ハイスクールD×D―龍帝に見初められし少年   作:nica

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前回投稿した、私の稚拙な文章を読んでくれた皆様。
ならびに、お気に入り登録してくれた皆様。
ありがとうございます。
まだ原作キャラも出ていない、序章のほんの一部にすぎないのにお気に入り登録していただいてテンションがやばくなりました。
こんな小説で大丈夫かと戦々恐々でしたが、読んでくれる方々がいるので頑張っていけそうです。
仕事でネタを考える時間と文章に纏める時間が中々作れませんが、これからも細々と書いていきますので、気が向いたら読んであげてください。

さて、今回原作キャラが一人出ます。
名前は伏せてありますが、まぁ分るでしょう。出番は短いですが。




追記
2017/11/4
加筆修正を実施。
また今度追加で加筆修正を行う予定。


…………なんで本編書くよりも加筆修正する方が文章浮かぶんですかねぇ


第1話:龍とはぐれ悪魔

 薄暗い、空気が淀んでいる事がハッキリと感じられる広大な土地。普通の感性を持つ人間ならば決して足を踏み入れないであろうとある場所に一人の男が立っていた。

 背の高い、どこかチョイ悪風な風貌。この場にいるにしては場違いな着物姿だが、その着物から覗く身体は鍛えこまれているが窺える。

「やれやれ。はぐれ悪魔が暴れていると聞いて仕事サボって来たのはいいが、コイツはちっとばかし酷いな」

 眼前にある廃墟を見ながら男はそう溢す。広大な土地に一つだけ存在する廃墟。それは嘗ては大きな研究所だったのだろうと思わせる程の物だったが、今やその面影は見る形もない。自然に老朽化したものではなく、明らかに何者かの手によって破壊されたであろう事が分かる。そんな廃墟の前に散らばるのは無数の肉片や血溜まり。それはつい最近できたものではないのだろう。最早地面や壁の残骸にこびりついており、とてもではないが洗い流せるものではなかった。それらを見つめて男は顔を顰める。

「本当にはぐれ悪魔の仕業か? 怪しいが放置する訳にもいかんし、何者かは知らんが調子に乗ってくれている。仕置きをくれてやらんとな」

 男は廃墟を睨みつけながらそう言い、やがてその身を廃墟へと潜り込ませて行った。

 

 

 

 

 

 

――同時刻

 

 

 

 

 男が睨みつけていた廃墟のとある一室に、空間の歪みが発生した。その歪みは瞬間的なもので、特に周囲に影響を及ぼすものではない。そして、その歪みからは少年と少女が出てきた。稟とミラである。

 ミラは一瞬驚いたような表情をした後にすぐ顔を顰め、自身の身を下にして稟を自身よりも上にして、その背中に生えていた純白の翼で彼を護るかのように覆う。空間の歪みは数十メートルもの高さに発生しており、そのまま落ちてしまえば気を失っている稟が死んでしまうと判断した為だ。本当ならば背中にある翼で飛べばいいのだが、翼を操ろうとした時に尋常ならざる痛みを感じた為に稟の身を庇う方向へと断念したのだ。

 ミラは稟を強く抱き締め、衝撃に備えて眼を閉じる。

 そして数瞬の間を置き。

「――ッ!?」

 地面に墜落した強烈な衝撃と激痛が華奢なミラの身を奔る。そのあまりの痛みに彼女の顔は苦痛に歪むが、抱き締めた稟だけは離さないと言わんばかりにしっかりと抱えていた。

 暫く痛みに耐えた後。ミラは気を失っている稟をそっと横たえ、身体の様子を見る。いくら特殊な方法で稟の身体を保管していたとは言え、衝撃から稟の身を多少護っていたとは言え治療をしていた訳ではないし、完全に衝撃を殺せていた訳ではない。世界を移動した衝撃で傷が悪化していてもおかしくはないのだ。それに、ミラとドラゴン達を受け入れた事がどこまで影響しているか分からない。早急に治療をせねば。そしてそれと平行して。

「……クシャル。稟の治療をするから周囲の警戒とこの世界の情報収集をお願い」

 稟の身体に触れながらミラがそう言うと、稟の身体が薄らと輝く。そして光が収まると、そこには腰まで届く長い銀髪と美しい目鼻立ち、銀色の甲冑を身に纏う長身の美女が立っていた。

