沖田総司には未練があった。
「もしあの時自分が健康だったなら」という、未練が。
 陸奥出海には未練があった。
「もしあの時沖田が健康だったなら」という、未練が。
 カルデアに残された唯一のマスターは言った。
「なら、今思いっきり戦ってみればいい」と。

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※この世界線には女性化していないサーヴァント達が何人か居ます


陸奥出海の章 カルデア激闘編

「新選組隊士、沖田総司……ではなく。

 ただの剣士として勝負がしたい……」

 

 少年(マスター)は夢の中で、自分が頼りにしているサーヴァント達の過去を見ていた。

 篝火もない夜の闇の中、二人の男が見つめ合っている。

 一人は悪い顔色で剣を構えて、一人は戦う気を見せずに自然体で立っている。

 二人を囲む剣士達の剣呑な雰囲気が、何故か全く気にならなかった。

 

「天才……というやつだな。本当に、おまえは……だが」

 

 少年(マスター)は、顔色の悪い剣士と自然体の男しか見ていない。

 この記憶はこの二人こそが主役なのだと、理解できていたから。

 

「命を粗末にするな」

 

「なっ……逃げるのですか」

 

 剣士は戦意を滾らせる。しかし自然体の男は痩せこけた剣士の頬を見て、僅かに妙な音が混ざっている呼吸音を聞き、戦おうとはしなかった。

 

「胸だろう……病んでいるのは」

 

「な……何故それを」

 

 剣士に背を向け、男はどこかへと去っていく。

 

「オレの目は節穴じゃない。体を治せ……

 今のおまえに勝っても嬉しくはない。体を治したその時にまたやろう」

 

「陸奥さん……」

 

 "病を治してから戦おう"と、そう約束は交わされた。

 この後、再戦は果たされる。再戦だけは行われる。

 けれど結局、この約束は『本当の意味では守られなかった』のだと、病は治らなかったのだと、少年(マスター)はこの記憶に気付かされる。

 それは悲しいことだと、そう思った。

 

 

 

 

 

 目が覚めて、少年(マスター)は体を起こす。

 それと同時に、その両隣で寝ていた二人の男達も体を起こす。

 見る目の無い者がそれを見れば、「三人揃って寝てたのか」と言うだろう。

 見る目のある者ならば、「気配を察知して起きる護衛がマスターの左右を固めている」と言うだろう。

 

 三人の男は、草原に居た。

 ここは人理継続保障機関・カルデアの戦闘訓練室。

 人知を超えた強さを持つサーヴァント同士が戦っても、何ら問題はない場所だ。

 対軍宝具にも耐えるほどの訓練室に、置換魔術(フラッシュ・エア)投影魔術(グラデーション・エア)の応用、及びその他の魔術を組み合わせた固有結界に近い草原が創られている。

 

 少年(マスター)は、自分の左右に居た二人の男が、草原の中心に歩いて行くのをぼんやり見ていた。

 

 二人の男の片方の名は、沖田総司。もう片方の男の名は、陸奥出海。

 

 生前、"病を治してから再戦する"という約束を、本当の意味で果たせなかった男達だった。

 

「さて、やるか、沖田」

 

「はい、陸奥さん」

 

 二人は向き合い、それぞれが刀と拳を構える。

 この二人は死後に英霊となり、形を成したサーヴァントと呼ばれる存在だ。

 だがこの二人も、まさか死んだ後の自分達をまとめて召喚し、共闘させようとする少年(マスター)が居るだなんて、想像もしていなかった。

 その少年(マスター)が、『もう一度戦いたい』という願いを汲み取ってくれて、こうして戦いの場を与えてくれるだなんて、思いもしていなかった。

 

「沖田さん、出海さん。おれが見届人になります。どうか悔いを残さぬように」

 

「ああ」

「はい」

 

 少年(マスター)は、少し離れたところからこの戦いを見届けようとしている。

 『英霊はこの世に固執しない。果たせなかった未練に固執するのみ』と言った英霊は、誰だったか。沖田総司と陸奥出海に共通する未練とは、まさにこれ。

 この二人は生前にも戦っていたが、それは沖田が病死する直前だ。

 病が治ってから全力で戦うという約束は果たされず、それが未練となっていた。

 

 だがそれも、今日までの話。

 少年(マスター)の気遣いにより、その未練は今日ここで終わりを迎えることだろう。

 

(さて。どっちが勝つんだろう……おれがこうやってステータスを見ても、分からないな)

 

 少年(マスター)は十代半ばを越えるか越えないかという年齢であり、英霊が持つような彼我の戦力差を見極める目は持っていない。

 ただしステータスくらいならば見ることができる。

 少年(マスター)はその目で、まず沖田を見た。

 

 敏捷特化の、どこかアサシンに近いステータスとスキル構成。

 サーヴァント化で病魔は消えてくれたものの、『病弱』というスキルが追加されてしまっているせいで、異様に打たれ弱くなっている。

 少年(マスター)はそのまま、比較のために出海の方も見た。

 

 

 

【CLASS:バーサーカー】

【真名:陸奥出海】

【性別:男性】

【身長・体重:170cm 66kg】

【属性:中立・善】

 

 筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:-

 

《クラス別能力》

『狂化E-』

 狂化E-を兼ねる複合スキル、『陸奥』を持つ。

 凶暴化する事で能力をアップさせるスキルだが、彼は理性を残しているのでその恩恵はほとんどない。筋力と耐久がより"痛みを知らない"状態になっただけである。

 この一族は狂ったように、理性的に、敗北を嫌い強さを求める。

 

《保有スキル》

『陸奥圓明流A+』

 無手にて最強を求め、発祥から終焉まで不敗を貫いた流派。

 Aにて継承者候補となり、A+で継承者と認められ、A++はその歴史の中でも指折りの者達。

 

『陸奥』

 勇猛C、怪力C、頑健C、仕切り直しB、心眼C、戦闘続行A、天性の肉体D、無辜の怪物C、狂化E-の複合スキル。

 英霊ムツはその全てがこのスキルを持つ。

 ダメージ判定のたびに神秘判定を行う。攻撃対象へのダメージは対象の神秘の数値分減少し、逆に自分がダメージを受けた時、その攻撃の神秘の数値分ダメージが増加する。

 

『騎乗D』

 乗り物を乗りこなす能力。

 世界を渡る船に同乗しても、邪魔にはならない。

 

《備考》

 陸奥圓明流最後の一人、陸奥九十九が地上最強を証明したことで座に登録された英霊。

 「陸奥圓明流は最強なんだ」と信仰した者があまりに多かったがために、未来の陸奥九十九を基点とし、全ての過去の陸奥圓明流継承者が座に登録された。

 他にも継承者になれなかった者、不破の者なども、一定の信仰を得ていれば登録されている。

 因果と時間を逆行して登録されたこの者達は、"英霊ムツ"として一塊に扱われる。

 

 英霊ムツは全てがスキル『陸奥』を持つが、それぞれの個性も持って現界する。

 クラス適性もそれぞれ異なるが、陸奥出海はバーサーカー適性のみを持つ。

 加え、『とても打たれ強く死ににくい』『優れた血脈』『負けかけてから逆転する』『傷だらけでも勝つ』などの信仰を受けた陸奥九十九の影響を受け、英霊ムツはその全てが陸奥九十九に影響された無辜の怪物として召喚されなければならない。

 

 英霊ムツは自分の身長・体重で実体化することができず、陸奥九十九の身長・体重を強制されるため、自分の体を扱う感覚で戦闘ができず、動きに粗が出てしまう。

 複合されたスキルの多さは強さの証明ではなく、"そうであれ"と押し付けられた呪いである。

 また、神秘から程遠い存在であるために、遠い未来で召喚された場合を除き、通常のサーヴァントよりもはるかに『神秘』の高低の影響を受けてしまう。

 

 

 

 比較してもやっぱり分からない、と少年(マスター)は首を傾げる。

 この少年は沖田総司の力、陸奥出海の力、その両方に全幅の信頼を置いている。

 どちらが勝つか、なんて推測することもできなかった。

 

「よっと、隣邪魔するぜ」

 

「! モードレッド!」

 

「解説と護衛は要るだろ?

 なんせお前は基本素人で、ここカルデアはオリオンとか侵入された前科があるし」

 

「……返す言葉もない……」

 

 そこで少年(マスター)の隣に、彼の主力サーヴァントの一人であるモードレッドがやって来る。うっかりサーヴァントが蹴り飛ばした石が目に当たりでもしたら、という配慮だろうか。

 それとも「オレ達人理定礎防衛時より、そうじゃない時に何かと戦ってる回数の方が多くね?」という、身も蓋もない心配だろうか。

 何にせよ、モードレッドが少年(マスター)を気遣っていることは間違いない。

 

「うん、よろしくお願いするよ」

 

「任せとけ。

 こういう時は"この戦い、○○が勝つ"って自信満々に負ける奴の名前言えばいいんだろ?」

 

「うーんおれはそういうのなんか違うと思うなー」

 

 モードレッドは男の子のように笑い、子供が友達ともっと仲良くなろうと思って機嫌を取ろうとした時そうするように、お菓子を差し出す。

 ただそのお菓子は、彼女の食いかけだった。

 

「食うか? 食いかけだけど、レッドサンダー」

 

「!?」

 

「ブラックサンダーじゃないのが何か面白……どうした?」

 

 レッドサンダーなるお菓子を差し出され、少年は固まる。

 視線が左右する。

 誰も見てないかな、と少年の視線があっちに行ったりこっちに行ったりする。

 そうして、できるかぎり自分の顔を見せないようにしてチョコを受け取った。

 

「……あ、ありがたくいただきます」

 

「なにゆえ急に他人行儀?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖田総司は剣を振るっていた。

 そのため、素手の出海は一度でもクリーンヒットを貰えば負けかねない。

 陸奥出海の拳は一撃必殺。

 そのため、病弱スキルのせいで打たれ弱い沖田は一度でも貰えば負けかねない。

 

 自然、二人の攻防は間合いの調整・攻撃・回避が高度に組み合わされるものになっていた。

 

