pso2仮想戦記二年前の戦争   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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43話 ただ気まずいだけなんだ

惑星パルム軌道上に大艦隊が結集した。オラクル、オラキオ、パルムの連合艦隊である。

オラキオ艦隊総旗艦シャーオを中心に艦隊を組んだこの連合艦隊の中には勿論我らがオラクル勢の艦艇も参加していた。各提督、将軍達は総旗艦シャーオに呼び出され、スレイマンの前に揃った。然し、その顔に生気は無い。というのもこの連中の中央に立つタクミとマトイの方から重い空気が流れているからであり、スレイマンは直ぐに様子がおかしい事を理解したが、何故かは聞かないことにした。結局、タクミとマトイは仲直りしてないのだ。マトイは先に帰り、タクミは探し回ったが当然見つからず、結果気まずいままになった。それで艦隊司令官と司令官付き副官の立場を変える事は出来ずこの体たらくになったのだ。

 

スレイマン

『と、取り敢えず我が軍の進路を再度確認しておこう。大提督、我が軍はセーシャンに向かう。そこは宜しいな?』

 

タクミ

『ハッ。我が軍は中央突破を掛ける形でセーシャンに向かいます。途中でどんな相手と戦う事になっても全て蹂躙して行かねばなりません。それも可及的速やかに。』

 

タイラー

『足を止めてはならないという事だな。止めれば止まっている分、追い詰められる。』

 

イーサン

『シュメルヒと椅子取りゲームって事か。あいつより多くの拠点を持てば勝つのは俺たちだという事だな。』

 

タクミ

『左様。だからこそ敵も全力で阻止する筈その為に兵力差を活かして大軍を持ってぶつけてくる筈…。』

 

すると艦橋のハッチが開き、伝令が走り込んできた。

 

伝令

『申し上げます!我が軍の前線中央に敵艦隊発見。数は五万。陸戦兵力は伴ってはいない様子。敵将は大将軍マフムットと思われます!』

 

その瞬間艦橋内が一気に騒めき出し、スレイマンに至っては驚愕の表情を浮かべ、そのまま席に沈み込んでしまった。

 

タクミは事の次第が分からないのでクラナス参謀に説明を願い出た。

 

クラナス

『大将軍マフムットは先王陛下の代から仕える武人でして、その武勇は他の追従を許しません。正しくオラキオ屈指の将軍です。公明正大で民や将兵からの人気も絶大。更にはスレイマン殿下の教育係を務められたお方なのですが、シュメルヒの挙兵の際、マフムット大将軍はシュメルヒ軍の元に配属されており、それも僻地の僻地にね。その為、マフムット大将軍は殿下をお助けする事が出来ず、更には領地の一族や領民を人質に取られている始末でして、結果シュメルヒ軍に籍を置いているのです。』

 

タクミ

『こちらに寝返られせることはできると思いますか?』

 

クラナス

『不可能では有りませんが、彼がシュメルヒの下にいるのは先王陛下の詔なのです。大名君とされる先王陛下の詔を無視することは武人のすることでは無いと考えており、こちらの内応にも良き返事を返したことは有りません。』

 

タクミ

『おまけに罪悪感もあるだろう。だがそんな人間だからこそ良心の呵責に苛まれている筈だ。そこにこそ糸口はある。』

 

すると宰相マッセナは床を杖で叩き、皆を黙らせた。

 

マッセナ

『静まれ、大将軍が戦場に現れ、取り乱すのは分かるが、今我らがすべき事はこの敵を撃退する事だ。殿下、迎撃の詔を頂戴しとうございます。』

 

スレイマン

『うむ、して数と指揮官はどうする。』

 

マッセナは薄気味悪く笑うと杖で指し示した。示された方向にはオラクル勢が居た。

 

マッセナ

『艦艇五万を持って迎撃にあたり、その指揮官をフェデル大提督にとって頂いてはどうかと臣は愚考いたします。』

 

