【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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最終章 大墳墓の反逆者
そんなに長いエピソードではありませんが、どうぞ最後までお付き合いください。


最終章 大墳墓の反逆者
第1話


 終わりが足音を立てて近づいてくる。

 

 腕の中で、私を愛するもの達が息絶える。

 

「あなたの中で生き続けます」

「たとえこの身が滅びても、あなたが覚えていてくれるなら」

 

 まるで三文芝居のようなセリフを信じ息絶える。

 

 私もまた涙を流さず、笑顔で抱きしめ是とする。

 

 そこに疑問はない。

 

 なぜなら

 

 そう定められているのだから。

 

 

九月一日 リ・エスティーゼ王国

 

 バハルス帝国との間で行われた季節外れの戦争に勝利したリ・エスティーゼ王国は、ランポッサ三世の名で数多くの発表を行った。

 

 先日のクーデターを主導した第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフの廃嫡およびクーデター中の死亡。また、クーデターに参加した貴族の取り潰し、軽くても移封や多額賠償金などが課せられたと発表した。

 

 逆に、バハルス帝国との戦争に参加した第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフは、防衛戦で負った怪我を理由に王位継承権を喪失。大公位が与えられ地方都市を所領とすると発表した。

 

 では王の後継者は? そもそも第一王子がなぜクーデターを主導したのか? 多くの疑問が囁かれる中、さらなる発表が続く。

 

 それは王国建国秘話。人類を生かすための楽土と人材育成を目指し王国が立ち上げられたこと。しかし、腐敗にてその威はすでに地に落ちたこと。

 

 だが間に合った。

 

 六百年前に人を救いし神に等しき者たちの再来が成った。王権は神より与えられし権利。ゆえにあるべき王に返す。そして慈悲にすがり、人類の守護を願い出る。また、隣国スレイン法国も再来した神にそのすべてを返上するという。結果としてリ・エスティーゼ王国とスレイン法国は同君連合となる。

 

 再来した神、闇の神モモンガ。そして神が率いるアインズ・ウール・ゴウン。

 

 神の再来。

 

 宗教国家であるスレイン法国なら、民もその意味を理解し従うだろう。だが、リ・エスティーゼ王国の民には、神の存在を説いても納得できるようなものではなかった。

 

 それを納得させたのは、賛同する者たちの姿であった。

 

 今回の騒乱を生き残った大貴族、エリアス・ブラント・デイル・レエブン候爵とぺスペア侯爵の名があるため、クーデターの粛清を免れた国王派貴族のほとんどは従った。

 

 また民に人気の高い王国最強の戦士ガゼフ・ストロノーフに、黄金ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。大貴族にしてアダマンタイト級冒険者チーム「蒼の薔薇」のリーダー ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラなど民衆に人気の高い面々の名は多くの賛同者を集めた。

 

 そして王都奪還の奇跡を成した黄金の獣 ラインハルト・ハイドリヒの賛同は、王都において絶大であった。加えてラインハルト・ハイドリヒもまた、アインズ・ウール・ゴウンに所属しているという。彼の名声を知るものは、ラインハルト・ハイドリヒの行動こそアインズ・ウール・ゴウンの行動指針と考え賛同したのだった。

 

 もっとも大多数の民にとって支配者層の入れ替わりは、税率が一部改正されることによる減税以下の価値しかなかった。

 

九月二日 ナザリック地下大墳墓 第九層 会議室

 

 ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドマスターにして、ナザリック地下大墳墓の絶対支配者であるモモンガは、荘厳にして機能美を持ち合わせた会議室の上座で、ナザリックの中枢メンバーから各種報告を受けていた。

 

 第一から第三階層守護者である吸血鬼の真祖、シャルティア・ブラッドフォールン。

 

 第五階層守護者である蟲王(ヴァーミンロード)、コキュートス。

 

 第六階層守護者であるダーク・エルフの双子、アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ。

 

 第七階層守護者である最上位悪魔(アーチデヴィル)、デミウルゴス。

 

 宝物殿領域守護者であるドッペルゲンガー、パンドラズ・アクター。

 

 守護者統括であるサキュバス、アルベド。

 

 加えて家令であるセバス・チャンや数名のメイドも控えている。

 

 いずれもレベル100に達するそうそうたるメンバーが一堂に会して行われる定例会議は、ナザリックの内状にはじまり、地上都市の建造状況、外交、他国の状況など多岐に渡っていた。

 

