pso2仮想戦記二年前の戦争 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
グラール星系での勝利を収めたオラクル軍は各惑星への降下を始めていた。揚陸艦の中でタクミは先にモトゥブに降下して戦闘を行なっているアフィンに通信を行なって居た。
タクミ
『アフィン、俺だ。そっちの条件を教えてくれ。今の戦況はどうなんだ?』
アフィン
『ありと…ゆる…攻撃を仕掛けて…るが…奴さんは意地でも…』
妨害電波が出ているのか、通信はたどたどしく、ノイズ混じりであった。通信兵が出力を弄ると少しだけだが通信が安定したお陰で、2人はどうにか話しやすくなった。
アフィン
『奴さん意地でもこの惑星を支配するらしい。衛星軌道からの砲撃や、対地爆撃もしてるのに、全く諦めない。こら、骨が…』
アフィンの後ろに敵兵が現れ、戦斧で薙ぎ払ってきた。然し、アフィンはそれを躱し、銃剣を取り出し、頭部に一発弾丸をお見舞いすると、首を切り飛ばした。アフィンは返り血を浴びたまま通信を続けた。
アフィン
『とまあ、結構こっちの陣地や塹壕まで斬り込んで来る始末だ。多分そっちも激しい抵抗を受けると思う。敵は背水の陣を敷いてしまったらしい。』
タクミ
『良い兵子だな。だが敵とあれば厄介な存在にしかならないな。分かった、ここの敵の海軍戦力は壊滅したからそっちに艦隊を差し向ける。
幸いそっちは民間人があんまりいないから大規模の惑星爆撃が出来るはずだ。そっちの仕事も楽になると思う。
もう大気圏に入る。また連絡する。』
アフィン
『そっちも気をつけてな…』
通信が切れ、揚陸艦の窓には大気園で燃える船体が見えていた。タクミは一緒に同乗した第485歩兵師団(新兵師団)に艦内に響く声で喝を入れた。
タクミ
『良いか、boys(ボーイズ)‼︎これより貴様らが降り立つ地はお前たちにとって初舞台であって、異国の地だ!オラクル人が誰一人踏み入れたことのない土地を我々は今、足を踏み入れるのだ。
諸君らスロウチ帽(初陣前の新兵はベレー帽ではなくスロウチ帽を被る決まりになっている。)にベレー帽を被った先輩たちと同じだけの武勲は期待しない、ただ生き残れ!その頭に乗っかってるものを俺や他の連中と同じ名誉というベレー帽にしたかったらな‼︎なんだかんだ言ったが心配するな!負けはしない‼︎』
艦内に放送が流れた。
(降下完了まであと10秒‼︎)
タクミ
『我々こそオラクルの先駆けだ!先に降りた海兵隊の連中が早速大暴れしてる様だから早めに合流するぞ。』
揚陸艦のハッチが開き、その先には緑豊かな草原が広がっていた。
タクミ
『Marchons‼︎(前進)』
銃剣をつけたライフルを持ったタクミに続き、多くの若い兵が走っていく、少し進んだ所でオラキオ側の銃弾や砲撃やテクニックが飛んできた。タクミ達はあっという間に硝煙に包まれた。
タクミ
『頭を下げろ!脳みそに風穴開けられたくなければな‼︎弾幕を張りつつ、隙を見て前進する!戦車と装甲車部隊が来る前に出来るだけ戦線を上げるんだ‼︎』
敵の銃撃は激しく、オラクル兵はうつ伏せになりながら銃撃を行うしか無かった。然し、そこにオラクル軍の爆撃機が飛来し、敵の塹壕を爆撃で吹き飛ばした。
オラクル兵
『敵の戦線が下がってるぞ!』
オラクル兵
『今だ、前進!前進‼︎』
オラクル兵達は立ち上がり、銃撃しながら敵の塹壕に向かって突進した。中に残っていた敵兵は悉く銃剣で突き刺し殺した。然し間に合わなかった兵達は野砲と重機関銃で八つ裂きにされていった。然し、数の差があれど、戦局は完全にこちらが有利にある状況であると兵達は分かっていた。その為、戦意は高く、敵の迎撃に怯むことは無かった。
その間にタクミは最前線の海兵隊の陣地に向かっていた。陣地はオラキオ軍の防衛戦に配置してあった前線司令部を再利用したものであった。
タクミ
『やぁ、リサ。海兵隊の戦いぶり実に見事だったぞ。予想よりも早く敵を後退させることが出来た。』
リサ
『どうもご丁寧にありがとうございます。でも不思議ですね〜。敵さん達、リサを見たらみんな揃って逃げ出しちゃったんですよ〜?まだまだリサは人を撃ち足りないのに…タクミさん撃って良いですか?』
タクミ
『ダメ。(そら逃げるよね)』
だがタクミは、敵に対して決定的な打撃を与えられていない事を内心分かっていた。確かにリサの狂気はその場にいた敵兵には通用したが、全体的に見ても本当に極一部の効果しかない。この恐怖を敵軍全体に広めなければならないのだ。
タクミ
『(今、騎兵を降ろすのは時間が掛かるが装甲車や戦車は直ぐに下ろせそうだな。ついでに装甲擲弾兵と拠点用レイ・シールドも…)悪いが誰か地図を持ってきてくれ。』
