ありがちな英雄譚の序説に似ていても、これは彼には唯一の物語、その始まり。
いつしか山をも掴む狩人の、あるひとつの出発点。
オリーブドラブ様の執筆作品
『モンスターハンター~故郷なきクルセイダー~』【 https://syosetu.org/novel/76619/ 】
その特別編において読者参加企画で応募したキャラクターを用いた三次創作となります。
作者様より許可を頂いて執筆しております。
『森丘』――――晴れ渡った空は雲も一つなく、遠くに飛竜の番が仲睦まじい様子を見せて飛ぶのが時折見える。
少し森の中に目をやれば、青い熊が蜂蜜を幸せそうに舐め、赤い鳥竜が好物の虫を食べて満足なのか、素の中で眠っている。
そんな中、足音を殺してモンスターの傍を通り抜ける人影が一つ。
灰緑がかった銀の髪をした少年が、怯えた様子で卵を抱えて走っていた。
「あとこれだけ……これだ」
ぎゅむっと何かを踏む感覚に、少年はおそるおそる足元を見る。
足元には、赤く細い鳥竜の尾が……
『クルルルル……』
「あ、えっと……」
『キョエエエエエエエエエ!!』
「ごめんなさああああああああああい!!」
▼▼▼
ココット村からほど近く、しかし時に遠くなる村。
もっとも有名な狩り場として『森丘』を近くに携えたその村に、そのハンターは居た。
「……はい、確かに報酬、お渡ししました」
「あ、ありがとうございます……」
紫色をした異国の魔術師のような装いの少年は、黒地にライムグリーンの光を持つスピーカーのような笛を背負っている。
彼の名は、ヤツマ。
自然と共に生き、共に以前に抗う者達、『ハンター』。その一人である。
……ただし、まだまだ駆け出しの。
ゼニーの入った袋を受け取り、それからクエスト一覧を受け取ってから、ギルドに併設された大衆酒場の一角へ向かう。
料理を注文すると、ヤツマは狩猟笛を立てかけると、クエスト一覧を開き……そして、項垂れた。
「はあ……今回も、ギリギリだったな……」
『飛竜の卵2個の納品』という、比較的ではあるが簡単なクエスト内容を、イヤンクックの尾を踏んだことによってギリギリになってしまったことを思い出す。
「あの程度の依頼、兄さんならもっと簡単に終わらせていた」。そう心の中で思い、さらに落ち込む。
やってきたポテトのフライをちみちみと口に運びながら、改善点を思い出して更に更に落ち込む。
「はああああ……ポテトおいしい……けど、うさ団子が食べたいなぁ……」
懐かしい里のことを思い出しつつ、ポテトをつまんでいると、一匹のアイルーがとことこと近づいてきた。ブラキシリーズを纏った、蒼い毛並みのアイルーだ。
視界の端にその青色が映ると、ヤツマはそのアイルーの方を向いた。どうやら、知っている猫らしい。
「あれ、セレス、ここまで来るなんて珍しいね。ど、どうしたの……?」
「ヤツマ、また落ち込んでるのニャ」
「そ、それは……」
兄のオトモアイルーだった、セレス。彼女は現在、オトモではなくニャンターとして活動している。アイルーの身でありながら、砕竜とも対等に渡り合うような猫だ。
ヤツマがハンターになる前から、セレスに世話になっていたので、互いによく知っている間柄だ。
「それはそうと、ヤツマに手紙ニャ」
「手紙?」
「正式なものみたいニャ。ギルドマネージャーの印もあるのニャ」
「あ、ありがとう……僕なんかに、正式な手紙……?」
なにかやらかしたか?と思いつつ、手紙を受け取って開封する。
その内容を一読すると、ヤツマはなにやらある種のため息をついた。
「……セレス、先に帰って兄さんに帰るって言っておいて」
「分かったニャ」
先に建物を出るセレスを見ると、残るポテトを食べきって、狩猟笛を背負い、懐に手紙をしまう。
席を立ち、クエスト一覧をカウンターに返し、ヤツマ自身も建物を出る。