「周囲の警戒は承りましたが、この世界の情報収集もですか?」

「……そうよ。貴女も気付いているでしょう? この世界が放つ、肌を騒めかせるような独特な空気を」

 ミラはそう言って銀髪の美女――クシャルに視線を合わす。ミラの瞳は鋭く細められており、この世界の事を警戒していた。

 というのも、この世界は彼女達が跳ぼうとしていた世界ではないのだ。本来であれば何の変哲もない平凡な世界に跳ぼうとしていたが、世界を渡る際に強力な時空震に巻き込まれてしまった。何とか時空震には抗っていたが、その時の余波で目標にしていた座標からは大きく外れて仕方なくこの世界に跳ぶ(はいる)しかなかったのだ。長時間の世界間の移動は人である稟には大きな負担がかかってしまう。再び世界を移動しようものなら、稟はその衝撃に耐えきれず死んでしまうだろう。それだけは避けなければならない。

 そうして入る事になってしまったこの世界は、とてもではないが平穏という気配とは程遠い空気を醸し出していた。明らかな争いの匂いをミラ達は感じ取っている。稟をこの世界で過ごさせるには、あまりにも不安要素が、危険が多いと。

 これではあの世界から抜けた意味がないのだがすぐにこの世界から跳ぶのも厳しい。稟の身体の事もあるし、世界の移動というのは色々と面倒臭い制約があって大変なのだ。特に世界と共にある、ミラ達ドラゴンにとっては。

 故に、暫くはこの世界に身を置かねばならない。そしてこの危険極まりない世界にいる以上、この世界の情報は必須である。稟の安全の為にも。

 ミラの言葉にクシャルも瞳を細めて少し思案するも、そこまで時間もかけずして無言で頷く。

「了解致しました。であれば、この少年の治療と共に王。貴女も治療を。いくら我等が強靭な肉体を持つとはいえ、今の貴方様の肉体は仮初の脆弱な人間のもの。早急に治療が必要です」

「私の事はいいのよ。私なんかよりも稟が最優先。こんなものは傷の内に入らないわ」

 ミラの額には玉のような汗がいくらか浮かんでいた。その事からミラの言葉が痩せ我慢である事は明白であり、クシャルと呼ばれた女性はジト眼でミラを見つめる。

「何を馬鹿な事を。確かにこの少年の事は心配でしょうが、我等にとってはそれ以上に王。貴女様の身が大事なのです。貴女様の身に万が一の事が起きるのは好ましくない。もっとご自愛して戴きませんと」

「大丈夫よ大丈夫。いくらこの身が脆弱であろうとも、私は貴女達の王なのよ? 心配するだけ無駄だわ。それとも、王である私の事が信じられない?」

 挑発するかのようなその言葉に、クシャルは顔を顰める。こういう時のミラには何を言っても無駄である事を眷属たる彼女は知っているのだ。いくら彼女達がミラの身を案じて苦言を呈しても、ミラはそれを笑い飛ばしながらクシャル達の心配が無駄であると証明してくる。

 クシャルとてミラを信じていない訳ではないが、偶にはこちらの気持ちも汲んでほしいものであろう。まぁ、彼女の性格上気持ちを汲んでいて尚このような言動と行動を取るのだが。

実に困った王にクシャルは溜息を溢して頭を振る。

「はぁ……貴女はいつもそうだ。そうやって私達を振り回す。偶には私達を労わってほしいものです」

「善処するわ」

 善処する気が欠片もない苦笑混じりのミラの返答に対して呆れたように肩を竦め、

「そうしてくれるとありがたいのですがね。ともあれ、私は行動に移りましょう。……そこまで近くはありませんが、この廃墟内に不快な気配を複数感じます。なるべくお急ぎを」

 一礼して部屋の外へ向かう。探索と同時に外敵を駆除しに向かったのだろう。

「急ぎたいのは山々だけど、人と龍の身体の構造は違うからね。こればかりは何とも言えないわよ」

 ミラは苦笑を零すと表情を引き締める。今から稟の治療を行うわけだが、それは人間が行う治療ではない。龍の生命力を力に変換し、それを稟に注入する事で人間の生命力を活性化させ治癒力を促進させる。