海兵隊員が地図を持ってくるとタクミはそれを受け取り、テーブルにそれを広げた。すると近くに川とそれを塞きとめる関がある事を知った。
タクミ
『この川の関は何のためにあるんだ?』
リサ
『保護した農民の方によりますと、今は雨季でこの川は関を設けておかないと、濁流や氾濫で大変な事になるそうですよ。大変ですね?』
タクミ
『そうね〜大変ね〜。(ニヤリ)』
タクミは薄ら暗い笑みを浮かべ、指を鳴らした。すると何処からか六芒均衡の零、クーナが現れた。タクミは地図を指差し、例の関を説明した。
タクミ
『合図が上がったら、関を切ってくれ。これで敵に打撃を与えられる。』
クーナ
『承知しましたが、どうやって敵の全軍を川まで追いやる気なんですか?』
タクミ
『それは…』
タクミは司令部の扉を開けると、仮面とカタナを持ってマトイが立っていた。そのまま二つをマトイから受け取るとタクミは仮面をつけ、カタナを引き抜いた。
タクミ
『敵の中に突っ込んでいってがっぷり四つにするのは我々オラクル人の独壇場だろう?』
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
暫くして、第二防衛戦で守りを固めていたオラキオ軍は、自分達の正面にいるオラクル軍に動きがある事を感じ取った。士官が双眼鏡に眼を当てると、戦車と装甲車を主軸にする機甲軍団の進撃を目の当たりにした。
オラキオ軍士官
『敵の機甲軍団だ!防戦よーい‼︎対戦車砲と重機関銃を用意しろ‼︎』
オラキオ軍は大砲と重機関銃を撃ちまくった。然し、塹壕を突破する事に関しては右に出る者がいない戦車と装甲車の進撃には重機関銃は頼りにならず、対戦車砲も戦車と装甲車の弾幕で狙いが付けにくくなった。更に装甲車部隊が対戦車ロケットから身を隠す為、スモークを焚いた為、余計狙いが付けにくくなった。
オラキオ士官
『クソ、オラクル人め…味な真似を!こうなったら撃ちまくってやれ‼︎相手もこの砲火の中を進めるわ…』
進めるわけ無いと言いたかったのだろうがこのオラクル人の将校の命はこの瞬間に首を切り落とされ絶えた。オラキオ人将兵が目の当たりにしたのは全身を統一された赤の具足で身を包んだオラクル精鋭装甲擲弾兵及び各種精鋭騎兵通称『赤備え』がカタナとパルチザンと銃剣を構えて突進する姿であった。その先頭を、赤色の大鎧に身を包み、その兜に白色の毛を獅子の鬣の様につけ、仮面をつけた若い男が駆けてゆく、カタナを大きく振りかぶり、一刀の下に斬り伏せんとしていた。
タクミ
『行くどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎首を獲れぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎』
赤備え
『『『ウオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎』』』
赤備えの突撃で、前線のオラキオ軍は総崩れになった。羅刹の如く荒々しく戦う赤備えに恐怖を抱いたのだ。そんな中、タクミは狂気の渦の中でカタナで斬っては斬ってを繰り返していた。すると1輌の戦車を見つけた。タクミは近くに居た赤備えの2名を口笛で呼ぶと、2名は頷き、氷のテクニックを詠唱して戦車の足回りを凍らせた。タクミはカタナを収め、ライフルを構えると戦車の車体を登り、砲塔のハッチを銃撃で抉じ開けると、その中に手榴弾を投げ込み、戦車を破壊した。更にそこに戦車の仇を取ろうと重装甲歩兵が斧を持って襲い掛かってきたが、タクミは懐に入り、腹にゼロ距離から射撃を加え、極め付けはそのままカタナを引き抜いて首を装甲服ごと斬り落としてしまった。
タクミ
『川まで追い散らせ‼︎敵として抵抗する者は女子供だろうと殺せ!蹂躙しろ‼︎戦場というこんなロクでもない場所にいた事を連中に後悔させてやれ‼︎』
リサ
『目移りしちゃいますね。こんなに動く的が一つ、二つ、三つ…もうそれだけでリサは幸せです☆』
リサはライフルの弾倉をドラムマガジンの弾倉に変えると、横方向に薙ぎ払うように撃ちまくった。発射音が鳴るたびに一人、一人と死んでいった。そしてその亡骸の上に、悶絶したような表情を浮かべた機械の身体を持つ美女が立っていた。
リサ
『最ッ高…♡(ウットリ)』
マトイ
(普通にしていれば綺麗な人なのに、銃を持つとこんなに変わっちゃうなんて…世の中分かんないね。)
タクミ
(私も陸と宇宙だとテンション全然違う(意外!自覚していた!)けどあれはもう化け物やな。訳も分からず言いよった男が痛い目に合うのも無理はない。)
