pso2仮想戦記二年前の戦争 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
惑星パルム中央政庁に三ヶ国の武官、文官が集まった。(オラクルは軍人のみなので武官オンリー)皇子スレイマンの左右に長机を置き皆がそこに座った。例外として、スレイマンの近くに立つ四人の男が居た。宰相マッセナ、イゴール、ティムル、セリムの三提督である。タクミの現状の目的はこの四人の内通の証拠を掴み、排除する事であるが、この四人はこの通りスレイマンの重臣である。重臣を君主から取り払ってしまえば、それは手足を捥がれたも当然である。その手足を新しく付け替える。その外科医をタクミはやらねばならない。クラナス卿を始めとする忠臣派の将校達をその新しい手足に変える、そしてその恩義を傘に後に起こるであろう祖国の危機に際し、軍勢を借り入れられるようにする。そしてその為の交渉をするに当たっての知己を得る。それはグラール、オラキオ、オラクルの三国同盟を完全な対等な物にする為の交渉をやりやすくする為の準備であった。
タクミ
(だが、今だけはその主導権を我々が握りたい。あの名君の卵を凡君、暗君になるのを救ってやるんだ。感謝しろよオラキオ人)
そうしている間にマッセナは杖で床を強く叩いた。ガンッという音に皆が顔を向けた。
マッセナ
『皆の者、これより恩賞授与、並びに軍議を行う。恩賞は既に卿らの前にあるのでありがたく受け取るように、陛下の御前である頭を下げ控えよ。』
オラキオの武官、文官は直ぐに頭を下げ、民主主義国家であるグラールの将官達も礼儀として頭を下げた。だがオラクルの将官達は誰も頭を下げなかった。決して礼儀知らずでは無い。彼らの信条である。民主主義者は、自由主義者は、決して権力、そして君主に頭を下げ、膝を屈する事はあってはならぬ事であった。少なくとも彼らはそう教えられてきた。それが彼らの規範と言っても良かった。
マッセナは目の色を変え吼えたてた。
マッセナ
『貴様ら‼︎如何に卿らが我らの恩人もいえど同盟の盟主たるスレイマン様に頭を垂れぬとは礼儀知らずも甚だしいぞ‼︎』
タクミ
『我らは‼︎臣下では無い‼︎‼礼はすべき所ではするが、一つ言わせて欲しい。︎民主主義とは対等な友を作る思想。主従を作る思想では無い。ましてや我らは対等な盟友のはず、友であるはずの我らが交わすべくは、臣下の礼では無い。』
マトイは直ぐにワイングラスを取り出した。そこにワインを注ぐとタクミに渡した。
タクミ
『交わすは友情の盃。ただ一つにござろう。そうであろう皆々様?我らは先の戦いで初対面であるにも関わらず十年来の戦友の如く、力を合わせ、戦い抜いた。もうそこに臣下もクソもあらんでしょう。』
それを聞いたイーサン、ヒューガを始めとしたグラール勢は下げた頭をあげ、マトイから盃を手に取りそこにワインを注ぎ立ち上がった。更にスレイマンも微笑を浮かべると侍従に皆に盃を渡し、酒を注ぐように命令した。
スレイマン
『マッセナ、大将の言や良しだ。我々は盟友だ。交わすべくは友への賛美だ。彼らの誇りを貫き通す姿勢は称賛に値する。そう簡単に出来ることではない。』
スレイマンは盃を取ると、立ち上がり、前に出た。他の武官、文官も盃を取り立ち上がった。スレイマンは息を吸い込み覇気を込め、言った。
スレイマン
『共に戦い、勝利を収めた我々同盟の勝利と散っていった盟友と今日新たに得た友達の武運長久を願って‼︎』
スレイマンは慣れないながらも飲み干すと、タクミ達もそれに従い飲み干した。
マッセナや三提督は開いた口が塞がらず、マッセナに至っては全身をフルフルと震わせて居た。スレイマンはそんな宰相を一瞥すると不思議そうに声を掛けた。
