モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜   作:オリーブドラブ

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◇今話の登場ハンター

◇バンホー
 ルトゥ村出身の竜人族であり、黒いリオレイア「リルス」を相棒(オトモン)としているライダーでありながら、ハンターでもある青年。上位ハンターになるための昇格試験に備えて武器を鍛えるべく、一流の加工屋・ジェマを訪ねて旅をしていた。武器は朱鬼銃槍を使用し、防具はリオソウルシリーズ一式を着用している。当時の年齢は75歳。
 ※原案はscp-114514先生。
 ※scp-114514先生が執筆されている3次創作作品「Monster Hunter Reincarnation(https://syosetu.org/novel/310602/)」における主人公の1人。

◇ギルドナイトのハンター
 ギルドナイツに所属しているという旅のハンター。仲間達との合流を目指して旅をしている途中、雪山でバンホーと出会う。武器はバーンエッジに似た片手剣を使用し、防具はギルドナイト装備一式を着用しているようだが……? 当時の年齢は20歳。



霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の零

 

 後の世に「宝玉世代」と呼ばれ、語り継がれて行く稀代のハンター達。若かりし日の彼らは上位ハンターへの昇格を賭けた試験に臨むべく、各々の装備を鍛えようとしていた。

 

 ルトゥ村出身の竜人族であり、生態に謎が多い黒のリオレイア「リルス」を相棒(オトモン)にしているライダーでもある青年――バンホーもその1人。彼は相棒と共に、旧知の加工屋・ジェマの元を訪ねようとしていた。

 聞くところによると彼女は近々、ハンターズギルドによって新たに創設された「禁足地調査隊」に配属されることになるらしい。未知の領域を調査するという重要な任務。その一翼を担う彼女の技術には、誰もが期待しているのだ。それは彼女の知人であるバンホーも例外ではない。

 

 優れた加工技術を持つジェマならば、必ず今後の役に立つ武器を作ってくれるはず。その可能性に望みを託したバンホーとリルスは最短ルートでジェマに会うため、ユベルブ公国領内の雪山を渡っていた。

 しかし、その旅の道中。休息を取るため、吹雪を凌げる洞窟へと身を寄せた彼らに――かつてない「危機」が訪れてしまったのである。

 

「ちくしょうッ……! なんだってこんなところに、あんなヤバい奴がッ……!」

 

 傷だらけになったリオソウルシリーズの防具と、満身創痍の身体を引き摺るように。バンホーは負傷したリルスと共に、ふらつきながら洞窟の中を彷徨っていた。彼がそれまで愛用していた朱鬼銃槍も、竜撃砲を撃ち過ぎたためか銃身が焼き付いており、槍の部分もかなりの刃零れを起こしている。

 

 暗闇の中、傷を押して洞窟内を進むバンホーとリルス。彼らの背を追うように、ぬるりと妖しげに蠢いている影。その正体は、奇怪竜の異名を持つ盲目の飛竜種――フルフルであった。

 彼の竜は異名通りの奇怪な鳴き声を上げて翼を広げると、一気にその場から飛び上がって来る。そして全身に青白い電光を纏いながら、バンホーとリルスの前に舞い降りるのだった。

 

「……ッ! く、くそッ……!」

 

 その容赦のない「追撃」に、バンホーは兜の下で唇を噛み締める。

 

 ――フルフルは火属性が弱点であり、バンホーにとってもリルスにとっても、普段なら決して遅れを取るような相手ではない。これ以上の危険なモンスターなど、これまでいくらでも狩って来たのだ。

 

 しかしそれは、下位という限られた領域の中での話。

 今、バンホー達の目の前に現れているのは――G級(マスターランク)個体のフルフルなのだ。如何に種族や相性の面で優っていようとも、その差を覆すほどの暴力を振るわれては為す術がない。

 

 凄まじい潜在能力を秘めた特殊なリオレイアであるリルスといえども、下位相当の力量(レベル)ではG級個体の強靭さには遠く及ばない。それは下位装備しか持ち合わせていないバンホーも同様であり、属性面での優位性を以てしても覆せないほどの力の差に、圧倒される一方となっていた。

 休息のために身を寄せた洞窟の中で、よりによってG級個体と遭遇してしまう。ハンターとして、これ以上の不運は無いだろう。並のハンターならばこの時点で命運が尽き、モンスターの餌となる結末だ。

 

「……リルスッ! こいつは俺が引き付ける……! お前だけでも……ルトゥ村に、生きて帰るんだッ!」

 

 そのような命令を、相棒が聞き入れるはずがない。そうと分かった上で、それでもバンホーは吼える。血反吐を吐きながらもリルスを庇うようにフルフルの前に立ちはだかり、朱鬼銃槍の大楯を構える彼は、己を犠牲にしてでも相棒を守り抜こうとしていた。

 だがやはり、リルスはその場から一歩も動かない。それどころか主人であるバンホーを守ろうと、身を乗り出そうとしている。どちらも、大切な相棒を決して見捨てようとはしない。しかしこれでは、共倒れを待つばかりだ。

 

 そんな彼らを嘲笑うように、フルフルはとどめの電撃ブレスを吐き出そうと大きく上体を持ち上げた。死を覚悟したバンホーは腰を落とし、なんとかリルスへの直撃だけは避けようと大楯を構える。

 

 ――だが、次の瞬間。

 

「……ッ!?」

 

 口腔から電撃ブレスを放とうとしたフルフルの横っ面で、何かが勢いよく弾けた。その直後、辺り一帯に奇妙な異臭が広がって行く。

 その強烈な臭いは、視覚の代わりに嗅覚が発達しているフルフルにとっては特に「有効」だったらしい。もがき苦しむように暴れ回り始めた奇怪竜は、バンホー達を放置して明後日の方向へと走り去ってしまう。

 

「今のは……こやし玉、か……!?」

 

 辺りに漂う臭いとフルフルの反応から、この現象の正体に気付いたバンホーがハッと顔を上げる。すると、別のエリアに繋がる通路から人の足音が響いて来た。

 どうやら、この場に居合わせた他のハンターがフルフルにこやし玉を投げ当てていたらしい。聞こえて来た足音の方向に振り向いたバンホーは、助太刀に現れたハンターと対面し――その装備に目を丸くする。

 

「……よっ、危なかったな。まさかこんなところにまでG級個体が逃げ込んで(・・・・・)いたなんて、おいらも驚いたよ」

「あ、あんたは……ギルドナイト……!?」

 

 優雅な羽帽子が特徴のギルドナイト装備。その整然とした防具とは裏腹に、気さくな佇まいで片手を上げているハンターは、飄々とした様子で会釈している。その腰には、バーンエッジによく似た片手剣が装備されていた。

 

 ◇

 

 その後。フルフルと遭遇したエリアから離れたバンホー達は、別の場所でリルスの手当てを行い、一時休息を取っていた。再びフルフルに奇襲される可能性を考慮して、2人のハンターは常に武器を握ったまま腰を下ろしている。

 

「……そうか。それで君は相棒(リルス)の謎を解明するために、ハンターとして世界中を旅しているんだな」

「ああ。そのためにも、まずは俺自身の行動可能圏を広げなきゃいけない。だから何としても、次の昇格試験で上位に上がりたいんだ」

「なるほどな……。それにしても、ジェマはいつの間にか大出世してたんだなぁ。禁足地調査隊なんて、凄く名誉なことじゃあないか」

「なんだ、あんたもあいつに会ったことあるのか?」

「おいらも同期の皆も、何年か前に世話になったことがあるんだよ。彼女が作ってくれた武器じゃなきゃ、勝てない戦いが幾つもあった。君が彼女を頼るのも分かるよ」

 

 共に死地に身を置くハンターとして通じ合うものがあったのだろう。ギルドナイト装備のハンターと早々に打ち解けたバンホーは、オトモンであるリルスのために世界中を旅している自身の経歴を語っていた。

 ギルドナイト装備のハンターは、そんな彼の話にも静かに耳を傾けている。ライダーの文化はその性質上、ハンターに理解されるケースが非常に少ない。多くのハンターにとって、モンスターとは狩るべき敵でしかないからだ。

 

 そんな中でもこのハンターは、バンホーの言葉を一切否定することなく、彼の価値観を受容している。その佇まいに、ライダーという身分を持つバンホーもいつしか心を許していたのだろう。リルスも初対面の自分に敵意を持たないハンターの存在を珍しく思っているのか、彼をまじまじと観察している。

 

「しかし……ギルドと書士隊が『黒いリオレイア(アンノウン)』の生態を研究してる……って噂は聞いたことがあったけど。実物を見てみると、確かに他とは違うのが分かるな。特に……眼だ」

「眼?」

「あぁ。人を獲物と捉えている色の眼じゃない。共に生きて行く仲間だと、そう思ってくれている色の眼だ」

 

 自分をじっと見つめているリルスの瞳と視線を交わし、ギルドナイト装備のハンターはふっと口元を緩めている。羽帽子を深く被っているため素顔は確認出来ないが、その口元や輪郭を見る限り、かなりの美丈夫であるようだ。