 しかし、人間に龍の力を注入するのは危険だ。龍の力は強大すぎるが故に、龍以外の生物にとっては毒でしかない。龍以外の力でも、異物の力は人間にとって毒以外の何物でもないが。そしてその毒は、注入された存在の身体を蝕み死においやる。それが例え、どんなに強靭身体を持っていてもだ。だが稟ならば。ミラ達を受け入れた稟ならば、助かる見込みはある。例えそれが、数%にすぎない確率だとしても。ミラが見続けてきた、稟ならば。

「……貴女達の力も借りるわよ。後、何体かはこの世界の情報を探してきて。クシャルだけでは情報収集の手が足りないわ」

 稟の中にいる眷属達に声をかけて彼女達の生命力を力に変換させると同時、この世界の情報収集を頼む。広大な世界の情報収集は、如何に彼女達が人外といえどもそう簡単にこなせるものではない。伝説の存在である龍であれど、彼女一人では流石に厳しい。

何体かの眷属が動き出したのを感じ取ったミラは微かに頷き、稟の治療に取り掛かかろうとしとところで、

「まったく。クシャルが側に外敵がいると伝えたのですから護衛の(もの)ぐらい召喚()んでほしいものです」

 稟の身体が薄らと輝く。それは瞬き一回分程の間で、光が収まると其処には二人の少女が経っていた。

 一人は古い、古代の王族を思わせる気品と威厳溢れる衣装を身に纏った、長い青髪が特徴的な見目麗しい少女。そしてもう一人は、黒いゴシックロリータ調の服を纏った、肩までで揃えられた黒髪の愛らしい、けれど見た目とは裏腹にどこか老獪な雰囲気を纏わせる少女。

「……ラオ、ナナ」

 いきなり現れた二人の少女に驚く事なく、ミラは二人の少女の名を呼ぶ。

「ラオの言う通りですぞ、我等が王。貴女様の力は強大といえど、我等はこの世界の事をまだ知らぬのです。慢心してはなりませぬ。それに、少年の治療に集中するならば外敵の対応が疎かになってしまいます。それでは万が一が起きるやもしれませぬぞ」

 見た目とは裏腹にどこか年寄り臭い話し方の青髪の少女――ナナは呆れた表情でミラにそう言う。黒髪の少女――ラオもそれに頷き、ナナと同じく呆れた表情でミラを見ている。

「こうして我等が現れなければ誰も召喚ばなかったのでしょう? 王の悪い癖です」

 やれやれと溜息混じりにそう言うラオの言葉にミラは眉を顰め、

「今小言は聞きたくないわ。それに、別に護衛なんて……」

「この世界の事をまったく知らないのに? 治療中は索敵能力も、防衛手段も制限されるのに? 近くに外敵がいるのに? その数も、力もまだ判然としていないのに? それでも護衛がいらないと? 些か油断しすぎではありませんか?」

「むぐ……」

 ラオの淡々と述べられる事実に口を紡がざるをえないミラ。彼女の言葉が正論であるが故に反論できない。油断などはしていないが、そう取られてもおかしくはないのだ。

「そもそも王は――」

 まだ説教のネタがあるというのか。そこから再び口を開こうとするラオだが、

「ラオもそこまでにしてやれ。(ぬし)の気持ちは我等の総意でもあるが、今ここで説教するのもよくないであろう」

 それを見兼ねたナナが苦笑混じりにラオにストップをかける。

「む。ですがナナ……」

「王への説教は後にして今はやるべき事があろう。この少年が大事なのは王だけではなく妾達も同じなのじゃからな。情報収集は他の龍達に任せ、妾達は勝手に王を護衛するとしようぞ」

