文芸部の少年が小説を思いつくまでなら良かったのに

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少年と窓

六時間目の数学の授業、私は頬杖をついて窓で隔てられているモノクロに映された街を教室から眺めていた。そこには生産的な思考は存在しない。透明な壁の向こう側にある寒気がどの程度の物なんだろうか、部活の〆切近いのに何も面白い事がないから書けやしないな、その程度の暇つぶしだ。

私はこの冬という時期を忌々しく思っている。特に雪の降っている時がとても嫌だ。

傘をさしても身体中にこびりつき、寒さと重さが増していくにつれて遣る瀬無い憂鬱と、やり場のない鬱憤が湧いてくる。転倒でもした日には目も当てられない様な事になるんじゃないだろうか。

思考の焦点がその雪にあてられる。防寒性の透明な隔たり越しに見る分には寒冷の原因の一つ、その程度にしか思っていなかった。

その内無機質な直方体の周囲を重力に任せて落ちていく光景に、見世物の様な面白さを感じて適当に眺め始める。しかし、直ぐに同じ事の繰り返しを行うだけのつまらない有象無象だと思い始めた。ピントがずれて視界がぼやけ始める。

そんな時だった、雪の流れるスピードが少し落ち着いたように感じた。今思えば風が弱まったからだろうが、そんな事は当時の私にとっては至極どうでもいい事だろう、行き場をなくして難民と化した期待の受け入れ先をさっさと見つけたくて仕方がなかったのだから。

再び興味が双眼鏡を手に取った。次は目から得た情報だけで終わらせようとしない。一つ一つに意識を向けて、生物のレポートを書く様に特徴を脳に理解させる。

緩急をつけて落ちていく様に生命を感じた。力強さと活気、同じ集団行動であるのに目の前で行われる授業とは全く違う、芸術的なモノを感じる。

いつの間にか、私は一人のモノ書きとして意志を持っているかのように舞う白く小さな妖精の美しさの虜になっていた。

そうなると自制よりも先に手が動き出す、普段なら状況を作り出さないようにして抑えてきた癖が出る。

「純白の天使が灰色の地獄に舞い降りた」

「舞い散る雪は視界のキャンパスを廻り、躍る。妖精の宴のように」

スマホのデータの一番下に押し込められている、小説の書き出しをまとめたページに打ち込んでいく。

一日を切り替える最後のチャイムが鳴り響いたところで我に返った。音を出さないようにイヤーフォンを差し込んでいるため教師にバレてはないだろうが、最も意外に思われるであろう最も自分らしい行為だったと思う。背中に伝う嫌な汗に頭を冷やさせられると、少し吹き出した。

鞄の中に荷物を詰め込み終える。つい先程書いたモノにペンを乗せようと試みたが、纏まるのは教科書だけでプロットは全く進捗しない。

何が足りないのかは分かりきっていた。どうすればそれを補充できるのかも知っている。

「さーて、今日は何をやっていこうかなっと」

先に教室を出て行ってしまったクラスメイトをライン越しにゲーセンに誘う。どうせ来なかろうが自分が行くのは確定しているのだが、熱中しすぎるあまり警官に声をかけられて外に出たらお星様が見えました、なんて事は流石に避けたい。

「お、今週音ゲーのサービスしてんじゃん」

ツイてると思いながら校舎を出る。案の定雪は止んでいなかった。しかし以前の様な苛立ちは特におぼえない。

ホームボタンを押すと「先に待ってる」と連絡が入っていた。

私は雪に塗れながら駅に向かって駆け出した。


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