リサ
『二人とも何してんですか〜?手が止まってますよ〜疲れてるなら休ませてあげましょうか?』
タクミ&マトイ
『(永遠のですね⁉︎分かります!)いえ、結構です‼︎ご気遣いありがとうございました‼︎』
すると蹄の音を響かせて一人の初老の男が近寄ってきて、タクミに刀剣の礼を行った。タクミもまた敬礼を返した
タクミ
『プレシ少将。騎兵の準備は万端といった所か。やる事は分かっていますね?』
プレシ
『勿論です。大将閣下の轍が飛びますれば皆抜刀し突撃する所存であります。竜騎兵は例の装備を用意し、待機しています。』
タクミ
『竜騎兵には重装甲兵と遊んで貰わないとな。その為の例のブツだ。』
プレシ
『閣下の赤備えは?皆下馬しているようですが?』
タクミ
『まだまだ出さんよ。出すのはスレイマン坊やの前に我らの武勇を見せる時だ。先ずは…敵を屈服させる事だ。』
プレシ
『重装甲騎兵を走らせます。陣頭は私が執ります。』
マトイ
『フォースとテクターに支援させます。これで少しは切り崩しやすくなりますよ。』
プレシ
『マトイ様、どうも申し訳ない。これで兵達も安心して戦えるでしょう。それでは閣下行って参ります。』
プレシは将校用マントを取り外し、抜刀、そのまま馬を走らせ、重騎兵達の前に出た。重騎兵達はヘルメットと胸甲を着け、槍とカタナとライフルを持ち、みなその表情は堅く、ただ、突撃の令が下るのを待っていた。
プレシ
『Assort‼︎(突撃)』
号令を聞いたと同時に一万数千の重装騎兵が雄叫びを上げ、ラッパを吹き鳴らしながら突撃していく。向かう先のオラキオ兵達は槍衾を築くことも、塹壕に身を潜め銃撃で突撃を止める事も敵わず、ただ逃げる事しか出来ない。憐れなオラキオ人達は、斬られ、串刺しにされ、風穴を開けられ、そして踏み潰された。次第にオラキオ軍は川に入っていった。もはや悲鳴をあげ逃げ惑うしかなかった。その光景を、上空にいるオラクルの観測機が捉えていた。
オラクルパイロット
『CQ(司令部)、敵のほぼ全軍が川に入った。現在川上に向かって北上中。』
CQ
『了解、観測機はその場で待機せよ。敵の戦闘機が残ってるかもしれない。十分に注意せよ。アウト。』
その頃川上のクーナにも敵の現状が伝えられていた。
クーナ
『頃合いですね。関を切りなさい!』
関が切れ、濁流が一気に川下へ流れ始めた。そしてそれはオラキオ軍を飲み込んだ。その光景に、オラクル人達は当事者であったにも関わらず、この惨たらしい光景に目を背けた。
タクミ
『無責任かも知れないが…これはもはや戦闘では無いな、正しく虐殺だ。』
マトイ
『二度とやらなければ良い。そして私達の後の人達がこれを見て、どう考えるか。そこが肝要、でしょ?』
タクミ
『その通りだ。我々の行動は後の世の人々に必ず評価され、判断材料となる。その時に良い考えを浮かぶ為の礎になれば重畳だ。』
タクミは振り返り、後ろに控えた多くの兵達を見た。そして高々と声を挙げた。そう堂々と。
タクミ
『まだ、戦いは終わりではない。だがもう直ぐだ!もはや敵は崩れ、首都を包囲する敵軍も、この濁流に流された敵の亡骸を見て、一気に戦意を失うだろう‼︎されど決して油断するでないぞ‼︎勝って兜の緒を締めよ、そして高々と軍旗と敵の首を掲げよ‼︎』
オラクル軍将兵
『『『応‼︎‼︎』』』
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グラール連邦及び惑星パルム首都キャピタルシティを包囲するオラキオ軍と相対して戦っていたのは同じオラキオ軍である。その陣頭に銀髪の少年が二振りの剣を持ち、駆け抜けていた。その剣さばきは誰も見切る事敵わず斬り伏せられていった。この少年こそ、オラキオ王国第二王子、王位正当後継者スレイマン・オラキオであった。齢16である。その容姿は遠目で見れば少女と見間違うほど、中世的な見た目をしており、その顔つきは正しく凛々しい若き王族であった。この少年が背負う旗印こそ、正当オラキオ軍である。
正当オラキオ兵
『殿下!これ以上は危のうございます!どうか、おさがりください‼︎』
スレイマン
『ダメだ!お主達のように私と戦ってくれる兵達や我らを匿ってくれた盟友グラールの民や兵達が戦っているのになぜ私が逃げられようか。』
正当オラキオ兵
『しかし、援軍に来たはずのオラクル軍は未だ現れず、既に多くの敵兵に侵入されております。この上は殿下だけでも…』
伝令
『伝令‼︎伝令‼︎殿下、パルム川より濁流が流れて参りました!その中には大量の敵の死骸が混じっているようです。これに合わせて敵軍が都市より離脱した模様です。』
スレイマン
『渡河中に流されたのか?』