これには堪らずクラナスが異を唱えた。

 

クラナス

『お、お待ち下さい‼︎如何に大提督といえでも相手は大将軍。戦術的になる事を考えても実力は拮抗しているであろう司令官同士に加え同数の兵力で迎え撃つという事は双方に消滅せよと命令するも同義です。殿下、宰相殿どうか、お考え直し下さい。一万、せめて五千程増強すべきです!』

 

マッセナ

『フェデル大提督は既に何度も数的優位の戦況をひっくり返し、勝利してきた。今回もその為の策を用意しているに相違ない。クラナス卿、卿は大提督が信用ならんからそう言っているのか?』

 

クラナス

『な、何を仰る‼︎』

 

タクミ

『宜しい‼︎引き受けましょう。』

 

クラナス

『だ、大提督!それでは…』

 

マッセナ

『素晴らしい!それではお願い致しますぞ。』

 

クラナスはマッセナの魂胆を理解した。というより露骨だったので嫌でも分かったが、つまり当面の政敵になり得るタクミと過去と現在、そして未来に掛けて政敵になる大将軍マフムットをここで始末してしまうつもりなのだ。だから同兵力をぶつけるという法則的には対消滅する戦術を提案したのだ。然し、こんな状況を何故タクミが敢えて臨むのか理解が出来なかった。

 

クラナス

『何故あんな作戦に乗ってしまったのです。アレはどう見ても…』

 

タクミ

『自殺行為、分かってる。ただ好奇心の方が強かったと言うべきかな。勿論マッセナが白か黒かを見極める意味もあったが。』

 

クラナス

『好奇心?』

 

タクミ

『大将軍と言われる他国の英雄がどれだけの実力を持っているのか。それが知りたかった。その為にあんなのを受けたんだ。』

 

クラナス

『然し、これでは勝利するのは難しいのでは?マフムット大将軍とその麾下の将兵達は勇猛果敢、彼らは大将軍の号令が掛かれば死ぬまで戦いますぞ。』

 

タクミ

『勝つ気なんてさらさら無いよ。ただ帰ってもらいたいだけだがら、負けない戦いをしなければ良い。あわよければ勝ちたいが。』

 

そう言ってタクミは端末を開くと、艦隊の編成を組んだ。組み分けは、第一艦隊より一万五千(内五千は他の二艦隊より借り受けた戦力)、第十二、第二十一艦隊が約一万七千強という編成である。そして幕僚は全員を従軍させた。勿論マトイも従軍する。残り三万と白兵戦部隊はスレイマン皇子直衛として残すとした。

 

タクミ

『この五万で魔法を見せてやるさ。』

 

タクミはそう言ったがクラナスはその顔が何処か引きつっていたと後に語ったという。

 

そしてオラクル勢五万が進撃を開始した。最前線に着いた時は敵も恐らく着いた頃であろうと予測が出たので、攻守のイニシアチブは互いに無い遭遇戦になると言う事が分かった。オラクル艦隊は到着と同時に偵察機を発進させる事に決め、ワープで目的地まで飛んだ。流石にワープ航行なだけあってあっという間だった。タクミは偵察機の発進を命じた

 

タクミ

『偵察機隊を発艦させろ。』

 

マトイ

『ハッ、偵察機隊全機発艦。直ちに星系を捜索を開始せよ。』

 

このやり取りにも既にギクシャクした空気が流れていた。もう幕僚は勿論だが、丁度艦橋に勤めていたクルーの総員もこの重い空気にやられつつあった。

 

