ハイスクールD×D 俺と愉快な神話生物達と偶に神様   作:心太マグナム

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お ひ さ


選手交代

砂埃が舞い砕けたコンクリートがポロポロと地面に落ちる。その有様が定治の受けた衝撃を物語る。だが定治の身体は傷一つ付いていなかった。

 

『サンキュー親父、ナイスサポート』

 

吹き飛ばされ、叩きつけられた定治はヘラヘラとした何時もの笑みで自身を守ってくれた泡に腰掛けながらインカムに手を当てる

 

『全く、お前は偶に慢心して警戒を解く癖がある。それは悪い癖だと何度も言ってるだろう』

 

インカムからため息混じりに苦言を呈する夢桐の声が聞こえる。しかし定治は特に気にした様子はなく肩を竦めるだけ。

 

『やれやれ、相変わらず手厳しい親父だぜ』

 

インカムから手を離して服に着いたコンクリートの破片を払いおとす。少し白くなった制服にため息をついた後に前方を見ればそこには吹き飛ばされた定治にニヤニヤとした笑みを浮かべるニャルラトホテプと白い龍のような甲冑を身に纏った男、ヴァーリーがいた。

 

「ヴァーリ、お前お返事に人を吹き飛ばすとかどういう教育受けてきたんだよ」

 

「悪いな、生憎アザゼル達に会うまでは暴力くらいしか碌な教育を受けてなくてな」

 

「え、まさかのマジレス?なんかごめんね?そんなつもりじゃなかっブッ!?」

 

ジョークのつもりで言った事に予想以上の返しが来てしまい思わず謝る定治だったが再びヴァーリによって学園の壁に叩きつけられる。

 

「いやそんな怒らんでも…マジ悪かったってブフッ!?」

 

何とも言えないような表情で陥没した壁から出たと同時に再度攻撃が加わる。コンクリートが砕け教室に転がり、暫くして起き上がる定治の姿をヴァーリは困惑した表情で眺める。

 

「…何故避けようとしないアーミテイジ」

 

「あれ?なんか俺今割と理不尽な事言われてね?」

 

ヴァーリの言葉に今度は定治が困惑した表情を見せる。「いやどうしろと」と思わず言いそうになるのをグッと堪え、ユキを呼び寄せ背中に乗りヴァーリと視線の高さを合わせる。

 

「不意打ち避けろって言われても困るんだよ。お前も子猫ちゃんもいきなり不意打ちするのホント何なの?アサシンなの?気配遮断Aなの?って違う違う、それが聞きてぇんじゃねぇんだよ。不意打ちばっかするから話それたじゃねぇか」

 

ため息をつき口から出た血を拭う。指についた血を払い落とし、ヴァーリを真っ直ぐに見据える。

 

「お前さ、裏切ってたの?魔王の血縁者って奴?とかその他色々な奴らにに今回の情報教えてただろーーーショゴスくん」

 

ヴァーリが放つ魔力の弾丸をショゴスに受け流させる。その様子にヴァーリは「ほう」と言って感心した様子を見せる。

 

「ああそうだ。俺はあちらに着くことにした。こっちよりもあっちの方が面白そうだったからな」

 

「なるほどねぇ」

 

ユキの上で胡座をかいて頬杖をつきながら定治はルールブックに手を置く。

 

「お前さアザゼルに育てられてんだろ?そいつに申し訳ないとか思わないわけ?……んー、でもアレかそれよりも優先したい事がある、って所か?」

 

「なんだ、よくわかってるじゃないか」

 

「俺にケンカ売ってきたのもそういう訳かーーーーは?」

 

甲冑越しに笑っているだろうヴァーリに呆れたように、そして何処か感心したように定治がため息をついたその時、定治の表情が固まる。定治が目にしたのはルールブックから3枚の紙が切れ、空中に静止するという光景。静止した紙を見るとそこには

 

"ミゼーア"

 

"クティーラ"

 

"シュド=メル"

 

