Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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王の御前にて

「──シドゥリ」

 

「はい」

 

「外で待つ役付き共に伝えよ。本日の稟議はこれ迄とする。続きは明日、とな。我にはやることが出来た。その旨伝えた後戻って来るが良い」

 

「承知致しました」

 

 軽く頭を下げると、シドゥリは外へと歩いていく。

 その姿が見えなくなるまで見送った後、ギルガメッシュは"さてと"とリラックスしたように足を組みアルトリアとマーリンを見下ろす。

 

 

「珍しいじゃないか。君が"使う"なんて。ちょっと強引な解釈だと思うけど、それも未来ということで収まりがつくのかな?」

 

「は、舐めるでないわ魔術師が。この我を誰と心得る。我は全てを見、全てを知る。まあこれも一興と言うものだ。この女には興味がある……しかしまあ、随分と良くないものに魅入らせたものよなあ。その結末は貴様も理解していたのであろうに」

 

「誰がどう立ち回ろうがあの結末は避けられなかっただろうね。僕はただ、最良が彼女だと思っただけのことさ」

 

 マーリンとギルガメッシュはお互いに探り会うように、ギルガメシュの方は多少なじるように言葉を交差する。

 その委細はアルトリアには分からない。

 だが、一つだけ分かるのは、その話が自分に深く関わっていると言う事だけだ。

 

「戯言を。で、小娘よ。貴様はこのウルクの地で何を求める?」

 

 その後も暫くジャブの応酬が続き──唐突に思い出したかのようにギルガメッシュの言がアルトリアへ投げられる。

 

「そこのマーリンの言葉を借りるなら、人類史の崩壊を防ぐために──」

 

「戯け。そのような大義名分など興味はないわ。その為にその魔術師を呼んだのだ。今更説明されるまでもない。我が問うているのは貴様が、これまで存在していなかった一個人としての願望よ」

 

「それは──」

 

 探るような、少し呆れているような瞳がアルトリアを射抜く。

 個人としての願望、ギルガメッシュの言う通りこれまでの自分にはなかった感情。

 その思いを、改めて心の中で反芻すると、その瞳を逆に真っ直ぐ貫くような視線を向ける。

 

「……私は、人の心を知りたい」

 

「──続けよ」

 

「私はこれまで、王としてあるべき姿を守ることを良しとしてきました。そして、全てを失った。その道を選ぶ前に、民が笑っている姿を見た。私はその景色を望んだ。でも、何かが決定的に足りなかった。私には自らが歩もうとする"道"が無かったのです。それを見つけたい。その為に、人の心を知りたいのです」

 

「──」

 

 アルトリアの独白を、途中からギルガメッシュは目を閉じて何かを考え込むように聞き入っていた。

 そして一つ、嘆息と共に目を開ける。

 

「まるで空想に夢を馳せる幼子の言葉よな。貴様の歩んできた道程がどれだけ歪だったのか、改めて分かると言うもの。まあ良い。この魔獣戦線が動く……いや、そもそも始まる迄には幾ばくかの猶予がある。その間を利用して貴様は貴様の為したい事を為せば良いわ」

 

「ええ」

 

「ともすれば、貴様は民としての生活を知らねばならぬ。シドゥリ。面倒をかけるがこの者の処遇は委細お前に任せる。仕事も遠慮なく振れば良い」

 

「分かりました。これから宜しくお願いしますね。アルトリアさん」

 

 いつの間にか戻ってきていたシドゥリがアルトリアの隣で優しく微笑む。

 

 

「それでは──最後にこのウルクの地でのルールを貴様に伝える。もしもこの禁を破るようなことがあれば、我が自ら貴様を消すことになる。魔術師の切り札で有ろうが戦力だろうが知ったことではない。心して聞くが良い」

 

 シドゥリの言葉に頷くと、ギルガメッシュは立ち上がり、明確な殺気と共にそう告げる。

 それは警告を本気であると示すのには充分すぎるものだった。

 

 

「一つ、先程も言ったがこのウルクでは我を除きシドゥリに従え。二つ、英霊、サーヴァントとして力を行使することは一切許可しない。アルトリアと言う一人の人間の力以上のことはするでない。三つ、この後暫く時を置いてサーヴァントや異邦人がこの世界にやって来る。が、貴様の素性、来歴を語ることは赦さん。このウルクの民として接するが良い。この三つの禁は何があっても破るな。それさえ護れば貴様が民に害を及ばさない限り、我は何も干渉せん」

