、住む人数が少ないのに広くしてどうする気なのやら。

 

 そこでふと思い至って、狂夢に問いかける。

 

「そういえばお前、今日の宴会には参加するのか?」

「するわけねぇだろ。俺に生き恥を晒せっていうのか?」

「あー、そういえばお前知り合い誰もいなかったもんなぁ……まあ部屋でゲームでもしてるんだな」

「宴会場所ここだから絶対騒がしくなるだろうが。ったく、混沌の世界さえあれば……」

 

 舌打ちをする狂夢。

 そう、俺の精神世界こと混沌と時狭間の世界は崩壊した。妖魔刀、つまりは舞姫が砕け散ったからだ。

 今俺の手元にはもう一つの妖魔刀である妖桜(あやかしざくら)しかない。

 

「仕方ないだろうが。あのときは刀を気にかける余裕なんてなかったんだからよ」

「俺が完全にお前と分離してたからよかったけどよ、もし戻ってたら死んでるところだったぜ」

 

 妖魔刀は本来壊れることはない。なぜならそれが意味することは、所有者の死亡だからだ。だが俺の舞姫は狂夢が抜けて力を落としていた。それが破壊につながっていたのだろう。

 

「妖魔刀のこともあるが、お前は昔からずっとこのときのための準備をしていたんだな」

「……なんのことだ?」

「とぼけるなよ。よく考えれば誰でもわかる話だ」

 

 たとえば紫が俺たちを救う際に使った、時狭間の水晶。あれは伊達や酔狂で作ったんじゃない。紫たちが使うことを想定して作られたものだ。

 他にも俺を強くするために妖魔刀となって時狭間の世界にいてくれた。本当は自分が外に出たいかもしれないのに。

 

「ただまあ、なんで時狭間の水晶を神楽の分まで作ったのか、てのは疑問に思っているがな。そのせいで神楽が幻想郷に来ちまうし」

「簡単な話だ。この時代の人妖どもでなければ俺たちを解放することができなかった。ただそれだけだ。それに、遅かれ早かれ、やつは自力でこの世界に来ていただろう」

 

 たしかに、今の幻想郷は強者と呼べる者たちの数が非常に多い。その中でも、特に霊夢の活躍は大きい。

 だが彼女は人間。その寿命はロウソクの火のごとく短い。だから、この時代にしたのだろう。

 

「さて、俺はそろそろ行くぜ」

 

 狂夢は立ち上がる。

 俺はやつに問いかけた。

 

「行くって……どこにだ?」

「もう神楽もいなくなったからな。俺は自由の身だ。だからこそ、旅に出ようと思う」

 

 旅。引きこもりがちな狂夢からその言葉が出てきて、少し驚く。

 いったいどんな心境でそう決めたのか。

 

「旅か……世界でも巡るつもりか?」

「いや、宇宙を旅するつもりだ。この地球は俺にとっちゃ狭すぎる」

「……そりゃまたスケールのでっかい話だな」

 

 今まで精神世界にいたやつがそれを言うか……。

 しかし、宇宙か。たしかに俺たちじゃ世界一周なんてすぐだろうし、やつの言葉も間違っていないようにも聞こえる。

 そうして地球以外の生物が繁栄する星を見つけては、旅するのだろう。

 

「当分は再会できそうにないな……」

「一万年周期ぐらいで戻って来てやるから、そのときは案内しろよ。この星の新しい文明を」

 

 狂夢は俺に背を向けたまま縁側から距離を取った。そして見向きもせずに手を振ってくる。

 

「あばよ、楼夢。それと……結婚おめでとう」

「っ! ああ、またいつか……!」

 

 あの狂夢が、俺に祝福の言葉を……!? 