スレイマン
『宰相、どうしたのだ?軍議を行うのではなかったのか?』
マッセナ
『お、おぉう!そうでしたな。殿下これが今の我らの軍勢の配置にございます。』
マッセナがホログラムを起動すると二分された第3銀河が映し出された。青い領域が同盟、赤い領域がシュメルヒ皇子の領土だ。
両軍の領域線に同程度の小規模部隊が複数置かれて居た。スレイマン側でも下級貴族が少数部隊を率いて前線に配置されもしもの時の矢面に立たせられるのである。そもそも何故両軍共に前線に少数の兵力しか置かず、大規模兵力を保有する貴族や王侯が一人も居ないのが、理解出来ないオラクルやグラールの将官も複数人いた。当然である。常識的に考えられないことだ。前線に兵力を集中させればさせるほどその戦線に穴が空くリスクは減る。敵に大きく迂回され、後方を侵される可能性が無ければ尚更である。もしまたグラール三惑星を攻撃した程度の規模を誇る艦隊に前線を攻撃されたらほぼ間違いなく突破されるのがオチである。
しかし、マッセナや三提督は前線に同程度の部隊を満遍なく置き、敵の進撃を食い止められると豪語し自らの布陣を自慢げに己の君主に見せつけた。先の敵の襲撃は配置変更を行なっているちょっとしたスキを突かれて起こった事なのでこの布陣なら敵は進撃しようにも直ぐに我々に筒抜けになり、仮に進撃してきたとしても、その場の部隊と周辺部隊が集結し、包囲殲滅出来るとも話していた。
スレイマンは辺りを見渡すと誰も意見者が居ないかを確認した。するとそこにまたスッと手を挙げる者が居た。
タクミである。宰相達は嫌がらせをされていると考えるくらいこの男に食いかかられるのに閉口していたが、窮地を救った恩人であり、戦においての玄人であるという事は確かであろうという事から無視する訳にはいかなかった。
マッセナ
『では大将。意見を述べていただこう。』
タクミはすっと立ち上がると、ホログラムに指揮棒を当て、喋り始めた。
タクミ
『この配置ですが、戦線に敵と同数程度の部隊を列に並べておりますが、普通はこんな事しません。可能な限り戦力を前線に集中し、敵の侵入を阻止する、それが常道です。しかし、これでは今回の様な戦力を動員されれば突破は間違いありませんし、各領域の部隊を増援に駆けつけさせれば戦力を小出しにするという愚策をやる事になり、結果として各個撃破されます。かと言って集結させるのは今度は穴だらけになり、敵の戦線突破を許します。そこで…』
タクミはホログラムを指揮棒で払うと新たなホログラムが映し出された。それは前線に小規模の部隊を並べるのは変わらないが、各部隊の数は1.5〜2倍程度に増やされており、それ以外の場所に配置された部隊は全て結集し、一つの巨大な塊になり、敵の中央領域を貫いていた。
マッセナ
『こ、これは…。』
タクミ
『我が同盟の現戦力をまとめ、行う中央打通作戦です。その為に最低限の戦力を守備に残し、それ以外は全て攻撃に回します。』
この意見には他国の諸将は浮き足だった。事実上の守備放棄、攻撃一辺倒な配置であった。そこに一人のオラキオの文官が質問した。彼は立ち上がると、自分の名を述べ、その後に質問した。
文官
『何故、今こんな攻撃的な布陣を取る必要があるのでしょうか?我らは攻撃を受け、それを癒し、国力を蓄えるべきでしょう。残念ですが今の我らは劣勢。それを覆すには力が足りませぬ。そんな状態では薄布も破けないのではありませんか?』
タクミ
『たしかにそれもその通り、然れどそれは敵も必ず国力の増強を狙い、戦線を膠着させられる恐れがあるからです。恐らく時が経つにつれ有利になるのは向こう側。領有する星系や、兵や艦の数は向こうが上、だが今なら互いにそこまでの差は有りませぬ。むしろ敵が弱い薄陣を敷いている今こそ、一気に領土拡大を図る好機なのです。』
