東方幾能録   作:arnehe

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お久しぶりと言えばいいのでしょうか。わたしには弁明のしようがありませんが

今後ともよろしくお願いします。


守護の都〜下巻〜12

辺りはせっかくここ最近盛り返していた人里を再び荒野へと変えられる。人間にとってこれほど心情に訴えかけられる事態はない。

 

猜疑心。

 

人間に根強く染み付いた負の感情。それがたとえ自身に利益があろうと止まらない。人間の浅ましさを理解できる言葉だと言えた。そして荒野と化した自分たちの世界を諌める者もいない。不満は溜まる一方であった。

 

これまでに異変は山ほどあった。そのほとんどが人里に直接の被害を与えてはいない。管理者はわかっていた。少しでも人里内で被害が出れば連鎖的に人間の心が負に染まっていくことを。そしてその時が幻想郷の一種の転換期でもあると。しかしその転換期を見ることはない。

 

何故なら……。

 

紅魔館

 

魔理沙は今、焦燥感と責任感に苛まれていた。そして自分の考えが正しいのであると証明するために彼女は空へ飛び立つ。

 

「お願いだ!門番!」

 

「だから私の名前は……はぁ。何かあったんですか?」

 

紅美鈴は切迫した雰囲気を静かながら感じ取り、落ち着かせるように魔理沙に聞いた。

 

「ああ、人里で……

 

魔理沙は事の顛末をかいつまんで説明した。

 

「なるほど、だからこその私だと。なら早いほうがいいですね。」

 

人里

 

細く紐を通す一撃つまりは、きみの一発。だがそれは射程距離が短すぎる。そこで魔理沙は考えた。圧倒的に初速によってきみ自身を本丸に飛ばせれば相手を仕留められるのではないか?と。

 

「おいおい。まさかあれか?あれをやるのか?」

 

人里で作戦を聞いてまず言い放つのは信じられないとばかり目を見開き魔理沙たちを伺うきみである。

 

「ああ、勿論だぜ。ささ、ぱぁーとやってくれ。二人とも。」

 

魔理沙が考えた策はとてもシンプルで紅美鈴の膂力をさらに命蓮寺の聖白蓮のバフをかけ、きみを蹴り飛ばす。

 

「頭は前方見てないと折れますよ?」

 

美鈴は頭と首を固めるよう指示(強制)する。

 

「お、おう。……じゃなくて!!」

 

「尻をもうちょい出してください。」

 

着々と準備が進む中きみは彼女らを見た。

 

「あたい一応だが女なんだが。「さぁ歯を食いしばってください!」ちょ!ま!」

 

直後きみの尻はビックバンとなった。

 

博麗神社

 

「ほほう、ここに来たのは二人目だ。」

 

誠也は新しい来客を迎えた。彰とその一行を鳥居から見下ろした。

 

めいと、くおは誠也の姿を見た瞬間仕留めようと動くが

 

「聖域を踏むことは許されない。」

 

一歩のところで体が血を見ることなく腐り落ちる。声にならない悲鳴とその感覚に悶絶しながらその場を離れ彰の元に戻る。本来移動できるほどの力はでないのだが主人への意地が彼女らを動かす。

 

「どうやら黒の言っていたことは本当のようだ。所詮力の塊に過ぎない。そして時間の流れに勝ることはないと、な。」

 

誠也は静かに体を起こし

 

「待っていた。噂はかねがね。といっても彼女は自慢話しかしないがな。まぁそんなことはどうだっていい。俺は誠也。ここの守護者をしている。今はそれだけだ。」

 

誠也は地面を大きく踏み込み彰に初手を打ち込む。流石にそれは彰も予想しておりサイドステップで軽く避ける。

 

誠也は勢いを樹木を使って受け流し再び彰へと特攻をかける。彰も再び避けようとする……が。

 

歪む感触とともに誠也は速さを変えた。さっきよりも速くそして鋭く。タイミングのずれた彰はもろに食らい肩口を押さえて倒れ伏す。その姿が人形のように見えてひどく滑稽に見えた。

 

追撃をなすように誠也は倒れた彰の腹に向かって拳を突き出す。そこで誠也の足を掴み向かって来た遠心力を使い背後に蹴りを入れる。しかし誠也はそれをものともせず彰の服をひっぱり地面に叩きつける。

 

「かは!」

 

横隔膜が一時的に痙攣しているが、それに耐え、追撃に備えるために体を起こす。が、瞬間彰の左腕は吹き飛んだ。そして悟った。こいつは人間ではないと。

 

「弱い弱すぎる。こんなのに俺は……。」

 

彰は誠也の話している隙をついてベクトルを多数設定。

 

(ENTER!)

 

そして発動。外部干渉を使ってその場から離れる。

 

(彼の能力はなんだ?どうしてここまで追い詰められる?しかもこの状況。)

 

そう彰の腕は全く再生されていない。時間が狂っているせいなのか。相手の能力なのか?

