Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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第35話 間桐雁夜の独白と、アイリスフィールの最期

 

 

 

「俺ではどんなにあがいたところでお前には勝てない。そんなこと、ずっと前から分かっていたさ」

 

 これが物語のエンディングなら、亡骸に近付き、その顔を見つめ感傷に浸りながら、最期にライバルがどうのこうのだの殊勝に語り、勝ち口上を上げるのだろう。

 そんなことを思いながら、雁夜は血の海に沈む時臣を遠目に見る。

 

 そんな風に語るような良い因縁など自分と時臣の間にはありはしないし、そもそも本当に自分が勝ったのかすら、自ら手を下さず、最後は卑怯とも言える騙し討ちに一縷の望みを掛けた自分には分からないのだと。

 

 戦士(ヒーロー)ではなく役者(アクター)……いや、もっと言えば道化(ピエロ)に近い。

 それが、間桐雁夜と言う凡人が、遠坂時臣という秀才を打倒する唯一の手段だったのだ。

 

 

 

「大丈夫ですか、マダム」

 

「ええ、大丈夫よ舞弥さん……大丈夫。私はまだ私を保てる。なんとか意識のあるうちにもう一度切嗣に──」

 

 主役は彼女だった。

 いつの間にか──あくまで雁夜の体感での話である──到着し、アイリスフィールに肩を貸す久宇舞弥の存在に、自分が相当の時間、時臣を見つめていたらしいことに雁夜はようやく気が付いた。

 彼女の待機していたポイントからここまでは、その常識的な一線を飛び越えた身体能力を以てしても数分の猶予が必要。

 となると、その間ピクリともしなかった時臣は本当に倒れたのだろう。

 

 ほんの数日前までイメージしていた高揚も、達成感もありはしない。

 機械的にカチッ、カチッ、と論理的に噛み合っていった結果理解した結末を雁夜はなんの感慨もなく受け入れ、静かに1歩をその亡骸へと踏み出す。

 

 もとより、間桐雁夜とアイリスフィールの2人で時臣を打倒出来る可能性はほぼ0に等しかった。 

 しかし、ケイネスも侮れない強敵である以上やらねばならぬ。その為に衛宮切嗣は彼等に秘策を授けた。

 それが今回の決め手となった

 

 

 ──起源弾による狙撃での一撃必殺、である。

 

 

 "魔術師、それも力量が高ければ高いほど威力を発揮する起源弾は僕にとっても切り札だ。僕の肋骨から作っている為補充が不可、タネが分かれば二撃目からはまず通用しないというデメリットも含めてね" 

 

 "この一撃が決まればまず勝利は間違いない。だが、これが躱される、若しくは耐えられるなんてことになれば……僕が間に合わない限り、3人共死ぬことになる"

 

 "だから、アイリと間桐雁夜に求める仕事は一つだ。手段は問わない。どんなことをしてでも遠坂時臣の集中を、最低限の警戒すらかなぐり捨てるまで自分達に向けさせ、奴の全力を引き出してくれ"

 

 "そうなれば勝算はある。奴は魔術をあまりに尊びすぎ、逆に近代兵器を舐めている。僕らのような人種なら1km離れていても気付くような殺気と空気の変化に、遠坂なら気付かない。それでも魔力をもつ人間ならリスクはあるが──舞弥なら確実だ"

 

 

 そうして、衛宮切嗣の作ったレールの上をただ必死に走り、自らを鼓舞し、演じ続けた。

 それがこの戦いの真実である。

 

 そんな回想を終えると、雁夜は仰向けに倒れ、事切れた時臣の目前まで辿り着いていた。

 

 

 

 

 

「お前の顔を冷静に見るなんて初めてかも知れないな」

 

 先程自分が思ったことなど忘れて独り言つ。

 この顔を見るとき、常に感情をコントロールできないでいた。怒り、嫉妬、羨望、理由は様々だが、その結末としてどす黒いモノにいつもいつも支配されていたのは疑いようもない。