 慌てて言葉を返す。しかし言い切ったときには、やつの姿はなかった。

 照れ隠しってやつなのだろう。狂夢らしくないセリフではあった。が、らしくないからこそ、希少なダイヤモンドのようにそれは俺の心に深く残った。

 

 ふと左手に視線を落とす。薬指には金色の美しい指輪が三つ、はめられていた。

 

「どうしたの? そんなに指輪を見つめて」

 

 後ろから声がかかってきて振り返ると、紫がお茶を乗せた盆を両手で持って立っていた。彼女はそれを縁側に置くと、俺の横に座り込む。

 そのとき見えた左の薬指には、俺と同じ金色の指輪がはめられている。

 

「いや、結婚したって実感が湧かなくてよ」

「……本当のことを言えば、私もそうなのよね。まさかあれだけ恋愛を避けていたあなたがいきなりプロポーズしてくれるなんて……」

 

 当時のことを思い出したのか、紫は少し顔を赤く染める。かくいう俺も恥ずかしくなって、頭をかいた。

 いくら神楽に押されて恋愛と向き合うと決めたとはいえ、さすがに起き上がってからすぐに告白は急すぎたな。しかもあのときは避難場所でだったから、結果的に多くの怪我人たちに見られてしまったわけだ。

 

「なんだ、迷惑だったか?」

 

 わかりきった問いを投げかける。

 

「ううん、すごく嬉しい。ただ……」

「ただ?」

 

 だが彼女の歯切れは少し悪かった。

 はて? なんか文句があるところでもあったか? 

 自問自答してみるが思い当たる節はない。

 そんな様子に呆れ、彼女は少し間を置いてから答えた。

 

「ただ……三人いっぺんにプロポーズってのはどうなのよ?」

「あら、私は別に三人同時でも嬉しかったんですけど」

「儂もじゃな。紫は心が狭いのう」

 

 紫のため息とともに、屋内からひょっこりと剛と早奈が姿を現した。

 もちろん彼女らの指にも指輪がはめられている。

 早い者勝ちとばかりに早奈は空いていた俺のもう片方の隣に座る。剛はそれを見てムッとしたが、気を取り直して背中に抱きついてきた。

 

「あ、なにちゃっかりと楼夢さんに密着してるんですか!」

「ふふん、残り物には福があるのじゃよ。ほれほれ、胸が当たって楼夢も気持ちよいじゃろ?」

「いや……あの……腕がミシミシ言ってて集中できないというか……」

「なにしれっと感触楽しもうとしてるのよ!」

 

 スキマから取り出されたハリセンで頭を叩かれた。解せぬ。絶対にあいつらが悪いと思うのに……。

 

「本当、そんなのでよく結婚できましたね。もうちょっと力加減というものを学んだらどうですかこのゴリラ女」

「イラつくたびに呪いを撒き散らす陰湿な女には言われたくはないのう」

「どっちもどっちよ。まともなのは私だけね」

「生活リズムグダグダで家事全般不得意な人は黙っててください」

「散らかりっぱなしなゴミ部屋はまだしも、料理作ろうとして台所を吹っ飛ばしたことはさすがの儂でもないぞ?」

「い、言ったわね! 表出なさい!」

「はぁ……これから毎日こんなのになるのか……」

 

 紫に早奈に剛。

 思えば、この三人が仲良くしているところなんて見たことなかったな。どっちかというと本当に嫌い合ってるというよりかは競い合っているみたいな感じだから放ってはいたんだけど……まあ、仲裁は美夜にでもぶん投げるとするか。

 ここを収めてこそ夫の力量が測れるなんて言うやつもいるかもしれないが、地雷原の中に自ら突っ込むぐらいなら逃げたほうがまだマシだ。

 

 そんな風に騒いでいると、鳥居がある方から誰かが歩いてきた。

 地獄絵図のように互いに罵り合う三人を見て、呆れたように言う。

 

「ちょっと、飼い主だったらペットのしつけぐらいちゃんとしときなさいよ」

「無茶言うな霊夢。下手したら噛みつかれて腕ごと持っていかれるわ」

 

 紅白の巫女服に身を包んだ少女は博麗霊夢。博麗神社の巫女だ。

 この前の異変で上半身と下半身をおさらばされていたはずだが、今はちゃんとくっついていた。それもそのはず、彼女はあの異変の後永遠亭に緊急入院していたからだ。

 さすがは永琳、治療に関しては超一流だ。他にも体が二つに分かれたやつらは結構いたけど、いずれも全て彼女の手によって今では完治している。

 

