不器用な二人のバレンタインの、本当に短い話

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初めまして、ナチといいます。
この小説はロードオブヴァーミリオン3に登場するジキル、ハイドのSPフレーバーテキストを参考にした二次創作ssになります。
キャラのイメージや時代背景に大幅に逆らっている可能性がありますので、苦手な方はバック推奨です。

さて、今回二次創作というのはワタクシ初めてでこざいまして。文章表現も見るに耐えない、キャラ崩壊も甚だしいオチに終わってしまうのではないだろうかとビクビクしておくりますが、一重にキャラ愛だけで乗り切りましたので楽しんでいただけたら幸いでございます。


それでは、以下本文でございます。ごゆるりと妄想の世界をお楽しみくださいませ。


エドエマ(SPジキルハイド)×バレンタイン

想いを伝える手段というのは言葉だけではない。その胸にある気持ちを形にして相手に届けたり、約束を取り付けたりと様々だ。

 

 

2月14日、この日は愛の誓いの日とされている。ロンドンの街では仲睦まじい夫婦や幸せそうなカップルがちらほら目に入る。そんな様子を見て、恋する乙女エマ・ハイドは自らのそれと比べて憂鬱な溜め息をついた。

 

「そうか、今日はバレンタインデーなのよね…」

 

彼女にも想う人はいる。鈍感でどこか抜けている、でも誰よりも優しく一緒にいるだけで心暖まる素敵な人だ。

だが、自分と彼の距離はどうにも道行く男女のそれとは違い、互いに不器用でギクシャクしている。

 

「先生、今日は予定が空いていたりするのかしら…」

 

彼女の冴えない想い人は大切な患者の診療に隣街まで出かけていた。彼女自身も彼の事務作業を片付け、送り出すのに立て込んでいたため、今日はどのような日なのか気に止める余裕はなかったのだ。

 

―思い切り甘えるには絶好のチャンスだったのに、なんで忘れてたかなぁ

 

あまりの失態に泣きそうになる。彼の職業柄、当日に約束を取り付けるのはなかなかに難しいからである。気分はどん底のまま帰宅すると執事がなにやらプレゼントの準備をしている。

 

「おや、お嬢様、お帰りなさいませ。」

「ただいま、バレンタインのプレゼントかしら?」

「左様でございます、家内には世話になっておりますのでこの期に感謝の気持ちを伝えようかと思い、準備をしていた次第でございます。」

「仲睦まじそうで何よりだわ。」

 

素直な感想を述べ、自室に戻る。もしやこれは名誉挽回のチャンスなのではなかろうか。

 

―せっかくのバレンタインなんだもの。贈り物を渡すくらいなら迷惑もかからないかもしれないし。

 

先程の気分とは一転し、気持ちは途端に風向きをかえた。恋する乙女は華やかな気分に包まれながら再び街に繰り出した。

 

 

――――

 

 

「ジキル先生は想いを伝える相手はいたりしないのかい?」

 

 

不意にそう聞かれて答えに戸惑う。投げかけられた質問があまりにも突飛だったからである。

 

「えっと…、それはどういう…?」

「今日はバレンタインじゃないか、先生にガールフレンドとかはいないのかい?」

 

診療の助手の青年が邪気のない笑顔で訊ねてきた。道理でカップルをよく見るわけだ。忙しくてあまり気にはならなかったのだが。

自分と同じ赤い髪をした可愛らしい笑顔が思い浮かんだ。彼女は今どうしているのだろうか。

 

「いや、いるというかいないというか…」

 

ハイドと自分との不器用な距離は、それに自信を持って答えられるほど上手くいっているものとは思えず言葉を濁す。彼女に好意を持っているのは疑うことのない事実であるわけだが。

 

「でもどうしてまたあらたまってそんな話を?」

「今日はバレンタインだからね、男性が恋人に気持ちを伝えるいい機会だと思ってね。特に先生みたいに女性に控えめな紳士にとって、これほどうってつけな日はないさ。」

 

痛いところをさらりと突かれ、言葉を失う。

 

「特に先生みたいなタイプはシャイで不器用だから自分から口に出して、みたいなことは少ないだろう? たまには気持ちを表して伝えないと愛想を尽かされちゃうよ。」

「はは…、手厳しい指摘だね…。」

「せっかくの年に一度しかない日なんだ、今日だけは一皮向けた気持ちで積極的にいこうよ、ジキル先生!」

 

自分の肩を叩き、清々しく笑うアシスタントの姿が女性慣れしていない自分と比べてやたら眩しく見えた。

 

 

外では雪が降っていた。愛し合う男女としてはこれ以上の絶好のシチュエーションはないだろう。空を少し見上げ帰路に向かう途中に賑やかな商店街があった。

ふと助手の青年の先程の言葉を思い出す。

 

―たまには気持ちを伝えないと愛想を尽かされちゃうよ

 

