pso2仮想戦記二年前の戦争 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
タクミは窓から群がる白アリ(マスコミ)を見て見て、やがて口を開いた。
タクミ
『記者会見の準備をしてくれ。洗いざらい吐いてやろうじゃないか。それが国民の望みらしい。』
イオ
『了解…記者会見の準備を…ハァァァァ⁉︎』
イオは驚きのあまり、自分がどうかしているのでは無いかと誰かに聴きたい衝動に駆られた。
サミュエル
『おい、お前今何つった?』
タクミ
『いや、記者会見をしてやろうとry』
イオ、マトイ、アリス、サミュエル、フィリップ
『ふざけてんのかゴラァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎!』
(五人から蹴りが飛んでくる。)
タクミ
『バブリシャス‼︎_:(´ཀ`」 ∠):(断末魔)』
五人からの強烈な蹴りを食らったこのバカ(若者)は何が起こったか全く分からんと言った顔をしていた。
イオ
『何考えてんだ!そんなことをしたら認めたと同じじゃ無いですか!貴方はそんな冤罪で歴史に売国奴として記録されたいのですか?』
タクミ
『待て待て待て待て!俺が本当にそう答えると思うか?』
フィリップ
『じゃあどうする気だったんだ?何処ぞの政治家みたいに会見中号泣して何をしているか分からん場でも作る気だったのか?』
タクミは閃いたとばかりに振り返り、フィリップを指差し、こう言った。
タクミ
『そう、それだ。』
暫くして記者会見会場の中は多くのマスコミでごった返した。皆、今か今かと待ちくたびれていた。
ニュースキャスター
『あっ来ました!売国行為を行ったタクミ・F大将が今、現れました。』
その頃、舞台の裏では第一艦隊の幕僚と護衛の憲兵が控えていた。
イオ
『ついさっきまで疑惑だったのにもうやったに変わってんじゃねぇか…。』
イオは苦々しくキャスターの報道を聞いて、軽蔑に溢れた視線を送っていた。因みにイオの後ろでは血に飢えた獣みたいに狂気を剥き出しているマトイとアリスをサミュエルとフィリップが食い止めていた。
フィリップ
『ステイステイ!マトイ様落ち着いて!お願いだから‼︎』
サミュエル
『今この二人を解き放ったら、美女が野獣になっちまう。会場が血の海になっちまう!』
ひな壇ではタクミが軍の正装でマイクの上に立っていた。
そして重い口を開いた。
タクミ
『え〜…この度、第二銀河遠征の際の売国行為について先ず釈明と謝罪を致しますがその前に…大変お待たせしてすいませんでした‼︎』
タクミが深々と頭を下げると大量のカメラからフラッシュをたかれ、暫くタクミはその姿勢を続けた。やがてフラッシュが収まってくると席に座り、静かに待った。
記者
『質問宜しいでしょうか?』
タクミ
『どうぞ。』
記者
『今回の売国行為疑惑について一言…』
タクミ
『うワァァァォァァァァンンンンン‼︎‼︎』
記者
『何で泣き出してんの⁉︎まだ何も聞いてないんですが‼︎』
タクミ
『私はぁ‼︎これでもね精一杯やったんです‼︎そしたらこんな感じになってて‼︎そりゃ皆さんもねあんな後ですから‼︎誰かに責任を押し付けたいんでしょうけどね‼︎
私は良かれと思ってやって!多くの将兵はついて来てくれて感謝の気持ちで一杯ぉぉぉぉううう‼︎大仕事の後の紅茶はこれまた格別でェェェぇぇ‼︎』
記者
『さっきから何言ってんのこの人⁉︎』
タクミ
『そして気がついたら金の亡者どもに目をつけられ!そうかと思ったら勝手に大将とかになってるしoに至っては女遊びやめちゃってるし!
でもね貴方に何がわかるんですか‼︎うちのoの何がわかるっていうんですか‼︎彼は、仕事のストレスで、毎日の女性兵士の情事の数が100から50に減っちゃって見るに堪えない姿になってるのに‼︎』
記者
『もう何の話か理解できないんだけど⁉︎寧ろ、良い方に傾いてない?』
タクミ
『ですから!私が伝えたいのは!こんな感じのォォォォォォォォォォ‼︎オオゥ‼︎………今、謝ったんで記者会見は終了しまーす。』
報道陣一同
『フザケンナ‼︎(一斉に椅子を投げる)』
然し、椅子はタクミに当たることは無く、ことごとく目の前で跳ね返った。
タクミ
『フハハハハハハ‼︎硬化テクタイトの複合ガラスだ!傷もつかんよ白アリ共ぉ‼︎』
?
『あっそう。』
突然現れた謎の人物はたった一発の拳骨で強化テクタイトガラスごと、タクミを思いっきりぶん殴った!