 にっ、と出海が笑う。

 にっ、と沖田が笑う。

 草原が一歩踏まれるたびに禿げ、地面があらわになる。

 二人の拳と剣が振るわれるたび、空気が裂けていく。

 出海の右頬が切れ、沖田の左頬が切れたところで、二人の笑みは一層濃くなった。

 

「楽しいなぁ、沖田……」

 

 沖田が横薙ぎに剣を振るい、それを跳躍して回避した出海が"斧鉞"を放つ。

 空中で前方宙返りのような軌道を描き、両方の足をカカト落としでぶつける技だ。

 沖田はそれを小刻みなステップで回避して、空中の出海に剣を突き出す。

 出海はその突きに、剣を白刃取りすると同時に相手の股間を蹴り上げる"無刀金的破"の亜種系、空中で白刃取りをして脳天に蹴りを落とす技を放った。

 

「ええ。私も、とても楽しい」

 

 沖田はそれを、またしても高速のステップで回避。

 挟まれた剣を『捻じり』出海の手の平を傷付けながら、剣を取り戻す。

 両者は拳も剣も届かない程度に距離を取り、仕切り直した。

 

「速いなあ……速い」

 

「これがなければ、あの街で生き残ることはできませんしたから」

 

 沖田が踏み込む。

 すると、それなりに離れた所から見ていたはずの少年(マスター)の視界から、一瞬沖田が消える。

 そして一瞬の後に、神速の突きを出海に向けて突き出していた。

 目にも止まらぬ、目にも映らぬ、既に目で見ることが間違いの域にある速さ。

 尋常な相手であれば沖田の姿を見ることもできずに、一瞬で串刺しにされていただろうが、そこは流石の陸奥出海といったところか。首の皮一枚斬らせて、その突きを回避する。

 

 出海はお返しとばかりに拳を突き出すが、沖田は後方に跳躍。

 陸奥圓明流の比類なき速さの正拳は、その速度にまるで追いつけず、空を切った。

 それどころか、沖田は出海が突き出した拳を戻すのに合わせ、再度踏み込む。

 出海が拳を戻し切る前に再度距離を詰め、またその剣を突き出していた。

 

(なるほどなぁ、こいつが、病がお前から奪ってたものか……!)

 

 出海はその動きを読んでいたため、今度は髪一本切らせるだけで回避してみせる。

 『縮地B』。

 それが、沖田のこの高速移動の正体だ。

 最上級の縮地Aは次元跳躍の類と言われるほどのものであり、沖田の縮地Bはそれの一歩手前の域にある。

 敵との間合いを詰めることに関しては超一級品、距離を取るにしても一流以上。

 この圧倒的スピードこそが、彼を新選組一の天才剣士たらしめている。

 

 沖田は好きなタイミングで距離を詰め、攻められる。

 敵の攻撃を小刻みに動いてかわすこともできれば、大きく避けることもできる。

 ちょっとでも隙を見せようものなら、すぐさま串刺しか仕切り直しだ。

 これに"あの三段突き"が組み合わされば、まさしく無敵だろう。

 

(あの時のオレがこの沖田と戦ってたなら、勝てたか分からなかったな……)

 

 そう思考しながらも、出海は沖田の高速斬撃を回避していく。

 沖田の体が高速で跳ね回り、その体から更に高速の斬撃が飛んで来る。

 袈裟、刺突、唐竹割り、刺突、刺突、切り上げ、足払い、首刈り、刺突、返し刃、刺突。

 そのことごとくを出海は避けていく。

 

(やはり、陸奥さんは尋常な剣では捉えられない……!

 あの時私の三段突きを二度避け、二度目は反撃まで合わせてきたのは、偶然ではなかった!)

 

 沖田総司の突きは、サーヴァントとなった今、人類史的に見ても指折りの魔剣と化している。

 普通ならばかわせるはずがない。

 なのに、出海はかわしている。

 

 陸奥出海は歴代の陸奥の中でも特に、見切りと"肉を斬らせて骨を断つ"ことに長ける男だ。

 戦国時代、当時の陸奥圓明流は雑賀孫市の殺気のない銃撃を前にして、その攻撃を回避することができなかったという話がある。

 しかし出海は生前、殺気を全く発しない沖田の斬撃を見切り、回避していた。

 銃撃と斬撃を一緒くたにすることはできないが、出海が回避に長けていることは確かなことだ。

 

 沖田は頬から垂れる血を袖で拭きながら、縦一閃。

 出海はその斬撃を横から拳でひっ叩き、運よく斬撃を逸らすことに成功する。

 

「出海さんも、あの時より強いですよ」

 

 陸奥出海は、坂本龍馬、人斬り半次郎、沖田総司、土方歳三といった名のある剣士と戦い、自ら受けたものを除けば一撃たりとも大きな傷は受けなかった。

 それが彼の回避能力を証明しているようなものだが、生前最後に戦った時は、ここまでの回避能力ではなかったはずだと沖田は思う。

 理由がある。

 陸奥出海が、生前よりも強くなった理由が。

 

 沖田はその理由に、一つ心当たりがあった。

 

この場所(カルデア)で坂本龍馬さんと再会できたことが、そんなに大きかったのですか」

 