文官
『好機とは言いますが中央以外の敵戦力に補給線遮断をされる可能性があり、ともすれば潰乱する恐れも出てきますぞ!』
タクミ
『それ以外の前線連中は、全て此方に引き入れます。惑星セーシャンを失えば、彼らは中央の統制を失い、更に補給線も断たれる。彼らが生き残る為にはスレイマン殿下の旗を扇ぐ他ありません。』
文官
『しかし、彼らがそうすんなりと受け入れるでしょうか。仮にセーシャンを我が物に出来たとして、その交渉が難航すれば我々の優位は揺らぐことになるのではありませんか?』
タクミ
『誰が交渉すると決めた?』
この一言に武官、文官はざわめきだした。
無傷で手に入れるのでは無いのか。支離滅裂ではないかと、しかしこの若者は机を叩きながら他を黙らせるだけの声量でこう続けた。
タクミ
『無傷で軍団を手に入れる方法などない!中央の統制を受けなくなった彼らは各地で群雄割拠するだろう。各部隊がそれぞれ守備している星系を己の領地として旗揚げするだろう。その辺りは彼らが本来治めている領地よりも遥かに豊かな地が多いそうです。彼らはここぞとばかりに我らとシュメルヒに刃を向けるでしょう。我らが互いを食い合って疲弊している間にその隙間を塗り潰していくのが狙いでしょう。だからこそセーシャンを奪取した時点で全戦線に配備した部隊も一斉に進撃敵に対して圧力を掛けます。そして各地で敗走した兵と艦を収容。これで後方の憂いは無くなるばかりか敵の敗残兵からはスレイマン殿下は仁義に熱く、シュメルヒと違い寛容で扇ぐ旗が違っていた自分たちを受け入れてくれる君主というイメージを広めるのです。』
タクミはスレイマンの前にそれこそ互いの白目が見える位置まで近寄った。傍を固めていた衛兵たちもこれには堪らず武器を構えるが、スレイマンは制止した。そしてタクミはスレイマンにこう続けた。
タクミ
『殿下、大事なのは今をどう戦い抜くかを考える事ではありません。如何に迅速に勝利し、民を安んじられるかです。それが君主としての勤めにございます。』
スレイマンは眼を閉じ、少し物思いに耽ったりが直ぐに眼を見開き、立ち上がった。
スレイマン
『マッセナ‼︎これより詔を遣わす!同盟軍の諸君も良く聞いて頂きたい。』
マッセナを初めとしたオラキオの武官、文官は皆席から立ち上がり、床にひざまづいた。
オラクル、グラールの将官達はその場で起立、そのまま直立不動の姿勢を取った。
スレイマン
『これより我が軍は、フェデル大将の言を取り、持てる戦力の全てを投入し、一ヶ月以内に惑星セーシャンを奪取、前線に広がる各諸侯を配下にし、逆臣シュメルヒを討つ‼︎‼︎』
一同
『必ずや‼︎‼︎‼︎‼︎』
会議は攻勢に転じる形で幕を閉じた。その後、戦勝祝いで宴を一席催すと言うことになったので各々自分の陣地に戻っていった。
タクミとマトイが施設から出ると護衛の赤備え十数名と各惑星に散開したアフィンら陸軍司令官が待っていた。タクミは彼らに会議の結果を伝えると同時にこう忠告した。
タクミ
『少なくとも、これで我らはマッセナ達から政敵と認識されただろう。道中襲撃の恐れがあるから覚悟するように。こんな大都市だろうと御構い無しに掛かってくるかも知れないから市街地戦も想定せねばならないからな。』