 そんな彼の言葉に微笑を浮かべるバンホーはふと、とある「同期」の顔を思い出していた。共に上位を目指して切磋琢磨して来た、1人の双剣使い。その女ハンターも、このハンターと同じような言葉でリルスの存在を受けて止めていたのである。

 

「……そうかい。ギルドナイトにも、あんたみたいな変わり者が居るんだな。俺の同期のイノシシ姫も、似たようなことを言ってたよ」

「イノシシ姫?」

「へっ……悪い悪い、こっちの話だ。それより、これからどうする? あんた、あのフルフルを狩りに来たのか? とてもそのための装備には見えないが」

 

 猪突猛進が鎧を着たような、向こう見ずの跳ねっ返り。そんな「イノシシ姫」ことクサンテ・ユベルブのことを思い出していたバンホーの言葉に、ギルドナイト装備のハンターは小首を傾げている。

 その一方で、バンホーは彼の装備に訝しげな視線を向けていた。彼が纏っている煌びやかなギルドナイト装備は、とてもではないがこの場に相応しい防具とは言えない。火属性の片手剣は持っているようだが、あのフルフルに対抗するには些か頼りないように感じる。

 

「いや、おいらも仲間達(・・・)と合流するためにこの雪山を通っているところだったんだ。もちろんギルドにはあいつのことを報告するつもりだけど、まずは君達が無事にこの山を越えることが最優先だな」

 

 ギルドナイト装備のハンターとしても、この場でフルフルを倒す予定ではなかったのだという。どちらも旅の途中であり、依頼(クエスト)としてこの雪山に訪れたわけではない。無理に戦う必要もない以上、とにかくこの場からの生還を最優先するべきだろう。

 

「するってぇと……上手いこと奴を『撃退』して、この洞窟から脱出することが目的……ってことだな。リルスにこれ以上無理はさせられねぇし、なんとか俺達でっ……!?」

 

 その結論に達したバンホーが、意を決したように朱鬼銃槍を杖代わりにして立ち上がった瞬間。物陰に潜んでいた怪しい陰が蠢き――瞬く間に飛び込んで来る。

 

「バンホーッ!」

「うぉあッ……!?」

 

 そこへ咄嗟に飛び込んだギルドナイトのハンターは、バンホーを庇うように自身の盾で防御する。しかし片手剣用の小さな盾では、G級個体であるフルフルの突進を受け切ることは叶わなかった。

 ハンターの身体はそのまま紙切れのように吹っ飛ばされ、洞窟の岩壁に激突してしまう。あまりの衝撃に天井の一部が崩れ落ち、ハンターはそのまま落石で生き埋めにされてしまった。

 

 ギルドナイト装備の防御力では、恐らく助からないだろう。仮に一命を取り留めたとしても、まず戦える状態ではない。不意打ちの突進でハンターを吹き飛ばしたフルフルは、勝ち誇ったような咆哮を上げていた。その反響で、何本もの氷柱が降り注いで来る。

 

「くッ……! この野郎ぉおぉおッ!」

 

 だが、バンホーを突き動かしたのは恐怖ではなく――仲間を倒された怒りであった。彼は敵わぬ相手と知りながらも引き下がることなく、朱鬼銃槍の切っ先をぶつける。

 しかし度重なる酷使によって磨耗していた刃では、皮や肉を裂けてもG級個体の「命」にまでは届かず。フルフルが大きく身を捩った瞬間、根元からバキリとへし折られてしまった。

 

「く、そッ……!」

 

 そして、悔しげな声を漏らすバンホーにとどめを刺そうと。フルフルはその全身から、電撃を解き放とうとする。装備を展開している今の体勢からでは、回避など到底間に合わない。戦いを見守っていたリルスが声を上げる中、バンホーは再び死を覚悟する。

 

 ――だが。その運命は、またしても捻じ曲げられた。

 バンホーの脇を抜き去るように突き出された火属性の刃が、フルフルの肉を一気に切り裂いたのである。激しい鮮血が噴き上がった瞬間、悲鳴を上げたフルフルは電撃を中断してのたうち回っていた。

 

「なッ……!?」

「……まだ、諦めるには早いぜ。バンホー!」

 

 バンホーの隣で片手剣を突き出していた、ギルドナイト装備のハンター。彼は戦闘不能どころか、全く消耗していない様子で戦線に復帰していたのだ。

 あまりに予想外なタフネスに驚愕するバンホーは、ハッとした様子で彼の装備を観察する。ハンターが纏っていたギルドナイト装備は、先ほどのダメージでボロボロに擦り切れていた。

 

 しかしその内側(・・)からは、燃え盛るような赤い鎧が覗いていたのである。それはまさしく、バンホーのリオソウルシリーズに似た形状の鎧――レウスシリーズであった。

 

(まさか、あのギルドナイト装備……重ね着(・・・)だったのか!?)

 

 そこでバンホーはようやく、ギルドナイト装備であるはずの彼が先ほどの攻撃から生き残っていた理由を悟る。このハンターが纏っていたギルドナイト装備は、外見をそのように見せているだけの「重ね着」だったのだ。

 そしてG級個体の突進を食らっても平然としていることから、ただのレウスシリーズではないことも明らか。そんなバンホーの推察通り――このハンターが纏っていたのは、G級素材から作られたレウスXシリーズだったのである。

 

「さぁバンホー、勝ちに行こうぜ!」

 

 バーンエッジに似たG級の火属性片手剣――イフリートマロウG。

 その赤い刃をフルフルの身体から勢いよく引き抜き、ハンターはバンホーを勇気付けるように声を張り上げる。ボロボロになったギルドナイト装備の「重ね着」を一気に破り捨てた彼は、レウスXシリーズの荘厳な全貌を露わにしていた。

 

「……おうッ!」

 

 そんな彼の激励に応えんと、バンホーも力強く立ち上がっていた。このハンターの真の実力に気付いた彼は、自分も負けてはいられないと好戦的な笑みを浮かべる。

 

 勢いを取り戻しつつある2人のハンター。彼らを前にしたフルフルは怒りを剥き出しにして、電撃ブレスを連発していた。その青白い雷弾を左右に転がってかわしながら、レウスXのハンターは距離を詰めて行く。

 そして弱点である火属性の斬撃を、矢継ぎ早に叩き込んで行くのだった。しかしフルフルは悲鳴を上げながらも全身に雷光を纏い、ハンターを退けようとする。どうやら彼の片手剣だけでは決定打に欠けるようだ。

 

(やはり弱点特攻と言っても、片手剣では決定打に欠ける……だが!)

 

 それでも、レウスXのハンターに動揺の色はない。フルフルが彼に気を取られている間に――背後から接近していたバンホーが、竜撃砲の発射体勢を整えていたのだ。

 

「今度こそブッ壊れちまうだろうが……てめぇも道連れだぁぁあッ!」

 

 自壊寸前になるまで使い込んで来た朱鬼銃槍に、自らの手でとどめを刺すように。バンホーは差し違える覚悟で、最後の竜撃砲を撃ち放つ。激しい爆炎が傷付いたフルフルの肉を焼き、朱鬼銃槍の砲身を破壊していた。

 イフリートマロウGによって切り開かれていた肉の内部に、直接竜撃砲を撃ち込む。この攻撃ならば、例え下位武器の火力であってもタダでは済まない。朱鬼銃槍の砲口が無惨に裂けた瞬間、フルフルも悲鳴を上げてのたうち回っていた。

 

「ちッ……! これでもまだ倒れねぇのかよッ……!?」

 

 だが、この程度で死を迎えるG級個体ではない。武器そのものを犠牲にするほどの攻撃を受けてもなお、フルフルは苦悶の声を漏らしながら立ち上がろうとしていた。

 その尋常ならざるタフネスに、G級の恐ろしさを垣間見たバンホーは唇を噛み締める。すると、バンホーの隣に大きな陰が現れた。リルスだ。

 

「リルス……!?」

 

 傷を負ってもなお、自分を守ろうと奮闘する主人の後ろ姿にとうとう我慢出来なくなったのだろう。彼女も負傷を押して、この戦いに加わろうとしていた。

 こうなったリルスはもう、何を言っても引き下がらない。長い付き合いの中で、その相棒の性格を熟知しているバンホーは観念したように苦笑する。

 

「……あぁ、分かったよ。お前だって……やられっぱなしで黙っていられないよなァッ!」

 

 ライダーならば、オトモンの想いには応えねばならない。その覚悟を固めたバンホーは勢いよくリルスの背に飛び乗って行く。主人を乗せたリルスは地を這うような低空飛行でフルフルに迫り、猛烈な火球を吐き出していた。

 

 その火球で傷口を焼かれたフルフルが怒りを露わにして、反撃の電気ブレスを吐き出して来る。しかしリルスは被弾する寸前で真上に飛び上がり、電気ブレスをかわしてしまった。傷を癒しながらバンホー達の戦いを見守る中で、彼女はフルフルの技を見切っていたのである。

 

(これが……ライダーとオトモンの「絆技」……!)