と書かれている。それらを理解した瞬間、定治の表情が明らかに変わる。想定外、困惑、そして尋常ではない程の危機を感じたものへと表情を移り変えて行く。

 

「ーーーっ!おいおい!?おいおいおいおい!?マジかよ!?」

 

この時定治は何故ニャルラトホテプがニヤニヤと笑っていたのかに気づいた。あれは吹き飛ばされた定治を嘲笑していた為ではない。定治に気付かれずにルールブックの封印を弱める事に成功した笑みだったのだ、と。

 

紙から木蓮の花の紋章が輝きそれと同じものが定治の身体に浮かぶ。それと同時に定治の身体のある所は角ばった刺々しいものに、ある所は細長い触手のような何かに変化していき定治の身体に激痛が走る。

 

「イッデェェェェェェ!!」

 

あまりの痛みに絶叫する。定治本来の、人間としての組織である皮が、肉が弾け飛び作り変えられ、それらがまるで新しい組織のように定治の身体と一体になる。

 

血反吐を撒き散らしながら絶叫する定治。だがそれでも身体の変化は止まらない。

 

平■せよ■らは■■なる支配者

ル■ルブ■ク 第■■ ■支■者

 

■望せよ■ら真■■体現■

ル■ルブ■ク 第■■ 外■『クソがぁぁぁぁぁ!!ショゴスくぅぅぅん!!ユキィィィ!!』

 

『うん!』『ええ!』

 

ルールブックに隠されたページの封印が解け始めると同時に定治はルールブックに魔力を注ぎ込みながら声を荒げる。二匹の怪物はその呼び声に応え、定治の魔力の干渉により光を失った3つの紋章を肉ごと抉り、千切る。

 

抉り取られた肉が空中でウネウネと動くがそれを幾多にも千切り、ショゴスとユキが口に入れ噛み潰し咀嚼する。

 

『っぶねぇ!!ニャル!テメェやりやがったな!!ミゼーア!シュド=メル!クティーラ!テメェらも悪ノリしてんじゃねぇ!!』

 

『カッカッカッ、いやぁすまぬすまぬ』

 

『ん?タイミングを間違えたか?』

 

『わ、私は定治さんに私の力が必要だと思って…そのぅ…』

 

『アハハハ!!アッーハッハッハッ!善意のつもりだったんですがねぇ!』

 

千切った箇所から血が流しながら定治はニャルラトホテプと門の先にいる存在に向ける。激怒する定治に対しクティーラ以外の神格達は悪びれる様子も無い。

 

他の神格はともかくニャルラトホテプは定治の奥で眠る"秘密"を知る存在だ。だというのにあの神は味方となっていても定治の想定外の事を本当に"善意"とちょっとした"悪戯心"でルールブックの封印を弱める。それが余計に定治を苛立たせる。

 

『これだから神って奴は……!「定治」何だよ!」

 

苛立たしげに声が聞こえた後方へと振り返るが声をかけてきた人物を目にした時、怒りではなく驚きの表情を浮かべる。

 

「……一誠、か?」

 

定治が目にしたのはヴァーリが身に纏う甲冑とどこか似ている赤い甲冑を身につけた一誠だった。定治は以前この姿の一誠をライザーとリアスの結婚式の際に目にしている。だがあの時と違い身に纏う甲冑は何処か一誠に馴染んでいるように見える。

 

「ああ、そうだ」

 

赤い甲冑の兜を納め、強い意志を持つ目をした一誠の表情が眼に映る。こういう目をした時の一誠はとても強い。一誠の強い目を見たお陰か定治は冷静さを取り戻し、改めて自分の状況を確かめる。身体のあちこちには血が流れ落ち、ルールブックの封印も押さえつけてるとはいえ弱まっている。近くには信頼する二匹の怪物と今すぐにでもしばき倒したいニヤついた笑みを浮かべるニャルラトホテプ、そして強大な力を持つ神が3柱。笑える程最悪な状況だ。

 

だがそんな最悪の状況で最高の親友が来てくれた。

 