「今日は早いな。宴会は夜だぞ」

「あれ、聞いてないの? みんなの希望で花見も兼ねて、宴会は昼からになったのよ。紫が報告してるはずだけど」

「……あ、忘れてたわ」

「いや忘れてたじゃねえよ」

 

 どうすんだよこれ……って思ってたけど、幸い美夜たちには聞かされていたようだ。台所の方から料理の匂いがしてくる。

 

「てことはよ、参加者はもう……」

「もちろん、ほとんどが来ているわよ」

 

 急いで神社の正面まで走っていき、鳥居の上に飛び乗ってその場を見下ろした。

 そこにはワイワイと騒ぎながら階段を上ってくる人の群れがあった。

 あっという間に境内はいっぱいになり、あちこちに酒や料理が運ばれるようになる。

 

「さあ、乾杯の言葉は任せたわよ」

「えっ、俺?」

「当たり前でしょうが。アンタ以外に誰がいるのよ」

 

 そう言うと霊夢はさっさと人の群れの中に混ざってしまっていった。

 盃を片手に持った全員の視線が俺に集中する。

 やるしかないと悟り、咳を一度したあとに口を開く。

 

「えー、まあなんだ。今回の宴会の主催者の楼夢だ。知らないやつはいねえと思うがな」

 

 どうも口が上手く動いてくれない。こういうのは霊夢がいつもやってたからなぁ。

 

「今回の異変、俺は最初動けない状態になっていた。敵に囚われていたからだ。だがこうして無事に戻ってこれたのは紛れもなく、ここにいる全員のおかげだ。らしくねえとは思うが言わせてくれ。——ありがとう」

 

 頭を深々と下げる。前は見えないが、それでも雰囲気だけで全員が驚いているのがわかった。

 だけどこれは俺の本当の気持ちなんだ。

 こいつらがいなかったら、俺は神楽と戦うことすらできなかった。こいつらがいたから、最後のところで踏ん張れた。

 本当に、本当にありがとう。

 

「……とまあ長ったらしい話はおしまいだ。それじゃ全員いくぞ!」

 

 頭をあげて声を張り上げる。

 そして俺は盃を天に向かって思いっきり突き上げた。

 

「異変解決を祝って——乾杯っ!」

『乾杯っ!!!』

 

 全員が一斉に酒を飲み始める。酒や料理はもちろん、会話やときには弾幕が飛び交って会場はカオスと化した。

 しかしそれでも全員の顔には笑みがあった。つられて自然とほおが緩んでしまう。

 

 この光景を、守っていきたい。

 盃の中の酒を口に含んだ。

 爽やかでありながら少し溢れ出てきた苦味を噛み締め、そう誓った。

 

 

 

 東方蛇狐録〜超古代に転生した俺のハードライフな冒険記〜

 

『完結』






今まで東方蛇狐録を読んでくださりありがとうございました。今回を持って、この小説は完結いたしました。

思えば三年。まだまだ短いという方もいらっしゃるかと思いましたが、自分にとっては長く時間でした。
最初は他の方々の作品を読んで、それに影響された形で筆を取っていたので最後まで続くとは思っていませんでした。しかし投稿するたびに数々の感想をいただき、そのたびにやる気になってもう一話と書いているうちにとうとう約三百話という長作にまでなってしまいました。この作品は皆様と一緒に作り上げたと言っても過言ではなく、誠に心から感謝しております。ありがとうございました。


さて、少し長くなってしまいましたが今後の話をしたいと思います。
最初に、次回作が決定しました。詳しくは書けていないので話せませんが、今度はイナズマイレブン(円堂世代)の二次創作をここハーメルンで投稿していく予定です。
ただ、一話が投稿されるのは早くて来年になると思います。というのもここ最近のスケジュールがかなり厳しくなっていたり、某ゲームが発売されたりでいろいろ忙しくなるからです。それと、この小説での経験を生かしてある程度溜めてから一日置きに投稿、というスタンスを取るつもりなのでストックを溜めるのに時間がかかるというのも理由の一つです。今五話ほど出来上がってはいるのですが、三十話はストックしていたいのでまだまだになりそうです。

というわけで最後に皆様、今日まで本当にありがとうございました。
また次回作で会えたら光栄です。
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