フリーコヴの話です。
ジント、ラフィール、エクリュアの猫抜きの三角関係をちょっと意識しました。
あとは、ジント君の将来の悩みがテーマの一つです。
書き始めはもっと、重い話になる予定でしたけど、季節が冬から春になったら、なんだか、桜の話をいれてしまって、方向性が少し変わりました。


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星界の風章「思索」

「果たして僕は、ラフィールの役に立てるのか?」

ジントは襲撃艦<フリーコヴ>の艦橋で補給状況の情報を確認しながらつぶやいた。

 

彼の周りには、下級翔士が黙々と艦橋機器を眺めており、高級翔士は航法士のエクリュアとジントだけだった。その状況の中で、彼は思索の深みにはまっていた。

そもそも、ジントにとって軍人という職業が自分に向いているとは思えないのだが、ラフィールのそばにいると決めた以上、その立場にいなければならない。もっとも、貴族の義務を果たすという条件もあったので、軍人つまり、翔士でいるということに関しては、彼はそんなに気を煩わせてはいなかった。

それより、ラフィールの側にい続けるということは、彼女の皇帝になるための出世競争に参加しなければならず、それは同時に優秀な翔士や指揮官としての資質を必要というのがジントの悩みだった。その話を先日、ソバーシュから聞いてから、ジントは時間があいては、そのことについて思索する日々を送っていた。

 

 

ジントは悶々としながらふと、周りを見ると副長であるエクリュアがこちらじっと見つめていた。一見、無表情に見えるが少し心配げな雰囲気を漂わしていた。

 

「やあ、エクリュア十翔長、何か僕に何か・・・・・・?」

 

「何か悩んでいる。」

エクリュアはジントの思考を見透かすかのごとくぽつんとつぶやいた。

 

「いや、あの・・・・よくわかったね。」

その言葉にジントは心底驚いた。

 

「あなたのことはわかる。」

いつものように感情のない言葉でエクリュアは伝えた。

 

一瞬、二人の間になんとも形容しがたい空気が流れた後、ジントは側に置いてあったスルグーに一口すすって、心を落ち着かせた。

 

「ところで、エクリュア十翔長は、どうして、翔士になったの?」

「家が代々貧しい軍士の家系だったから、交易でかせぐよりは確実。」

「そうなのか・・・・・ある意味、僕と一緒かもね。一応、貴族だから軍務は義務だし。」

「そ」

 

その後、しばらく沈黙して再び、今度はエクリュアから言葉を発した。

 

「何を悩んでいるの?」空色の瞳でジントを凝視するエクリュア

「えーと・・・・・・。あの・・・・、そうだ。エクリュア十翔長はラフィール、いや艦長の皇帝への出世競争に参加することについてどう思うのかな?」

ジントはごまかすように聞いた。

 

 

「・・・・・あたしがやれることをやるだけ。」

ジントの質問の意味を理解したかどうか不明ながらエクリュアは短く答えた。

 

「(そうか、やれることをやるだけか)・・・・ありがとう。なんとなく、わかった気がするよ。」

 

「そ・・・・・。当直時間終了。もうすぐ、艦長に交代する。」

そう、エクリュアが言った後、ラフィールがちょうど、艦橋へ入ってきた。

 

当直任務の引継ぎを行った後に、艦橋から出て行った。

その様子を見ていたラフィールは、自分の艦長席につくなり、ジントに話し掛けた。

 

 

「リン主計前衛翔士、エクリュア十翔長と何を話していたのだ?」

 

「艦長、たいしたことは、話していません。」

ジントは、まだ自分の考えをまとまっていないうちに、自分の悩みをラフィールに話す気持ちにはなれなかった。

「そうか・・・・ならいい。」

その様子を感じとったラフィールもあえて、追求はしなかった。

 

 

その後、ジントは書記としての仕事を終えて、自室へ向かった。

 

 

「ラフィールに嫌な思いをさせたかな。でも・・・・・まだ、まとまっていないし、大事なことだから、ゆっくり考えて決めたい。僕が翔士として、ラフィールの側にいつづける役割を決めること・・・・・」

 

その後、ジントは主計翔士の翔士としての役割や将来の出世についての資料を集めて、自分の行く道を検討した。

 

「・・・・やっぱり、副官か。ラフィールが双翼の頭環をつけるときには、その場所にいるのが目標かもしれないな。」

 

ジントはおぼろげながら、自分の目標を決めた。副官の役割が『特定の上級士官を補佐し、主に事務的な面で秘書的な役割 を務める』というものであった。

さらに彼にとって都合のいいことに、副官は飛翔科翔士もしくは、主計科翔士のどちらかに選ぶことができるものであった。

 

ジントが悩みながらそう結論を決めたとき、ラフィールからジントの端末腕環に通信文一つ入っていた。

今度の休暇時間にラルブリューヴ鎮守府の空間公園へ一緒に行こうと言うラフィールからの誘いであった。

ジントは、了承の返信文を端末腕環で送って、時間まで寝台にもぐりこんだ。とても心地よい晴れ晴れとした気分であった。

 

 

 

7時間後、ジントとラフィールはラルブリューヴ鎮守府の空間庭園『桜の園』に来ていた。

そこは、満開の桜並木で咲き乱れていて、そこを翔士や従士が和やかな雰囲気で歩いていた。

 

 

「ラフィール、どうして、急に僕を誘ったのかい?」

 

「そなたが少し元気がなさそうに見えたからだ。たまには、こうして二人きりで桜を眺めるのもいいであろ。」

 

「うん、そうだね」

ジントは、薄紅色の花びらをつけた、桜並木を見上げると、少し違和感を感じた。

 

「(真空宇宙と桜並木か・・・・・幻想的だけど、何か違うかもしれない・・・・・)」

 