 

 そんなバンホーとリルスの勇姿を、レウスXのハンターが仰ぎ見る中。洞窟の天井を蹴って急降下し始めたリルスは、必殺のサマーソルトを繰り出そうとする。フルフルも迎撃の雷弾を乱射するが、巧みに身をかわしているリルスには1発も当たらない。

 

「おぉおおおぉおーッ!」

 

 そして――バンホーとリルスの絆技「フレイムシェイバー」がついに炸裂する。灼熱を纏うサマーソルトの一閃を浴びたフルフルの全身は、瞬く間に猛烈な業火に包まれて行った。

 周囲の氷柱を一瞬で蒸発させるほどの火力。その猛炎に飲み込まれたフルフルは絶叫を上げ、洞窟の遥か奥深くへと逃げ去って行く。

 

 G級個体というだけあって、これほどの猛攻を浴びせられても絶命は免れたようだが。ここまで力の差を見せられては、もうバンホー達を襲うことは出来ないだろう。この「撃退」で、バンホー達の勝利は確定していた。

 

「……へっ! ざっ、ざまぁみやがれってんだっ……!」

 

 火達磨になりながら、奇怪な悲鳴を上げて走り去って行くフルフル。その無様な後ろ姿を見送るバンホーは、リルスの背に跨ったまま口元を緩めていた。

 口先では強がっているものの、かなり消耗しているのか何度もふらついている。そんな主人を慮るように、リルスは何度も後方を見遣っていた。

 

 一方。優しげな面持ちでバンホー達を見守っていたレウスXのハンターは、愛用の片手剣(イフリートマロウG)をゆっくりと腰に納めている。兜に隠されたその双眸には、将来有望な「後輩」への期待に満ちていた。

 

(……ギルドでも近頃、噂になっている「イノシシ姫」。その同期……か)

 

 ◇

 

 辛くもG級個体のフルフルを撃退したバンホー達は、ついに洞窟からの脱出を果たした。いつしか吹雪も終わっていたらしく、洞窟の外には快晴の青空が広がっている。

 それぞれが本来の旅路に戻るなら、まさに今が絶好の機会と言えるだろう。そしてそれは、バンホー達の「別れ」を意味している。しかし、彼らの歩みに迷いはない。バンホーとリルスは勇ましい佇まいで、ハンターの元から飛び立とうとしていた。

 

「何から何まで、色々と世話になったな……ギルドナイトの旦那。あんたも達者でな」

「あぁ、君達も道中気を付けて。ジェマにもよろしくな。上位昇格、応援してるよ」

 

 リルスの背に跨ったまま、ハンターとの固い握手を交わすバンホー。兜を開いたその表情は、自信と勇気に満ち溢れていた。そんな彼の貌を見上げているハンターも、期待を込めた眼差しを送っている。

 

「へへ、サンキュー。あんたも早く仲間達と早く合流出来るといいな。じゃ、またなっ!」

 

 恩人であるハンターにグッと親指を立てた後、バンホーはリルスと共に遥か青空の彼方へと飛び去って行く。そんな「後輩」の背中を、ハンターはただ静かに見送っていた。

 

「……クサンテのことは、君達に頼んだぜ。おいらには……オレ(・・)にはまだ、やらなくちゃいけないことがあるんだ」

 

 レウスXヘルムを外し、艶やかな黒髪を露わにしたハンター。その狩人――「伝説世代」のアダイト・クロスターは神妙な面持ちで、飛び去って行くリルスを仰いでいる。

 

 ――旧シュレイド王国を滅ぼしたとされる、「伝説の黒龍」ミラボレアス。その出現の予兆を観測したハンターズギルドは、国家や地域、大陸などの全ての垣根を越え、この災厄に立ち向かうための戦力を結集させていた。

 天賦の才と確かな経験値を併せ持つ、29人の狩人達――「伝説世代」もその主戦力の一角として、黒龍との決戦に招集されている。それは当然ながら、彼らの一員であるアダイトも例外ではない。

 

 アダイトの同期である「伝説世代」の仲間達はすでに、史上最大の決戦に備えてシュレイド城に向かっているのだという。例え伝説の黒龍が相手であろうと、仲間達は誰一人として死なせはしない。そのためにも自分は、先を急がねばならないのだ。

 

 かけがえのない幼馴染であるクサンテのことを忘れた日はない。しかし黒龍の脅威を野放しにしていては、彼女が帰るべきユベルブ公国にも未来はない。だからこそ、自分に代わって彼女を支えてくれる「宝玉世代」に、アダイトは誰よりも期待しているのだろう。

 

 本来ならば下位相当のモンスターしか生息していないこの雪山にも、G級個体が逃げ込んでいた(・・・・・・・)。ただそこに居るだけで、それほどにまで生態系を揺るがしてしまう存在を放って置くわけには行かない。

 

「……よし。待ってろよ、皆……!」

 

 やがて踵を返し、リルスに背を向けたアダイトはレウスXヘルムを被り直すと、毅然とした面持ちで真っ直ぐに走り出して行く。その旅路を見送るように、山道の花々が揺らめいていた。

 

 ◇

 

 ――その後。ジェマとの「再会」を果たしたバンホーは、旧友の加工技術を頼りに武器を新調。ガンランスとしての機能を喪失するほど損耗していた朱鬼銃槍は、彼の新たな相棒「フレイムスロワー」へと生まれ変わった。

 

 しかし彼の上位昇格試験は、予期せぬ事態に直面することとなる。

 

 ユベルブ公国の国境線付近に存在する大渓谷「リュドラキア」。その最奥に設けられた「砦」に、「老山龍」ラオシャンロンが迫ろうとしていたのである。その脅威に対抗するため、上位への昇格試験を受けている最中だった下位ハンター達が緊急招集されたのだ。

 過去の記録よりも遥かに速い進行速度で、渓谷の中を移動している「巨龍」。その異変の原因を突き止める前にこの侵攻を阻止せねば、国境線付近の人里に甚大な被害が発生してしまう。

 

 本来ならばこうした事態には、「伝説世代」をはじめとする英傑達が対処に向かうものなのだが。彼らは皆、世界の存亡を賭けた一大決戦に赴いている。同じ時代に生まれ合わせた奇跡の狩人達は皆、「伝説の黒龍」――ミラボレアスとの戦いに駆り出されていたのだ。

 

「6年前の戦いで、里を救ってくれた皆の恩義……友情に応える時が来たッ! さぁ行こう、デンコウ! ライゴウ! うぉおぉおぉッ! 気焔ッ! 万ッ丈ッ!」

 

 カムラの里で黒龍討伐クエストの依頼書を受け取ったウツシに、躊躇いの色は無かった。彼はオトモのアイルーとガルクを連れ、勇ましくシュレイド城に旅立って行く。そんな彼の出発を、里の人々は温かく見送っていた。

 

「……この暗雲も、黒龍の暴虐を阻止すれば晴れるはず。例えどれほど無謀な試みであったとしても、今はそれを信じるしかない……!」

 

 「世界の終焉」を想起させる暗雲の空を仰ぎ、独り山岳の道を征くレノ・フロイト。彼も愛用の太刀を背負い、シュレイド城を目指している。「黒蝕竜」ことゴア・マガラの討伐を果たした直後でありながら、彼は疲れを見せることなく決戦の地へと歩み出していた。

 

「リュドラキアの砦にも不穏な動きが出ているようですが……私は行かねばなりません。仲間達が……待っていますもの。そちらの方は頼みましたわよ、ソラン」

 

 ポッケ村で依頼書を受け取ったナディア・ゴーシュも、リュドラキアの方向に視線を向けていたが――それでも最後には頼もしい後輩(ソラン・ハーシャル)達に託すと決め、シュレイド城に旅立つ決心を固めていた。

 

「伝説と呼ばれた黒龍か、伝説と謳われた我々か。どちらが次の時代まで生き残れるか……試されている、ということか? ハハハッ、面白い! この一世一代の大博打、乗ってやろうではないか! 実妹(リリア)の奴にも良い土産話が出来るというものだ!」

 

 ドンドルマの酒場で依頼書を手に取ったレイン・ファインドールも、ジョッキを手にしたまま高らかに笑い声を上げている。どうやら彼女にも、この依頼を断るという選択肢は無かったようだ。「毒怪鳥」ゲリョスの狩猟を終えて間も無いというのに、彼女は今すぐにでも旅立とうとしている。

 

「……百竜夜行がようやく落ち着いたかと思えば、次は伝説の黒龍……だと? ふっ、(それがし)もまだまだ……引退とは行かぬようだな!」

 

 カムラの里の外れで、独り修行の日々を送っていたカツユキ・ヒラガ。彼も依頼書に目を通した後、すぐに愛用のランスに手を伸ばしていた。彼の引退は、まだまだ先のことになるようだ。

 

「あの伝説の黒龍を狩れる絶好の機会が巡って来るなんて、アタシすっごくワクワクしちゃう! こんなの引き受けるっきゃないじゃーんっ!」

 