オラクルから持ち込んだ外交用車輌にタクミとマトイが乗り込み、その周りを他の者が騎乗し周りを固めて街を後にすべく走りだした。暫く市街地を走っていると突然車輌の窓が少し凹んだ。そう狙撃されたのだ、幸いこの車に使っている窓は戦艦等に使われる超硬化テクタイト複合型ガラスだったことから戦車砲でも持ってこない限り割れる事は無い。何にしても暗殺者襲来の危機が訪れた事は一行は理解した。そして直ぐに下手人達は姿を現した。全身黒装束の三人の暗殺者だった。三人は護衛の赤備えの3名を刺殺。更に諸将に襲い掛かったが歴戦のアークス達が簡単にやられる事などなく、オーザ、サガ、アザナミは刃を受け止めると直ぐにアフィン、リサ、フーリエが銃撃を開始した。マールーはテクニックで壁を作り、ピエロは車輌の上にペットを配置して守らせた。タクミとマトイが堪らず加勢に出ようとしたがアフィンに止められた。アフィンはリロードしながら叫んだ。
アフィン
『相棒達は出るな!奴らの狙いはそれだ。あんたらをその中から燻り出す気だ。そこから出られたら守りきれない!』
一方の暗殺者達も多勢に無勢と判断したのか、逃げていった。
周辺の住民達は悲鳴を上げ逃げ惑っていて、そこにガーディアンが数名駆けつけた。フーリエがすぐにガーディアンに事の次第を話すと、彼らは直ぐに応援と警戒強化を求める無線を入れた。
タクミ
『兎に角一度本陣に戻ろう。このままでは何も出来ん。今の敵の黒幕を見つけ出す事もな、何も出来ん。』
本営に戻るとプレシ少将や諸提督が待っていた。彼らに会議の結果と、自身が暗殺されかけた事を知ると、既に敵に裏切り者がいるに違いない。成敗してくれる‼︎と各将兵が吼えたてたが、プレシが一喝して抑えた。
プレシ
『辞めぬか‼︎若造ども、まだ我らの盟友の中に裏切り者がいるか決まった訳ではなかろう‼︎』
キダ
『その通り、裏にいる人物は、我々をこの同盟に亀裂を持たらす為に大将閣下を襲ったのだ。ここで騒ぎ立てればそれこそ敵の思う壺だぞ‼︎少しは考えろ‼︎』
チェンバレン
『然し、それなりの態度を見せつけたほうが良いのは事実。大提督暗殺未遂など無かったと思われる程の堂々たる態度を。』
タクミ
『そこで何だけど…』
タクミが提案した内容には皆驚いたが、自分達の御大将がやるなら仕方がないと、諦め、それぞれ準備についた。そんな中自分の宿舎に戻ろうとするプレシをタクミは呼び止めた。そして小さな声で聞いた。
タクミ
『女性をダンスに誘うのってどうやんの?』
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夕刻になると中央政庁に多くの富裕層や武官、文官、知識人が煌びやかな衣装や愛人を連れ、集まりだした。皆、まだ戦争が始まって間も無いと言うのを知っているのか知らないのか、兎に角派手に過ごそうとありとあらゆる見栄を張ろうと必死になっていた。
国王直属精兵歩兵軍団イェニチェリが正装し、礼装に身を包んだ客人達の接待や給仕を行なっていたが、全員高周波ヤタガンと拳銃を下げ、もし国王、正統な国王として任命されたスレイマンに大事が有れば命を差し出しても守る。その構えを崩さずにいた。
(※国王直属精兵歩兵軍団イェニチェリ。
オラキオ王国国王直属の精兵歩兵軍団。幼少期より身分を問わず徴収され訓練された青年達で構成されている。彼らはその絶対の忠誠心を国王の為に振るう為に訓練されており、そこから繰り出される剣技や射撃の技術はオラキオ随一である。因みに国王では無いスレイマンの陣営に彼らが居る理由は、先王が自身の後継をスレイマンに指名した事により、王の死の直後に彼らの忠誠はスレイマンの映った為である。元より若年兵ばかりで編成するのがセオリーであるこの軍団は、自分の君主が年齢が近い事への親近感や、王位簒奪を図ったシュメルヒは彼らが何としても討取らねばならない存在であり、さもなければ歴代先王達に顔向けが出来ないという彼らの面子もあるのである。)