 今も帝国・法国方面を担当しているデミウルゴスが、いくつかの書類を片手に報告を続いている。

 

「以上、王国は帝国に対する一部関税自主権の放棄とナザリックに近い帝国の二都市における治外法権、そして皇帝に対する無制限の軍事力貸与を認めさせました。またラインハルトに確認を依頼したところ、すでに条件はクリアしているとのことでモニュメント(スワスチカ)の建造も済ませております」

 

 帝国は、デミウルゴスとラインハルトの策謀に絡め取られ、王国側国境警備兵の大半を失った。さらにカッツェ平野での帝国軍四万の内、三万以上を失っている。今回は民兵の参加が少なかったため、農業など一次産業への影響は少ないが、常在の兵力は治安に直結する。その多くを失った上に、不平等条約と、皇帝にのみ無限の兵力を貸す権利。すなわち……。

 

「数年後には実質属国となるということか」

「はい」

 

 帝国において今回最大の敗因は、王国大規模派兵に踏み切ったことにある。たとえラインハルト・ハイドリヒが王都の情報を統制し、短時間でクーデターを発生させるように調整され、王都における諜報戦に敗北したとしても。デミウルゴスが実質皇帝の顧問をつとめる人類最高の魔法使いフールーダ・パラダインを調略し、開戦論を後押しするように仕向けたとしても。

 

 先発隊が謎の失踪を遂げた段階で、兵を引けば致命傷となることはなかった。帝国はその後発生する政情不安や派兵準備による財政圧迫は発生しただろうが、属国への道を歩むことは無かった。

 

 どれもたられば。

 

 現状では、治安維持のためにある程度の兵をアインズ・ウール・ゴウンから王国経由で借りる必要がある。そして貸し出されるのはアンデット。カルネ村で実績のあるフルプレートのデスナイト集団である。頑強で二十四時間稼働可能。維持費用がほぼ不要な兵力。浸透すればするほど治安は回復し、皇帝の威は回復するだろうが、同時にアインズ・ウール・ゴウンに逆らえなくなる。

 

 そうでなくとも、リ・エスティーゼ王国とスレイン法国に付け入る隙など無くなる。アインズ・ウール・ゴウンの下、表裏の社会が一丸となって富国強兵への道を歩むのだから。

 

 だが、モモンガの心中は別の感情で埋め尽くされていた。

 

「(デミウルゴスも、パンドラズ・アクターも怖っ。たった一ヶ月、しかも双方メイン(法国と王国)を攻略しつつ、策謀だけで一国を操って敗北確定まで持っていったよ)」

 

 すくなくともモモンガ自身では、策謀だけでこんな結果を引き出すことはできない。そんなことを考えながらも、口では別のことを指摘する。

 

「なにもせずにモニュメント(スワスチカ)建造の前提を満たすとは、鮮血帝の異名は伊達ではないということか」

「はい。調査するかぎり腐敗した宮廷雀や外戚、貴族、騎士などを容赦なく切り捨てたとのこと。だからこそ付け入る隙もありました」

 

 そこまで言うとデミウルゴスがメイドに指示し、地図を会議卓に広げる。その地図には、「エ・ランテル」「トブの大森林の中に二箇所」「王国の西方」「王都」「カッツェ平野と帝国の境付近」「神都」「帝都」の合計八つの○が記載されていた。

 

「以前モモンガ様よりご指示いただいたモニュメント建造の実績となります」

「やはり完全なスワスチカの再現は難しいか。ゲームのようには行かぬか」

 

 その配置を見てモモンガがつぶやく。実際、ある程度調整したとは言え、モニュメント(スワスチカ)を建造するほどの魂を特定の場所で消費するのは難しかった。その分数万の魂を内包したエ・ランテルやカッツェ平原のもの、強大な魔樹ザイトルクワエの魂を内包した大森林の一つは他を隔絶するほどの力を蓄えている。

 

「エ・ランテル、トブの大森林の二つ、そしてカッツェ平野の合計四つを中心円とみたて、王都、神都、帝都、そして王国西部のもので四方に伸びる十字とみなすこともできる。なにより私に流れ込む力が、是と言っている。問題はない」

モニュメント(スワスチカ)は九つで完成。鉤十字の鉤の部分を抽象化し、十字架と中心点で配置を再構成するとして、最後の一つはどこに配置するのだ?」

 

 モモンガは最後の配置を、ラインハルトに問う。ラインハルトは口元を薄くほころばせ、当然の事のように地図のある一点を指し示す。

 