その威力はその他報道陣すらも吹き飛ばす程の威力を持っていた。
イオ
『あ、貴方はフレーゲル・ジャグホッド下院議員‼︎』
タクミ
『おっ!ジャグ久しぶり!何しに来たの?要塞のみんな元気でやってる?』
ジャグホッド
『ああ、そりゃもう…じゃなくって‼︎何だお前の今の茶番は‼︎これ全国放送なんだぞ!二番煎じの二番煎じって何だよ?意味わかんねぇよ‼︎』
タクミ
『イデデ、胸ぐら掴むなよ?いやだってこんなよく分からん戯言に付き合うのもバカらしいから盛大にふざけてやろうと思って…。』
ジャグホッド
『ほっとけば良いの‼︎ホントガキの頃からのアホさ加減は変わらんなお前は。国民の笑いもんだぞ大体お前は…』
タクミ
『本当にそう思ってんのなら説教やめてくんない?それこそ笑いもんじゃね?』
ジャグホッド
『とにかく、武田先生が話があるんだと、逃げるぞ!』
第一艦隊面々
『どうやって‼︎』
ジャグホッドは、懐から手榴弾を取り出した。そして軽く投げると…
ジャグホッド
『みんなサングラスか目を瞑って耳を塞げ‼︎』
フラッシュバンであった。眩い閃光と爆音で報道陣は呻きと悲鳴をあげていた。
ジャグホッド
『今の内だ。駐車場まで走れ!』
タクミ
『運転は任せたぞ!』
サミュエル
『おう!任せろ‼︎』
皆は大急ぎで駐車場に走り、その場から脱した。追っ手を振り切ったタクミ達は、首都の北側にある国土交通大臣武田大臣の邸宅に転がり込んだ。そこにはユ・カタ姿の武田大臣が腕を組んで待っていた。
タクミ
『お久しぶりです。武田先生。その節はどうも。』
武田
『何が久しぶりだ。全くお前は昔から…派手にやってくれて、全く。取り敢えずこい。マスコミはこっちで何とかする。話があるからな。』
完全に縮み込んだタクミを待っていたのは、ネルソン元帥と今回の責任を取り、辞任したセルゲイ退役元帥が待っていた。タクミは二人に敬礼すると二人も敬礼を返した。
武田
『先程の行為は大変愚かな行為である事は君も分かっているのだろう?まぁ、余りにも君には酷な事だと言うのも承知しているし、君を弁護する準備も出来ているからそれは置いておいて…ジェームズ頼む。』
ネルソン
『あい分かった。さて、タクミ。お前さん第3銀河の事は知っているな?第3銀河は…』
タクミ
『第3銀河。オラクルでは御伽噺の世界。異世界…異次元として伝わっているが…実態は第3銀河とここを繋ぐこちらからは通過困難な回廊の先にある銀河。異次元ではなくこの次元に確かに存在する銀河。オラクルの中で知る人は上の立場にある人間のみ。』
ネルソン
『そうか…そこまで分かってるのなら、オラキオやグラールも知っているな。早速本題だが、オラキオは王政国家なのは知っているな。』
タクミ
『はい、ここ最近に公開された情報では国王が病に倒れ、あまり良いとは言えぬ状況だとか。』
セルゲイ
『その国王がね、タクミ君。崩御なされた。つい四ヶ月前程出そうだ。』
武田
『そして王国は二分した。第一王子シュメルヒ、第二王子スレイマン。第一王子は嫡男となるのが普通だが、母親は妾の子、弟は王妃の子。
第一王子は武勇に優れたが人心を返さぬ政を行い、先王から危惧された。だが第二王子は武勇には劣るものの知恵と思いやりに溢れた子だった。先王は第二王子に至尊の冠を与えようとした。だが。』
ネルソン
『第一王子はそれに反発。国の殆どの軍勢を手中に収めた。第二王子は配下を連れ逃げることしか出来ず、グラールに保護を求めた。道中兵を集め、グラールの軍勢が加わったが戦力差はいかんとし難く、敗戦続き。』
セルゲイ
『グラール政府はこのままでは自国領まで脅かされると言う恐怖に襲われた。然し、友好を深めた先王の形見である王子を見捨てられず、シュヘルミは、はなからグラールも飲み込むつもりだったのか圧倒的な武力で迫った。』
ネルソン
『いや、結論から言ってやったほうが良かったの。全く年は取りたくない。つまり、グラール政府は我々に助けを求めた。オラクル政府、いやマッケンジーに。』
タクミ
『まさか出兵せよと⁉︎参戦義務のない事後同盟なのに?あれだけの敗戦の後に‼︎』
もはや世論はいや時代は、世界は!血を欲していた。もはやこの宇宙は滅びの道をひた走るが如く無数の命の消滅を望んでいたのだ。この若い英雄は絶望に陥ろうと…いや陥る間すらも与えようとはしなかった。
タクミ
『もはや…これまで…いえ、国民も血を望むのなら、国民に選ばれた政府の為なら、民主主義国家の軍人としての責務を果たします。』
ネルソン
『…貴官の第一艦隊総勢20,000と半個艦隊6合計80,000の戦闘艦艇と陸戦将兵80万分の輸送船団を伴い、第3銀河に迎え、なお、追加補充された第一艦隊10,000隻は要塞の守備に残してもらい、よって貴官の分艦隊司令官と及びその座乗艦は要塞に残す事。良いな。』
タクミは背筋をサッと正し、右手先にまで生気を感じさせる手つきで敬礼を、彼の中の人生で一番誇れる敬礼をし、こう答えた。
タクミ
『覇ッ‼︎』
ネルソン
『2日後の出征式典後、速やかに出撃せよ!…それとな…耳を貸せ。二つある先ず良い方から、故郷の屋敷へ皆を連れて行け、母君と姉君が待っている。父君に会ってこい。それと悪い方は…』