 そういう意味で言えば、これが間桐雁夜と遠坂時臣の初めての出会いであり、片方が物言わぬとしても、最も何かを理解する邂逅であった。

 

 

「──俺は……桜ちゃんを救う。何があっても。絶対にだ。例え、それで葵さんに二度と笑いかけてもらえなくなったとしても」

 

 遺体が答えるわけもない。だからこれは、ただの独り言で、自己満足だ。

 

「それだけだ。怨みたきゃ怨め。文句なら、いつかあの世で幾らでも聞いてやる」

 

 一つ息を吐くと雁夜は踵を返し、また来た道を一歩一歩戻り……途中で止まると、一度だけ振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──じゃあな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉も、誰に聞こえるでもなく、誰かが返すわけもない。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

「もう良いの?」

 

「何がですか?」

 

「……何でもないわ。私の勘違いみたい」

 

 立っているのもやっとという体のアイリスフィールの問いに、雁夜は素知らぬ顔で嘯いた。

 アイリスフィールも予想していたのか、苦笑を浮かべそれ以上の追及はしなかった。

 

「でも本当にギリギリだったわ……魔力的にも、聖杯的にも、ほんのついさっき、2体のサーヴァントが取り込まれたわ。後1体、残りのサーヴァントが2体になれば、私は人としての形を保てなくなる」

 

「──っ! 急がないと! 切嗣さんと連絡を」

 

「その点なら抜かりありません。貴殿方の交戦中に一度コンタクトがありました。切嗣なら心配無い。ケイネスエルメロイを屠り、此方へ向かっていましたが、私がこの戦いの終結を告げると、手筈通り公民館で待機している、と」

 

「なんだか冷たいな──アイリさんの状況はあの人が一番分かってるはずなのに」

 

「雁夜君、それは──」

 

「貴方は衛宮切嗣を全く分かっていない」

 

 雁夜がボソッと溢した言葉に、意外なことに強く反応したのは舞弥だった。

 そう言えば、この人が言葉を発するのはあまり見たことがない。

 少し面食らいながら雁夜は黙って聞き入る。

 

「無し崩し的に感情が"崩れる"のと自らの意思で"崩す"のは全くの別物だ。それが、修羅として心を省みずに戦い続けた男が鋼の心を保つ唯一の方法」

 

 それだけ言うと、舞弥は話は終わりだと言わんばかりにアイリスフィールに肩を貸したまま立ち上がり、くるっと振り返り公民館へ向けて歩み始める。

 その言葉の意味は、雁夜には分からなかった。

 

 

 

「なんだよ──それ……」

 

「仕方あるまい。衛宮切嗣まではいかないまでも、彼女も死線を日常として来た人種だと見える。君に理解できないのは無理の無い話だ」

 

「うわあっ!? お前! いつの間に!!」

 

 

 突然後ろから掛けられた声に、文字通り雁夜は飛び上がった。

 それもその筈、後ろにはいつの間にか単独行動をとっていた筈のアーチャーが何時ものように皮肉めいた笑みを浮かべ立っていたのだから

 

「先程到着したのだが、ノスタルジーに浸る君も、彼女も、邪魔するには些か申し訳無かったのでな。少しだけ様子を見させて貰っていた。いや、しかし満身創痍という言葉がぴったりだな」

 

「そりゃな。むしろ五体満足でいるだけ御の字だよ」

 

 とは言っても全身火傷に打撲に煤まみれと見ていられない惨状なのだが──それにしてもましな方だと雁夜は自分の言葉に頷く。

 九分九厘死んでいた筈の戦いの結末がこれならば、上等と言う以外は高望みが過ぎる。

 

「ほう、君が遠坂時臣をそこまで評価していたとは思いもよらなかった」

 

「茶化すなよ──」

 

 雁夜はアーチャーと並んで舞夜とアイリスフィールの後ろを距離を少しとって歩く。

 手伝わなくて良いのか?という問いはアーチャーによって即座に却下された。人間触れない方が良いこともあるらしい。

 