そんな様子を見て、ラフィールは機嫌を悪そうに言った。

「そなた・・・・何か不満でもあるのか?この風景にか、それとも私と一緒にいることか?」

 

「そんな、ラフィールと一緒にいれることに不満なんかないよ。なにしろ、君は帝国の王女殿下だからね。それより、この風景、あんなに近くに惑星や艦隊がある桜景色なんて、地上では滅多に見ることできないなと思っただけさ。」

 

その言葉を聞いて、ラフィールは一瞬不思議そうな顔をしたが、次の瞬間、満面の笑みを浮かべて、勝ち誇ったように言った。

 

「そうか、なら。もっと、他のところへ、ジント一緒にくるがよい。」

ラフィールは、ジントの右手をつかむと軽い足取りで目的地へ向かった。

 

「うん、ここだな。」

そういって、端末腕環を操作すると、何もなかったはずの地面に扉が開き階段が現れた。

 

「なんだか、秘密基地へ入るみたいだね。」

その様子を見たジントはわざとらしく、肩をすくめていった。

 

「そうかもしれぬな。ここは、皇族専用の区画の一つであるからな。」

「皇族専用とは、驚いた。それで、どんな驚きを見せてくれるのかい。」

 

「そうだな。そなたの望む景色を見せてやれるかもしれない。」

 

そういいながら、階段の奥へ進むとそこに、一本の大きな桜の木が立っていた。そして、映像処理してあるみたいで、その上空にあるものは真空宇宙ではなく青空が映し出されていた。

 

「ジント、この桜の木は、少しずつ咲いて、少しずつ散っているから、完全に散ることがないものだ。それに、これほど巨大な一本の桜の木は珍しいであろ。」

そうラフィールが自慢気に言ったとき、ジントはその桜の木の美しさと巨大さに圧倒されていた。

 

「・・・・・・すごい。すごいよ。ラフィール、それに・・・・僕の気持ちに気づいていたんだね」

 

「そうか。やはり、そなたは桜も地上の景色であったほうがよいか。この場所を作ったのは、何代か前の皇帝が地上に降りたときの風景を再現したいから作ったものだ。」

 

「そうなんだ。ありがとう、ラフィール。でも、皇族はどうして、これを独占しているのかな」

 

「それについては、今度教える。それより、実は言うともうちょっと、しかけがある。」

ラフィールは再び、端末腕環を操作すると桜の木の周りで異変が起きた。これまで、ゆっくりと落ちていた花びら落ちなくなり、ゆっくりと漂い始めた。それだけではなく、ジントとラフィールの体もゆっくりと浮き始めた。

 

「これは・・・・無重力状態にできるのか。この場所は。」

 

「そうだ、面白いであろ。子供の頃に父上にここに何回かつれてもらったとき、花びらをいくつとれるか、遊んだこともあった。無重力だから、とろうと思えば、いくらでもとれるぞ。」

 

そう楽しそうに笑顔で言うラフィールは美しかった。

ジントは、巨大な桜の木を背にして、黝い髪の銀河でもとびきり美少女が桜の花びらに囲まれて、空中に浮かんでいる姿はまるで、子供頃に聞かされた童話に出てくる妖精や天使のように思ってしまった。

 

 

「ラフィール・・・・・きれいだよ。」

 

「え・・・ばか、突然何を言い出す。驚くではないか。」

その言葉で耳まで顔を赤くするラフィール

 

 

「なにって、正直に言ったまでだよ。僕と君は想人だよ。それくらいっても、ばちは、あたらないよ。」

 

「ふん、その様子ではいつものジントに戻ったようだな。」

 

「え、それはどういうこと?これってまさか、僕を慰めるためにここによんだの。」

 

「ようやく気づいたな。そなたの鈍さは相変わらず冷凍野菜なみだな。」

そういいながらも、宙に浮いているジントにそっと抱きつくラフィール

 

「え、ラフィール、どうしたの?そんな急に・・・・・・・・・」

 

「そなた、何か悩んでいるであろ。さあ、話すがよい。そなたがつらい顔をするのは、本当は見ていられないのだ。」

黒瑪瑙の瞳は真剣にジントを見つめていた。

 

 

「ラフィール・・・・わかったよ。話すよ。」

その真剣な様子にジントは驚いたと共にうれしかった。自分は、こんなにもラフィールに想われているのだと言う事を実感した。

 

ジントは、自分の軍人として翔士としての将来の不安をラフィールに話した。ラフィールが皇族の出世競争に参加するということは、その周囲にいる人物は何かしら軍事的才能をもつ有能な指揮官や参謀が必要になってくる。つまり、ジントは自分に将来の皇帝候補の側にいつづける翔士としての自信がなかったことが彼の悩みであった。

そして、その悩みを考えた末に、ジントはラフィールの副官になることを決意したことも伝えた。

 

 

「そうか・・・・わかった。そなた真剣にそのことを考えていたのだな。しかし、そなた皇帝なるかもしれない私の副官が勤まるかな?」からかうようにラフィールはたずねた。

 

「もちろん、全力で取り組むよ。それがぼくの決めた道だから。嫌だっていっても、絶対になるよ。ラフィール」

ジントは普段とは違う意志の強い瞳で答えた。

 

「そうだな。そなたは、『誇り高い男だ』。それに、私が選んだ想人だ。」

再び、ラフィールはジントを抱きしめた。

「そうだね。その存在で居続けるように努力するよ。『僕のかわいい殿下』」

 

「ばか・・・・・・」

 

ジントとラフィールは、幻想的に漂う桜の花びらの中で互いの存在を確かめあった・・・・そして、想った。永遠にこの時間(とき)が続いたらどんなに幸せだということを。

 

 

 

 

<完>

 


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