「ああ」

 

 少し前のことを、沖田は思い出す。

 十代半ばの少年(マスター)が、出海の生前のことを聞いていたことを。

 それを聞いた少年(マスター)が、頑張って坂本龍馬を召喚しようとしていたことを。

 そして触媒を集め、召喚に成功し、出海の未練を一つ解消した日のことを。

 

「マスターには感謝してる。

 あんなに必死に頑張って、龍さんを召喚してくれて……

 ……おかげでオレは、約束を破っちまった後悔を、無くすことができた」

 

 沖田総司は病弱スキルを押し付けられるのと引き換えに、その体を蝕んでいた病魔を排除し、十全な戦闘力を発揮できる体を手に入れた。

 陸奥出海は坂本龍馬と再会し、十全な戦闘力を発揮できる心を手に入れた。

 二人は生前に最後に戦った時より、更に自らを高みへと押し上げ、ここに居る。

 

「いいもんだな、マスターとサーヴァントってのは……ん、ちと喋りすぎたな」

 

「いえ、私も語り合うのは好きですから」

 

 沖田は病弱スキルによる弱体化、出海は陸奥九十九からの無辜の怪物に近い悪影響を受け、それぞれが僅かに本領を発揮できていない。

 その"本領を発揮できていない度合い"は両者同程度であり、結果、二人の実力は拮抗していた。

 

「剣で語るのも、口で語るのもね」

 

「だろうな……お前は」

 

 そしてまた、二人は練り上げた武をぶつけ合い、言葉以上に雄弁に語り合い始める。

 

 

 

 

 

 高速戦闘の余波で飛ばされて来る砂粒。

 そんなものからも過保護に守ってくれるモードレッドのおかげで、少年(マスター)は傷一つなくその戦いを見ることができていた。

 少年(マスター)は、モードレッドに問いかける。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

 モードレッドは鼻を鳴らして、適当に答えようとする……が。

 

「剣持ってる方が強いに決まってんだろ……と、言いたいところだが」

 

 マスターが全幅の信頼と、回答への期待を込めた目を向けて来るのを見て、考えを改める。

 少しは真面目に返してやるか、とモードレッドは考えた。

 

「正直微妙なとこだ。先にミスした方が負けるな」

 

「ミス?」

 

「ミスがなきゃ千日手、引き分け、相打ちのどれかだろうな」

 

 モードレッドから見ても、勝敗は断言できない。

 戦闘力が拮抗した斬り抉る戦神の剣(フラガラック)の使い手と、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)の使い手の戦いの勝者を明言しろと言っているようなものだ。

 

「じゃんけんで言えば両方グーなんだよ、あいつらは」

 

 出海も沖田も相手の弱点を突こうとはせず、例えるならばじゃんけんで両者共に拳を握って打ちつけ合い、相手の拳を崩したら勝ち……といったような勝負をしている。

 沖田が軽快に地を跳ねる。

 出海が豪快に地を駆ける。

 刀に触れさせないように拳の連打を放つ出海に、縦横無尽に走る白刃が放たれた。

 

「……ああ、そうだ、マスター。聞きたいことがあったんだが」

 

「おれに?」

 

「ん、ああ」

 

 激しい戦いを見せている二人に、それを見ている二人。

 戦っていない方の二人の片割れ、モードレッドがポツリと呟く

 

「オレらがお前の部屋の掃除してたら、お前の枕の下からオレの写真が出て来たんだけど」

 

「―――!?」

 

 そして、こちらでも、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖田が出海の顔面に突きを放つ。

 出海はその刀に右拳のアッパーを当て、刀を弾くと同時に肘を沖田の腹に叩き込もうとする。

 "裏蛇破山 朔光"。陸奥圓明流が得意とするカウンターの一つだ。

 しかし肘は空振り、沖田の服をかするに留まる。

 

「っ」

 

 最小限の動きを最大限の速度で行い、沖田は肘打ちをギリギリかわした。

 しかし、当て身すら最大限の効力を発揮しないこの距離では、刀をまともに振ることは不可能だろう。ここは剣士が不利とし、陸奥圓明流が得意とする至近距離。

 なれど、この程度の逆境覆してこその天才剣士。

 出海は一撃必殺の"虎砲"を打とうとするも、自分の太腿・脇・肩に衝撃を感じ、次の瞬間には遠く離れていた沖田を見て、喜色の混ざった修羅のような笑みを浮かべた。

 

(オレの体を足場にして縮地だと!?)