確かに、持ち前の不器用さが彼女との距離を縮めるのに大きな障害になっていることは自明の理だった。彼女もそれに気づいてくれているのか積極的に会いに来てくれている。本来なら男性で歳上の自分がリードするべきだと感じるが、仕事が立て込んでいるのもあり、彼女とのための時間も満足に作れないでいる。

 

―せめて普段の感謝の気持ちだけでも、彼女には伝えなければならないな。

 

商店街のひとつひとつの店に目を向ける。恋人に贈り物をするためだった。

 

 

――――

 

 

恋人への贈り物というのは贈る物次第で意味が変わるのを知っているだろうか。例えばハンカチなら「もう会いたくない」、香水なら「親密な関係になりたい」などの意味がある。

 

 

ジキルは帰路をたどり、見馴れたドアの前に立つ。

 

「ただいま…。」

 

そこには誰もいない、はずだった。

 

「お帰りなさい、先生!」

 

そこには無邪気な、飾らない笑顔があった。

 

 

「遠征、お疲れさまでした。大変だったんじゃありませんか?」

「確かに大変だったけど助手もいてくれたからね、いつもより楽だったよ。」

 

他愛のない会話。ジキルはハイドの用意してくれたシナモンティーとミンスパイで一息ついていた。不思議と暖かな気持ちになるのは彼女が今、隣にいてくれているからだろうか。

感謝の想いを伝えようと言葉を探し、向き合おうとしたとき、彼女の顔がすぐ近くにあった。

 

「先生は、今日がなんの日かはご存知ですか?」

「あ、あぁ…、バレンタインデーだろう?知っているとも。」

 

その距離と質問に虚を突かれ、必死に言葉を絞り出そうとするも束の間、ジキルはしどろもどろになりながら答えた。

 

「ですから、はい、これ。」

 

ジキルは綺麗に包装されたひとつの包みを受けとった。

 

「開けてみてください。」

 

誘われるままに開封すると、そこには藍色のネクタイが入っていた。

 

「これからもお仕事やお付き合いで外出されることもあるでしょうから、是非使ってください。」

「あぁ、ありがとう。すまない、嬉しいよ。」

 

ジキルは嬉しそうにその優しさに満ちた笑みをこぼした。ハイドは有頂天になって、彼が喜んでくれたのが嬉しくて嬉しくて、こう続けた。

 

「ねぇねぇ先生、大切な人への贈り物にはひとつひとつちゃんと意味があるって知ってますか?」

「あ、あぁ、話は聞いたことはあるけど詳しくは知らない、かな?」

「ネクタイを女性から男性に贈るときは『尊敬』と『あなたに夢中』っていう意味があるんですよ、知っていましたか?」

 

少し顔を赤くした目の前の恋人の破壊力に、ジキルはもはや方向感覚を失いつつあった。

 

「わたし、誰よりも優しくて不器用なあなたが大好きですから。」

 

バレンタインにだからこそ言える本当の気持ち。次はジキルが答える番だった。

 

「…ありがとう、本当に、言葉にできないくらい嬉しいよ、エマ。」

 

ジキルはひとつの小包を取り出した。

 

「これは僕から君への感謝の気持ちだ。受け取ってほしい。」

「ありがとうございます、開けても?」

「ああ。」

 

ジキルは微笑んだ。ハイドの開けた箱の中には可愛らしいデザインの懐中時計が入っていた。

 

「いつもありがとう、エマ。僕も君を愛しているよ。」

 

ジキルが気づいるかどうかはわからないが、男性から恋人に贈る時計の意味は『これからもあなたと共に』。

想いが押さえきれなくなり、ハイドの目からは涙がこぼれた。

 

「ごめん、僕はまた何か気にさわるようなことを――」

「いえ、違うんです。嬉しくて、嬉しすぎて、涙が――」

 

ハイドは泣きながらジキルに抱きついた。ジキルは自分の胸の中で泣く彼女をただ、黙って抱き締めた。

 

2月14日、愛の誓いの日に二人は見栄も不器用さも全てを捨て、互いの愛情を分かち合ったのだった。

 

 

――――

 

 

 

時刻の針は天井を過ぎ、時計の鐘はまた新しい一日を告げた。

 

「それでは失礼します、先生、今日はありがとうございました。」

「ああ、また明日、おやすみ、いい夢を。」

 

最愛の女性を家まで送り、一人の外科医は雪が静かに降るロンドンで一人帰路を辿る。

 

――二人で過ごし、想いを重ねた温もりを胸に感じながら

 

 

 

――――fin――――

 




いかがでしたでしょうか、私自身ssというものの体感がわかっていないせいでぐだぐだした作品になっているかもしれませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。

またインスピレーションが働きましたら何か書かせていただくこともあるかもしれませんがそのときはよろしくお願いいたします


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