【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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最終章直前!


閑話
モモンガ日記2


八月一日

 

 明日は定例会議だ。皆要点を簡潔にまとめた報告をしてくれるので時間は短いものの、その分内容が濃い会議なんだよな。魔樹ザイトルクワエの件も最終報告があるだろうから、自分の意見をここにまとめておく。

 

・パンドラズ・アクターの設定について

「殺したものの魂をその内側の宇宙(ヴェルトール)に取り込む。そして取り込んだ魂を己の軍勢として、召喚または憑依し戦う」

宇宙(ヴェルトール)には、黄金の城がある。その最深部には巨大な黒曜石の円卓があり、四十一の椅子がならべられている。その椅子にはナザリックの四十一人の仲間の名が刻まれており、それぞれの魂が座っている。そしてギルドマスターの場所には、モモンガの半身としてラインハルト・ハイドリヒが座す」

 

 この設定がトリガーになって四十人分の自我、記憶、魂に相当するものがパンドラズ・アクターの中にあるという。そして、パンドラズ・アクターの知覚を通して外の状況を把握している。つまり、この支配者ロ………

 

 まさか日記で精神の鎮静化が発生するとは思わなかった。

 

 しかしゴーストダビングって一時期話題になった人間を人格レベルでコピーする技術だよな。でも、コピーの劣化が酷く実用的ではないって話だったような。だからこそ政府や企業側がゲームの裏で実験って、どこのライトノベルだよって話だな。

 

 ここが異世界なのか、ゴーストダビングを活用した巨大なシミュレーション空間なのか、今のところ判断がつかないんだよな。その辺は、みんなが復活してからゆっくり相談するとしよう。

 

 ともあれ、みんなの復活の条件はスワスチカをすべて設置しグラズヘイムの永久展開か。グラズヘイムが永久展開されることで、爪牙は顕現しつづけることができるからな。

 

 そうなると問題の設定は、「パンドラズ・アクターの正体は、モモンガの自滅因子である。パンドラズ・アクターとモモンガが争うと必ず共倒れとなり、世界は回帰する」か。

 

 戦闘が発生するタイミングとして考えられるのは、パンドラズ・アクターの能力が十全に利用できるようになるグラズヘイムの永久展開後だよな。

 

 それにしても共倒れになった場合、復活できるかどうか。デスペナがあったとしても復活できるなら良いが、ラインハルト側にデスペナが発生しスキルバランスが壊れると、最悪みんなが復活できなくなるよな。というか俺が死ぬとパンドラズ・アクターがナザリックの敵認定されるのか?

 

 そもそも「世界は回帰する」ってなんだよ。どんだけ厨二病だったんだよ。

 

 それはそうと、世界征服の方針もすこし手を加えておかないといけないよな。さじ加減はアルベドに相談しないといけないな。

 

 

八月二日

 

 とりあえずスワスチカ建造の指示を出した。しかし、原典だとたしか都市一つ程度の範囲でスワスチカを作ってたはずだが、こうやって見るとトブの大森林を中心に三カ国にまたがる巨大儀式魔法となるのか。胸熱だな。

 

 例の件は、最後の九個目さえ意識し、それまでに対策を練るとしよう。

 

 それにしてもストーカー怖い。名も知らぬ男性に幸多からん事を。

 

 パンドラズ・アクターは来る者は拒まず(全てを愛している)だから、ストーカーも受け入れてしまっているようだが、アルベドの場合対象が俺だからな……。

 

 うん。

 

 探知魔法に対する攻性防壁は稼働しているな。定期的に確認するとしよう。

 

 

八月三日

 

 口唇蟲が、バージョンアップした。ぶっちゃけ食事量が一般成人男性程度まで増えた。茶会でみんなと楽しむ紅茶やお菓子などは美味しかったが、やはり量も食べたかったといえば贅沢だろうか。

 

 アンデットの欲求としては贅沢だよな。

 

 とりあえず、エントマの頭を思う存分なでまわし褒め称える。無表情なのに照れる雰囲気が伝わるとは、エントマ恐るべし。

 