 ユクモ村の温泉を堪能していたカグヤも、湯浴み姿のままで依頼書を握り締め、意気揚々と酒を煽っている。その際に立ち上がった弾みで、彼女の裸身を包んでいたタオルがはらりと滑り落ちてしまったのだが、当の本人は構うことなく酒をグビグビと飲み続けていた。

 

「ふっふ〜ん……待ってました、待ってましたよぉお〜! ついに、ついに! このボクのエクセレントにしてエレガントな狩猟の腕前を、全世界に知らしめる時が来たようだね!」

 

 モガの村の中心で依頼書を開き、自信に満ちた声を張り上げているアテンス・センテラ。彼女は村中にアピールするかのように、両手を広げてくるくると踊り回っていた。しかしそんな彼女の様子など見慣れているのか、周りの村民達は全く意に介していない。

 

「伝説の黒龍、かぁ。やっとイヴ達も大きくなって来たっちゅうのに、そんな輩に世の中めちゃくちゃにされたんじゃあ堪らんわ。……ここは一丁、ワイらで懲らしめてやらなあかん。せやろ、皆……!」

 

 故郷の村で穏やかに過ごしていたシン・オーマも、黒龍討伐の依頼書を手に立ち上がろうとしていた。幼かった弟妹達の成長を見守りながらハンターを続けて来た彼個人としても、黒龍を放って置くわけには行かなかったのだろう。

 

「伝説の黒龍の復活、そして世界の危機……か。まさに、俺がデッカい男になったってところを世界中に見せ付ける時が来たってコトだな。よーし、待ってろよ皆……! デカくなったのは背だけじゃないってところ、見せてやっからよ……!」

 

 独り武者修行の旅を続けていたディリス・ハルパニアも、依頼書を見るや否や自信に満ちた顔でシュレイド城を目指し始めていた。大きな弓を携えた彼は、この6年間で1.5cm()背が伸びた自分の成長ぶりを同期達に見せてやろうと意気込んでいる。

 

「……急がないと。きっと皆、もう集まってる……」

 

 タンジアの港で依頼書を受け取ったユナも、内容に目を通した直後に迷いなく行動を開始していた。黒龍の討伐依頼という恐ろしい内容の依頼書を目にしても、彼女は相変わらずのポーカーフェイスで受注を即決したようだ。

 

「……同期の皆は無茶する人達ばかりだし、放っては置けない。行かなくちゃ……」

 

 同期達の無謀さをよく知っているエルネア・フェルドーも同様だった。ロックラックの酒場で依頼書に目を通していた彼女は、同期達が意気揚々とこの件を受注している様を想像してため息を吐き、すぐさま立ち上がっている。

 

「ドラコよ……本当に行くのだな」

「はい……黒龍をこのまま野放しにしていたら、いつかはこの村も焼き払われちまうかも知れない。誰にとっても……他人事ではいられないんです!」

「分かった……もう何も言わん。ただし、必ず生きて帰って来い。お前を待っている者達のためにもだ!」

「……はい! あったりまえですよっ!」

 

 寒冷群島の近隣に位置する村を拠点に活動を続けていたドラコ・ラスター。彼は村長に旅立ちを告げると、ゴシャXシリーズの装備を纏って旅立とうとしていた。

 

「すでに皆さんもシュレイド城に到着している頃だろうか……。俺も急がないと出遅れてしまう……! 待っていてください、皆さん……!」

 

 バルバレの集会所で依頼書を受け取ったゴウも、キャラバンに便乗してシュレイド城に旅立っていた。ポポが牽引する移動屋台に乗り込んだ彼は、決戦に向けて愛用の大剣を磨き始めている。

 

「……伝説の黒龍、かぁ。伝説っていうくらいだし……食べたら、美味しいのかな?」

 

 ジャンボ村で活動していたカエデも依頼書を受け取るや否や、こんがり肉を咥えたままシュレイド城の方角に向かって躊躇なく歩き始めていた。健啖家であることでも有名な彼女だが、どうやら彼女にとっては黒龍ですらも捕食対象であるらしい。

 

「まさか、あの伝説の黒龍と戦うことになっちまうなんてなぁ……。だが、6年前とは違うってところを証明するには……良い機会ってもんだぜ。今こそジェマに鍛えて貰ったこの太刀で、俺の力を示してやるさ……!」

 

 一狩り終えて拠点のナグリ村に帰って来たばかりだったアカシ・カイトも、自分宛ての依頼書を目にした途端に目の色を変えていた。狩猟笛から太刀へと使用武器種を変更していた彼は、愛刀を背に村を後にして行く。

 

「あの黒龍と戦う作戦に召集されるなんて……これ以上の名誉は無いッス! 同期の皆も絶対来るだろうし……シュレイド城に1番乗りしちゃうッスよぉお〜っ!」

 

 拠点にしていたチコ村で依頼書を渡されたレマ・トールも、意気揚々とガッツポーズしながら旅立ちの準備を始めていた。そんな彼女の勇ましさに、周りのアイルー達もニャーニャーと可愛らしい歓声を上げている。

 

「……此度の老山龍の異変は恐らく、黒龍だけが原因ではないのでしょう。さりとて、世界の危機を見過ごすわけには参りません。後のことは貴女に頼みましたよ……フィレット」

 

 ドンドルマの外れで独り依頼書を見つめていたミナシノ・ヤクモ。彼女はリュドラキアの異変にも気付いていたようだが、その上で黒龍討伐への参加を優先していた。世界の危機という優先順位を考慮してのこと、だけではない。自身が信頼を置く教え子(フィレット)の働きに期待しての判断であった。

 

「リュドラキアの砦はきっと……エレオノール達が死守してくれるはず。私は皆様と共に……あの城へ向かわねばなりません。貴女を信じて……あの砦を託しますわ、エレオノール!」

 

 過酷な猛吹雪に襲われているフラヒヤ山脈。その雪山を独りで踏破しているクリスティアーネ・ゼークトは、依頼書を握り締めてリュドラキアの方角を一瞥していた。しかし彼女は踵を返し、シュレイド城の方向へと視線を移している。それは自身の臣下にして、後輩ハンターでもあるエレオノール・アネッテ・ハーグルンドへの「信頼」の表れであった。吹雪の中で行手を阻む「雪獅子」ドドブランゴと対峙するクリスティアーネは、愛用の大剣を勢いよく振り上げている。

 

「……伝説の黒龍か、面白い。ジェマに武器を鍛えて貰った甲斐があったというものだ。俺達の手で、奴を葬る時がついに来たのだからな……!」

 

 シナト村の外れで依頼書を手にしていたディノ・クリード。暗雲が漂いつつある天空を仰ぐ彼は、不敵な笑みを浮かべて依頼書を握り締めている。「伝説世代」と呼ばれた仲間達と共に戦える喜びが、その貌に現れていた。死闘の果てに「影蜘蛛」ネルスキュラを討伐し終えたばかりだというのに、彼の双眸はすでにシュレイド城の方角を捉えている。

 

「あの黒龍との戦いなんて……怖いに決まってる。だけど……それでも、逃げ出すわけには行かない。姉様の分まで戦い抜くって、6年前から誓って来たのですからっ!」

 

 活動拠点にしていたココット村で、依頼書を渡されたベレッタ・ナインツ。彼女は肩を震わせながらも恐怖を振り切り、その場から立ち上がっていた。あの同期達なら、勇敢なハンターだった姉なら、この依頼を断ることはないだろう。ならば、自分もそれに続かねばならない。その悲壮な覚悟が、彼女を突き動かしていた。

 

「で、伝説の黒龍ぅう……!? こっ、これはとんでもないことになって来ちゃいましたぁあ……! い、一体どんなしゅごい攻撃が飛んで来るのでしょう……!? 想像しただけで涎が……! じゅるりのでゅふふ……!」

 

 一方。ミナガルデの酒場で依頼書を受け取っていたノーラも、わなわなと肩を震わせていたのだが――彼女はだらしなく口元を緩めて涎を垂らしながら、怪しい笑顔を咲かせていた。相変わらずのインナー装備で扇情的なボディラインを露わにしている彼女は、その残念美人振りで周囲の男性ハンター達をゲンナリさせている。

 

「……同期達(アイツら)のことだ、今頃はシュレイド城に向かい始めていることだろう。俺も急がねば……『糧』を捕り逃してしまうな。ジェマに強化して貰ったこのハンマーで、黒龍の伝説諸共叩き潰してやる」

 

 因縁深き凶暴竜(イビルジョー)を屠り、戦友の仇討ちを果たしていたビオ。彼も同期達が受け取ったものと同じ内容の依頼書を渡されていた。無論、彼の選択肢に「拒否」の2文字は無い。その性格を知る同僚の女ハンターがにやりと笑う中、彼は酒場の席を立ち、拠点の村から足早に旅立とうとしていた。「鎧竜」グラビモスを討伐した直後だというのに、その歩みからは疲れというものが全く見えない。

 

「あーあー……。ハンターとして名を上げすぎるってのも考えモノだよねぇ。こーんな厄介な事件(ヤマ)に呼び出されちまうんだから。まっ、同期の皆が一緒なら何の心配もねぇだろうし……異父妹(クゥオ)の居るこの世界のためにくたばるってぇのも、俺にしちゃあ上出来な末路さ」