 

 スターティングブロックの原理で、沖田は異様な速さで距離を取る。

 そして、縮地を扱う沖田に距離は関係ない。

 離れた場所から瞬時に距離を詰めて来る沖田を見て、出海は倒れるように後方に跳ぶ。

 後方に跳んだ分だけ刀剣の命中は遅れ、その僅かな時間で出海は仰向けになりながら片手を地に着け、片手で逆立ちするような姿勢で蹴りを放つ。

 変幻自在の蹴り、"弧月"だ。

 沖田は生前それを見た記憶から、小さな弧を描くようなステップで回避し、出海の背後に回る。

 

 振り上げられる剣。

 背後を取られた出海。

 だがその瞬間地面が爆裂し、沖田は踏み込む地面を失った。

 

「……!」

 

 踏み込む地面を失った沖田はたたらを踏み、一足早く立て直した出海が空中二連回し蹴り"旋"

を放つ。

 沖田は首を折られるか、と肝を冷やしながらも、それを紙一重でかわして後方に跳ぶ。

 後退した沖田、旋を放った後の出海が足を止めると同時に、旋が切った沖田の髪が地に落ちる。

 

(あれは一度見た"弧月"という蹴り……けれど、もう一つはいったい)

 

 "虎砲"。

 それは、奥義以上の技を除いた技の中で、最も破壊力のある陸奥圓明流の技である。

 出海は片手で逆立ちして蹴りを放った直後、全身の力を込めた虎砲を地に着けた手で放ち、地面を爆裂させたのだ。

 虎砲は火縄銃などよりも高い威力を誇る技。

 沖田が踏み込む地面を消し飛ばすことなど、造作もない。

 

「どうした?」

 

「……いえ。楽しいな……と、思っただけですよ」

 

 陸奥出海は壮絶に、獰猛に笑う。

 浮かぶ笑みは修羅のそれ。

 沖田総司は儚げに、消えてしまいそうに笑う。

 浮かぶ笑みは白雪のそれ。

 

「あなたの本気はこんなものじゃない。そうでしょう?」

 

「それはお前もそうだろう……」

 

「なればこそ、私の"次"は本気で放ちます」

 

「ああ……なら、俺も本気で受けてやる」

 

 そうして、英霊の切り札……『宝具』は開帳される。

 

「我が宝具こそはこの身に纏いし―――誓いの羽織」

 

 沖田総司の宝具、『誓いの羽織』。

 彼が幾度となく戦いの中で着た、晩年は一度も着ることはなかった、「これを着て陸奥と決着をつけたい」という祈りの染みた、浅葱色の羽織。

 羽織の力で、沖田の全てのステータスがアップ。更にその手に握られた愛刀が、乞食清光から菊一文字則宗へとランクアップする。

 剣の神秘が多少増したことで、出海に対し優位に立つ。

 

「陸奥が何よりの宝と誇るもの―――それはこの身に流れる血、この身に宿る強さのみ」

 

 陸奥に宝具はない。

 強いて言うならば、その肉体こそが最強の宝具だ。

 真名開放はなく、自己暗示に近い、ただ気合を入れるだけのセリフを吐いて、陸奥出海は沖田に向かって走り出す。

 沖田もまた、羽織の力で更に加速した縮地で距離を詰める。

 

 次の一撃に全てを懸ける、と二人は思考を同じくしていた。

 

 

 

 

 

 少年(マスター)は過去のどの戦いよりも恐ろしいピンチの中に居た。

 魔術王ソロモンの恐るべき脅威が、電車の中で小便漏らしそうレベルに見えるくらい、そのくらいのピンチの中に居た。

 枕の下に女の子の写真を入れているなど、ベッドの下のエロ本が見つかる並みに恥ずかしい。

 

「お前は道端に転がる石こそを慈しめる奴だ。

 あそこに居るバカ二人が忠誠を誓ってる理由もよく分かる。

 ……まあ、オレの父上と比べりゃまだまだだ。

 オレの父上とお前じゃ、理想の騎士像とランスロットぐらいの差がある。

 だがまあ、それでもお前は、オレが剣を捧げるにたると思えるくらいの人間ではあるわけだ」

 

「待って 違う 違うんだ」

 

 モードレッドのやれやれ感と、少年(マスター)のうろたえっぷりの対比が酷い。

 

「だがまさか、そんなマスターから呪術をかけられるなんてな……」

 

「えっ」

 

「皆まで言うな。オレは分かってる。

 お前の性格も分かってるし、お前がオレの対魔力のことを知ってるのも分かってる」

 

 しかしどうやら、モードレッドは何か勘違いしているようだ。

 

「昔見たことあるんだよな、敵を絵に書いて、それを踏む。

 "対象を自分より下にする"という行動で発動する呪術だ。

 寝るたびにオレを下にすることで、呪術を発動させてたんだろ? ん?」

 

「……え」

 

「だがオレは寛大だ。今回は許してやるよ。

 勘違いするなよ? 二回目は許さない。そして、お前以外がやってきても許さん」

 

 彼女には枕の下に写真を入れてどうこう、という知識はない様子。

 

「複数のサーヴァントの写真があったならまだ分かる。

 だがあったのはオレの写真だけだった。

 あれ多分、カルデアの皆で集合写真撮った時のオレの部分拡大して、引き伸ばしたやつだろ」

 

(もう許して)

 

「そんでオレが何かやらかしたんじゃないか、と気付けたわけだ。

 まあオレはお前が何か思い違いをしてるだけで、オレが悪くない可能性も捨ててないが。

 とりあえずどうしてこんなことをしたのか聞こうと思ってな。チョコ一個分くらいは話せよ」

 

 あの時のチョコは、どうやら前払いの料金のつもりだったようだ。

 モードレッドが想定した以上の効果があれにはあったが、それは脇に置いておく。

 