出入口をくぐったその時、入れ違いに入ろうとしたとあるハンターの一団の一部と肩が触れてしまう。
「あ、ご、ごめんなさ……」
「あぁ?んやぁ……これはこれは、ヤクライさんとこのヤツマクンじゃないかぁ??」
「おーおー、今日もご立派な防具つけて採取依頼か?」
「リオスの一匹でも狩ればいいのに、ヒヒヒ!」
「あ、あ、えっと……」
ガラの悪い一団の言葉に、ヤツマは言い返せずにどもる。
「あーあ。ほら、ヤツマクン黙っちゃったよぉ?」
「ヒヒヒ、言い返せないんだよ、コイツ!」
「だって、臆病者のヤツマクンだもんなぁ?装備が泣いてるぜ?なんなら、俺が貰って有効活用してやろうか?」
「それ、名案ですね、ヒヒヒ!!」
ギャハハハと下品な笑いを上げる男たちに言い返すこともできず、ヤツマは頭装備の帽子のつばをぎゅっと持ったまま、逃げるようにその場を立ち去ってしまった。
それを見て、男たちは「つまんねー」と言って舌打ちをした。
▼▼▼
村の東、ヤツマとその兄であるヤクライの暮らす家がある。
一階建ての木造のものだが、比較的大きい。
「……ただいま」
小さな声でだがそう言うと、家の奥から返事が返ってきた。
「ああ、おかえり」
「兄さん!」
家の奥から、片足を引きずりながら、紅葉のような色をした髪の青年が歩いてきた。彼は、おそらくヤツマの防具に使われているもの同じ――――とはいえ、防具には使えない端材を使ったものだが――――着物に似た服装をしている。
「兄さん、無理して歩かないで……!」
「このくらい歩いておかなきゃね、なまっちゃうんだよ。主治医からさ、リハビリが大事だって口うるさく言われててさ」
「それならいいんだけど……」
「まあほら、その重い武器とか一回置いてきなよ」
兄の促すままに部屋に向かい、自身の狩猟笛と頭装備を置く。それから、床の間へと向かった。
ちゃぶ台にはセレスが用意してくれたお茶とチーズのお菓子が二人分用意されていた。
既に兄は座っており、ヤツマはその正面の座布団に座った。
「さて、セレスからある程度はきいてるけど……詳しく頼む」
「う、うん。えっと、カムラの里に行こうと思うんだ」
「それはどうして?」
「その、同期の……僕の訓練所時代の同期のウツシって奴、覚えてる?」
「ああ、あのどことなくジンオウガっぽかった子か。よく覚えているよ。それが?」
「そのウツシから、手紙が来たんだ。カムラの里にモンスターの大群が迫っているみたいで、その防衛に協力してくれって」
『百竜夜行』――――モンスター達が波のように迫りくる災害。
かの極限に至る狂竜の病や、獰猛なまでに変貌する現象とはまた違う、あまりにも多すぎる獣や竜がやってくる、自然災害。
そのことについて、ある一定の知識はヤツマもヤクライも持ち合わせていた。だからこそ、カムラの里の緊急事態というのがよくわかった。
「なるほどね。そういうことなら行ってくるといいよ。留守は任せて」
「ありがとう、兄さん……」
うつむき気味に、ヤツマはチーズのお菓子を口にする。その様子にヤクライはなにか感じ取ったのか、声をかける。
「……ヤツマ、もしやなにか、また思い詰めているな?」
「へ?!いや、その、なにも……」
「本当に?迷いのあるまま狩場にいくのは命とりだぞ」
「う、そ、それは……」
「な、ちゃんと話してくれないか?」
ヤクライは懐から、轟竜の爪で作られたナイフをスッ……と取り出して見せる。
「な?」
なかなかいい笑顔で言うものの、手元のナイフとの対比で怖く見えるだけだ。
早い話、脅しである。ヤクライは礼儀正しく温厚な人物だが、弟に対しては少々悪ふざけしすぎる癖がある。彼なりのジョークらしいが、いつものことながら、ヤツマは諦めてか一周して呆れてか、観念してため息をついた。