 

 特定の拠点に腰を据えることなく、世界中のG級個体を狩りながら気ままに一人旅を楽しんでいたカノン・アルグリーズ。彼は黒龍討伐の依頼書を見つめながら、普段通りの足取りでシュレイド城に向かおうとしていた。その飄々とした佇まいに、かけがえのない家族への愛情を隠して。

 

「ヤツマ……本当に行くんだな?」

「うん。アダイトも、ディノも、ドラコも、皆も……きっともう、シュレイド城に向かい始めてる。……僕も行くよ。もう昔の僕じゃないってことを……皆にだけは証明したいから」

「……分かった。お前の成長を、皆に見せてやれ。そして、この世界を救って来い!」

「……うん! 行ってきます、兄さん!」

 

 その頃。活動拠点の村で平穏に暮らしていたヤツマは、かつて優秀なハンターだった兄に背中を押され、今回の依頼を引き受ける決心を固めていた。依頼書を握り締めて狩猟笛を背負った彼は、兄と力強く笑い合い、家を後にして行く。その足取りにはもう、昔のような「恐れ」は無い。

 

「……まさか黒龍討伐にあたしが召集されるなんてねぇ。同期の連中ならともかく、あたしの実績なんてタカが知れてるってぇのに」

「あはは、今になってそんなこと言ってるのはイスミちゃんだけだよ。イスミちゃんだって、その同期の皆と同じ『伝説世代』なんだからさ」

「ハッ……そうかよ。だったらあたしも腹ぁ括って、意地見せるしかないってわけだ。そうでもしなきゃ、ジェマに鍛えて貰ったこの大剣も泣いちまうしなぁ!」

 

 活動拠点の里で依頼書を受け取っていたイスミも、親友の女ハンターから激励の言葉を与えられていた。ギルドから希望を託された「伝説世代」の1人として、ここで立ち上がらねば女が廃る。逡巡の果てにその結論に至ったイスミは、親友と頷き合って酒場の席から立ち上がっていた。

 

「ディード……本当に行くのだな。儂の孫娘からも、黒龍にだけは手を出すなとキツく言われておったろうに」

「……それは分かってるんだけど。同期の皆にも同じ報せが届いてる……って言われちまったらさ、断るわけには行かないだろ? 悪いけど、姉御には『済まねぇ』って言っておいてくれ」

「やれやれ……どのみち独りでも行く気だったろうに。生きて帰って来ても、今度は孫娘に殺されかねんぞ?」

「ははっ……案外、それも悪くないかもなぁ」

 

 活動拠点のベルナ村で依頼書を受け取り、一切の躊躇もなく旅立ちの準備を始めていたディード。そんな彼に声を掛ける師匠は、村の受付嬢である孫娘からの「忠告」を口にしていた。しかしディードはその「忠告」を理解した上で、同期達の信頼に応えようとしている。生きて帰った後の「大目玉」も、彼にとっては楽しみの一つであるようだ。

 

「……黒龍の復活、世界の危機、『伝説世代』全員召集。これだけの条件が揃っちゃったら、さすがに行くしかないですよねぇ〜……。はぁ〜あ、せめて旅の途中でプケプケに逢えたら良いんですけどぉ〜……」

 

 海を越えた新大陸の調査拠点アステラで、依頼書を受け取っていたフィオ・ドーラ。彼女は現大陸に向かう船に揺られながら、深々とため息を吐いて依頼書を眺めていた。世界の危機など知ったことではないが、同期達がこのために集まっていると聞かされては、さすがに無視は出来ない。この旅路で、こよなく愛するプケプケに会えることもあるかも知れない……という一縷の望みだけが、彼女にとっての数少ない「楽しみ」であった。

 

「ふっふっふ……伝説の黒龍か。召集された同期の皆も、きっと不安に思っていることだろう。よぉし! ここは一つ、俺の輝かしい筋肉と旋律で皆を勇気付けてやるとしようっ!」

 

 その一方で。観測拠点エルガドで活躍していたムスケル・マソーは、これから一堂に会する同期達の戦意を高揚させるべく狩猟笛での新たな旋律を編み出そうとしていた。筋骨逞しい肉体美を見せ付けるかのようなその動きに、周囲の王国騎士達は何とも言えない表情を浮かべている。

 

「シュレイド城まであと少しだ……! 待っててくれよ、皆……!」

 

 そして。メゼポルタでの壮絶な武者修行を終えたアダイト・クロスターは、ユベルブ公国領の雪山を越えてシュレイド城に急行していた。彼をはじめとする「伝説世代」の面々はそれぞれの想いを胸に、決戦の地へと集結しつつある――。

 

 ◇

 

 数千万人に1人とも謳われる逸材中の逸材。「黄金」という賛辞すら及ばぬ「伝説」。そのような奇跡の化身達が、一つの時代に生まれ合わせていた。大陸全土にその雷名を轟かせた彼らは、僅か数年で世界中に新たな「伝説」を刻み込んだのである。

 ほんの数頭でも一つの国や都市を容易く滅ぼしてしまう強力な飛竜。そんな大自然の猛威を、人の身でありながら容易く打ち払ってしまう「伝説」の狩人達。彼らの英雄譚はたちまち詩となり、幾人もの吟遊詩人を介して大陸中に知れ渡っていた。

 

 恐るべき飛竜の圧倒的な暴力により、滅びの運命を迎えようとしていた国。そこへ現れた1人の狩人は、この大難を目の当たりにしていながら、まるで「些事」であるかのような涼しげな佇まいを見せていた。

 そして彼の者は飛竜の前に現れると、こともなげにその巨躯を屠ってしまう。滅亡の運命もろとも、巨大な災厄を単身で切り払うその勇姿に息を呑んだ人々は、狩人を「救世主」と畏れ、称えた。

 

 ある国の王は、その狩人をどうにか自国に引き入れようと考え。またある国の王子や王女は、その狩人に恋をした。しかし狩人はどのような報酬を提示されようとも「次なる狩猟」だけを望み、一つの場所に留まることなく旅立って行く。狩人を引き止めようと王族が伸ばした手は、虚しく空を掴むのみであったという。

 

 ――そんな荒唐無稽な英雄譚は今や、大陸のどこに行っても必ず一度は耳にする「ありきたり」な詩であった。かつては千載一遇であった「奇跡」が、この時代においては「ありふれていた」のである。

 強力な飛竜種や古龍種の脅威に晒された国や都市は、よほどの幸運に恵まれなければ滅びの運命を辿るしかない。世界各地を転戦している29人の「伝説世代」は、その必然すらも覆してしまったのである。

 

 だが。そんな伝説級の狩人達も今は、恐るべき伝説そのものである「黒龍」の災厄に立ち向かおうとしている。彼らが不在である以上、リュドラキアに迫ろうとしている老山龍の侵攻に対抗出来るのは、「近場」に居た下位ハンター達しかいない。

 それに彼らは等級こそ下位扱いではあるものの、すでに上位ハンターにも引けを取らない練度に達している。中には下位ハンターでありながら、創設されて間も無い「禁足地調査隊」のメンバー候補として推薦された者まで居るのだ。彼らならば、この状況にも対処出来るはず。

 

 それが、この緊急事態に対するハンターズギルドの決断であった。

 ギルドは昇格試験の中止と引き換えに、この依頼(クエスト)の完遂を新たな上位認定の条件としたのである。

 

 歴戦のハンターでさえ容易く命を落とすこともある、巨大龍との攻防。その激戦の行方を下位ハンター達に委ねるなど前代未聞であり、真っ当な神経の持ち主ならば、決して引き受けようとはしない条件だろう。

 だが。上位への昇格を目前に控えていた狩人達は、より高みへと近づくため――巨大な古龍が相手になるのだと知りながら、その条件を受け入れていたのだ。

 

「あのイノシシ姫といい他の連中といい、私の同期って無茶する奴ばっかりなのよねー……。テリル姉の二の舞だけは絶対にゴメンだし、私がしっかりしないと!」

 

 姉のような存在だった女ハンターを失い、今は兄代わりであるビオの背中を追い続けているロエーチェ。姉代わりの死を経験している彼女は、クサンテ・ユベルブをはじめとする同期達の無茶を心配し、今回の作戦に参加する決心を固めていた。

 

「私はカノン兄様のように強くなりたい……! そのためにも、此度の作戦から逃げ出すわけには行かないのですっ……!」

 

 敬愛する異父兄――カノンの背中を追っていたクゥオ・アルグリーズも、今回の作戦に志願した下位ハンターの1人だった。決して好戦的とは言えない性格の彼女だが、それでも同期達のためなら立ち上がれる勇気を持っているのだ。

 

「ホラホラてめぇら、慌ててる暇あったら手ェ動かせ。国の危機だろうが、古龍が相手だろうが、俺達は出来ることをするだけよ」

 