「仕方ありませんね。少年の事もありますし説教はまた後程にするとしましょう。護衛は勝手に致しますので、王は早急に治療へ移って下さい」

「貴女達……」

「ところでナナ。クシャルが言っていた外敵はどうしていますか?」

「ふむ……放った炎によれば真直ぐに此方に向かって来ておるの。まだ距離はあるが、そう時間はかかるまい。治療が間に合うか微妙なところじゃな」

「……出ますか?」

「そうしたいが、王のお守もあるからのう。二手に分かれるのがいいかもしれんが……」

 ナナとラオの言い草に物申したいミラであるが、彼女達はそんなミラを気にする事なく勝手に話を進めてしまい、挙げ句の果てには王であるミラを無視して話し合う始末。しかも、何気にミラに対して失礼な事を言っている。本当にミラは彼女達の王であるのかと疑いたくなる言動である。

「貴女達……後で覚えていなさいよ」

 無視されたミラは額に青筋を浮かべるが、いい加減に稟の治療をしなくてはならないので折檻は後にする事にした。その代わりに、事が終わったら必ず彼女達を泣かすと内心で決めながら。

 ミラは気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸すると、抱えている稟を見つめる。一応呼吸は落ち着いているようだが、いつ容態が悪化するかは分からない。彼女は首を横に振り、変換してから放置していた力に自身の生命エネルギーを注ぐ。その力は眼に見えるものではないが、確実にミラの手の中で渦巻いている。後はこれを稟に注入するだけ。そうすれば、稟は助かる筈だ。

 しかし、不安は拭いきれない。もし万が一。稟が耐えきれなければ……

 その事がミラを躊躇させるが、彼女は意を決し。

「……っ」

 稟に力を注入した。その瞬間、稟の表情が苦痛に歪む。ミラは慌てて力を弱めるが、稟の表情が和らぐ事はない。

 ミラの表情が不安に揺らぐが、今更後には引けない。もう力を注いでしまったのだ。稟の潜在能力を信じるしかない。ミラは祈りながら力を注入し続ける。

 

 

 

 

 力を注いでからどれぐらいの時間が経ったのだろうか。長い時間がすぎたようにも感じるし、まだ十数分しか経ってないようにも感じる。治療に集中しすぎて時間の感覚が分からない。外に向かったクシャルがまだ戻ってきていないし、ラオとナナもあれから変わらず此処にいる為にそこまで時間は経ってないのかもしれないと思う。

 額に浮かんだ汗を拭いミラは稟の身体を観察する。力を注入した最初こそは稟の表情は苦痛に歪んだが、今では少しだけ穏やかな表情を浮かべている。傷の方も完全ではないが、見るに堪えなかった傷の数々は多少なりとも塞がってきている。徐々にではあるが、ミラ達龍の力に稟の身体が適合しているのだろう。驚くべき事ではあるがミラにとっては嬉しい事である。自身がこの少年を見初めた事は間違いではなかったのだと、改めてそう思えるから。

「…………?」

 しかし、感傷に浸れる余裕は許されなかった。

 微かではあるがこの建物全体が揺れ、どこか遠くで激しい破壊音が響いている。人間には知覚できないが、彼女にとってはそれを察知する事は容易な事だ。

 そして、振動が徐々に強くなっていく。

「ナナ……」

「分かっておる」

 険しい表情で言葉を交わすラオとナナ。

 彼女達が天井を睨むのと、この建物が崩壊するのではないかと思わせるほどに振動が一際強くなったのは同時だった。

その僅か数秒後。

 ミラ達がいる部屋の天井が爆発し、その無数の破片がミラ達目掛けて崩れ落ちてきた。

 ミラは稟を抱き抱えてその場を離れようとするが、それより速く回り込んだラオによって稟共々抱えられて飛来物の範囲から離脱させられた。

それを一瞥したナナは右腕を掲げる。すると、彼女の右腕を覆うかのように炎が発生しその炎は螺旋を描く。

「燃え尽きよ」

 ナナはそう呟くと、無造作に右腕を迫り来る飛来物へ向けて振るう。その腕の動きに釣られるように、彼女の腕を覆っていた炎は飛来物へと向かって行った。

 全てを焼き尽くさんと、激しく燃え上がりながら飛来物へと突き進む炎。それは、広範囲に散った瓦礫を逃がさんとばかりに呑み込み、己が熱でもって消し去っていく。

 しかし――

「む……?」

 その炎は全ての瓦礫を燃やせず、燃やし尽くされなかった瓦礫はその身に炎を纏いつつミラと稟が最初にいた場所、及びナナの下へ殺到する。

 ナナはその瓦礫がミラ達に危害を加える距離かどうかを確認する。幸い、ラオが彼女達を抱えて避難した為に彼女達は瓦礫に巻き込まれる心配がない事が分かり、ナナはその身に炎を纏わせて後方へと飛び退く。