そんな彼らが警護して居るエントランスにオラクルの一行が到着した。数名のイェニチェリが整列し、刀剣の礼で迎え、イェニチェリの士官が車の戸を開け、中の人間の道を開けた。車から出てきたのは赤、青、白のトリコロール、通称要塞方面軍カラーで色付けされた豪華な軍服に身を包み、頭にツーコーンを頭に乗っけたタクミと、銀に赤のラインが目を惹くナイトドレスを着て、髪を上げ、淡いルージュを塗り、ヒールサンダルに足の爪に赤、手の爪に黒のマニキュアを塗ったマトイだ。マトイを知る人間が見たらまず間違い無く驚く変化だが、マトイを知らないイェニチェリの青年兵達は正しく女神の降臨を目の当たりにしたようなものである。まだ少年の青春を残す彼らにとってはその膨よかな乳房や露わになっている滑らかそうな背中やうなじ、大胆に魅せるすらりと伸びる細い腕と手や足の爪から光る赤や黒い光は余りにも刺激が強過ぎたのだ。
その後から、何時もの宇宙軍用アークスコートに装飾用のサイドマントを左肩に掛けたキダ、チェンバレン両提督や、タクミの軍服と同じ配色の重騎兵用の軍服と胸甲とヘルメットをつけたプレシ少将とアークスコート(一部要塞方面軍トリコロールカラーの)で正装したアークスの英雄の面々が到着した。そしてそれぞれの手には楽器が握られていた。
タクミの策とは暗殺の危険を承知の上でこの舞踏会に参加し、同盟内に居るかも知れない黒幕に対して、自分達は全く恐れていないという事を見せつける事であった。
タクミはマトイの手を取り、スレイマンの前に現れ、招待された事への感謝と、改めて今回の盟約において互いの武運長久を祈った。
スレイマン
『然し、マトイ殿のお姿は本当に驚きました。息を呑むほど美しい。先の会議でのお姿とは比べものになりませぬな!』
マトイ
『お誉め頂き、嬉しいです///こんな格好初めてで、ちょっと恥ずかしいです。』
タクミ
『殿下さえ宜しければこの後のダンスパーティでどうかマトイと踊って頂けませんか?』
スレイマン
『それは素晴らしい!光栄なことです大将殿、然しマトイ殿は貴方の奥方なのに宜しいのですか?』
タクミは吹き出し、マトイは顔面真っ赤になり二人揃ってモジモジし始めて、スレイマンは首を傾げた。タクミは咳込みながら自分たちはそういう関係では無いことを説明した。スレイマンは納得すると何故楽器を持ち込んできたのかを問いたが、これに対してはマトイが殿下と踊る際に我々も演奏に加えて貰いたいと願い出る為だと答えた。スレイマン自身も他国の音楽に触れられる良い機会だと喜んで許可を出した。
スレイマンと別れた二人はホールまで戻るとマトイは化粧直しに行きたいと離れ、タクミはそこの柱にもたれかかった。多くの笑い声が響く宴の中、自分の後ろの気配を見逃す程タクミは浮かれてはいない。そしてそれが直ぐにアフィンだと気がついた。
アフィン
『右の窓に一人、左のテーブル二人。イェニチェリじゃない。それとは違う殺気だ。』
タクミ
『奥に三人。結構いるな、二階の左右にオーザとサガが居るな。』
二階のバルコニーの左右に分かれたオーザとサガが二人を見つけると、ハンドサインを送った。その内容は二階にも三人から四人の刺客が居ることを示した。
アフィン
『ここで仕掛けてくるかな?一応向こうの建物の屋根にファイアーアームズをセットしてリサさんが待機中。クーナが創世器を使ってホール内に侵入。いつでも先手は取れる様にはしてある。』
タクミ
『可能性はあるな…そこまで空気を読まんとは思えないが、クーナには後でしっかり粧し込んで来るように言っておいて、後で殿下に紹介したい。』
そうして居る内にダンスパーティ開幕の報せが届き、二人は楽器を持って音楽家達の元に向かった。(タクミはフルート、アフィンはトランペット、オーザはホルン、マールーは竪琴、サガはクラリネット、カトリはピアノ、フーリエはヴァイオリン、ピエロはチェロを演奏する)音楽家達と対面を果たした彼らは演奏する曲の打ち合わせを行った。その最中に一人の音楽家達が音楽をやるだけの時間はあったのかとか楽器を触ることが出来ないくらいの戦闘訓練を受けていたと聞いたと思い思いに質問をした。