タクミはその悪い方を聞いた時、少し驚いた…と言うより予想こそしていたがと言う顔をして聞いていた。
タクミ
『我々は…大量の流血と犠牲で束の間の平和を得たのですね…なんと言う皮肉…。これが理由で出征するのなら我々はもはや救いようが無いですね…。』
ネルソン
『歴史とはそう言うものだ。第3銀河の航路はセルゲイが用意してくれた。これがこのジジイの得意分野だからの。』
セルゲイ
『私の贖罪は果たす事は出来ぬだろうが、地獄に行く前の執行猶予に良い事をしておきたくてな。目を通しておいてくれ。
諜報部の情報のみだから信用性はかかるが…使えると思う。それとな第3銀河の情報を伝えてきた諜報部員も追加される部員も君の手足になるようカスラ君が手配してくれた。先に潜入してる方は現地で連絡してくれ。』
タクミは感謝を述べ、三人に一礼すると、きびすを返して部屋を後にした。
タクミは外で待っていた幕僚達を自分の故郷に誘った。皆、戦の疲れを癒したくて仕方がなかったのでついて言った。途中、都市を散策していたガブリエルを見つけたので、第四艦隊の首脳部も連れ、アークスシップ710番艦アテナイへと向かった。そこはアークスシップの居住区の地下部分を除く全てが、草原と森林で広がっている農業シップであり、タクミの故郷でもあった。
その日の夕暮れ時に一行は着いた。タクミやフリードリヒは勿論。Fファミリーの連中は何度か来たことがあるので
普通にしていたがそれ以外の連中は空いた口が塞がらなかったのだ。目の前に眩い光を放つ大豪邸。まるで宮殿の如くアークスシップの中央に建っていた。
イオ
『センパイ…これ誰の家ってオシロ?キュウデン?』
タクミ
『…は?何言ってんの俺ん家だよ?』
イオ
『こんな大宮殿に住んでんすか?』
フリードリヒ
『こいつの家系は、古い地主でなこのアテナイが建造された時にこいつの酪農業全般を取り仕切ってたのさ。だからこんな豪邸を用意できる。』
?
『まぁ!誰かと思えばタクミ!貴方なのね‼︎』
タクミ
『姉上!』
イオ、マトイ
『姉上⁉︎』
イサラ
『姉のイサラと申します。皆様には大変弟が迷惑をお掛けして、申し訳無く…。』
イオ
『いえいえ!大将閣下…弟さんにはいつもお世話に!』
マトイ
『あれ?タクミはヒューマンなのにイサラさんはデューマンだね?ちょっとおかしく無い?』
タクミ
『ああ〜それは〜…サミュエル宜しく!』
サミュエル
『説明しよう。普通、ヒューマンとデューマンの間に子が出来たら、双方の遺伝子的な問題で、ヒューマンかデューマンに分かれるか、何万分の一の確率だが悪ければ子が出来ない。
双子も然りで、どっちか片方ずつでしか誕生しない…だが、子が出来ない何万分の1よりも遥かに超える何十万分の1の確率で片方がヒューマン、片方がデューマンで生まれる事もあるんだ。理由とかは未だ解明されてなくて、この国だけでも今はこの姉弟だけだ。両方生まれて来たのは、ミラクルな話だろ?』
?
『イサラ?どなたかしら?頼んでた運送屋の方?』
イサラ
『母上!タクミです!タクミが帰って来ました‼︎』
イザベル
『まぁ!何年も帰ってこなかったから心配したんですよ!まぁ大きくなって…。』
アリス
『お母様もずいぶんお若いですね。』
フリードリヒ
『こいつを生んだのは確か22だからな…電撃出来婚だった…本当に早かった。』
イザベル
『イサラ、皆様をお通しして。タクミ、それとフリードヒリはあの人に会って来なさい。』
フリードヒリ
『俺も行くのか?イザベル、俺はいいよ。』
イザベル
『あの人の友達は貴方くらいしか残ってないんだから行かなきゃダメです。』
フリードヒリ
『とほほ…はい。』
タクミとフリードヒリは皆と別れると、日の沈みかけた森の中に入っていった。暫くすると、ひらけた広場に出た。そこには龍族の剣と騎兵刀で出来た十字の墓があった。
タクミ
『父上…今戻りました。家を出たのは15の時。あれから七年の月日が経ちました。貴方が予想した通り、我が祖国はより激しい戦いに身を投じましたよ。』
フリードヒリはタクミがいくつかの言葉を物言わぬ墓碑に向けていたのをただ見守っていた。 フリードヒリはタクミが自分の友人…つまりタクミの父の生き写しのように感じていた。彼は葉巻に火をつけると誰にも聞かれぬ大きさで呟いた。
フリードヒリ
『お前たち親子は…本当に何処まで似てるんだが…』
その頃、マトイたちは屋敷に通され、屋敷の外の露天風呂に入っていた。
アリス
『もう益々、閣下の素性が分かんなくなって来たわね。』
イオ
『お金持ちの域…超えちゃってるもんね。』
マトイ
『いい湯……(*´ω`*)』
アリス・イオ
『ホント…(*´ω`*)』
イオ
『マトイさん胸おっきくなってない…』
マトイ
『そ、そんな事ないよ(汗)アリスさんの方がおっきいよ。』
イオ
『どうやったらそんな大っきくなるんだよ…(涙)』
アリス
『グフフ…(^p^)こうするんだよ!』
アリスはイオのまだ未発達…されど有望な乳房に手をやり揉みしだき始めた。
イオ
『キャ⁉︎何スンダヨ⁉︎:(;゙゚'ω゚'):』