 過去にユベルブ公国第3都市「フィブル」で起きた黒蝕竜(ゴア・マガラ)との戦いで、迎撃拠点の設計や設営に携わっていたアーギル。彼はその際の実績を買われ、今回の作戦に推挙されていたようだ。老山龍の侵攻に動揺する若手ハンター達を厳しく叱咤する彼は、気怠げながらも着実に迎撃の準備を進めていた。

 

「どどど、どうしようっ……! 皆やる気満々だし、私だけ怖いとか言ってたらヘンに浮いちゃうよねっ……!? で、でもやっぱり怖いぃっ……け、けどぉおっ……!」

 

 血気盛んで勇猛な同期達に囲まれ、縮こまっているリリア・ファインドール。彼女は周りの同期達とは異なり、今回の作戦については及び腰だったようだが――「伝説世代」のハンターである実姉(レイン)への憧れを捨て切ることは出来なかったらしい。結局は泣き言を漏らしながらも、依頼の受注を決定していた。

 

「……ヤクモ教官も今頃、黒龍の討伐に向かった頃かな。私も、私の役目を果たさないと……ね」

 

 「伝説世代」の1人であるヤクモ・ミナシノ。彼女の教え子であるフィレットは、その心と技を受け継いだ「後継者」として、自身に課せられた役割を全うしようとしていた。その穏やかで冷静な佇まいは、まさしく師であるヤクモのそれを想起させるものであった。

 

「あのお方……凄い集中力ですね。よーし……同じポニテの太刀使いとして、挑む気心で行かせてもらいますっ!」

 

 フィレットと共に戦いに備えていたカヅキ・バビロンも、彼女の佇まいからただならぬ強者の気配を感じ取っていたらしい。周囲の人々が慌しく駆け回っている中、正座の姿勢で独り瞑想しているフィレットの隣にちょこんと座り込んだ彼女は、フィレットのマネをし始めていた。尤もフィレットとは違い、あちこちに気が散っているようだが。

 

「……父祖よ、ご高覧ください。私の手で必ずや……一族の無念を晴らしてご覧に入れましょう……!」

 

 古龍との戦いで滅びた一族の生き残りであるエヴァンジェリーナ・アレクセーエヴナ・ゲンナージエヴィチ・グツァロヴァ、通称イーヴァ。一際猛々しい闘志を剥き出しにしている彼女は、鋭い眼光で渓谷の彼方を見つめていた。地響きを立てて迫り来る老山龍も、彼女にとっては乗り越えるべき障害の一つなのだろう。

 

「全く……揃いも揃って、戦う前から気を張り過ぎている連中ばかりだな。尤も、俺自身もあまり人のことは言えないかも知れないが」

 

 そんなイーヴァの様子を遠くから見守っていたルドガーは、周りを見渡しながら苦笑を溢している。同じハンマー使いという縁もあり、何かとイーヴァのことを気に掛けている彼は、使命に固執するあまり無茶をしがちな彼女が心配であるらしい。

 

「レマ姉ちゃんだって、私くらいの歳の頃にはもう上位に昇格してたんだ……! 私だって、やれば出来るっ……! やってやるんだっ……!」

 

 「伝説世代」のレマ・トールと同じ村で生まれ育った、エクサ・バトラブルス。彼女にとってレマは越えるべき大きな目標なのだろう。装備を整えながら決戦の時を待つ彼女は、緊張感に満ちた表情を浮かべていた。

 

「老山龍の野郎っ、来るならさっさと来やがれってんだ……! こちとら経営が懸かってる1番大事な時期だってーのにっ……!」

 

 ハンター活動の傍ら、ドンドルマで錬金屋と鍛冶屋を経営している竜人族のジュリィ。今後の経営のためにも上位昇格が急務となっている彼女にとって、今回の作戦は決して外せない大仕事であった。それだけに意気込みも凄まじいのか、苛立ちを露わにした様子で足踏みを繰り返している。

 

「初めての古龍、それもあの老山龍が相手ということもあって、同期の皆も浮き足立っているようだな……。万一の時は私がこの身を盾にしてでも、皆を支えねばなるまい」

 

 エクサやジュリィの様子を遠くから一瞥しているガレリアス・マクドール。彼は一部の同期達とは異なり、冷静沈着な佇まいで決戦に備えようとしていた。文字通り仲間の盾となるため、愛用の大楯を点検している彼は、落ち着いた物腰で周囲を観察している。

 

「……やはりガレリアスが居ると心強いな。彼のような男が同期に居るのなら、私も心置きなく攻勢に出られるというものだ。……今しばらくお待ちください、お嬢様。このエレオノール、必ずや上位に昇格してご覧に入れましょう」

 

 ガレリアスと同じく、怜悧な佇まいで装備の点検を行っていたエレオノール・アネッテ・ハーグルンド。「伝説世代」のハンターにして、仕えるべき主人であるクリスティアーネに追い付こうと腐心する彼女は、自身の胸中に渦巻く焦燥を自覚した上で、その闘志を露わにしていた。それは、自分達のフォローに徹しているガレリアスを心から信頼しているからこその判断なのだろう。

 

「……俺はまだまだ未熟だけど、それでもきっと何か……出来ることがあるはずだ。ガレリアスさんのように、俺も皆の力になりたい……!」

 

 同期達の中でも若手であり、未完の大器としての可能性を秘めているヒスイ・ムラクモ。己の未熟さを自覚しつつも、腐ることなく自分に出来ることを模索している彼は、逸る気持ちをぶつけるように愛刀を研ぎ続けている。

 

「近頃の若いモンは元気があって羨ましいねぇ〜……。ひっく! あ〜……クエスト前に景気付けでもう1本空けちゃおっかなぁ〜!」

 

 その一方で緊張感のかけらもなく、この非常時においても「平常運転」な者も居た。酒好きのベン・イライワズは周りが慌しく準備に奔走している中、木箱に腰掛けて気怠げに酒を嗜んでいる。「どうせクエストが始まれば嫌でも酔いが覚めるから」と、どんな場面でも飲酒を欠かさない彼の「日課」は、ここでも健在だったようだ。

 

「うふふっ……今まで多くのモンスターに私の毒を味わって頂きましたが、古龍を相手にするのは今回が初めてになりますわね。あぁ、かの老山龍はどんな悲鳴を上げてくださるのかしら? 今から楽しみで仕方がありませんわぁあ……!」

 

 猛毒を帯びた愛用の双剣を砥石で研ぎ、これから始まる決戦に備えているヴェラ・ドーナ。彼女は恍惚の表情で怪しげな笑い声を漏らしており、その異様な佇まいには周囲の者達も恐れ慄いている。

 

「……やれやれ。同じ毒属性使いではあるんだが、アイツには困ったもんだな。悪い奴じゃあないんだが……」

 

 そんな彼女を横目で見遣りながらため息を付いているクウド・ウォーウは、どこか放って置けない彼女の様子を見守りつつ、自身のアイテムポーチを整理していた。

 

「……ついに、この私も古龍に挑む時が来たか。上位昇格を賭けた、文字通りの登竜門。相手にとって不足はない……!」

 

 かつて古龍討伐隊に属していた祖父から継承した鬼ヶ島を携え、この作戦に参加していたアルター・グラミリウス。祖父を引退に追い込んだ古龍を見つけ出す、という使命に燃えている彼女は、勇ましい笑みを溢しながら愛銃の手入れに没頭していた。

 

「老山龍……か。話には聞いていたけど、まさかこんなに早く古龍と戦う時が来るとは思わなかったわね」

「フッ、臆したか? お前らしくないな、ジェーン」

「バカ言ってんじゃないわよ、アルター。こういうのはね、あんたの言葉で言うところの『武者震い』ってヤツよ」

 

 アルターの隣で、同じく愛銃の手入れを進めていたジェーン・バレッタ。思わぬ経緯で古龍と戦うことになった彼女は、感慨深げにスティールアサルトを点検している。アルターと軽口を叩き合う彼女の肩は、未知の戦いへの期待に打ち震えていた。

 

「それにしても……まだ姿も見えていないのに、地響きだけが聞こえて来るなんて気味が悪いわね……。こりゃあ、報酬もガッポリ貰わないと割に合わないわ」

 

 一方、自身のボーンシューターを手入れしているリリィベルは、地鳴りが響いて来る方向に目を向けながら怪訝な表情を浮かべていた。彼女は今回の作戦についてはかなり不安に思っているようだが、貧しい生い立ち故に金にがめつい彼女に「断る」という選択肢は無かったようだ。

 

「……ナディア先輩、サリア。見ていてくれ。この作戦……必ず俺達で成功させて見せる」

 

 不安げな表情で老山龍の方角を見遣るリリィベルに対して、ソラン・ハーシャルは黙々と自身の愛銃を整備している。「伝説世代」のナディアを先輩に持つ者として、その期待に応えるため。そして最愛の幼馴染ことサリアに、上位昇格を報告するため。彼は必勝の信念を帯びた眼差しで、デルフ=ダオラの整備に集中していた。

 

「……兄貴のようにやれるとは思っていない。だが……それでも、オーマの名に恥じない働きを見せないとな」

 

