もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01
<< 前の話 次の話 >>

2 / 36
いつも通り、アップしてから校正するスタイル。
自分もWEBに乗った後リーダーで読み直して誤字を直します。
もし誤字が見つかったらそっと教えて下さい(ぉ



第2話

2日目正午

 モモンガによる世界征服宣言から一晩。
 パンドラズ・アクターことラインハルト・ハイドリヒは、宝物殿から新たにナザリック第九層に与えられた執務室兼私室へ移り、今後の展開について検討していた。

 いや”検討”という言葉には語弊がある。

 すでに検討は済んでいる。昨晩のうちに、デミウルゴスやアウラなど各守護者より手勢を借り受け、空と地上の両面から周辺の調査と地図作成を開始している。その結果次第で、どのように動くかを選択するにすぎない。

 むしろラインハルト・ハイドリヒにとって最大の関心は、己が創造主であるモモンガのことである。アインズ・ウール・ゴウンに残った最後の至高の存在が、今回の未曾有の危機にどのような対応をするのか。自分の半身とさえ思っている存在に、ラインハルト自身は何をすべきか。モモンガにかくあるべしと定められたラインハルト自身の渇望と、モモンガへの忠誠をどのように実現すべきか。

 豪奢な椅子に座り、形のよい顎に手を置きラインハルトは静かに思考を巡らす。

 正午を過ぎた頃、調査結果の第一陣が届けられると、ラインハルトは立ち上がり、己が半身の元に向かうのだった。


******

 ラインハルトがモモンガの元を訪れた時、モモンガは玉座でアルベドと共にNPCの活動状況について確認を行っていた。二人は、ラインハルトを確認すると管理画面を消し向き直る。

「どうしたパンドラズ・アクター」
「ナザリックの周辺地図と簡単な状況がわかったので、卿に今後の方針について確認と思ってな」
「それは早いな。素晴らしい手腕だ」
「当たり前のことを当たり前にこなしたにすぎんよ。もしそれでも賞賛をというなら、実際に動いた者達と、この緊急事態にもかかわらず人員を融通した各守護者に贈るべきだ」

 モモンガは短時間にもかかわらず、情報がある程度揃ったことに驚き、賞賛を示す。もっともモモンガの隣に立つアルベドは、守護者であれば当たり前と認識しており、ラインハルト本人もまた同様なのだが。
 
「さて、ナザリックの周辺には広大な平原に存在し、近隣には知的生命体は存在しない。その意味では、卿がマーレに下したナザリック隠蔽の指示はベストに近い対策であることが証明された」
「そうか」
「そして一番近いのは人間と思わしき村が幾つか、すこし離れた森にはリザードマンの集落も幾つか見つかっている。また確認しやすい平原では、城塞をもった都市も見つかっている」

 現在判ったことは、ナザリックの現在位置が防衛面で見れば良好なもので無いこと。少なくとも村などをつくる文化を持つ知的生命体が存在すること。

 さらに平原に住む知的生命体は、国家を形成し精巧な地図を有していれば、すぐにでもナザリックを見つける可能性が高いことがわかった。

「そこで卿らに問いたい」
「なんだ」
「一番最初に接触するのは、一番近い村の人間となるだろう。卿はどのような趣向が好みかな。蹂躙するもよし、友好的に接するもよし」
「下等生物など、捕らえて尋問でも脳改造でもして情報を引き出せば良いじゃない」
「えっ」

 パンドラズ・アクターの問いに、平然と蹂躙せよと応えるアルベド。モモンガはこのやり取りにナザリックの者達の基本姿勢を見たような気がした。もっとも自分もいざ考えてみれば、鈴木悟としての倫理観以外に人間を重視する理由が見当たらないことに気付かされるのだが。

「ふぅ。友好的に対応せよ。もっともナザリックに敵対するなら容赦する必要はない。何よりこの異変が私だけに起こったものとは思えない。他のプレイヤーの存在の可能性も考慮せよ」
「了解した。我が半身よ」

 これは、人間として生きた鈴木悟の残滓が発した言葉と言って良い。

「で、具体的には。使者でもたてるか?」
「それも良いが、英雄譚には悲劇が必要と思わないかね」

******

4日目午前

 エンリ・エモットにとって、今日はいつもと変わらない一日だった。

 日の出と共に目を覚まし、隣に眠る妹を起こさぬようにベットから出る。母の手伝いで水汲みなどを行い、農具の確認を行う父を横目に朝食の準備をする。そして妹のネムが起きてくる頃、家族みんなで朝食を食べる。