伝令
『はい。然し、いくつかの死体を検分したところ槍傷に刀傷、銃創が有るものもありましたので、敗走しているところを関を切られ濁流に飲まれたと思われます。』
スレイマン
『これをやったのは間違いなくオラクル軍だ。という事は彼らはもう近くに来ている!』
スレイマンが都市の外を見ると、包囲軍の少し先に布陣する大軍を見てとれた。両翼は青、赤、白で塗装された軍服を着た兵達が並び、中央は全身が赤で統一された具足と軍服を着た兵達が並んでいた。その前に一つの長机が置かれ、その上にいくつかの男女の首が並べられていた。
そしてその近くに馬に跨る一人の男とその傍に銀髪の美少女が同じように馬に跨って居た。赤の大鎧にマントを着け、兜には獅子の如く毛が生えた、この少し変わった出で立ちの男が大将だとスレイマンは一目で分かった。その男は少し馬を進ませると大声で叫んだ。
タクミ
『我が名はオラクル軍第一艦隊及びオラクル要塞方面軍総司令官タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデルである!諸君らの同胞15万は悉く余と余の同胞達によってみな骸に変えられ、残るはそなたらのみ。これ以上の戦闘は無意味に等しい。降伏されよ、さもなくば軍神フェデルの戦を馳走してくれようぞ‼︎10分待とうそれ以上はならぬ‼︎』
フェデルという名はグラールやオラキオにとって悪魔と同意義と考えられてきた。理由は第2帝政時代の初代から四代目の皇帝が出したグラール及びオラキオの夥しい死者の数が原因である。軍神フェデルの伝説は数多のグラール人やオラキオ人の屍によって出来たもの。その為、オラクルに援軍を請うことを反対する者も数多く居た。
悪魔の復活を知ったオラキオ軍は混乱状態に陥った。降伏すべし、ここで玉砕してでもスレイマンと悪魔フェデルの末裔を討つべし、結局話は後者でまとまったらしくオラキオ軍は全速力でキャピタルシティを目指し始めた。
タクミ
『愚かな…そんなに死にたいなら死なせてやろう。殿は、重装甲兵か。竜騎兵隊、奴らを始末しろ。砲兵隊は弾込めして待機。 』
タクミは軍配を振ると竜騎兵達は一斉に走り出した。その手にはグレネードランチャーを付けたライフルを持っていた。重装甲兵達の銃撃や爆撃の所為で犠牲者が次から次へと出ているのにも関わらず騎兵達は突進を辞めない。騎兵になる者は大抵皆命知らずであり、そこが難点でもあった。(若い男性の死傷者数が大変な事になる為)そうしている間に竜騎兵達は敵を射程内に収めた。
オラクル竜騎兵隊隊長
『良し、この距離なら届くな。擲弾撃てぇい‼︎』
ポンッ!という音がありとあらゆる兵からなり、一万数千の擲弾が重装甲兵達の頭上を飛んだ。そしてそれらは空中で破裂し、中からトリモチのような 物体が飛び出し、重装甲兵達の動きを封じた。彼らはトリモチの引き千切ろうとしたが、更にオラクルの攻撃が彼らを襲った。
マトイ
『ブレイバー弓兵隊、構え。』
バレットボウを持ったブレイバー達が一斉に矢をつがえ、つるを引き絞った。そして矢を空に向けた。
マトイ
『放て!』
号令と共に幾万の矢が重装甲兵達に向かう。鏃には鉄の刃では無く水の入った風船が付いていた。矢が当たった重装甲兵達のトリモチは硬く硬化した。竜騎兵達が撃ったのはトリモチに似た水を掛けると硬くなる特殊な薬品であった。身動きが完全に取れなくなった哀れな重装甲兵達にトドメを刺すべく30サンチ重榴弾砲が一斉に火を噴いた。爆音と同時に重装甲兵の悲鳴が響き、爆音が鳴り止んだ時にはもはやその場所に五体満足の死体は残されていなかった。
オラキオ兵達は爆煙の中に蠢く影が自分達の同胞(重装甲兵)である事を願った。あいつらは王国最強の兵種、分隊から小隊クラスに固まって盾を構えれば重榴弾砲でも傷をつけられない!そうだ正しく無敵なんだ!と。然し現実はそうはいかず、煙から現れた蠢く影の正体は、乗馬した赤備えであった。そこからは蹂躙であった。外からはオラクル軍の突撃。都市からは態勢を整えたグラールの防衛機構であるガーディアンズと同盟軍、そして正当オラキオ軍の連合軍の反撃。オラキオ軍が降伏したのはそれから僅か一時間半。残余の兵は27568名であった。
敵の降伏がスレイマンに伝えられると直ちに軍門に下る旨を敗残兵に伝えさせ、援軍に来てくれたオラクル軍に礼を述べるべく、グラール側の重要人物を待った。グラール側の重要人物はガーディアンズ総裁ライア・マルチネス、同盟軍元帥フルエン・カーツ、SEED事変の英雄イーサン・ウェイバーとカレン・エラ、GER社社長ヒューガ・ライトである。
程なくしてこの人物達は集った。
スレイマン
『皆、無事であったか!』