 

そうこれは彰を殺せるいくつかの方法の一つ。今の環境は彰の転生する程度の能力を無効化している。時間のズレが回復の差を作りエラーを起こしているのだ。それを理解していない彰は忽然と思案していた。

 

いまだに左腕は元に戻らない。その変化は顕著に明らかで他の従者にもわかった。

 

「めい、あれは……!」

 

「ええ、どうやら私たちの理解の及ばない何かが起こっているんでしょう。」

 

彼女らも一貫して時間の壁を超えられていない。そのため一見余裕で飄々としていてもその実は額に汗を滲ませている。

 

彼女らの世界は絶望へと塗り替えられていた。現状打開の一手は打てない。このままいけば彼は、彰様はあの者の手によって分解され元に戻らず実質、死を意味するだろう。その状況に彼女らが動かないなど誰が思うだろうか?

 

「……これで、最後だ!」

 

彰は己の負けを悟り静かに目を閉じ、その時を待った。瞬間誰かが激しく争う音が聞こえる。彰はその音を確認することなく意識を落とした。

 

「驚いた。……確かセレスとやらではここを抜けられないと思ったんだがな。」

 

「時間の解析はもう終わったよ?多少部位が壊れる程度の損傷であるのは否めないけどね。」

 

一度離れていたセレスが彰の前で魔力により象られた刀を出現させ鍔迫り合いをしていた。

 

そうこの時間の壁を越えることこそが彼女の能力、不可能を可能にする能力『技術力を高める程度の能力』である。

 

技術すなわち歴史上の努力の結晶を(理を)理解し扱う。ひとえに扱えるのもそれぞれであるが、あくまでもそれは高める程度なのである。

 

「セレスが何をして超えたかは知らないが、その傷で何ができると言うのだ?」

 

そう彼女の体はもはや皮膚が爛れ腐りかけていた。時間を超える行為の代償としてはあまりに割りに合わない。そして実際に彼女が彰を抱いて移動できるほどの力は無さそうである。

 

誠也はセレスの体を一閃盛大に内容物をぶちまける。

 

「全ては彰様の心の平穏(愛)のためにすること、お前ごときがその道を閉ざすことなど許すはずがないでしょ。」

 

脳内麻薬によってかろうじて動けているのは奇跡に近い。そして微かに残る痛みに耐えセレスはスペルカードを使用した。

 

提言「Proposition of the soul」

 

緑色の弾を直線で放つそれは単純な弾幕であり無作為に飛ばされていた。ランダム弾は反射神経の高い誠也にとってはヌルゲーでしかなくあっさり突破される。

 

「やはり弱い。弱すぎる。彰もその従者も。」

 

そうやって静かに吐き捨てると同時に誠也の手刀がセレスの手足を捉える。

 

四肢を損失する事態へとなった。だが!

 

「はは、あはははは!あーおっかしい!」

 

「気味悪いなんで笑っている。」

 

狂ったかのように笑い出した。それは嘲笑にも似たニュアンスがあり誠也になんとも言えない違和感を与えるには十分であった。

 

「それはね。こういうことだよ!」

 

解析を開始します。

 

セレス内容物解析中、指定地面解析中、草木解析中etc……。

 

笑い続けるセレスに嫌気がさしたのか誠也はとどめを刺しに近づいた。しかしこれは下策である。

 

「私は至上最高の傑作にして災厄。これの意味わかる?」

 

セレスは誠也に聞こえるようにそう言った。瞬間パリンと乾いた音がなったと思ったら今度は誠也が拘束されていた。

 

「聖域のジャミング完了しました。……たく。無茶をしますね。」

 

くおの能力が発動。ここら一帯の制御が彼女に移る。それはつまり障壁により誠也は地面に押し沈められようとしていた。

 

「セレスらしいといえばそうでしょうが確かに無茶ですね。特にご主人様へのポイント稼ぎとしてはですが。」

 

めいが沈み出した誠也を足で踏みながらそう言い放った。

 

「お前ら……どうやって!?半端者のお前らでは時間を超えることなどできないはず。」

 

「そう出来ませんよ?セレスがいなければね。」

 

彼女の技術は所謂解析し自由に組み換えられる。時間こそかかるがありとあらゆる()()()()()()()()()()()()()であればセレスは分解も構築を可能である。

 

例としては粒子単位で分解し新しく構築する。小麦粉をパンにする程度。またはペットボトルを分解し服を作るとかである。

 

めいとくおを元素に変換してそれを再構築する。()()()()()()()()()()()()()だからこそできる芸当。欠陥ものであるが故の行動であった。

 

「なぜ、なぜだ!私は皆を……。」

 

「さぁ始めましょう。お話の時間です。」

 

彼女たちの着物は揺れ、誠也の悲痛な叫びが願いが空間を揺らした。

 

事態の好転は近い。


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