「ナザリック地下大墳墓。我が半身を省く至高の存在、四十人を再誕させる大儀式を行うならば、この地こそ相応しい。そうは思わないかね?」

 

 それを聞いたものたちは、一様に納得する。いや、よく考えればこれ以外の選択肢などありえはしないのだから。

 

「場所が決まったのであれば、あとは時。儀式にふさわしい日というものがあるだろう。追って伝える」

「ああ、了解した」

 

 モモンガが、儀式の日について曖昧な回答をする。しかしラインハルトはそういうとわかっていたように、了解と答えるのだった。

 

 そこに、「何故」など疑問を何一つ挟まずに。

 

「さて、定例報告は以上となります。モモンガ様、なにかございますか?」

 

 アルベドは報告の終了を宣言し、最後にモモンガにコメントを求める。その姿だけみれば有能な秘書そのもの。最近か守護者統括としての役目よりもモモンガの秘書としての活動に重きがおかれているのは明白である。

 

「ああ、ラインハルト。すまないがペロロンチーノさんとウルベルトさん、そしてぶくぶく茶釜さんの顕現をたのめるか? 三人に相談したいことがある」

「了解した。我が半身よ」

「あと、アルベドとデミウルゴスも残ってほしい。二人の意見を聞きたいのでな」

「かしこまりましたモモンガ様」

「はい、モモンガ様」

 

 そういうと、定例会がお開きとなり恒例となった茶会が開かれる。しかし、その場にラインハルトだけはいなかった。それを不敬ととらえるものはいなかった。なぜなら、彼には至高の方々を顕現するという重大な仕事がある。むしろ重要度を知るからこそ、モモンガとの語らいという至福の時間を返上してまで計画を進めていると考えられていたからだ。

 

********

 

 モモンガ、アルベド、デミウルゴスと召喚された三名は、メイドたちの給仕で簡単な夕食を食べることとなった。もっともアルベドとデミウルゴスは、仕えるものとして固辞したが、モモンガを含む上位者全員が勧めたことで、同じ席に着くこととなった。

 

「モモンガさん、こんなうまいもの食ってたのか」

「食べられるようになったのはごく最近ですよ? ペロロンさん」

「しかし、和食のレパートリーなんてここにあったっけ?」

音改(ねあらた)さんか、やまいこさんあたりが登録したのかな?」

 

 食事が一通り終わり、口々に感想を述べるプレイヤー達。

 

 メイド達が下げているのは、なぜかBARのマスターが作った刺身定食。メインはマグロとイカ、イサキ、すずきを氷の器に盛りつけられた色とりどりの刺身にサメ肌でおろした生ワサビと少量の醤油。あら汁に白いご飯とお新香が少々。どれもリアルでお目にかかることができない品々に、プレイヤー四人は大いに喜び舌鼓をうった。

 

「まあ、あそこのBARは酒も豊富ですので、ゆっくりできるようになったらみんなでいきましょう」

「だね」

 

 そんな姿を満足そうにみるデミウルゴス。ほほえみを浮かべ佇むアルベド。

 

 モモンガは亡くしたとおもっていた光景が返ってきたことに、うれしく思いつつも本題を切り出す。

 

「さて、みなさんに残ってもらったのは」

「パンドラズ・アクター対策ってところでしょ?」

「ま、言わなくてもわかることだからな」

「獣殿がこの場にいない時点でね~」

 

 モモンガは頃合いとばかりに話題を切り出すと、ぶくぶく茶釜にウルベルト、ペロロンチーノはさも当然というばかりに切り返す。デミウルゴスにアルベドも表情こそ変わっていないが、同じことを考えていたのだろう、背筋を正し、続く言葉を待っている。

 

「付け加えると、もしここでぷにっと萌えさんがいたら、モモンガさんはもう腹をくくったってとるけど」

「えっ、いや」

「まあ、その反応だと迷ってるってことでしょ? パンドラズ・アクターと戦うこと」

 

 ウルベルトが名前を挙げたぷにっと萌えとは、アインズ・ウール・ゴウンにおける軍師であり、こと戦略戦術においては右に出るものがいないプレイヤーである。

 

 しかしこの三人の共通点

 

「まあ、自分の子を殺す可能性のある決断だもんね」

 

 そう。それぞれが守護者の(NPC)をもつ(創造主)。もちろん同じ境遇のプレイヤーは他にもいるのだが、いろいろ考えたときこの三人が適任とモモンガが考えたからだ。

 