イーサン
『おっ!王子さんも無事だったみたいだな、何よりだぜ!』
ヒューマンの男性が軽い口振りでヒラヒラとスレイマンに手を振ると、隣のデューマンが諌めた。
ヒューガ
『イーサン、失礼ですよ?お許しを殿下、イーサンは少し頭のネジが数本抜けておりまして。』
スレイマン
『よい、そなたらは私の臣下では無い。そなたらは我が友人だ。礼は無用だ。私もその方が良い。』
カーツ
『して、あれがオラクル軍か。凄まじい戦いぶりだった。あの場に居る兵達皆が全精神力と思考が戦に向かって居るかのような戦いだった。』
カレン
『こう言ってはあれだが、死を恐れぬ死兵。まるでSEEDのようだ。』
ライラ
『肝が座ってる、なんて言葉じゃ説明がいくような強さじゃないね。正しく殺戮マシーンが人の形をしてるって言った方が良いくらいの強さだよ。』
するとオラクル軍の方から勝鬨が響いて来た。それは都市にいる者全員の視線を集めるほどの熱気であった。
オラクル軍
『共和国万歳‼︎自由、平等万歳‼︎司令官閣下万歳‼︎そして我が愛すべき家族に乾杯‼︎』
それを見たイーサンは、何処か安心したような笑みを浮かべてこう言った。
イーサン
『一つだけ確かな事があるとすれば、あいつらも血の通った人間だって事だな。面白い連中だと思わねぇか?』
それを聞いた一同は同じ様な笑みを浮かべ、オラクル軍の戦闘で勝鬨の音頭を取る男に視線を向けた。そして同時にオラクル側の大将であるタクミもまた音頭を取りつつ、都市の入り口に立つ五人の人物を見つめていた。そしてこう呟いた。
タクミ
『向こうにも面白そうな人達が居るみたいだな。退屈はしなさそうだ。』
命知らずの精兵オラクル軍。多種多様な種族の特性をとことん引き出したグラール連邦軍、一見古臭い様に見えるが、実に合理的で強力な力を発揮する正当オラキオ軍。三ヶ国の軍勢が轡を並べた瞬間であった。
五人は車輌を手配し、オラクル軍の陣に向かった。陣頭には既に下馬し、兜を脱いだタクミが待っていた。五人は車輌から降り、タクミの前に立った。タクミは五人の近くに寄り、頭を恭しく下げ、こう言った。
タクミ
『殿下、この度拝謁を許して頂き恐悦至極。されど某は民主共和主義の旗を掲げて戦っています。無礼は承知ですが膝を屈さぬ事をお許し下さい。』
スレイマン
『良い、貴方は今宵より我が盟友になる、礼は不要。どうぞ頭をお上げください。良くぞ来てくれました、フェデル大将。貴方が来てくれなければ我らは今頃屍と化していたでしょう。』
タクミ
『我らオラクル軍総勢約70万(艦隊乗組員を含む)今より殿下の軍と轡を並べる事を誓いましょう。必ずや至高の玉座を取り戻してご覧に入れましょう。』
この瞬間、このやり取りを見ていた人々はそれぞれ頭の中では思い思いの事を考えていた。
スレイマンはタクミと握手を交わした瞬間に生物的な本能に訴えかける何かを感じた。『この男はどんな物の考え方をしているのだろう?国の命令とは言え、何のメリットもないこの事後同盟に参加し、なんの躊躇いも無く力を貸すと言った。それだけ聞けばまだお人好しや義理堅い人物と考えられるが首から下がその様な熱を感じさせない。むしろ感じるのは焦燥や怒り、憤りだった。自らの命運を気に入らない奴に握られた様な怒り、
ライアは『この男、妙に下手に出るな。確かに恩を返される側とは言え、礼を尽くすのは当然、だが妙だ。不自然だし、なんとも言えぬ怪しさがある。ご覧に入れる?助力や合力する等なら兎も角、ご覧に入れるだと?こいつ一人でこの坊やを王にしてやると言わんばかりの口調ではないか、恐らくだが何か企んでいるな?』と考えていた。
イーサンは『俺とあまり年は変わらねぇみたいだが落ち着きがあって、胆も座ってる。何より躊躇がない。見た目とは裏腹に非情な手段すら厭わんと言った覇気がある。現に大量の死体が川に流されているのも証拠だ。効率的かつ合理的、この二つさえあれば惑星すら破壊しかねないような狂気を俺は感じる。近くに来た瞬間ビリビリと感じた。御伽噺そのまんまの軍神の末裔…もしそうならこいつは人の形をした狂気そのものではないのだろうか?』と考えていた。
カレンは『あの大将もそうだが、その傍にいる少女もとんでもないフォトンを感じる。ヒューマンでここまでのフォトンを宿すのは並大抵の事ではない。もはや不可能の領域。まるで戦い方を知らない、人畜無害と言ったまだあどけなさの残る見た目だがこの戦場に散らばるテクニックを使った痕を見れば一目瞭然だ。跡から凄まじい力がまだ残っている、そしてその源からも同じ力を感じる。これでは、まるでーーー』