一方オラキオ側の艦隊司令官であるマフムットは戸惑いを感じていた。未来の王を教育していた立場にあったのにも関わらず図らずも簒奪者(シュメルヒ側は奪還としている。)の側につき、正当な王位継承者を追撃するなど彼にとっては屈辱に近かった。然し武人としての矜持もある以上従わねばならない。そして現に自分の首を手に入れようと相手も手勢を出してきたのは事実。それについては容赦なく叩かねばならない。マフムットはそう納得していた。然しそれでも心のシコリは消えない。然し、彼の武人としての魂はその答えを知っていた。己が仕えるべき真の主人に刃を向けた事への罪悪と怒りであったそれが彼を乱していた。

 

しばらくして両軍の偵察機はそれぞれの母艦に電文を打った。

 

『我、敵艦隊見ユ!』

 

先手を取るべく先に動いたのはオラクル軍だ。タクミは直ぐに第二戦速を艦隊に下令、全偵察機を戻すと同時に、第四航空師団に出撃準備と第1〜第六空間機械歩兵部隊(A.I.S部隊)に専用装備を装備した上で各母艦にて待機せよという命令も同時に出した。

 

後手に回る事になるマフムットは全艦に中、近距離戦の体型を取らせ、全母艦に艦載機と雷撃、爆撃艇の出撃準備を下令した。

 

程なくして両軍は相対した。双方共に横陣である。オラクル軍は両翼をキダ、チェンバレン両中将に任せ、中央はタクミが自ら率いる陣形を取り、マフムットは艦隊全体に目が行き届くよう中央に陣取り、全艦隊を忙しく動かしていた。

 

タクミ

『キダ艦隊前進。チェンバレン艦隊は現状のまま待機。』

 

マトイはタクミが指示を出し終えるのを確認すると無言でコンソールを動かし、両翼の艦隊に指示を出した。

 

キダ

『よし行くぞお前達!暴れてやれ‼︎』

 

キダ艦隊の猛突進が始まり、双方は砲火を開いた、キダ艦隊からは艦艇の武装だけでなく、各部ハッチから対空、対艦兵装に改装されたA.I.Sが出てきて、ソレがさらに被害を与え始め、敵艦隊右翼は瞬く間に地獄絵図となり、後退を始めた。それと同時に敵艦隊左翼は前進を開始した。目標は隙だらけのチェンバレン艦隊…正確には隙だらけにしたチェンバレン艦隊である。キダ艦隊が敵艦隊をボコボコ攻撃している間に敵左翼及び中央は正しくフリーであり、おまけにオラクルの中央ととりわけ右翼は戦闘が始まっていない上、キダ艦隊の猛烈な突進を傍観しているだけで無く、将兵達に隙が生まれる。そこをつき敵が右翼から来るならこちらは左翼から食いつぶす作戦で行こうと言うのだ。だが、マフムットは、歴戦の大将軍である。敵の陣容に違和感があるのを既に感じ取っていた。余りにも敵右翼艦隊が突出し過ぎているのである。これでは左翼が無防備になるだけでなく、マフムットが大出血をする覚悟があるなら敵右翼艦隊を分断にかかる事も出来るのだ。兎に角攻めてくださいと言っているような物なのだ。そして現にその誘いに乗り、左翼艦隊に向かって攻撃を掛けている。そしてマフムットの感じた不快感は現実のものになる。なんとチェンバレン艦隊は無防備に見せて、敵の砲撃が来る前に急速後退、更に防御シールドの出力を上昇して攻撃を無力化したのだ。そう、オラクルの…タクミの目的は偏心、後退運動と呼ばれる横陣を斜めに動くように展開するこの行動は、敵の片翼が猛攻撃を加え、後ろに離し、もう一方の片翼に隙を見せ、大いに攻めさせ敵の中央から大きく引き離そうとしていたのだ。結果横陣同士のぶつかり合いでは法則上勝てないオラクル艦隊は優勢に戦い、そして両翼が伸びきった段階でタクミ直衛の金剛以下ストックホルム級高速戦艦二千隻で分断を仕掛けようという奇策を展開する隙が生じたのだ。

 

タクミ

『今だ‼︎全艦全速前進!チェンバレン艦隊が担当している敵艦隊を中央と引き離す‼︎』

 