「はい」

 

 いままでのような、明るい声でもなく、また支配者として威厳を持たせた声でもない。モモンガはただただ静かに、そして苦悩に押しつぶされた声を絞り出す。

 

「たぶん、パンドラズ・アクターは最後のスワスチカを建造したタイミングで、私に戦いを挑んできます。たぶんみなさんも聞いてるんじゃないですか?」

 

 その言葉にだれもが言葉を返さない。しかし沈黙こそが雄弁にその答えを語っていた。

 

「原因は私が設定に書いたから。いや違うか。たとえば餡ころもっちもちさんの生み出したエクレアは、設定こそ反逆が記載されているが、口ではどうとでもいうが、あれは行動を起こすことないかな」

 

 そう。

 

 執事助手のエクレアは、ナザリックへの反逆というパンドラズ・アクターと似た設定を持っている。しかしエクレアは反逆を口にするものの、けっして行動に起こす気配がない。もちろんエクレアのレベルが低いことも原因と考えられる。しかしそれだけなのだろうか?

 

「一つ可能性があるとすれば」

「なんだよ、姉貴」

「マーレとアウラなんだけど、実はアウラはあんまり細かく設定してないのよね」

「え?」

「マーレは男の娘ってイメージもあったから、それなりに設定書いたけどアウラはその姉としてはいろいろ書いたけど、じつは細かい設定書いてないのよね。でも、見てるとわかるのよ。ああこの子は私の娘だ。マーレ以上に私の影響を大きく受けてるなって」

 

 ぶくぶく茶釜は設定に対して一つの仮説を口にする。それは設定の量と(NPC)の性格の関係である。

 

「具体的にはどのぐらい設定を書いたのだ?」

「マーレは六割、アウラは三割以下かな、愚弟あんたはどうなのよ」

「シャルティアは八~九割ぐらい書いたかな~。結構書いたから。本当にイメージ通りの俺の嫁」

「ふむ、そうなるとシャルティアの中にペロロンチーノさん成分はほとんどないと」

「あっても困るけどね」

 

 ペロロンチーノは、自分に似たシャルティアを想像する。が、速攻に思考をカットし記憶の片隅に追いやる。正直そんなシャルティアなど想像もしたくないかいからだ。残念なところや欠点はある。だけどそこが可愛いのがシャルティアとペロロンチーノは思っている。しかし残念の質が自分と同じになることは流石に耐えられなかった。

 

「ごめん。マジ勘弁してください」

 

 これが回答である。

 

「そう考えると、エクレアは……」

「レベル一かつ部下込みでしたから、たぶん設定らしい設定は書いてないでしょうね。餡ころもっちもちは、エクレアをマスコット的なイメージでつくってましたし、どちらかといえば外見にこだわってましたし」

 

 エクレアの設定は、モモンガの予想通りほとんど書かれていない。創造主()のイメージや親本人の資質がそのまま反映されている。そのため反逆設定はキャラクター付け程度になっているのだ。

 

「では、パンドラズ・アクターの設定はどのぐらい書いたんだ? モモンガさん」

「九割以上。やることもあまりなかったせいか、結構追記してました」

「ってことは実力は別としても、性格はほぼ」

「はい、元ネタ基準に近いとおもいます」

「いまの考察からすると、設定量の多いNPCは創造主の意図や性格よりも設定に重きをおいて行動するということか」

 

 ウルベルトはモモンガからの情報からパンドラズ・アクターの性格をプロファイルする。もちろん、この世界にきて数ヶ月、ラインハルトの内宇宙(ヴェルトール)に浮かぶグラズヘイムでラインハルトと接している。それらの情報を加味して導き出される答えとは。

 

「戦闘欲求と愛することが両立するサイコパス。設定のせいか殺すことは己の内に生かすことに直結しているから、殺すことさえ救いに直結する。人間の倫理観なんぞ無い異形。では目的はなんだ?」

「目的ですか? 設定では書いてませんね。強いて言えば戦いたいから?」

「NPCの行動指針とはなんだ? デミウルゴス、お前の行動指針とは?」

「はい。我らの支配者たる至高の四十一人の方々に忠義をつくすことと心得ております」

「アルベドは?」

「はい。偉大なるモモンガ様をはじめ至高の方々のためにあること。それがすべてにございます」

 