一方のオラクル側も別の事を考えていた。スレイマンと握手を交わしながらタクミの脳裏には、『ふむ、この少年、思った以上にやるみたいだな。二振りの剣を操るだけの腕力、掌の豆、余程鍛錬したな。話し方や雰囲気も王族らしい優雅なものだ。後は政の才を見たいが、恐らくズブの素人。他のグラール領があまり被害を受けていないのはバラバラに進軍したオラキオ軍に対抗するために戦力を分散し防御に徹し戦線の崩壊を防いだからだ、にも関わらず何故、本陣がこれだけの大兵に攻撃されたのか。答えは単純だ。内通者の存在よ。先の艦隊戦での生き残りを締め上げたがこの王子の側近が内通者らしい。防衛に徹したグラール軍の戦力が各惑星に配置替え為に生まれた僅かな戦線の穴、そして本陣の戦力がカラという隙を突いての侵入をお膳立てしたらしい。内通者を察知するのは至難の業だがこういう時こそ生まれやすいのも事実。それが分からんようでは素人と見る他ない。内政干渉になる事疑いなしだが、この王子を王にする為には俺自らが手を加えなければならないな…折角の好青年を死なせるのも惜しいもんだろうよ。』っと考えていた。
マトイは、『みんな私より少し年上位なのにみんなどこか落ち着いているというより、これよりも酷い戦いを経験しているという顔をしている。あれだけの物量をあの少しの戦力で支えられたのは単にこの人達のお陰なんだ。全くフォトンに乱れがない。あの赤い服を着た女の人(カレン)は私と似たようなフォトンが流れてる。凄い力、ニューマンってだけじゃないけど、辛い喪失と深い愛情を経験したような暖かさも感じる。だからこそ恐ろしい、もし使い方を誤っていたならーーー』
カレン&マトイ
『怪物になる。今、この場に者は全員化け物じみた連中なんだ。運命の悪戯を辛うじて逃げ切った猛者達なんだ。そうでなければ何故、この修羅場の中で笑っていられる。』
そう、後の各陣営に所属した兵士らの話によると、これらの者達はこの戦場にいる間、誰一人苦悶の表情をしておらず、皆、笑みを浮かべていたのだ。使命や重責に押し潰される恐怖から逃れる為、一世一代の出来事に心が踊った為、戦いの緊張感や躍動感に取り憑かれた為、他者を鼓舞する為、理由は数あれど、共通するのは…こう言った連中は等しく化け物と評された事である。だが彼らに何も戦いを楽しむ、殺戮を楽しむと言った悪趣味は無い。
あるのはただ一つ生き残るという意思であった。それが魂に刻み込まれ、その魂の発露として現れたのは戦場に居ながら笑みを浮かべるというものだったのだ。これは一番先に挙げたものに通じる物が有るが、恐怖を紛らわす為では無く、我がものとする為だからだ。人間の讃歌は勇気の讃歌。勇気の素晴らしさは人間の素晴らしさであるなら、彼らは勇気という非科学的かつ最も強力な人間の原動力を無意識に発揮しているのだ。彼らは無自覚ゆえに同じ状況にある人間と相対した時に思うのは狂気であった。ある意味、勇気と狂気は表裏一体であるが、お国柄戦う事自体に疑問を抱かない性質を持つもの同士互いに拒否反応を起こしていたのだ。
互いが何故戦場で笑いながら立っていられるかの疑問はここで溶けたが、大元の互いの猜疑心の出所が何も語られていないのでここで語ることにする。
互いにまず単純に初対面の人間の人格や考え方が知りたかった。これは誰にでもあることだ。学年が上がって別のクラスに編入された時に初めて話した相手がどんな奴かと頭の中で考えるそれと同じ事だ。信用に足るのか、有能か、無能か。軍事同盟とあれば尚更この点は重要だ。次に、と言うよりもこれが一番の理由だが、過去の歴史の因縁であった。
オラクル、オラキオ、グラールは一定時期に互いの植民地を争って泥沼の戦いを繰り広げており、特にオラクルは今の領土のほぼ半分が、オラキオ、グラールから奪取したものであり、この植民地争いで死んだオラキオ、グラール人の数は50億を下らないと言う。だがオラクル側もそれとほぼ同数に近い莫大な数の死者を出し、船団そのものの存亡が危ぶまれたのは一度や二度では無い。この戦乱は一定期間に限定され、何度も何度も戦いを繰り返した。
然し、実際最期の戦乱が終わってから既に何世紀も経過している、つまり過去の因縁というには余りにも遠過ぎる話であり、もはや当事者は勿論、実際に何が起こったかあやふやな所も数多く存在してしまう体たらくであった。
然し、言い伝えられたものは簡単に途絶えることは無く、互いが互いを鬼だ悪魔だと言い続けていたのだ。それがやがて憎しみから恐れに変わった。そうここに居る者達は起こしたくないのだ。過去の戦乱を。そしてそれが起きる理由は、グラール人とオラキオ人とオラクル人が同じ場所に居る事だと思っている。出来ることなら追い出したい。出て行きたい。その思考に囚われていたが互いが互いの手を取り合わなければ当面の敵に勝てない。だから手を取り合う前に寝首を掻かれないように、掻けるように互いの腹を探っていたのだ。