「それで、そっちはどうなんだよ。何だか急にお前との繋がりが弱く……というかほとんど感じなくなったんだけど」

 

「ああ、それはそうだろうな。今私は君との契約を絶っている」

 

「お前はいきなり何を言い出す!?」

 

 さらっと出てきた驚愕の発言に思わず大声が出る。

 何事かと舞夜とアイリスフィールが振り向くが、流石にこれは人に聞かせられる話ではないと雁夜は"なんでもないです。すいません"と彼女らに手を合わせた。

 

 

 

「どういうことだよ──」

 

「これ迄はどうにか温存と節約でなるべく君に負担をかけない形で来た訳だが、今日はそういう訳にはいかん。現に私も、既に一発"あれ"を使っている──あの大英雄どもから一本をとるにはそれしか思い付かなかった」

 

 向こうは美女二人、こっちは何が悲しいのかむさ苦しい男二人、同じように肩を合わせて歩かないといけないのか。

 そんな虚しさを覚えながら雁夜はアーチャーに顔を近付け小さな声で会話を続ける。

 

「加えて、君まで戦闘に出ている。忘れたかもしれないが君もマスターとしては下の下だ。自分の戦闘と私への魔力供給を両立出来たとでも? 君が遠坂時臣を前にそこまで考えての立ち振舞いをしていたと言うのなら全面的に謝罪するが」

 

「……」

 

「それは──」

 

 全く以て出来ていない。

 時に沈黙は何よりも雄弁に事実を語る。

 

「確かになんの相談もしなかったのは悪かった。そこについては謝ろう」

 

「いいよ……お前が規格外なのは慣れてる……けどさ、大丈夫なのか?」

 

「何がだ?」

 

「契約切っていつまで留まってられるのかって事だよ──いや、そもそもサーヴァントの自由意思でそんなこと出来るのか?」

 

「順に答えよう。私のクラスはアーチャーだ。クラス固有スキルである単独行動を用いれば、あからさまな浪費をしなければ2.3日は持つ。全力の戦闘はあと一度切り、時間で言えば数時間が精々だろう。この聖杯戦争最終盤に限って言えば、デメリットはほぼ無いと言える」 

 

「なるほど──」

 

「そして後者だが──こちらに関しては私特有のものだ。普通の、と言うよりもサーヴァント全体で見てもこのような荒業がこなせるのは私と、知る限りではあと一人だけだ。こんなやり方がまかり通るなら聖杯戦争など成立しない」

 

 細かい理屈は割愛するが、とアーチャーは肩をすくめてみせる。

 雁夜としてもそれ以上の追及をする気もない。したところで何が変わるわけでもない。彼の言うとおりデメリットが無いのならそれで良い。

 

「分かった。でもヤバいと思ったら直ぐにパス繋ぎ直せよ。お前の言うとおり確かに俺はヘッポコだが、それでもマスターとして、いないよりはましだろ」

 

 コツン、とアーチャーの肩を小突く。

 それに対してアーチャーは驚いたように一瞬目を大きく見開き

 

 

 

「了解した、頼りにしているぞ。マスター」

 

 いつの日か、あの武家屋敷で見せた以来の笑顔で応えた。

 

 その笑顔があまりにも眩しかったからか。それとも一歩だけアーチャーが前に出たからか。

 雁夜にはその次に彼がボソッと呟いた言葉は聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

「アイリ……!」

 

「良かった……また貴方に会えるとは思っていなかったから」

 

 冬木公民館のメインホール。この地方都市の一公共施設の内包物にしては立派すぎるとも言える千人規模収容劇場の壇上に衛宮切嗣はいた。

 

 サーヴァントの魂が器を充たす事を必死に抑え込んで身体機能の維持に全力を注いでいた反動か、刻一刻と状態が悪化していくアイリスフィールは自力で歩くのが精一杯という状態。そんな彼女が舞夜に付き添われる形で扉を開けると、切嗣は今まで咥えていたのであろう煙草を吐き捨て、全速力で駆け降りてきた。