それに対し、フーリエはこう返した。
フーリエ
『元々、我々オラクル人は戦の民である前に音楽の民でも有るのです。我々オラクル人は幼少期より音楽に携わるのはステータスで、皆、何かしらの楽器を齧っています。我々は如何なる場合でも音楽を手放す事は有りません。我が祖国のかつての皇帝の中には戦場にオーケストラの一団を連れてきて戦場で音楽を演奏させて程、我々にとって音楽は重要なものなのです。』
それを聞いた音楽家達は感銘の声を挙げた。そんな一面が有るとは思わなかったのだろう。だがその反応こそタクミの狙い通りであった。文武両道の民、それがオラクル人。決して蛮族ではない事を多くの人間に知ってもらう。これはとても重要な事であった。
暫くしてダンスパーティーを始めると言う事を知らせるラッパが鳴った為、各々が準備に入った。最初に踊るのはスレイマンとマトイだ。因みにマトイはダンスをした事が無かったが、マトイとタクミの体調管理(ネガフォトン浄化が甘い為定期的に検診しなければならないのだ)の為に従軍したフィリア看護長の数時間のみの突貫工事で練習を行ったおかげでマシなレベルまでに引き上げたのだ。勿論、スレイマンは知る由も無いが、スレイマンがマトイをエスコートしてくれていたお陰でより磨きが掛かっていた。因みにタクミはフルートを吹きながらしめたと思い胸を撫で下ろしたい気持ちになっていた。
一通り踊り終わった時にホールの至る所から称賛の拍手と歓声が上がった。スレイマンとマトイが礼をすると、スレイマンはマトイに感謝の意を述べた。
スレイマン
『感謝しますマトイ殿。貴女の様な素敵な方と踊れたのは神がお与えになった幸運かも知れません。』
マトイ
『いえ⁉︎そんな、ちゃんと踊れてたか私全然分からなくて、足引っ張っちゃったらどうしようって、頭真っ白で。』
マトイはオドオドして答えたが、スレイマンはもっと自信を持って構わないと賛辞を述べ、マトイもまだ少し上がった様子で感謝を述べた。すると今度は参加者全員が誰と踊っても良いという許しが出た。
タクミはオラキオの軍楽隊の隊長にオラクル勢を代表して合同演奏の礼を述べると折角だから踊るかと思いホールの方に向かった。
すると煌びやかな美しい衣装に身を包んだクーナに声を掛けられた。
タクミ
『おっ、クーナか。ちゃんと粧し込んで来たね?感心感心。』
クーナは少し顔を赤らめたが、すぐに本題を切り出した。
クーナ
『何目線ですか…。然し、私にこんな格好にさせて良いのですか刺客は?』
タクミ
『相手の位置を把握した様に連中もこちらの事を把握している。そして力量も。コッソリやりたいと思ってる以上圧倒的に分が悪いのは奴らだよ。強行すれば無用な騒ぎも引き起こす。それだけは連中の黒幕は避けたいはずさ。』
タクミは手をヒラヒラさせながら答えた。それを見たマトイは少し思う所があったが、納得し、タクミと別れ、その場の近くに居た若いイェニチェリ士官にダンスを申し込みに行った。
タクミはマトイを探したが見つからずに居た。すると声を掛けられたので振り返ると、長い赤髪を持ち、スラリと伸びた手足に豊満な乳房を揺らしながら近寄ってくる美女が居た。勿論、タクミはその美女が何者かは知らない。然し、向こうは知っている様だ。
美女
『タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデル大提督とお見受けします。私は王室付き侍女のソフィアと申します。どうか私と踊っては頂けないでしょうか?』