イオは普段の男勝りな口調を感じさせない実に乙女らしい悲鳴をあげた。更にマトイも気を治められなくなり、
マトイ
『フフw私も!エイ‼︎』
イオ
『ソンナニ…触るなよ…変な気持ち…ニ…///』
ロッティ
『何やってんだろ…。』
そんな楽園の如く広がる光景を隣の男湯から見る無粋な輩がいた…。
ガブリエル
『おい桃源郷が広がってるぞ…。』
アースグリム
『それぞれの良さがあって良いな…。』
サミュエル
『ああ‼︎くそ!この壁さえ無ければ…』
リベリオ
『提督方…。』
マトイ
『………。それ。』
マトイは少し手を動かすと男湯で眩い閃光が走り、数人の男達の悲鳴が走った。
ロッティ
『な、何ですか今の⁉︎:(;゙゚'ω゚'):』
マトイ
『向こうの人たちが転んだんじゃない?』
因みに、その様子をまた少し離れたところから見ていた師弟が居たのだが、そちらも似たような末路を辿った。
消し炭を落としたタクミが、広間に入ると、沢山の人でごった返していた。そこには六芒均衡とウルク総司令とテオドール、ゼノ、エコー、リサ、マールー、オーザ、その他諸々の人々がいた。
タクミ
『こんなに呼んだだっけ?』
そこに、幼い娘を抱いて歩いてるフィリップが居たのでタクミは事の顛末を聞くと、彼曰く。
フィリップ
『本当はそれぞれ別の所でやるつもりだったんだがこの大人数ではどうしようもなくてな、そこでかなりのスペースが取れて、
気概なく使えるとなったらお前のとこしか無かったのさ。ネルソン爺さんから聴いてるだろう?』
タクミは無言で首を左右に大きく振った。ふとフィリップが指を指したので指した方を見てみると、焼き鳥とビールで上機嫌なネルソンが居た。ネルソンはタクミを見ると手を合わせて、老人には似つかぬ早足でその場を後にした。
タクミ
『まぁ、みんな楽しんでるから良いけど…なんか、複雑…。バルコニーに居るわ。』
フィリップ
『あ、ああ。』
マトイはバルコニーの方へ遠ざかっていくタクミを見ていた。マトイは撤退戦の頃からの違和感を払拭出来ていなかった。マトイは後を追い掛けた。
マトイ
『何をしてるの?』
タクミ
『酔い覚まし。さっきオーザとゼノ先輩とアフィンと一緒に高い酒飲んで、クラクラしぱなしなんだ。』
マトイ
『ねぇ…隠してる事とか無い?この前から変だよ?ここに帰って来てからもっと変。』
タクミ
『何も隠してない。飲み過ぎただけさ。』
マトイ
『でもタクミ!』
タクミ
『今は‼︎………一人にさせてくれ。すまない頭を冷ましてくるよ。マトイも楽しんでね。』
タクミは力無く屋敷の奥に歩いて行った。
マトイはただそこに立ち竦むしか無かった。
私は、ただ力になりたい…ただそれだけなのに。あの人はどんどん遠くへ行ってしまう。私を置いて行ってしまう。
自然とマトイの瞼は熱くなって行った。
フリードヒリ
『あまり、あいつを責めないでやってくれ。』
声のする方を振り返るとそこにはグラス片手にフリードヒリが立っていた。フリードヒリは片手を顎にやり少し考えてまた口を開いた。
フリードヒリ
『マトイちゃんになら話して良いだろう。あいつは今な大事な決断をしなきゃならん年頃になっちまったんだ。事と場合によれば、この国を、世界を敵に回すかも知れない。
あいつは情けない話だが、それで頭が一杯になっちまったんだ。女を泣かせるなとあれだけ言ったんだがな。…俺たちはあいつに残酷な運命を押し付けちまった。
俺から頼むのは少し変な気もするが頼む。あいつの力になってやってくれないか。あいつが道を踏み外さないように導いてやってくれ。』
マトイは少し目を拭うと、小さく、しかし力強く頷いた。
その目には決意があった。
するとフリードヒリは、グラスに入った赤ワインと親指程の小瓶から何かを取り出し、赤ワインに入れるとマトイに差し出した。
フリードヒリ
『ま、湿ったれた話は終わりだ。飲んで元気出そうや!』
マトイ
『はい。頂きます!』
マトイは勢いよくグッと飲んだ。すると身体が熱くなった。視界も少しトロンとしている。
するとフリードヒリはマトイを支えると、酒の勢いに任せて大騒ぎする連中から出してやった。
フリードヒリ
『こっちが部屋だからな?ちゃんと鍵掛けろよ?』
マトイはふわふわした返事をして、ふわふわした足取りで部屋に歩いていった。
フリードヒリは申し訳なさそうな表情で見送った。
(こんなやり方は好かんが…だがもうそろそろ素直になっても良い頃だ。男になれ!青年(タクミ)‼︎)
その頃、タクミは自室で礼服の上着を脱ぎ、シャツとズボンの姿でベットに転がっていた。靴と靴下も脱がずにである。この男は大抵こんな感じで余暇を過ごす。
然し、彼の目の前には天井ではなく、第3銀河が写っていた。そして大小の艦隊が自分の艦隊を止めに襲いかかってきたり、あるいは何処かの星を効率よく制圧すべく、その地表を焼き払い、兵を進撃させ、敵の陸軍を潰走させる為の方法を考えていた。
そして自分が勝てばそのまま駒を進めて、負ければ消して考え直すという作業を繰り返した。
タクミ
『はぁ…。さて、考えれば考えるほど面倒くさい事になった。やはり敵中枢突破。それしか無いな。時間は掛けられない。他は後続部隊に任せて飢え死にさせれば良いか。(いや、その事も大事だが…今の自分とオサラバするのもなんか気が進まない。