 そんな忙しくも退屈で、当たり前の朝だった。

 しかし、当たり前は村に響き渡った怒声や悲鳴で、終わってしまった。村が武装した男たちに襲われたのだ。

 エンリ・エモットは、両親の決死の声を聞いて、妹、ネムの手をつかみ逃げ出した。感情は両親を心配し、今すぐ戻れと叫ぶ。しかし白くなり冷静になった頭の片隅で、逃げるしか生きる手立てはないと警笛が鳴り響く。
 
 村はずれに差し掛かった時、エンリ・エモットは一度だけ後ろを振り返る。

 見れば、鎧を装備し武器を持った男たちが村の人たちを追い回す。まるで狩りでもするように追いかけ回し、斬り殺す。見知った女性が男たちに捕まり引きずられて行く。

 そして、自分たちを見つけたのだろう。二人の男がこっちに向かってくる。もし捕まればどうなるのか。引きずられていた女性のようになるのか、それとも狩人に追われるウサギのようになるのか。

 迫る現実にエンリ・エモットが絶望しかけるも、せめて妹だけも守ろうと抱きしめる。
 
「絶望の淵であっても、愛するものを守ろうとするか。しかし力なき愛は弱者の嘆きにすぎぬぞ」

 静かな言葉であるはずなのに、エンリ・エモットの耳にははっきりと聞こえた。

「えっ」

 しがみつくネムを抱きしめながらエンリ・エモットが見上げたそこには、槍を携え黄金の髪をたなびかせ、黒い服をまとった大きな背中が、まるで二人を守るように立っていたのだ。その大きな背中は、まるでお伽話の勇者のようであった。

 しかし男たちは戦場の高揚感からか、関係ないとばかりに目の前に立ちはだかった男に斬りかかったのだ。

「あぶな……」

 躍りかかる男たちを見て、エンリ・エモットは無意識に声を上げようとする。

「案ずることはない」

 次の瞬間には、襲いかかった男たちの首は無く、大量の血を吹き出しながら倒れていた。エンリ・エモットには、いつ目の前の男が槍を振るったのか見えず、振るったはずの槍には汚れさえ見えない。
 ほんとうに目の前で起こったことなのか現実感さえ乏しく、エンリ・エモットはただ見上げるだけだった。

「怪我はないかな。フロイライン」
「あ、ありがとうございます」

 優しい言葉と共に差し伸べられた手。

 エンリ・エモットは、まだ震える手で助けてくれた男の手をつかむと、得も知れぬ暖かさが広がるのを感じた。掴んだ手を離さず、静かに力をいれ立ち上がるのを助けてくれる。たったそれだけなのに、もうこの手を離したくない。そんな思いにかられたのだ。

 しかしその思いは長く続かない。

 立ち上がったエンリ・エモットには、まだ襲われている村が見えてしまった。

「見ず知らずの方に、不躾なお願いと判っております。私はどうなっても構いません。どうか!どうか村を救ってください」
「おねえちゃんダメ」

 エンリ・エモットが助けを乞うた。しかしあんまりな内容に、震えているだけのネムが否定の声をあげる。しかし、黄金の男はその声を無視するように、震えるエンリの手を握り返し目を見て宣言する。

「では、いついかなる時も付き従うが良い。私はラインハルト・ハイドリヒ。卿は私のものだ」
「は、はい」
 
 ラインハルトはそう言うと、村に向け歩をすすめる。エンリ・エモットは突然の宣言に頬を染め余韻冷めやらぬ中、小走りで後を追い、妹のネムもまた付いて行くのだった。

******

 ラインハルトの歩みには一切の迷いは無く、村の中心である広場に向かって突き進んでいた。しかし付き従うエンリとネムの目には、聖者の歩みか、戦神の蹂躙に見えていた。

 なぜなら、村を襲っていた者達が現れれば瞬く間に切り倒され、傷つき倒れる村人がいれば、手をかざすことで瞬く間に傷が癒やされるのだ。時々、影のようなものが見えることもあるが、その奇跡の前にエンリやネムだけでなく、助けられた村人らも後ろに付き従うようになった。
 そして広場に現れた時、状況は一変した。

「こいつが、先程から楯突いている愚か者か!」

 重厚な鎧と、数名の部下に身を守られた男が、ラインハルトを見つけるなり叫ぶ。

「一斉に掛かって殺せ!」

 その号令に従い、近くにいた4人の男がラインハルトを包囲し一斉に斬りかかる。しかしいままでとラインハルトの動きは違っていた。いままでは全て槍で迎撃していたが、ここに来て右手を男たちのほうにかざし、横に一閃する。