「お前が消しゴムにオレの名前書いてたのも見つけたぞ。

 書類作業に使ってたっぽいが、まさか呪術の二段重ねとはな……」

 

(うわあああああああああ)

 

 この少年(マスター)の年齢は、十代半ばに届くか届かないか。

 モードレッドは成長の早いホムンクルスで、年齢が20に届いてないことだけは確定で、15歳で成長が止まった()と外見が全く同じなくらいの年頃だ。

 小学生か、と言ってはいけない。

 

「違う、違うんだ、モードレッド」

 

「違うってんなら全部正直にゲロって弁解して、オレを納得させろや」

 

「無理です……!」

 

 女と呼ぶとキレるくせに、少年の気持ちが分からないモードレッド。

 自分の名前と好きな子の名前を相合い傘に書こうとして、書きかけの段階で照れて消してしまうタイプの少年(マスター)

 控えめに言っても大惨事だった。

 

「……それ誰かに話した?」

 

「え? オレを掃除に誘って一緒に居た清姫には話したけど」

 

「アウトォ!」

 

 そして更に大惨事になる要素が増えていく。

 

「不味い、つまりそれって―――」

 

 少年(マスター)の肩に置かれる手。囁かれる、ゆったりとした、ねっとりとした、甘い声。

 

「 ま す た ぁ 」

 

 きよひめくんじゅうさんさいのエントリーだ!

 

 

 

 

 

 出海は豪快に、沖田は軽快に、されどどちらも全力で懸ける。

 その一撃に全力を懸ける。

 陸奥圓明流の右腕が、天然理心流の右腕の剣が、振り上げられて男の意地を懸けられる。

 

 そうして、両者の最高の一撃が、二人の間で衝突した。

 

「無明三段突き」

 

「無空波」

 

 『無明三段突き』。

 それは一閃の内に壱の突き、弐の突き、参の突きを内包する魔剣。

 壱の突きを防いでも、同じ位置を弐の突きと参の突きが貫いているという矛盾が生じ、剣先は局所的に事象飽和を起こすという、防御不能の必殺の魔剣。

 

 『無空波』。

 それは陸奥圓明流の奥義の一つ。

 己の潜在能力を一瞬全て引き出し、拳を媒介として全身のパワーを特大の衝撃波として放つ技。

 当たれば必殺。当たらずとも必倒。放てば必勝。そういう奥義である。

 

 本来ならば放てばそれが勝利に直結するであろう魔剣と魔拳が、ぶつかり合う。

 

 刀は折れ、右腕が吹き飛ぶ。

 

 そして、二人は―――

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「マスター? この清姫の質問に答えて欲しいのですが」

 

「な、なにかな」

 

「いえ、簡単なことです。

 今から女性の名前を一つ挙げます。

 その人を愛しているか、愛していないか、答えてくださいな」

 

「え……」

 

 陸奥という修羅が引き寄せたのか、こちらも修羅場になっていた。

 清姫が修羅の門を越え、修羅の刻を引き寄せる。

 少年(マスター)が現実逃避に空を見上げると、適当に設定された青空がランダムな映像を移し、青空に何故か星が見え、何故か見えた北斗七星の隣に、更に何故か青い星が見えた気がした。

 

「さあ」

 

 清姫が一歩歩み寄る。

 少年(マスター)が一歩後退る。

 いまいち鈍いモードレッドに直感が"剣に手をかけとけ"と囁く。

 

「さあ」

 

 そして出海のパンチで折られた剣の先が飛んで来て、清姫の胸に突き刺さった。

 

「あふぅっ」

 

 少年(マスター)に飛んで来た方の破片はモードレッドが弾いたが、清姫の方には沖田の剣先が突き刺さっており、ぴゅーっと血が吹き出ている。

 

「おっと、危ねっ」

 

「きよひー!?」

 

 少年(マスター)が駆け寄るが、清姫は先程までの修羅の笑顔から一転、穏やかな笑顔を浮かべながら倒れていく。マスター特有のスライディングでなんとか清姫を受け止めるも、彼の手の中の清姫の胸はまるで赤い噴水だ。

 

「申し訳ありません、マスター……

 本当は分かっていたのです……あなたは安珍様ではないと……安珍様ホモだし……」

 

「きよひー! きよひー! しっかりするんだ!」

 

 少年(マスター)は狼狽え、冷静な判断力を失っている。

 モードレッドの直感が"結構余裕あるぞアイツ"と囁く。

 清姫だけがいい感じに笑っていた。

 

「ああ、この胸の痛み……これが失恋の痛みなのですね……」

 

「違う! 違うよ! もっと物質的な痛みだよ!」

 

「ですが、この胸から溢れ出す熱い想いの存在を、あなたに知っておいて欲しかったのです……」

 

「溢れ出してるのは熱い血潮だから!」

 

「ああ、優しくしないで下さい……胸がドキドキします……」

 

「胸がザクザクしてるんだよ!」

 

 うろたえるマスターを見ながら、"ガキかテメーは"とモードレッドは少し笑う。

 

「リリィー! メディアリリィーッ! 回復担当ぅッー!!」

 

