――博麗霊夢に負けた。
先の騒動。守矢はもちろん、天狗などの妖怪を巻き込んで起こした騒動において、私はかの巫女と対峙した。
負けるつもりなど毛頭なかった。自分の力に自信もあった。だけど、そんな陳腐な自信なんて、呆気なく粉砕されてしまった。
博麗霊夢は文字通りの化け物だった。
弾幕ごっこなる勝負において、彼女は私を圧倒して見せた。悔しいながら、美しく空中を踊る彼女に私は見とれてしまったのだ。弾幕ごっこに精通している彼女と、新参者の私。比べる事すらおこがましい程に、私たちの間には埋めようの無い年季という溝が横たわっていた。それを分かっていながら喧嘩を売った私も私だが。
とにかく、博麗霊夢という少女は私なんかよりもずっと強い少女だったのだ。
幻想郷では外の世界と呼ばれている私の故郷。諸事情により此方へとやって来たのだが、まさかこの地で私よりも特別な人間に出会えるなんて思ってもみなかった。
博麗の巫女。風祝である私より、この幻想郷においては重要な存在。彼女なくして幻想郷の維持はありえない。そう、己が巫女を務める神社だけでなく、彼女は小さな箱庭の世界にまで必要とされていたのだ。
私だって、守矢の巫女だ。
神奈子様や諏訪湖様に必要とされているという自負もある。だから別に悔しくはなかった。
弾幕ごっこで敗れた悔しさはあっても、その特別さに嫉妬なんてしない。むしろその逆。博麗霊夢という特別を知って、東風谷早苗は安堵したのだ。
幼い頃から巫女としての高い素質を持ち、巫女となるべく育てられてきた。神事に関しての知識は豊富だし、何より二柱の姿を視認することが私には出来た。それは、外の世界では私にしか出来ない事だった。
だけど、その特別が疎まれるべき物だと、私は幼心に知ったのだ。
記憶に焼き付いて離れない、母の顔。それは決して、娘を見る顔ではない。娘に向けていい顔ではない。物心ついたばかりの私の記憶には、その表情が何よりも強烈に焼き付けられたのだ。
だが、今考えればそれは当然の反応だったと思う。
娘が神様が見える、などと言い出したのだ。いくら風祝の家系とはいえ、外の世界でそのようなことを言えばどうなるかなど分かりきっていた。
それからだ。母が余所余所しくなっていったのは。
腫物を扱うように、母は私に接した。今でこそ何とも思わなくなったが、当時の私にはそれが何より堪えた。
そんな私を、二柱は娘のように可愛がってくれた。友達もいなかった当時の私には、二柱の存在だけが救いだったのだ。
だから、二柱に誘われた時に迷わず首を縦に振った。
元の世界に未練なんてないし、二柱がいない日常など想像すらできない。幻想の世界へとやって来たのは、それだけの簡単な理由だった。
幻想郷には、妖怪の類がたくさん存在する。
それを聞いていながら、私は心のどこかで侮っていた。私には及ばない、そう考えていた。風祝である私は特別なんだから。
そんな私の甘い考えを、紅白の彼女は蹂躙した。
それはもう徹底的に、完膚なきまでに。自信なんて喪失、プライドも余すことなく。博麗霊夢は何てことないように、ただ淡々と私を壊して見せた。
世界が変わった気がした。今まで見えていた景色が色付くのを感じた。
そうして初めて、私は私という一人の人間を見つめ直すことが出来た。特別なんかじゃない。異質なんかじゃない。私は決して、化け物なんかじゃないのだと。
私は人間だ。ただ神様が見えるだけ、少し変わった力が使えるだけの人間だ。
幻想郷にきて、彼女に敗れて、色々な妖怪や人間と出会って。私の価値観は大きく変わった。これからも、変わり続けていくだろう。だがそれは、きっと良いことなのだ。
私はこの幻想郷で生きていく。
今日も明日も明後日も。変わらずこの地で生き続ける。そして何時かきっと、
大事な事を教えてくれた彼女と、友達になれたら。
強く凛々しい貴女へ、感謝の言葉を。
きっとこんな早苗さん。
他作者様の作品を読んでいる内に膨らんだ妄想を形にしました。早苗が抱いた、霊夢に対する最初の印象、幻想郷入りする前の心境なんかは自分の想像なので、その辺りあしからず。