龍雷(ドラゴン・ライトニング)

 その言葉と共に、右手から閃光がほとばしり、襲いかかる男のみならず、後ろに控えていた男たちも巻き込み弾けたのだ。至近距離で受けたもは、その躯を燃やし尽くし灰へと帰る。離れていたものでさえ、触れた皮膚は焼け焦げ崩れ落ちる。

「マジックキャスターだとぅ?!」

 先ほど指示を出した男は、負傷するも幸か不幸か生き残ることができた。しかしただの戦士と思っていた男が、自分達を一蹴するマジックキャスターであると知ると腰を抜かしてしまい、地に座り込んでしまった。
 対してラインハルトは、エンリやネム、そして村民を引き連れ悠然と襲撃者達の前に進み出る。しかし襲撃者たちは、まるでラインハルトに押し出されるようにジリジリと後退をはじめたのだ。

「どうした、己の欲に忠実なものたちよ。その渇望を持ってかかってくるが良い。私が全て受け止めよう」

 その挑発とも取れる言葉に、襲撃者達は憤慨するなり恐慌に陥るなりすると思いきや、冷静な判断を下せるものが残っていた。

「アンドレ、ベルツ、俺と共に時間を稼げ。他のものは隊長を連れて撤退」

 声に弾かれたように、襲撃者は一斉に行動を開始する。しかし遅すぎたのだ。

「ふっ。ただでは帰さぬよ」

 ラインハルトがどこか楽しそうに宣言すると、その体から黄金の覇気が立ち上り一瞬で辺りを覆い尽くす。
 敵対する者達の足は問答無用で止まり、恐怖を持って断頭台に己の頭をたれるように跪く。付き従う村民は、その王者の風に当てられ畏敬の念をもって膝をつく。

「私は全てを愛している。ゆえに逃げたければ逃げると良い。挑むものは別け隔てなく受けて立とう」

 黄金の王者が宣言する。

「私はラインハルト・ハイドリヒ。 しかとその身に刻め」

 その言葉とともに黄金の覇気が消え、圧迫感から解放されるやいなや、襲撃者たちは一斉に逃げだした。その姿に村のものが一斉に歓声をあげるのだった。

「策とは言え、私の乾きを癒やす糧にもならぬか」

 しかし、このつぶやきだけはもっとも近くにいたエンリ・エモットしか聞くことができなかった。


******

 カルネ村の脅威は過ぎ去った。

 エンリの両親もラインハルトの奇跡の前に傷は癒され、その生命をつなぐことができた。今はネムと共に、幸運に感謝している。

 しかし村全体で見れば、三名ほど治療が間に合わず亡くなった。また、賊が放った火で家も二軒焼け落ち、ほかにもいたるところが破壊されてしまっていた。

 そんな中であるが、村長夫妻はエンリと共にラインハルトを招いていた。

 ラインハルトは、アインズ・ウール・ゴウンという組織に所属し日々をすごしていた。しかし長く世間から隔離されていたため世情に疎くなり、近くの都市に滞在して世間を学ぼうと考えていたというのだ。その意味では今回この村へは偶然に立ち寄っただけにすぎなかった。

 実際、村長夫婦もエンリもラインハルトの言葉の端々に感じる知性と気品の高さを感じずにはいられなかったので、大方どこかの貴族出身の騎士見習いが修行と称して一時的に市井におりているのではないかととらえた。そのため、多少変な質問があろうと懇切丁寧に知る限りのことを伝えた。

 最後に報酬の話となった。

「私は報酬のために救ったのではない。己の心赴くままに行動したにすぎんよ」
「しかしそれでは、御恩に報いることができません……。そうだ、先ほど近くの都市に滞在すると仰っておりましたが、冒険者ギルドへの紹介状と当面の滞在費、そしてバレアレ氏への紹介状を出させていただきましょう」
「バレアレ氏とは」
「バレアレ氏は、この国最高の薬師です。この地域で流通するポーションの多くを手がけており、きっと見聞を広めるお役にたつことでしょう」
「なるほど、それは面白い人物だ」