 しかしBARは酒とつまみだけと思っていたが、まさか日本食まで食えるとはおもわなかった。

 

八月六日

 

 パンドラズ・アクターが王城のパーティーに招待されているというので、相手の文化レベルを知るためにリモートで監視、もとい拝見することとなった。

 

 文明レベルで言えば、中世レベル+α程度か? 仲間たちと試行錯誤の末、過去の建築資料なども引っ張り出して生み出したナザリックの内装と比較すると、どうもみすぼらしく感じる。酒や食事に関しても、うちのBARで出されるもののほうがうまそうだ。

 

 しかし、冷静に考えればナザリックはデータ設計されたのであって、柱一本でさえ人の手で彫り出されたものではない……。そう考えると、文明の進歩の差というものか。優劣をつけるばかりが全てではないな。

 

 それにしても獣殿は呼吸をするように女性を無自覚に落とそうとする。あれが女は駄菓子と公言してはばからない男の生き様なのだろうか。

 

 そしてアルベドが隣で、一人芝居をはじめたのは怖かった。しかしあれがグラズヘイムの女子会で行われていた光景かと思うと、なぜか許せてしまった。たとえ、脳内モモンガが獣殿と同じセリフを、アルベドに捧げているという妄想であってもだ。

 

 だが、そんな考えも、黄金の姫様が入場した瞬間終わった。いや、一目でわかってしまった。

 

 これが真性ストーカーか。なぜ気がつけたかって? それはアル

 

 だれか来たようだ

 

八月七日

 

 エントマの報告書(アルベド宛)を見てしまった。

 

 ご立派様の開発はまだ続いていたんだな。しかも貴族の不妊治療名目で実証実験まで行い無事妊娠したと……。生まれた子供が正しく人間であれば成功とあり、現状の観察では人間として生まれる可能性が高い……か。

 

 まあ、跡取りの有無が家督問題になる時代のようだし、善意の協力のようだから黙認するが、いよいよやばいのか?

 

八月十二日

 

 リザードマンとの戦もついに終結か。それにしても、まさかコキュートスがあの手勢だけで優勢に戦うとはおもわなかった。コキュートスはもっと正面から押しつぶすような戦いをするかとおもっていたが。

 

 これはあれか?

 

 この間、建御雷さんに負けたからか?

 

 それに、戦った相手の助命。まるで時代劇のワンシーンを見ているような気がした。きっと建御雷さんもコキュートスの成長を喜んでいるんじゃないかな?

 

八月十三日

 

 この年で初デートすることになるとは思わなかった。

 

 そりゃあ、アルベドと二人でカルネ村を視察にいったりとか、トブの大森林をゆっくり回って自然浴なんてのはあったけど。王都でのデートに、がらにもなくはしゃいでしまった。

 

 たしかにごみごみした配置だが、異国情緒あふれる町中というのは、まさしく観光旅行? と言うやつだろう。見たことの無い風景というのは、良いものだな。アルベドと向かい合って食べたカフェのホットドックも、ナザリックのものと比べればたいしたことないものだろう。でも、この風景の中、アルベドと二人で食べたからだろうかすごく美味しく感じた。

 

 あと、何気なく寄った宝石店で見つけた美しいバレッタ。聞けば北にあるドワーフの国で作られた品らしい。シンプルだが美しい彫刻。ワンポイントで埋め込まれた琥珀は、なんとなくアルベドの瞳のように思えたので、つい買ってプレゼントしてしまった。

 

 品が気に入ってもらえたのだろうか、それとも店員が奥様へのプレゼントですねという言葉に機嫌を良くしたのだろうか、それ以降ずっと機嫌が良かった。

 

 うん。

 

 純粋に美人の笑顔は良いものだ。

 

 それはさておきセバスもなんだかんだとたっちさんに似ている。とはいえ、自分で考え、相談し、最善を目指す。着実に成長しているようでなにより。

 

 あと、セバスが助けた女性もだが、この世界の女性って覚悟ガンギマリすぎないか? パンドラズ・アクターの部下二人もだし、この間の姫様もそうだし。いや姫様を一緒にしたら、他の女性に失礼か。