そんな薄ら暗い握手を終えるとオラクル軍はスレイマンにキャピタルシティ入城を要請された。タクミは少し、眉を動かしたが二つ返事で了承。大急ぎで陣にとって返した。
然し、この出来事はタクミの策であった。オラクル人に対し、無類の信頼を勝ち得る。これがタクミの外交戦術であった。必要なだけ、オラキオ正当政府に手を入れなければならないと思っていたタクミは先ず何が何でもスレイマンの信用を勝ち得なければならなかった。そこで二段構えの策を用意した。一つ、スレイマンの前で鬼の如く戦い、オラクルの武勇を見せつけ、尊敬と畏怖を植え付ける。二つ、先とは打って変わり、清廉なイメージを持ってもらうべくオラクル人が義を重んじ、風流や芸術を愛し、規律正しく、清廉な人間の集まりである所をスレイマン他各勢力の実力者に認識させる事である。文武両道、清廉潔白。この二つは他者を惹きつける要因としては確実なものであり、彼の外交認識である、『所詮国の外交とは人付き合いの延長線でしかない。』に基づいたものだった。兎も角も作戦は第2段階に入り、タクミとマトイは大急ぎで馬を駆けさせると、大急ぎで通信所に入り、タクミは直ぐに電話口に飛びついた。
タクミ
『全将兵、直ちに軍服及び装甲服を正装に着替えろ‼︎返り血一つでもついていたら許さんぞ‼︎軍楽隊は正装と楽器準備の上待機。』
タクミは振り返り、マトイを見ると、同じようにアークスの正装(通称、アークスコート(オラクル軍の標準制服になっている。))を着替えるようにいうと、マトイは、
マトイ
『あれ、少し胸の方がキツイんだけど…頑張って着てみるね。』
と言って更衣室の方に走っていった。それを聞いたタクミはベレー帽を目深かに被り、顔を赤らめていたのを隠した。そしてその場でマトイの制服の新調を要請する手続き書を用意し、近くを歩いていた主計科の士官を呼び止め
、書類を手渡した。
一時間程経ったであろうか。全軍の着替えが済み、キャピタルシティの郊外に全軍の布陣を整えたタクミは全軍を前に布告を行なっていた。
タクミ
『総員、よく聞くのだ!これより都市に入ったら、如何なる狼藉は許さぬ‼︎暴行、略奪等を行った者は軍法会議に掛けられる事なく現場に居合わせた上官により処刑を行なわれるものと思え!我々は流浪の蛮族ではないことをあの都市に住まう人々に見せつけるのだ‼︎他の惑星でも戦勝の報告が上がり、我らと同じ様に入城する者達が居る、その者達の先駆けを我らが行う。足並みを揃え、銃剣を煌びやかせ、堂々と進め!advance(前進)‼︎』
軍楽隊がドラムとファイフを奏で始め、軍団より先に歩き始めた。それから少し経つと各部隊指揮官が前進の号令を出し始め、総勢約二十万の軍勢が軍靴を響かせ行進を始めた。
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都市では多くの住人がオラクル軍の戦列の到着を今か、今かと待ち構えていた。彼らからしてみれば異国の軍隊は遠くの地から旅をしてきたサーカス団の様に物珍しい存在だったのだ。すると都市の外から軍靴と軍歌の音が響き始めてきた。遂にオラクル軍が入城したのだ。先頭は豪華な装飾品をつけた軽騎兵が務めた。その後ろを歩兵、戦車、装甲車、砲兵、歩兵、重騎兵、竜騎兵、歩兵の順番で次々と行進した。都市の住民の阿鼻叫喚が都市中に木霊していた。三色の軍服とはまた派手なとか、女性兵の数が多いなとか、さっきまで戦っていた連中とは思えないとか、そう言った類であったが一番驚いたのは全身を赤く塗装した赤備え達を見た時だった。最初は皆、返り血で染まったのかと恐怖の叫び声をあげるものをいたが、やがてそれは染めた物と判り、安堵したが、微かに見える彼らの瞳が一騎当千の古強者である事を都市の住人は理解した。これらに対し、兵達は全く動じず精悍な顔つきで歩いた。これが更にグラール人の歓声を買った。砲兵と装甲車の間で馬に乗り行進の列にいたタクミはほくそ笑んでいた。少し先に閲兵のために待機していたスレイマンやグラールの英雄達が居るのを見た。タクミは各司令官に無線で合図を送ると先頭の軍楽隊が曲を変えた。それはグラールのSEEDと戦った人々を讃える歌だった。そして軽騎兵が刀剣の礼をスレイマン達に送ったのを皮切りに『頭、右!』と前を通る部隊がスレイマンに礼を行いながら行進を行った。行進があらかた区切りがついた所でタクミやマトイ達はグラール国会議事堂に入った。供に赤備えとポツダム師団老親衛隊が付いていった。