なら俺がする事は一つ、拳を親友に突き出す。

 

「ワリ、ちょっとキツいわ。任せてもいいか親友」

 

「おう、任せとけ親友」

 

すれ違い様に拳を軽くぶつけ、定治が赤龍帝、一誠に道を譲る。

 

「悪いなヴァーリ、選手交代だ」

 

時を少し遡ろう。

 

 

一誠はルラになった定治の蹂躙劇を見ていた。ルラになった定治はニャル子と共に魔王の血族の者達を圧倒的な力で追い詰めている。その様子に一誠は拳を握り締める。

 

「夢桐さん、これも定治の…ルールブックの力なんですね」

 

「そう、聖書の神が封印したルールブックの隠された章を使いあの子は這い寄る混沌と呼ばれる神と契約をしたのさ」

 

定治の隣にいる夢桐はタバコを口元で揺らす。吐いた煙がルールブックとよく似た本の形となる。煙で作られた本には何かを分ける為の章と思われる目次欄が記されている。

 

「普段ルールブックにはこれらの章しか記されていない。だが血と魔力を注ぎ、隠された章を見つける事でルールブックは元の姿を取り戻す」

 

夢桐が指でなぞると煙の目次欄に新たな章が5つ加えられる。

 

「先の堕天使との闘いで使用した魔術を記した0章、そして今使っているのが更に隠された章の4つ。この隠された章を使い定治は這い寄る混沌と呼ばれる神と契約したのさ」

 

契約、という言葉を耳にした時一誠の表情に不安が見える。悪魔となって契約という名の取引自体の悪印象は薄れつつあるがそれでも隠された章に記された神との契約は危険なものなのではないかという考えは拭いきれない。そんな一誠の考えに気づいているのだろう夢桐が煙を吐きながら笑う。

 

「何、そんなキツいものじゃないさ。あの子はその神を一時的に信仰する存在となりその証として自身の血肉を渡す。神はその返礼を渡す、そういったものさ」

 

「ただその返礼を受け入れきれなかった場合は狂うか死ぬがね」と夢桐は心の中で付け加えておくが当然一誠の耳には入らない。今はまだ言わない方がいい、言うのはバカ息子がその気になってからだ。

 

煙を新たな煙で搔き消し、夢桐は吹き飛んだ定治をチラリと見て深いため息をつく。

 

「全く、お前は偶に慢心して警戒を解く癖がある。それは悪い癖だと何度も言ってるだろう……そろそろ潮時だな」

 

夢桐が定治の父親としての険しい顔つきで一誠を見据える。

 

「すまない、少し長話をしすぎてしまったね。だがそろそろ本題に入ろう。私が君をここに連れて来たのは君にバカ息子の力を見せる為、そしてアレを見た上で聞いておきたい事があったからだ」

 

夢桐が一誠の肩に手を置く、たったそれだけで一誠の身体に緊張感が走る。下手な回答をすれば自分はただですまないだろう。だが夢桐が尋ねてくるのが一誠の予想通りなら答えは最初から決まっている。例えどうなろうともこの答えを変えるわけにはいかない。

 

「キミはあの時、私の息子に追いつくと言っていたね。この私が育てたバカ息子の力はとてつもない。しかもあれでまだまだ本気じゃない。その気になればアイツは一人で一つの勢力を簡単に壊滅させるよ。そんなあの子にキミは本当に追いつけるというの「追いつきます!」ほう?」

 

肩に置いた夢桐の手に少しだけ力が入る。それだけで心臓が握られているような危機感を覚えてしまう。しかし一誠の目には強い意志が宿っている。答えを変えるつもりはない。

 

「今の俺には口約束しか出来ません。だけど、必ず、必ず俺は定治に追いつきます。俺の魂に誓ってもいいです。……それに」

 

「それに?」

 

夢桐の顔が早く続きを話せとばかりに一誠の顔に近づくと一誠は照れ臭そうに笑う。

 

「ダチに守られてばっかなのは性に合わないんですよ、俺は」

 