 

八月十四日

 

 デミウルゴスプロデュース 小学校以来の演劇。恥ずかしいが、途中から力が入ってしまった。

 

 魔法一つ、発動するたびに歓声があがる。適当に捕まえてきた野生の魔獣とはいえ、倒すたびに声援が聞こえる。純粋に評価されるって気分がよいものだな……。

 

 たとえマッチポンプであっても。

 

 てかデミウルゴスもノリノリに悪役演じてるあたり、ウルベルトさんの子なんだな~とおもった。

 

 あと、見慣れない爺さんが、熱い視線をこっちに向けていたような。デミウルゴスに聞いたら、後で説明するといってたから何らかの計画の一環なんだろうけど、かつての同僚にいたホ〇野郎の視線に近かったのは気のせいだろう。

 

八月十五日

 

 スレイン法国の上層部、社畜すぎてワロタ。

 

 朝一の会議の前に自分たちで掃除ってどんだけだよ。しかも聞けばほぼ無報酬。

 

 でもよく考えるとナザリックも似たものだった。やはりホワイト化を推進しなくては。

 

 後、漆黒聖典のメンバーと顔合わせが行われた。悪魔に転生してまで殺したいといっていた娘の兄貴にも会ったが、なぜそこまで拗らせたのかイマイチわからなかった。誠実そうな青年にみえたのだがな。

 

 あとハーフエルフの娘にもあった。

 

 とりあえず、エルフの国は要チェックだな。へたするとうちの双子にちょっかいだしかねない。てか、エルフの王ってプレイヤーか? その辺も注意が必要だな。

 

八月十八日

 

 二百五十 対 約七十 で殲滅勝利?

 

 え?

 

 しかも主力はゴブリンで、フル武装の騎兵や歩兵を殲滅?

 

 てか使用武器に爆発物ってなんだよ。しかも開発経緯が、ポーション研究の失敗作って、なにを失敗すればダイナマイトができるんだよ。なんつうものをポーション研究に活用してるんだよ。おまえは錬金術師か! 樽型の爆弾でもつくるんか!

 

 でも、若干劣化しているとはいえ、ユグドラシルのポーションが再現できそうだという。なかなかに優秀な人材なのだろう。折りをみて褒美をとらせるか。

 

八月二十三日

 

 獣殿の演説きたーー。

 

 やっべ。

 

 何アレ。あんな感じでベルリン崩壊させたの? てか隣に立ってるペロロンさんかっこよすぎなんだけど。

 

 黒歴史発動どころか、まさか歓声あげて精神の沈静化が発動するとはおもわんかったよ。映像情報として、いろんな角度で保存させておいてよかった。これ、ペロロンさんが復活したら、絶対一緒に見よう。

 

 ついでに、ちょいとペロロンさん登場シーンの前後を切り貼りしてシャルティアに見せたら、鼻血出して動かなくなった。うむ、良いリアクションありがとう。お礼に、映像クリスタルを渡したら喜んでくれた。

 

 それはさておき、まさか王権が転がり込むとはおもわんかった。

 

八月二十四日

 

 正確な数は不明だがおおよそ三万以上の魂を取り込んだ五本目のスワスチカが完成した。

 

 一時的とはいえ、大地を埋め尽くすほどのアンデットを呼び出し、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーを十名召喚するとは。

 

 ちょうどよいので、今回も呼ばれていたウルベルトさんにいろいろ相談した。

 

・設定の件はすでにバレており、モモンガ VS パンドラズ・アクターは誰もが認識済み

・パンドラズ・アクターのスキルはメンバーのスキルを使用。使用回数もメンバー依存

・スキル使用有無はメンバーが貸し与えることに同意しているかどうか

 

 これってすさまじいチートだよな。みんなのレベルは八十だから、スキル回数や規模、ものによっては利用できないものも多い。でも一人が利用できる数やバリエーションじゃない。

 

 一対一で戦えば確実に押し負けるぞ。

 

 でも、ナザリックの全軍。いや守護者だけでも引き連れてとなると、あっちも協力してくれそうなメンバーを顕現させるよな。そして、喜んであっち側で戦いそうな人もいてこまったものだ。