タクミ
『タクミ・Fで結構。では喜んでお受けしましょう。』
タクミがこれを受けたのは勿論、驚く程妖艶な美女から誘われた事もあるが、後の事を考えるとスレイマンに近付く為のコネクションが必要だと思ったのだ。
タクミ
(スレイマン皇子に近付く為には王室に近い人間を味方に引き入れる必要がある。王室付きだから相当な名門出に違いない。然し、このソフィアという女性…恐ろしい程妖艶な魅力を感じる。虜にされそうだ。少しマトイに申し訳ない気がするけど、どうせ彼女もありとあらゆる男に声掛けられてクルクル踊ってるだろうな…負ぶって帰る事になりそう…。)
タクミとこのソフィアという侍女が踊り始めた頃、マトイはというとありとあらゆる男達に声を掛けられたがその全てを上手く断りタクミを探していた。因みにマトイに断られた男達はマトイの魅力にやられてしまっており、断られたにも関わらず悪い気はせず寧ろもっと骨抜きにされていた。すると周りの人間達がまた賞賛の声を上げたのでマトイはその声の向かう先を見た。そこにはタクミと長い赤髪の妖艶な美女が楽しげに踊る光景が映し出された。マトイは何かにヒビが入った様なものを感じた。踊る二人の表情は正しく楽しげであり、かたや美女の方は遥かに自分より大人びており、異性を虜にするだけの魅力は充分に持ち合わせているのをマトイは一目で理解した。マトイはその場に居られなくなった。辛くなったマトイはバルコニーの方へ走った。
その頃、タクミはというと何か痛い視線を感じた。幸い踊り終わった後だったのでその原因を探すだけの時間は有った。タクミはソフィアに別れを告げると、その原因を探し始めた。彼にはその予想がついていた。踊っている最中、彼はマトイがそれを見ていて、直ぐにその場を離れた所を見ていたのだ。
タクミはバルコニーに一人立つマトイを見つけた。マトイの肩は小刻みに震えていた。タクミは申し訳なくなり、どうにか上手くやろうと意識して声を掛けた。
タクミ
『フゥウ‼︎こんなに人が居ると暑くなるね。マトイも涼みに来たのかな?』
マトイ
『うん…少しね。落ち着こうと思って。』
タクミはマトイの反応を見て、これは正直に言ってしまった方が良いと考えた。
タクミ
『何か、勘違いしてるみたいだけどあれは別にそういう訳ではないんだ。あれは、そう彼女は王室付きの侍女で皇子に近付く為には味方にしておくのが都合が良いと思ったんだ。だから別にそういう訳じゃないんだ。』
マトイはそれを聞くと振り返り、軽蔑する様な苦笑いを浮かべた。
マトイ
『そうなんだ。じゃあ私と居るのも同じ理由?私が2代目クラリスクレイスだから、深淵なる闇を倒せる英雄だから、都合が良いから私を手元に置いてるんでしょ?ねぇ、私が貴方の副官になった時、指揮権を持つ貴方は拒否する権利が有ったの知ってた?私を戦場に出したくないって思ってたのなら、貴方はダメだと言えば良いのに、良いと言った。それは私が居た方が自分の兵隊の士気が上がると思ったからでしょ。貴方にとって私も駒でしかないんでしょう⁉︎』
マトイが自分が想像していた答えとは全く違う答えを出してきたのでタクミは狼狽した。
何故こんな事になった?マトイを、というより今まで戦ってきた将兵達を駒扱いした事は一度もない!どうしてそう思われてしまったのか?まるで分からない。
タクミは思考が停止したも同然の状態になった。彼は苦し紛れに答えるしかなかった。
タクミ
『ち、違う!そうじゃない‼︎君や、共に戦った将兵達を一度も駒扱いしたことなんて一度もない。都合が良いとか、悪いとかで人付き合いなんてそんなタチの悪い事しないよ!』
マトイ
『でもソフィアさんはスレイマン皇子に近づく為に都合が良いから踊ったんでしょう?そうでなければ貴方は踊らない。』