 

「分かりました」

 

 無理な話でもなんでもなんでもない。アルトリアは納得して首を縦に振る。

 三つ目に関しては疑問符が残るが、それにしても反抗するような内容ではない。

 英霊としての力を行使するなと言うのも、民を知る為に同じ立ち位置に自らを置くと考えれば妥当なところである。

 

「それで良い──もう一つ、ウルクにいる間はこれを身に付けておけ」

 

 禁を告げると再び柔和に戻ったギルガメッシュが、何かを思い出したかのように背後に黄金の波を出現させると、その中からブレスレットのようなものを取り出しアルトリアへ放る。

 

 

「これは……?」

 

 どう見繕ったのかサイズかこれ以上無くピッタリなそれを嵌めながらセイバーが問い掛ける。

 

「一種の拘束具とでも思っておけ。なあに、心配いらん。貴様の魔力を限り無く0にするだけのものよ。禁の二がある以上不要と言えば不要なのだがな」

 

「は──? な、外れない!? マーリン!!」

 

 まるでとりとめのない些事のように告げたギルガメッシュに、アルトリアは思わず青ざめる。

 言われて意識してみれば、魔力が全く身体の中を循環していない。

 これではまるで、本当にそこらへんにいる少女と何ら変わらない。

 

「ごめんよーアルトリア。僕もこの賢王には逆らえないんだ。まあ折角だからこの際普通の少女としての生活を満喫すれば良い」

 

「この──!」

 

 この男はやろうと思えば直ぐにこんなもの解除できる。ただやる気がない、それどころか楽しんでいる。

 ふざけた口上からそうであることは直ぐに想像が付いた。

 

「喧しいぞ小娘。用は済んだ。もう話す事は何もない──魔術師。お前は残れ。貴様にはまだ話すことがある。シドゥリ、頼んだぞ」

 

 冷ややかな声が一方的にやりとりを中断させる。

 文句の一つも言う気が起きない断絶。いつの間にかステップを踏んで距離を取ったマーリンが笑いながら"またねー"なんて言っている姿には心底腹が立つが、ここでの問答は無理だろう。

 

 アルトリアさんも大変ですね、と苦笑するシドゥリに先導され、アルトリアは祭壇を下りるのだった。

 

 

 

 

 

 

───────

 

「それでは今後は此方を使ってもらえれば。本日は疲れたでしょうしゆっくりお休みください。後でまた食事をお持ちしますね」

 

「ありがとうシドゥリ」

 

 アルトリアが市場から少し離れた石造りの一軒家に辿り着いたのは、夕焼けが窓から赤く差し込むようになってからだった。

 

 シドゥリを見送ってから石材を切り出して作ったのであろうテーブルに、何の気無しに頬杖を付く。

 

「彼女の言う通り、確かに疲れましたね──」

 

 何せ……信じがたいことであるが、アルトリアの体感時間で言えば、あの第四次聖杯戦争が終結してからまだ24時間も経っていないのだ。

 冬木、妖精郷、バビロニア、この短時間で3つも世界を旅したのだ。疲れを感じない方がどうかしている。

 

「私はこの地で何かを掴めるのでしょうか」

 

 ポツリと独り言。

 あのマーリンがわざわざ自分を連れてきたのだ。何もないとは考えづらい。

 人類史を守る戦いと言うのはいくらなんでも急にも程があるが、今更そんなことを言ったところでどうなるわけでもあるまい。

 

 王とは、民とは、自分にはあまりにも知らないことが多すぎる。

 

 そんなことを考えながらいつの間にかあまりにもは眠りについていた。

 

 

 

─────

 

「それではアルトリアさん。今日から本格的にウルクで民としての仕事をしてもらいます」

 

 今朝のシドゥリはこれまでと違い、少し固い空気だ。

 これが仕事に向かう際の彼女の本来の姿なのだろう。ウルクの民が皆着ている衣装に着替え、いったいどんな仕事を申し付けられるのかと唾を呑む。

 

「本日の仕事ですが──羊の毛狩りです」

 

 

 

 


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