 ウルベルトはリアル社会で培ったプロファイルが役に立たないと判断し、目的の明確化に切り替えデミウルゴスとアルベドに質問をなげる。二人の答えはナザリックのNPCとしては至極当たり前の回答であった。アルベドに至っては若干の含みがあったが……。

 

 そのやり取りの中、考え込んでいたペロロンチーノが意見を口にする。

 

「でも、それだとおかしくね。モモンガさんがどれだけ獣殿の記述を書いたかにもよるとはいえ、結構マイルドな獣殿っぽくね? 獣殿が原作通りだと、王都で国民含めて全て虐殺しグラズヘイムに取り込んだはずだ。なのに、今回は殺したのは敵だけだ」

「言われてみれば」

 

 ペロロンチーノは原作とあえて言っているが、Dies ireaの獣殿は、プロローグで戦火に飲み込まれたベルリンで、守るべき国民の大半を虐殺しその魂を取り込むことで、グラズヘイムを展開している。

 

 しかし今回の獣殿はグーデター参加者のみを殺し、一般国民を救っている。少なくとも、原作のイメージ通りに生まれていればありえないほどの温情となる。すくなくとも設定に忠実であれば、中途半端としかいえない。

 

「ん~ちょっとわからないか。設定にはほかにどんなこと書いたの?」

 

 ぶくぶく茶釜はその体は左右に揺らしながら、モモンガに質問する。だがその質問の意味するところは……

 

「そ、それは」

「まあ、黒歴史の暴露大会は心に来るものがありますが、今後の方針のためには重要ってことで諦めて下さい。モモンガさん」

「厨二病は、ある意味誰もが通る道。私なんて、それでご飯を食べてたんだから問題ないよ。モモンガさん」

 

 ペロロンチーノとぶくぶく茶釜はまるで揃えたようなタイミングで、親指をぐいっと突き出す。それぞれ顔と呼べるパーツから表情は読み取れないが、モモンガの脳裏には、二人の男女がいい笑顔で親指を立てる姿が浮かぶのだった。

 

「正直言おう。ある程度私たちもパンドラズ・アクターから話を聞いているし、協力依頼も受けている。とはいえ、恥ずかしいだろうが、条件がわからなければ対策も立てられないのは事実だからな」

「まあ、そうですね……」

 

 ウルベルトのフォローというには微妙な物言いに、仲間が居ないことを確信したモモンガは、しぶしぶ覚えている限りを伝えるのだった。

 

******

 

「パンドラズ・アクターの正体は、モモンガの自滅因子である。パンドラズ・アクターとモモンガが争うと必ず共倒れとなり、世界は回帰する……ねぇ」

「自滅因子に回帰ね」

「まあ、原作では獣殿は修羅道、戦うことに価値を見出す神格だからね。結局世界を壊し、その中心たる現人神の腐れ水銀に牙を向いていた」

「まあ、設定した本人がそう認識しているなら、まさしくそうなんだろうね」

「実際、グラズヘイムでも獣殿はいつかモモンガさんに愛を捧げたいって、言ってるからやる気だよね」

「前もグラズヘイムではって言ってたけど、パンドラズ・アクターと自由に会話できるんですか?」

 

 モモンガはみんなとパンドラズ・アクターの設定を分析している時、ふと気になったことを質問する。

 

 グラズヘイム。

 

 パンドラズ・アクターの内宇宙(ヴェルトール)に浮かぶドクロで出来た城。むしろ造形は美しい黄金に輝く城であるが、一度そのベールが解かれれば、無数のドクロで埋め尽くされた不死者の城。

 

「うん。もともと、円卓を中心とした城で、無駄に何もない部屋もおおいけど、ナザリックの九層みたいに、娯楽とか図書館、BAR、食堂、などなど大概のものがそろってる感じね」

「へ~」

「図書館とかだと、パンドラズ・アクターやその爪牙が見聞きしたものがどんどん登録されてる感じ」

「玉座の間に行けばリアルタイムで視聴できるってことかな」

「え……」

 

 モモンガは考えたくなかったことに思考が向くが、あえて掘りさげずに質問を続ける。

 

「その間のパンドラズ・アクターは?」

「一応基本円卓の間にもいるけど、こっちの世界で動いてる時は寝ているように見える。声をかければ、起きて会話もできるよ」

「一つの精神が体を動かしてるような感じ?」

「そんな感じにかな~」

「まあ、みんな娯楽もないから半分以上は玉座の間で観戦しつつ、だべったり考察したりって感じ?」

 

 日がな一日、友人たちが円卓で駄弁っている姿に、早く現実のものとなってほしいと考える。

 