 加速していく崩壊。既にボロボロであった廃墟は、その姿を更に惨めな姿へと変貌させていく。崩壊の影響で砂塵が舞い上がる部屋。天井が崩れた部屋の中心部を睨みつけ、ミラ達は警戒する。

『げへげへげへ。美味そうな匂いにつられて来てみればいい獲物がいるじゃないか』

 砂塵から現れた姿は異形の怪物。醜悪な姿の化物。下半身は蜘蛛の形をしているが、上半身がおかしすぎる。様々な生物の身体の一部を繋ぎ合わせたかのような継ぎ接ぎだらけだ。

 その化物は、絶望に歪んだ男の頭を貪り食いながら下卑た笑い声を上げる。

『餓鬼も美味そうだが、女。お前達からは極上な匂いがするぞ。お前等を喰えば、俺も化けるかもしれんな』

 喰っていた男の頭を吐き出し、化物は舌なめずりしながらミラ達を見つめる。その不愉快極まる視線にミラ達は顔を顰める。

「醜悪な化物が。今此処で滅してくれようか」

「随分と下らない真似をしてくれたものです。我等が王を前にその不遜な態度。下郎、死ぬ覚悟はいいですか?」

 ミラと稟を庇うように彼女達の前に立つナナとラオは、化物を冷めた眼で見ながら警告する。しかし、化物はその警告に怯む事もなく逆に笑みを浮かべて、

『げははははははは!! 強がるなよ女。お前等からは確かに強い力を感じるが、その餓鬼ともう一人の小娘を庇って俺と戦うのか? それに――』

 崩れた天井を見上げる。薄暗い空が見えるだけで、特に何かがある訳でもないが。

「……っ!? ナナ! ラオ!」

『此処にいるのは俺一人じゃないんだなぁこれが!!』

 ミラの叫びと、化物の声がするのは同時だった。何の変哲もなかった空と、恐らくは入り口であったのだろう場所から無数の黒い影が出現。そこから無数の異形が現れた。空想(ファンタジー)世界でよく見るような、人が悪魔と呼ぶような存在達が。

「ちっ……クシャルが警告していたが、どこにこれだけの数が」

「所詮雑魚の群れ(うごうのしゅう)でしょうが、この状況下でこの数は煩わしいですね」

 多数の悪魔の姿にナナとラオは忌々しそうに舌打ちをする。

『俺の一人占めに出来ないのが残念だが仕方ないか。さぁ! お前たち喰ってやるぞ女共おおおぉぉっ!!』

 叫び声を上げながら突っ込んでくる化物。それに連動するように空から、入り口から無数の悪魔も進行してくる。その集団に秩序だった動きはなく、本能のままに行動していた。  

 彼女達にとって悪魔達個々の力と数は特に問題視する事もない。いかに悪魔の数が多かろうが、所詮知能もない無能な雑魚の群れ。本来であれば苦戦などしよう筈もない。例え視界を埋め尽くすような数であろうともだ。

 しかし、今の状況はそうはいかない。彼女達の後ろには守るべき(もの)がいる。稟の容態は世界を跳んだ時に比べれば少しマシになったようだが、完治とは程遠い。此処で再び傷を負えば死んでしまいかねない。それにドラゴン(ミラたち)の存在もある。ミラだけであればあまり負担はなかったかもしれないが、他に三体もの龍が顕現している。いかに彼女達の存在を受け入れているといえど、彼の負担は尋常なものではなかろう。あまり時間もかけられず、また、問答無用に力を解放して悪魔を殲滅するのもマズイ。恐らく苦戦は必須だろう。