「わかった、わかったから話すから兄さん、それしまって?!」
「うんうん、素直なのはいいことだ」
ヤツマは心の中で「脅したのはそっちなんだよな」と呟く。それによって気が紛れていたが、すぐに悩みを思い出して気分が沈む。
「……あのさ、僕なんかが行って、役に立てるのかなって……」
「ははー、まーた酒場の奴らになんか言われたんだな?」
「へ?!」
「顔に出てるんだって。これでも顔は広いからな、話は色々入ってくるんだよ」
……ヤクライは、ハンターだった。
無双の狩人より造られた狩猟笛・[王牙琴【鳴雷】]を振るい、古の幻影とも謳われる霞の古龍で作られた装備を纏う姿は、少なくない人々に知られている。最も有名な逸話は、その『古の幻影』を制した話だ。
他にも影すら置いていく迅き竜、空の王者と陸の女王、千の刃を従える竜など、その実力は上位をしのぐ、それこそG級と言われてもおかしくない実力を有していた。
だが、彼はとある竜――――黒き炎を操る空の王者と想定外の対峙をしてしまい、その毒と炎によって左足を負傷。捜索の甲斐もあって一応は五体満足で生還したが、左足の負傷はハンターを引退せざるを得ないものだった。
「何回も言うけどな、ヤツマ。形はどうあれ、今までお前はちゃんとクエストをクリアして来てるじゃないか」
「でも、ほとんど納品だし……」
「ハンターって、やっぱり派手な狩猟クエストを好む奴が多いよな。でも、どのクエストも等しく依頼者が困ったから依頼してるんだろ?納品クエストだって結構侮れないんだぞ」
「竜の狩猟」は、莫大な富と名誉、名声が手に入るとあって引き受ける者が多い。
しかし、納品依頼……例えば、渓流のタケノコの納品や、氷海のモンスターのキモの納品。釣りもそうだし、ヤツマが行っていたモンスターの卵の納品もそうだ。そんな依頼達は、「簡単」だとか「報酬がしょっぱい」だとか「地味」だとかで受けるハンターは少ない。中には「初心者のもの」と言って軽蔑する者までいる。
だが、対象となるものを求めているから、依頼者は依頼している。それだけは忘れるなと、ヤツマはよく聞いていたし、ヤクライはよく言っていた。
「それにな、その手紙はヤツマ宛に来たんだろ?それなら、ヤツマを信頼して出したはずだ。大事な里の防衛に、信頼できないハンターを呼ぶわけないだろう?」
「……!」
「大丈夫だ。お前ならちゃ―んとできるって!胸張って行って来いって!」
兄のその言葉で、ほんの少しだけ前を向けた気がしたヤツマは、ゆっくりと頷いた。
「うん……うん。行ってくる!」
「ああ、いってらっしゃい!」
▼▼▼
次の日、ヤツマは荷物を纏めて『森丘』を歩いていた。
荷物と言っても、カムラの里に行くための手段のある場所に行くまでのものなので、アイテムポーチいっぱいの荷物と革袋がひとつだけの荷物だ。そんなに大荷物ではない。
天候は晴れ。足元も悪くなく、狩りをするにも探索するにも良好だ。
「えーっと、竜の巣と反対側だから……こっちか」
メモ書きを見ながら、視界の端ですやすや眠る青熊獣の光景にほんのりとほんわかしながら、進んでいく。
途中、ランポスに襲われたのを蹴散らしたりしたものの、それ以外特に何事もなく森の中を進む。
事が起こったのは、昼食として休憩をしていた時だった。ヤツマは、次に向かう方向を確認しつつ、こんがり肉を齧っていた。
すると、突如として悲鳴が聞こえてきた。
「うわああああああああああああ!!!!」
「わあ?!」
男性の悲鳴だった。
反射的に立ち上がり、木々に隠れながら悲鳴の方に向かった。
開けた場所。そこで、三人が一匹に襲われている光景があった。
『ギャアアアア!!』
「や、やめろ、来るなぁ!!」
「ヒヒ、や、やめてくださいぃ!!」
「痛くて動けないぃ……」
空の王者・リオレウスが、見覚えのある三人に襲い掛かっていた。