「でも、グラズヘイムも日々拡張されるから、探検に行ってばかりの人もいるけどね」

「拡張?」

「獣殿と爪牙が殺した魂は全部こっちにきて、城の拡張につながってるみたい。でも、いまのところ意識を持って増えた人はいないかな?」

「そのへんも原作通りなんですね。っと、話がそれましたが、やっぱり」

 

 モモンガが話を戻す。パンドラズ・アクターの目的。原作通りなら、どこかのタイミングでその存在意義をかけて戦いを挑む。

 

「戦うこと自体が目的のような状況、しかもこの回帰ってなんだ? 救いの女神(ヒロイン)はいないんだぞ」

 

 その言葉に目ざとく反応するものが一人。

 

「ヒロインですか?」

「ん? ああ、アルベド。パンドラズ・アクターを参考にした物語にはヒロインがいたのだよ」

「そうですか」

「そう考えると、腐れ水銀が私として? 主人公とヒロインはだれだ?」

「さあ、すくなくともそんな配役いませんよね。しかも主人公はモモンガさんの息子で、ヒロインはモモンガさんが見初めた女神。でもって息子に寝取られる……」

 

 モモンガの疑問に、ペロロンチーノがやや爆弾気味な解釈を展開する。さすがのアルベドも仮定の話ということで自重したが、なかば浮足立ったのを、隣に座るデミウルゴスは見ていた。

 

「原作では結末はどうなの?」

「ああ、いろんなルートがあるけど、半分ぐらいは全てを仕組んだ現人神がそのまま居座るルートかな」

「じゃあ半分は?」

「ヒロインが新しい神になるパターン」

「獣殿は?」

「現人神が居座るということは、いつか回帰が発動するわけだから、何らかの形で自滅因子の役割を果たしている」

「設定に加えモモンガさんの認識からかんがえると、ヒロインがいない現状はパンドラズ・アクターと戦うしかない……か」

 

 原作ルートについて、ウルベルトがモモンガの認識を確認する。しかし行き着く先は生みの親であるモモンガに挑むパンドラズ・アクターの姿しかなかった。

 

「モモンガ様、よろしいでしょうか?」

「どうしたアルベド」

 

 四人のそんなやり取りを聞いていたアルベドが、なにか思いついたように意見を述べる。

 

「ラインハルトがナザリックに弓を引くのであれば、全軍で迎え撃ち、そして勝てばよろしいのではないでしょうか?もちろん至高の四十人の復活のため、蘇生させないというわけにはいかないでしょうが」

 

 そもそもパンドラズ・アクターがモモンガに弓を引くということでさえ、アルベドにとっては万死に値する行為。それがほかならぬモモンガの設定によるものであるから、一定の理解をしめしてはいるがそもそも議論の余地などないのだ。

 

 くわえて、もし、万が一、パンドラズ・アクター戦でモモンガが死亡したら、たとえ復活できたとしても、ナザリックはパンドラズ・アクターを許しはしない。最後の一兵までも戦い続けるだろう。

 

「モモンガ様。アルベドの意見は一理あります。結果的に逃げられない戦いなら、準備万端に迎え撃ち、望みをかなえさせるというのも良いでしょう。しかしながら、モモンガ様が戦うことに疑問があるならば、戦わないという選択肢もあって然るべきかと」

「デミウルゴス……」

 

 モモンガは驚いていた。戦うのはもう避けられぬ決定事項とおもっていた。いや思い込んでいた。先日のスレイン法国の聖戦で、デミウルゴスが見せたラインハルトの取り得る戦術の一端。それらもあって「戦う」事は決定事項であり、デミウルゴスも同じ認識と思っていた。

 

 しかしデミウルゴスの口からは、真逆の案が提示されたのだ。

 

「そうだな。言われてみればそうだな」

 

 なぜ気がつかなかったのか。

 

 なぜそう思い込んでいた。

 

 なぜ自分はパンドラズ・アクターと戦うことが当たり前と考えていた?

 

 モモンガは若干混乱する思考を立て直す。

 

「ありがとう。良い意見であった。すこし考えてみよう」

「もったないお言葉」

 

 ある程度の結論がでたからだろう。

 

 次第に四人の会話は、当初の目的から離れ、雑談とかわっていくのであった。

 




書籍などで公開されているナザリック周辺地図に線を引いてもスワスチカは完成しません。

そんな位置にあった・・・・・・ということにしてくださいorz


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