タクミは頭に血が上って来ていた。そして彼は遂に下手を打ってしまうのだ。恐らくこの時までで一番の愚策で有ったに違いない。
タクミ
『ナニ?君はひょっとしてヤキモチでも妬いてるの?ていうかさっきから俺が都合が良い悪いで人付き合いをしているって君は言うが、その考えに行き着いた君こそどうなんだ!俺がイオに戦術の手解きをしている時や、ウルク、クーナと今後の作戦や調略を相談している時とか俺が他の女の子達と話してる時必ず君が引き攣った表情をしていたのを俺が知らないと思ったら大間違いだぞ。よくもそんな事言えたものだ!俺が君にどんな想いを抱いているかも知らずに‼︎』
マトイは遂に耐えきれなくなったのか、辛く今にも泣き出しそうな表情で走っていった。タクミは彼女がバルコニーから去った直後に我に帰ったが既に遅かった。そして突然彼の体は吹っ飛ばされた。頬には何者かに殴られた跡があり、口元が切れていた。だが目の前には誰も居ない。だがそれこそが答えだった。タクミの予想通り、目元に涙を垂らしたクーナが立っていた。彼女は倒れたタクミに馬乗りになり、そのまま胸ぐらを掴み、更に平手打ちを食らわした。
クーナ
『貴方は、あんたは自分が何を言ったか分かっているの‼︎よくも女の子にそんな酷いこと言えたものね!良い?よく聞きなさいタクミ、女の子がヤキモチ妬くってことは本当にその人の事が好きだって証拠なの‼︎』
タクミ
『………。』
クーナは息を整えながら、タクミの首元から手を離した。そしてマトイの去った方向を指差した。
クーナ
『追っかけて、今すぐ‼︎』
タクミ
『あっ…うん。』
クーナ
『駆け足‼︎』
タクミ
『イエス・マム‼︎』
タクミは全速力で追いかけた。タクミが見えなくなるとクーナはバルコニーの柵にもたれかかると一言ボソッと呟いた。
クーナ
『バカ…』
タクミは追いかけたが既にマトイの姿は無く、後に先に本営に帰った事が分かった。
舞踏会が終わった後、それぞれがおもいおもいの方に去っていくなか、イェニチェリの伝令がタクミに翌日の出陣した後スレイマンの旗艦に来て欲しいと伝えた。それを聞いたタクミの表情が、先の軍議の時とは比べ物にならない程生気を感じられないものになっていたのでイェニチェリは大変驚いた。というより事情を知っているクーナ以外の他のオラクル勢もこの出所不明の重苦しい空気にやられてしまっていた。だが彼らに気を滅入る暇すら残されておらず、また新たな戦いを知らせる軍靴の音が近づいていたのだ。
おまけ1 もしもタクミとマトイが893だったら
マトイ
『他の女に手ェ出してんじゃねぇぞバカヤロー‼︎』
タクミ
『いちいち目くじら立てんじゃねぇバカヤロー‼︎』
マトイ
『浮気したら玉取る言うたやろがコノヤロー‼︎』
タクミ
『浮気じゃねえって言ってんだろバカヤロー殺ろされてぇのかこのヤロー‼︎』
クーナ
『こうなったら全面戦争じゃあコノヤロー‼︎』
タクミ&マトイ
『なんでお前が仕掛けとんねんバカヤローコノヤロー‼︎』
(これは酷い…)
オマケ2 オラクル勢の出し物がアレだったら
タクミ
『お集まりの皆様もご一緒に、ミュージックスタート‼︎』
♪♪♪♪
オラクル勢
『 ∧_∧ ♪ダーレガ
(´∀` )
(つ⊂ )
| | |
(_(_)
♪コロシタ
∧_∧_
⊂⌒ ○⌒つ
 ̄丶( /
し
∧_∧ ♪クク
(´∀` )
(つ⊂ )
| | |
(_(_)
♪ロ-ビン
∧_∧_
⊂⌒ ○⌒つ
 ̄丶( /
し
∧ ∧∩
( ゚Д゚)ノ ア・ソーレ!
/ ⊃
~( ヽノ
ヽ∪
∪
花は段々、咲き乱れ…』
(尚、直後政庁のブレーカーが何故か落ち、その後本国より覚悟は出来てんだろうなテメーみたいな内容が送られ模様)