その国会議事堂の一室で今後の戦略を練る軍議が行われることになった。その間、タクミは現状のグラールやオラキオの情報を調べる為ある人物の協力を仰いでいた。ローシュ・クラナス参謀はスレイマンを幼少期から支える忠臣であり軍才に富み、外交の才もある将来有望の中年の男性将官である。元々軍人になりたい訳では無かった為、タクミとは話が合った。しかも歴史家志望であったから余計意気投合していた。そんな二人は今後の事を協議する上でどう意見を出すかを相談していた。
クラナス
『殿下に対し、意見を申し上げる時は率直な事を仰っても構いません。先王陛下の如く他者の話に耳を傾け、理解し、それを実行することの出来るお方ですので先程の策もご理解頂けると思われます。』
タクミ
『それを聞いて安心致しました。してクラナス殿、現在の殿下の手勢は如何程か?艦隊は最低三万、陸戦兵力は二十万は欲しいのですが?』
それを聞いたクラナスは肩を竦め俯き気味で答えた。
クラナス
『残念ながら、今殿下の手勢は、艦隊が一万四千、陸戦兵力は11万。先の降伏した兵と艦を合わせたら艦隊は二万、兵が13万といった所です。』
それを聞くと、タクミは後ろに寄り掛かると少し考えを巡らした。傍の捕虜を尋問した末に作った敵の配置図を観ながら考えていた。そして暫くしてタクミはクラナスにある問いを投げた。
タクミ
『クラナス殿、何故敵の最前線の戦力がこう少ない所が多いのでしょうか?見ると本拠地に近くなると一線級の戦力を抱えてる部隊が殆どだが最前線はとてもじゃないが防衛をするにもお粗末な数しか居ないのですが、何か訳でも有るのですかな?』
クラナス
『我が祖国は、徹底した身分制度が敷かれており、我が国は身分の低い平民、下級貴族は僅かな兵しか与えられるず、そのくせ最前線に送られ、命を散らす。一方高い身分の人間はそれに見合った大兵を抱えられますが、殆ど前線に出ることは無く、その所為で戦ったことの有る者が少なく、戦闘といったものは下々がするのが当然と考えている者が多いのです。そういった歪んだ身分制度によって組まれたのがこの配置図でしょう。
先王陛下が長い年月を掛けてこの身分制度を廃止したのですが、シュメルヒ殿下はこの身分制度を復活させてしまったのです。もといこの身分制度廃止は多くの貴族から否定的に捉えられておりまして、先王陛下が亡くなられた折、貴族の大半がシュメルヒ殿下をお立てしたのはこの制度を復活させようと利用しようと貴族が考えたという所が妥当でしょう。先王陛下の御恩を無下にする売国奴達によって身代わりにされた最前線の将兵達は、本当に可哀想でしかありません。』
その身分制度を恩恵を受ける貴族出身の筈のクラナスがそこまで酷く言うにも理由があり、クラナスは下級貴族の出身であったが、先王により抜擢されその力を発揮し、上流の貴族の暴虐を辞めさせようとしたことがあったからであった。
タクミ
『そうですか…私が先程申した作戦が成就されれば多くの血を流す心配が無くなります。その上で登校を呼び掛け、殿下の軍門に降らせる事が叶えば戦力増強も叶うでしょう。』
とタクミは紅茶を飲みながら答え、次は連合の現状の戦力に目を向けた。流石にグラールの人材は優秀であった。英雄イーサン・ウェイバーを始めとした人々は正しく数百年の逸材と言っても過言では無かった。だが逆に正当オラキオは有能な武官が僅かしか居らず、殆どが文官であるどころか、戦を経験した者も少なく、寧ろこの連合では邪魔になると分かった。この連合の盟主は当然、スレイマンである、そして当然盟主の部下である文官たちもある程度デカイ顔が出来るのだ。スレイマンの周りを固める文官の中で当面のタクミの障害になる可能性のある人間は四人いた。宰相マッセナ、イゴール・ロイシュナー、ティムル・カトラ、セリム・ロームこれら3名の提督であった。宰相マッセナはこの内戦で自身の権力の向上を目指しており、以下の3名はマッセナの取り巻きの文官上がりの提督で全くの素人であった。この4名がこの同盟の戦略を担ったが結局この有様でありグラール・オラキオの陸、宇宙両軍に無益な犠牲を強いてきたのだ。タクミはこの4名を排除し、同盟内でのオラクルの発言力強化、及び同盟の強化が目的としていた。オラクル出発時に諜報部よりある程度の内情を聞いていたが実際の状況は彼を辟易させたが先の内通疑惑を考慮すると正しくチャンスに成り得るとも考えていた。発言力強化どころか、この転がり込んだ大義名分によって4名の排除を行う事によって各国からの英雄視と、スレイマンの信頼を得る事によって同盟そのものの掌握すら夢では無くなったのだ。タクミは出征前にこれはオラクルの戦にすると将兵達を前に言った。正しくその時が訪れようとして居たのだ。