もし私が本当の自分を言ってしまえば、旧体制の栄光や特権を復活させたい、それを手にしたいと思う輩に利用されかねないし、今や私は国家の守り手にして国民の敵になった。自ら墓穴を掘るようなものだが…。)』
物思いに耽っていると戸口が空き、マトイが入ってきた。タクミは驚いて飛び起きた。さっきの事もある。怒ってるかも知れない。タクミは慎重に言葉を掛けた。
タクミ
『マ、マトイ。どうやってこの部屋に?えっ〜と…さっきはごめん。ちょっと酔ってたのかも知れないけどさ、もう大丈夫だから、さ。ハハハ…。』
然し、マトイは黙ってそこに立っている。しかも、少し左右に揺れていた。タクミはむしろ恐怖を感じていた。
タクミ
『マトイ…さん?様?あの、もしも〜し?ダイジョウ…ブ??オ〜…イ⁉︎』
マトイは顔をあげた。すると顔は真っ赤に赤く、体からはとても強い酒の匂いがしていた。そして彼女の表情は大変上機嫌で、口元も緩みまくっていて、おまけにドレスも少しはだけていて胸元や肩が少し見えていた。
マトイ
『デヘヘ〜。タクミ〜。横になりなよ〜。』
タクミはマトイに押し倒された。鼻には強烈な刺激臭が奥を刺激する一方で実に甘美な香りが漂っていた。タクミはこの強烈な酒の匂いを知っていた。
タクミ
『この強烈な酔いっぷり。フォトンのアルコール分解を振り切ることの出来る強い酒は一つしかない。新光歴90年物…悪魔のワイン!バタリード・イヴ(ろくでなしの酔っ払い)‼︎うちの家の中で一番強い酒…秘蔵の酒。』
タクミは酒の匂いこそ直ぐに当てたものの、このもう一つの香りは分からなかった。然し、その甘い香りに自我を囚われそうになっていた。
然し、そんなタクミを他所に、マトイはタクミを押し倒して更にそこに馬乗りになった。
マトイ
『ウフフ、ウヘヘ〜wwwタクミ〜。私暑くなっちゃった〜♡良い事シヨ〜?』
タクミはマトイに押され気味になり、その甘い香りで自我を失い掛けた…がマトイが自分のシャツに手を掛け、ボタンを外して、胸元が完全に見える所まで外していた。
このままでは不味い。タクミは平手を作るとマトイの頬を叩いた。彼女の頬は赤く腫れた。
タクミ
『なにしてるんだよ…。こんな…。』
マトイは我に帰ると、暗い影を落とし、重い口を開いた。
マトイ
『ごめんね。私もどうしたら良いのか…良かったのか分からないんだ…でも…。』
マトイの目から大粒の涙が流れていた。透き通った涙だった。それを絶えず流している。
マトイ
『好きな人が困ってるのに、悩んでいるのに!それを助けてやれないなんて嫌だよ!貴方が離れていくみたいで私は嫌だよ…‼︎』
マトイの言葉に押されたタクミは拍子が抜けてしまっており、もはやこのまま黙るしかなかった。
マトイ
『だってタクミ…此処まで帰ってくるまで態度がおかしかったもの‼︎貴方はまるで思い出したくない物を思い出した。自分の存在そのものが許せなくなったみたいになっていた。私には分かる!貴方のフォトンが教えてくれた。』
タクミ
『私の…俺のフォトン?』
マトイはタクミの上半身を起こすとそのまま抱擁した。抱擁されたタクミは耳まで赤くなった。この青年は己の師匠とは打って変わって全くこういう経験が無かったのだ。
マトイ
『私は貴方が誰であろうと、どんな事をしようと、どんな決断をしようと、何を隠していようと私は貴方を信じてる!だから私をみんなを信じて。もう…一人で悩まないで…。』
マトイの言葉に胸を打たれた。タクミは自らの行いを恥じた。自分の周りにはこうして自分を心配してくれる人がいるのに、それを避け、自らの問題を誰にも出さず、心と口を閉ざした事を恥じた。その一方。
マトイは自分が何をしているのか、何をしていたのかが分からなくなった。マトイはもっと顔を赤くした。目の前には胸元がほぼ露わになったタクミがおり、その腰に乗っている。そして訳も分からず自分は涙を流している。
気の毒に、マトイは此処に来て、酔いと、フリードリヒに渡された小瓶…惚れ薬が切れてしまったのだ。
マトイは項垂れているタクミを見てバツが悪くなりマトイは無言で床に立ち、ベットから離れようとした。
しかし、マトイの手はタクミの若い手に掴まれた。その顔にはさっきのマトイ程まで行かずとも、その顔は涙に濡れていた。
タクミ
『マトイ…その一人にしないでくれないか?一緒に居て欲しいんだ。ダメ…かな?』
マトイはその一言で頭が真っ白になった。そのまま手を引かれるまま、マトイはタクミに寄り添い、二人は体を密着させた。そして部屋の明かりを消した。
部屋の明かりが消えるのをフリードリヒは屋敷の外で見守っていた。そして空にグラスを掲げ、中の物を一気に飲み干した。
フリードリヒ
『やっとくっついたか。下らん老爺心を沸かせるものじゃ無いと思ってたが帰って良かったかも知れんな。』
この時、フリードリヒの独り言を聞いている者が居た。イオだった。フリードリヒの言葉の意味を知ったイオはただ静かに佇んで居た。
翌日、タクミは目が覚めた。かなり飲んだ筈だが、不思議と頭に痛みは無かった。そしてまだ体全体が暖かな温もりを感じて居た。