「あれは……」
酒場で絡んできた、いつもヤツマに難癖付けてくるガラの悪いハンターの一団だった。
しかし、いつもの様子はどこへやら。片手剣は折れ、盾はひしゃげて使い物にならなくなっているし、ハンマーは柄が取れている上に、弓の弦は切れている。
マカライトや狗竜などから造られた装備はボロボロ。まさに満身創痍だった。
リオレウスは三人の上空を旋回しており、時折火球を吐いている。どうやら彼らは何かしらの理由によってこのリオレウスに喧嘩を売ってしまったらしく、返り討ちに遭っているようだ。
「クッソォ……火竜くらい簡単に狩れると思ったのによ……」
「死、死にたくないですううううう……!」
「体中がぁ……痛いよぉ……」
『グルルル……』
「……」
リオレウスは彼らを仕留めるタイミングを、今か今かと伺っている。
ヤツマは一歩踏み出そうとして、ためらった。
(あいつらを助けてもいいのか?あいつらは、いつも僕を下に見ていた奴らだ。僕が受けようとしたクエストを横取りするような奴らだ……)
……ヤツマが納品クエストしか受けないのは、なにも好んでではない。実力がないわけでもない。
ただ彼が受けようとした狩猟クエストを、横暴な者達が彼が気弱なことをいいことに恫喝し、横取りしていくために受けられないのだ。
恫喝に負けるヤツマもヤツマだが、そもそもクエストの「横取り」はルール以前にモラルすら無視した違反行為だ。
(……そうだ、弱肉強食って言うし、仕方がないんだ。見なかったことにして――――)
『ギャオオオオアアアアア!』
よくない考えが脳裏をよぎり、引き返そうとした瞬間、リオレウスの咆哮が響き渡った。
見れば、リオレウスはその蹴爪を開いて、三人のうち体を痛めて動けないであろう人物に狙いを定めていた。
その姿に、いつか見た光景が蘇る。いつか聞いた言葉が浮かんでくる。
――――兄であるヤクライがなかなか帰って来ず、捜索隊が組まれた日のこと。12を越すか越さないか程度の年齢だったヤツマは、留守番から抜け出してこっそりと、暗い中ヤクライが動けずにいるであろう狩場に向かった。
「自分が見つけるんだ」という、幼い正義感のままに進んでいたヤツマは、兄を見つけた。
が、同時に、兄を負傷させた竜――”黒炎王”リオレウス――に見つかった。
ヤクライは幼いヤツマに「逃げろ」と言ったが、幼いヤツマは黒炎王の威容に恐怖し、動けなかった。
黒炎王が蹴爪を向けて、幼いヤツマを捕らえようと突進してきた。
……それを阻んだのは、あまりにも鮮烈な「青」だった。
強烈な「青い電撃」を纏った竜が黒い王に、その「青い電撃」を纏った「剣」のような鶏冠を振り下ろしたのだ。
その光景に、幼いヤツマは目を奪われた。
まるで、絶対的な王へと反旗を翻す「反逆者」だ。「反逆者」が「王」にどこまでも食らいつき青く輝く様を、幼いヤツマは捜索隊がたどり着くときまで、眺めていた――――
――――そんな『
気弱なヤツマが、まさかハンターになるとは、家族すら誰も思っていなかったのだ。
しかし、訓練所は厳しかった。いや、厳しいのは承知だったが、気弱で臆病なヤツマにつらく当たる同期も少なくはなかった。
その同期たちが悪いのではなくヤツマの臆病さが悪いのだと、ヤツマもよくわかっていた。
わかっていたからこそ、何度も心が折れそうになった。やめてしまおうかとも思った。
しかし、期待してくれている人もいた。励まし、稽古に付き合ってくれる友人もいた。
それに、あの「青」の光景に再会したい……そうやって、なんども持ち直した。
でもある日、どうしてもダメになったときがあった。そのとき彼は、同期たちのようなある種の善意による厳しさではなく……純粋な悪意と嫉妬からくる厳しさにさらされたのだ。