 「伝説世代」のシン・オーマを兄に持つ弓使い、イヴ・オーマ。彼女は兄への劣等感を抱えながらも、己に出来ることを模索しているようだ。自身の弓に使うビンを整理している彼女は、真剣な様子で最後の点検を行っている。

 

「うふふっ……気負うことはありませんわよ。あなたはこのホーエンブルク辺境伯……ブリュンヒルト・ユスティーナの誇らしき同期! 何も心配することなどありませんわ!」

「……ふっ、大した自信だな。だが、今はそれが頼もしい限りだよ」

 

 イヴがどこか不安を抱えていることを察したのだろう。ブリュンヒルト・ユスティーナ・マルクスグラーフィン・フォン・ホーエンブルクは、大仰に両手を広げて同期の戦友を鼓舞しようとしていた。そんな彼女の姿に苦笑するイヴだったが、その心遣いが嬉しかったのだろう。兜に隠されたその口元は、朗らかに緩んでいた。

 

「頼む、頼むよ……! リルスも今回の作戦に参加させてくれ! リルスの力を必要としてくれている奴らが、この谷の向こうで俺達を待ってるんだ!」

 

 そして、ジェマの元で新たな武器・フレイムスロワーを新調していたバンホー。彼はリルスを今回の防衛戦に参加させる許可を得るため、リュドラキアの砦を管轄下に置くギルドと懸命に交渉していた。同期達の力になりたい一心で声を張り上げる彼の姿に、ギルドの職員達も逡巡しつつ顔を見合わせている。

 

「……この砦を守り抜けば、我らもついに上位昇格。ついにこの時が来ましたな……姫様」

 

 ユベルブ公国の騎士として「姫君」を守護するべく、愛用の大剣・ディフェンダーを携えていたデンホルム・ファルガム。その巨大な刀身を砥石で研ぎ終えていた彼は、肩越しに「姫君」の方を見遣っていた。そんな彼と鋭く視線を交わした姫騎士は、ゆっくりと立ち上がっている。

 

「えぇ……我が国の平和のためにも、そしてアダルバート様の仇を討つためにも。このクエスト、絶対に成功させるわよ……!」

 

 巷では「イノシシ姫」とも呼ばれている猪突猛進の双剣使い――クサンテ・ユベルブ。彼女は二振りのオーダーレイピアを勢いよく腰に納めると、砦の外へゆっくりと歩み出していた。引き締まった腰つきに対して、豊満に実っている釣鐘型の巨乳。安産型の桃尻。その白い果実が、アロイシリーズの防具の下でたわわに弾んでいる。そんな彼女の「成長」した姿に、デンホルムはうんうんと深く頷いている。

 

「ふふふ……ご立派になられましたな、姫様。誰もが認める一流のハンターに相応しい御姿でありますぞ」

「ふんっ、当然よ。この数年間、アダルバート様の無念を晴らすために鍛錬を積み重ねて来たんだもの。……それに、早く敵討ちを終わらせて公国に帰らないと、ペトリナに叱られてしまうわ」

 

 ユベルブ公国を守護する騎士の1人として、姫君と主人の帰りを待ち続けている、若く美しいデンホルムの爆乳妻――ペトリナ・ファルガム。グラマラスな肉体を持つ「人妻」の女騎士にして、優秀なランス使いでもある公国騎士団の一員だ。

 彼女の包容力に溢れた微笑を思い出し、クサンテは1人で苦笑している。愛する夫を長旅に連れ出してしまっている現状について、彼女なりに危機感を持っているようだ。

 

 ウェーブが掛かった艶やかなブラウンのロングヘアと、宝石のような青い瞳。ぷっくりとした桃色の唇が特徴の、絶世の美女。そんなペトリナは公国の騎士でありながら抜群のプロポーションの持ち主であり、男好きのする肉体を持つクサンテですら、同性として羨望せずにはいられない存在であった。

 豊満な爆乳と巨尻は男女問わず圧倒されるほどの大ボリュームであり、特にむっちりとした肉感的な太腿と安産型の巨尻は、彼女の肉体の「成熟」ぶりをこれでもかと見せ付けている。色白な柔肌からは絶えず濃厚な女のフェロモンが漂っており、その芳醇な色香は今も公国中の男達を魅了しているのだという。

 

 しかし一見華奢に見える彼女も、ランス使いとしては一流の「騎士兼ハンター」なのである。淑やかな聖母の如き包容力に満ちている彼女も、いざ有事となれば夫にも劣らぬ勇猛な「騎士」となるのだ。一説によれば彼女の肉厚な下半身も、大楯による防御姿勢の安定性に一役買っているらしい。

 

 クサンテやデンホルムが公国を離れている間も、ペトリナは騎士として母国の防衛に専念している。そんな彼女が公国に残っているおかげで、クサンテ達は仇のドスファンゴを追う旅を続けていられるのだ。彼女さえ居れば、ユベルブ公国の国防は磐石なのだから。

 

「ご心配には及びません、妻もユベルブ公国に仕える騎士の1人なのです。ペトリナも姫様の覚悟は重々承知しております」

「デンホルム……」

「御心のままにお進みください、姫様。我ら夫婦共々、姫様のためならば如何なる協力も惜しまぬ所存であります。アダルバート坊ちゃまを想う心は、我らも同じなのですから」

 

 ペトリナの心情を慮るクサンテの気遣いに、デンホルムは夫として威勢良く応えていた。それは、一流の「騎士」である愛妻への「信頼」故なのだろう。

 アダルバートとクサンテの2人を幼少の頃から見守って来た夫婦として、自分とペトリナは同じ想いで繋がっている。デンホルムの力強い双眸が、その「確信」を物語っていた。

 

「……うん。ありがとう、デンホルム。私も早くペトリナのように……立派で落ち着いた、大人の女性になりたいわ」

「その御言葉……ペトリナにとって、如何なる勲章にも優る栄誉となりましょう」

 

 そんなデンホルムの勇ましい佇まいに表情を綻ばせたクサンテは、憂いを振り切るように正面へと向き直っていた。1人の女性として尊敬しているペトリナのためにも、早く最愛の夫(デンホルム)をこの戦いから解放しなくてはならない。その一心が、彼女の貌に現れている。

 

 ――この2人だけではない。老山龍との戦いに臨む次世代のハンター達は皆、恐れを乗り越えてこの依頼を引き受けていた。かつての「伝説世代」がそうであったように、この事件に挑むことになった彼らもまた、下位の枠には到底収まらないほどにまで頭角を表していた「逸材」の集まりだったのである。

 

 ドンドルマから試験を受けに来ていた彼らの中で、誰よりも速く現場に到着し。誰よりも速く巨大龍と対峙していた、当時のクサンテ・ユベルブとデンホルム・ファルガム。そして、ジェマの加工技術を頼りにフレイムスロワーを完成させたバンホー。

 

 彼らをはじめとする「宝玉世代」の英雄譚は、ここから始まろうとしていた――。

 

 ◇

 

「よし……皆! 勝利への願掛けとして、円陣を組もう! 心配は無用だ、『伝説世代』の再来と謳われた我々が力を合わせれば……ん?」

「ガレリアス、どうした?」

「……済まないエレオノール、クサンテ姫とデンホルムを見なかったか? バンホーの到着が遅れていることは分かっているのだが……」

「あ、あのぅ……お2人ならさっき、砦の外に……」

「なにィ!?」

「おいこらリリア! なんでそいつをさっさと言わねぇんだバカタレがッ!」

「ひ、ひぃいごめんなさいぃいっ!」

「……円陣は省略! 皆は直ちに大砲の準備だ! 先行した2人を援護するッ!」

「あ、あんのイノシシ姫ぇえ〜っ! チームワークってものを知らないんだからぁあっ!」

 

 ◇

 

 バンホーとアダイトがそれぞれの旅路に向かってから数日後。報告を受けたギルドナイトのハンター達は、G級個体のフルフルを討伐するべくユベルブ公国に入国。この国の出身であり、現地の地理にも詳しいという女性ハンターと協力して、雪山の洞窟へと進入していた。

 洞窟の中は激しい戦闘を物語る血痕が至る所に残されていたため、ハンター達はその「痕跡」を辿り、容易にフルフルを発見していた。しかし彼らが件の奇怪竜を捕捉した時、その個体はすでに事切れていた。

 

「ちょ、ちょっとぉ……! 何なんですかぁ、これぇっ……!?」

 

 その死骸を目の当たりにした、協力者の女性ハンターこと――ミーナ・クリード。彼女はフルフルの「成れの果て」を見下ろし、戦慄の表情を浮かべていた。

 自他共に認める、誰もが振り向く絶世の美少女。そんな彼女の美貌に見惚れる暇もなく、ギルドナイトのハンター達も驚愕の表情を露わにしている。

 

 フルフルの死骸が発見された当初は、バンホーとアダイトの火属性攻撃によって衰弱し、絶命したものかと思われていた。しかし、それはすぐに「誤り」であったと判明する。

 片手剣の斬撃やガンランスの竜撃砲、リオレイアによる絆技。それらの攻撃だけでは説明が付かないほど、死骸は激しく「損壊」していたのである。尾のようなものを凄まじい力で叩き付けられたかのように、フルフルの肉体は無惨に砕かれていたのだ。

 

 長い尾による強力な攻撃。そのような手段を得意とする大型モンスターは数多く存在する。しかし現場の痕跡から推測された尾の形状は、そのいずれにも該当していない。

 まるで「鎖」のような形状の尾による、凄まじい一撃。その痕跡だけを現場に残し、この雪山から忽然と消え去っていた「白の孤影」。ギルドナイト達は終ぞ、その正体を突き止めることは出来なかったのである。

 

(鎖のような形の尾……。これは……昔、お兄様が仰っていた伝説の……!?)