昨日の事を幾らか覚えていたこの青年は、変な罪悪感に襲われた。どうせ酔ってたからろくな誘い方をしなかったのだろう…最悪切腹しようとも、考え始めた。
すると二人分の紅茶を持ってマトイが現れた。格好はシャツ一枚。それ以外何も着ていなかった。タクミはとうとう自分の行いに確証を持った。
マトイ
『おはよう、よく眠ってたね///』
タクミ
『う、うん…。僕なんか…しました?』
マトイ
『初めてを貰っていきましたwその代わり可愛い寝顔を見させて貰いましたけど///』
タクミはベットから出た。幸い全裸ではなく、ズボンは履いていた。そして深々と土下座した。
タクミ
『ゴメン‼︎こんな事、君は望んで無かったと思う!だけど私が不甲斐ないばっかりに!男として誠心誠意責任は果たす…』
タクミが言いかけた所にマトイの柔らかい唇がタクミの唇に当たった。その薄いピンク色の肉が当たり、タクミは自分が何を話すつもりだったのか忘れてしまった。
マトイ
『これが答え。約束して、困ったら何があっても私を頼るって。もう私は貴方のもの。絶対離れないから。』
タクミ
『チームのみんなが目覚めたら、殺されそうだ。…約束する…頼らせて欲しい。そして守る。何があっても。話そう。俺が何者であるかを。』
タクミはマトイに洗いざらい話した。自分の本当の名前。自分の家。背負う過去、責任。全て話した。
マトイ
『長い名前だね。まぁそういう事なら仕方ないのかも。』
タクミ
『俺の代が宿命の代。自らの血に従って、全てを欺いてでもこの国を守らないといけない。その為にはこの名前も必要かも知れない。』
するとノックが掛かったので、二人は大慌てで服を着たが間に合わず、二人揃って中途半端になった。しかも、よりによって入って来たのはイオだった。イオは奇妙な光景を見た。
タクミに至ってはボタンが掛け間違えてて、首や胸元がチラホラ見えている。マトイは上の下着と下の下着がそれぞれ衣服から少しはみ出す始末だった。
イオ
『…出直します。』
タクミ・マトイ
『待って待って‼︎そんな憐れんだ目で見ないで⁉︎お願い‼︎Σ(゚д゚lll)』
イオから受け取った羊皮紙を見ると、出兵式の日程に不備があり、今日の正午の間違いだったとネルソンが直筆で書いてあった。然し、達筆な老元帥の字にしては字が違う感じになっていた。
イオ曰く、昨日の酔いに任せて書いたからこんな字になったという。そして皆、実は早めに帰った事を知った。
タクミ
『嘘だろ⁉︎あんな大騒ぎしてたのに!数百人近くバカ騒ぎしてたのに⁉︎それが帰った?全く気がつかなかった。』
気がつくわけもなかった。実はこの時の為に壁や窓に防音加工を施しており、宴会の喧騒を録音して違和感無く流しておきておき、そして本物の宴会は早めにおひらきになっていた。
これはフリードリヒをはじめとした人々が手を回しておいたお陰で出来た事であった。つまり、数百人のアークスと軍の高官がみんなグルでキューピッドになったのだ。何もかも出来ていたのだ。
然し、やはり大いに飲んだ事は間違い無かったので、式典に参加した者は二日酔いの中立っているので、屍が群れをなして立っている光景が広がったという。
正午には首都艦フェオに戻らなければならない。タクミとマトイは軍の礼装に着替え、イサラとイザベルに別れを告げるとフェオに向かった。
船団間移動シャトルのポートに第1艦隊分艦隊司令官アースグリム少将とポツダム連隊…ではもう無く。ポツダム師団二代目師団長カール准将(特殊師団なので准将が指揮を執る。総兵力10万。オラクルの通常の師団が20万なのでその規模は半個師団であるが師団である。ちなみに旅団は80万〜90万)首席幕僚シュミット大佐が、待っていた。
アースグリム
『おはようございます。先輩。式までの道中、私達三人で護衛します!』
カール
『どんな暗殺者や手練れの殺し屋、それどころか一個師団が襲いかかってきても!』
シュミット
『我々の大剣で守ってみせます!フリードリヒ閣下の元で鍛えられた我々にかかればお茶の子さいさいです‼︎』
イオ
『とか言ってたらなんかたくさん来ましたよ⁉︎』
すると沢山の民間人がタクミ達目掛けて走って来た。
三人はタクミ達の前に立ち塞がる。然し、護衛をする必要は無かった。民間人達は、口々にこう言った。
『軍神!』『我らが英雄!』『我らの守り神!』
オラクルの中にはまだこの青年を英雄と慕ってくれる人々が大勢いたのだ。本人からしてみれば、英雄と大量殺戮者は同義なのでなんとも言えない気持ちになるが有難いと思う一面もあった。
この青年は、死ぬその時まで、この隣にいる銀髪の美少女と愛すべき祖国の人々が心の拠り所であったと言われている。
すると一人の少年が母親に背中を支えられながら出てきた。その手にはペンとボードだ。
少年
『Nous aimons l'Amiral(我等が提督)!どうかサインを下さい‼︎閣下お願いします‼︎』
タクミ
『うん。名前を教えてくれるかな?』
エルヴィン・シュタイナー
『エルヴィン・シュタイナーであります!Nous aimons l'Amiral‼︎』
タクミ
『エルヴィン・シュタイナーに愛と真心、そして散っていた戦士達の加護を込めてっと。はい、良いよ。』