「王はそこで少年とお待ち下さい。この下郎共は我等が殲滅致します」

「王は少年の事だけを見ておりなさいませ。貴女様の手は煩わせませぬ」

 しかし、彼女達の表情に迷いはない。如何にこの状況下が厳しいものであれ、彼女達は超常の存在。ミラの眷属。この程度で躓くものではない。

『獲物の分際で粋がるんじゃねえぞおおおお!!』

「ふん、下郎が。獲物がどちらかその身に刻んでやろうぞ」

「化物風情が我等の王を狙うとは、何とも愚かしい事か。その罪万死に値する。その身に己が罪を刻んで死にゆきなさい」

『小娘が吼えるな! 俺の糧となれええええええええええええぇぇ!!!!』

 少女達と悪魔が激突する。

 その結果は――

 

 

 

 

 

 一方、ミラと別れたクシャルもまた無数の悪魔と戦っていた。否。それは戦いと呼べるものではない。一方的な殲滅が行われていた。

「我が王の下に馳せなければならないというのに、飽きもせずにわらわらわらわらと!滅しなさい!!」

 風を身に纏い宙に浮いているクシャルは、そう叫んで凝縮していた力を放つ。解き放たれた力は螺旋を描きながら集まっていた悪魔達を吹き飛ばす。しかし、いくら悪魔を吹き飛ばそうがそのすぐ後には再び新たな悪魔達が集まって一向に敵の数が減らない。

 ミラ達の所にいる悪魔のように、知恵がありそこそこ力を持っている悪魔はいないのだが、ゲル状の悪魔やゴブリンといった数だけは多い悪魔が大半だった。いくらクシャルが強大な力を誇る龍種とはいえ、こうも敵の数が多ければ殲滅にはかなりの時間を要してしまう。

「くっ。惰弱な悪魔の分際で梃子摺らせてくれるとは。このまま数に押されるわけにはいかないというのに」

 次から次へと湧いてくる悪魔に舌打ちし、クシャルは苛立たしげに吐き捨てる。そして、無駄だとは分かっていながら再度悪魔達に力を放とうとして。

「こいつは驚いた。雑魚悪魔が群がって何かと戦う気配を感じたからこの場にきてみたら、綺麗な嬢ちゃんと戦っているとはな」

 突然着物姿の男が現れた。男は悪魔の群れとクシャルを見比べると、胡散臭い笑みを浮かべる。悪魔と戦う女を見ても平然としているとはただの男ではないのだろう。ならば、この悪魔達の統率者か。

 クシャルは男を睨みつけ臨戦態勢をとる。それに気付いた男は苦笑を浮かべ、

「あ~、俺は別にお前さんの敵じゃねぇよ。寧ろ味方なんだが……とは言ってもそんな事を信じる阿呆はいないか」

 男の言葉に纏っている風を鋭くする事で答える。

クシャルに近付こうとしていた飛行できる悪魔は、その鋭い風で細切れにされて落ちるがすぐに補充される。

 その光景に男は苦笑を深める。この言葉で信じてもらえるなど、男は勿論考えていない。寧ろこの言葉を信じるような輩がいればそれは、頭にお花畑ができあがっている能無しであろう。

「まぁ、俺は俺で勝手にやらせてもらうぜ?この悪魔共には仕置きをくれてやらないかんからな」

 男はそう言うと、背に黒き翼を十二枚展開する。その翼は、常闇よりなお昏い。

「…そうか。貴様、堕天使か」

「…あぁ。そういうお前さんはドラゴンか?俺が知っているドラゴンとは感じが違うが、感じる力の波動はドラゴン特有のものだ」

「……ふん。少しは知識を有しているようだが答える義理はない」

 クシャルは傲然と言い放ち、男から視線を逸らす。どうやら男が自分の敵にはならないと理解したらしい。そのまま再度悪魔達を蹴散らしにかかる。

 依然として悪魔達の数が減る様子が見えないが、彼女はそれを気にすることなく力を放ち続ける。風の刃で悪魔の身体を引き裂き。空気を凝縮させた螺旋を描く弾丸で、悪魔の身体を粉微塵に吹き飛ばし。無数の竜巻を発生させてその身体を呑み込んでいく。その猛威に数が頼りの悪魔達も押されはじめる。