夢桐の顔が、手が、一誠の身体から離れ、クックッと笑う。その表情はとても穏やかなものだった。

 

「私に恐れながらも顔色を伺う事なく自分の意志を貫いたか。ああ、やはりキミは観測しがいのある子だ」

 

微笑みを浮かべた後夢桐は一誠の赤龍帝の籠手に触れる。

 

「よし、それじゃあ早速バカ息子の手助けをしてやって欲しい。ニャル子が少々やらかしたみたいで定治をこのままにさせておく訳には行かなくなった。そこで代わりにキミに白龍皇を止めてもらう。私も少しばかり協力してあげよう」

 

幾多もの小さな魔法陣が空中に展開される。魔法陣は絶えず動き続け赤龍帝の籠手が身体に馴染んで行くのを一誠は感じていた。

 

「堕天使の小僧がキミに渡したおもちゃを使って赤龍帝の籠手をより馴染ませる。感情の赴くままに動き、ドライグと息を合わせなさい。それが勝利の鍵となる」

 

「はい!わかりました!」

 

幾多もの魔法陣か赤龍帝の籠手に収められる。籠手に宿るドライグの魂が一誠とより繋がっているのを確信する。負ける気がしない。例え自分より強い白龍皇だろうが必ず勝ってみせる。

 

「行くぜドライグ!!」

 

『……おう!!』

 

Welsh Dragon Balance Breaker!!!!

 

赤龍帝の籠手を掲げドライグに呼びかける。ドライグがそれに応え籠手を起点として身体が鎧に覆われていく。

 

拳を握り、開いて感触を確かめる。赤龍帝の鎧、ライザーの時以来に発動するそれは前回より一誠の身体に馴染んでいる。準備は整った。校舎の方を見ると血反吐を撒き散らしながら怒り狂っている定治が見える。

 

何が起きているのかは今の自分には理解できないがやるべき事は分かっている。

 

「さぁ、ゆっくり息を吸って」

 

言われた通り息を吸う。力がみなぎって行く。

 

「そう、目は真っ直ぐ。敵から目を逸らさない」

 

言われるまでも無い、敵から視線を逸らすのは負けに等しい。

 

「定治から殴り方は教わっているね?ならキミがやる事は決まっている」

 

わかっています、夢桐さん。

 

「ーーーさぁ」

 

背中を押されると同時に翼に力を込める。

 

「行って来い一誠くん!」

 

「はい!!」

 

赤龍帝が親友の元へ飛翔した。

 

『(あの力……まさかあいつは……!?)』

 

その一方で夢桐の力を感じたドライグは何かに気ついていた。




ニャル子「定治さん!ルールブック本来の力を出せるようにしておきましたよ!!」



隠された5つの章
聖書の神がその危険性から消そうとしたが消せなかった為封印した章。血と魔力を注いで探す事で見つける事が出来る。これによりルールブックは本来の姿に戻るがその封印を解いたとしてもただの人間如きでは使いこなせる訳がない。

Broom,Grow,Magnolia.(咲き、輝く、威厳の花)
神をも超える精神を持つ定治がその神を信仰する契約を行う事で得られる恩恵。どんな恩恵を与えるかは神が決める為必要以上に与える場合もあればあまり意味のない恩恵を与える場合もある。恩恵を与えられる際に襲う激痛はPOW120が素で絶叫するレベル。

ミゼーア
外なる神ではないが、その強さから外なる神に分類される角の世界の王、その中でも最も強いと言われる存在。フェンリルの元となった神と言われている。

シュド=メル
クトーニアンの中でも最も大きく、強大な力を持つ。彼が起こす地震は一都市を簡単に滅ぼす事が出来る天災そのものと言える存在

クティーラ
クトゥルフの娘であり母と呼ばれる存在。クトゥルフ勢力の中でも最も最奥の秘密の存在であり彼女がいなければクトゥルフは蘇る事が出来ないと言われているとか

時間はかかりますがこの作品は好きなので更新するつもりです。

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