 マスターに見届人を頼んでおきながら、もうとっくにマスターなんて眼中になく、二人の世界に埋没している男達も見る。

 出海は右腕を、沖田は刀を無くしていたのに、それでもなお戦おうとしていた。

 

「そうか、頭に血が上るって言葉にはこういう意味もあったんだな。

 有事の清姫は体からちょっと血ぃ抜いといた方が、冷静に他人と話せるのか……」

 

 そして最後に清姫を見て、そんなことをのたまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男達は立ち上がる。

 

「っ……!」

 

 無明三段突きは出海の右腕を吹っ飛ばし、その衝撃で出海に大きなダメージを与える。

 霊核に攻撃は当たっていないのに、出海の霊核にダメージが行くほどの一撃。

 生前も死後も頑丈なその体に鞭を打ち、陸奥出海は立ち上がる。

 

 無空波は衝撃波を発射する技だ。

 沖田は刀を粉砕されただけで体には傷一つ付いていなかったが、無空波の衝撃をその体に食らってしまい、病弱スキルによる耐久低下もあって、膝をついてしまう。

 刀の破壊にエネルギーが使われたこと、無空波が胴体近くに放たれなかったこともあり、沖田は気力を振り絞ってなんとか立ち上がる。

 

「……やはり、強い……陸奥圓明流……」

 

「お前もな……」

 

 二人ともボロボロだ。

 だが、"ここで引き分けにして終わりにしよう"だなんて思考が、浮かんでくるわけもなく。

 

「陸奥には不破って分家が居てな……その発祥のせいなのか……

 不破には優しすぎる奴が時々生まれる……なんて言われていた。

 体の中に鬼を飼ってない、なのに才能だけは有り余ってる……

 才能一つで自分の内側に鬼を飼ってる奴より強くなる、そんな奴が居るってな……」

 

「なんの話を……」

 

「お前はそれだ、沖田。

 土方(おに)とやって分かった……

 才能も有り、龍さんほどに優しくもない……だが、その内側に鬼が居ない……

 冬の雪よりもずっと儚く、すぐに消えてしまいそうな、初夏の雪……」

 

 出海が、沖田が、修羅と天才が構える。

 

「萎えましたか?」

 

「いや、尊敬だ……お前は鬼じゃないってのに、修羅よりも、鬼よりも強くなろうとしている」

 

 無空波の反動、無明三段突きのダメージ、片腕を失った損失。

 それら全てを一旦忘れて、出海は残った左腕を構える。

 ならばそこから放たれるのは、最後の"虎砲"か。

 

 無空波の衝撃、病弱スキルの侵食、打たれ弱く長期戦に向かない体の限界。

 それら全てを一旦忘れて、沖田は刀を持っていた右腕を構える。刀はない。

 しかしこの男が沖田総司である限り、そこから放たれるのは"無明三段突き"以外にありえない。

 

 空気が固まり、固まり、固まり、呼吸も困難なくらいに張り詰め―――やがて、破裂した。

 

 沖田の"素手による無明三段突き"。

 それが出海の胸に突き刺さる……が、肉体硬化防御"金剛"によりそれは受け止められる。

 肉を斬らせて骨を断つ。虎砲発射に見せかけた、金剛の受け。

 出海は最初から回避も防御もできないと悟り、あえて受けてから耐えるという選択をしたのだ。

 

 無明三段突きの代償として、沖田の右の拳の先が砕け散る。

 そしてカウンター気味に放たれた出海の蹴りが、沖田の鳩尾(きゅうしょ)に突き刺さる。

 まさしく必殺……打たれ弱い沖田には過剰なほどの一撃だった。

 

「剣も無いくせに、これほどの突きを……沖田、お前はやっぱり、天才だ……」

 

 だが、出海の方が先に口から血を吐く。

 沖田の無明三段突きは、本来刀で放つものと言えど、魔剣と呼ぶに相応しい魔技。

 陸奥圓明流の防御技といえど、真っ向から防げるものではない。

 

「あなたの蹴りこそ……神業でした……」

 

 出海に続いて沖田も血を吐き、血まみれの腕をだらりと下げる。

 そして、二人は同時に倒れた。

 陸奥圓明流に敗北はない……が、引き分けはある。

 

 この日、陸奥圓明流の歴史の外側で、人類史の中にすらないカルデアの片隅で、沖田総司は歴史上二人目の"陸奥圓明流と引き分けた人間"になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこっちも、収集が付きそうになっていた。

 

「あ、メディアリリィ! こっちこっち!」

 

「ふふふ……こうなれば皆道連れです……というわけで、モードレッドさん、耳を貸して下さい」

 

「あ? なんだよ、清姫」

 

 呼んでいた回復役が来たことに少年(マスター)がほっと胸を撫で下ろしていた隙を突き、清姫は最後の意趣返しをする。

 当然のように、清姫は心中を選ぼうとしていた。

 

「ごにょごにょごにょ」

 

「ふんふん……え……は? ……え? ……なっ……」

 

「あれこれあれこれ」

 

「……!?」

 

「かくかくしかじか」

 

「―――ッ!!」

 

 清姫のささやき戦術!