 今までもクシャルの攻撃は猛威を振るっていたが、そこには微かに力の温存の意思が見えていた。しかし、味方とは断言できないが堕天使の男の登場で力を温存する気がなくなったようだ。クシャルの力はより強大となり、為す術もなく悪魔達を屠る。

 その暴れっぷりに男は呆れながらも、自身の為すべき事の為に眼前の悪魔達を見据える。

「さて、はぐれ悪魔風情が随分とまぁ粋がってくれたものだな。俺等の領域で暴れた事、後悔して消えろ」

 慈悲のなき、絶対零度の瞳。男の怒りに呼応するかのように、男の身の丈を超えるいくつもの光の槍が周囲に顕現する。

「貴様等には勿体ない死に方だ。誉と思え」

 男が手を振り下ろすと、無数の光の槍は悪魔達に襲い掛かった。

 

 

 数十分後。

 無限ともいえるほどにいた悪魔達は消え去り、今この場にいるのはクシャルと着物姿の男だけだった。

 男は飄々とした笑みを浮かべてクシャルを見やり、クシャルは纏っていた風を消してはいるが冷めた瞳で男を見据える。

「………取り敢えず、助太刀してくれた事には礼を言う。だが、お前を信用している訳ではない事を理解しておけ、堕天使」

「気にするな。俺がお前さんの立場ならそう簡単に俺を信用しない事は理解できる。ただまぁ、ドサクサに紛れてよく俺を攻撃しなかったな?」

「ふん。悪魔と堕天使の関係ならば私とて理解している。それに、貴様の眼は腐っていないからな。胡散臭くとも嘘を吐いていない事くらい分かる」

「……そうか」

 傲然とした口調こそ変わらないが、どこか警戒心が抜けたかのように話しかけてきたクシャルに内心で驚く男。

 男が知るドラゴンという種族は自らを至上の存在とし、他種族を見下す傾向が強い。強大な力を持つが故に他の生物とは一線を画しており、そうなるのも仕方ないのだが。だがクシャルは、そんなドラゴンとは違う雰囲気を醸し出している。

「私は王の下に馳せなければならん。さらばだ堕天使よ」

 再びその身に風を纏うと、クシャルは男の返事を聞かずに翔ける。悪魔を殲滅した後は落ち着き払った態度だったが、内心では相当焦っていたのだろう。男の視界から数秒と経たずにクシャルの姿は消えた。

「…俺もお前さんが向かった方に行くんだがね」

 男は頭を搔き、クシャルが向かった方角へと足を向ける。

 

 

 

 

 『…あ、ぎ?あgggg』

 クシャルと堕天使の男が悪魔の群れを殲滅し終わった時。ミラ達の方も悪魔の殲滅が完了していた。

「ふん。所詮は数で攻めるしか脳がない下郎。妾達に勝てると思った浅はかさを悔いるがよいわ」

 青髪の少女―ナナはそう言って返り血が付いた左手を振るう。

「所詮は力なき下郎です。いい教訓になった事でしょう」

 ナナの溜息まじりの言葉に、黒髪の少女―ラオはそう返し、足元に転がっていた悪魔の頭を踏み砕く。悪魔の血がラオに付着するが、彼女はそれを気にも留めず周囲を見渡す。

 辺りは死屍累々。屍山血河と評するのが相応しいものだった。

 四肢が引き裂かれた者。頭と胴が別々になった者。頭が切り裂かれ、胴体には空洞ができている者。胴体を細切れにされ、頭部を叩き割られた者。眼球を抉られ、磔にされた者。全ての悪魔達が描写に筆舌しがたい死に方をしている。たった一体。ミラ達を喰らおうとした悪魔以外が。

 その残された悪魔は炎の槍を中心部に突き刺され、壁に縫い付けられていた。蜘蛛の形をした下半身は細切れにされ、醜悪だったツギハギだらけの身体は、辛うじて頭部と胸部と判る個所以外は全て引き裂かれ、抉り取られ、砕かれている。