 

 しかし、そんな彼らを他所に。「伝説世代」のハンターを兄に持つミーナは独り、その兄が語っていた「種」の存在を思い出していた。

 今の時代においては、すでに血が絶えているのだと語られている伝説の竜。この現場に残された痕跡は、その竜の「尾」を想起させるものだったのである。

 

(そんな……いえ、まさか……!?)

 

 ――頂点捕食者たる「煌雷竜」すらも凌駕する、絶滅種。かつて滅びたはずの「鎖刃竜」が今、この大自然(ワイルズ)で牙を剥こうとしていた。

 





 皆様、お久しぶりです! 今話も最後まで読み進めて頂き誠にありがとうございました。今回はサブタイ通り、霊峰編の其の一(https://syosetu.org/novel/76619/29.html)に繋がって行く前日談となっており、霊峰編の終盤から活躍していた「宝玉世代」の一員・バンホーが主役を務めております。
 何気に今回はアダイトがG級装備を引っ提げているのですが、彼はこの後に待ち受けているミラボレアス戦で装備を全部ブッ壊されております。だから時系列的に最後の戦いとなる本編のドスファンゴ戦では、あのハンターS装備だったわけでして……(ノД`)

 また、今話は最新作「ワイルズ」の発売も祝して、申し訳程度ながら同作の設定等についても触れております。作者はSwitch勢故、今回の新作には恐らく参加出来そうにありませんが……これからワイルズの世界に挑まれるハンターの皆様! 私もファンの端くれとして、陰ながらこっそりと応援しておりますぞ〜!(*≧∀≦*)

 今話でチラッと名前が出て来たデンホルムの妻であるペトリナ・ファルガムは、北凍武人先生の3次創作作品「モンスターハンター 〜寒冷群島の紅き鬼狩り〜(https://syosetu.org/novel/369476/)」に登場する私の応募キャラになります。
 こちらの作品も百竜夜行に立ち向かうハンター達のアツい物語が描かれており、作品に登場するハンターを募集する企画(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=323437&uid=463582)(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=324516&uid=463582)も開催されております。ペトリナ本人の本格的な活躍もこちらの作品で描いて頂けると思いますので、機会がありましたらこちらの作品をぜひご一読ください!٩( 'ω' )و

 ちなみにバンホーは原案者のscp-114514先生が執筆されている3次創作作品「Monster Hunter Reincarnation(https://syosetu.org/novel/310602/)」でも主人公を務めております。本作とは異なる世界線のパラレルワールド作品となっておりますが、こちらの作品ならではのアツい展開が盛り沢山ですので、機会がありましたらぜひご一読ください〜!٩( 'ω' )و

 また、当時の募集企画で「伝説世代」のハンターを応募して下さっていた方々も、彼らを主役とする3次創作を公開されております。せっかくですので、改めてその作品群をご紹介させて頂きます!(*'ω'*)

・モンスターハンター~剛腕巨躯の狩人令嬢~(ゲオザーグ先生作)
https://syosetu.org/novel/264604/
 「伝説世代」の一員である長身美少女の大剣使い、クリスティアーネ・ゼークト。彼女が主人公を務めている作品です。特別編「追憶の百竜夜行」での初登場に至るまでの彼女の成長が描かれており、彼女の同期達も多数登場しております。また、霊峰編で活躍していた「宝玉世代」の一員にして、クリスティアーネの臣下でもあるエレオノール・アネッテ・ハーグルンドも登場しております。拙作では描かれなかった、クリスティアーネとエレオノールの再会も描写されておりますぞ。

・モンスターハンター〜伝説の邂逅〜(奇稲田姫先生作)
https://syosetu.org/novel/270292/
 「伝説世代」の一員である和風美女の太刀使い、ヤクモ・ミナシノ。彼女が主人公を務めている作品です。特別編「追憶の百竜夜行」の後、さらに経験を積んで教え子達を導くようになった彼女の姿が描かれております。また、霊峰編で活躍していた彼女の教え子の1人・フィレットもこの作品で活躍しております。さらに「伝説世代」の同期達や、本作ならではのオリジナルハンター達も登場しておりますぞ。

・恐れよ、暴れる竜を。狩れ、友の為に。(X2愛好家先生作)
https://syosetu.org/novel/261176/
 「伝説世代」の一員である寡黙で実直なハンマー使いの青年、ビオ。彼が主人公を務めている作品です。凶暴竜・イビルジョーとの因縁や、かけがえのない戦友との死別がハードに描かれており、彼のバックボーンが強烈に表現されている作品です。緊迫感溢れる戦闘シーンの描写が特徴であり、シリアスで熱い物語が展開されておりますぞ。

・モンスターハンター 古狩人の足跡(魚介(改)貧弱卿先生作)
https://syosetu.org/novel/272688/
 「伝説世代」の一員である熱血漢な狩猟笛使い、アカシ・カイト。歳を重ねて熟練のハンターとなった彼が主人公を務めている作品です。年老いてもなお伝説級の強さを誇る彼の戦い振りが描かれており、こちらの作品では凄まじい太刀の技を披露しております。

・モンスターハンター 〜狩場に駆け出す一人の双剣使い〜(団子狐先生作)
https://syosetu.org/novel/261269/
 「伝説世代」の一員である寡黙で大食いの美少女双剣使い、カエデ。彼女が主人公を務めている作品です。どのような相手でも冷静沈着に立ち回り、どんな過酷なクエストの後でも考えるのはご飯のこと。そんな彼女のマイペースなハンターライフが描かれている作品です。

・山をも掴むは鮮烈な青(VerT-EX先生作)
https://syosetu.org/novel/261395/
 「伝説世代」の一員である控えめな性格の少年狩猟笛使い、ヤツマ。彼が主人公を務めている作品です。モンスターとの戦いで負傷して引退してしまった兄の分まで戦い、一歩ずつ成長して行く彼の姿が描かれております。

・モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて(踊り虫先生作)
https://syosetu.org/novel/261427/
 「伝説世代」の一員であるお人好しなスラッシュアックス使いの青年、ディード。彼が主人公を務めている作品です。アダイトを含む他の同期達も登場しており、クサンテやデンホルムの人物像もより深く掘り下げられている作品です。ユベルブ公国関連の設定も緻密に練られている他、非常に完成度が高いエピソードもあるオススメの作品ですぞ。

・モンスターハンター 寒冷群島の紅き鬼狩り(たつのこブラスター先生作)
https://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~26718
 「伝説世代」の一員である快活な双剣使いの少年、ドラコ・ラスター。彼が主人公を務めている作品です。彼の故郷が主な舞台になっており、ドラコの恋愛模様なども描かれている熱血王道路線の物語となっております。また現在はハーメルンの方でも、北凍武人先生がたつのこ先生から連載を引き継いだ上述の作品(https://syosetu.org/novel/369476/)が連載されております。こちらの物語にも注目ですぞ!

・モガ村に轟かせ、我が名声(ただのおじさん先生作)
https://syosetu.org/novel/261633/
 「伝説世代」の一員である自信家な美少女操虫棍使い、アテンス・センテラ。彼女が主人公を務めている作品です。彼女と個性豊かな村民達との軽妙な掛け合いが魅力的な作品であり、モガ村での愉快なハンターライフが描かれております。

・モンスターハンター 〜全身鎧の女狩人〜(平均以下のクソ雑魚野郎先生作)
https://syosetu.org/novel/261721/
 「伝説世代」の一員である男勝りな美形の大剣使い、イスミ。彼女が主人公を務めている作品です。ぶっきらぼうなようで情に厚いイケメン女子。そんな彼女の恋愛模様も描かれており、彼女を取り巻く仲間達との友情を感じさせる場面もある王道の作品です。

 上記の作品群で主人公を務めているハンター達も「伝説世代」の1人として、アダイトと共に黒龍との決戦に臨んでいたのであります。霊峰編で描かれたラオシャンロン戦が終わる頃には、彼らも黒龍の魔手から世界を救った救世主になっていたのですなぁ……。彼らの活躍が描かれている上記の作品群も、機会がありましたらぜひご一読ください〜!(о´∀`о)



Ps
 「伝説世代」や当時のアダイトの強さを盛れば盛るほど、本編アダイトの弱体化ぶりが際立つ罠。仮にもアカムとミラに勝った奴がドスファンゴ相手に死にかけるっておま……(´・ω・`)
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