エルヴィン・シュタイナー
『僕、閣下のような英雄になりたいんです‼︎どうなったらなれますか!』
母親
『こ、こらエルヴィン!すいません閣下!この子、あの内乱の時に貴方を見かけて、それ以来。』
タクミ
『エルヴィン、よく聞くんだよ?英雄とはなれるものじゃないんだ。人々に認められてなるものなんだ。そして沢山の人をその手に掛けなければならない。そして君は私の様にはなれない。
君はエルヴィン・シュタイナーという一人の人間なんだ。君が僕の様になったらエルヴィン・シュタイナーは何処に消えたとなってしまう。でももし英雄になりたいと思うのなら、お母さんを、家族を、友達を守ってやれる強い人間になるんだ。それが出来て君は英雄になれる。英雄エルヴィン・シュタイナーとして!』
タクミは礼服のポケットから軍用ベレー帽を取り出した。それは第1銀河への撤退戦の時まで被っていたものであった。彼はそれをエルヴィンに被せ、与えてやった。
タクミ
『お母さん。カメラはありますか?この子と未来の英雄と写真を撮りたいのです。』
母親の手で二人の写真は撮られた。青年は少年を抱き、片手で少年の手を握り、力強く映った。
六人は沢山の民間人に見送られながら、車に乗り、式典に向かった。車内でアースグリムはタクミにニヤニヤとしながら話し掛けた。
アースグリム
『驚きましたよ。貴方にそんな一面があるなんてwそう言うマスコミが喜びそうな宣伝材料を作るなんてしないと思ってたのに。』
タクミ
『子供には弱いんだ。それにあの子は優しい子だとフォトンが教えてくれたんだ。その純粋さを失わないようにって思ったのさ。』
他の四人もクスクス笑っていた。そんな話をしていると、車は式典会場に着いた。カールとシュミットはいち早く降りると式典の為、配置に着くと言い、車から出た。
タクミが車を降りるとルイ・フィリップ、サミュエル・ジャクソン、ガブリエル・G・アレンスキー、シャオメイ,ミン四中将が待っていた。
更にこの後ろにグリッドマン、ヒューズ両少将、フレーゲル・ジャグホッド下院議員、六芒均衡の一人にして、諜報部司令官カスラ、次席司令官にしてオラクルの歌姫クーナ、教練部次席司令官にして六芒均衡の内の一人ゼノ、その相棒エコー、戦闘部司令官にして六芒均衡の一人ヒューイ、次席司令官三代目クラリスクライスが待っていた。
それぞれに敬礼するとタクミは彼らの先頭に立ち、歩き始めた。両側をカスラ、ヒューイが固め、直ぐ後ろをゼノとサミュエル。その後ろから今行った人々の他に今回の遠征で配下につく、中小艦隊の司令官、陸軍各師団長が着いてきた。
すると式典の閲兵式の先頭を行く騎兵を統率するジャン・ピエール・プレシ中将が居た。ジャン・ピエールはタクミを見ると馬を降りようとしたが、タクミはそのままと合図を出し、それに従った老騎兵軍団長は会釈を送りタクミもそれを返した。
閲兵式に参加する者達と、別れタクミは来賓席の方に向かった。目指す先にジョージ・マッケンジーが居た。その周りを彼の派閥に参加する政治家や軍人が固めて居た。
タクミを見ると憎らしい口調でシュラー提督が話しかけてきた。
シュラー
『お早いお着きで、大将閣下には予定の時間に着けば良いと思っているらしい。マナーは我関せずだそうだ。』
彼の周りにいた軍高官と政治家は皆笑った。然し、タクミは見向きもせず、マッケンジーの隣に来た。
マッケンジー
『良かった。無事に着いたみたいで、遅れるのかとヒヤヒヤしたよ。どうやら空港で時間を潰していたみたいの様だね?』
タクミ
『前途有望な若者を見つけ、それを激励する事、いかなる物事にも優りますゆえ、そう例えば、兵を無益に死地に送り込む事よりもね。』
タクミは一瞥すると席に座った。その隣にはフリードリヒが退屈そうに座っていた。そしてこの不良師匠にこう呟いた。敵が多くて、敵わん。
この様子を後に著名な歴史学者になる、アレクサンドル・D・ブラウンが同席しており、このやり取りをこう表現した
『一つの国家に二人の国家元首がいる様だった。』
先ず式典は閲兵式から始まった。ジャン・ピエールに統率された式典に参加する代表の騎兵数百、半数が胸甲騎兵、残り半数がカービンを携えた軽騎兵。銃剣をアサルトライフルに着剣した歩兵二千。槍と盾、斧と盾、大砲と盾をそれぞれ持った全身が赤く染まった装甲擲弾兵200。砲兵200。走行車両、戦車5輌、装甲車5輌、自走砲3輌。
補給部隊、トラック数輌、補給兵250が行進した。
彼らは来賓席を通るたびに敬礼を送り、騎兵と装甲擲弾兵に至ってはマッケンジーに敬礼をした後、もう一度、しかもさっきよりもより丁寧にタクミに向かって再敬礼する程であった。
その後、マッケンジーが演説を行った。鑑賞に訪れた国民からの歓声に包まれながら演説した。要約すると、第三銀河の同盟国について話し、それは同じ共和体制の国であり、それを悪しき専制君主の国家が脅かそうとしており、負ければ、彼らだけでなく我らも夫は労働力として死ぬまで働かせられ、女子供は敵に孕ませられやはり殺される。悪しき専制君主の奴隷になることは屈辱であり許してはならない、よって戦おうという内容だった。