 そんな無残な姿へと変わり果てた悪魔を一瞥し、ナナとラオはミラへと振り返り、

「申し訳ありません。王よ。私の力が未熟なばかりに、下郎を数匹通らせてしまいました」

「申し訳ありませぬ。如何なる罰でも受ける所存です」

 跪いて首を垂れる。そんな二人に、ミラは苦笑する。

「顔を上げなさい。こればかりは仕方ない事よ」

「ですが…」

「こうなったのは貴女達のせいではない。稟がそうしたからよ」

 反論しようとしたナナを手で制し、ミラは抱いている稟を見つめる。稟の身体にあった無数の傷は、ミラの力により大分癒えているが、背中には真新しい傷が出来ていた。鋭利な刃物で傷付けられたかのような傷が。その傷は、稟がミラを庇った為に出来上がった傷。稟の治療に集中していた為に悪魔の接近に気付けず、振り下ろされようとしていた凶刃からミラを庇った為に出来た傷。偶然にも目を覚ました稟が、ミラを護る為に受けた傷。

 その傷を愛おしそうに撫で、ミラは悲しげな瞳で稟を見つめている。新しい傷を負った稟は苦しそうな声を漏らしているが、その表情はどこか、満足しているようで。

『g、gggぎざ、まらあああ』

稟を見ていた三人の耳に、不快な音が響く。煩わしそうに三人がその音の発生源に眼を向けると、まだ辛うじて生きている化物が睨みつけてきていた。

『よ、よぐも、ごにょ…おれざばヴぉぉぉ』

「呆れました。その傷でまだいきていられるとは」

「しぶとさだけは大したものじゃな。じゃが、いい加減目障りじゃ」

 ラオは溜息を吐いて頭を振り、ナナは掌から炎を顕現させる。顕現した炎は周囲を焼き尽くさんと言わんばかりに轟々と荒れ狂っている。ナナはその炎を化物に向け。

「疾く死ね下郎」

 冷酷な火を灯した瞳で言い放つ。

 主からの命を受けた炎はその身をうねらせ、獲物に颯爽と襲い掛かる。轟々と荒れ狂い、周囲の悪魔の残骸を呑み込み、一直線に化物へと向かって。

『あ?ぃg?gい、あ…あ…gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!??!?!?!』

 灼熱の炎に包まれた化物は、その顔を苦痛に歪め絶叫を上げる。その苦痛から逃れんと、必死に頭部を暴れさせる化物だが、炎の槍で磔にされ四肢もないその身で逃れるなぞ到底不可能な話で。

『―――ッ!!?!?!??!?!』

 身の程を弁えず、龍の逆鱗に触れた愚かなる化物は炎に焼かれその身を消滅させる。その存在など、最初からいなかったかのように跡形もなく。周囲に散らばった肉片ごと全てを。

「どうやら、こちらも無事だったようね」

 化物の消滅と同時。クシャルが戻ってきた。

「随分と遅かったですね、クシャル?」

 クシャルの姿を認めたラオがそう溢す。それにバツが悪そうに顔を顰め、

「すまない。膨大な悪魔の群れに梃子摺り救援にこれなかった」

 すまなさそうに謝罪するクシャル。その顔は自身の無力さに嘆いているようで。

「気にしないでいいわ。貴女が外の悪魔に対処してくれたからこの程度ですんだのだし」

 そうクシャルを気遣うように言ったのは、稟を抱いたままのミラだった。ミラは稟を抱いたままクシャルに歩み寄り、優しげに微笑む。

「そう自分を責める必要はないわ。貴女は己の責務を十分に全うしてくれた。だから顔を上げなさい」

「……そのお気遣い。ありがとうございます。我が王よ」

 クシャルの言葉に満足気に頷き、ミラはラオとナナに顔を向ける。

「貴女達もよ。内心で自分を責めすぎないで。そんな事、稟は望んでなんていないわ」

 ナナとラオは互いに顔を見合わせ苦笑すると、ミラへ視線を向け頷く。ミラはそれに微笑み、稟の髪を優しく撫でる。その表情は慈愛に満ちていて。

 クシャルとナナ、ラオは、そんな二人を眩しそうに見つめる。そして、胸中で誓を立てるように眼を閉じる。今回のような不様は二度とさらさないと。王(ミラ)と『小さき王(りん)』には、誰にも触れさせないと。

 周囲の状況に相応しくない、そんな穏やかな空気が流れている所に。

「俺が手を下す前に、もう終わってたか」

 男の声が響いた。

 

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