二千隻の別働隊の攻撃を受け、敵左翼艦隊は引き離された。別働隊を攻撃しようと左翼艦隊は回頭しようとするも今度はトドメを刺すために前進してきたチェンバレン艦隊に一方的に沈めまられていた。タクミはそのまま敵右翼も分断しようと突入を命令した。だがオラキオの大将軍はそれを許さなかった。

 

マフムット

『中央艦隊全艦緊急後退!回頭し敵左翼艦隊に弾幕を浴びせろ!次、右翼艦隊全指揮官に打電‼︎各指揮官これ以上の醜態を見せるようならワシ自ら始末してやるとな‼︎』

 

オラキオ兵一同

『ははっ‼︎』

 

マフムットの檄の入ったオラキオ艦隊は即座に陣形を立て直した。結果タクミ麾下2,000隻は敵中に孤立しかけたが、チェンバレン艦隊の援護でどうにかそれだけは回避している。だが強烈な弾幕が彼等を襲い、別働隊は一隻、また一隻と撃破されていった。

 

タクミ

『怯むな‼︎そのまま突っ込め‼︎このまま逃げ帰るんだ‼︎』

 

然し、金剛の艦橋付近にレールガンが被弾。一気に艦橋内に悲鳴がありとあらゆるところで響いた。ありとあらゆるパネルが割れなんと更に悪い事にその真下にはマトイが居た。

無数の破片がマトイに襲い掛からんとしていた。

 

マトイ

『きゃあああああああああああ‼︎‼︎』

 

マトイは無数の破片によって串刺しに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にはならなかった。何かがマトイを庇った。お陰でマトイは頬に切り傷が出来た程度である。その何かは他でもないタクミだ。タクミは軍服の右肩に着いた提督用の防弾素材で出来たロングマントを使ってマトイと己の肉体を守ったのだ。然し限度を超え、いくつかの破片は彼に突き刺さっていた。マトイの頬に涙と、彼の口や傷から出る血が滴り落ちていた。

 

 

マトイ

『どうして…』

 

タクミ

『君が居ないと困る…』

 

そう言って彼はそのまま倒れ、マトイはそれを両の腕で支えた。そして直ぐにマトイは己の役目を思い出し直ぐに対応した。傷は深く、治療用テクニックではどうにもならない。直ぐに付近の士官に被害の報告と衛生兵を呼ぶように指示した。そしてマトイはタクミの代わりに指揮官席に着くと、指揮を取り始めた。

 

マトイ

『全艦進路はそのままで、旗艦金剛は健在です!このまま逃げ切れば我が艦隊の役目は達せられます、大提督の策をこのまま不意にすることは守護衛士の名において許しません!』

 

英雄の檄が飛び、恐れおののいていた将兵達は正気に戻り、更に総指揮官を傷つけられた怒りをぶつけ、結果別働隊は無事に生還した。結果両軍の戦闘はそのまま膠着状態になった。オラクル軍約四万五千弱、オラキオ軍約三万。数的不利を覆す手段を思いつかないマフムットは後退を指示、退却を開始した。オラクル軍はこの宙域の死守に成功。勝利という事になったがあの場にいた将兵達が皆口を揃えて後に述べたことは、『あのまま戦い続けたらどうなっていたか分からない』である。それ程この戦闘は拮抗していたのだ。一段落がついたマトイは金剛のメディカルセンターで治療を受けるタクミを見守った。従軍していたフィリア看護長の話では軽傷な部類に入る為直ぐに目を覚ますだろうという。

 

フィリアは眠るタクミに寄り添うマトイを見て二人の蟠りは少し溶けた様に感じたという。尚、ただ気まずいだけでギクシャクしていたタクミとマトイにモヤモヤしたオラクルの面々は納得せず後日大量の見舞い品と被害届がタクミの元に届いたと言う。


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