幼少期
森林の香りを嗅ぎながら彼は言った。
「これは食べられるものだ。」
そう言って彼は私にその山菜を見してきた。
「……。ふむ。いきなりそう言われても危険かどうかなんて分かるわけないか。どれ。」
私の沈黙を疑っていると勘違いしたのか。彼はその山菜を食べ始めた。
「あ!先生それは!」
思わず声を上げる私であるが対応虚しく
ゴクリ
その山菜を飲み込んだらしい。そうやって彼は私に向かってこう言った。
「どうだい?食べられるだろう?」
あの頃は私も子供だったといえる。先生は自分の言葉に自信があった。最初会った時の全てを悟った遠い目は、いくらか最近は見かけなくなっていた。そうこうしているうちに一つの村に着いたようだ。そして軽く一日中お互いに探索、調査を行い朝のうちにとっておいた宿で私たちは相対する。
「先生、今回の村にはどうやら海が近くて山菜を採る習慣が無いと思われます。」
そう私が言うと
「うーん。そうとは言えないんじゃないかな?」
「……それはどういった根拠でしょう?」
「漁師達は大雨の中取りに行くのか。」
「そう言う観点から見ればそう思われますが。しかし、干物で済ませるかもしれません。」
「だけど、この地域は雨が多いから湿気が多いしカビの繁殖するだけだぞ?、また香辛料も無いこの地域はどうやって食料調達するのか。」
「それはあくまで地域の概要であって全てのことがそれに当てはまるわけでは無いのでは?」
こうやってテーマを決め村人に話を聞いて予想し問答をしていくことでお互いの知識や言葉選びの確認をしていくのである。
「じゃあ、この地域の症状を聞いたことはあるかい?」
「症状ですか?」
魚だけを食べると肝臓や腎臓の働きを著しく落とす。
人よってはカルシウムなどが塊となり尿路を塞ぐとされる。それを尿路結石と呼んだりする。全てがそれに当てはまると言うわけでは無いが何事もバランスが大事だったりするのである。
議論の結果食事には山の幸も食べることが大切であり狩人を雇うことを村長にささやかにお願いしてみることにする。すると、
「そうは言われますが、この近くの山には妖怪がいつの日か移り住んでおりまして退魔士や陰陽師を雇うには時間も労力も金もない始末で。こちらも困っておりまして……。今我々だけでもやっていけてますゆえ、気持ちだけ受け取りたく。」
そうして聞いて来た後。あくまで提案しただけでこちらが動く道理がないと先生は言った。
しかし私はまた旅を再開するために一歩踏み出そうとする先生の服の袖を掴み止めさせた。
「先生。」
「なんだ慧音?……もしや感情移入でもしたかい?」
「先生は察しがいいですね。はっきり言うとそうです。」
先生はしょうがないなと言いそうな顔で
「もう、慧音はしょうがないな。」
本当に言った。
「感謝なんてされないぞ?」
「重々承知です。」
「報酬もない。」
「私の覚悟はもう決まってます。」
「……わかった。そこまで言うなら近くの山まで行くとしよう。」
「ありがとうございます。先生!」
そう言って私は先生に抱きついた。
ピクピク
慧音が赤くなった頬に手を当てて顔を上げるとこめかみを抑えながら話を聞く藍の姿があった。
「そう眉毛を顰めて聞くな。こちらも恥ずかしいんだ。」
「いやいや、いきなり昔話で惚気を出されるとこちらとしても達し難いと言うか。」
「まだまだ話は終わってないんだ。最後まで静かに聞いてくれ。」