 

 あとたっちさんやタブラさんを呼び出すなという忠告の真意を聞いた。まさかたっちさんが家族の元に帰るためにバーサーカー状態になっているなんて予想できなかったよ。いま顕現させれば、ナザリックを捨て一人で帰還方法を探す旅に出かねないとのこと。うん。家族愛が深い人とおもってたけど、まさかそこまで依存していたとはおもわなかった。

 

 タブラさんだが、たっちさんとは逆に異世界転生の設定を拗らせているらしい。ヲタとしてはペロロンさんのほうが上とおもっていたが、獣殿経由で齎される膨大な量の情報をまるで大量の書に囲まれたビブリオマニアのように読み漁ってるらしい。しかも異形化し睡眠、食事不要のため、まさしく不眠不休で……。

 

 ほんとアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは濃い人ばかりだと改めておもった。

 

 

八月三十一日

 

 法国に七日間滞在し、法国防衛戦に参加した。感覚ではちょっとした出張?

 

 本当にデミウルゴスは嗜好を凝らした攻撃をしかけてきた。楽しんでほしいと言っていたのであえて聞かなかったが、いろんなバリエーションをで攻めてきた。

 

 最初は小手調べとばかりに、近隣の低レベルモンスターを支配し数万の軍勢として圧殺。この時はまさしく総動員で戦った。私も眷属召喚でアンデットを生み出しぶつける物量戦となった。

 

 二日目は逆に少数精鋭とばかりに二体のドラゴンによる攻撃。一般人は初日で疲れ切っており、漆黒聖典と私で対処。漆黒聖典は人間のわりによく戦う。レベルでは推し量れない戦いを見るのは、王国戦士長の戦い以来だが、なかなか参考になる。

 

 三日目は雨の中、三体の影の悪魔が聖都に入り込み一般人を一時間に一人づつ殺すというものだった。雨のため若干姿を確認できるとはいえ、まるでホラー映画のような状態となっていた。

 

 四日目。悪魔が一人現れたとおもったら、エ・ランテルでパンドラズ・アクターが捕らえた元漆黒聖典の女戦士だった。復讐を条件に服従し、現在は悪魔に転生を果たした存在だったか? 兄との一騎打ちを希望し、もし一騎打ちに応じれば勝ち負けにかかわらず他を襲わないと宣言。そうすると兄は進み出て、ガチの殺し合い。結果、両者瀕死になるも日が落ちたためドロー。なにをこじらせればああなるんだろう。

 

 五日目。魔獣系わんさかだったが、よく覚えていない。なぜかアルベドが援軍で現れた印象が強すぎたからだろう。援軍の理由はモモンガニウムが切れた。俺は新栄養素を散布シテイルラシイ。

 

 六日目。結構本気なのだろう。三魔将が現れた。しかも周囲の山々から魔獣を服従させて……。いくらナザリックに被害だしたくないからって、魔獣拉致りすぎだろ。きっとアウラも手伝ってるのだろうが、生態系崩れてないかだけが心配だ。漆黒聖典・番外のハーフエルフちゃんつよいな~。嫉妬と互角にたたかってたよ。

 

 最終日は俺とデミウルゴスとの一騎打ち。かなり派手な魔法の応酬となり、見るものには神代の戦いの再現と感じさせたそうだ。結果、デミウルゴスは深刻なダメージを受け撤退。

 

 だけどデミウルゴスが言った最後のセリフ「ラインハルトとの戦いの参考になれば幸いかと」にはびっくりした。今回の戦術、よくよく考えればどれもパンドラズ・アクターならば、どれも可能な戦術だったからだ。なによりパンドラズ・アクターと戦う予定があることなど、アルベド以外に教えていない。デミウルゴスが俺やパンドラズ・アクターを観察して答えに行き着いたのあれば、さすがナザリック一の知恵者ということなのだろう。

 

 どちらにしろ、聖都にスワスチカを立ち上げて今回の演目は終了。

 

 これで六つ目。残り三つか。


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