 ラインハルトはある計画のために、人間の世界での名声を必要としている。その意味ではこの提案はなかなかおもしろいものであった。

「あのっ」
「どうした、エンリ」
「私も、ラインハルトさんについてってもいいでしょうか」

 エンリも自分が咄嗟に言ったことについて驚いた。いままで一度も村から出ようとはしなかった。友人からエ・ランエルに来ないかと誘われた時でさえ、のらりくらりと断った。しかし、今回はこうにも簡単に自分から、村を出ると言ったのだ。

「理由をきいてもいいかい?エンリ」
「私はラインハルトさんに村を助けていただく際、自分はどうなってもいいと言いました。そして、ラインハルトさんも、ではお前は私に付き従えとおっしゃったので」

 村長はエンリの突然の申し出にその真意を聞き返す。しかしエンリからはお伽話の一節が返されて苦笑する。きっとこの御方なりの洒落だったのだろうととらえた。

「わかった。今回は紹介状を届ける理由もあるから。ラインハルトさんもそれでよろしいでしょうか」
「かまわんよ」
「はい。ありがとうございます」

 村長としても、打算がなかったといえば嘘になる。エンリは、途中から気恥ずかしくなり下を向きながらも、しっかりとした声で答えた。

 そんなやり取りをしていると、ドンドンと扉が叩かれる音がした。

「どうした」
「村長。実は……」

 村長が扉をあけると村の青年の一人が飛び込んできた。どうやら騎士風の一団がこっちに向かってきているというのだ。

「村長。どうしましょう」
「どうしようか」

 村長と青年が、思惑をめぐらせていると、ラインハルトは一つの提案をするのだった。

「村長。村人を一度村長の家に匿い、私と村長で広間で対応するというのはどうかな」
「ご協力いただけますでしょうか」

 ラインハルトは静かにうなずいた。
 同時に、メッセージで己の半身に計画が第二段階に移行したことを伝えるのだった。


******

 その頃、逃げ出した男たち。

 いや、スレイン法国に所属するものたちは、先ほどのラインハルト・ハイドリヒにより見逃され、一心不乱に後方の合流地点に向けて移動していた。

 しかし、当初は十人以上いたはずの仲間達が、森に入ってからというもの一人また一人と消えてしまい、今では二人になっていた。

「はぁはぁ……。これはどう……いう……ことだ!?」
「今は走れ、せめて情報だけでも持ち帰らねば」

 森に入り足元は悪い。

 追手の気配こそないが、異常事態が発生しているのは確実だ。

 先ほどの男といい、森に入ってからの異常事態といい、信仰する神はどれほどの試練を用意しているのだろうと、嘆かざるをえなかった。

「ほんと、この程度じゃ狩りにもならないっすね」

 昼すぎであるのに、どこか薄暗い森の中。突然、陽気な女の声が響いた。
 
 男たちは立ち止まり周りの様子を伺うが人影さえ見つからない。
 
「まあ、逃がす用の連中は東に行ったから、ここのは全部狩ってもいいっすね。あ、殺しちゃいけないから、逃げれないように手足をもげばいいかな」
 
 あまりにも物騒な言葉に、男達は武器を構える。しかしどんなに探しても、それらしい影さえ見つけることは出来ない。
 必死にあたりを探していると、先頭に立っていた男が倒れた。見れば、両足が何かに潰されている。

「なっ」

 もう一人の男が気が付き声をあげようとした時、左腕が激痛に襲われた。気が付けば肘から先がなくなっていたのだ。激痛に歪む意識の片隅で、自分の腕をもぎ取ったであろう赤髪で修道服を着た女が楽しそうに言うのを聞いた。

「まったく。襲う村も襲うタイミングも誘導されたとも知らず、罠に飛び込んでくるなんて、ほんとどうしようもないオモチャっすね。あ、こいつらのナザリックへの移送よろしくっす」

 影に控えていた低級の悪魔が、すでに意識を無くした血まみれの男たちを運び出す。
 
「パンドラズ・アクター様の指示。第一陣のうちニ名以外の捕縛は完了っと。ま、獲物として二流だったけど、久々の狩りだから少しは楽しめたっすね」

 女、ナザリックに所属するプレアデスの一人、ルプスレギナ・ベータは、手を血で染め、笑みを浮かべながら言い放つ。

「さってと、急いで戻らないと次の狩りに間に合わない。ああ、もう少し歯ごたえがあればいいっすね」 

 そういうと、ルプスレギナ・ベータは、カルネ村に向け駆け出したのだった。
 



次は最初の山場、陽光聖典。
ここでどれだけ獣殿風味とオーバーロード風味を出せるかが勝負。