 

「ねえ切嗣……私、頑張ったのよ? 初めて貴方に見て貰ったときにはコントロールが上手く利かなくて呆れさせちゃった魔術で、御三家の一角である遠坂を倒しちゃったんだから」

 

「ああ……君は本当に良く頑張った……だから、もう無理をして喋らなくて」

 

「ふふ、今喋らなくていつ喋るのよ……本当に切嗣は心配性なんだから」

 

 舞夜から引き取ったアイリスフィールを背負って切嗣は壇上へ向けて歩く。

 その頬は、確かに濡れていた。

 

「けど、本当に良かった……もう一度貴方に会えるとは思っていなかったから……」

 

「ああ、そうだね……ほんとうに」

 

 ほんの数十秒前に交わしたのとほぼ同じ内容の言葉をアイリスフィールが繰り返す。

 彼女の意識が朦朧としはじめていた事にこの場にいる誰もが気付き、そして、誰もが無かったことにした。

 

 

 

「さあ、アイリ、横になって」

 

「ありがとう……ねえ切嗣」

 

「なんだい?」

 

「手を、握っていてくれないかしら……目もだんだん見えなくなってきてて、何だか寒いの……セイバー、あの娘も頑張ったのね」

 

「ああ、御安いご用さ……」

 

 これ程にまで悲しい勝利宣言があるだろうか。

 アイリスフィールの命を圧迫するのはサーヴァントの魂であり、急激な体調の悪化は即ちサーヴァントの脱落を意味する。

 本来なら両手を挙げて喜ぶ自らの陣営の勝利さえ、今この場には重すぎた。

 

「不思議ね……こうなることなんて、私が生まれたときから分かっていて、怖いと思ったことも一度だって無かった。だってこれが私のfate(運命)なのだから……なのに今になって、初めて残念だと、もっと貴方の側にいたいと思ってしまっている」

 

「──」

 

 力の無いアイリスフィールの右手を強く握る切嗣は答えない。その代わりに、すがり付くようにその力を強める。

 

「泣かないで……私がいなくなっても切嗣には……いえ、私達にはイリヤがいる。ねえ切嗣、一つだけ約束して?」

 

「──なんだい?」

 

「世界に恒久的平和をもたらす。貴方の願いは叶えて。けれど、それとは別に……何があってもあの娘を、イリヤを幸せにしてあげて。あの娘は人形なんかじゃない。冷たい世界で寂しい思いをさせないで。日本に来てからの時間は私にとって、とても楽しかった。イリヤにももっと楽しい時間を、幸せな日々を沢山送らせてあげてほしいの……」

 

「……分かった。約束する。イリヤは必ず僕が幸せにするよ」

 

「ありがとう……もう少し話をしていたいのだけれど、そろそろ限界みたい。セイバーにも最期会えたら良かったのだけれど……切嗣、あの娘のことも虐めちゃだめよ?」

 

 別にそういう訳じゃ、と口ごもる切嗣に

 知ってます、最期に一度貴方にも意地悪してみたくなっただけよ、とアイリスフィールは笑う。

 

 

 

「それじゃあサヨナラ、ね。切嗣……私、最期の死に方はずっと前から決めていたの。愛する人の腕に抱かれ、抱き締められながら、最高に幸せな気分のまま逝くの。頼めるわよね?」

 

「──」

 

 切嗣は無言のままアイリスフィールの上体を抱き上げ、強く抱き締める。

 その左胸に銃口を突き付けながら、痛みすら感じる間もない一瞬で迷わず逝けるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ありがとう

 

──ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、数多の願いを背負った聖杯が降臨する。

 

 ほんの少しの偶然から螺曲がった第四次聖杯戦争、その旅路は、遂に終局(フィナーレ)を迎える。

 

 

 

 

 

 





描きたいことを描ききった。今の私に出来る全力です。

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それではまた。
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