勿論、国民は憎悪一色になった。マッケンジーは満足そうな顔をして、席に戻った。次にタクミが演説する番になった。原稿用紙を見ながらひな壇に登るタクミに向けられた国民からの声はその殆どが罵声であった。国民からの歓声はチラホラ聞く程度でしかなかったが、彼にはどうでも良いことであり、むしろ歓声しか聞こえなかった。
マッケンジーが演説している時はただ黙っていた閲兵式に出た将兵達が雄叫びと歓声をあげたから。その気迫にやがて罵声を送る国民は押され、静かになった。
タクミはゆっくり口を開いた。
タクミ
『新愛すべき兵士諸君、並びに国民の皆様。お騒がせしております。タクミ・F大将であります。此度の出征につきまして、司令官に任ぜられたのは皆様のお陰である事を胸に精一杯戦って参ります。
国民の皆様はどうかご自分のご家族が無事に帰ってくることだけ祈っていてください。国家が永らえても、貴方の隣に愛すべき家族が居なければ意味がありません。
この世に、名誉の死、犠牲はありません。あるのは生か、無駄死にか、無駄ではないが最悪な死しかありません。結局死ねば終わり、国家の主人たる我々が死に、国家が生き長らえるという逆転現象は起こしてはならないという事を国民の皆様にはご理解いただきたい。
私は後世に残したい!今日まで戦って死んだ者は国家のためでは無く、自分の信じるものの為に戦って死んだと!後世に誇れる国を残したい。人命を軽んじる民主国家など残したくない!だから私、タクミ・F…いや私は本当の名前でここに宣言する‼︎』
国民は一気にどよめいた。更に来賓席や中継を見ていた政治家や軍高官、アークス高官は、特にマッケンジーは死ぬ程青い顔をした。彼らにとって、オラクル民主共和体制にとって二度と口にされてはならない一族…それは…。
第二次オラクル帝政を作り上げ、今のオラクルの基礎を作り上げ、この第一銀河に君臨する大国家を作り上げた者達
タクミ→タジム・クブァシルヒ・ミシェル(M)・フェデル
『第2帝政フェデル王朝初代皇帝アーサー・フェデル大帝、フェデル王朝第四代皇帝ムスタファ・フェデル皇帝の子孫!タジム・クブァシルヒ・M・フェデルとして、一人のオラクル共和国国民として、自由民主主義者として、オラクル共和国数十万将兵の命!責任を持ってお預かりして、ここに戻ると‼︎』
歓喜、恐怖、驚愕の悲鳴が船団に住まう450億の人々があげた。滅びた、滅亡したとされた恐怖によってオラクルを支配した宇宙の侵略者フェデル王朝の一族がオラクルに生きていた。それは歴史が変わった瞬間でもあった。
恐怖政治をしいたフェデル王朝…しかしフェデル王朝は一つでは無い。少し解説すると、
四代までは確かに名君アーサー大帝の子孫であった。(四代に渡って暗君無しと謳われる)然し5代目は三代に渡り残虐政治を極めた分家のカストロプ家に家督を奪われ、皇帝ムスタファの子孫達は蟄居し、二度と表舞台に出ることはなかった。(流石に初代皇帝の血筋なので滅亡させるわけにはいかなかった。)
第2帝政崩壊後の第三民主共和体制は成立直後は大変な混乱状態に陥っていた。やがて国民の有識者達は、アーサー大帝の子孫達が生き残っていることを唱え、彼らを再び玉座に座らせようとした。第三民主共和体制の要人達は体制の確保の為、有識者の粛清を行い、更にこの当時生きていた大帝アーサーの一族も悉く殺害しようとした。
しかしこれは第三民主共和体制の要人達の一部の反対や、マザーシップ・シオンの反対を受け、一族抹殺は叶わなかった。然し、要人達は強引に決行、事故や猟奇的殺人に見せかけ一族郎党全員を抹殺した。
…かに見えたが、シオンに要請により当時のアークス達によって一人の若い美しい女性だけはこの惨たらしい事態から逃れ、そしてその腹には男児がいた。この妊婦はアークスとシオンによる強力な圧力のお陰で第三民主共和体制を生きることが出来たが第三民主共和体制はフェデルの血の抹消を諦めておらず妥協案としてホームネームを名乗らないという条件をつけた。
そして生まれたのがF家である。
シオンの保護と第三民主共和体制の監視下に置かれ、未だ生き永らえていたフェデルの末裔それこそがタクミ、タジム・クブァシルヒ・M・フェデルであった。
さて式場は大混乱である。軍神と讃えられるフェデルの末裔に涙を流す将兵達、専制君主国家再建を夢見る王政主義者、悪魔が降臨したと恐怖に陥る熱狂的民主主義者然し、この混乱は長くは続かなかった。
レギアス
『静まれぇ‼︎』
レギアスの一喝が式場を首都艦フェオをオラクル船団を跳んだ。誰も言葉を発することは出来ない。
レギアス
『首相殿、大将の演説も終わったようだ。兵士たちは明日出征するから早く休ませてやりたいのだが?』
マッケンジー
『あ、ああ了解した。』
レギアス
『今まで通りタクミで良いのか?』
タクミ
『は、はい。私もその方が落ち着きます。』
レギアス
『うむ、では戦果を期待する。無事に帰ってくるように。分かったな?大将?』
タクミ
『はっ!』
新光歴239年11月、オラクルは新たな局面を迎えようとしていた。そしてもう一方の銀河でも新たな局面を迎えていた。宇宙は未だ戦火の絶えない地獄のままであった。