 モードレッドは枕の下の写真、消しゴムに描かれた名前の意味を知った!

 効果は抜群だ!

 

「く」

 

「く?」

 

「くられんと、どばーーーーー!!!!」

 

 かくして、モードレッドの脳内が熱暴走する。

 四方八方に対軍宝具がぶっ放される大惨事が勃発した。

 

「にゃー! にゃー! にゃー!」

 

 モードレッドの大暴走が、カルデアをぶっ壊す未来をありありと予想させる。

 

「きよひーなにしてくれてんの!?」

 

「全部壊れてしまえばいいのに! と心底思ってます!」

 

 笑う清姫に心中されそうになっているマスターを見て、メディアリリィは一人、哀れなものを見るように自分のマスターを見ていた。

 

 

 

 

 

 ぺいんぶれいかー、と緊張感がなく可愛らしい声を聞き、出海と沖田は目を覚ました。

 取れていた腕も癒えている。

 こうまでなっても死なない、取れた腕も生やせる、サーヴァントの体は本当に便利なものだと、二人は揃って思う。

 

「陸奥さん」

 

「なんだ?」

 

 二人の男は仰向けに寝っ転がりながら、訓練室内に映し出された人口の青空を見つめ、ぽつりぽつりと話し始める。

 

「蘭さんは、幸せになれましたか……?」

 

 沖田の心残り、いつかは絶対に話さなければならなかった、一人の女性の話とか。

 

「うちのマスターは優秀だ。オレはあのマスターに召喚されてよかったと思う」

 

 隠す必要もないので、出海は前置きをしてから語る。

 

「あのマスターならいずれ、天兵も召喚するだろう。オレのガキで、オレの次の陸奥だ」

 

「……!」

 

「少し話してみろ。それだけで、お前なら分かるはずだ」

 

「……はい」

 

 父と母が居なければ、子は生まれない。つまりはそういうことだろう。

 

「まあ……期待はするなよ……

 陸奥の男は代々、外から貰ってきた嫁にこう言われるそうだ。

 『あなたは伴侶と一緒に居る時より男と戦っている時の方が楽しそう』ってな」

 

「はは……私も伴侶を得ていたら、同じことを言われていたでしょうね……」

 

 出海も沖田も、女より男を優先していた自覚があるだけに、苦笑しかできない。

 自分の内に求めるものは強さが第一。自分の外に求めるものは勝利が第一。

 そんな人間がまっとうな女を幸せにできるわけがなく。

 『修羅の花嫁』には代々、相応の資質が求められてきた。

 

「互いに女関係はろくでなしだ。オレも、お前もな」

 

「ええ」

 

「なら……少しばかり、あのマスターを助けてやってもいいと思わないか?」

 

「……ですね」

 

 立ち上がる陸奥の体に傷はない。疲労すら残ってはいなかった。

 沖田もまた同様で、新選組の羽織を翻し、折れた菊一文字則宗の代わりに乞食清光を握る。

 目指すは暴走しているモードレッド。

 どさくさに紛れて心中を成功させようとしている清姫。

 この二人をなんとか無力化し、なんか笑っているメディアリリィと渦中のマスターを助けなければならない。

 

「行くか……沖田」

 

「はい」

 

 しかし、できないとは毛の先ほどにも思わなかった。

 生涯にそう何人も出会えない強敵(とも)と肩を並べている。

 それだけで、負ける気がしなかった。

 二人は共に走り出す。

 

 神話の中で、人類史の中で、あるいはそうでない場所で。

 敵対し、殺し合い、あるいは片方がもう片方を殺した関係で。

 それでもなお、両者が望めば共に戦うことができる……そんなこの場所は、とても良い場所なのだろうと。出海と沖田は、心の底からそう思っていた。

 

 

 




※この世界線のカルデア事情

・パーティI
 モードレッド【セイバー】
 坂田金時【バーサーカー】
 ニコラ・テスラ【アーチャー】
 ムツ(雷)【アーチャー】
 フランケンシュタイン【バーサーカー】
 雷電【アーチャー】

・パーティII
 ムツ(陸奥出海)【バーサーカー】
 坂本龍馬【ライダー】
 沖田総司【セイバー】
 土方歳三【アサシン】
 中村半次郎【アサシン】

・パーティIII
 織田信長【アーチャー】
 ムツ(不破虎彦)【アサシン】
 ムツ(陸奥狛彦)【バーサーカー】
 雑賀孫一【アーチャー】
 ムツ(陸奥辰巳)【バーサーカー】

・パーティIV
 源義経【ライダー】
 武蔵坊弁慶(真)【ランサー】
 武蔵坊弁慶【ランサー】
 ムツ(陸奥鬼一)【バーサーカー】
 静御前【ランサー】


こういう『他の作品を絡ませるカルデア妄想』はもっと流行るべき
明日はモードレッドピックアップ。書けば出るというこの祈りが届いたならば、きっと、きっと、ガチャは応えてくれるはず……!


(以下、2016/02/18追記)
呼符20枚、石十連二回、石単発九回
セイバーのデオンくんちゃん二枚、清姫四枚が来ました(白目)


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