訓練所に何年もいる先輩にとって、とんとん拍子……とまではいかずとも、ある程度順調に進んでいく彼らが気に入らなかったのだろう。
中でも一際臆病で狙いやすかったからか、彼らはヤツマに、悪意しかないひどい言葉をかけた。
流石のヤツマだって、悪意と善意の区別くらいつく。しかし、ある先輩の放った一言が、彼の心を深く抉ったのだった。
次の日、ヤツマは訓練所に行けなかった。訓練所から逃げ出して、森の隅で泣いていた。
そんな時、兄がいた。歩けるまでに回復した兄が、散歩に偶々通りかかったのだ。
ヤクライはヤツマの話を静かに聞き、それから、言った。
「……なあ、名前の由来って知ってるか?」
「名前の?」
「ああ。昔母さんから聞いたんだよ。ちょっと変な響きだよなあって思ったからさ」
「う、うん……」
「そうしたらさ、お前の名前の由来はさ、山のような龍の名前から来てるんだとさ」
「……?」
「俺も話に聞いただけだけど、『浮岳龍』って龍はさ、でっかくて、空を飛んで……だからって訳でもないけど、俺は、ヤツマはこんなとこで沈んでるようなガラじゃないと思うんだ」
「……」
「大丈夫大丈夫!長年いる先輩だって?んなもん殴り飛ばしていいんだって!ほら、轟竜のナイフもあ……」
「それはやめて?!」
そんな会話で、ヤツマは何とか立ち直れたのだ。
訓練所に戻り、厳しい訓練を抜け、そして……兄の装備を譲り受け、ハンターとなった――――
「……」
目を瞑り、ひとつ深呼吸。瞼の裏に、青い光がぼんやりと浮かぶ。
『ギャオオオオ!!!』
「嫌だ、嫌だぁ!!」
動けない一人に迫るリオレウス。ヤツマは地面を蹴って狩猟笛を抜き……
「オラアアアアア!」
リオレウスの頭に、叩き付けた。
「お、お前は」
「だ……黙ってろテメーら!さっさとそいつ担いでとんずらしろ!!いいな!!」
「ひひ、は、はい!!」
男たちが逃げていく。リオレウスはそれを追うことなく、新たな脅威としてヤツマを警戒していた。
『グルルルル……』
「よぉ、ハジメマシテ、空の王者サン。ちょっとそこ、退いてもらっていいか?」
『グルル……ガアアア!』
「へえ、そうか。んじゃあ、力強くで退いて貰う!」
自分を鼓舞するように、荒々しく。かの反逆者を真似るかのように、堂々と。
震える足を大地に押し付け止めて、奥歯をグッと噛みしめる。
「……やってやる!」
リオレウスもそのままというわけにはいかず、噛みつこうと一歩踏み出す。
ヤツマは紙一重で回避し懐に潜り込み、脚へと柄による攻撃を叩きこんでから吹き口に息を吹き込む。
反逆者の唸り声のような爆音が鳴り響く。リオレウスは警戒したのか隙を作らせようとしたのか、思いっきり羽ばたいた。
しかし、ヤツマは動じることなくエムロードフラップを構え、振り回しながら迫る。
大概の小さな者は、羽ばたき一つで動けなくなる。リオレウスはそれをよく知っていた。だからこそ、対峙する紫の衣の小さなものが、手にする
その思考する時間が、リオレウスの隙となった。
瞬間、演奏を上回る轟音と共に衝撃波が走る。
――――“音撃震”。全力で吹き込まれた息は、轟竜の咆哮にも匹敵する衝撃となって、リオレウスを襲う。
『ググググ……!』
想定外のダメージをくらったリオレウスは、このままの戦闘続行は危険と判断したのだろう。飛び去って行った。
「はあ、はあ……」
ぺたんとその場に座り込む。テンションが突然切れたのか、リオレウスが飛び去る様子をぼんやりと見ていた。
しばらくして疲労が回復し、荷物を置いてきた場所へ戻りながら考える。
(……できた)
自分にも、撃退だがモンスターの相手ができた。どうすれば戦場に立てるのか……ちょっとだけつかめたような気がした。
浮かれていてはならないのは重々承知だ。それでも、彼にとって欠片でも掴めたのは嬉しいことなのだ。